タイトル:神と魔の少女、動く!マスター:村井朋靖

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/11/16 00:35

●オープニング本文


●キメラ刑事との連携
 『神と魔の少女』を名乗るバグア・榊原アサキの陰謀を阻止した後、杉森・あずさ(gz0330)は何かに憑かれたかのように彼女の影を追った。不気味な沈黙を続けていた沖縄で大いに暴れんとする少女を、このまま野放しにしておくわけにはいかない。とはいえ、敵はなかなか好戦的。すでに次の一手を打っている可能性もある。しばらくは「後手に回るのも致し方なし」と判断。あずさは情報を集めることに専念する。

 四国の新居に戻って新妻としての仕事をこなしながら、別のバグアを追っている『キメラ刑事』こと坂神・源次郎(gz0352)がいるという警察署に出向き、面会して調査を依頼した。もちろん無理は承知の上だったが、相手はこれを快諾する。
「金髪の旦那に繋がるかもしれないし‥‥こいつは引き受けるよ。それにイケイケのバイクに乗って、悪い男の子たちをいじめてたあーちゃんの頼みだから、さすがのオジサンも断れないね」
 坂神はあずさの過去をさらっと暴露し、いつものようにペースをつかむ。どうやら昔の彼女は奇抜な服装でバイクを走らせるのがご趣味だったらしい。今日までお互いに面識はなかったが、坂神は少年課の友人から話を聞かされており、彼女のことを一方的に知っていた。
 あずさは顔を赤らめ、ドキッとした表情のまま話す。
「あ、あの、若い頃の過ちはいいとしても、うちの旦那と同じ呼び方するの‥‥やめてくれない? っていうか、なんでその呼び方知ってるの?」
「え? 親友に呼ばれてたって聞いたけど‥‥もしかして旦那さん、何にも知らずにそう呼んでるの?」
 あずさは「余計なことを聞いてしまった」と、ガックリと肩を落とす。そうやって恥ずかしいのを懸命に堪えていると、キメラ刑事は満面の笑みを浮かべながら「任せときなって、あーちゃん♪」と追い討ちをかけた。この時、あずさの中で何かが切れてしまう。
「あ、あっ。あ‥‥あーちゃんって言うなーーーっ!」
 ついに我慢できなくなったあずさは、顔を真っ赤にして愛用の刀を抜いた。坂神は彼女の目がマジなのを見るや、部屋の扉まで一目散に逃げる。あずさがこれを我を忘れて追いかけたもんだから、警察署は蜂の巣をつついたような大騒ぎになってしまった。
 とにかく、キメラ刑事の協力を得ることに成功。あずさはそのまま愛機とともに沖縄へ飛ぶ。もうそろそろ騒ぎが起こるはず‥‥そう読んでいた。

●アサキの作戦
 沖縄での初戦を勝利で飾れなかった榊原アサキだが、それに気落ちすることなく、次の作戦を実行に移さんとしていた。
 彼女はひとりの強化人間を指揮官に抜擢。彼にワームの一軍を任せる。そして白い砂浜をスタート地点としてゆっくりと南へ行軍し、最後は市街地を火の海にせよと指示を下した。
 聡明な指揮官は、不思議そうな表情を浮かべながら作戦の内容を復唱した。
「人のいない砂浜から歩き出し、人のいる市街地を襲うのですね‥‥?」
 それを聞いたアサキは「察しがいいのね」と微笑みながら、ショートシャギーの髪を揺らして指揮官の方を向く。
「まず間違いなく、能力者の邪魔が入るでしょうね。それも早い段階に。だから敵機を発見したら、ゆっくりスタート地点まで下がりなさい」
 彼女はそう言って、ワーム軍団の配置を指南する。
 強化人間が搭乗する強化型ゴーレムを先頭に、水中用ゴーレム4機とRex−Canon2機が進軍。タートルワーム3機はこれに追従せず海の中に潜ませ、伏兵として使う。市街地を攻めるのはフェイクで、本当の目的は能力者が搭乗するKVを殲滅することにある‥‥アサキはそう言った。
「なるほど、さすがアサキ様」
「能力者の敗北を世界に知らしめることが、今もっとも優先すべきことなのよ。KVの出てくるのが遅いなら、その辺の人間を殺して急がせるといいわ」
「ははっ!」
 指揮官がうやうやしく礼をすると、アサキは紫色の瞳を鉛色の天井に向けた。
「さて、次の手はどうしようかしら」
 彼女の目は、早くもその先を見つめている。

