●リプレイ本文
●機械仕掛けの能力者
未来を担う子どもたちが集う児童施設に、傭兵たちを乗せた小さなバスが停まる。
道中の車内では、ソウマ(
gc0505)が事前に得た子どもたちの趣味や趣向などを伝えた。しかし直接的な注意は避け、仲間が「どのように子どもたちと接すればいいか?」と考えるよう仕向ける。
「みんなが見たいのは、夢や憧れですから」
その説明を聞きながら、美空・火馬莉(
gc6653)は熱心に寸劇の台本を憶える。彼女は弱視なので、隣に杉森・あずさ(gz0330)が座り、内容を読み上げていた。火馬莉は台本を一通り憶えたところで、あずさに敬礼する。
「感謝であります。本来、美空はKV以外の依頼は受けないのでありますがぁ」
「そういう人が来てくれるのは嬉しいよ。今日は子どもたち以上に楽しまなきゃね」
いったいどんな子どもが待っているのだろう。火馬莉はいつもとは違うワクワクを、肌で感じていた。
バスを降りれば、さっそく男の子たちがバイクに近づく。操縦者はバスに乗らず、AU−KV「アスタロト」で追走していたハイドラグーンの沖田 護(
gc0208)だ。
それを見た黒川丈一朗(
ga0776)が、近くにいた漸 王零(
ga2930)に「見た目にカッコイイのは強いな」と囁く。
「よし! それじゃ、行くよ! AU−KV、セェェットアップ!」
護は子どもたちを少し後ろに離れさせると、あらかじめ用意された職員用の駐車場にバイクで向かう。
そして瞬時にバイクモードからアーマーモードへと変形し、竜の翼を駆使して高速移動を披露。アスタロトは女性的なフォルムをしており、女の子からも「わー!」と驚きの声が漏れる。
そのままアスタロトはエアーバットを抜いて、演武を開始。普段の動きに加え、武器にちなんだユニークな攻撃も織り交ぜる。
「ここでキメラをホームランだ!」
軽いバットを気持ちよく振り抜くと、さっそく男の子たちも見えないボールを打ち返す仕草を見せる。反応は上々だ。
護が動きを止めると、積極的な子どもたちは我先にと向かっていくが、中には手をもじもじさせながら躊躇する子どもの姿もある。そんな子どもたちのために、ハイカラなお姉さんの水無月 蒼依(
gb4278)がやさしく背中を押した。
「ほら、護様が待ってますよ」
子どもはハッとした表情をすると、蒼依に「うん!」と返事して駆け出す。ところがふと気づけば、もう蒼依の周囲は女の子で囲まれていた。
「和服だー! ブーツだー!」
目新しいファッションを見た子どもたちは興奮気味。王零は「あれはハイカラというんだ」と説明すると、みんな素直に「ふーん」と頷く。
一方、シルヴィーナ(
gc5551)はリボンいっぱいのゴスロリの服で子どもたちを魅了する。これぞ「カワイイ」‥‥のだが、本人が目指すのは「カッコイイ」だ。
「わんっ! 今日は精一杯がんばりますです!」
そう言いながら、護に続いてバイクのテクを披露する。RR−V8エンジン搭載の重装甲化されたこだわりバイクだが、この日のために戦隊ヒーローっぽくペイント。服に合わせたカラーリングになっている。
「わふっ‥‥三日月狼である私のかっこよさを子どもたちに見せてあげましょう‥‥!」
張り切ってバイクを走らせると、背中の羽が軽やかに踊った。純白の悪魔の羽というが、子どもたちには天使に見えるだろう。
そして空いたスペースにドリフトで止まると、すぐさまバイクを降りて、あらかじめバイクに括りつけられた大鎌を回しながら決めポーズ。
「わふっ‥‥きまりましたですっ‥‥」
シルヴィーナは大鎌を背中に戻しつつ、近づいてくる子どもたちの反応を見る。かわいさの中にもカッコよさがあり、その辺の理解は子どもたちにもあった。
だが、それでも「カワイイ!」という声がわずかに多い。理由は単純だ。彼女の口調に「わん!」とか「わふっ」という言葉が混じるからである。
「ワンワン、カッコイイー!」
「わふっ?! いいですかー? 私は狼なのですよっ!」
彼女は多少ムキになって言い返すも、話せば話すほど鳴き声が混じるので、ますますかわいさが引き立ってしまう。シルヴィーナがこの矛盾に気づくのは、いつのことだろうか。
●未来の稽古?
