タイトル:【東京】HeartBeat秋葉Tマスター:村井朋靖

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/06/19 00:01

●オープニング本文



『今まで見てたけど、キミたちの中にも面白い人がいるんだね。なら、こそこそしなくていいよ。一緒に遊ぼ!』
 秋葉原のスクリーンから放たれた挑戦。それが、UPCの動きに対するこの街の支配者からの返礼だった。
 要約すると、彼が用意した戦力とこちらの能力者で勝負‥‥ということか。もっとも少年にとって、勝ち負けは二の次である。
『来ないならいいよ。秋葉原のみんなで遊ぶから。みんなボクの友達だし、倒され役もたくさんいるから』
 僕が楽しむために戦え。そう告げる支配者に対しUPC軍に拒否権はない。これはもはや提案ではなく、人質を持つ者からの命令なのだ。
 一方、レジスタンスや傭兵達の活動により、今の秋葉原を生み出した洗脳装置の場所は、3ヶ所にまで絞られている。できればもう少し情報を集めたかったが、これ以上は厳しいと考えていたのも事実‥‥
 「よし、腹は決まった! エミールの挑戦を受け、同時に洗脳装置破壊作戦を決行する!」
 ならばこの挑戦を、敵の最大戦力であるエミールの気を引く絶好のチャンスと考えよう。
 隙を突いて、洗脳装置を破壊する。
 すぐさま、ULTに依頼として情報がもたらされた。

 ‥‥それは「笑顔にあふれる平和な秋葉原に終わりをもたらすこと」でもある。

 だが。
「私は、皆の心をつかむ作品が作りたい‥‥洗脳によってなどでは、なく」
 今はレジスタンスのひとりであるアニメ製作局の青年が、慌しく走る兵士を見て、静かに呟いていた‥‥


 UPC軍の情報仕官が狙いをつけた3ヶ所のうち、どこに洗脳装置があるのかはわからない。
 候補地のひとつとして挙げられたのは、「ティピーリュース」のキャンペーンで盛り上がるリサイクルショップ街だ。

 こちらには制服姿の青年とオッサンが、傭兵たちの案内役を買って出る。
 青年はカンパネラ学園で『第15特撮研究会本部』に所属するマサキ本部長。黒地の制服に白いラインが入っており、まさに秋葉原にふさわしい服装だ。
 オッサンの方は、彼の後見人である坂神・源次郎(gz0352)である。いつものキメラ刑事スタイルではなく、学生帽までかぶっての登場。正直、かなり浮いている。
「若い人には通じないコスプレで恐縮だなぁ」
 坂神が照れ笑いを浮かべながら頭を掻くと、マサキはすぐに問い返す。
「それは‥‥コスプレだったんですか?」
「俺が中学の頃、『駆け上がれ!石段高校』っていうスポ根アニメがあったんだよ。それの衣装」
 さすがにマサキは知らないが、今まで声を潜めていた情報士官のひとりが「ああ!」と声を上げる。
「ホッ、反応があってよかった。これ、カミさんのお手製なんでね。誰も知らなかったらどうしようかと心配してたんだ」
 このまま懐かしのアニメ談義に突入かと思いきや、坂神は秋葉原の地図が開かれたテーブルへと歩み寄る。
「破壊される以前の地図がそのまんま使えるって、便利だね」
「それだけ特異な街ともいえます。油断できません」
 冷静に状況を受け止めるマサキを見て、坂神は目を細める。やはり若者は成長が著しいようだ。

 ここからしばらく、情報士官から説明が入る。
 洗脳装置の候補地である以上、敵の備えも万全だ。秋葉原はエミールのワンダーランドなので、「ティピーリュース」に関係するキメラなどが登場する可能性もある。
 ここで坂神がうろ覚えで「くず鉄作る子はお仕置き♪」と見るも無残なモノマネを行うも、軍人たちはおろかマサキまでスルー。坂神は「正直、スマンかった」と謝った。

