●リプレイ本文
●待ち伏せの場所
山梨県上野原市は、たくさんの自然が残るのどかな場所だ。
オンロード仕様のアルケニーを待ち伏せするのに、これほど適した地形はない。杉森・あずさ(gz0330)もご希望の場所を探すのに苦労しなかった。
彼女はUNKNOWN(
ga4276)の運転するジーザリオの助手席に座って目的地までのナビを行う。
運転手は煙草を吸いながら、新妻の悩みを聞いていた。
「なろほど、いつも料理の外見が悪くなる、か。それはいろいろと気にして、食材を触ってしまうからだね」
図星だ。あずさは思わず息を飲む。
「心配ないよ。目的地に着くまで、私が手ほどきしよう」
「そ、そうだね。UNKNOWNさんは腕の立つシェフだし!」
空元気で笑うあずさに「大丈夫だよ」と微笑み、紫煙の紳士は基本的な調理方法から道端に生えてる良質な食材まで幅広く紹介する。
後部座席にいたケイ・リヒャルト(
ga0598)とジン・レイカー(
gb5813)は、その話を聞くとお互いに顔を見合わせた。
「あずさは本気で聞いてないわよね? この話、ほとんどウソなんだけど」
ジンは「たぶん信じてますね‥‥」と分析すると、バイクで並走していた緋沼 京夜(
ga6138)がケイに話しかけた。
「今のうちにあずさの手料理を食わずに済む理由を考えた方がよさそうだぜ。やり場のない憎悪を抱え込むのはゴメンだからな」
仲間の無念は晴らすがな‥‥京夜は不敵な笑みを見せた。
メンバーが戦場に定めた場所に到着する頃には、あずさはやる気満々。ジンは「その意気でね」と声をかけ、待ち伏せの準備を始める。
彼らが選んだ場所は、木が生い茂る森の中だ。
今日も元気なドクター・ウェスト(
ga0241)は、ジーザリオをバリケード代わりに使う準備をする。
「今回は『ニャフニャフ』を連れてきてないから、壊されてしまってもいいね〜」
同乗していた夢守 ルキア(
gb9436)が「それってデューク君のヌイグルミ?」と聞くと、ドクターは「そうだよ」と返事した。
「じゃあ、私も準備しないとね」
ルキアは見渡しのよさそうな場所を探し、その近くにある木にささっと登る。すると前方の木の上に、UNKNOWNが陣取っていた。
「あ、UNセンセ〜」
「ま、木の上はお約束だね」
紳士は少女に微笑み返すと、縄を枝に括りつける作業を開始する。そんな彼の眼下には、終夜・無月(
ga3084)と赤月 腕(
gc2839)が周囲の警戒をしていた。
「東京解放の一助を‥‥」
無月が静かに呟くと、ルキアも「みかがみ君もがんばって〜」と応援する。
腕は不思議そうな表情こそ一瞬だけ浮かべるが、すぐにいつもの表情に戻った。
●蜘蛛と人間
待ち伏せ班の準備が整ったところで、陽動班の3人がバイクに乗って登場する。
京夜は自前のバイク、神棟星嵐(
gc1022)はアスタロト、そして秦本 新(
gc3832)はミカエルだ。
「ここで奴らを退ける‥‥!」
ドラグーンにとって、アルケニーという存在は「気に入らない」の一言に尽きる。少なくとも、星嵐と新はそう思っていた。
さらに敵は好戦的と噂される榊原アサキ(gz0411)だ。遠慮はいらない。作戦こそ緻密に計算されているが、序盤から熱を帯びた戦いになると予想された。
「それでは行きましょうか」
星嵐の一声で、3台のバイクは発進。UPC軍より提供される情報を頼りに、接近しているアーバングレー隊の発見を目指した。
待ち伏せの森を抜け、男たちは郊外に出る。そこには組織的な戦術をこなすUG隊の姿があった。
