タイトル:能力者さんのお部屋拝見マスター:村井朋靖

シナリオ形態: ショート
難易度: 易しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/02/03 23:51

●オープニング本文


 常日頃からバグアの侵攻に晒され、地球に住む人々は身も心も疲弊している。
 そんな厳しい状況でも、「いつも四国に笑顔を!」を合言葉にがんばるローカル放送局が存在した。その名も「瀬戸内海なるとテレビ」である。
 突撃リポーターや美人アナウンサーを差し置いて一番人気の熱血局長・村松は、いつものように全世界へ発信できるネタを模索していた。

 寒風吹きすさぶ頃、天満橋・タケル(gz0331)がテレビ局の駐車場に自慢の屋台を停めた。
 村松とは昔からの友人である。タケルは近くまでくれば必ずここを訪ねるが、相手は取材でいないことも多い。今回はどうかと思ったが、偶然にも村松は局長室にいた。
 ふたりは再会の挨拶を交わし、応接用のソファーにどっかりと腰を下ろす。
「さすがの村松さんも、冬の寒さには参っとる感じ?」
 さっそくご挨拶代わりのジャブを見舞うタケル。しかし、相手も負けてはいない。
「この時期は暖まらないとなー。タケルちゃんに奢ってもらうかなー。ああ、牡蠣入りのお好み焼きでいいわ」
 タダで飯を食おうとするどころか、ちゃっかり注文まで済ます村松。さすがのタケルも「ホンマかなわんなー!」と頭を掻く。
 それを見た局長は豪快に笑った。
「はっはっは! ちょうど昼時なんかに来るからだよ。お、でも本当にいいタイミングだな‥‥ちょっと待ってくれよ」
 村松は何かを思い出し、自分の机の上からあるプリントを持ってくる。どうやら番組の企画案らしい。
 それを手渡されたタケルは、声に出して読み始めた。
「ふむふむ‥‥傭兵さんのお部屋拝見?」
「能力者として活躍する彼らもまた人間だ! お子様から大人、そして結婚している者もいるはず‥‥そんな彼らの普段の生活を視聴者が知ることで、イメージアップにも繋がると思うんだよ!」
 そう熱っぽく話す局長を見て、タケルは無意識に企画の立案者を確認する。予想はしていたが、やっぱり村松本人だった。
「ULTに依頼を出した時こそ一緒にはなるけど、さすがにみんなの自宅に行くことはないなぁー」
 タケルは実体験を振り返る。確かにお宅訪問をしたことはない。
 そんな感想を口にする料理人に向かって、村松はニンマリしながらマイクを渡す。タケルは思わず反射的に受け取った。マイクの持ち手には「能力者さんのお部屋拝見!」というプレートがつけてあるではないか。
「‥‥何これ? やるかやらんかもわからん番組のロゴ入りのマイクまで作ったん! 気ぃ早いわー!」
 ところが局長はえっへんと胸を張る。何やら秘策があるらしい。
「タケルちゃんはULTに話を通せるだろ? それに喋りもうまいからな。この企画は君が来たら、すべてを任せるつもりだったのだよ! はっはっは!」
 口から出るのは、タケル頼みの言葉だけ。これは秘策でもなんでもない。ただの無茶振りだ。しかし無茶振りもここまで度が過ぎると、すがすがしさしか感じない。なんとも不思議なものだ。
 タケルはマイク片手に「いっちょやったるわ!」と村松の企画に乗る。実際のところ、リポーターもまた能力者さんのお部屋を見てみたいという好奇心もあった。
 彼はULTへ依頼を流すべく、局長と一緒にスタジオを使ってビデオを制作する。その暑苦しさはいつにも増していた。

●参加者一覧

リチャード・ガーランド(ga1631
10歳・♂・ER
百地・悠季(ga8270
20歳・♀・ER
ヴァレス・デュノフガリオ(ga8280
17歳・♂・PN
佐倉・咲江(gb1946
15歳・♀・DG
レイチェル・レッドレイ(gb2739
13歳・♀・DG
流叶・デュノフガリオ(gb6275
17歳・♀・PN
陽山 神樹(gb8858
22歳・♂・PN
過月 夕菜(gc1671
16歳・♀・SN

