●リプレイ本文
●分断作戦!
いよいよキンゼインとクマが、避難もままならぬ団地に足を踏み入れる。
ライアットジュースの影響を受けたクマが乱暴に人間を追い立てた結果、こちら側に進路が向いたのだ。そんな理由など関係ないとばかりに、超強化人間キンゼインはワイルドに笑う。
「はっはっは! 俺様の行くところ、まさに敵なし!」
大斧を振りかぶってのポーズが決まった‥‥かのように思われた、まさにその時。
相棒であるクマの足元に、一発の矢が突き刺さる。それは一瞬にして爆発し、空に黒煙が立ち昇った。すると、クマは煙に向かって鋭い爪を振るう。
「当たってないぜ、能力者さんよぉ!」
キンゼインは敵の襲来に気づくも、さほど驚かない。何しろ、奇襲の一撃は命中していないのだから。
弓を放ったのは、青い眼光のシクル・ハーツ(
gc1986)。再び弾頭矢を番え、次の攻撃に備える。その前にちっちゃなキャバルリーのキロ(
gc5348)が立ち塞がった。パイシーズを両手に持ち、敵に対して「えっへん」のポーズを存分に見せつける。
「カカカッ、同じ斧使いとして勝負を挑むぞ。金ぴかー」
いくら邪魔者とはいえ、子ども相手に戦う気はない。キンゼインは渋い表情を見せた。
「お嬢ちゃんが俺様の相手、ってか?」
「おぬしの悪行に、故郷の両親が悲しんでいるぞー」
相手の出方など気にせず、キロは挑発を開始する。このふたり、どこまでもマイペースだ。
その間、シクルは自分の放った矢がキメラに有効であると知ると、次々と弾頭矢を地面に放つ。それはまるで飛行機の着陸を誘導するライトのようだ。
「ウガ! ウゴオォォーーー!」
クマはご主人様を無視し、次々と上がる煙を追っていく。シクルは距離を取って、誘導のために矢を撃ち続けた。そのままクマは建物の影へと吸い込まれるように消える。
「今の銀次郎は強いからな。あいつだけでも心配ないぜ!」
戦力を分断されたと知っても、相手はまったく動じない。その言葉を聞くや、潜んでいた能力者たちが姿を現した。
「じゃあ、ご自分の心配でもするんですね」
すでにミカエルを装着した秦本 新(
gc3832)が一歩前に進み出て挑発すると、キロも負けじと声を出す。
「弱いものいじめよりも、バグアと戦った方が強くなれるのじゃー。経験値も多めだぞー」
「正義とか愛とか、そういうの大嫌いなんだよ。あいにくだな、お嬢ちゃん」
すっかり時間稼ぎの挑発に乗っているキンゼインをじっくりと観察しながら、イェーガーに転職したばかりのLetia Bar(
ga6313)は、近くにいたエースアサルトの紅 アリカ(
ga8708)としばし話す。
「そこの強化人間‥‥すっごく見たことあると思ったら、日本の‥‥金太郎だっけ?」
「‥‥まさに金太郎ですね。自分で強いと思ってるあたりは、何とも言えないけど‥‥」
見た目は金太郎でも、性格に日本人の美徳である慎ましやかな部分がないとバッサリ断するアリカ。Letiaも「なるほどねー」と納得しつつ、装備を小銃「S−01」に持ち替えた。
すでに全員が戦闘配置についていたが、まだ準備に時間がかかると踏んだ新は、自分が疑問に思っていることをキンゼインに尋ねる。
「ライアットジュース、そして浦島博士‥‥これらの名前、ご存知ないですか?」
「知ってるも何も、博士は俺様の恩人よ! 強化し尽くした俺様のパワーアップに、ライアットジュースを提供してくれたんだからな!!」
あっさり真相を語るあたり、さすがはキンゼインといったところか。新は鉛色の瞳になっているのを確認すると、ふと疑問を呟く。
「キメラに投与すれば理性を失い、見境なく暴れるという危険な薬物なのに‥‥もしかして強化人間は、免疫が備わっているのでしょうかね?」
新はそんなことを考えながら、Letiaに目配せをする。彼女は軽くウインクを送ると、新はすばやく小銃を構え、キンゼインに先制攻撃を仕掛けた!