その手前には足の速いチーター型キメラが多数おり、奥には少女の姿が見える。さっそく京夜は笑いながら中指を立て、存分に敵を挑発した。
「そんな大仰なバイク持ってんならよ、レースを楽しもうぜ」
逃げ惑う人間たちに比べれば、傭兵は強敵。UG隊はすぐさまバイク形態に戻し、京夜たちの前に立つ。
「やっぱり来たわね。能力者相手に撃つのは初めてだから、手加減できなかったらごめんね」
後ろに控えるアサキが嬉しそうに語ると、近くに立ったふたりに声をかける。どうやら彼らが、UG隊の隊長らしい。新は注意深く、動作を観察した。
その後、アサキの前を守る隊と京夜の挑発に応じる隊のふたつに分かれた。隊長を含めると6人ずつ。どうやら1小隊は、6人で構成されているらしい。
「なるほど。これは戦わずして収穫ですね」
新はそう言いながら、さらに観察を続ける。アルケニーには槍を装着したタイプとライフルを装着したタイプが存在し、性能にも差があるように見て取れた。
特にライフルを備えた方はアサキの前で変形し、UG兵が小型プロトン砲を発射せんと構える。
しかし、すでに移動を始めた京夜を狙うのは難しい。キメラも動き出しているので、撃ったところで威嚇だろう‥‥と、誰もが思った。
「発射っ!」
兵士が短く叫んだのを聞き、京夜は予定通り回避に専念する。
この欲のなさが、救いとなった。赤い光線は京夜の右を通り過ぎてもまだ、その威力を保ったまま飛んでいる。
「おいおい。まさに死のドライブだな!」
遠距離の敵を仕留めるタイプもあることを知り、星嵐と新も動き出す。ここは陽動に徹しなければ、敵の組織的な動きは崩せない。
「見た目からしてバグアのセンスを疑ってしまいますね。そのようなバイクなど、修理パーツとして再利用してあげます」
そう言いながらも背中を見せる星嵐に向かって、小隊長は追撃の指示を出す。新も同じく小銃を構え、その場から離れた。
味方の待つ森までは目と鼻の先。しかし移動しながら戦うのは、相手にも有利である。
特にバイクがAU−KVではない京夜は、集中的に狙われた。それを最初から計算に入れた上で、逃げの一手をしているのだが、さすがに無傷では済まない。
ライフルを備えたアルケニーから放たれる赤い光は、容赦なく彼を襲う。どうやらライフルに至るまで、プロトン砲らしい。
だが、京夜も積極的に反撃を行う。必中の番天印にペイント弾を装填し、それをUG兵の顔に向かって当てた。前を行くバイクが急停車すれば、後ろも止まらざるを得ない。
またドラグーンのふたりが脇に逸れれば、今度は照明弾を使って視覚を潰す。こうすることで、だんだんとイライラが募ってくるという寸法だ。また最後尾にいるアサキとの距離も詰まっていく。
「連中の翻弄は任せろ!」
「わかりました! 自分たちは厄介そうなキメラから先に始末を!」
星嵐は機械巻物「雷遁」を使って、チーターの排除を積極的に行う。距離が届けば新と同じ敵を狙うが、あまり近づくとまた長距離砲が飛んでくるので無理はしない。
新もまた小銃を構えて撃つも、特定の敵を狙わずに当てるだけに留めた。この移動中、キメラを1匹だけ始末した。
遠くから響くバイクの音を聞き、UNKNOWNは覚醒して探査の眼を発動。光の反射を注意しながら、双眼鏡で状況を確認する。
「ひのふの‥‥結構、多いね」
新と同じように観察を行い、敵の特徴などを待ち伏せ班に伝える。ケイとルキアは情報を得た時点で、隠密潜行を使った。
そのうち、紳士の下を敵味方入り混じって通過しようとする。彼は後続の小隊が通った瞬間にDリングを使い、すばやく地面へと降下した。
