タイトル:【協奏】挟撃!海と陸マスター:村井朋靖

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/12/06 21:02

●オープニング本文


●3姉妹、誕生!
 榊原アサキ(gz0411)は沖縄の侵攻を加速させるべく、ミスターS(gz0424)より譲り受けた小型プロトン砲座変形バイク「アルケニー」を操る特殊部隊を結成した。
 小隊の人員構成は、関東を支配していたアーバングレー隊と同じ。小隊長にバグア、隊員に強化人間を据えている。隊長は、榊原アサキだ。組織された人数は決して多くはないが、沖縄で幅を利かせるには十分である。
 彼女はトレードマークである紫のドレスを着て、さっそうと結成式に登場。この特殊部隊を「パープルブラッド(PB)隊」と名づけることを宣言した。バイクもライダースーツも薄い紫に統一されており、個々がその名に恥じぬ戦士‥‥まさに『人の血の通わぬ強敵』の誕生である。

 新たなる沖縄の脅威を人間たちに知らしめるため、アサキが1小隊を引き連れて出撃しようとした矢先、部下の情報官から連絡が入った。
「アサキ様! 沖縄本島の南岸から、セイウチ型キメラが上陸。手当たり次第に人間を襲っています!」
 報告を受けた少女は、思わず首を傾げた。以前、野良キメラ同士の縄張り争いがあったが、そんなことが何度も続くだろうか。
 そんなことを考えていると、結成式の様子を静かに見守っていた大型ディスプレイが勝手に作動。ダイバースーツ姿の女性が映し出される。
「よー、アサキん! それが噂のバイク部隊? なんかカッコいいな〜!」
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」
 静寂が支配する場所に、底抜けに明るい声が響き渡る。年は20代後半、小麦色の肌に健康的な体つきが特徴的だ。
 未成年で華奢なイメージのアサキは、突然の通信に対し、露骨に嫌そうな顔をして黙り込む。整然と並ぶPB隊もまた、眉ひとつ動かさずに立ち尽くした。
 それでも相手はめげない‥‥というか、あんまり寒い空気を気にしてない。頭のてっぺんからハイビスカスが咲きそうなタイプと言えよう。
「うち、照屋ミウミ! 今度さ、風りんに雇ってもらったんよ!」
 不意に放たれた『風りん』という単語を聞いた小隊長のひとりが息を飲んだ。そして「まさか、あのお方ではあるまい」と首を振る。
「それって、風祭・鈴音(gz0344)のこと?」
 小隊長と同じく、信じられない物言いに驚いたアサキは沈黙を破り、ディスプレイの向こうに視線をやる。
「もっちろん! アサキんもさ、一緒に3姉妹としてがんばろー!」
「ちょ、ちょっと。もうひとりは誰になるのよ‥‥」
 さすがのアサキも、ミウミの能天気さに呆れながらも、冷静に問いただす。この調子だと、鈴音が長女とか言いかねない。いかにアサキいえども、それは勘弁してほしかった。
 するとミウミの口から、『山城カケル』なる少女の名が告げられた。アサキは短く息を吐き、ホッと安心する。このミウミなる女性、何を言い出すかわからない怖さがあった。
「カッキーが次女で、アサキんが三女。うちが長女で3姉妹! これもカッコいいやん!」
 本格的な侵攻を考えていたアサキにとって、ゼオン・ジハイドの後ろ盾がつくのは魅力的な提案だった。彼女はひとつ頷く。
「わかったわ。で、それだけが用事じゃないんでしょ?」
「もっちろん! 実はさ、セイウチのキメラはうちが放ったんよ。うちも水上バイクで行くから、できればアサキんも続いてほしいかなーって。あ、よく考えたらバイクで合流かぁ。なんかイイ!」
 底抜けに明るいだけが、ミウミの取り柄ではないらしい。それなりの凶暴性も併せ持つようだ。それでこそ姉にするにふさわしい‥‥アサキはふと微笑む。
「PB隊、あのオバサンの顔を覚えて。彼女はあたしの姉となる‥‥照屋ミウミよ」
「コラ、アサキん! うちはまだ27だ! さらっと余計なこと言わな」
 ミウミとの通信は反論の途中で、アサキの合図によってプツンと切られてしまった。

●嵐の予感
 この頃、UPC沖縄軍はバグアの出方に敏感だった。
 バグア軍は一時期よりも敵戦力が集まったらしく、人類側に遠慮せず、自由に作戦を展開している節が見受けられる。またUPC本部から「ラルフ・ランドルフなるバグアが潜入した可能性がある」との連絡もあり、今までになく緊迫した状況になっていた。