「とにかく、この場は食い止めますよ!」
その言葉を合図に、麗しき乙女たちも動き出した。「超」を冠する強化人間との戦いが、ゆっくりと幕を開ける。
●導かれた先には
シクルの放つ矢は、建物に囲まれた公園の中心で途切れた。
その間も、クマは闘争本能むき出し。黒煙に追いつくと、すぐに手を出す乱暴振りは健在だ。それを見た瓜生 巴(
ga5119)は「やっぱり」と短く感想を述べる。
「お疲れ様。あとは私たちに任せて」
囮役を買って出たシクルにねぎらいの言葉をかけ、自らは覚醒してGooDLuckで幸運を得る。
巴と同じく姿を現したエレノア・ハーベスト(
ga8856)は翠閃を構えつつ、率直な感想を口にした。
「お噂どおりの狂いようやね。冗談かと思てたけど、どっか厄介やね」
髪をお団子にしてまとめたエレノアは、上品な笑みを浮かべる。その脇から天野 天魔(
gc4365)が出てきて、こちらも準備が整った。
「シクルのためにも、いい歌を奏でようじゃないか」
キメラ討伐班も行動を開始。シクルは雷上動から風鳥に持ち替え、距離を置いた状態でエアスマッシュを放つ。冷たい衝撃波はクマの鼻っ柱を穿ち、敵を怒り狂わせた。
「こっちだ!」
彼女の挑発に呼応するかのように、クマも吠える。
しかしその死角を突いて、エレノアがスマッシュを発動させた状態でソニックブームを放った。それが命中するかどうかを見届けず、一気に間を詰めると流し斬りを駆使して左に回りこみ、もう一度スマッシュで翠閃を膝に食らわせる。
「噛み砕け」
まだ彼女の攻撃は終わらない。さらに少し後ろへ下がって、最後にダメ押しのソニックブームを飛ばす。時間差で完成するソニックブームのクロスに、さすがのクマも悲鳴を上げた。
「ヌゴオッ!!」
かなりのダメージを与えたはずなのだが、キメラはそれでも破壊衝動を体現し、戦闘を継続する意思を見せる。これがライアットジュースの厄介なところだ。
二度の戦闘経験がある巴は、レイ・エンチャントを発動。彼女も死角に立って、無造作に小銃を撃ちまくる。それは、まるで射撃練習場のような光景だ。同じ場所を狙うでもなく、とにかく命中させることだけに特化したスマートな射撃。反対側から迫る天魔も「さすがスポーツマン」と舌を巻く。
「さて。好き勝手に暴れられると迷惑なのでな。枷をつけさせてもらおうか。さぁ、呪われるといい」
演出家は高らかに呪歌を奏で、クマはその影響を受けた。狂気に潜む呪い‥‥この演出は、まさに天魔の感性そのものといえよう。
麻痺という制限を食らったクマの反撃は、そうそう当たるものではない。シクルに対して乱暴に腕を振るうも、完全に空を切る。まるでサーカスを彩る動物のごとく、ふらふらと動き回るのみだ。
メンバーはこの機を逃さない。あちらはキンゼインを相手にしている。ここで手間取るわけにはいかない。
敵がシクル以外の仲間に目を向けなかったので、巴は再びレイ・エンチャントを発動。稲妻状に伸びる亀裂から生じる痛みを感じつつも、微動だにせずクールシューティング。動きの鈍った敵を確実に死の淵へと確実に追い込む。
天魔も呪歌を継続し、さらにクマの動きに制限をかける。
「狂ったような熱っぽさもたまにはいいが、それも度を過ぎると調和しない。舞台に浮いた存在は必要ないな」
もはや終幕だ‥‥演出家からの言葉を受け、エレノアが再び接近。片方の膝を破壊すべく、スマッシュを乗せた攻撃を織り交ぜつつ、執拗に攻撃を重ねる。
「グォ、オグゥ!」
クマは頑丈な木の幹ほどあろうかという膝を折り、動きを止めた。
エレノアが作ったチャンスを、シクルは逃さない。あえて目の前に立ち、容赦なく風鳥を振り下ろす。一撃で倒れなければ、もう一撃。容赦のない乱れ斬りが炸裂した。
「これで終わりだ!」
最後の一閃までその身に受けたクマだったが、さすがに耐え切ることはできない。暴悪に染まったキメラは、上体をふらふらさせながら地面に倒れた。
「オガ、オガアァァァ‥‥」
