タイトル:学園特撮研究会の本気!マスター:村井朋靖

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/02/06 16:39

●オープニング本文


 太陽の日差しをたっぷり浴びるカンパネラ学園のキャンパスを、くたびれたトレンチコートを着た中年の男が歩いていた。
 彼の名は坂神・源次郎(gz0352)、またの名を「キメラ刑事」。校門の守衛にもらった地図を片手に、ある部室を目指している。
 そうかといって、特に急ぐ様子はない。未就学の能力者を教育するために建築された学園を存分に見物して回った。
「いやー、いい時代になったもんだ。坊主頭に学生服なんて、まるでおとぎ話だな」
 くしゃくしゃの髪の毛を隠すハンチング帽を撫でながら、若かりし日の自分を思う。田舎の学び舎で数え切れぬ悪さをし、恩師にこっぴどく怒られたあの日を‥‥ふと坂神が地図に目をやると、今回の目的を思い出し「いかんいかん」と笑った。

 彼の目的地、それは『第15特撮研究会本部』と名づけられた部室である。
 学園生や聴講生で構成される部活動だが、その誰もが能力者。巨大な陰謀を企む宇宙人と戦う能力を秘めている。坂神は部長に働きかけ、四国の難題を払拭してもらおうと足を運んだのだ。
 もちろん、先方には会う約束をしてある。連絡を受け持った警官が言うには、その部長なる人物はとても誠実で好感の持てる若者だそうだ。そういった相手に話し合いするというのは、坂神にとっては久しぶりである。いつも愚にもつかない言い訳に終始する犯罪者に比べれば、ずいぶんと話しやすいはずだ。
 そんなことを考えているうちに、部室の前にたどり着く。坂神は扉の前を行き過ぎようとして、あわてて何歩か戻った。
「おっとっと、ここか‥‥コンコンっと」
 部室の横には木製の立派な看板が掛けられている。かなりの達筆で、この廊下を通る者の目を奪うほどだ。ノックを済ませた坂神も、しばし見とれる。
 すると、中から凛々しい声が響いた。なるほど、噂通りである。
「どうぞ、坂神刑事」
 初対面の人間に「刑事」と呼ばれてちょっとニヤつきながらも、坂神は「失礼します」と扉を開く。
 広々とした部屋の中央に黒い制服姿の青年が直立不動で立っており、刑事と目が合った瞬間に敬礼で出迎えた。マイペースで有名な坂神だが、思わずつられて敬礼してしまう。
「ようこそ、カンパネラ学園・第15特撮研究会本部へ。ここを知る生徒からは『特研』と呼ばれております。私は、本部長のマサキです」
「ああ、部活動の部長さんだけど、ここは本部だから本部長さんなのね‥‥了解。俺は坂神ね、よろしく」
 黒地の制服に白いラインがまぶしい。帽子もまっすぐにかぶり、見た目はまるで若き警視総監。マサキは笑みをこぼすと、白い歯が輝かんばかりだ。上司にこのくらいの威厳と覇気があれば‥‥坂神は署長室でよく鼻をほじっているお偉いさんの姿を思い浮かべつつも、さっそく本題に入る。
「今、知り合い‥‥ああ、傭兵やってる新妻さんなんだけど。彼女にある調査を頼まれててね。そっちが忙しくて、四国に手が回らないんだ」
 マサキは帽子を脇に抱え、「なるほど」と相槌を打つ。
「キメラ発見の一報があっても、今までみたいに迅速に対応‥‥ってなわけにはいかんらしい」
 今までは坂神が事件を捜査し、ある程度の情報を揃えた上でULTに依頼を流していたが、それが何らかの理由で滞っているという。連絡が1日遅れれば、それだけ被害者が増えてしまう‥‥彼は悲しい現実を率直に話した。
 しかしそれを聞かされたマサキは、渋い表情を浮かべるばかりである。
「坂神刑事のご心痛、よくわかります。しかし私は、特研というサークルの本部長というだけですので‥‥」
 言葉を選びながら話す本部長を尻目に、坂神は部屋の壁にある子ども向けのおもちゃやビデオなどを見て回った。その中には息子に買い与えたヒーロー番組の変身ブレスレットがあり、しばし懐かしそうに眺める。
「うちの坊主、これ今でも持ってるよ。この番組の歌、覚えさせられたなー」
「人を救い、人に救われ、人は生きる‥‥それがヒーロー」
 マサキが歌詞の一部を口ずさんだのを聞き、坂神はニンマリと笑う。
「大人の世界の難しいことは、このオジサンに任せとけよ。な、マサキ本部長。俺が連絡したULTからの依頼をフォローしてくれるだけでいいんだ。最後は仲間たちと一緒に解決へ導く。どうだい?」
 さっきまでの表情はどこへやら。坂神は真剣にマサキを説得した。
「君たちが思い描くカッコよさで、いくつもも命が救われるんだ。頼む!」
 その必死さからにじみ出る何かを感じ取ったマサキは、思わずハッと顔を上げる。
「まさか‥‥坂神刑事、早急に対応しなければならないご依頼をお持ちなのでは?!」
 坂神は苦しい表情で「ご名答‥‥!」と言い、胸ポケットからキメラ被害の報告書を出した。
「二足歩行する灰色のサイ‥‥大型のキメラだが、今も四国南部の農村に居座ってる。気配に敏感で、村人の脱出もままならないらしい」
 これ以上の情報はつかめていないと謝罪する坂神に、マサキは「構いません」と声をかける。
「今こそ特研の実力を発揮する時! お任せください、坂神刑事。四国の安全は‥‥私たち能力者が守ります!」
 子どもの頃からヒーローが大好きで、大きくなってもヒーローを夢見た者たちが集うこの部室から、今まさに本物のヒーローたちが飛び立たんとしている。マサキは本部長としての活躍を刑事に約束し、目の前にある事件に立ち向かうのであった。