 もし、ここに洗脳装置があるとするなら、エミールがやってくる可能性が非常に高い。
 その時は必然的に「洗脳装置の破壊」と「エミールの撃破」、この両方を達成しなければならない。
「これは大仕事ですね」
 しかし、洗脳装置がなかった場合は、ガラッと話が変わる。
 エミールの出現もなければ、洗脳装置もない。出てくる脅威をひたすらに打ちのめすことが目的となる。
 それでも、最後まで候補に残った場所だ。秋葉原の住人を縛りつける「何か」が、この場所にあるかもしれない。それが生物なのか兵器なのかまではわからない。
「ま、何にもないってことはないだろう。軍人さんやレジスタンスのみんなががんばって調査したんだから、壊せば達成感のある何かはあるだろう」
 これは刑事の勘だろうか。モノマネの自爆から立ち直った坂神は、そう呟いた。
「ということは、強化人間あたりは詰めてるだろうな。秋葉原らしさ全開のやつが」
「おそらく。洗脳装置があれば、エミールまで‥‥相手に不足はありません」
 マサキが帽子を被り直すと、坂神もそれを真似る。
「よし。情報収集は俺が、現地はマサキが担当だ。こっちはいつもと同じ布陣だが、秋葉原な感じで行こうか」
「了解!」
 ふたりはUPC軍と連携して、作戦開始までの時間を最大限に活用せんと動き出した。


「やはり、ここに目をつけたか、人間ども‥‥」
 リサイクルショップ街の地下に潜む機械仕掛けの強化人間は、不敵な笑みを浮かべていた。
 ここには、いわば「失敗作」のキメラが集められる。彼らはここで機械のパーツを埋め込まれ、リサイクルキメラとして生まれ変わるのだ。
 マッドサイエンティスト垂涎の研究施設が、今も「ティピーリュース」を隠れ蓑にして絶賛稼動中である。
「この場は機械の体を手に入れた私が守ってみせる! エミール様の楽園を潰させてなるものか!」
 ボスの決意表明に呼応し、リサイクルキメラも吠えた。

 いよいよ、秋葉原解放戦線もフィナーレを迎えようとしている。

●参加者一覧

緑川 安則(ga0157
20歳・♂・JG
瑞姫・イェーガー(ga9347
23歳・♀・AA
イスル・イェーガー(gb0925
21歳・♂・JG
番場論子(gb4628
28歳・♀・HD
ブロント・アルフォード(gb5351
20歳・♂・PN
月城 紗夜(gb6417
19歳・♀・HD
秋月 愁矢(gc1971
20歳・♂・GD
ヨダカ(gc2990
12歳・♀・ER
ミリハナク(gc4008
24歳・♀・AA
天羽 恵(gc6280
18歳・♀・PN

●リプレイ本文

●本気も本気!
 人々を笑顔にさせる洗脳装置を破壊すべく、能力者たちはリサイクルショップ街に到着した。
 レジスタンスが提供したルートを、坂神・源次郎(gz0352)が案内。現地での行動は、メンバーに任せる。
「よし。みんなが出てから、マサキと洗脳装置を探す」
 制服姿の坂神がそう言うと、露出度の高い衣装に身を包んだミリハナク(gc4008)が「お任せください」と微笑む。
「敵と間違われませんよね、その衣装‥‥」
 彼女の姿を見たマサキは、顔を赤らめながら呟いた。
 それを聞いた秋月 愁矢(gc1971)が「あれは何の衣装です?」と問うと、青い衣装に身を包んだ天羽 恵(gc6280)が「ティピーリュースの敵幹部」と答える。
「私の衣装は、リュースの仲間が着てる。全部観るのは苦労したわ」
 思わず愁矢は驚く。コスプレひとつでこの気合い‥‥負けていられない。
 所属する小隊の隊長で、コンビを組む月城 紗夜(gb6417)は「我らは我らのやり方で行くぞ」と声をかけた。
「じゃ、頼んだぜ」
 坂神の合図で、メンバーはリサイクルショップ街に散った。

