●リプレイ本文
●作戦はツーマンセル
ビデオに映っていた天満橋タケルの屋台は、砂浜から少し離れたところに待機していた。
このご時世に屋台を引き、清潔感漂う白い調理服を着ているというだけでとにかく目立つ。極めつけは匂いだ。
地元民から注文を受けたのか、タケルはせっせとたこ焼きを製作中。なんとも芳しい匂いが広がっている。
料理人としても確かな腕を持つ熱血漢・リュウセイ(
ga8181)は、たまらず屋台の中を覗きこんだ。
「むっ! この焼け具合‥‥できる!」
「へい、らっしゃい! ずいぶんたくさん来たねー! さ、そこ座んな!」
タケルは満面の笑みで出迎えるが、リュウセイたちを客と思ったらしい。そこをキヨシ(
gb5991)がツッコむ。
「ちゃうちゃう。俺ら、大将のビデオ見たもんや。問題のタコは、どこにおるんや?」
まさか能力者の中に大阪弁の同志がいようとは‥‥タケルは「これが人の縁やね」と、意味もなく感動した。
彼は現場への道筋を伝える。ここをまっすぐ進めば、砂浜に下りる道に繋がるそうだ。そこが被害区域らしい。
白衣姿のソエル・メルクール(
gb8210)が道筋を確認すると、思ったより近くに該当の場所があって驚いた。
危なくないところで待ってると言っておきながら、この近さ‥‥亜(
gb7701)は遠慮なく、タケルに物申す。
「うん、ここ危ないから。とりあえずどっか行っといて?」
「これ焼いたら、ちゃんと避難するから。頼んだ俺が、先生らに従わんわけないやん? ああ、足は残してや!」
亜は「俺の超機械タコヤキとタコ型キメラの運命の出会いに誓って」と言うと、なぜかタケルは安心していた。
タケルの反応は、バラエティに富んでいる。9A(
gb9900)は仲間たちのやり取りを静かに眺めていた。
タケルが避難するのを見届けた後、鳳(
gb3210)が音頭をとって、作戦のおさらいをした。
今回は怒れるタコ型キメラが3体出るので、こちらはタッグを組んで立ち向かう。鳳は亜とコンビを組む。
同じようにリュウセイはソエルと、9Aはキヨシと組み、それぞれの能力を駆使して各個撃破を目指す。
砂浜に出ていきなり敵と出くわすといけないので、突入する前から決めたコンビで動くように心がけた。
●怒れる食材
キメラがテリトリーとしている場所は、思った以上に深刻な被害を受けていた。
波打ち際まで美しくなだらかに傾斜していたであろう砂浜は、見事なまでにデコボコになっている。
鳳は「砂浜にこれ以上の悪影響を与えるわけにはいかない」と、AU−KVを装着せずに戦闘することにした。
ここを蹂躙したタコ型キメラは侵入者をすばやく察知してか、水面から赤い姿を現し、口から白い息を吐く。
どうやら威嚇らしいが、これで怯む能力者は誰もいない。キヨシは「おったおった」とケルビムガンを構える。
パートナーの9Aは右の1体に狙いをつけ、リュウセイは左の1体に向かう旨を伝えた。鳳は正面を狙う。
3体のタコは揃って陸に上がると、鼻息を荒くしながら、その身を赤く染めた。どうやら本当に怒っている。
戦闘は、亜の「さー、やるぞ!」という威勢のいい掛け声とともに幕を開けた。
左のタコに挑発を兼ねた射撃を試みるのは、前衛のリュウセイ。後衛のソエルは、彼に練成強化を施した。
「たこ焼きのために、がんばってくださいねー♪」
ソエルの声援と援護を受け、リュウセイはスコーピオンから強弾撃を放つ。これがタコの胴体にヒットした。
「ぬおりゃあっ! ここから先に行きたければ、俺を倒していけっ!」
リュウセイの熱い叫びは、怒りっぽいキメラの性格と相性がいい。タコは頭から湯気を出しながら迫ってきた。
ここから先は、接近戦になる。リュウセイはすかさずスコーピオンから機械剣に持ち替え、敵の進軍に備えた。
正面のタコと戦う鳳に、亜が「レッツゴー!」のかけ声とともに練成強化をかける。鳳は、槍を構えて突撃。
そのまま一度だけ攻撃を仕掛け、敵の足をぷっつり切った。タコの怒りは尋常ではなく、そのまま反撃を開始。
ところが鳳の身のこなしが上回り、攻撃がちっとも当たらない。敵の怒りは、沸点を超えようかという勢いだ。
「何すんねん、このタコ! 足の数が多けりゃ偉いっちゅうわけやないで!」
鳳のセリフに頷く9Aは、右の敵を目の前にして覚醒。髪を蒼色に染めて、右手で忍刀、左手でナイフを持つ。
「キヨシ君、援護お願いッ!」
「それじゃ、こっちも戦闘開始といこかいなっと‥‥」
同時に後衛のキヨシも覚醒。左目が緑色に染まったかと思うと、急所突きと影撃ちを使用してタコの目を狙う。
強力な一撃は片方の目に当たり、タコは苦しそうな声を響かせた。それを見た9Aは迅雷を使って、目の前へ!