●沖縄の地上戦
 アサキの策を胸に秘め、指揮官である強化人間が専用のゴーレムに搭乗。作戦のスタート地点へとたどり着く。その脇を水中用ゴーレムとRex−Canonが固め、タートルワームは指示通り伏兵として海の中で待機。周囲を適当に破壊しながらゆっくりと進軍を開始する。

 ワーム出現の報は、すぐさまあずさの耳にも届いた。
「ワームとなると‥‥阿修羅の出番か。久しぶりだね」
 彼女は愛機の名を呼ぶと、不敵な笑みを浮かべた。情報をかき集めている坂神に冗談を言わせないためにも、ここは確実に勝って黙らせたい。あずさは両手で頬を叩き、気合いを入れた。

●参加者一覧

鷹代 由稀(ga1601
27歳・♀・JG
漸 王零(ga2930
20歳・♂・AA
ヨグ=ニグラス(gb1949
15歳・♂・HD
翡焔・東雲(gb2615
19歳・♀・AA
ルノア・アラバスター(gb5133
14歳・♀・JG
レイド・ベルキャット(gb7773
24歳・♂・EP
ファリス(gb9339
11歳・♀・PN
ミリハナク(gc4008
24歳・♀・AA

●リプレイ本文

●戦果なき退却?
 静かな沖縄の浜辺から突如現れたゴーレムたちの侵攻を阻止せんと、能力者たちがKVに乗って出撃。海水浴シーズンに駐車場として使われる広場に陣取る。
 竜牙にダイナミックな動きをさせ、自ら「ぎゃお〜!」と叫ぶミリハナク(gc4008)はすでに気合い十分。銀髪の少女・ファリス(gb9339)から「ミリハナク姉様もぎゃおちゃんも、かっこいいの」と言われ、さらに上機嫌。大サービスとばかりに、別のアクションで少女を楽しませる。
 その間、鷹代 由稀(ga1601)がスコープを駆使して索敵を開始。敵戦力がこちらとほぼ同数であることに加え、能力者の到着を知ると同時に後退した事実をキャッチする。
「しっかし、なんか気に入らないわね‥‥進軍の速度は遅すぎるし、こっちが出張ったら即後退なんて。何、隠してんだか」
 彼女の言葉に、漸 王零(ga2930)が同調する。
「この状況で引くとは‥‥罠か?」
「ま、妙なの湧いたら、おーれーくんに押しつけりゃいいか」
 由稀がそう言うと、王零は「我に任せろ」と返事する。
 そんな彼とともに前衛に立つのは、レイド・ベルキャット(gb7773)とルノア・アラバスター(gb5133)、そして翡焔・東雲(gb2615)。彼らはできるだけ後衛の射線を塞がぬよう注意しながら動く旨を確認すると、シュルテン・Gに搭乗のヨグ=ニグラス(gb1949)が「んと、了解しましたっ」と答え、後衛でも同様の打ち合わせを行った。杉森・あずさ(gz0330)は中盤に控え、不測の事態に備える。
 ファリスは「あずさ姉様、エースさんもいるの。だからあずさ姉様も大船に乗った気がいてもいいと思うの」と、彼女の昂ぶる気持ちを落ち着かせた。
「同じプールでがんばった仲だからね。ファリス、一緒にがんばろう」
 そんなやり取りを聞いたヨグは、思わず首を傾げる。いったい何の話だろう‥‥そんな疑問を抱えたまま、メンバーは敵機の追跡を開始した。

