タイトル:沖縄・猿亀バイク合戦マスター:村井朋靖

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/10/01 22:11

●オープニング本文


●南国キメラの面子争い
 宇宙人のバグアに生み出され、人類に恐怖を振りまく存在‥‥キメラ。
 彼らは動物的な本能を発揮しつつ、新たに得た力を使い、弱い立場にある人々に牙を剥く。
 人類の中でも選ばれし者である能力者によって駆逐されているが、次々と新たなる脅威が出現する状況は、依然として変わらない。

 まだまだ盛夏を思わせる沖縄にも、そんなキメラが穏やかな海の中を悠然と泳いでいた。
 彼らはバグアに放たれた海ガメ型のキメラである。3匹はまるで家族のように連れ添い、腹が減れば泳いでいる魚を食らう。彼らは驚きの獰猛さを持っていた。
 そんな海ガメたちにも、消し去れぬ本能を有している。それは種を残さんとする行動‥‥ズバリ、浜辺での出産だ。
 星の瞬く夜に浜辺を這いずり、律儀に穴を掘って泣きながら卵を産む。これがキメラでなければ、なんとも感動的な風景なのだが。
 ともかく無事に出産を終えた海ガメたちは、また住処である海へと戻っていく。不気味な卵を砂の中に残して。

 この様子を浜辺から程近い森で見ていたのが、サル型キメラだった。こちらも家族のように、20匹ほどの群れで行動している。
 たまたま海ガメの出産を見たボス格のサルが、「しめた」とばかりに手を叩いて大喜び。仲間に状況を報告し、夜明けを待って卵を掘り返すことにした。
 そして朝日が昇ると同時に、猿たちは浜辺へと走る。砂で蓋をした場所を探すなど、まさに朝飯前。ウキウキモンキーは、すぐに卵を発見した。
「ウッキ、ウッキ、ウッキッキ‥‥」
 栄養価の高い食料を手に入れたと喜ぶサルだったが、彼は予想外の出来事に見舞われる。

 ドゥウウウーーーーーン!

 なんと掘り起こした卵が連鎖的に爆発し、サルは断末魔の叫びを残して消え去ったのだ。
 ボスは慌てて仲間を止めるも、もう1匹も卵の餌食となってしまう。動かなくなったサルに向かって、数匹が悲しそうな呻き声を響かせた。
 どうやら海ガメ型キメラは卵を産む性質を利用され、浜辺に卵爆弾を埋め込むように改造されたらしい。
 それを理解したかはわからないが、ボスは地団太を踏んで悔しがった。よくも俺の仲間を‥‥彼の心は、海ガメへの恨みを晴らす気持ちでいっぱいになる。そう、これもまた動物の本能。サルに残された記憶なのだ。
「ギャオォォーーー! ギャオォォォォォォーーー!」
 朝焼けに復讐を誓ったサルたち。だが、この様子を海ガメたちが静かな波間に揺られながら、じっと見つめていたのだった。

 かくして、サルの張り込みが始まった。
 海ガメはこの状況を知っているので、自分から下手を打つような真似はしない。1匹がせっせとサルの視界に出て挑発し、その隙に残りの2匹が浜辺に卵を産む。
 翌日、同じ手順で挑発すれば、怒り狂ったサルが勝手に地雷を踏んで数を減らすという寸法だ。海ガメは勝ち誇ったかのように水中から顔を出し、空に向かって炎を吐く。どうやら腹の中に、可燃物を溜め込んでいるようだ。
 そんなものを見せられて黙っていられるはずがない。ボスをはじめ、サルたちは怒り心頭。結局、毎日のように同じことを繰り返しているうちに、サルの群れはついに5匹にまで減った。

 被害甚大のサル軍団は深く反省したのか、海ガメが自分たちの手に届く範囲に出てくるまでじっと我慢するようになった。
 しかし収まりのつかない連中は憂さ晴らしに人間を襲う。八つ当たりされた方は頭を抱え、UPC沖縄軍に調査を願い出た。

