●リプレイ本文
●傍若無人!
沖縄南岸を騒がせているのは、問題のセイウチ型キメラだけではない。海上から水上バイクに乗って、いちいち拡声器で指示を出す女性の指揮官が存在するのだ。
UPC沖縄軍の面々も、このド派手な演出には呆れる。
「あーあー! うちから見て左側のセイウチ、あんまり離れんと! まとまって行動するんよ!」
こんなにハッキリ敵の出方がわかれば、バグアとの戦闘も楽だろうに。兵士はキメラがまとまったところへ、牽制の銃撃を加える。
そこに傭兵たちが到着。すぐ作戦通りに散開した。
UPC沖縄軍に顔が利く杉森・あずさ(gz0330)は、担当の指揮官に軽く挨拶すると、拡声器の女を見て呟く。
「お世辞にも賢いとはいえない指揮だね。みんなもビックリしてるよ」
いつもは穏やかな表情を見せる音桐 奏(
gc6293)も、腐れ縁の相棒・レインウォーカー(
gc2524)に話しかけた。
「てっきり無線機で指示をするものだと思っていましたが‥‥なかなかの女性ですね」
そう言いながら帽子の位置を直すと、レインは皮肉っぽく笑う。
「なんだ、まだ生きてたのかぁ?」
「これでも貴方を見習ったつもりなんですよ。生きることを諦めない貴方のことを」
生きるもまた道化、か。レインは予想通りの答えが返ってくると、嬉しそうに微笑んだ。
「まずはキメラの目と耳を潰す。海の奴らに対しての牽制を頼むよぉ」
「喜んで付き合いましょう」
奏は小銃を構え、軍から借りた迷彩布を持って潜伏の準備を始める。
そんな彼よりも先に、洋弓を携えた風閂(
ga8357)が浜辺へと降り立った。彼の表情は静かな怒りに満ちている。
「そこのバグア、名を名乗れ!」
沖に向けて放たれた言葉を聞いた相手は、風閂に拡声器を向けた。彼女はよく見ると、ダイバースーツに身を包んでいる。
「うちは照屋ミウミ、沖縄の海を支配するんよ。邪魔せんといてー!」
底抜けに明るい声で侵略宣言されたのでは、たまったものではない。風閂は矢を番え、ミウミの乗る水上バイクを射る。
「そのような狼藉、断じて許さん。容赦せぬぞ」
彼の放った一射は威嚇だが、それが戦闘開始の合図となった。風閂はすぐに陸へ戻り、キメラ退治をすべく両手に刀を持つ。
レインは奏に伝えた作戦通り、まずは目を潰さんと閃光手榴弾のピンを抜いた。陸に上がったセイウチの動きは鈍く、散開するにも時間がかかる。
それを軍用双眼鏡で遠巻きに見ていたメシア・ローザリア(
gb6467)は、「せっかく沖縄の海を見に来たのに」と言いながらも、醜いセイウチの動きを見張った。そしてキメラ退治をする風閂とレインに練成強化を施す。
「任務の後は、のんびりできるのかしら?」
すでにメシアは赤薔薇のワンポイントが入った純白の水着に、UVカットのカーディガンという姿。このまま沖縄を満喫できればいいのだが‥‥はたしてどうなるか。
●準備運動?