そのまま子どもたちと、外でお遊戯の時間となった。能力者にしてみれば、いつものフィールドよりもぐんと狭い。ここでカッコよさを表現しろというのは、実は難しい注文なのかもしれない。
王零はあずさや先生たちが空気で膨らむおもちゃの剣を子どもたちに渡しているのを見て、自らもそれを手に持った。
「あまりの軽さに戸惑うな‥‥」
「安全でいいんだけど、いつもみたいに使えないのが難点だね」
それでも王零は、演武を披露する。子どもが見るだけでなく、真似もできるように配慮し、なるべく簡単なものを実演する。
静と動を繰り返すが、肝心のタイミングで剣全体がのどかに揺れたりして、なんとも締まらないのが厄介だ。それでもキレのある動きは、子どもが見ても理解できる。すぐに真似っ子が集まった。
「ならば、これはどうかな?」
王零は子どもの手本になるべく、さっきよりも遅めに動く。そして手にした剣の形状にこだわらず、自分の得意とする型を見せた。
「えいっ、やぁっ!」
子どもたちは気合いを込めて剣を振るう。今はただ「カッコイイ」を目指しての剣舞だが、今はそれで構わない。
王零は最後に六芒星を描くように剣を振るうと、剣を手の中でくるっと回転させて逆手で持ち、その場で反転して腰の後ろに剣を収めるようなポーズをとって呟いた。
「これで終いだ‥‥眠れ、永久に」
今までの中では特に難しい動きに、子どもたちはみんなでどう動いたかを熱心に話し合う。これが原因でケンカになっても困るので、王零は木の枝を使って、地面に図を描いて教えた。
「そう、最初はこの形に振ったんだ。これは六芒星といって‥‥」
「ろくぼーせー?」
聞きなれない言葉が出てくると、すぐに復唱するのが特徴だ。王零は自分が帰った後も練習できるように、決めポーズのやり方を丁寧に教える。
同じく蒼依はおもちゃの刀を使って、女の子たちと遊んだ。
彼女は剣術の作法から丁寧に教えている。刀の握り方から構えに始まり、斬るところから鞘に戻すまで。戦いの術を知らずとも、この振る舞いを知れば美しく見える。施設の子どもなら、きっとかわいく映るだろう。蒼依はそう考えた。
「最初はゆっくりでいいですよ。すべて流れるようにできれば、とてもカッコイイです」
敵を圧倒するのは、何も力に限ったことではない。魅せる動作もまた、人の心を揺るがす。彼女はそれを伝えたかった。
しばらくすると女の子たちはおもちゃの刀を腰に携えてその辺を歩き、同じ高みを目指す友達に出会うと、まずは一礼をしてからチャンバラに望む。
「お手合わせ願いまーす!」
それを遠くで見ていたシルヴィーナは驚いた。
「わんっ! もうあんなこと言うようになったの?!」
さすがの蒼依も驚いたようで、「飲み込みが早いんですね」と感心しきりだった。
能力者の武器といえば、超機械も外せない。ジュナス・フォリッド(
gc5583)は施設の許可を得て、愛用の機械剣「ウリエル」を子どもたちに見せた。
「剣や刀と違って、普段見られないのはこれかな」
とは言え、見た目は完全にただの筒。子どもたちも「これが武器だ」と言われても、不思議そうな表情をするばかりだった。
そこでジュナスが機械剣を持って子どもたちから離れると、突然にレーザーが射出される。これを見た子どもたちは、すっかり興奮した。
「うわー! 手品みたーい!」
「でも、これは危険なものなんだ。見ててごらん」
ジュナスは落ち葉を拾うと宙に舞わせ、レーザーの刃に触れさせる。その瞬間、落ち葉は赤い炎を帯びて消えてしまった。
