●リプレイ本文
●敵も味方も?!
敵の出現は夜‥‥依頼を受けた能力者たちは、その日の昼に準備を整える。
正義の白きミカエルを駆り、街の警戒にあたる夏目 リョウ(
gb2267)は、市民から暴走キメラの情報を収集する。ULTに解決を依頼した天満橋・タケル(gz0331)の言うとおり、夜遅くに帰宅する職業の人たちはその噂を知っていた。リョウはひとつ頷くと、美しい髪がさらりと揺れる。
「馬と鹿のキメラ獣か‥‥大方誰かが『馬鹿は迷惑』とか言ったのを、バグア星人が真に受けて勘違いしたといったところか」
それでも迷惑になっているのは、紛れもない現実である。リョウは聞き込みを続けた。
山に日が沈もうとする頃には、タケルの屋台の前に能力者たちが集った。
ところが、こちらも負けじと暴走族スタイル。ヤナギ・エリューナク(
gb5107)が威勢よく「夜露死苦ゥ!」と叫べば、オルカ・スパイホップ(
gc1882)もリーゼントカツラに櫛を通してバイクを空ぶかし。
「KVで磨いた運転技術を見せつけちゃうよ〜! ヨロシク〜!」
「オルカ、わかってんな。ま、速攻でちょっくらヤキ入れてやらァ」
ノッてるふたりの隣に、爆音を鳴らすリンドヴルムが『パラリラパラリラ♪』と奏でながら止まる。乗っているのはラーン=テゴス(
gc4981)。レディースの登場に気合いの入った「ヨロシク〜!」で出迎えるヤナギとオルカの義兄弟。まるで彼女もその空気を楽しんでいるかのようだ。
それを冷静に見ているのが、フィー(
gb6429)とラナ・ヴェクサー(
gc1748)。フィーは拳銃に貫通弾を2発とも装填し、ラナは超機械シャドウオーブを用意。
「‥‥夜は‥‥寝る時間‥‥みんな寝てる‥‥静かにしなきゃ‥‥めっ‥‥!」
フィーがそういうと、ラナも「まったくですね」と同意する。
「暴走行為、ね‥‥無粋な上に、迷惑なキメラですこと」
その言葉を聞いたメシア・ローザリア(
gb6467)は、警察へのパトロールを要請を済ませ、話の輪に入る。
「わたくしたちは、キメラ退治を行うだけ。後は地元警察の皆様にお任せしますわよ」
彼女は無線機を警察との連絡用に設定し、自分は片山 琢磨(
gc5322)の車に同乗する旨を伝えた。ラナは自分のバイクに、フィーはオルカのバイクに乗る予定だが‥‥少年のバイクには暗剣が括りつけられている。さらに頭はリーゼント。本人もノリノリ。どこかいやーな予感が漂う。
「‥‥大丈夫‥‥たぶん‥‥」
フィーは小さく頷いて、後部座席に乗る。彼女もまた、みんなの威勢のいい声で出迎えられた。それを見たタケルは「楽しそうやなぁ〜」と見ていると、いいタイミングでリョウが姿を現す。
「お! リョウさん、どこ行ってたんや?」
「聞き込みをしていた。俺が集めた情報ときみの提供した情報は、だいたい一致するな」
リョウはそう言うと、峠の展望台近くにある広い駐車場に目をつけ、ここに網を張ることにした。メシアは即座に無線で警察へ連絡し、周辺の道路の封鎖などを依頼する。タケルは全員に「がんばってな!」と声援を送り、安全な場所へ退散。能力者たちはそれを見送ってから、現地へと向かう。
●一網打尽!