 バグア側が敵の侵入を知ったのは、探索を始めた後。初動が遅れた原因は、「コスプレ」である。
 普段からコスプレしてるような場所なので、相手が露骨な敵対行動を示すまでは自由にさせてしまった。ここを守る機械仕掛けの強化人間は、怒りと焦りで心が乱れる。
「むむむ! 排除だ、急げ!」
 リサイクルキメラはもちろん、コスプレ人間兵も総動員。遅れを取り戻そうと必死になる。
「まさか、コスプレするとは‥‥!」
 まさに秋葉原ならではの文言で、ボスは能力者たちを称えた。

「へっくしょん!」
 同じ頃、ブロント・アルフォード(gb5351)はくしゃみを響かせる。彼はすでに装置の探索を開始し、キメラと交戦していた。
「まさか、この姿で戦うとは‥‥」
 サムライのコスプレで挑むブロントは、敵との距離があるうちはライスナーで銃撃。その姿はまるで幕末の激動を生き抜いた男である。
 その後ろには軍用ジャケットを着た緑川 安則(ga0157)がSMGを構え、敵の出方を伺っていた。
「なるほど、リサイクルか。強化システムを組み込むことで交戦能力を上げているか。だが!」
 自らの分析を披露した後、キメラに向かって銃弾をばら撒く。狙いは、敵の接合部だ。
「グゲッ!」
「機械化したとしても、接合部は生身。ここをかばい続けるわけにもいかないっと」
 安則が敵を怯ませた場所は、ブロントの獅子牡丹の間合い。彼は柄になく「成敗!」といってトドメを刺した。
「お見事、あっぱれだね」
「はっ! 俺は今、何を口走ったんだ!」
 アニメ的分析を聞いたからか、すっかり自分を見失ったブロントは大慌てだ。
 そこへ増援が迫る。ブロントには人間兵、安則にはキメラが団体でやってきた。ブロントは閃光手榴弾のピンを抜き、安則はリロードを行う。
「安則、振り向くなよ!」
 ギリギリまで敵を誘き寄せたところで、ブロントは閃光手榴弾を投げ、すかさず自らの視界を遮る。人間兵は、苦悶の声を響かせた。
 安則もキメラに向かって制圧射撃で足止めし、奥から順に攻撃を仕掛ける。ブロントはキメラに接近し、手当たり次第に斬撃を食らわせた。
「メンテナンス確定だな。銃身が焼き付きそうだ」
 ふたりのコンビネーションは、いろいろな面で抜群といえよう。敵戦力はここでも確実に削られた。

●怪盗と着物と騎士
 敵の撃破も重要だが、洗脳装置の捜索もまた重要な任務である。
 プライベートでもコンビであるイスル・イェーガー(gb0925)と瑞姫・イェーガー(ga9347)は、この街を精力的に動き回った。
 前衛の瑞姫は、ありとあらゆる金属を狙う「怪盗シルキーキャット」となって派手な立ち回りを心がける。後衛のイスルはけもみみ付き帽子に学ラン姿だが目立たないようにし、隠密潜行を使いながら任務に挑んだ。
「ふにゃーはっははー。予告状なしに怪盗シルキーキャット参上にゃ♪」
 瑞姫は楽しそうに振る舞い、敵が出れば愛用の武器であるラブルパイルで攻撃する。キュートな姿にゴツい武器という組み合わせに、人間兵は目を丸くした。
「あ、あの貧乳‥‥とんでもない武器を持ってやがる!」
「邪魔にゃ、吹っ飛べ」
 あんまり触れてほしくないことを口走ったせいか、瑞姫は人間兵にも容赦なくパイルバンカーを振りかざした。もちろん命まで取る気はないが、脅すだけなら十分。人間兵は蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。
 それを物陰で見ていた一般人は、よくできたショーに拍手する。
「瑞姫が注目されてるうちに‥‥」
 イスルは隙を突いてショップの中に入り、不自然な点がないかをすばやく確認。こまめに無線機で連絡を取り合った。
「この一角は何もなしか」
 そう言って外に出ると、瑞姫が別の店で真剣にジャンク品を漁っているではないか。
「にゃ! これは‥‥お宝がいっぱいにゃ♪」
「ちょ、ちょっと瑞姫。それは終わってからいくらでも‥‥」
 両手に商品を持ってすっかりご陽気の瑞姫を止めるのは難しい。ここはイスルの腕が試される場面である。彼は先へ進む口実を懸命に考えた。