●お連れの方も出現!
 能力者たちは、すぐに侵略部隊を視界に捉えた。隊長機らしきゴーレムにRex−Canonが2機、そして水中用ゴーレム4機という構成‥‥これを見た王零は悩む。
「戦力的には互角なのだが、なぜ‥‥いや、我も最前線を任された身だ。攻めるのみ! 漸王零‥‥推して参る!」
 その声に反応し、レイドが声を上げた。
「確かに、構成や進軍の様子が不自然ですねぇ‥‥何か罠があると考えた方がよさそうです。その辺も気をつけながら、まずは出鼻をくじいてやりましょう」
 後退しながら戦うことは、いかにバグア軍いえども難しい。ゆえにスカイセイバーはブーストを駆使し、一気に間合いを詰める。王零、ルノア、東雲もブーストを使い、それに続いた。
 その間、ファリスはブレス・ノウを発揮させて強化型ショルダーキャノンを水中用ゴーレム2機に向かって撃ち、敵の隊列を崩さんと試みる。これが見事に命中し、敵を慌てさせた。これを見たあずさは舌を巻く。負けじとミリハナクは、クァルテットガンで隊長機に威嚇射撃。大いに浮き足立ったところを、レイドが前へ出る。
「出し惜しみせずに行きますよ‥‥!」
 ここでレイドの愛機・テンペストが本領発揮。アサルトフォーミュラAとエアロダンサーを発揮した上で、アグレッシブトルネードを実行。ファリスが傷つけた敵機に狙いを定め、そのままセンチネルで突きまくる!
「招かれざるお客さんには、さっさとご退場いただきましょう」
 瞬時に繰り出される3回の突きと、渾身の一突きを命中させ、早々にゴーレムを1機破壊した。周囲に爆音が響くと、ミリハナクは楽しげに微笑む。
 これに慌てた強化人間は、用意してあったタートルワーム3機を出す。いきなりの出来事に動揺し、あっさり伏兵を晒してしまうという非常にマズい采配。王零は「これが疑問の答えか」と呟くと、亀に向かって「ご苦労なことだ」と言いながら、M−181大型榴弾砲を撃ちまくる。さすがは由稀が信頼を置く名手だけあって、ファリスに負けじとすべてを直撃させた。そのうち3発を受けた亀が爆発し、残りは2匹となる。
 東雲の狙いは水中用ゴーレム。後衛への接近を警戒し、あえてファリスの狙わなかった2機へと迫る。ストームブリンガーAを発動させ、横から回り込んでジェットエッジで3度斬りつけ、最後はダメージ痕に向かって至近距離からガトリングナックルを放った。
「行けぇっ、ロケットパ〜〜〜ンチィ!」
 この攻撃で敵は大きくよろめく。数の上の優位さえも否定されかねない展開にトドメを刺したのは、ルノアだった。赤き愛機を駆り、まずは恐竜に向かってスラスターライフルでの牽制を行う。
「速攻、行き、ます‥‥」
 しかしこの攻撃は牽制の枠をゆうに越えている。これは「苛烈」と呼ぶにふさわしい。敵はプロトン砲を使うためか、わずかに最前線から距離を置いていたのが幸いし、なんとか破壊は免れたものの被害は甚大。そこへ彼女が信頼するスナイパー・由稀がアハトアハトでもう1体の恐竜を狙い撃つ。
「ちゃっちゃと片付けるか‥‥ラジエル、目標を狙い撃つ!」
 彼女もまた言葉どおりの結果を出し、大いに恐竜を痛めつける。ヨグは同じ目標に狙いを定め、スラスターライフルで追い討ちするが、惜しくもトドメには至らなかった。
「ふーっ、いきなり突然変異とかなしねっ!」
 敵の手の内まで読んだ戦いぶりは、まさにお見事。先手を取って相手を揺さぶる策を本気で実行した結果、敵の焦りを存分に引き出したが、思わぬ展開を迎えたのもまた事実である。

●楽には勝たせない
 ここまでやられては、敵も黙っちゃいない。
 隊長機は総攻撃を指示し、自分は東雲に接近戦を挑む。何度も手斧を振り回し、レーシィの装甲を傷をつける。さすがは強化型ゴーレム、その力は侮れない。
「ちっ、おまえは後からだよ!」
 思わぬ邪魔が入ったが、東雲は冷静だ。その後、ケンカを売った水中用ゴーレム3機に襲われるも、被害は一撃だけに留める。
 恐竜はルノアの到着を待たず、自らお迎えに上がって噛みつき攻撃。しかし彼女は軽い身のこなしでこれを回避する。もう1匹はプロトン砲で由稀とヨグを狙うも、これもふたりに比べれば「下手な鉄砲」というやつだ。しかも数を撃っても当たりそうにないのが悲しい。通信はなくとも、敵の歯ぎしりが聞こえてきそうだ。
 タートルワーム2機はミリハナクとファリスを狙ってプロトン砲を発射。運悪くミリハナクだけが被弾するが、それを試作型超伝導DCでダメージを軽減する。恐竜のフォルムに煙はつきものとばかりに、ミリハナクは微笑みながら話す。
「釣り野伏は有名な戦法ですから読めますわよ。バグアちゃんたちは、人間の戦争の歴史を甘く見ていますわね」
 ついでに挑発までするのだから、まったくもっていい根性である。あずさが「ケンカの売り方、わかってるね」と声をかけると、ミリハナクは「本当のことを言ったまでですわ」と答えた。