四国の一大勢力となった暴走族の集会。これを発見するのは容易だ。目で見ずとも、音を聞けばわかる。あまりのやかましさに、ヤナギはタバコを手に持ち、「チッ、うるせーな!」と軽くキレた。
この時期は夜になると気温が下がる。フィーは「‥‥さむい‥‥」と呟いた。これにカーチェイスが始まると、風に晒されてもっと寒くなる。そう、バイクは風を感じるもの‥‥ラーンはそれを知る人物でもあった。この日、彼女は疾風になれるのか。
集会が一段落し、峠を下って暴走が開始された。もちろん先頭は、馬と鹿のキメラを従えた純白の特攻服の男である。その後を続々と族車が続いた。まるでやかましい大名行列である。
「ヒャッハー! 行こうぜー!」
オルカが気勢を上げると、兄貴とラーンが動き出す。まずはみんなで暴走族の交通整理。本業顔負けの勢いで、ぐんぐん近づく。スピードが上がるのを肌で感じ、フィーはちょっと驚いた。
「‥‥おー‥‥はやーい‥‥」
見た目が完全に同業者の3台は最後尾の連中を追い抜かし、前へと進む。
この辺にいる下っ端連中は、なんとヤナギたちを「仲間だ」と本気で勘違いした。ヤナギが仲間で、ラーンがレディースやってる妹。オルカが末弟でフィーはその彼女‥‥そんな風に見えたらしい。それが幸いし、悠々と先頭付近までたどり着く。
「この先の直線までに仕事しねぇとな!」
ヤナギは小銃を構え、リーダーに続いて走る馬のキメラに照準を定める。そして影撃ちを駆使した一撃を発射。渾身の一撃は足に命中し、周囲にいななきが響く。
「う、馬に攻撃! あいつらは敵?!」
連中はようやく敵の接近に気づく。さすがは馬と鹿に頼る暴走族。
フィーは小銃で威嚇射撃を行い、全体を縦列に並ぶように仕向ける。ヤナギも同様に、小銃を使って交通整理。ラーンは減速と加速を使い分け、列を揃えながら後ろへ下がった。その間、「おらおらおら、ちんたら走っていて暴走族とか言えるのか?」と挑発する。後列はメシアが琢磨の車から身を乗り出し、ガトリング砲で威嚇射撃を放った。
徐々に隊列が整ったのを見計らい、オルカがリーダーの挑発を開始する。
「馬と鹿って繋げたらなんていうか知ってる〜? バカって言うんだよ〜! 誰かさんみたいだね! どうせそんなの引き連れてるくらいで、ぜーんぜん運転ヘタクソなんでしょ?」
リーゼントのガキに舐められては、示しがつかない。ケタケタ笑うオルカに、リーダーは怒った。
「このガキ〜! 言わせておけば!」
「あ、怒った? ゴメンね〜、ホントのこと言って〜」
弟の言いっぷりに、兄貴も「そんなにイジメてやンなよ」と同情のコメントを寄せる。
「ガキに負けるか、ガキにーーー!!」
「え? 自分の方が運転うまい? ホント?」
いちいち確認するところが憎たらしい。無邪気な少年はリーダーの心を容赦なくドリフト走行。
「てめぇこそ、口だけじゃねーのかよ!」
「なら、あの峠で勝負!!」
この先にあるという峠は、いわば連中の庭。そんなところでレースに負けるはずはないと、リーダーは一気にスピードを上げる。オルカはすぐに追った。その瞬間、リーダーとキメラの距離が離れる。今まで動かなかったリョウは、この瞬間を待っていた。そして全員の鬱憤を晴らすべく、一気にアクセルを回す!
「駆け抜けろ『騎煌』‥‥人機一体」
みんなが手間を惜しまず暴走族を縦に並ばせたのは、リョウの騎龍突撃で一網打尽にするためだった。この衝撃波で暴走族はことごとく蹴散らされ、バランスを乱して次々と転倒。なんとか体勢を維持しても、他のバイクが滑り込んできて倒れてしまう。そんな中を白き炎が駆け抜け、状況を把握していないリーダーを追った。
●馬と鹿を退治!
