タイトル:【東京】横須賀基地襲撃マスター:村井朋靖

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/04/27 16:53

●オープニング本文


 UPC軍が小牧基地を出発し、バグア軍・横浜前線基地を目指して動き出した。
 その報はすぐさま、長く東京に滞在している「ゼオン・ジハイドの14」こと、ミスターSにも伝わる。
「ふぅ〜ん、なるほど。あちらさんは数年来の悲願を達成しようって腹なのかな?」
 彼の飄々とした態度や仕草は、不思議と余裕を感じさせる。それを見た兵士は興奮を胸の奥にしまい、きわめて冷静に対応した。そしてハッキリとした口調で「いかがいたしますか?」と指示を仰ぐ。
「わざわざ名古屋から出てくるんだから、すぐに帰るとも思えないね。狙いは東京かな? とにかく前線基地である横浜は厳戒態勢だ。準備を急がせて」
 兵士は「了解しました、ミスター!」と敬礼すると、ミスターSは照れくさそうに微笑む。彼はすべての部下に「ミスター」と呼ばせており、本人もこの音の響きが気に入っていた。
 彼は通信に戻ろうとする兵士を呼び止め、慌てて指示を付け足す。
「ああ、横浜基地の幹部には無理しなくてもいいって伝えといて。危なくなったら、東京に撤退していいから」
 ミスターは兵士が立ち去るのを見送りつつ、ポケットから大きめのダイスを取り出し、それを手の上で何度も転がす。
「まだ早いでしょ、盛り上がるにはさ。横浜はジャブでいいよ‥‥」
 彼は不敵な笑みを浮かべながら、まずはUPC軍の出方を窺うことにした。

 一方、UPC軍の指揮を行う椿・治三郎(gz0196)中将は、横浜基地占領に参加する傭兵たちを集め、直々に作戦の内容を伝える。
「今回の作戦は、いわば奇襲だ。UPC軍が囮となり、諸君らが先手を打つ。それぞれが連携して動き、各基地の占領ならびに横浜本営の機能停止を目指す」
 椿は暗くなった部屋に映し出された地図を指しながら、作戦の概要をじっくりと説明した。
 厚木基地へはKVで空から、横須賀基地へは同じく陸から攻め、戦力を二分化させる。さらに浦賀水道に面する基地にも水中兵力で襲撃。混乱が最高潮に達したところで横浜本営になだれ込み、指揮系統を無力化する‥‥というのが今回の作戦だ。
「詳しい説明は担当の者に任せる。東京解放の第一歩だ、抜かりなく頼むぞ」
 椿がそういうと、兵士の間から自然と「おおー!」と雄叫びが上がった。

 横須賀基地への襲撃は、厚木基地と連動する形で行われる。こちらは近隣に降下したKVを使って陸戦を仕掛け、厚木の戦力を誘き寄せる。
 目標は基地の司令官の撃破。その後も東京への撤退を促すように容赦なく攻め立てる。後続のUPC部隊が存在する為、退路確保は気にしなくて良い。
 ここで作戦の説明を行う兵士が顔を上げ、改めて注意を促した。
「もし司令官の撃破に手間取れば、厚木だけでなく浦賀からもバグアの援軍が押し寄せる可能性がある。その辺も意識してすばやく対応してくれ」
 口では簡単に言ってくれるが、状況はかなり厳しい。
 仮にも前線基地だから、兵力は整っているはずだ。さらにUPC軍の目的は「占領した基地の転用」なので、基地周辺の建物に気を遣いながらの戦闘を強要される。戦略的にも一工夫が必要となる、非常に難しい作戦だ。
「ここまでは私から説明させてもらった。もし何か質問があれば、杉森・あずさ(gz0330)さんを介して伝えてくれ」
 ありったけの無茶を言うだけ言って、てめぇは退散かよ‥‥周囲に乾いた空気が漂い始めた。
 そこであずさは機転を利かし、わざとらしく兵士を引き止めると「よろしく頼むよ」と手を差し出す。お互いに握手して、友好ムードを演出しようというのだ。兵士もそれを察して、笑顔で応じる。
 ところが‥‥
「ああ、よろしく頼‥‥痛てて! 痛い痛い! あいたたた!!」
「すっごく頼りにしてるよ、兵士さん!!」
 あずさはぎこちない笑顔を浮かべながら手に力を入れ、しばらく離そうとはしない。その様子を見た傭兵はおろか、兵士たちも笑顔を見せた。