 探索は別方向からも進められている。紗夜と愁矢のコンビもまた、中央のエリアから捜査を行っていた。
 紗夜は新撰組の羽織を着て、道行く人々に堂々と声をかける。
「新撰組、市中見回りである。不穏当な輩がいれば、すぐに報告するように」
 威風堂々とした彼女に付き従う愁矢は、まるで「剣士マール放浪記」に登場する騎士のようだ。不意にキメラが現れても、すぐさま対応する。
「向かってくるなら、敵だ。躊躇する気はないぜ」
 敵の間合いに入れば、鬼刀「酒呑」を抜いて攻撃。円閃で先手を取り、出鼻を挫く。
 狼藉者は許さんとばかりに、紗夜も蛍火を使って斬りかかった。どうやらすっかりテンションが上がっているらしく、攻撃にもリズムがある。身にまとう金属を真一文字に斬り払い、早々にキメラを討ち取った。
 洗脳された人々は危険が迫るとすばやく建物の中に避難するが、騒ぎが収まるとまた路上に出てくる。
「これが洗脳か‥‥」
 愁矢が率直な感想を述べると、紗夜は「面白くはないな」と短く感想を漏らす。そしてまた、出てきた人間に声をかけた。
「お、貴公はエミールなる者の居所を知っているか?」
「おお、貧乳の美人なサムライ様! これはこれは‥‥ぶげっ!」
 紗夜は洗脳されていると知りつつも、許せない一言を聞いた瞬間に手が出てしまった。
「こいつ‥‥もう一度言ったら、切捨御免だ!」
「やめて、やめてよママぁ〜! イジメないでぇ〜!」
 ノリのいい一般人に翻弄される紗夜を、そっと横目で見守る愁矢であった。

●地下への道
 探索が進むに連れ、秘密の場所がどこにあるか絞れてきた。敵戦力もかなり減っている。
 物陰で情報を聞いて、トコトコとショップを駆け回るのはまだ幼いヨダカ(gc2990)だ。ヴィクトリアンメイドのコスプレに、超機械「ケイティディット」入りのバイオリンケースがよく似合う。
 そんな彼女が店の中に入って「ちょっとのぞかせてもらってよろしいです?」と言うと、店主は心配そうな表情を見せた。
「お嬢ちゃん、誰か付き添いの人はいないの?」
「今はお友達とドロケイ中なんです〜」
 店主は「なるほどね」と納得した。隠れるところ欲しさに来たとわかると、快く店内に招き入れる。
 ヨダカにしてみれば、安易に「どうぞ」と入れてくれるところは「シロ」と踏んだ。しばらく店内を歩き、そそくさと出て、また物陰に隠れて通信‥‥これを繰り返した。
 その時、閃光手榴弾が炸裂するような音が連続で響く。さすがに3回は偶然ではない。少女はすぐさま連絡を取った。
 すると、番場論子(gb4628)から返答があり、「音の聞こえた場所へ急行して」との連絡を受ける。ヨダカは「はい!」と返事し、嬉しそうに駆け出した。