●アサキ、動く。
 この事件は程なくして、沖縄に駐留するバグア軍にも伝わった。
 部下からの報告で「サルとカメが睨み合いをしている」と聞いた榊原アサキ(gz0411)は、「面白いことになってるのね」と微笑む。
 彼女は能力者と戦闘ができるのなら、どんな些細なことでも利用する。今回もまた、例外ではなかった。
「それはUPC沖縄軍が捨て置かないでしょうね。きっと能力者を派遣するわ」
 アサキはそれを見越した上で、新たに結成した小型プロトン砲座変形バイク・アルケニーの1小隊を呼び寄せる。
「人間はキメラのケンカと見るでしょうから、その隙を突くわ。隊員は遠距離砲撃型のアルケニーを準備して」
 能力者たちがサルとカメを退治する瞬間、遠巻きにプロトン砲を発射。浜辺にある卵爆弾を誘爆させるなどして混乱させ、そこを一気に平らげるという作戦を立てた。
「適当に戦場を荒らしたら、小隊長は部下を指揮して射撃。前に出るあたしを援護するの」
 今回は機動力重視の作戦なので、アサキ自身も専用のアルケニーに乗って出撃すると伝えた。
「野良キメラで能力者を脅かせるのなら、こんないい話はないわ‥‥ふふふ」
 神と魔の少女と呼ばれる好戦的なバグアは、久々の戦闘に心躍らせていた。

●陰謀の匂い
 ところ変わって、UPC沖縄軍本部。こちらはアサキの読みどおり、ただのキメラ退治としてULTへ依頼を打診しようとしていた。
 しかし、その直前。上層部のひとりが警鐘を鳴らす。
「我々は過去、慰問に訪れたミク・プロイセン(gz0005)の誘拐を許している。榊原アサキの嗅覚はバカにできない。ここは慎重に行くべきだ」
 彼の発言は周囲を納得させ、依頼は危険性の比較的高い内容として掲示することに変更された。

 数日後、ULTで依頼内容を確認した杉森・あずさ(gz0330)は、オペレーターから経緯を聞き、意味ありげに頷く。
「ああ、その上役って慎重派でも知られてるけど‥‥確かミクちゃんのファンでも有名だったわよね?」
 それを聞いたオペレーターも「そういえば」と呟き、納得の表情を浮かべる。
「ま、動機はなんであれ、その読みは当たってると思うよ。アサキもミスターS(gz0424)からおもちゃをもらったらしいから、そろそろ動くだろうし」
 アサキの陰謀に付き合うのは、これで何度目だろうか。あずさは気持ちを引き締め、オペレーターに詳しい内容を尋ねた。

●参加者一覧

ケイ・リヒャルト(ga0598
20歳・♀・JG
UNKNOWN(ga4276
35歳・♂・ER
鐘依 透(ga6282
22歳・♂・PN
風閂(ga8357
30歳・♂・AA
大神 直人(gb1865
18歳・♂・DG
メシア・ローザリア(gb6467
20歳・♀・GD
秦本 新(gc3832
21歳・♂・HD
ミリハナク(gc4008
24歳・♀・AA