 君は‥‥この物語に参加する勇気が、あるか?!

●参加者一覧

終夜・無月(ga3084
20歳・♂・AA
辰巳 空(ga4698
20歳・♂・PN
ヨグ=ニグラス(gb1949
15歳・♂・HD
夏目 リョウ(gb2267
16歳・♂・HD
鳳(gb3210
19歳・♂・HD
ジリオン・L・C(gc1321
24歳・♂・CA
ガル・ゼーガイア(gc1478
18歳・♂・HD
シクル・ハーツ(gc1986
19歳・♀・PN

●リプレイ本文

●熱血の能力者たち
 第15特撮研究会本部から飛び出したマサキ本部長は、視線の先にある問題の村を眺めた。その隣には、後見人の坂神・源次郎(gz0352)が控える。
「嬢ちゃんが警官隊と一緒に西側から潜入して、村人の安全を確保。その間、熱血青年たちがキメラを誘導するそうだ」
 坂神はシクル・ハーツ(gc1986)を警官隊に紹介し、万が一の時は「彼女に指示を仰げ」と伝えてある。彼女と同じく、鳳(gb3210)とジリオン・L・C(gc1321)も救出を担当。敵の妨害を阻止するため、ヨグ=ニグラス(gb1949)はプリンカラーのミカエルを走らせて陽動を行う。
 作戦を聞いても不安な表情を覗かせるマサキを見た夏目 リョウ(gb2267)が、肩に手を置いた。
「よろしくな、マサキ本部長。俺も特殊風紀委員として、平和を守る力になるぜ」
 そしてすっと前に手を出し、握手を求める。マサキは頷きながら、それに応えた。
 その様子を見ていたヨグは、愛機ライトニングと一緒に立つガル・ゼーガイア(gc1478)の隣で熱っぽく話す。
「んと、きっとマサキ本部長には知られざる苦悩があるのですっ。第1特研とかにも、因縁とかがあるのですっ!」
「第1どころか、特研なんてのがあるなんて初めて知ったぜ‥‥」
 その言葉は若干の戸惑いを漂わせるが、ガルの表情は明るい。彼は大きく腕を振り「少しだけ対抗してみるか!」と言うと、元気よくマサキに声をかけた。
「お前は部長なんだから、それなりに強いんだよな?」
 学園に籍を置く以上、マサキはそれなりの才能は持っている。しかし実戦の経験がなく、今回が初めてのステージだ。キメラ刑事からは「お手柔らかに頼むよ」と念を押されるも、ガルはそんなのお構いなし。
「マサキ、ついて来いよ! 一緒に引き付け役やろうぜ!」
 戦いの現場を体験してこそ、本部長の名に恥じぬ活躍ができる。マサキは「よろしくお願いします!」と返事した。それを見ていた辰巳 空(ga4698)は、陽動組に念を押す。
「縄張り意識の強い食料保管型のキメラという、よくわからない性質の持ち主です。十分に気をつけてください」
 空は陽動班の奮起を促し、キメラと戦いながら状況を見極める終夜・無月(ga3084)に「そろそろ行きましょうか」と声をかけた。彼は明鏡止水を抜き、剣先を村に向けて言い放つ。
「作戦開始だ」
 その言葉に仲間はおろか、警察官も一緒になって奮い立つ。熱気を帯びた風を全身で感じたシクルは、少し気圧されていた。