レインが閃光手榴弾のタイミングを周囲に伝え、それをキメラの真ん中へ投げ込む。メンバーは視線を外し、この時ばかりは防御に徹した。
「ムゴ! ムゴォーーーッ!」
予告通り、セイウチの視界を奪うと、続けざまにプリン色のパイドロスに乗るヨグ=ニグラス(
gb1949)が登場。こちらもド派手な一撃を見舞わんとアクセルを吹かす。
「誰かが大暴れすれば、細工もしやすいというものっ。ということで、突撃あるのみっ」
幼さ残る少年はブーストまで駆使して全速力の騎龍突撃を発動。すべてのキメラを輝く龍の翼で巻き込み、強烈な宣戦布告を突きつける。敵を引き裂いた後は、すかさずパイドロスを身にまとって反転。エネルギーキャノンを構えて立つ。そこにメシアの練成強化が飛んだ。
この機を逃すものかと、今度はミリハナク(
gc4008)が地面に設置したアンチマテリアルライフルで1匹を狙い撃つ。しかもそれは、両断剣・絶の乗った強力な一撃である。
「キメラの相手だけでは、さすがに退屈ですわ」
殺意に満ちた弾丸はまっすぐにセイウチの頭を撃ち抜き、相手を地面に転がした。キメラは瞬時に仲間の血に染まり、すぐさま恐怖に震える。その乱れた心を癒す‥‥というと語弊があるが、イスネグ・サエレ(
gc4810)が子守唄を歌い始めた。
「沖縄に〜、餌となる〜、牡蠣はありません〜♪」
永遠に寝た1匹と枕を共にするセイウチもいたが、異変に気づいたもう1匹に叩き起こす。この行動だけで、キメラの旗色はさらに悪くなった。メシアは、ミリハナクとイスネグにも練成強化を飛ばし、万全の態勢を整える。
合流した風閂は目を覚ました1匹にソニックブームを放った。それがセイウチの肌を切り裂くと、彼はそのまま接近。両断剣を乗せた斬撃を食らわせて、さっさと2匹目を倒す。
「沖縄の青い海にセイウチは似合わぬ。去れ!」
飛び道具を備えたヨグも、狙いを定めて射撃に専念。それに呼応するかのように、レインが接近する。硬い皮膚を苦にしない一撃は、敵から苦悶の声を引き出した。
「ムグォッ!」
「えと、あーちゃんの晩御飯になってしまえっ」
それを聞いたレインが「じゃあ、調理しやすくしとこうかなぁ」と軽く刀を振り下ろし、その隙に懐へ潜り込んで刹那を発揮。敵の防御が崩れたところを、ヨグが狙い撃って止めを刺した。
あっという間に残りは1匹となり、セイウチは慌てふためく。ここでミウミの指示を聞かれては面倒と、メシアが耳の穴に向かって銃撃を放って憂いを断った。こうなってしまえば、もはや傭兵たちのペース。最後はミリハナクが遠距離から体を撃ち抜き、セイウチ狩りはあっさりと幕を閉じた。
●援軍到着
しかし、まだ戦いは終わらない。むしろ、ここからが本番と言えよう。
交戦地帯となる場所はUPC軍が封鎖しているが、ここがにわかに騒がしくなった。あずさによれば「紫色に塗られた小型プロトン砲座変形バイク・アルケニーの1小隊が出現した」という。今、兵士たちが威嚇射撃をしながら後退。傭兵たちに次の準備をする時間を与える。
「相手はプロトン砲を持ってるから、無理はさせられない。早く頼むよ!」
あずさの呼びかけに応じ、ミリハナクは武器を持って浜辺へ移動。ライフルを固定し、地面に炎斧を突き刺す。
それを見たミウミは嬉しそうに笑った。
「あははっ、あんた大胆だね〜! うちと張り合おうっての?」
「ごきげんよう、新キャラのミウミさん。私からの挨拶は銃弾ですが、そちらは何を見せてくださるのかしら?」
ミリハナクは能天気なバグアに対して、妖艶な挑発でやり返す。
その隙に奏は隠密潜行を駆使し、堤防のすぐ下にある岩場に迷彩布を使って身を隠した。ここからならミウミを狙うことができる。
「さて、私も役目を果たしましょうかね」
位置につくと、さっそくプローンポジションで狙撃の準備を整え、ミウミの喋っている最中を狙って海面を撃った。
「ん? 人が喋ってんのに、邪魔すんのー?」
ミウミは気分を害したらしく、水上バイクを少し後ろへ移動させる。奏は狙撃眼を駆使し、今度は直接ミウミを狙うべく貫通弾を装填。肩口を狙って攻撃した。
しかしこれは側近の強化人間に読まれており、彼らがミウミに警告すると、彼女はこれをあっさりと避ける。
「ミ、ミウミ様! 大丈夫ですか!」
「ふー、なんくるないさー」
そこへミリハナクのライフルが火を吹く。雷撃を帯びた弾丸はもうひとりの護衛の胸を貫き、派手に水しぶきを上げて海中へと落とした!
