タイトル:【東京】熱海温泉キメラマスター:村井朋靖

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/04/27 16:42

●オープニング本文


●謎の組織?
 熱海といえば、日本有数の温泉街。そこにキメラプラントを建てて、日々研究に没頭する親バグアの科学者軍団・通称「湯の花」が存在する。
 ここでは口から炎を吐いたり、体から熱を発したりするキメラを生み出すだけでなく、熱海温泉の源泉を培養液に混ぜ込んで成長を促すという独特な発想で研究を重ねていた。
 しかしどれだけ開発に精を出しても、実践投入する機会に恵まれない。前線である横浜に近いという地理的な問題も確かにあるが、それよりも問題なのは上役の強化人間がキメラの性能を疑問視している点にあった。いくら熱心に温泉キメラの性能を説明されても、どうにもピンと来ない。もし実践に投入して負けたら、敵にも味方にも笑われてしまう。上役は「それだけは避けたい」と己の保身を最優先し、頑なに科学者サイドの申し出を拒否してきた。

 そこに舞い込んできたのが、UPC軍東進の情報である。進軍に近い施設は迎撃すべしとの命令が下ったのだ。
 これを聞いた上役は一気に青ざめ、研究者は顔を紅潮させて次々とラブコールを送る。俺のを使え、いいや私のだ‥‥無節操なプレゼンの嵐を食らい、ついに強化人間は腹を括った。
「わかったわかった、使えばいいんだろう! ありったけ出すぞ! 早く用意しろ!」
 研究者は腕によりをかけて作ったキメラを解き放ち、機嫌の悪そうな顔を浮かべる上役を親だと思うよう教育する。
 どれだけマヌケに生成されたとしても、人間が見るのは破壊の力に満ちた姿のみ‥‥ようやく上役も開き直り、ぞろぞろとキメラを連れて出発した。まずは行く手を阻むべく、予想進路とされる箇所の破壊活動にいそしむ。
「行け、ワニ型!」
 体から熱を発するワニ型キメラは自慢の牙を光らせながら、人間の住処を無作法に食いちぎっていく。
「おおっ、なかなかやるじゃないか。次はカメ型!」
 こちらはすっかり温泉の成分を甲羅に染み込ませ、お肌もピカピカ。申し分のない成長を遂げてはいるが、やはり動きは遅い。
 これは見掛け倒しか‥‥と思いきや、なんと口から炎を吐き出すではないか!
「ゴォガアァァーーー!」
 カメの炎は、ワニの作った瓦礫を焦がす。上役にオススメする以上、研究者も素晴らしい成果を出せるようがんばってくれたらしい。
「ふはは! これならいける、いけるぞ!」
 炎に包まれる街を背に、強化人間は高笑いする。これに呼応して、ワニとカメも吠えた。
 この瞬間こそ、熱海温泉キメラ部隊の誕生であった。

●熱海の変!
 名古屋・小牧基地を出たUPC軍の進路に「不審な一団あり」との連絡を受け、杉森・あずさ(gz0330)は脅威の排除を目指すべく動き出した。
 軍から寄せられた情報によると、被害地域は熱海。かなり特徴的なワニ型とカメ型のキメラが暴れているという。
「カメが炎を吐いてる? また、おかしなキメラが出たもんだね」
 ワニが盛大に破壊活動を行った後、カメが炎で焼き尽くすと聞き、あずさは思わず苦笑いを浮かべた。
「とにかく早めに退治した方がいいらしいね。せっかくの行軍に水を差されたんじゃたまらないし‥‥ってあれ、相手は火を吐くんだっけ?」
 いつもならすんなり使える言い回しが、今回ばかりは使えない。彼女は不機嫌な表情を見せた。
「うーん、戦う前からやりにくいね。面倒だから、さっさと倒してくるよ!」
 あずさは半ば投げ槍になって結論を出すと、足早にその場を去った。温泉街を舞台にした熱戦が、幕を開けようとしている。

●参加者一覧

ジン・レイカー(gb5813
19歳・♂・AA
エリノア・ライスター(gb8926
15歳・♀・DG
八尾師 命(gb9785
18歳・♀・ER
有村隼人(gc1736
18歳・♂・DF
シクル・ハーツ(gc1986
19歳・♀・PN
赤槻 空也(gc2336
18歳・♂・AA
アーニャ・ブライトマン(gc4704
20歳・♀・FC
トゥリム(gc6022
13歳・♀・JG