●討伐と救出
 作戦は東側から陽動班を先頭にして、すばやく進入を開始。
 ガル、ヨグ、リョウの後を、マサキが愛機ズィベーアで追う。4人のドラグーンが出撃する姿は、まさに壮観の一言。村の中央を徘徊していたサイは、すぐさま侵入者の存在に気づく。そして土煙を上げながら、巨体を揺らして登場した。
「グモオオォォォーーー!」
 先頭を駆けるガルは「いっちょやってやるか!」と、大声で名乗りを上げる!
「燃え盛る情熱! 業炎ライトニングファイア参上! 行くぜーーーっ!」
 ガルは騎乗したまま、ライトピラーを使って足を狙う。ヨグも同様に、敵につかず離れずの距離からパイルスピアで威嚇攻撃を仕掛けた。あくまでも陽動が目的なので、無理に当てにはいかない。マサキもそれに倣って、必死のハンドル捌きで任務をこなす。
 自分の周囲が騒がしくなると、サイはすっかり落ち着きをなくす。とにかく鼻息を荒げ、手近な人間を吹き飛ばさんと動いた。
 その時、頭上にエネルギーガンの光が降り注ぐ。敵は思わず、そっちを見る。そこは少し小高い丘の上で、逆光の背景にしたリョウの姿があった!
「人々を恐怖に陥れ、平和な村を脅かすその行為は校則違反だ‥‥行くぞ『輝力』、超武装変だっ!」
 サイの足元までアスタロトで駆け下りたかと思うと、瞬時に白いヨロイを装着完了。真紅のマントをはためかせ、機械仕掛けの勇者が今、舞い降りる!
「学園特風スーパーカンパリオン、未来を救いに只今参上!」
 ここまで魅せるリョウが、陽動のはずがない。颯爽と機械剣を抜き、敢然と敵に立ち向かった。レーザーの白刃が煌くたび、サイは悲鳴を轟かせる。
「モッ、モホォォーーー!」
 完全に先手を取ったメンバーだが、その勢いは留まるところを知らない。今度は無月がゆっくりと歩み寄り、静かな闘志を敵に放つ。
「俺に出会ったのが‥‥お前の不幸‥‥」
 大刀・明鏡止水を抜き、そのまま流れるような動作から一撃。そして身を捻らせて小回りの効いた攻撃を二度ほどぶつける。キメラから見れば、無月の攻撃はまるで自在に伸びる手足のよう。一度として同じ弧を描かぬ太刀筋は、まさに脅威である。序盤は陽動班も討伐班もうまく機能し、有利に事を進めた。

 東からの突入を待って、西側も動き出した。
 後ろに控える警官も村人と同じ一般人。シクルは危険が及ぶといけないと、脱出路から近い場所から順番に退避を行うことにする。鳳も小飛虎の上から「了解したで!」と答えた。一方、空は先頭でエンジェルシールドを構え、サイに村人の脱出を気づかせないように動く。ジリオンは「ここが活躍チャ〜ンス!」と踏み、仲間たちの中央で雄々しく叫んだ。
「先日、現在に在りしアノ神殿で転職してきた俺様の! 輝ける必殺技の数々を、特別に諸君らにもお見せしよう!」
 相手の熱気が冷めぬよう、すぐさま必殺技を披露する我らが勇者様。
「真! 勇者アイズッ!」
 本人は「説明しよう! 真・勇者アイズの俗称は、探査の眼という!」と丁寧に解説。鳳も思わず「親切やな〜」と感心した。
「むむっ! あの家にふたりの村人が小さくなって震えているのを感じる!」
 見た目と名称の怪しさはぶっちぎりだが、シクルが家の中を調べてみると、なんと言葉どおりの状況だった。鳳は急いで駆け寄り、飴やチョコを手渡す。
「もう少しや。元気出してや」
 救助した村人の疲労の色が濃いと判断すれば、警官に協力を求め、救護班のところまで運ぶように指示。鳳は集団パニックを誘発しないよう、冷静な対応を心がけた。
 そんな中、我らがジリオンは「勇者フラッシュ」を発動。要するにGooDLuckなのだが、これが知らず知らずのうちに村人発見の一助になっていることを、当の本人は気づいていない。
 さらに民家の玄関を開けては、いちいち「とーぅ! 俺様は! ジリオン! ラヴ! クラフトゥ! 未来の勇者だ!!」とやかましく名乗るが、このおかげで村人が安心して助けを求めに来るという奇跡を起こした。
 シクルはこの独特で圧倒的な雰囲気に戸惑いつつも、警察ともよく協力して西側の救助を順調に進める。