 そこへ『セイウチ型キメラが4匹が、群れを成して暴れている』との報が入る。UPC沖縄軍はキメラの排除を優先すべく、即座にULTへ依頼を出した。
 それにいち早く対応したのが、アサキとの因縁もある杉森・あずさ(gz0330)だった。
「これに似た構図ってさ、ちょっと前にもあったんだけど‥‥うーん」
 オペレーターも該当の報告書を見ながら、「そっくりですねぇ」と相槌を打つ。だが、ふたりの表情は冴えない。同じパターンだからこそ、疑い深くなってしまう。
「キメラが騒いでるだけなら、アサキも出てこないだろうけどさ。なーんか引っかかるんだよね‥‥」
 あずさの予感は、不幸にも当たってしまう。
 UPC沖縄軍から『水上バイクに乗った指揮官らしき女性が、セイウチ型キメラと合流した』との連絡が入ったのだ。
「未確認の指揮官‥‥それって、アサキじゃないの?! い、今すぐ現地に向かうよ! もう最悪‥‥!」
 あずさの記憶では、アサキが水中戦を仕掛けたことは一度もない。それにUPC沖縄軍が、アサキを「未確認」と表現するはずがない。
「旦那に忙しくなるって伝えとこうかな‥‥」
 いまだかつてない暴風が、沖縄に牙を剥く。あずさはそんな予感がした。

●参加者一覧

須佐 武流(ga1461
20歳・♂・PN
風閂(ga8357
30歳・♂・AA
ヨグ=ニグラス(gb1949
15歳・♂・HD
メシア・ローザリア(gb6467
20歳・♀・GD
レインウォーカー(gc2524
24歳・♂・PN
ミリハナク(gc4008
24歳・♀・AA
イスネグ・サエレ(gc4810
20歳・♂・ER
音桐 奏(gc6293
26歳・♂・JG

●リプレイ本文

●傍若無人!
 沖縄南岸を騒がせているのは、問題のセイウチ型キメラだけではない。海上から水上バイクに乗って、いちいち拡声器で指示を出す女性の指揮官が存在するのだ。
 UPC沖縄軍の面々も、このド派手な演出には呆れる。
「あーあー! うちから見て左側のセイウチ、あんまり離れんと! まとまって行動するんよ!」
 こんなにハッキリ敵の出方がわかれば、バグアとの戦闘も楽だろうに。兵士はキメラがまとまったところへ、牽制の銃撃を加える。

 そこに傭兵たちが到着。すぐ作戦通りに散開した。
 UPC沖縄軍に顔が利く杉森・あずさ(gz0330)は、担当の指揮官に軽く挨拶すると、拡声器の女を見て呟く。
「お世辞にも賢いとはいえない指揮だね。みんなもビックリしてるよ」
 いつもは穏やかな表情を見せる音桐 奏(gc6293)も、腐れ縁の相棒・レインウォーカー(gc2524)に話しかけた。
「てっきり無線機で指示をするものだと思っていましたが‥‥なかなかの女性ですね」
 そう言いながら帽子の位置を直すと、レインは皮肉っぽく笑う。
「なんだ、まだ生きてたのかぁ?」
「これでも貴方を見習ったつもりなんですよ。生きることを諦めない貴方のことを」
 生きるもまた道化、か。レインは予想通りの答えが返ってくると、嬉しそうに微笑んだ。
「まずはキメラの目と耳を潰す。海の奴らに対しての牽制を頼むよぉ」
「喜んで付き合いましょう」
 奏は小銃を構え、軍から借りた迷彩布を持って潜伏の準備を始める。

 そんな彼よりも先に、洋弓を携えた風閂(ga8357)が浜辺へと降り立った。彼の表情は静かな怒りに満ちている。
「そこのバグア、名を名乗れ!」
 沖に向けて放たれた言葉を聞いた相手は、風閂に拡声器を向けた。彼女はよく見ると、ダイバースーツに身を包んでいる。
「うちは照屋ミウミ、沖縄の海を支配するんよ。邪魔せんといてー!」
 底抜けに明るい声で侵略宣言されたのでは、たまったものではない。風閂は矢を番え、ミウミの乗る水上バイクを射る。
「そのような狼藉、断じて許さん。容赦せぬぞ」
 彼の放った一射は威嚇だが、それが戦闘開始の合図となった。風閂はすぐに陸へ戻り、キメラ退治をすべく両手に刀を持つ。