●リプレイ本文

●奇妙な行軍
 熱海の温泉街に到着したメンバーは、すぐさまキメラの捜索を開始する。
 彼らの行く手には黒煙が立ち昇り、周囲に散乱する瓦礫も炎に焼かれ、パチパチと音を鳴らしていた。また理不尽な破壊が行われたのかと思うと、誰の心にも怒りがこみ上げてくる。
 そんな中、ジン・レイカー(gb5813)は獅子牡丹を抜き、不意の遭遇に備えた。
「ったく、どこの怪獣映画だよ‥‥」
 多少の呆れも交えた感想を口にすると、熱闘ファイター・赤槻 空也(gc2336)も同様のセリフを吐く。
「‥‥クソッ! 俺の町がブッ壊された時にソックリじゃねぇか、ザケんな!」
 彼は久々の日本上陸で気持ちが昂っているはずなのに、なぜか冷静に瓦礫と化した一角を見つめた。
 おっとりとした性格の有村隼人(gc1736)もまた似たような気持ちを抱きながら、この景色を眺めている。
「建物に被害は出したくないですね‥‥」
 隼人の言葉を聞き、地図を広げて思案する八尾師 命(gb9785)がコクリと頷く。
「ここから右に進むと、広い駐車場があるようですね〜。キメラと出会ったら、そこへ誘き出しましょう〜」
 彼女はメンバーに、障害物のないフィールドの場所を教えて回る。そこに敵を集め、指揮官とキメラを分断。敵の殲滅を目指す運びだ。

 武器の準備を整えた一行は、ゆっくりと前進。暴れ狂うキメラの発見を発見すべく、神経を尖らせた。
 すると視線の先で、瓦礫をかじるワニと炎を吐くカメが、せっせと破壊活動を行っている。その後ろには指揮官の男が控え、飽きずに高笑いを響かせていた。
「おお〜。本当にカメが火を吐きましたよ〜!」
 マイペースの命が、すぐに驚きの声を上げる。それを聞いた敵は、「ようこそ熱海へ!」と叫ぶ。
「熱海温泉の効能ですくすく育ったキメラ軍団の力、とくと見せてくれる!」
 興奮を隠さない指揮官を見て、銀髪をポニーテールにまとめたトゥリム(gc6022)が、淡々と感想を述べる。
「キメラも温泉? 猿じゃないんだから」
 これに呼応し、豪傑のエリノア・ライスター(gb8926)も鼻息荒く言い放つ。
「グリーンランドのキメラに比べりゃ、随分と上品じゃねぇか。なんだ、日本のバグアは平和ボケしてるのかい?」
 つい最近まで同じことを思っていた指揮官はぐうの音も出ず、ただ歯ぎしりを繰り返すばかり。このまま言わしておくのも癪なので、かわいいキメラたちに殲滅を指示した。
「熱海温泉キメラ部隊、やっちめぇ!」
 決して反応が早いわけではないが、上司の指示を受けたキメラたちは、人間たちを葬らんと動き出す。
 このやり取りを見て、冷気を纏うシクル・ハーツ(gc1986)は「指揮官が強化人間」と判断。さらに敵の数を確認し、ワニが5匹で中型、カメが3匹で大型と知らせた。
「命殿が指定する場所までお迎えしよう」
 空也は「待ってたぜ!」と言わんばかりの表情を浮かべ、マヌケな敵に向かって一芝居打つ。
「俺たちぁ、広いトコなら負けねぇ! ここは退くぜ!」
 あれだけバカにしといて、ここでは戦えないとは、どこからどう聞いても嫌味だ。さらに命までもが「あわわ、急いで誘い込まないと火ダルマになりますよ〜!」と言うもんだから堪らない。強化人間はすぐさま「追え、追えーっ!」と叫び、自らも剣を抜いて追いかけた。