●リプレイ本文

●まずは少年の部屋
 突撃リポーターの天満橋・タケル(gz0331)は、局長の村松に加え、アシスタントの過月 夕菜(gc1671)と一緒にお部屋を巡る。
 彼女はこっそり取材スタッフの打ち合わせに潜入し、「にゃーん! 今日はみんなよろしくね!」と派手に登場。この明るいキャラクターが局長の琴線に触れ、一発でアシスタントに抜擢された。その後は夕菜も猫の手帳にメモしながら、今日の流れを確認する。
「最初は科学者さんのとこ行くで〜!」
 タケルがそう呼ぶのは、リチャード・ガーランド(ga1631)だ。わんぱく小僧らしいので、初っ端の盛り上がりが期待できる。
 すでに一行は撮影現場の目と鼻の先にいた。あとは襲撃‥‥いや、取材を行うだけである。
 この場所から撮影がスタート。タケルと夕菜がカメラの前で軽快なトークを繰り広げる。
「ほなら、さっそくリチャードさんのとこ行くで〜!」
「にゃーん! それなら抜き足差し足、忍び足〜。そーっと!」
 夕菜がアドリブすれば、タケルがやり返す。村松は「フレームアウトする時はそれね」と演出を変えた。

 一軒目は、リチャードのお部屋。少年は玄関でカメラに遭遇すると、年相応の態度を見せる。
「はじめましてー。リチャード・ガーランドだよー。よろしくー」
 笑顔で取材陣を迎え入れるが、部屋は乱雑。さすがは子どもの家である。タケルは「子どもの頃はこんな感じやわー」と感想を漏らしながら、まずは最初の部屋に入った。
 そこは工作活動を行うための作業部屋である。部屋の隅にはドライバーなどの工具が床に転がっており、机には料理人には理解が難しいであろう基盤が並ぶ。専門的な知識が必要なものはスルーし、誰にでもわかりそうなものを探していると、夕菜がきれいに梱包された箱を持ってきた。
「さすがニャンニャン! ええもん持ってきた!」
 タケルが夕菜を褒めると、リチャードは止めに入った。
「ダメだよー。それ開けちゃ。僕の秘密なんだから」
 健全な少年の秘密とは、あまりにも甘美な香り。それを関西系お笑い料理人と秘密が大好きな猫が我慢できるはずがない。「それにテレビだし」という言い訳を盾に、彼らは速攻で開けた。
 すると、包装を取った瞬間に「パンっ!」と鳴って、勝手に蓋が取れる。あまりの衝撃に、思わずカメラさんものけぞった。しかし飛び出したのは「YouDead♪」と書かれた紙だけ。同じくビビリ倒したタケルが、リチャードに説明を求める。
「ビックリしたわ! これ、何なん?」
「解体訓練用の手製模擬爆弾だよ。昔、依頼でうまく爆弾を解体できなくってさ。それ以来、暇を見つけては爆弾の研究さー」
 楽しそうなギミックの裏に隠された深い事情を聞き、村松はスタッフの後ろで涙ぐみながら「いいよ〜」と頷く。
 続いて紹介されたのは、いかにも子どもらしい寝室。さっきとは違い、いろいろ探してもよさそうな感じの部屋である。本棚には漫画やアニメ、ラックにはフィギュアのコレクションが並んでいた。その中から、リチャードはあるぬいぐるみを持ってくる。
「えーっと、これ、KVコンテストにプランを出したハヤブサベースの設計機・XG−43R零式飛燕のぬいぐるみ。入賞記念なんだ」
 タケルは「へぇー」と言いながら、ベッドの上で動かして遊んだ。
「技術者としては、実機で飛んでほしいけど」
「そのうち、リチャードさんの設計したKVが飛ぶかもね!」
 タケルはそうまとめると、少年に「お腹空かん?」と振る。リチャードは「料理は得意じゃないよー」と言うと、夕菜が「うにゃん♪ じゃあ食べに行こ!」と彼の手を引いて、次の取材場所へと移動した。