 ヨダカが到着する以前に、近場にいた恵が合流。閃光にやられたコスプレ兵士を、次々と気絶させる。
「これは刀じゃなくて、魔法の糸鋸。そしてこれは鞘じゃなくて、マジカル安全装置!」
 そう言いながら鞘を操り、あごの先を擦って脳を揺らす。
 その間、論子は坂神やマサキの手を借りて、メンバーの集結に尽力した。
「この一角から急に人間兵が現れたの。この近くにアジトがあるはずよ」
 秘密基地が近いということは、同時に敵のボスと遭遇する危険も秘めている。4人は警戒を強めた。
 そこにヨダカとミリハナクが合流するも、ついでに機械仕掛けの強化人間まで現れる。
「ついにここまで来たか、能力者ども!」
 わなわなと身を震わせる強化人間に付き従うかのように、3匹のリサイクルキメラが控えている。
 ヨダカは嬉しそうに超機械を取り出し、戦闘態勢を整えた。
「抵抗しなければ命は取らないのです。だから‥‥ぜひとも抵抗してくださいね」
 満面の笑みから放たれた少女の言葉は、敵の気持ちを乱すには十分すぎた。ボスはすぐさまキメラに「食い散らかせ!」と指示を下し、自らも長斧を構える。
 ミリハナクは敵の出方を確認すると、あえて強化人間ではなくキメラに相対した。
「さっきまでのキメラよりも、骨はあるのかしら?」
 両刃の戦斧を美しく振りかざし、まずは先頭のキメラに強烈な一撃を加える。そこへ恵が、魔法の糸鋸で助太刀に入った。
「燃えるゴミと燃えないゴミに分別しなきゃダメでしょ」
 生態部分は燃えるゴミ、機械部分は燃えないゴミ‥‥恵のセリフの意味を知ったミリハナクは「面白いじゃない」と微笑む。
「でもね、弱い敵に価値はないのよ!」
 その言葉と同時に繰り出した一閃に流し斬りを乗せ、さらに両断剣・絶を発揮し、リサイクルキメラを文字通り一刀両断。無残に爆発四散させる。
「リサイクルなど不要。使えぬモノはジャンクですわ」
 さすがは無慈悲な敵幹部、容赦がない。正義の少女と悪の幹部が並び立つ夢のコラボは、敵の凶暴さを圧倒するインパクトを秘めていた。
「ヨダカも負けてられないのです」
 ヨダカはふたりのヒロインに加え、論子に練成強化を施す。マサキは坂神を守るべく、AU−KVを装着して防御に専念。しばし味方の到着を待つ。

●どっちが怖い?
 2匹となったキメラは論子とミリハナクに狙いを定めるも、攻撃は空を切るばかり。機械のボディが悲しく光る。
 一方の強化人間は、ここぞとばかりに猛攻を仕掛けた。
 まずは手始めに「ティピーリュース」の仲間役である恵を狙い、長斧で攻撃を加える。なんとか刃を避けた恵だったが、最後に持ち手で殴るというトリッキーな技を腹に受け、深いダメージを負った。
「くはっ!」
「はっはっは、小娘! まだまだだな!」
「あなたみたいなのは‥‥リサイクルって、言わないのよ?」
 恵は負けじと言い返す。
「3つのRは地球のために。くず鉄だって資源ですっ! 悪用することは許さない!」
「エミール様の理想は私が守る! たとえスクラップと呼ばれようとも!」
 強化人間が忠誠を叫んだその時、肩口に銃弾がめり込む。狙撃眼と強弾撃の効果を帯びた強力な一撃は、安則が放ったものだ。
「いいや、お前みたいな奴は分別してやるさ。肉片と鉄くずに」
 ようやくメンバーがやってきたらしい。坂神はホッと胸を撫で下ろした。
 安則がそう言い切るや否や、ブロントが迅雷で強化人間に接近。
「そこだ!」
 そのまま刹那を駆使しての攻撃を連続で繰り出し、敵を圧倒する。