●戦闘開始!
 事前に地理を抑えていたのも功を奏し、すんなりと目的地である駐車場へとたどり着いた。この辺には瓦礫や炎はなく、かなり広い。メンバーにとっては、最高のフィールドだ。
 トゥリムはすぐに隠密潜行を発動させ、動かなくなった車の陰に隠れる。そして和弓「夜雀」を準備し弾頭矢を番えると、しばし息を潜めた。
 同じく弓を使い、中盤で戦闘を展開するシクル。彼女は雷上動に弾頭矢という組み合わせで、白銀の少女と同じ敵を狙う。
 ふたりの狙いを知っている命は、練成弱体を3匹のカメに仕掛けた。さすがはエレクトロリンカー、決める時はビシッと決める。
「今ならいけそうですね〜。がんばって〜」
 ここで隼人は牽制も兼ねて、カメに向かってシャドウオーブで攻撃。黒いエネルギー弾が命中するのを見届けてから、獲物を大鎌「紫苑」にチェンジし、キメラの前へ躍り出る。
(簡単には近づけさせませんよ‥‥)
 言葉は発さずとも、緑の瞳は雄弁に隼人の意思を物語る。キメラたちはそれに負けじと無駄に吠えた。

 キメラ対応班が隊列を組んだところで、今度は強化人間に対峙する班が動き出す。
 初めてのジャパンを戦闘で満喫しようと、アーニャ・ブライトマン(gc4704)は指揮官に狙いを定め、小銃で威嚇射撃を行う。
「こんなもの!」
 さすがは強化人間、この一撃を避ける。しかし彼女はすぐさま迅雷を駆使し、一気に指揮官へと迫った!
「堂々としてて助かるわ‥‥覚悟してもらうわよ!」
 さらに抜刀・瞬でバスタードソードに持ち替え、そのまま遠心力を生かした剣撃を見舞う。完全に隙を突かれた強化人間は、強烈な一撃を食らってしまった。
「ぐおっ!」
 敵の悲鳴を聞き、ジンはゆっくりと歩み寄る。
「あのさ、湯の花について話してもらってもいいかな?」
 ただの一撃を食らっただけで降伏勧告とは‥‥強化人間は怒りに震えた。
「我らに臆したのか、貴様! ならば、さっさと逃げてしまえ!」
「まっ、当然の返答だな。悪いが‥‥嫌でも話してもらうぜ?」
 この言葉と同時に覚醒し、ジンは攻撃を仕掛ける。獅子牡丹の鋭い剣閃が煌くごとに、楽しそうな笑いが響いた。
「おあっ! こ、こいつ、できる‥‥!」
 強化人間は一度は剣で受け止めるも、残りの攻撃を食らってしまった。彼はジンの力量に舌を巻く。
 そこへあえて後衛に陣取っていたエリノアが、アスタロトに乗って「その時」を待っていた。
「なんか奴さん、戦い慣れしてねぇ気がするぜ。ちと小突いたら、慌てるかもしんねぇな」
 不敵な笑みを浮かべながらそう呟くと、一気にブーストと竜の翼を駆使してキメラの群れをすばやく抜ける。
「オラオラオラー! 暴風のエリノアだ! 当たるとイテェぞ!!」
 獣を怯ませて道を作り、強化人間に接近。すかさず機鎧を装着し、竜の瞳と竜の角を併用して、超機械「トルネード」で攻撃を行う。
「逆巻けッ! シュツルムヴィント!!」
 知覚のレディが放つ暴風は、すさまじい威力で巻き上がる。その中央に立たされた強化人間は絶叫した。
「な、なんだとーーー!」
 それが止むと同時に、アフェランドラを装備した空也が瞬天速で横から飛びかかる。
「アマレスよろしく、両脚をつかむタックルだ!」
 両脚に力を入れて暴風に耐えていた強化人間にとって、これほど絶妙な嫌がらせはない。あっという間に体勢を崩すと、上から強力なパンチを浴びせた。
「くっ、無駄にデカい拳だな!」
「耐え抜こうってったって、俺には関係ねーよ。とりあえず寝てやがれッ!」
 この4人に囲まれたのでは、さすがの強化人間もキメラへの指示が滞ってしまう。分断作戦は功を奏した。