●黄昏なき風景
 お次はレンガ造りの珈琲ショップ喫茶店「黄昏」。ここは百地・悠季(ga8270)の店舗兼自宅である。あまりのおしゃれさに、取材陣は「ほぉ〜」と感心しきり。そこに悠季が出迎えた。
「まいど〜! きれいなお店でビックリしたわ〜!」
 タケルの言葉に「ありがとう」と微笑む悠季。店内へと入ると、これまた雰囲気のある装飾が迎える。さっそく夕菜は店内を視察し、カメラの前でリサーチした結果を発表。
「窓際にテーブル席ふたつ、奥にテーブルカウンター。備え付けの簡易厨房と、隅っこに喫煙室があったよ〜」
「店舗の責任者は旦那なんだけど、傭兵家業で出張三昧。なので、実質あたしが切り盛りしてるわけ」
 相手が既婚者となれば、そこを聞かないわけにはいかない。しかし腹ペコを理由に連れてきたリチャードを満足させるため、まずはお店のオススメを出してもらうことになった。
 悠季はキリマンジャロコーヒーとBLTサンドを作って持ってくる。スタッフの分も用意されたので、カメラの裏で村松が遠慮なく試食。そして「うまい!」と声を上げた。その反応に、悠季も満足げである。
 ところが不運にも、タケルと夕菜がカメラの前で必死になって感想をつけている最中。全部を村松に持っていかれたふたりは、思わずジト目で局長を睨んだ。
「なんで村松さんが一番ええ反応すんね〜ん!」
「うにゃぁ! 私たちの努力が水の泡に〜!」
 ひとしきり苦情を訴えると、タケルは気持ちを切り替えて、別のネタを振った。
「ああ、そういえば旦那さんの写真とかありますん?」
 そう言われ、悠季は一冊のアルバムを持ってくる。そこには思い出の写真がたくさん。驚くほど美男子の旦那さんと、執事服じゃない悠季が髪を下ろして立っている姿はなんとも新鮮である。
「せっかく仲ええのに、傭兵家業が忙しーて戻ってこんってのは、寂しいでしょ?」
 タケルの問いかけに、悠季は「そんなことないわよ」と答えた。
「大丈夫、必ず戻ってくると確信してるから」
「にゃーん! この微笑みは自信と惚気の表情だね〜!」
 同じ女性の夕菜に言われると、さすがの悠季もクスッと笑う。いつも愛する人の帰りを待っているのは、能力者も同じなのだ。