●リプレイ本文

●サルの処理から
 森に潜むサル型キメラはいつもより気が立っており、ボスを中心とした周囲をまんべんなく警戒していた。
 気まぐれに目前までやってきたのは、端正な顔立ちの黒猫である。ケイ・リヒャルト(ga0598)はガトリング砲を構えながら、サルたちの視線を確認した。
「さて、パーティーと行きましょう?」
 語尾を上げて甘い声で囁く黒猫に、秋用のドレスを着たメシア・ローザリア(gb6467)も同意する。
「それにしても哀れね‥‥醜いなんて」
 かなりの距離を置いているが、サルの奇声はここにまで聞こえる。彼女はウンザリした表情で脚爪「アクア」を装着し、気は進まないが探査の眼を発現させた。
 浜辺に埋まった卵爆弾の場所を双眼鏡で確認していた機竜・秦本 新(gc3832)は「そりゃ、とんだ災難ですね」と呟く。
 その隣で同じく浜辺を見るのは、小銃「ブラッディローズ」を準備する鐘依 透(ga6282)。彼は浜辺に下りた後の展開がどうなるかを読んだ。
 まず全員でサル型キメラを片付けるが、討伐後は海ガメ型キメラと奇襲対応に分かれる。
「高所からアルケニーに砲撃されるのだけは避けたいですね」
 榊原アサキ(gz0411)の奇襲があるかどうかは不明だが、警戒するに越したことはない。皮肉にも能力者は、サル以上に準備する必要があった。
 そこはすでにアルケニーと対戦済みのUNKNOWN(ga4276)とミリハナク(gc4008)が、アサキやアルケニー対応に名乗りを上げている。
「久々の沖縄♪ 不穏な空気が漂っているようで何よりですわ。そろそろアサキちゃんと遭遇できるかしら?」
「そろそろ、あのバイクを頂こうか。どうせなら、アサキ仕様のを」
 砂浜に踏み入るやも知れぬというのに、紳士の服装はいつもどおり。ロイヤルブラックの艶なしフロックコートに、同色のウェストコートとズボン。そして兎皮の黒帽子を優雅に着こなす。
 さすがに風閂(ga8357)が「それ、汚れないか?」と心配するが、UNKNOWNは「なんくるないさ」と気さくに答え、静かに探査の眼を発動させた。
「よっし! 故郷を脅かすモノはすべて倒す!」
 風閂が気合を入れると、おとなしげな印象の策士・大神 直人(gb1865)が覚醒。探査の眼とGooDLuckを発動させると、率先して森の中へと進んだ。

 まずはサルのお相手から。
 メンバーが接近したため、サルは扇型に散開して待機。どうやらボスが、戦闘のタイミングを指示するらしい。
「ふむ、動物的本能か」
 UNKNOWNは超機械「カルブンクルス」を構え、ギリギリの射程から先制攻撃。サルは肩口を撃ち抜かれた後、驚きの混じった奇声を放つ。
「ムギィイイィーーー!」
「ご挨拶代わりの一撃にお返事ね。よく教育されてるわ」
 併走していた杉森・あずさ(gz0330)は冗談を口にすると、紳士は「今度デートでもしないかね」と伝えると、すぐに瞬天速で仲間との距離を縮めた。
 直人は目でサルの動きを追い、無線機で的確に場所を教える。奥に陣取る1匹には透と風閂が、右翼にケイ、左翼にメシアと新が接敵した。大神レーダーの存在は、サルにとっては厄介。あっという間に組織的な動きを封じられてしまう。
「ムキキィ! ムキキィィィ!」
 ボスの指示が何なのかはわからないが、おそらく攻め方を伝授したのだろう。サルは一斉に枝や幹を使った多角的な攻撃を繰り出すも、サルという動物を知る能力者には通用しない。
 ケイは「踊ってなさい」と言わんばかりにガトリングを撃ち鳴らし、サルに弾丸を埋め込む。確実に1匹を退治した後、装備を二挺拳銃にスイッチ。今度は影撃ちを使用して射撃する。
「貴方たちと遊んでる暇はないの」
 つれない態度は、攻撃にも表れた。これでもう1匹も倒し、右翼に展開するサルを手早く片付ける。その後は、他のメンバーをフォローした。
 一方の左翼にはボスが混じっていた。新は即座にミカエルを装着し、静寂の蒼龍を発動。ボスの腕を狙って和槍「鬼火」で貫く。
「これ以上動かれると厄介なんでね‥‥!」
 新の攻撃で腕の自由を奪われたボスの動きは、明らかに鈍くなった。
 そこへメシアが脚爪「アクア」から放たれる蹴りを放っていく。右脚で蹴り上げた後、また右で傷ついた腕に打撃。さらに地面に置いた右足を軸にし、回転を加えながら左脚で心臓があるであろう場所を叩く。これぞサバットの戦い方だ。
「生憎、美しくないものに対しての慈悲は持ち合わせておりませんの」
 敵の動きを止めたところを、新が槍で身体を貫いた。
「ボゲェェェ‥‥」
 断末魔の叫びでボスの惨めな敗戦を知った仲間の士気は落ちるばかり。
 透は自暴自棄になったサルの攻撃を避け、散弾銃でカウンターを仕掛けた。
「風閂さん、今です!」
「任せといてくれよ」
 風閂は蛍火とイアリスの二刀流で、腕や急所を丁寧に狙う。彼の最後の一閃で、サルは絶命した。
 残った1匹はその場から逃げようと企むも、紫煙の紳士はそれを見逃さない。超機械「カルブンクルス」の的にされたサルの行く末は「地獄」と決まった。