 水中用ゴーレムに囲まれてピンチの東雲を、レイドがファランクス・ソウルで蹴散らす。その後は双機槍で攻撃し、東雲がジェットエッジとガトリングナックルでトドメを刺して、確実に1機ずつ撃破していく。ファリス機のフラウスは前進し、自ら傷つけたゴーレムを重機関砲で狙撃。同じく隣に立ったあずさもミサイルを発射し、ダメージを与えていく。
 ミリハナクは思案の末、アハトアハトに持ち替えて隊長機を狙った。復讐の竜牙は、強化型ゴーレムを圧倒。先ほどのピンチを感じさせないパワフルさを見せつける。
 由稀とヨグは恐竜の肌に変化がないのを確認し、さっきと同じ武器で射撃を開始。一気に破壊まで持っていき、敵の数を減らす。
「1匹目ねっ!」
 何気ないヨグの言葉だが、この一言でも状況を判断する材料になる。ルノアはそれを聞き、もう1匹の恐竜にさらなる攻撃を仕掛けた。ブレス・ノウを発動させ、機槍による攻撃すべてにアグレッシヴ・ファングを併用。脅威の破壊力を手にし、それを背部砲台や口腔内に向けて放つ!
「撃ち、抜け、神槍!!」
「ギヒャーーーーー!」
 ルーネ・グングニルはルノアの言葉を裏切らず、恐竜の兵器を粉々に砕き、さらには肉体をも破滅させた。悲鳴は聞こえたが、はたして痛みを感じる暇はあったのか‥‥それほど強力な攻撃である。
 こうして恐竜の脅威は消え去った。王零は手近なタートルワームに接近。ジャイレイトフィアーで砲台の破壊と脚部の損傷を狙って攻撃を仕掛ける。
「どんなに硬い甲羅を纏おうと‥‥我が螺旋を止められると思うな!!」
 アンラ・マンユのドリルは亀の命まで削り、確実に息の根を止めた。最後の1体は距離があるため、スラスターライフルで対応。こちらもあっけなく撃破し、ついに伏兵のタートルワームまでもが姿を消した。

●難敵も難なく!
 榊原アサキが策を授けたが実らず、バグア側はほとんどの戦力を失った。ところが、士気は落ちない。とにかくKVを一機でも落とすこと‥‥アサキが最重要と位置づけた目標に向けて、無理を承知で戦い抜く。
 水中用ゴーレム2機はレイドを、隊長機は東雲に狙いを定め、必死の攻撃を仕掛ける。テンペストはひらりと避けるが、レーシィは再び手斧の攻撃を浴びた。思わずレイドが「大丈夫ですか?」と声をかけたが、東雲は「もちろん!」と威勢のいい返事をする。あずさが「やられたら、やり返さないとな」と励まし、いよいよ全員で戦いの仕上げに取り掛かった。
 レイドはそのまま傷ついた敵を攻撃。アサルトフォーミュラAを使用し、センチネルで確実に破壊へと導く。爆音に抱かれたゴーレムを見て、愛機の中で「ふうっ」と息をついた。
 残すは無傷の水中用ゴーレムだが、ファリスとあずさにヨグとミリハナク、さらには由稀が加わり、5人による一斉射撃。この演奏にはさすがに耐え切れず、最後の1機もまた黒煙の中へと消え去った。