●夫の罠、妻の焦り
 今度は悠季も連れ立って、再び夫婦のお部屋を訪問する。
 取材スタッフは事前に夫のヴァレス・デュノフガリオ(ga8280)から連絡を受けており、「玄関はノックしてほしい」と頼まれていた。それを聞いた夕菜は尻尾を立てた猫のような反応を見せる。
「にゃーん! 面白いことが起こるっ♪」
 彼女の予想は当たった。タケルは玄関の扉を小さくノックすると、すぐにヴァレスが登場。そのまま部屋に入ってほしいと促す。
「実はさ、流叶がまだ寝てて‥‥」
 なんと妻の流叶・デュノフガリオ(gb6275)はまだ寝ているという。しかし取材を受け入れるということは、彼はそれを見せようというのだ。
「ぬいぐるみでコーディネートしたあの部屋を用意した身としては、他の人の意見も聞きたくあるんでね♪」
 これが本当の理由だったとしても、もう言い訳にしか聞こえない。ヴァレスの底知れぬ愛情に、タケルは脱帽した。
「カメラに撮って大丈夫なんか、それ‥‥」
「いいってば♪」
 遠慮している理由がまったく通じてないことを悟り、タケルは「なら映す!」と自らを奮い立たせた。
 そして、ついに禁断の扉が開かれる。
 ヴァレスの言葉どおり、無数のぬいぐるみに埋もれるように、流叶はすーすーと寝息を立てて眠っている。この日の彼女はうさぎさんのパジャマを着ていた。
「さすが流叶、見事なぬいぐるみとの同化率‥‥!」
 カメラさんが慌てて彼女がどこにいるか探したほどの同化率は恐るべし。彼が流叶をフレームに収めるのと同時に、ヴァレスが声をかけた。
「流叶、起きて〜! リポーターさんが来てるよ〜!」
「はぇ‥‥ヴァレス? 今日は随分と早起‥‥」
 盛大に寝過ごした流叶を待っていたのは、大勢のスタッフと同行者。うさぎさんのまま、盛大に慌てる流叶。しかしすでに夕菜は隠密潜行を発動させ、音もなくクローゼットに迫っていた。
「え〜、こっそり〜〜〜」
「ちょ、ちょっと! ここはダメだったら!」
 顔を真っ赤にして部屋から追い出そうとするも、時すでに遅し。秘密のクローゼットを開け放たれると、流叶は「あ‥‥」と発して固まった。
「流叶はさ、かわいい服をいろいろ着てくれるんだよ♪」
「にゃーん♪ きわどい服がたっぷり! これで旦那さんを誘惑してるのかなー?」
 さすがは女性アシスタント、よくわかっていらっしゃる。夕菜は中から服を出そうとするが、流叶が前に立ち塞がった。
「ほんっとうに、ダメっ!」
「はいはい、わかったよ。流叶は後ろで見てなって♪」
 ヴァレスは抱きしめるようにして流叶を排除し、夕菜に「端のやつなんかいいよ♪」とオススメする。ひょいっと退けられた流叶はじたばたと抵抗を試みるが、もはやどうしようもない。
「ふぇ? ヴァレス、なにするーっ!?」
「にゃにゃん! これはきわどいドレスー!」
 夜魔のような衣装を見たタケルは、「これはスゴい!」と感動しながら実況した。次々と出てくる衣装に、さすがの悠季も顔を赤らめる。
「さすがに、ぬいぐるみと衣装のギャップがすごいわね」
「あ、あれはヴァレスが見たいって言うから着てるだけで‥‥!」
 早くもアツアツっぷりを披露し、番組的にも大成功。局長の村松も嬉しい悲鳴だ。
 この後、流叶が着替え、お茶の用意をお願いされたのを契機に少し持ち直す。ヴァレスのためにとうまく淹れるようになった紅茶と、旬の鳴門金時の栗きんとんを出し、しばし優雅なティータイムを過ごした。

●ヒーロー現る!
 ヴァレスと流叶も連れ立って、続いては陽山 神樹(gb8858)のお部屋を訪問する。家主が黒のダークヒーロースーツを着ての登場に、タケルとリチャードが食いついた。
「おおっ、ここでヒーローのお出ましや!」
「なかなかいい造形ですねー」
 これですっかり気をよくした神樹は、丁寧に掃除された部屋の中へと招待する。
 タンスの上にはフィギュアやヒーローショーで撮った写真が飾ってあり、壁には特撮物のポスターがある以外は清潔感あふれるイメージ。神樹もカメラに向かって「よい子のみんなも自分の部屋はきれいにしよう!」とさわやかにポーズを決める。
 番組的にはきれいにまとまったが、取材班には気まぐれな猫の夕菜がいる。
 彼女はここでも隠密潜行を発動し、何気なくベッドの下に手を突っ込んで爆弾を発見。それをすぐさま、カメラの前に晒す。
「にゃーん♪ 特撮アイドルの水着大全集、はっけーん! よい子のみんなー! ファンはヒロインのその後も見守るのがお仕事なんです!」
 あまりにベタな隠し場所だが、なんとも神樹らしいお宝である。あとでスタッフが調べてわかったことだが、この作品はプレミアがつくほどレアな商品らしい。慌てふためく神樹の姿が大写しとなり、見事なオチがついたところでカットとなった。
 村松からオッケーが出ると、神樹が今日の様子を実家に送ってほしいとスタッフに頼んだ。村松は快くオッケーし、恥ずかしい場面抜きの特別仕様に編集することを約束する。さらに実家に向けてのコメントも入れようと、その場で追加の収録を行った。
 その様子を能力者たちも暖かい目で見守る。
「なんだか、微笑ましいわね。こういう、のも‥‥」
 少し苦しそうにしている悠季を見た流叶が、慌てて台所の椅子に座らせた。
「いったい如何し‥‥っ! 百地殿、ひょっとして‥‥?」
「自分の番が終わって、緊張の糸が緩んだかしら‥‥」
 流叶に「そういうこと」という視線を送り、悠季は収録が終わるまでは黙っておくようにお願いした。