ライアットジュースを投与されたキメラの行動パターンが能力者たちに知れているとはいえ、ここまでスピーディーに倒せるのは連携の意識が高いからこそ。巴は「お見事」と言いつつ、次の戦闘に向けて気を引き締める。
歌い終えた天魔はキメラに近づき、息がなくなったのを確認。そして問題の薬物を探すが、どこにもないのを知ると「フフッ」と笑う。
「さすがにパワーアップのタネは教えてくれないか‥‥」
「ライアットジュースか‥‥キメラに注入しているとはいえ、ひどい薬だな」
再び弓に持ち替えたシクルは、率直な感想を口にする。
巴は「最初は誰もが同じ感想を口にしますよ」と言うと、キンゼインの対応をしているメンバーに加勢すべく移動を促した。暴悪の限りを尽くしたキメラを残し、能力者たちは次なる戦場へと向かう。
●金色の脅威
キンゼインの囮役は、キロが担当する。しかし、シクルが相手したクマの銀次郎ほど楽ではない。
トコトコと歩いて接近し、パイシーズを巧みに操って足元を攻撃する。敵との身長差もあるので、この辺はご愛嬌だ。あまり経験しない軌道だからか、相手も初撃を膝に食らって痛がる。
「あいててて! ちくしょう、やりにくいぜ!」
お嬢ちゃんに構って油断しているところに、新が中間距離からの射撃を食らわせる。
Letiaはキロの奮闘に応えるべく、援護射撃でフォロー。大仰な鎧の繋ぎ目を狙って、確実にダメージを重ねていく作戦に出た。射撃が有効なことを視認し、アリカも真デヴァステイターで露出した脚部に撃ちこむ。序盤は、遠距離を主体にした攻撃で様子見を行った。
「そんなんで大丈夫かよ! 大事なお嬢ちゃんがボロボロになるぜ?!」
キンゼインはキロを戦士と認め、容赦のない攻撃を繰り出す。ここまで「超強化人間」の看板は眉唾ものだったが、ここでようやくベールを脱いだ。
「ぬ! これは厄介じゃのぅ!」
振り下ろされた大斧を弾き落としでなんとか受け止めるが、その勢いを完全に殺すには至らず、わずかにダメージを負った。続けて横薙ぎが来たので、弾き落としに加えて自身障壁も発動。今度は受け止められずに地面を転がる。
「キロさん!!」
「ふむー、衝撃を逃したつもりだったが‥‥なかなか厳しいのぉ」
まだ大事には至っておらず、新は胸を撫で下ろす。
しかし、このままキロだけに囮を任せるのは厳しいと判断。新は武器を和槍「鬼火」に持ち替え、猛火の赤龍を発動させる。AU−KVの小気味いい駆動音が、周囲に響く。
「これだけ無茶苦茶やって、ただではおきません」
「真打の登場か。いいだろう、かかってこい!」
まったく臆しないキンゼインに、新は猛然と襲いかかる。狙いは脚部。得意の槍を振るい、何度も突きを繰り出す。
「はっ、はっ!」
相手は多くの市民を手にかけている。ここで逃がしたくない。新は執拗に脚を狙う。
「うぐっ! まだだ、まだまだだぜっ!」
二度の攻撃はキンゼインの脚を捉えるも、行動を困難にさせるまでのダメージには至らない。それでも新は焦らず、竜の翼を使って距離を取った。さすがに強敵、簡単には倒れてくれない。
しかし、脚部への攻撃が蓄積しているのもまた事実である。ここをアリカは勝負どころと見て、黒羽ノ刃を抜く。
「‥‥攻撃も大振りだし、威力もありそうだけど‥‥当たらなければ、どうということはなさそうね‥‥」
一気に距離を詰め、両断剣・絶を発揮した強力な一閃を食らわせた後、さらに剣劇を駆使して仕留めにかかる。可憐な乙女が繰り出す怒涛の攻撃に、思わずキンゼインも声を上げる。
「おおおおっ! やるじゃねぇか! その調子だぜぇ!!」
刀が妖しく光るたび、左肩の装甲にヒビが入っていく。このまま一気に決着かと思われたが、キンゼインはなんとか攻撃を阻止した。
「さて。ご自慢の鎧が割れたら、どんな顔するのかな?」
Letiaは影撃ちと強弾撃の効果を発現させ、左肩に向けて集中的に射撃を敢行。一発は大斧で防がれるも、残りは見事に命中し、鎧の一部を破壊する!