 ついに強化型ゴーレムとの決戦が始まる。対するはルノアと王零、そして東雲。敵が圧倒的に不利だが、機体の強さは折り紙つきである。油断はできない。
 まずは王零が動いた。亀を退治した時に持ったままだったスラスターライフルを構え、まずは足を狙おうとする。そこはさすがに強化人間、彼の行動が読めていた。とっさに避けようとすると、王零は射撃の瞬間に銃口はあさってを向くではないか!
「今だ!」
 敵の落胆を言葉で聞かずとも、その動きを見ればわかる。ルノアと東雲は、このチャンスを見逃さなかった。
 ルノアは愛機「Rote Empress」の能力を最大限にまで引き出すべく、再びアグレッシヴ・ファングを発動。機刀を巧みに操り、動きをパターン化しないよう心がけ、着実に損傷を与える。リベンジに燃える東雲もまたストームブリンガーAを使用し、レーシィから繰り出されるパンチを浴びせた。連続でジェットエッジを打ち、最後にガトリングナックルで締める。この流れに中盤と後衛のメンバーも大興奮。後衛のメンバーからの応援にも熱が入る。
 隊長機はなんとか一矢報いるべく、ルノアと東雲に襲いかかる。しかしルノアはいとも簡単に盾で攻撃を弾き、東雲は見事に避け切った。
「おや。もう、あたしたちの番か? じゃ、たっぷり味わいな!」
 東雲がそう言うと、大きく拳を振りかぶってのガトリングナックルを発射。ルノアは再度アグレッシヴ・ファングを発動させて、さっきとは違う振りで攻撃する。もはや青色吐息の隊長機にトドメを刺すのは、王零。最高悪の持つジャイレイトフィアーは、まるで地獄へと続く螺旋階段のよう。彼はこれで胴体を一気に貫いた!
「うぎゃあああっ! ア、アサキ様〜〜〜っ!」
 強化人間は最後にバグアの名を叫び、爆音とともに消えた。崩れ落ちる機体からドリルを抜き、王零は静かに立ち尽くす。周囲に敵影なし。この瞬間、能力者の勝利が決まった。

●策士は刑事?
 戦闘が終わった後も、ミリハナクはしばらく警戒を解かなかった。敵の出現がここだけとは限らない。ヨグも同じ理由で、使わなかったスナイパーライフルを覗いて周囲を確認する。しかし、基地からの緊急連絡もないので帰還することに決めた。
 みんなが引き返す準備を始めた時、ヨグがあずさに話しかける。
「えと、実はさっきボクに通信が入りまして。警戒中の時に、キメラ刑事さんから」
「え?」
 あずさは凍りつく。あのオヤジ、また余計なことを‥‥そう思うと、もう気が気じゃない。
「ああ、ヨグは知り合いだっけ。あの人どーせ、旦那が私のことをあーちゃんって呼んでるとか、若い頃はバイクに乗ってグレてたとか、そんなこと言ってたんだろ?」
「んと‥‥あの、お疲れ様、とだけ‥‥」
 ヨグが言いにくそうに答えるのを聞き、あずさは「しまった」という表情を浮かべた。なんとその通信は彼女を除くみんなが聞いており、何の不審な点もなかったと口を揃えるではないか。あずさは今度こそ、ハッキリと口に出して言った。
「あのオヤジ、これを見越して‥‥!」
「えと、つまりキメラ刑事さんは〜、ボクたちだけに通信を入れて、あずささんが自分から恥ずかしい過去や現在をバラすように仕向けたってことですかっ」
 ヨグはファリスにもわかるよう、丁寧に説明してあげた。すると、ファリスは「あずさ姉様、大丈夫ですの!」と励ます。その純真無垢な少女の言葉が、28歳の新妻の心に突き刺さる。
 東雲はふと戦闘中に励まされたのを思い出し、「あの威勢のよさはその頃の‥‥」と追い討ち。レイドと王零は傍観を決めこみ、ルノアは「そう‥‥」と短く感想を述べるに留めたが、由稀とミリハナクが容赦なくトドメを刺す。
「ふふふ、大丈夫よ。別に泳げなくっても‥‥」
「あたしも気にしませんから! 安心してくださいね、あーちゃん!」
 今日は完全にひとり負け‥‥あずさはそう思わざるを得なかった。あのオヤジ、次に会った時は覚えてろ‥‥負け犬は四国の空に向かって雄々しく吠える。愛機が阿修羅なのが、どこか物悲しい。

●戦いは続く‥‥
「まったく。面白くしてくれるじゃない、能力者は」
 部下の報告を聞いた榊原アサキは、指令室の中でひとり微笑む。その声を聞いた部下は、思わず震えた。これで二度目‥‥敗戦の責任を取らされてもおかしくはない。しかし彼女は不問に処した。
「気にすることないわ。あたしの立案で負けたんだから。次の作戦に移るだけよ」
 アサキはゆっくりと立ち上がり、武器を持って部屋を出ようとする。部下たちはその姿を見ると慌てて、「何事でございますか!」と尋ねた。彼女は何気なく答える。
「そろそろ暴れるだけじゃなくて、交渉とかも必要かなって思っただけ。いきなり人間を襲ったりなんて無茶しないわ、安心して」
 この沖縄に紫色の竜巻が起こるのも、そう遠くない未来の話なのかもしれない。