この場に残った敵は、馬と鹿のキメラのみ。
ラナは超機械で鹿の足を攻撃し、一瞬だけ戸惑わせることに成功。その隙を突いてラーンは覚醒し、リンドヴルムを装着する。さらに竜の瞳と竜の爪で攻撃面を強化、竜の鱗も駆使して万全の体制で挑む。
「鹿鍋と馬刺しの材料にしてやるぜ」
まずは怯んだ鹿の料理を開始。刃は高速で動くチェーンソーという独特の武器を使い、攻撃を命中させる。
ラナはバイクを、琢磨とメシアも車を降り、キメラの殲滅に動き出した。琢磨はラーンに加わり、鹿をマーシナリーナックルで殴る。
「ふっ、はぁ!」
「ケピーーーーー!」
鹿の悲鳴が響くと、馬もピクリと体を震わせる。その反応は正しい。なぜなら、ラナとメシアが馬の命を狙っているのだから。
メシアは影撃ちで華奢な脚を狙い、強力な一撃を食らわせる。ラナも武器をライトニングクローに持ち替え、瞬天速で一気に間合いを詰めると同じ箇所を何度も攻撃。ダメージを与えるとともに、機動力も削いでいく。キメラに指示を下すリーダーはいないが、本能的にリーダーのところへ戻ってしまうと困る。そのため、序盤は脚を狙っての攻撃に徹底した。
馬の反撃はバックキック。しかし脚を痛めたせいか、ラナはこれを回避。一方の鹿は角があり、これを活かした攻撃を繰り出す。ラーンは攻撃を防御しきれずに、琢磨は回避に失敗してダメージを受けた。
「面倒は嫌いだ。次は一気に決める」
琢磨の言葉に、ラーンも「同感」と答える。そして再び竜の鱗を発動させ、今度は角を折らんと剣を振り回す。その片方がポッキリと折れると、鹿は苦痛に悶えて飛び跳ねた。
「ケピ! ピピピ!」
それを聞いたメシアは銃口を鹿に向けて攻撃し、敵を蜂の巣にする。琢磨はチャンスと見るや、疾風脚と瞬即撃を駆使して一気に決着を狙う!
「これで、終わりだ‥‥」
道を穢すものへの鉄槌が振り下ろされると、鹿は返事代わりに断末魔の悲鳴を轟かせた。
「ピィィィーーーーーー!」
相方の馬は、思わずそっちを向く。ラナは「2匹セットじゃなくてもバカ」と思いつつ、容赦なく首に爪を突き立てる。これを避けるほどの集中力が、馬には残っていない。その油断は、自らの命を捨ててしまった。
「ヒ! ヒヒィーーー!」
馬と鹿は、ほぼ同時に道路へと倒れた。メシアは無線機で警察に連絡し、自分の足元に暴走族が無様に倒れていることを伝え、後の処理を任せる。そして探査の眼を駆使し、リーダーの追跡に備えた。
「終わったか‥‥先に行っているやつらを追う、ついてくるか?」
琢磨の言葉に3人は頷き、それぞれに峠を攻める。ラーンは疾風となるべく、ほぼフルスロットルでコーナーを駆け抜けた。琢磨も麗しきレディを乗せてはいるものの、やはりレーサーの血は抑え切れずにコーナーを攻める。ここの峠もまた、武器を使わぬ戦いの場所といえるだろう。
●リーダーを討伐!
馬と鹿のキメラを撃破した頃もまだ、リーダーを先頭にしたレースは続いていた。
オルカは本気で運転して張り合うも、要所では「やーい! ヘタクソ♪」と相手を挑発する。その様子に不安を感じたのか、フィーはしっかり運転する少年を掴んでいた。
実はこの時すでに、リーダーは罠にハマっていた。この時、バイクの排気音は3つだけ。勝負を仕掛けたオルカとフィーが乗るバイクとリョウのAU−KV、そして自分のバイク‥‥そう、これでは数が合わない。ここにはなぜか、ヤナギのバイク音がないのだ。
その謎は、すぐに明らかになる。少し道がなだらかになった場所から、ひょっこりとヤナギが姿を現した!
「げぇーーーっ! なんで、あいつが前に!」
リーダーが驚くのも無理はない。ヤナギは峠攻めの直前にスッと脇道に入り、この付近にある休憩所に先回りしていたのだ。バイクは急に止まれない。急に止まっても、後ろからはオルカたちが迫る。しかもオルカのバイクには獲物が‥‥こうなると、リーダーも気が気ではない。
そこでインサージェントを持ったリョウが機鎧排除の効果を発揮した上で、騎乗したまま竜の咆哮を繰り出した!