「足さえ斬り落とせば、何も出来ないはずッ!」
容赦のない一閃で足を落とし、敵の機動力を確実に削いでいくが、まだ足が残っているので疾風を使って用心。
タコの攻撃を確実に回避し、次の攻撃に弾みをつける。後ろに控えるキヨシも冷静に次の一手を考えていた。
●キメラの仕置き人
タコ殴りにくるタコをタコ殴りにしようと意気込んでいたリュウセイは、攻撃の前に自身障壁を発動させた。
その後、剣をまるで包丁のように振るって足を斬りおとし、徐々にタコの戦力を削いでいく。
しかしキメラたちは旗色が悪くなっても怒り、決して戦いをやめない。その肌は人間の血よりも赤く染まった。
足の数が減っても、吸盤を使って体当たりを仕掛けてくる。リュウセイはこれを食らうが、ダメージはない。
「さ、さすがに驚いたぜ! でも、効かないな! さっさとたこ焼きになって食えるようになりやがれっ!」
ソエルはリュウセイの戦いぶりを真剣に見守りつつも、どこまでも怒り続けるタコの姿を見て感心していた。
この時、誰もが思っていた。このタコは目の前に敵がいる限り、まったくと言っていいほど周囲を気にしない。
前衛こそ苦労するが、後衛にとってはやりやすいことこの上ない。亜は、鳳と戦うタコに練成弱体をかける。
「ここっ!」
鳳は「あーやん、ありがとな!」と礼を述べ、巧みな槍さばきで敵の足をスパッと切っていく。
すばやい攻撃に悪戦苦闘するタコだが、ここで2本の足で吸盤白刃取りを狙った‥‥が、これはあえなく失敗。
さすがにそんな技を決められては困ると、鳳は最後まで油断しないように気を引き締め、唇を真一文字に結ぶ。
そんな中、ふたり揃って攻撃を仕掛けるのが9Aとキヨシのコンビだ。こちらは積極的に攻撃を当てている。
9Aは足を斬ると下って、うまくタコの動きを操る。その合間にキヨシが援護射撃を発動させてから銃撃開始。
「ハイハイ、そこっ! ストップや!」
この攻撃も命中し、タコの足は確実に減っていく。一方、右の敵は9Aを追いかけて攻撃するが、これを外す。
この時、すでにどのキメラも動きが鈍くなっていた。奇声もまた怒りというより、焦っているように聞こえる。
●新鮮で安全な食材の確保
リュウセイはタコに残された足をすべて斬りおとし、最後に残った本体‥‥頭に剣を突き立て、勝利の雄叫び!
「よっしゃ! いっちょ上がり!」
「待ってましたー♪」
ソエルが合いの手を入れて祝福すると、他のメンバーも頃合いを見計らって、仕上げへと移る。
鳳も足を狙って攻撃を続けたが、タコが吸盤白刃取りを狙うタイミングで、不意打ちで一気に頭を刺し貫いた!
「誰も足だけ落とすなんて言うてないしなー。ま、この辺は恨みっこなしやで!」
鳳の勝利宣言を聞き、亜は自分の超機械を見つめながら「いよいよ」とつぶやく。お楽しみの時間は目の前だ。
9Aは三度タコに近づくと、円閃をお見舞いする。力強い一閃は、無残な姿に変わり果てたキメラに牙を剥く!