 レインは奏に伝えた作戦通り、まずは目を潰さんと閃光手榴弾のピンを抜いた。陸に上がったセイウチの動きは鈍く、散開するにも時間がかかる。
 それを軍用双眼鏡で遠巻きに見ていたメシア・ローザリア(gb6467)は、「せっかく沖縄の海を見に来たのに」と言いながらも、醜いセイウチの動きを見張った。そしてキメラ退治をする風閂とレインに練成強化を施す。
「任務の後は、のんびりできるのかしら?」
 すでにメシアは赤薔薇のワンポイントが入った純白の水着に、UVカットのカーディガンという姿。このまま沖縄を満喫できればいいのだが‥‥はたしてどうなるか。

●準備運動?
 レインが閃光手榴弾のタイミングを周囲に伝え、それをキメラの真ん中へ投げ込む。メンバーは視線を外し、この時ばかりは防御に徹した。
「ムゴ! ムゴォーーーッ!」
 予告通り、セイウチの視界を奪うと、続けざまにプリン色のパイドロスに乗るヨグ=ニグラス(gb1949)が登場。こちらもド派手な一撃を見舞わんとアクセルを吹かす。
「誰かが大暴れすれば、細工もしやすいというものっ。ということで、突撃あるのみっ」
 幼さ残る少年はブーストまで駆使して全速力の騎龍突撃を発動。すべてのキメラを輝く龍の翼で巻き込み、強烈な宣戦布告を突きつける。敵を引き裂いた後は、すかさずパイドロスを身にまとって反転。エネルギーキャノンを構えて立つ。そこにメシアの練成強化が飛んだ。
 この機を逃すものかと、今度はミリハナク(gc4008)が地面に設置したアンチマテリアルライフルで1匹を狙い撃つ。しかもそれは、両断剣・絶の乗った強力な一撃である。
「キメラの相手だけでは、さすがに退屈ですわ」
 殺意に満ちた弾丸はまっすぐにセイウチの頭を撃ち抜き、相手を地面に転がした。キメラは瞬時に仲間の血に染まり、すぐさま恐怖に震える。その乱れた心を癒す‥‥というと語弊があるが、イスネグ・サエレ(gc4810)が子守唄を歌い始めた。
「沖縄に〜、餌となる〜、牡蠣はありません〜♪」
 永遠に寝た1匹と枕を共にするセイウチもいたが、異変に気づいたもう1匹に叩き起こす。この行動だけで、キメラの旗色はさらに悪くなった。メシアは、ミリハナクとイスネグにも練成強化を飛ばし、万全の態勢を整える。
 合流した風閂は目を覚ました1匹にソニックブームを放った。それがセイウチの肌を切り裂くと、彼はそのまま接近。両断剣を乗せた斬撃を食らわせて、さっさと2匹目を倒す。
「沖縄の青い海にセイウチは似合わぬ。去れ!」
 飛び道具を備えたヨグも、狙いを定めて射撃に専念。それに呼応するかのように、レインが接近する。硬い皮膚を苦にしない一撃は、敵から苦悶の声を引き出した。
「ムグォッ!」
「えと、あーちゃんの晩御飯になってしまえっ」
 それを聞いたレインが「じゃあ、調理しやすくしとこうかなぁ」と軽く刀を振り下ろし、その隙に懐へ潜り込んで刹那を発揮。敵の防御が崩れたところを、ヨグが狙い撃って止めを刺した。
 あっという間に残りは1匹となり、セイウチは慌てふためく。ここでミウミの指示を聞かれては面倒と、メシアが耳の穴に向かって銃撃を放って憂いを断った。こうなってしまえば、もはや傭兵たちのペース。最後はミリハナクが遠距離から体を撃ち抜き、セイウチ狩りはあっさりと幕を閉じた。