「なっ! そ、そっちから攻撃だと‥‥ぶげっ!!」
この状況で攻撃を避けられるはずもなく、リーダーは地面へと転がされた。リョウは雄々しく叫ぶ。
「迷惑な暴走行為は、校則違反だ‥‥行くぞ『騎煌』、超武装変だ!」
動きの止まった敵を退治すべく、リョウはミカエルを装着。すぐさま休憩所の小高い丘に立つ。オルカたちもバイクを降り、リーダーの包囲網を作った。
「学園特風スーパーカンパリオン‥‥授業中でも出動OK!」
「‥‥ってことなんで、ヨロシク〜!!」
ヤンキー座りでリョウの名乗りをフォローするオルカ。さすがのヤナギも「今日のオルカ、いろいろ持ってき過ぎだよな」と言いながら、ガラティーンとエーデルワイスを構える。
フィーは体勢が崩れているうちに、強弾撃を駆使して敵を貫通弾で狙撃。すさまじい威力の弾丸が脚に食い込むが、相手は痛がるだけ‥‥想像はしていたが、やはりリーダーの正体は強化人間だった。そうとわかれば、もう遠慮はいらない。ヤナギは武器を重ねて不気味な音を鳴らしながら、ゆっくりと敵に迫る。
「根性見せろやァ‥‥っ!」
さっきまでは虚を突かれてばかりだから、敵さんがあれだけ驚いても仕方ない。だが、ここからは小細工なしのガチンコだ。
ヤナギの気迫に応え、強化人間は素手で殴りかかる。しかしヤナギは爪で簡単に受け止め、そのまま直刀で円閃を繰り出した!
「歯ァ食いしばれッ」
強烈なカウンターで身を揺らすと、オルカも背後から脚甲を活かしたケンカキックを見舞う。さらには正義に燃えるリョウが槍斧で連続の突きを放ち、あっという間に追い詰めた。
「く、くそっ! うがっ!」
悔しさを口にする暇もなく、フィーが強弾撃を発揮しての射撃をまた命中させる。さらにオルカがサッカーボールキックで足元を狙うと、兄貴のヤナギがジャンプして剣で力強い一撃を落とした。これを食らっては命が持たないと、リーダーは意地で食い止める。
「ぐぐっ! まだだ!」
「へっ、馬と鹿がいなくて残念だな。こっちには、頼れる仲間がいるんだゼ?」
負け惜しみではない笑みを浮かべるヤナギの後ろには、リョウが槍斧を構えて待っていた‥‥!
「き、貴様、最初から‥‥!」
「負け犬の遠吠えなら、あの世でやんなッ!」
「カンパリオンスーパーファイナルクラッシュ!」
リョウはヤナギが避けると同時にインサージェントを振り下ろす。今度こそ一刀両断。強化人間はヤナギに言われたとおり、無言で爆発四散する。形見と言わんばかりに、彼のバイクが地面に転がっていた。
●能力者たちの集会
キメラ対応班が到着したのは、まさにこの時。オルカが「終わったんでヨロシク〜!」と、みんなを出迎える。
きっと今頃は暴走族の連中は警察に逮捕され、馬と鹿のキメラも順調に血抜きされているだろう。これで事件は終わった。
琢磨は怪我をしたラーンを半ば無理やり救急セットで治療し、自らの傷も癒す。
その間、ラーンは峠攻めのことを思い出し、「疾風になるためには、まだまだ‥‥だぜ」と呟いた。それを聞いた琢磨は「あんたもか?」とだけ返す。彼女は鼻で笑うと、通ってきた道を見つめた。
依頼人がタケルということもあり、みんなの興味は馬肉と鹿肉へと移る。暴走族とタメを張る脚力があるなら、その身は引き締まって美味しいだろうと兄弟コンビは口を揃えた。フィーも「‥‥鹿と‥‥馬‥‥食べれる‥‥かな‥‥?」と小首を傾げるが、ラナだけは謹んで辞退する。
「‥‥あまり肉は好んで食べないので‥‥ごめんなさいね」
するとメシアが「タケルも料理人なのだから、あなたが召し上がれるものを作りますわ」と語る。ラナは「じゃあ、そうしてもらいましょうか」と頷いた。能力者たちの集会は、宴へと変わるようである。