 東京解放作戦の緒戦である「横浜基地占領」の火蓋は、今まさに切って落とされようとしている。

●参加者一覧

榊 兵衛(ga0388
31歳・♂・PN
月影・透夜(ga1806
22歳・♂・AA
UNKNOWN(ga4276
35歳・♂・ER
緑川安則(ga4773
27歳・♂・BM
ファルル・キーリア(ga4815
20歳・♀・JG
ルノア・アラバスター(gb5133
14歳・♀・JG
エイラ・リトヴァク(gb9458
16歳・♀・ER
セツナ・オオトリ(gb9539
10歳・♂・SF
アンナ・キンダーハイム(gc1170
22歳・♀・SF
ハーモニー(gc3384
17歳・♀・ER

●リプレイ本文

●着陸直後
 小型機による着陸が完了した傭兵たちは、改めて横須賀基地を見渡す。
 東京解放作戦を成功させるべく、緒戦を勝利で飾りたいとは誰もが考えるところだ。そんな中、横須賀と縁のあるファルル・キーリア(ga4815)はコクピットの中で小さく呟く。
「やっと、戻ってこられたわ」
 すっかりバグアの前線基地として改造された横須賀は、ファルルの記憶とは違う世界になっていた。それを嘲笑うかのように、無数のキメラを伴ってゴーレムが2機並んで出現する。空中戦力のほとんどは、厚木へと向かったようだ。
「基地を背にして散開、か。多少の困難があるね」
 艶消漆黒のK−111改に乗るUNKNOWN(ga4276)はそう分析するが、グロームに乗るセツナ・オオトリ(gb9539)は「かなりの戦力ですね」と警戒を口にする。
 そんなわずかな緊張感を察したからか、榊 兵衛(ga0388)は愛機・忠勝の中で軽く微笑むと、凛とした声で言い放った。
「ふっ、メンバーも申し分ない。腕が鳴るな」
 その言葉に呼応し、ゼカリア改に搭乗の緑川安則(ga4773)も、覚醒前ながら熱の入った返事をする。
「砲戦なら、この雷火龍・紅蓮の出番となるでしょう。同じく、腕が鳴ります」
 仲間を鼓舞を受け、セツナの気持ちも徐々に高まっていく。彼はシュヴァルツェア・オージェとともに戦い抜くことを、心に誓った。

●交戦開始
 正面の敵が迎撃に備える形を整える頃、ゴーレムとRex−Canon2匹のセットが両脇から現れた。
 敵が無策なら作戦通りの展開に持ち込めると、エイラ・リトヴァク(gb9458)はヘルヘイムの中で笑う。そして一言だけ「行くぞ!」と言い、高速二輪モードを駆使してキメラの群れへ突進。そのままヘヴィハルバードを振り回し、派手に戦闘開始を演出する。エイラに続き、鎧武者の忠勝が正面に居座るキメラたちに向かって、ファランクス・アテナイで攻撃。圧倒的な連射で獣を怯ませた。
 UNKNOWNは古武術に似た歩みで動き、流水のごとく鮮やかに動く。そしてその様を見せつけるべく、恐竜にエニセイを発射。爆炎に包まれる緑色の肌をコクピットで見ながら、ダンディーな紳士は優雅に紫煙を漂わせる。
 龍の鱗に包まれた安則は、右翼に向かって照準を合わせた。
「主砲! 弾種、対空榴弾装填よし! 発射!」
 この後の作戦を有利に進めるべく、まずは立ち位置を確保する。2発の対空榴弾は飢えた獣たちを焦がし、指揮官にも一定の脅威を与えた。
 なんとか生き延びたキメラも、ファルルのTypeFがスラスターライフルによって仲間の後を追わされる。α班は有利なフィールドを作り、そこで戦闘を展開させていった。