●援軍到着
 しかし、まだ戦いは終わらない。むしろ、ここからが本番と言えよう。
 交戦地帯となる場所はUPC軍が封鎖しているが、ここがにわかに騒がしくなった。あずさによれば「紫色に塗られた小型プロトン砲座変形バイク・アルケニーの1小隊が出現した」という。今、兵士たちが威嚇射撃をしながら後退。傭兵たちに次の準備をする時間を与える。
「相手はプロトン砲を持ってるから、無理はさせられない。早く頼むよ!」
 あずさの呼びかけに応じ、ミリハナクは武器を持って浜辺へ移動。ライフルを固定し、地面に炎斧を突き刺す。
 それを見たミウミは嬉しそうに笑った。
「あははっ、あんた大胆だね〜! うちと張り合おうっての?」
「ごきげんよう、新キャラのミウミさん。私からの挨拶は銃弾ですが、そちらは何を見せてくださるのかしら?」
 ミリハナクは能天気なバグアに対して、妖艶な挑発でやり返す。
 その隙に奏は隠密潜行を駆使し、堤防のすぐ下にある岩場に迷彩布を使って身を隠した。ここからならミウミを狙うことができる。
「さて、私も役目を果たしましょうかね」
 位置につくと、さっそくプローンポジションで狙撃の準備を整え、ミウミの喋っている最中を狙って海面を撃った。
「ん? 人が喋ってんのに、邪魔すんのー?」
 ミウミは気分を害したらしく、水上バイクを少し後ろへ移動させる。奏は狙撃眼を駆使し、今度は直接ミウミを狙うべく貫通弾を装填。肩口を狙って攻撃した。
 しかしこれは側近の強化人間に読まれており、彼らがミウミに警告すると、彼女はこれをあっさりと避ける。
「ミ、ミウミ様! 大丈夫ですか!」
「ふー、なんくるないさー」
 そこへミリハナクのライフルが火を吹く。雷撃を帯びた弾丸はもうひとりの護衛の胸を貫き、派手に水しぶきを上げて海中へと落とした!
「ぐあっ!」
「あーっ、何すんの! あんたら、うちと張り合う気?!」
 ここまで好き勝手されると、さすがに我慢ならない。側近の顔色などお構いなしに、ミウミも負けじと挑発を始めた。

●PB隊
 一方、UPC軍が囲みを緩めて、傭兵の元にアルケニーを届ける。部隊の構成は、近接戦闘を行う機体が3台に、長距離砲を備えた後方支援機の2台。その奥に、小隊長と榊原アサキが陣取った。
「パープルブラッド(PB)隊、前方の敵を排除よ」
 アサキの号令を聞き、彼らは静かに動き出した。バイクに装着された槍を使っての突進など、まずは場を掻き乱す。そして遠距離型が照準を合わせるのだが、ここで銀色の皮膚を持つ須佐 武流(ga1461)が洋弓を巧みに操り、長距離砲の撹乱を始める。
「ずいぶんと待たせてくれたな」
 長距離砲の射程を凌駕することは難しいが、プロトンライフルの射程外からの攻撃は可能。砲座が自分に向くように、一撃離脱を信条として動く。

 乱戦となった前線では、風閂が距離のあるアルケニーに対してソニックブームを放つ。転倒を狙ったが、AU−KV同様、何らかの加工が施されており、攻撃の効果は薄い。
「一筋縄ではいかぬか。だがこれ以上、沖縄でバグアの好き勝手はさせぬ」
 それを聞いたヨグも「沖縄の暴走族ですねっ」と納得し、風閂が狙った標的に向かってエネルギーキャノンを放つ。さらに戦闘の激化を予想し、ここで竜の鱗を発動させた。
 イスネグはプディングシールドを構えながら、周囲の状況を確認する。その手には、すでにピンを抜いた閃光手榴弾が握られていた。本来なら前線のPB隊に当てたかったが、今はアサキたちのいる後方に投げるのが妥当。彼は人知れずサッと移動し、すかさず武流に注意を促す。
「少し視線を外してくださいね〜」
 その言葉が何を意味するかは、武流もすぐに察して背を向けた。このタイミングで、装備を機械脚甲と超機械にチェンジする。何から何まで計算し尽くされた、無駄のない動きだ。
 そしてイスネグが閃光手榴弾を、アサキたちに向かって投げ込む。PB隊の小隊長は「何らかの攻撃」と判断してプロトンライフルを使おうとするが、察しのいいアサキはすぐに身を伏せる。もちろん銃撃が間に合うわけもなく、PB隊の後方支援は閃光に目を焼かれた。
「ったく、実戦経験が少ないのも考え物ね‥‥」
 ひとり難を逃れたアサキはバイクを降り、愛用の刀を抜いてイスネグに向かって一直線。歌い手は慌てずに盾で防御するも、鋭い斬撃を食い止められず、ダメージを負う。
「アサキ、覚悟!」
 そこへ武流が割り込み、電磁波による牽制とキックで攻め立てる。すべての攻撃は当たらずとも、武流は目的を果たしていた。この隙にイスネグはさっさと瞬天速で前線に戻り、今はメシアから練成治療で回復を受けている。
「ふー。危うく自分が餌になるところだった」
 イスネグは自分でも練成治療を二度使い、完全に体力を回復させた。