「みんなが手にしたこの超機械は、こうやって人を傷つけてしまうこともできちゃう危険な物なんだ。だから君たちを守る時にしか使わないんだよ。わかったかな?」
子どもたちが「はーい!」と返事すると、ジュナスは「だからいつでも武器を振るっちゃいけないんだよ」と諭し、超機械を片付ける。
すると男の子からおもちゃの剣を持たされ、彼もまた子どもたちに混ざって遊んだ。彼は笑顔でそれに応じ、一緒に走り回る。ジュナスは施設にいる間は、ずっとGooDLuckで不測の事態に備えた。
丈一朗やソウマ、護はしばし子どもたちを見守っていたが、男の子の泣き声を聞くとすぐさま動いた。
どうやらブランコから飛んでカッコよく斬撃を繰り出そうとした男の子が、着地に失敗して膝を擦りむいたらしい。護は生身で竜の翼を駆使し、子どもの元へ。ソウマも瞬天速で駆けつけると、すぐさま超機械「グロウ」を魔法の杖のように振るって、男の子に練成治療を施した。
「これが本当の『痛いの痛いの飛んでけ〜!』ですね」
ソウマの力で傷の痛みは消えたが、いつも少年がいるわけではない。そこは丈一朗がちゃんと言って聞かせた。
「本当にカッコイイってのは、力や技が強いというわけじゃない。それじゃ、強い悪者がカッコイイってことになっちまうしな」
「う‥‥うん」
いくら幼いとはいえ、今の状況は理解しているのだろう。子どもは素直に頷いた。
「何かを守るために、守ることを助けるためになら、いつでも戦える。不死身の超人なんかじゃない俺たちでもな」
「守る‥‥?」
丈一朗はそこまで話すと「難しい話になったかな」と微笑み、子どもの頭に手を置く。そして涙を拭くように言い、友達のところへ送り出した。
●お昼とお昼寝と寸劇
よく遊んだ後は、昼食の時間。給食を出されたメンバーの反応はさまざまだが、誰もが笑顔で食べた。
機転の利く子は「嫌いなものを食べてもらおう」と策を巡らすが、そこはソウマがうまく阻止。豪力発現を駆使して、説得力のある言い回しをする。
「なんでも食べる子は、こんな力持ちにもなれるのに‥‥」
小さな体に備わる力を見せられては、もう食べるしかない。子どもたちは弱音を吐かず、苦手な食べ物に立ち向かった。
そんな姿を見た王零は、がんばる子どもたちに自分の思いを聞かせる。
「人が戦うのは、自分にとって大事なものを守ろうとする時だ。その時のために力を蓄えるのも、君たちの仕事さ」
彼の言葉に、丈一朗も頷く。
「そうだな。自分自身のためだけに、命を賭けて戦い続けることはできない」
戦いの一線から身を引いた男の言葉は、今までとはどこか響きが違う。王零は静かに目を閉じ、「そうだな」と短く返事した。
お昼寝の時間は子どもも大人も一緒に横になり、しばしの休息を楽しむ。ここでは火馬莉が、スキルの子守唄を歌って安らかな眠りへと誘った。
部屋は寝息や寝言に包まれた空間になったが、火馬莉はあることに気づいてハッとする。
「しまったであります。これでは、美空が寝れないでありますよ」
子どもたちはおろか、先生や仲間まで寝かしてしまったため、起こす人間がいない。この間、火馬莉はお腹からズレた毛布をせっせとかけて回った。
素敵な目覚めを迎えると、子どもたちは広い場所に移動。そこで能力者たちによる寸劇が始まった。
まずはソウマが、護から借りた竜のきぐるみを着て登場。ダンボールなどで作られた街を乱暴に壊していく。