 左翼に陣取るβ班も負けてはいられない。
 ディアブロ「月洸 弐型」に乗る月影・透夜(ga1806)は、建物被害を最小限に食い止めながらの難しい戦いであることを考慮に入れ、敵味方の位置を把握しつつ戦うよう心がけた。
「周辺はともかく、中核部への被害は減らさないとな」
 横須賀基地を注文通りに手渡すべく、まずは堅実にキメラをスラスターライフルで蹴散らす。
 真紅のKVが一気に迫り、敵を賑わせたかと思うと、今度はメタルレッドが眩しいルノア・アラバスター(gb5133)の愛機・Rote Empressが登場。半身で盾を構え、投影面積を減少させた上で、手の届かぬ場所にいると思い込んでいる正面のゴーレムに対し、スラスターライフルで牽制の一撃を放つ。
「そこは安全じゃない、かな‥‥」
 安全じゃないのは、ルノアが放った一撃も同じ。これを被弾したゴーレムの操縦者は、きっと顔面蒼白になっているはずだ。
 にわかに左翼の敵も浮き足立つ頃、セツナは長距離バルカンを駆使して迫る恐竜に向けて放つ。こちらを向くとは思っていなかっただけに、後ろから迫るゴーレムも思わず立ち止まった。
「ボクは微力だけど、あまり侮らないでください!」
 熱っぽく語るセツナとは対照的に、ここまで沈黙を貫くペインブラッドがいる。アンナ・キンダーハイム(gc1170)搭乗のNinaがそれだ。彼女は僚機を物理に強くしていると予測し、初手は横から迫るゴーレムに対し、レーザーライフルで応戦。一筋の光が命中すると同時に、堅固な装甲を穿つ。
「‥‥‥‥‥‥‥」
 アンナは何も語らないが、戦いに注ぐ気持ちは動きを見ればちゃんと伝わる。もう一台のゼカリア改「調和」に乗るハーモニー(gc3384)は、しっかりとそれを見ていた。
「私には少し荷が重い依頼ですが、全力で楽しむとしましょう」
 そんな彼女が目指すのは「味方を生かす攻撃的な後衛」である。まだ左翼中央に味方がいないので、安則と同じく対空榴弾をキメラのど真ん中に叩き込む。
「作戦の性質上、いつまでもキメラに執着するつもりはありません。ですが‥‥無数に存在するなら、いずれ障害になりますから」
 自分なりの楽しみ方を見出しつつ、味方に有利な戦局を演出する。彼女は通信を密に行い、その役目を懸命に担った。

●隊長機の撃破、そして援軍
 戦闘は作戦通りに進む。α班とβ班が左右に分かれての同時攻撃は、早い段階で功を奏した。
 正面に立つゴーレムはキメラを率いていたことから、全体の指揮を担っていると判断。速攻で落とすべく、両班が尽力する。
 右翼はエイラが積極的にレッグドリルで攻め立て、脚部を中心に掘削。そこへ槍の兵衛が忠勝に機槍「千鳥十文字」を持たせ、弱った部位を的確に貫く。
「はあっ!」
 和槍を引き抜いて飛び退くと、エイラがヘビィハルバードを振りかざして突撃。すっかり動きが鈍った敵を、問答無用で叩き伏せる。
「α班、前方のゴーレムを撃破!」
「了解、俺も負けてられないな。一気に飛び込む。逸れたところを狙ってくれ」
 左翼の透夜は、近くにいたルノアに援護を求めた。
「はい、了解です‥‥」
 その言葉を聞くと、透夜は再びブーストで突撃を敢行。そのタイミングで、Rote Empressがスラスターライフルで牽制を行う。
 そこへ機刀「建御雷」を手にした月洸 弐型が立ち塞がった。
「その首、貰う!」
 スタイリッシュな太刀筋は撃破に十分すぎたが、彼の狙いはそれではない。文字通りの「奥の手」を使って、トドメを狙った。
「行け、零式!」
 恐るべき切れ味の手刀が繰り出された瞬間、もうそこにはゴーレムの頭はなかった。それは今、透夜の手の内にある。
 この時点で勝負あり。最後はハーモニーがツングースカを命中させ、ゴーレムを爆破した。