 そこへイスルと瑞姫、紗夜と愁矢も到着し、ついにメンバーが勢揃いした。
 イスルは部位狙いで強化人間の武器を狙うが、敵にうまく回避されてしまう。彼はすぐさま頭を切り替え、瑞姫とブロントに援護射撃の効果を与えた。
 それを見た紗夜は練成弱体を仕掛け、ボスの防御力を落とす。愁矢は恵の前で渾身防御を発動。鉄壁のガードで彼女を守る。
「ヨダカ、歌いますよー」
 少女は手前のキメラに向かってほしくずの唄を歌い、うまく混乱させた。そこへ瑞姫とミリハナクの攻撃が炸裂する。
「スクラップにすると言ったはずですわ!」
 乙女の毒牙にかかったキメラは瞬殺され、残すは1匹。恵は気丈に立ち上がり、強化人間に攻撃。お返しの一撃を食らわせる。
 しかし強化人間は、あえて虎口へと向かう。キメラを恵に向けさせ、自らは瑞姫を狙った。
 恵はキメラの攻撃を避けると、再び愁矢が渾身防御を発動。こうなってしまうと、もはやキメラはブロントや安則たちの餌食になるしかない。この時点でキメラの運命は終わった。
 だが、強化人間は別だ。形勢を逆転できずとも、能力者を撤退させられるかもしれない。彼は一縷の望みを武器に乗せて戦った。
「目障りな猫だ!」
 ボスは長斧を自在に振り回して、一度だけ攻撃を命中させるが‥‥これがいけなかった。覚醒した瑞姫はコスプレによって残忍さが影を潜めていたのに、ダメージがきっかけでスイッチが入ってしまったのである。
「喰らえ、パイルアッパー」
 強化人間を指差して叫んだ瑞姫に、紗夜はすかさず練成超強化を施す。そして怪盗シルキーキャットは、カウンター気味に天地撃を乗せたラブルパイルをヒットさせた。
「のぐああぁぁぁーーー!」
 派手な爆破音と同時に宙を舞う強化人間のめくるめくスクラップストーリーが開幕する。
 彼が地面に叩きつけられると、ミリハナクや論子、紗夜やヨダカといった女性陣が待っていた。
「覚悟はよろしくて?」
「ちょっとはしゃぎ過ぎたみたいね、強化人間さん?」
「神風日本、まだ侍の血は途絶えたわけではない!」
「戦場で会ったなら、やることはひとつなのですよ?」
 この後、強化人間は絶叫とともに爆発した。何に恐怖したのかは、あえて伏せておく。プライバシーに関わることなので。

●増幅装置、発見!
 強化人間がさかんに防衛を口にしたところから、安則や論子は「ここにエミールは来ない」と早い段階で察知していた。
 主なき秘密基地を懸命に捜索すると、何やら難しそうな機械が並んでいる部屋を発見。捕らえた兵士によれば、なんでも「洗脳を安定させる装置」であるという。
 ミリハナクがゲヘナで壊す素振りを見せると、兵士は大いに慌てた。坂神は「壊せばいいってことね」と言うと、安則と愁矢は銃を使って破壊する。
「キメラや強化人間よりも先に、これが鉄くずになるべきだったな」
 安則は鉄くずと化した装置を見つめながら、素直な感想を口にする。愁矢は「そうですね」と同意した。

 ヨダカは地上で傷ついた瑞姫や恵、ブロントに練成治療を施す。
「痛いの痛いの、飛んでいけーなのです」
 この少女に言われたら、痛みも飛んでいかざるを得ない。そう思うのは、ブロントをはじめとする男性陣の率直な感想だ。もちろん言えるはずもないが。

 こうして、リサイクルショップ街の制圧は達成された。秋葉原の支配者であるエミールは、いったいどこに現れたのだろうか。