●着実な歩み
 敵の反撃は熾烈を極める。特に強化人間の剣さばきは脅威だ。
 狙われたのは、ジンとアーニャ。どちらも鋭い一撃を食らい、ダメージを受ける。
「ひはっ、やるねぇ。調子に乗ってても、さすがは強化人間ってとこか」
 ジンは挑発を欠かさず行うが、それが作戦上の行動とは思えない。おそらくこれが、覚醒した時の彼の性格なのだろう。
 一方、キメラも猛威を振るった。ワニは隼人を囲んで、豪快に噛みつきを仕掛ける。
「グアオォ!」
(‥‥まだやれます)
 鋭利な牙を避け切ることはできず、隼人もまた手傷を負わされた。
 そんな彼に接近されていたカメは、遠くに陣取るシクルや命に向かって炎を浴びせんとする。ところが、ふたりはこれをあっさりと避けた。
「シクル様〜、カメの口が開きっぱなしになりました〜」
 命が敵の行動を観察して報告すると、シクルはカメの口に向かって弾頭矢を放つ。トゥリムも影撃ちの効果を発揮した上で、口を狙って弾頭矢を発射した。
 カメ1匹に対して、2本ずつシュートの出血大サービス。口の中で爆破するものがほとんどだが、喉にホールインワンして大打撃を与えたものもある。カメは爆煙で視界を遮られ、大いに慌てた。
 命は前衛の隼人に練成治療を施してサポート。それを受け、隼人は無情の刃をワニ1匹に集中して向ける。最後は両断剣を発揮し、確実に数を減らした。
(少し、おとなしくしてもらいましょうか‥‥)
 ぐったりと地面に伏したワニを見下ろしながら、隼人は心の中で呟いた。

 一方の強化人間は、依然としてペースがつかめない。反撃は的確に命中させるが、相手にしている4人のテンポが独特なのだ。
 空也はフェイント気味に蹴りを交えてから、パンチを二度繰り出すなどトリッキーな技に終始。突き飛ばされたところに、エリノアのトルネードが炸裂する。
「ぐほっ! こ、このタイミングでっ!」
「悪ィな、オッサン。手加減は学校で習わなかったモンでよ」
 まさに「暴風」の二つ名がふさわしい少女、それがエリノア。「攻撃は最大の防御」とでも、教わったのだろうか。
 ジンは笑いながらも活性化を使ってダメージを回復、何事もなかったかのように強化人間へと迫る。彼の攻撃は、命中するとかなり痛い。敵は身を屈めて初撃を避けるが、その後の攻撃はすべて食らった。
 こうしてチャンスを作って、アーニャにも花を持たせようというのがジンの粋な計らいである。
「ひははっ、アーニャ! 攻める気があるなら、いつでも混ざれよ!」
「わかってるわよ!」
 額の瞳が敵を捉えると、アーニャは強化人間の足を狙って、刹那を駆使した重撃を放つ。
「逃げるな! このっ!」
 渾身の一振りは見事に命中し、目に見える形のダメージを与えた。
「こっ! この小娘がぁ!」
「何、言ってんのよ! 私は地球を救えるイイ女になるために戦ってんのよ! 文句ある?!」
 アーニャの言葉を聞いたジンは口笛と笑い声で、空也は「言ってくれんじゃん!」と盛り上げるが、このふたりだとあまりそう聞こえないのが玉に瑕。眼鏡の美人は、素直に喜べなかった。

●お仕置きタイム
 ここへ来て、キメラ対応班の動きが活発化した。
 隼人がワニに囲まれるという不利な展開が続き、またしても傷を負ってしまう。カメは弾頭矢のおかげで慌てふためいているのが幸いだった。
 そこでシクルが抜刀・瞬で弓から風鳥に持ち替え、颯爽とキメラに迫る。それを見たトゥリムも拳銃「パラポネラ」に装備をチェンジし、隼人とシクルに援護射撃を発動。命も再び隼人の傷を練成治療で癒し、万全の態勢でキメラの排除に挑む。
「カメもおとなしくしてもらおうか‥‥!」
 接近すると同時に二連撃を放つと、その後も身も凍るような斬撃を繰り出して、一気に勝負を決めた。炎の砲台は静かに崩れていく。
 隼人も生命を狩る大鎌を振りかざし、きっちりワニを倒した。あれだけの権勢を誇った温泉キメラ軍団も、半数近くにまで減らされている。討伐は時間の問題だ。