 アサキはひとりの傭兵に、あることを尋ねる。
「あなた、名前は?」
「須佐、武流‥‥」
 アサキは自分の名を教えたご褒美に刀の連撃を食らわせる。
 しかしこれは、武流の思う壺。残像斬を駆使して一閃を回避すると、そのまま鳩尾に蹴りを叩き込む。
「くはっ! こ、この動き‥‥!」
 それでもさすがはバグア。体勢を崩しながらも、攻撃の手を休めない。
 アサキは返す刀で斬り上げようとするも、またこれも避けられ、今度は華奢な背中を蹴られた。
「ぐうふっ!」
「なりふり構わぬ悲鳴か。らしくなってきたな」
 この時、アサキは初めて‥‥少女らしさを捨て去った。荒くなった息は無理に整えず、迷いなき表情で能力者の前に立つ。
「ふっ、まだ名乗ってなかったわね。あたしは、沖縄3姉妹の三女・榊原アサキ‥‥この地上を赤い血で染める者よ」
 それを聞いた武流は「そうか」とだけ答え、激化するであろう戦闘に向けて体勢を整えた。

●蜘蛛爆裂!
 PB隊がオンロードに特化していることを知っていたヨグは、パイドロスを騎乗状態に戻し、前衛を取り囲むようにして翻弄。反撃でダメージを受けても竜の血で回復し、妨害を続ける。
「ふふふ、毒々しいバイクには負けないのですっ」
 その円の中央には勇気を持ったイスネグが立ち、再び子守唄を響かせた。
「あなたたちも〜、風のように〜、走っては〜♪」
 なかなかの美声だが、歌詞がコメディ調。メシアが「美しさの勉強が必要ですわね」と髪を掻き分けながら呟き、ヨグに練成治療でフォローする。

 風閂が1機に狙いを絞り、ソニックブームで攻撃を仕掛けると、武流がダッシュして迫った。
「なるほどねぇ」
 それを見たレインは自分を狙って突進するアルケニーを回転舞で飛び越え、武流と入れ替わるようにして迅雷でアサキの元へ。夜刀神を大きく振りかぶった。
「くっ、見ない顔ね‥‥名前は?」
 瞬時の入れ替わりに戸惑い、一撃を食らったアサキだが、あくまで上から目線で話す。
「自称道化、レインウォーカー。風祭のファン第1号ってとこかなぁ?」
「なら、まずは3姉妹のあたしたちを倒さなきゃね‥‥ふん!」
 アサキの非情な刃が、雨のように降りかかる。レインはダメージを負いつつも、その場から一歩も引かない。
 一方の武流は、手負いの1機に対してスコルで蹴り、そのまま真燕貫突を発揮。ドリルのように回転を加えた飛び蹴りで、バイクの動力部分を抉った!
「はっ!」
 脚の感触で命中したことを知ると、バック転で距離を置き、他のアルケニーを警戒。さらにステップで体勢を整えると、再びアサキの元へと走る。彼の背中には、アルケニーの爆音が伝わった。

●撤退指示
 爆音を聞いたミウミは、ハッと我に返る。挑発を受けてからというもの、水上バイクに載せてあったプロトンライフルを使って、ミリハナクと激しい撃ち合いを演じていたが、アサキの劣勢を知ると態度をコロッと変えた。
「アサキん。そろそろ帰ろ! 今日はもうええよー」
 拡声器でそう呼びかけると、アサキも視界の戻った小隊長に「撤退よ」と指示を下す。
 せっかく二度の活性化を駆使して、無敵のお嬢様を演じていたミリハナクは、ガッカリした表情を浮かべた。
「負けて逃げるのなら、もう一撃くらい食らっていきなさいな」
「じょーだん! 今回は引き分けやよ!」
 それを引き止めるかのように、今まで恐竜娘の援護をしていた奏が姿を現す。
「私は風祭さんのファン‥‥レインが1号で、私が2号です。縁があれば、また会うこともあるでしょう」
「あんただったの! 次はボコボコにしたるからね!」
「その時は、よろしくお願いします」
 あくまで紳士的な態度を崩さない奏にムカつきながらも、部下に促される形でミウミは撤退。PB隊も血路を開き、アサキとともに戦線を離脱した。

 こうしてキメラ被害の海辺は、すっかり静かになった。
 ヨグはあずさに「んと、今日のお夕飯ですっ」とセイウチを指差すも、主婦は「本当に料理するの?」と戸惑う。
 メシアは風閂とレインを練成治療で回復させると、念願の浜辺でリゾートを楽しんだ。すると風閂が、潮騒の音を聞かせようと大ぶりの巻貝を持ってくる。
「いい音がするさぁ」
 メシアは目を閉じて、沖縄の音を感じた。
「地中海とは、まったく違う様相を浮かべるのね」
 お嬢様は、不敵な笑みと美しい感想を述べた。多彩な景色を持つ沖縄の戦いは、どうやら収まりそうにない。