「ぐあっ!」
「あーっ、何すんの! あんたら、うちと張り合う気?!」
ここまで好き勝手されると、さすがに我慢ならない。側近の顔色などお構いなしに、ミウミも負けじと挑発を始めた。
●PB隊
一方、UPC軍が囲みを緩めて、傭兵の元にアルケニーを届ける。部隊の構成は、近接戦闘を行う機体が3台に、長距離砲を備えた後方支援機の2台。その奥に、小隊長と榊原アサキが陣取った。
「パープルブラッド(PB)隊、前方の敵を排除よ」
アサキの号令を聞き、彼らは静かに動き出した。バイクに装着された槍を使っての突進など、まずは場を掻き乱す。そして遠距離型が照準を合わせるのだが、ここで銀色の皮膚を持つ須佐 武流(
ga1461)が洋弓を巧みに操り、長距離砲の撹乱を始める。
「ずいぶんと待たせてくれたな」
長距離砲の射程を凌駕することは難しいが、プロトンライフルの射程外からの攻撃は可能。砲座が自分に向くように、一撃離脱を信条として動く。
乱戦となった前線では、風閂が距離のあるアルケニーに対してソニックブームを放つ。転倒を狙ったが、AU−KV同様、何らかの加工が施されており、攻撃の効果は薄い。
「一筋縄ではいかぬか。だがこれ以上、沖縄でバグアの好き勝手はさせぬ」
それを聞いたヨグも「沖縄の暴走族ですねっ」と納得し、風閂が狙った標的に向かってエネルギーキャノンを放つ。さらに戦闘の激化を予想し、ここで竜の鱗を発動させた。
イスネグはプディングシールドを構えながら、周囲の状況を確認する。その手には、すでにピンを抜いた閃光手榴弾が握られていた。本来なら前線のPB隊に当てたかったが、今はアサキたちのいる後方に投げるのが妥当。彼は人知れずサッと移動し、すかさず武流に注意を促す。
「少し視線を外してくださいね〜」
その言葉が何を意味するかは、武流もすぐに察して背を向けた。このタイミングで、装備を機械脚甲と超機械にチェンジする。何から何まで計算し尽くされた、無駄のない動きだ。
そしてイスネグが閃光手榴弾を、アサキたちに向かって投げ込む。PB隊の小隊長は「何らかの攻撃」と判断してプロトンライフルを使おうとするが、察しのいいアサキはすぐに身を伏せる。もちろん銃撃が間に合うわけもなく、PB隊の後方支援は閃光に目を焼かれた。
「ったく、実戦経験が少ないのも考え物ね‥‥」
ひとり難を逃れたアサキはバイクを降り、愛用の刀を抜いてイスネグに向かって一直線。歌い手は慌てずに盾で防御するも、鋭い斬撃を食い止められず、ダメージを負う。
「アサキ、覚悟!」
そこへ武流が割り込み、電磁波による牽制とキックで攻め立てる。すべての攻撃は当たらずとも、武流は目的を果たしていた。この隙にイスネグはさっさと瞬天速で前線に戻り、今はメシアから練成治療で回復を受けている。
「ふー。危うく自分が餌になるところだった」
イスネグは自分でも練成治療を二度使い、完全に体力を回復させた。
アサキはひとりの傭兵に、あることを尋ねる。
「あなた、名前は?」
「須佐、武流‥‥」
アサキは自分の名を教えたご褒美に刀の連撃を食らわせる。
しかしこれは、武流の思う壺。残像斬を駆使して一閃を回避すると、そのまま鳩尾に蹴りを叩き込む。
「くはっ! こ、この動き‥‥!」
それでもさすがはバグア。体勢を崩しながらも、攻撃の手を休めない。
アサキは返す刀で斬り上げようとするも、またこれも避けられ、今度は華奢な背中を蹴られた。
「ぐうふっ!」
「なりふり構わぬ悲鳴か。らしくなってきたな」
この時、アサキは初めて‥‥少女らしさを捨て去った。荒くなった息は無理に整えず、迷いなき表情で能力者の前に立つ。
「ふっ、まだ名乗ってなかったわね。あたしは、沖縄3姉妹の三女・榊原アサキ‥‥この地上を赤い血で染める者よ」
それを聞いた武流は「そうか」とだけ答え、激化するであろう戦闘に向けて体勢を整えた。
●蜘蛛爆裂!