●竜たちの雄叫び!
 西側の道路に近い場所の避難が一段落したのを契機に、シクルはキメラを西に誘き寄せる手はずを整える。彼女は無線機でヨグに連絡し、徐々に西側へ導くように依頼。救助隊の面々も武器を構え、適度に威嚇してこっちに向かわせる準備をした。
「来ましたか」
 空がバイクの音を聞き取ると、シクルはすぐさま雷上動に弾頭矢を番えた。そして射程に入ったと同時に矢を放つ。
「村人は皆、無事に避難させた! こっちだ、キメラ!」
 強靭な皮膚の上で爆発が起こったかと思えば、再び弾頭矢が肩口で爆発。サイの視界を遮る。
「待たせたな! 彷徨える魂たち!」
 このキメラは最初から気配を察知することに長けているため、視界を遮られても移動に躊躇がない。ジリオンの名乗りと同時に動き出し、一気に西側へと駆け出した。
 ここで勇者は見事な逃げに転ずるが、同じ場所に空が陣取っている。そこできっちり渾身防御を発動させ、力強い突進をシールドで完全に防いだ。
「今です!」
 再びバイク部隊が敵を囲んで、集中を乱す。無月とリョウが向かってくるのを確認し、鳳とジリオンは安心して東側へ移動。警察にも移動を促し、再び救助活動を開始する。
 シクルは武器を風鳥に持ち替え、迅雷で急接近。サイに冷気を感じさせつつ、無常の二連撃を叩き込む!
「この間合い‥‥もらった!」
「モ! モギャアァァーーー!」
 猛々しい心を抉らんとする連撃を叩き込まれ、敵は堪らず悲鳴を上げる。彼女はそのまま走り抜け、東側の救助へと向かった。
 すれ違いざまに無月が瞬天速を発動して一気に間合いを詰めると、勢いそのままに斬り上げる!
「命を救う仲間には、手出しさせない」
 無月の言葉に、リョウも賛同の斬撃を披露。赤いマントが揺れるたび、敵の巨体もグラグラと揺れる。
「硬いのは体だけとは残念だ。俺たちは強い絆で結ばれている! これは何よりも強いっ!」
 リョウに挑発されたと感じたのか、サイはこれを聞くと怒号を轟かせた。しかし反撃をさせまいと、ガルとヨグが積極的にちょっかいを出す。
 手近なところに能力者がいるが、すでに空は二度目の渾身防御を発動。どんなに攻撃を仕掛けても、なしのつぶて。戦局は、もはや一方的な展開になりつつあった。
「この場はお任せします」
 キメラ対応班の大集合を受け、空も戦線離脱。村人の救助を完了させるべく、東側へと走り出す。サイはそれを逃がすまいと動き出そうとするが、マサキが必死に進路を防いだ。
「こんな私にも、私にもできることがあるっ!」
 そんな強い信念を感じさせるセリフに、ガルは思わず「オタクってホント世話がかかるぜ」と頭を掻いた。しかしすぐに「ま、俺もロボオタクだがな」と言い、まんざらでもない表情をしてみせた。