●潜む者と迎え撃つ者
 サルの討伐を終わらせた頃、アサキ率いるアルケニー小隊もまたこの状況を把握していた。
「サル型キメラ、撃破されました」
 アサキも紫色に塗装したアルケニーに乗っている。機動力が武器とするだけに、攻め時が肝だ。
 彼女は「海ガメ型への対応を始めたら行動開始」と隊長に伝える。今回の編成は1小隊のみの6人で、内訳は小隊長1人と隊員5人。隊員の車両はすべて遠距離射撃に特化した仕様となっている。
「あたしはおろか、あなたたちも退屈しないから。油断しないようにね」
 アサキは前方を見据えながら部下に念を押すと、能力者たちが砂浜に向かって射撃を開始した。どうやら先に卵爆弾を処理する腹積もりらしい。
「海ガメが顔を出したら、隊員2人は遠距離砲撃を開始。命中させる必要はないわ。小隊長は森に残った能力者と交戦。あたしは砂浜へ出たら、2人は援護射撃よ」
 アルケニーの低い唸り声が響き渡ると同時に、赤い光線が浜辺へと伸びていく。この戦いは新たな局面を迎えた。

 一方、そんなことは百も承知の能力者たち。
 砂浜へ向かった透は迅雷で急接近し、掘り返された跡のある砂浜に小銃を撃つ。その爆発は轟音とともに砂を巻き上げた。
「これは‥‥海ガメの蓄えてる可燃物にも警戒が必要ですね」
 さすがに直人もこればっかりは無線で連絡をもらわずとも、見ればわかる。すぐさま周囲に「あまり近づかずに誘爆させてください」と注意を促した。
「これが本場の、なんくるないさ!」
 風閂はソニックブームを繰り出し、安全に爆破する。
 ミリハナクも同じ技能で爆破に協力しようとしたが、あまりにメンバーの手際がよかったので自重。亀退治に専念することにした。
「あれだけ卵を爆発させられたら、我慢できないでしょうね」
 その辺は隣に控えていた新の読み通りである。海ガメたちは揃って、砂浜へと上がってきた。