「うごおっ! 俺のお気に入りを壊しやがったな、ちくしょう!」
少しワイルドさが消え、怒気を含んだ声になるキンゼイン。ここでキロが再び目前に立ち、挑発を始める。
「金ぴかダルマ、こっちだー」
そう言うが早いか、キロはさっさと弾き落としと自身障壁を発動する。予想通り、敵の反撃はキロに向けられた。しかしそれは初撃のみで、残りはアリカ。
「うむ、気をつけるのじゃ!」
キロはなんとか受け止めるも、わずかにダメージを受けた。アリカも振り下ろしこそ避けたが、薙ぎの餌食となり手傷を負う。さすがに4人で倒すのは難しいか‥‥そんな空気がメンバーを包みつつあった。
●能力者揃い踏み、しかし‥‥
闘争本能を引き出すライアットジュースの効果に加え、キンゼインの独特な性格もあり、なかなか敵の状態が読み切れない。一進一退の攻防は続いた。
そこへキメラを倒した巴たちが、ようやく援軍として到着する。Letiaはキンゼインに向かって走るエレノアに、援護射撃でサポート。彼女はそのままスマッシュを駆使した一閃を浴びせる。
「うちからのプレゼントや。美味しくいただき」
新も竜の翼で間合いを詰めて、再び和槍で攻め立てるが決着には至らず。天魔は呪歌で逃亡を阻止しようとするも、キンゼインは抵抗することで難局を乗り切った。
「銀次郎はやられたってことか‥‥能力者、勝負は預けたぜ!」
「逃げるか、金ぴかー。草間の影でクマが泣いてるぞー」
キロがいいタイミングで挑発するも、状況が傾いたことは火を見るよりも明らか。キンゼインは悔しい表情を浮かべながらも、戦線を離脱した。それでも少女は「戻ってこーい!」と呼びかけるが、新が「仕方ありません」と肩に手をやって止める。
それでもキメラはバッチリ退治し、団地での被害も出さずに済んだ。杉森・あずさ(gz0330)は「決着は次だね」と、みんなを励ます。
天魔はひまわりの唄をアリカたちに捧げ、傷ついた身体をやさしく癒した。それでもキロはダメージが残っていたので、Letiaが救急セットを使って治療する。
「次こそ、金ぴかをやっつけないとね」
Letiaがキロをそう慰めると、友人の天魔がキンゼインを見た感想を口にした。
「彼は強化人間でなく、彫刻にでもなるべきだな。そうすればワイルドというテーマをわかりやすく表現した作品と褒められただろうに」
まざまざとキンゼインを見ていたアリカは、演出家の表現に深く頷いた。
次に彼と対峙する時こそ、超強化人間の最期‥‥巴と新は新たに手にした情報を突き合わせ、何か手がかりを得ようと話し込んだ。