 的を絞らせないように動き回るドラグーン包囲網が功を奏し、サイは脱出中の村人を察知することは一切なかった。それどころか、マトモに攻撃する機会すらない。反撃に転じたところで、無月とリョウを排するのは困難。二重の囲みを抜くことは、ほぼ絶望的である。
 避難の終わった西側に移動したのを契機に、キメラ対応班はいよいよ討伐に向けて動き出した。
 無月は変幻自在の太刀筋と、サイの呼吸を乱すタイミングで攻める。足払いのように繰り出した一撃で巨体が揺らぐと、リョウは「今だ!」と叫んで輝力をバイクモードに変形。生身で機械剣を構え、不敗の黄金龍で爆発的に攻撃力を高めた!
「駆け抜けろ『輝力』! スーパーカンパリオンライディングMAXIMUM!」
 金色に輝いたまま騎龍突撃を繰り出し、敵を真っ二つにせんと迫る。黄金の龍が駆け抜ける瞬間を見極め、今度はガルがライトニングを身にまとい、同じく不敗の黄金龍を発動。知覚と命中を底上げすると、白銀のライトピラーを胸に突き刺さんとする!
「こっちもマックスモードだ! これで終わりにしてやる!!」
 ガルのフィニッシュに合わせる形で、ヨグも援護に回った。黄色のミカエルを装着し、背後から槍で攻め立てる。少年の攻撃は、サイの体を貫くほどの衝撃はない。しかし、敵の気を逸らすために繰り出した突きに乗せられた気持ちは、物理的なダメージをはるかに凌ぐ価値があった。
 無月の一閃で体勢が崩れたと見るや、黄金の龍となったリョウの衝撃波で我を失い、さらにガルが目の前から迫るという状況‥‥もはや、敵も耐えるだけで精一杯だ。
「グッ! グモホォホホォォーーーーー!」
「炎の楔! ライトニングピラー!!」
 ガルの渾身の一撃は、キメラを絶命へと追いやった。それを見届けたマサキは移動をやめ、敵の胸から機械剣を引き抜くガルに敬礼を送る。
「お、お疲れ様です!」
「マサキ‥‥こういうのを、みんなの勝利っていうんだぜ!」
 ガルの言葉を聞いたリョウとヨグが頷いているところを見て、マサキは改めて全員に向かって敬礼した。
「予定よりも早く敵を撃破しましたので、坂神刑事に連絡を入れた後、救助活動に専念します!」
「それがいいでしょう。鳳さんによれば、西側だけでも怪我をした方がいたそうです。俺は練成治療で回復を行います」
 無月が武器を片付けると、早々に東側へと歩き出した。村の救出が完了するまで、もう少し時間がかかりそうだ。

●導く者たち
 一時間後、東側の村人たちも無事が確認された。無月は体調不良を訴える村人3名に練成治療を施し、あとを救護班に託す。
 その救護班に混ざって、空が村人の診療を行った。ストレスによる病気の流行が懸念されるため、あまり甘く見ないように用心する。
 鳳とジリオンは村の周囲を警戒し、本当に安全が確保できたかの確認を行った。ちゃんとキメラを倒したのだが、少し勇者様の腰が引けてるのが印象的である。鳳は「もう出ないって!」と茶化すが、そのたびにジリオンが「もし見つけたら、倒してしまってもかまわんのだろぅ?」とか粘っこーくカッコつけていた。
「ホンマになんか出ぇーへんかなぁ‥‥」
 不謹慎とわかっていながらも、つい鳳はそう口走ってしまう。それをジリオンが必死の形相で反応し、無責任な発言を戒めるよう説教した。

 坂神は初任務だったマサキ本部長にねぎらいの言葉をかけ、リョウやガル、そしてヨグにも感謝の意を伝える。
「いやー、これでオジサンも自分の仕事に専念できそうだわ。マサキくん、今後ともよろしく頼むよ」
 緊張をほぐそうと軽いノリで話しかける坂神だが、本部長は先輩である能力者の前では笑顔ひとつ見せない。そんな彼に向かって、ガルはアドバイスを送った。
「マサキ。本気のバグアが相手の時は、特撮魂なんて捨てた方がいいぜ。ぜんぜん役に立たねぇからよ‥‥」
 確かに一理ある。ヨグも「んと、本気のバグアは容赦ないですね」と分析した。
 ところが、それを聞いたリョウが「そんなことはないですよ!」と反論。マサキに「熱い魂があれば、どんな敵だって撃破できます」と説く。予想外の展開に、思わずガルは柄になく慌てた表情を見せた。
「あっ、ああ‥‥その、なんだ。わりぃ、そういうつもりで言ったんじゃねぇんだ。本当に危険だって言いたかったんだ。ってか、どっちかというと、一度でいいから先輩らしいこと言ってみたかっただけで‥‥」
 ガルの発言の真意を聞いたリョウとマサキは目を丸くした。あまりに素直なので、リョウはプッと吹き出す。すると自然に、明るい笑いが広がっていった。
 そんな熱い男たちのやり取りを聞いていたシクルは、ヨグを捕まえて素直な感想を述べる。
「皆、終始すごいテンションだったな‥‥」
「えと、シクルさんも気合が入ったなら、仲間なんですよっ」
 ヨグの解釈は間違っていない。この戦いを勝利に導いた全員が熱かった。そのおかげもあってか、この任務は大成功。マサキ本部長の次なる戦いは、いったいどこか。