 強化人間はこの状況を見て劣勢を悟るが、いかんせん能力者4枚の壁は厚い。好き勝手に暴れる空也に手傷を負わせるに留まった。
 ジンは「そりゃ残念」と言わんばかりの笑顔を浮かべながら、一縷の希望さえも斬って捨てる。アーニャによって傷ついた足を狙い、集中的に攻撃を繰り返した。
「ぐぐぐっ!」
 苦痛に顔を歪める強化人間だが、攻撃はまだ終わらない。アーニャは腰を狙って攻撃を繰り出し、空也は掌底をアッパーのように打ち抜いた。
「へへ、決まった! おい暴風娘! 景気よく一発頼むぜ!」
 熱闘ファイターの呼びかけで、フィニッシュはエリノアが受け持つ。全身を砕かんとするトルネードに抱かれ、強化人間はついにノックアウトした。
「ぐお、む、無念‥‥」
 力なく剣を地面に落とすと、空也が傷ついた足をスルリと絡まった。そして流れるような動作で足四の字固めが完成。すぐさま尋問が始まった。
「いぎぎぎ! ぬおーーーっ!」
「話せッ! 湯の花について話しやがれッ!」
 時折、地面をバンバン叩いて締め付けを強くし、敵から悶絶をも引き出した。
 その間、ジンとエリノアはキメラ退治の加勢へ向かった。トゥリムは隠密潜行の効果が切れると、もう一度効果を発揮し、戦闘終了まで油断することなく戦い抜く。
 問題は強化人間が、厳しい攻めに耐え切れるかどうかだった。

●女難の相
 すべてのキメラを片付けた頃、尋問を最後まで見届けたアーニャは困り顔で入手した情報を話した。
 強化人間は「あんなおかしな研究をしてる湯の花を信用した俺がバカだった」と言い残し、さっさと自爆したらしい。これには、さすがの空也も困惑の表情を浮かべた。
 しかし話の内容から察するに、熱海温泉の源泉に近い場所でキメラプラントを稼動させていることはわかる。理解のない指揮官とご自慢のキメラを失った湯の花も、そう簡単には動けまい。一定の成果はあったと、アーニャは分析した。

 最後に「せっかく熱海に来たのだから」と、隼人は温泉で汗を流して帰ろうと提案する。一行は傷を癒した後で、ゆっくりと湯船に浸かった。
「温泉はいいですね‥‥疲労がとれます」
 提案者の隼人はすっかりリラックス。ジンも「これはなかなか」と舌を巻くが、空也の落ち着かない様子がどうにも気になった。
「どうした、空也。湯を沸かしてるのは、さっきのカメじゃないぞ」
「実はよ。俺、極度の女難の相の持ち主でよぉ‥‥」
 そこまで告白した時、隣の女湯が急に騒がしくなる。最後の最後まで入浴を断っていたトゥリムが、杉森・あずさ(gz0330)に付き添われて登場したからだ。
 堂々と裸のエリノアは「やっと来たか!」と喜ぶが、トゥリムは頬を赤く染めながら「恥ずかしいんです!」とささやかな抵抗を見せた。
「まーまー、いいじゃねぇか。日本の風呂、気持ちいいなァ! 少しあちィけど、この熱さがたまらねぇぜ!」
 そんな豪快娘の隣では、命とシクルが並んで湯船に入っていた。アヒルの人形を浮かべながら、のんびりとした時間を過ごす。
「あちらも賑やかですね‥‥」
 隼人がそう言うと、ジンは立っていた空也の足を不意にぐいっと押す。
「そんなに落ち着かないなら、あっちにお邪魔してこいよ」
 熱海で唯一、空也が油断したのがこの一瞬である。彼は押された勢いで前のめりになり、湯船を仕切る板にしこたま顔を打ちつけた。
「ぶぐっ! ジ、ジン! 何しやが‥‥あ、あちあちちち!!」
 さっきのセリフが覗きの予告かと思っていたアーニャは、熱湯の入った桶を持ってスタンバイ。近づいてきた男に制裁を加えたのである。
「ほう、覗きか‥‥いい度胸だ‥‥」
 壁越しにひんやりした空気を感じ取った空也は、シクルに向かって必死の弁解を始める。さすがは女難の相の持ち主‥‥隼人は「コーヒー牛乳飲みに行こうかなー」と考えていた。