PB隊がオンロードに特化していることを知っていたヨグは、パイドロスを騎乗状態に戻し、前衛を取り囲むようにして翻弄。反撃でダメージを受けても竜の血で回復し、妨害を続ける。
「ふふふ、毒々しいバイクには負けないのですっ」
その円の中央には勇気を持ったイスネグが立ち、再び子守唄を響かせた。
「あなたたちも〜、風のように〜、走っては〜♪」
なかなかの美声だが、歌詞がコメディ調。メシアが「美しさの勉強が必要ですわね」と髪を掻き分けながら呟き、ヨグに練成治療でフォローする。
風閂が1機に狙いを絞り、ソニックブームで攻撃を仕掛けると、武流がダッシュして迫った。
「なるほどねぇ」
それを見たレインは自分を狙って突進するアルケニーを回転舞で飛び越え、武流と入れ替わるようにして迅雷でアサキの元へ。夜刀神を大きく振りかぶった。
「くっ、見ない顔ね‥‥名前は?」
瞬時の入れ替わりに戸惑い、一撃を食らったアサキだが、あくまで上から目線で話す。
「自称道化、レインウォーカー。風祭のファン第1号ってとこかなぁ?」
「なら、まずは3姉妹のあたしたちを倒さなきゃね‥‥ふん!」
アサキの非情な刃が、雨のように降りかかる。レインはダメージを負いつつも、その場から一歩も引かない。
一方の武流は、手負いの1機に対してスコルで蹴り、そのまま真燕貫突を発揮。ドリルのように回転を加えた飛び蹴りで、バイクの動力部分を抉った!
「はっ!」
脚の感触で命中したことを知ると、バック転で距離を置き、他のアルケニーを警戒。さらにステップで体勢を整えると、再びアサキの元へと走る。彼の背中には、アルケニーの爆音が伝わった。
●撤退指示
爆音を聞いたミウミは、ハッと我に返る。挑発を受けてからというもの、水上バイクに載せてあったプロトンライフルを使って、ミリハナクと激しい撃ち合いを演じていたが、アサキの劣勢を知ると態度をコロッと変えた。
「アサキん。そろそろ帰ろ! 今日はもうええよー」
拡声器でそう呼びかけると、アサキも視界の戻った小隊長に「撤退よ」と指示を下す。
せっかく二度の活性化を駆使して、無敵のお嬢様を演じていたミリハナクは、ガッカリした表情を浮かべた。
「負けて逃げるのなら、もう一撃くらい食らっていきなさいな」
「じょーだん! 今回は引き分けやよ!」
それを引き止めるかのように、今まで恐竜娘の援護をしていた奏が姿を現す。
「私は風祭さんのファン‥‥レインが1号で、私が2号です。縁があれば、また会うこともあるでしょう」
「あんただったの! 次はボコボコにしたるからね!」
「その時は、よろしくお願いします」
あくまで紳士的な態度を崩さない奏にムカつきながらも、部下に促される形でミウミは撤退。PB隊も血路を開き、アサキとともに戦線を離脱した。
こうしてキメラ被害の海辺は、すっかり静かになった。
ヨグはあずさに「んと、今日のお夕飯ですっ」とセイウチを指差すも、主婦は「本当に料理するの?」と戸惑う。
メシアは風閂とレインを練成治療で回復させると、念願の浜辺でリゾートを楽しんだ。すると風閂が、潮騒の音を聞かせようと大ぶりの巻貝を持ってくる。
「いい音がするさぁ」
メシアは目を閉じて、沖縄の音を感じた。
「地中海とは、まったく違う様相を浮かべるのね」
お嬢様は、不敵な笑みと美しい感想を述べた。多彩な景色を持つ沖縄の戦いは、どうやら収まりそうにない。