「ま、ここで通行止め、と」
最後尾のUG兵ふたりがバックミラーで能力者の出現に気づいたが、時すでに遅し。
「生身にプロトン砲は危険だろう」
そう言いながら、UNKNOWNは手にしたエネルギーキャノンを斉射。もう、誰が来ようとお構いなし。退路を絶たれて焦るUG兵にダメージを与えていく。
その間、京夜が森の中でバイクを降り、歩いて通過した道に取って返す。そして豪力発現を駆使して、ライガークローで木々を倒した。
「お楽しみはここからだぜ」
京夜の言葉どおり、ここから本当の戦いが始まる。
●乱戦模様
アサキは自分が罠にかかったことは知っている。彼女はUG隊の底力を見極めるべく、あえて窮地に踏み入ったのだ。
「小隊長、お好きになさい!」
ゲストの信頼に応えるべく、小隊長は隊員に指示を出し、懸命に動かす。
しかしこの時すでに、隊員はUNKNOWNと交戦中。彼らは編成を立て直しつつ、必死の抵抗を見せる。
ドクターはいつもの名乗りをする前に、自分と京夜以外のメンバーに練成強化を施す。そして「けっひゃっひゃっ!」の笑い声で始まる、おなじみの自己紹介をUG隊にして見せた。
隊員やキメラがあっけに取られている隙を突き、ケイは木の上からガトリング砲でキメラの足を丁寧に狙っていく。そして倒せると思えば、影撃ちを駆使して一気に命を狩った。
「おとなしくしててね、仔猫ちゃん?」
さらに孤立しがちなUG兵には二連射と影撃ちを駆使した攻撃で対応。どうやら彼女にとって、すべての敵が仔猫であるらしい。
どこか気品を感じさせる妖艶な声が響いたかと思えば、音もなく敵を倒していく男たちもいる。
腕はライフルで隊員を攻撃。徹底して腕や太腿を狙い、隙あらば頭を撃ち抜かんとする。接近を許せば宵闇に持ち替えて、派手な立ち回りで攻撃した。
その隙間を縫うかのように、無月が瞬天速で敵に接近。刹那による一撃を交えつつ、明鏡止水を体の一部のように操り、長短入り混じりの太刀筋で敵を圧倒する。今回は森での戦闘ということで、多角的で立体的な攻めも存分に見せた。
敵の抵抗も激しく、腕はプロトンライフルによる反撃を受けながらの戦いとなったが、最後は抜刀・瞬でライフルに持ち替え、隊員の頭を必殺の弾丸で頭を撃ち抜く。
力なく倒れる隊員の小さく短い叫びを聞き、腕は呟いた。
「覚悟はできていただろ、戦場にいるってことはそういうことだ」
それに異論を挟む者は、誰もいない。そう、それは敵であるアサキさえも。
ルキアはバラキエルに貫通弾を装填し、小隊長のひとりに攻撃を仕掛ける。そして迅雷を使って地面に降り、エネルギーガンで集団を撹乱する戦法に出た。
それに同調する形であずさも動き、ふたりで手近なところにいたキメラを退治していく。陽動を担当した星嵐はAU−KVを装着。続けてチーターの退治に動く。
同じく新もミカエルを装着し、ルキアが狙わなかった小隊長に向かって竜の爪を付与した一撃を小銃で狙った。
「まずは、敵の連携を切る‥‥!」
この場に安全な場所などないことを知らしめると、今度は竜の翼を使って隊員の目の前へ突っ込む。そして竜の咆哮を付与した槍の一撃を食らわせた。
敵が自分の足元に転がってきたのを見て、ジンは思わず「ひはっ」と喜びの声を上げる。太刀を突き立てると、敵は慌てて立ち上がり、戦闘態勢を取った。そこへジンは側面から横薙ぎで攻撃を仕掛ける。
「ひはっ、避けれるかな?」
隊員はかろうじてこれを避けたが、実は避けること自体が罠である。ジンはそれに合わせて強烈な斬撃を食らわせた!