「俺はドラゴンのキメラだー! 人間の街なんて壊してやるぞー!」
ビルを尻尾で壊す芸の細かさは、子どもの正義心をうまく煽る。そこへ先ほどから活躍する火馬莉が弁士となって、物語を大いに盛り上げた。
「天空より飛来しましたるバグア星人の手先であるキメラを退治せんと乗り出したのは、能力者のシルヴィーナであります。べんべん♪」
おもちゃの剣を持ったシルヴィーナは「わんっ!」とキメラに対すると、子どもたちの声援を背に戦い始める。
彼女は能力者らしい超人的な動きを交えつつ、ソウマのお尻をペンペンする面白さも提供。キメラの痛がり方も手伝い、寸劇の間は笑いが絶えなかった。
こうして「能力者とは何か?」という認識を持ってもらったところで、護は先生たちに「能力者に過ぎた特別扱いをするのは困りますが」と前置きした上で話す。
「この子たちの笑顔のために自分の役割を果たしているという点では、先生も僕も同じ立場だと思います」
そこへ執事服を着たジュナスが「同感です」と言いながらやってきた。トレーにティーカップなどを載せているところを見ると、どうやた先生たちのために紅茶を持ってきたらしい。
「施設にいるみんなが普通に笑っている世界を作るために、ね」
クールな姿のジュナスを見た先生たちは、その雰囲気にすっかり酔ってしまった。彼をカッコイイと見たか、それともカワイイと見たかは人によるが‥‥
●別れの時
最後はおやつの時間を堪能し、いよいよ能力者は子どもたちと別れる。
丈一朗はずっと遠巻きに能力者を品定めするように見ていたお局様の元へ自ら足を運び、素直に礼を述べた。
「ま、これが俺たちのやり方だ。人によって文句があるのも当然だと思う。評価は任せる」
すると彼女はまっすぐに丈一朗を見て、ハッキリとした口調で聞く。
「あなたは能力者でなくなったにも関わらず、なぜここに来たざますか?」
お局様の問いかけに、丈一朗は「ストレートで困ったね」と笑いながら答えた。
「こいつらの活躍を見て、皆がカッコイイと思ってくれることは、俺にとっても嬉しいことだ‥‥俺はそれを身近で感じたかった」
「なるほど。じゃあ、日誌に書いておくざます。黒川丈一朗もまたカッコイイとね。ああ、二度は言わないざますよ」
丈一朗は小さく笑うと、頭を掻きながら「しっかり聞いたぜ」と返事した。どうやら施設にいいものを残せたようだ。丈一朗は胸を撫で下ろす。
火馬莉は独特な口調で人気を得て、別れの時まで真似されていた。彼女は「しばしのお別れであります」と言い、子どもたちに向かって敬礼。彼らも同じポーズで応えた。彼女はその仕草をしっかりと感じ取った。
蒼依はおもちゃの刀を手渡しながら、「何も持ってない相手に攻撃しちゃダメです」と伝えて回る。「侍は正々堂々と戦うからカッコイイんです」というと、子どもたちも「わかった!」と元気に答えた。
その中には「僕も戦う!」と決心を固めた子どもの姿もあったが、黒い狼の幻影と共に立つシルヴィーナが最後のメッセージを伝えた。
「貴様らのことは私たちが守ってやろう。だから、いつか貴様らも誰かを守れるような人間になるんだ‥‥間違っても傷つけるようになってはならないぞ? これは‥‥約束だ」
今までにないカッコよさを放つシルヴィーナの迫力に、わんぱく小僧も「はい!」と元気よく返事する。近くにいた王零とあずさも「よし、約束した」と答えた。
たった半日のふれあいだったが、小さな友情がこの施設に刻まれた。