「こいつでくたばれ、タコォォォォォォッ!」
「ぴぎゃああーーーーーーー!」
タコの無残な叫びは9Aによって引き出され、キヨシが援護のために放った弾丸で消え失せた。
「たまには美人の戦いを眺めるっていうのも、悪くないな」
表情こそ変わらないものの、キヨシはどこか満足そうにつぶやきながら銃を収める。9Aも同じく刀を収めた。
●お楽しみはみんなで
うまく作戦がはまり、3体のキメラを倒すことに成功。タコの足も残ったので、タケルの望みも実現できる。
キメラの撃破というより、食材を確保したと理解してそうなタケルが、銀色のボールを持ってすっ飛んできた。
中にはたっぷりの塩が入っているところを見ると、足のぬめりを取って、下ごしらえを始めるつもりらしい。
それを見たリュウセイが「俺にも足をくれよ!」と申し出る。なんと彼もこれを使って、料理を作るつもりだ。
メニューはタコキムチのチャーハン。しかもアルティメット包丁を使うので、調理に不都合なんてあり得ない。
リュウセイはタケルに料理の手順を聞きながらも、しっかりその技を盗もうとチェックを怠らなかった。
ノリノリで料理にチャレンジしようとする者もいれば、一抹の不安を抱えた者もいる。鳳と9Aがそうだった。
いくらタコの外見や特徴を持っていても、キメラはキメラ。料理しておいしいのか‥‥いや、まず食えるのか?
鳳はそんな不安をはっきりと口にした上で、持参の釣槍を抱えて「まともな食材も増やしとこうか?」と聞く。
9Aは盛り上がってる連中に気を遣いながらも「その方がありがたいね」と、釣りをする方針を容認した。
坊主でもいいやという気持ちで釣ったが、かかるのはフグばかり。外道しか釣れないのを見て、鳳は諦めた。
タケルの屋台から火を借りて、リュウセイは特製のチャーハンを作る。なんともいい香りが周囲に広がった。
隣ではタケルが、こちらも特製のたこ焼きを作り始める。亜とソエルは、匂いだけでも十分に満足していた。
「あぁぁぁ、匂いだけで幸せですー♪ でもまさか、リュウセイさんも料理されるとは‥‥」
リュウセイは思わずニンマリ。趣味の料理で女性の興味を引くとは願ってもない。素直に鼻の下を伸ばした。
一方のたこ焼きは、鳳とキヨシがタケルの両脇に控え、順番に仲良くひっくり返していく。
「これ、やっぱ楽しいなぁー! まーるくなるのが面白いな! キヨシよりうまくできんのはご愛嬌や!」
「俺は小さい頃からやってたからな。手馴れたもんやで」
こうしてみんなの力で生まれたたこ焼き‥‥さらにチャーハンが全員の前に並んだ。彩りも鮮やかである。
ソースは最初からかけてあり、マヨネーズと青海苔はお好みで。付け合せは紅しょうがが用意してあった。
鳳とキヨシ、そしてリュウセイは片っ端から頬張り、亜とソエルはたこ焼きから手をつける。9Aは様子見。
「ん‥‥タケルからもらった時、さすがに身が締まってるなとは思ったけど、これはなかなかの弾力だな!」
「お味もいいですねー♪ これも鮮度の違いかしら?」
ソエルが小首を傾げると、亜が「確かに普通のタコよりかはいい味が出てる気はする」と感想を述べた。
みんなが談笑しているのを見て「食っても死なない」というのを確認した9Aは、チャーハンを口に運んだ。
リュウセイの料理の腕もあり、さすがの一品に仕上がっている。あのタコの風味がアクセントになっていた。
「あ、意外と‥‥いけるね?」
なぜかもぐもぐする回数が多いが、9Aもまた味には太鼓判を押す。今回はみんなが満足する会食となった。
タケルは「ええ経験やわー」と言いつつ、さらにお好み焼きを作っていた。どうやら素材が余っていたらしい。
これは食べ盛りの鳳が「こなもんできるんやったら、お好み焼きも頼んでえぇ?」とリクエストしたのだ。
これぞまさしく関西のノリ。聞くだけならタダ。結果的に料理が出てくれば儲け物というものである。
次から次へとさまざまな料理が並ぶ状況に屋台には嬉しい悲鳴が響いた。
「んむんむ、楽しいですねぇ♪」
楽しそうな亜の声に、誰もが頷く。この宴会はまだまだ続きそうだ。