 と、この時だ。砂浜に向けてプロトン砲が突き刺さったのは‥‥
 他の卵を爆発させながら伸びる赤色光線は、砂浜を穿ち、キラキラと砂を巻き上げる。
「アルケニー、全速前進! 注意しろ!」
 直人は無線で警戒を促し、自らは小銃で卵を徹底的に破壊していく。バイクの爆音と卵爆弾の爆音が、戦場で混じった。
 小隊は後続の2台を残したまま、森の前に陣取る。遠距離砲の射程は400mほどあり、どこからでも狙えるのが強みだ。隊員は目視で敵の居所を探る。
 隠密潜行を発動させ、木の上に登っていたケイはいたずらっぽく笑うと、長弓「クロネリア」を構えた後に死点射を駆使した4連射で奇襲。狙いは隊員の頭だ。
「あたし、上から目線って大好きなの‥‥ふふ」
 プロトン砲のような派手さはないが、インパクトは十分。音もなく忍び寄る矢は隊員のヘルメットを貫通し、あっという間に退治した!
「なっ! き、奇襲? 近接専用に備え、プロトンライフルで応戦せよ!」
 小隊長は慌てて接近戦の準備を指示するが、これでさえ一手遅い。
 UNKNOWNが森の中から都会を歩くかのようにゆらりと現れ、自分を狙うプロトンライフルを左右に揺れながら避けつつ、ライトニングクローで攻撃を仕掛けた。
「研究のために、そのバイクをくれんかね?」
 隊員は自然な動きに終始する紳士に度肝を抜かれながらも、なんとか正気を保って隊としての動きを見せる。
「残念だが、アルケニーは操縦者が離れると主要部分が破壊されるようにできている。お前らに奪われてなるものか!」
 小隊長がそう吠えると、隊員よりも高性能のプロトン砲を発射する。これをUNKNOWNは軽く避け、瞬天速で接近すると、小隊長を爪で切り裂いた。
「こっちは遠距離仕様じゃないが‥‥威力が高い。アサキ仕様のは、もっと強いのかね? 興味が沸いてきたよ」
 いたってマイペースの紳士に、アルケニー小隊は翻弄された。

●キメラとバグア
 アサキは森に陣取る能力者を無視して、砂浜へ一直線。もっともアルケニーはオンロード使用なので、砂浜へは刀を抜きながら走って接近する。
 この奇襲でもっとも予想しづらかった部分が、ここだ。好戦的なのは誰もが知るところだが、どこに迫るかまでは読めない。
 直人はすかさず「アサキ接近」の報を伝えると、実に嬉しそうな声を響かせながら、ミリハナクが前進してアサキの行く手を遮った。
「アーサキちゃん、遊びましょう♪」
 そう呟いた後、呼笛を吹き鳴らして挑発。自分は海ガメとの戦場になる場所から離れる。
 あまりに遠距離なので、プロトン砲が命中する可能性は低い。今はアサキだけに集中できる状況だ。滅斧「ゲヘナ」を振りかざし、獄炎のオーラでバグアを牽制する。
「ミリハナク、だったかしら。今日はたっぷり遊んであげるわ」
「あら、名前を憶えてくれたのね♪ 嬉しいわ」
 アサキはお手並み拝見とばかりに、まずは手数重視で刀を振る。敵の獲物が斧というのも見越してのことだ。しかしアサキを追うというミリハナクの腕前もさすが。たった一撃を食らうのみだ。
「血飛沫がお好きなのかしら、アサキちゃん? でも今日は、自分のを見るかもね♪」
「いい趣味してるわね。バグアに忠誠を誓う気はないの?」
 ミリハナクはそっけなく「ないですわ」と答えると、渾身の力を込めて十字撃を放つ。彼女が仲間から離れたのは、この技を使うためだった!
「しばらく、そこにいらっしゃい」
 ゲヘナから繰り出された衝撃波によって足元を崩され、アサキは防御の姿勢を取る。ミリハナクはこれを見逃さず、斧による反撃を繰り出した。
「くっ! 大口を叩くだけが能じゃないようね」
 切り上げを食らい、少し仰け反るアサキ。その瞳はあまり動かないが、足場の確保できる場所を探していた。