 敵にとってキメラへの指示が滞るのは、頭の痛い問題である。そこで基地内にある格納庫の扉が開き、また新手が出現した。
 セツナはスコープシステムを駆使しての索敵やIRSTを使用しての熱源感知を行っており、この敵の動きには即座に対応。周囲へ警戒を促す。
「あ、新手が来ます!」
 それと同時に、ほぼ正面からゴーレムが1機、恐竜が4匹。さらに有人機らしきタートルワームが10匹も現れた。さすがは前線基地、続々と主力を投入してくる。
 ゴーレムは左翼のβ班寄りに陣取るが、大きくは前進せず。恐竜と亀は均等に分かれ、ゆっくりと進軍を開始した。
「さて、少しビートを上げるか」
 それを見たUNKNOWNは敵を翻弄する動きよりも、攻撃の比重をわずかに高めた。そして横から迫る恐竜どもに、エニセイを発射。これであっさりと1匹を仕留めてしまう。
 生き残った方が怯むのを見て、ファルルもブレス・ノウを発動させたスラスターライフルを放ち、続けざまに恐竜を倒した。
 一方の安則は、新手が破壊されたゴーレムの付近まで接近したのを確認し、今度は大口径滑腔砲に徹甲散弾を装填する。
「まだまだ、これからだ! 防ぎ切れぬ弾雨を受けるがいい!」
 無傷の恐竜と亀たちに牙を剥く弾の嵐は、バグア側の士気向上を打ち消すほどの威力が秘められていた。

 β班のアンナはひとつ頷くと、愛機を猛然と進ませる。機盾で砲撃を防ぎながら、自分はレーザーライフルで応戦。すぐさま敵に肉薄した。
 アンナの意図を読み取ったルノア、そして透夜もそれに続き、左翼の最前線では近接武器による激しい戦闘を繰り広げる。
「接近すれば、砲台も無力です‥‥」
 今回の依頼には、基地機能の保持も含まれている。やたらと砲撃をされると、基地に不要な被害を与えるかもしれない。そう判断したβ班の面々は、ここで接近戦に切り替えたのだ。砲台を無力化することで、戦闘の長期化に比例して高まる危険を排除しようと動く。
 だが、サイドからは恐竜が迫る。そこでハーモニーとセツナは連携し、全力でこれを防いだ。
「ハーモニーさん! この向きでの砲撃なら、施設に影響はありませんっ!」
 必死に長距離バルカンを撃ちながら、側面の脅威を足止めするセツナに応えるべく、ハーモニーは大口径滑腔砲に徹甲散弾を装填。敵をまとめて料理すべく、砲撃を開始する。
「ここは行かせませんから」
 前衛に立つメンバーが攻撃していたこともあり、ふたりの攻撃は「ゴーレムならびに恐竜2匹の撃破」という最高の結果を生み出した。
 挟撃の不安がなくなり、さらに増援のゴーレムにも手を伸ばせる状況を作ったことは大きい。どちらの班も負けず劣らずの活躍を続けた。

●タロスの出現
 戦闘開始から20分が経過したが、依然として傭兵が有利である。
 α班は十分な戦力を駆使し、徹底して敵機の撃墜を目指したのに対し、β班は恐竜や亀の砲台を無力化したり、有人機のコクピットを狙っての攻撃を試みた。その結果、兵力の上では優位にあったバグア軍を、ついには劣勢へと追い込んだのである。
 そしてついに、彼らは横須賀基地から指揮官が乗っているであろうタロスを出現させた。
「いよいよお出ましかな?」
 新しい煙草に火をつけたUNKNOWNが、榊に向かって通信を入れる。
「自軍の危機を察知して慌てて飛び出すようでは、横須賀基地の指揮官の底が知れているな‥‥」
 正論は、時として残酷な響きを奏でる。そんな榊の声が聞こえたのか、タロスはα班の陣取る右翼へと降り立った。
 長時間の戦闘で傷ついたヘルヘイムは、無理をしないように戦った。機関砲で装甲を削ぎながら、脆くなった箇所へ向けての攻撃を仕掛けて確実に離脱するという戦法を取る。
 彼女のエスケープを可能にするのが、K−111改のエニセイによる隙の見せぬ射撃だ。これは指揮官に当てるのではなく、仲間を逃がすために放つという憎い演出である。
「サンキュー! 助かるよ」
「レディーファーストは紳士として当然の嗜みだから、ね」
 そして攻め手の忠勝は超伝導アクチュエータを起動させると、正面のゴーレムを撃破した時と同じく、エイラの攻撃した箇所を機槍で狙った。装甲の剥がれた場所を狙う時はなぎ払い、損傷の激しい箇所は突きを放つなど、まさに百戦錬磨っぷりを存分に披露する。
 最後に身をかわすように横へ移動すると、そこには雷火龍・紅蓮が狙いを定めて待ち構えていた。
「時間との勝負でもあるんでな。全力全開で破壊してやるよ!」
 安則の気持ちを乗せた一撃は、タロスの右膝に命中。いよいよタロス自身も劣勢に立たされつつあった。