「ぐはあっ!」
「ひははっ、そりゃ残念だね」
その間、別の敵からプロトンライフルで狙われても決して慌てない。すぐさまソニックブームを放って牽制し、活性化を使ってすばやく回復した。
「ひはっ、いくら武装が強力でも、変形できなければただのバイク‥‥違うか?」
牽制だけを受ける小隊長とは違い、隊員たちは常に能力者の攻撃に晒されている。仮に変形できたとしても、今は肝心のプロトン砲が撃てない状況なのだ。
それでも敵は訓練を受けた兵士。チーター型キメラとは違い、ただでは死なない。
長距離砲を備えるタイプと通常のタイプにはプロトンライフルが装備されているため、変形せずとも反撃が可能だ。また先陣を切る役目を担う近距離型には槍があり、これを手に持って戦うことができる。
戦闘は長期戦の様相を呈した。
●アサキの逃亡
キメラを全滅させた頃には、UG兵も1小隊を維持できないくらいになっていた。
ドクターは二度の電波増強でキメラを容赦なく駆逐する一方で、傷を負った仲間に練成治療を手厚く施す。終夜やUNKNOWN、ルキアといった面々も同様に練成治療を使い、常に万全の状態で戦闘を継続させる。
腕が再び抜刀・瞬を駆使した銃撃で隊員の命を奪うと、小隊長のふたりはアサキにあることを耳打ちをした。
彼女はそれに頷きもせず、標準装備の槍を手にすると、猛然とバイクを走らせる。
「死にたいのは誰かしら‥‥?」
自分に向かってくると察知した星嵐は竜の鱗で防御を固め、この攻撃を耐えんとする。
ところが、アサキが彼の横をすり抜けようとしていることに気づくと攻勢に出た。竜の翼で一気に間合いを詰めると、竜の角で知覚を強化してサザンクロスで一閃する!
「その隙、見逃しません!」
「甘いわよ!」
アサキは渾身の一撃を避け、目標に向かって突っ走る。この時すでに、ケイは彼女の狙いがわかっていた。
「貴女のお相手はこっちよ。一緒にダンスを踊りましょ?」
銃に貫通弾を装填し、影撃ちを乗せてタイヤを攻撃するも、パンクには至らず。その後ろからは、UNKNOWNが瞬天速を何度も駆使しつつ追いかけた。
「逃げるな〜。バイクを、渡せ〜」
「別にあたしのじゃなくていいでしょ? これはあげないわ。小隊長のにしときなさいよ」
そう、アサキは誰と戦うわけではない。ただ逃げただけなのだ。それを証拠に、残ったUG隊の面々が最後の抵抗とばかりに暴れている。
戦場に戻った京夜はすでに小隊長に対応。猛撃を使い、すべての攻撃に豪破斬撃を付与して一気に片をつける。
「憎悪解放だぜ」
獣のごとく爪を振るいつつも、たまに頭へのフェイントを織り交ぜるなど効果的な攻めを披露。ここに無月が助太刀に入れば、もはや負ける要素なし。小隊長のひとりは散った。
もうひとりも竜の翼を使った新に接近を許し、そのまま竜の咆哮を帯びた槍の一撃で京夜たちの元へ誘われる。このタイミングで、ルキアが「きみたちの半数以上殺したから、もう帰ってくれる?」と交渉。傷だらけの小隊長は隊員2名を見ると、恥を忍んで要求を受け入れ、この場を立ち去る。
本来ならば未知との遭遇であったはずのUG隊との戦闘は、結果的には榊原アサキを退けた上、すべてのキメラの撃破し、さらにはUG隊を1小隊以上を壊滅させるという最高の形で終わった。
かなり派手な戦闘だったが、なんとか状態のいいアルケニーを発見し、UNKNOWNは満足そうに微笑む。同じ研究者のドクターも気高く笑った。
「けっひゃっひゃっ! これでプロトン砲の謎に近づける!」
「うーん、肝心のプロトンエネルギーを生成する部分だが‥‥どうやら時限装置で破壊されているようだね」
それを聞いたドクターは、あまりのショックで口から魂が抜けた。ケイは「あらあら」と笑うと、星嵐や新たちも下を向いて笑いを堪える。
東京への道を阻む蜘蛛の軍団に関する状況を手土産に、彼らは帰路についた。