 この間、海ガメ3匹が陸に上がり、卵を破壊した連中を相手に報復を開始する。
 透はアルケニーに対応すべく、一気に片をつけようと果敢に攻めた。武器を血桜に変え、海ガメの側面に位置すると鋭刃と刹那を駆使した一撃を食らわせる。
「もはや一刻の猶予もありません!」
「ゲ、ゲヘェェェ!」
 高い防御力とは無関係の部位を切りつけられた海ガメは、サルと同じ悲鳴を上げた。それを聞いた直人がエネルギーガンで止めの一撃を刺す。
 メシアは海ガメも早期撃破が可能だとわかると、風閂とともに森へ向かった。彼女は瞬天速を使って急ぐ。
 新も1匹を相手にし、猛火の赤龍を発動。斜め前方から首元へ槍を突き刺す。
「あなたのお相手はしてられないんでね!」
 アルケニーの無法を見せられ、新の心に火がついたか。苛烈なまでの攻撃は、海ガメを絶命させた。
 残す1匹は火炎を吐き、透に手傷を負わせるので精一杯。透は鋭刃で逃れられない一閃を繰り出すと、新も今度は槍を甲羅に突き立てた!
「うおおおぉぉぉ!」
 ふたりの声が響いた後に聞こえるのは、悲しささえ漂う力なき叫び‥‥こうして手早く海ガメも討伐を完了させた。

●形勢逆転
 森の前にいるアルケニー隊は、ケイの攻撃に翻弄されていた。
 黒猫は森を駆け抜け、時折ガトリング砲を撃ち鳴らす。しかも影撃ちを使い、プロトンライフルの銃口を狙うという離れ業を披露した。
「当てれるかしら?」
 ケイの心配どおり、敵の攻撃は森という地形にも阻まれて苦戦しっぱなし。
 そこへメシアと風閂が現れた。彼女は小隊長に狙いを絞ると、呪歌を聞かせ続けて束縛を誘う。その間の護衛は両断剣を使い、風閂が務めた。
「小隊長はそこか!」
 直人は瞬天速で駆けつけ、動けなくなった敵に容赦なくエネルギーガンを撃つ。新も竜の翼を二度使い、森の中から急襲。今度も鬼火が敵を焼く。
「こっちの性能はわかってるんでね。下手にアサキ専用機を触るより、安全と言えば安全です」
 小隊長が麻痺になるという緊急事態に、アルケニー隊は混乱した。メシアの歌声を止めなくてはならないが、歌姫のガードは硬い。小隊長が倒されるのは時間の問題だ。

 アサキはミリハナク、そしてUNKNOWNという強敵を相手に、一歩も引かない戦いを繰り広げていた。
 この戦いは、まさに一進一退の攻防。しかし能力者側が傷つけば、紳士がこまめに練成治療を飛ばして徹底的にケアする。
「小賢しいマネするじゃない、紳士さん?」
「君のせいで服が少し汚れたではないか、まったく」
 ミリハナクの恐竜を思わせる力強さが牙を剥くかと思えば、UNKNOWNのスタイリッシュな動きからトリッキーな攻撃を繰り出す。アサキは傷つきながらも、いよいよ楽しくなってきた。
 しかしこの時、3人に水を差す音が聞こえる。アルケニー小隊長のバイクが自爆したのだ。これは小隊長の撃破を意味する。
「さすがに1小隊じゃ少なかったかもね。ちょっと侮ったわ」
 アサキがそういって手を上げると、後衛にいた2人が今まで以上にプロトン砲を激しく撃ってくる。どうやらアサキは撤退するつもりだ。
「君のバイクはくれんのかね?」
「あれは、あたしのお気に入りよ。飽きたらあげる‥‥かもね?」
 アサキはそう言うと、さっさと専用機にまたがり、生き残った隊員に指示を出す。
「今日はこの辺にしとくわ‥‥退却よ」
 最後にアサキは「楽しかったわ」とミリハナクに伝え、この場を去った。
「お楽しみはこれからってことね、アサキちゃん」
 彼女はゲヘナを砂浜に下ろすと、不敵な笑みを浮かべた。

 サルと海ガメのキメラを残らず倒し、さらには榊原アサキの奇襲部隊も退け、沖縄の砂浜は平穏な時間を取り戻した。
 しかし、まだ沖縄での戦いは始まったばかり。激しい戦闘は、これからも続くのだ。