●イケない空間!
 最後はヒーローも付き添って、女の子ふたりが同居する部屋を訪問。神樹とタケル、そして局長は少し興奮している。
 あるマンションの最上階の一室‥‥ここが佐倉・咲江(gb1946)とレイチェル・レッドレイ(gb2739)の愛の巣だ。ご丁寧にもエントランスでレイチェルがお出迎えした。
 どこかで見たような展開に、流叶が思わずジト目で夫を見る。
「んふふ〜。それじゃ見せてあげよう♪」
 まずは玄関から。
 もはやお約束となった隠密潜行を使い、夕菜が靴箱を開ける。ふたりで住んでいるにしては、靴の数が多い。神樹は「これが女の子かー!」と納得するが、ヴァレスがツッコんだ。
「ちょっと靴が多いかな?」
「それは、ほとんどボクの。気分次第で履く靴を変えるから」
 タケルは「なるほど〜」と言いながら、いよいよ部屋に潜入。レイチェルがリビングの扉を開くと、そこに下着姿の咲江が無防備な状態で立っていた!
「がぅ、着替え急がないと、レポーターさんが‥‥がぅ? がぅーーー!?」
 男性陣は目を逸らし、女性陣も「あっ!」という表情で咲江を見る。
 レイチェルは「ごめんサキ、まだお着替え中だったね」と言いつつも、下着姿をカメラに堪能させた。恐るべし、確信犯。ヴァレスは「その手があったか」という表情を浮かべると、流叶が肘で小突く。
 その後は咲江も合流し、女の子らしいピンクを基調とした内装のリビングを披露。ここもあふれ返るほどのぬいぐるみがいたが、これを用意したのはレイチェル。カーテンやソファもフリフリヒラヒラの装飾がついている。
 そして今までの中で一番きれいなキッチンを見て、タケルが思わず唸った。
「これはすごいなー! 掃除してるんやねー!」
「キッチンはきれいだけど‥‥がぅ、料理は‥‥」
 まさかの返答に、誰もが耳を疑う。なんとふたりとも料理しないからキッチンはピカピカ、というオチだった。
 続いてお風呂を拝見するも、タケルはおろか咲江も「がぅ!」と驚く。タケルは驚きの元凶を扉の裏に隠し、カメラマンにも「撮ったらアカンで」と念を押してから撮影を再開した。
「広いお風呂やね! ふたり入っても、まだ余裕あるで〜」
「サキと一緒に入れるように、お風呂の広いトコ選んだもん♪」
 そういう部屋選びは、一般人とまったく変わらない。タケルは「ふーん」と言いながら、必死に扉を背中で押さえつけた。
 同じ理由で、寝室もダブルベッドが設置されている。部屋が手狭になっているが、寝るだけなら快適。お風呂と同様、ふたりはここで寝ているらしい。
 ここで夕菜がいろいろ探り始めたが、出てくるのは放送に乗せられないアイテムばかり。それを証拠に、何度も「うにゃん?!」という困った声が響く。
 神樹は内容を察すると、リチャードの目に手を当てて保護。既婚者は頬を赤らめ、視線を合わせないようにがんばる。咲江も照れて黙り込む中、レイチェルだけはアシスタントが発見した物の解説を始めようとした。
「ああ、それはねー☆」
「あーあーあー! あかん! それ言うたら、放送でけんっ!」
 その後はレイチェルの説明を阻止せんと、スタッフや見学者が一丸となって、必死に声を出してがんばった。

 こうしてピンクの内装のように賑やかな雰囲気のまま、収録は終了。本放送もこのままのテンションを保ったまま、視聴者の元へと届けられた。