 その間のβ班に手抜かりはない。
 中盤は敵戦力の無力化に重点を置いて対応したが、最後に残った隊長機のゴーレムは撃破するに限る。β班が誇る前衛トリオ、アンナ・ルノア・透夜がトドメを刺すべく動き出した。
「隙は、見せません‥‥」
 アグレッシヴ・ファングとブレス・ノウを発動させた上での、機槍「ルーネ・グングニル」の一閃。これはもはや必殺の一撃に相当する。
 ゴーレムはこれを避け切れず、左の肩口を刺し貫かれた。思わず生物のように、一瞬だけその身が跳ねる。さらに爆発が起こると、左腕がガランという音とともに地面に落ちた。
「もう立ってもいられないか? 遠慮はいらない、これが全力だ。全部持っていけ」
 透夜は容赦なく機刀「建御雷」で袈裟斬りをし、フィニッシュを沈黙のアンナに任せた。
「‥‥‥‥‥‥‥」
 最後はビームコーティングアクスで両断し、ゴーレムを爆破炎上へと追い込んだ。

●横須賀の奪還
 隊長機との通信が切れたことを知ったのか、司令官はタロスの操縦中に集中力を切ってしまう。
 その一瞬は誰の目にも明らかであり、どう取り繕うこともできない致命的なものだった。榊はずっと中盤を支えてきたファルルの名を呼ぶ。
「お前の一撃、じっくりと見せてもらおう」
 ファルルは仲間たちに向かって「ありがとう」と伝え、改めてスラスターライフルを構えた。
「ここは私たちの街よ! 逃げ切れなかった私の友達の無念、そして人間たちの無念‥‥貴方たちの命で償いなさい!!」
 彼女はすべての弾丸を撃ち、タロスはすべての弾丸をその身に受けてしまう。その弾丸は今までの破壊箇所に楔を打ったのだ。タロスは膝を折り、ゆっくりとその身を地面に横たえる。そのまま動かなくなるのかと思いきや、間を置かずに爆発した。

 隊長機に続き、指揮官機まで撃破されて戦える軍隊などいない。
 総崩れとなった戦力を無力化するのは、今までの中で最も簡単な任務だった。キメラは一匹残らず倒され、TWの操縦者で生き延びた兵士は「もはや逃げ切れぬ」と悟ったか、あっさりと自爆する。こうして横須賀基地の強襲は成功に終わった。基地の破壊も最小限に食い止めたのだから、大成功といっても過言ではない。
 安全が確保されたのを知ったファルルは誰よりも早く愛機を降り、自らの足で横須賀上陸を果たした。
「ようやく‥‥戻ってこれたわね‥‥」
 他のメンバーも、続々と基地に降り立った。そして戦場を見て、静かに呟く。
「ボクはみんなの力になれたのかな‥‥?」
 それを聞いたハーモニーが、満足げに微笑みながら答える。
「ええ。セツナ君のおかげで、予想以上に楽しめました。全力過ぎてあまり楽しめないのではと思いましたが‥‥」
 なんとも彼女らしいフォローが入ると、セツナの顔にも笑顔になった。

 UPC軍が到着するまでの間、メンバーは横須賀基地に留まる必要があった。
 しかし、ここを防衛する戦力に問題はない。杉森・あずさ(gz0330)を介して「浦賀水道から作戦を終えたチームが、横須賀基地に上陸する」との情報がもたらされたからだ。
 それを聞いたUNKNOWNは、ふーっと紫煙を吐き出す。
「私は、少し横浜本営を見てこよう」
 すでに彼は、どこからか探してきた軍用バイクにまたがっているではないか。榊と透夜は顔を見合わせ、「止めても無駄か」という表情を浮かべた。
「K−111改は任せておけ。この兵衛が責任を持って管理しておこう」
「機体に名前も書いてあるんだし、誰も持ってかないぜ?」
 透夜が冗談を言うと、UNKNOWNも「それはそうか」と微笑みを見せた。そう、横浜の戦いはまだ続いている。