タイトル:【RJ】狙われた動物たちマスター:村井朋靖

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/11/05 12:27

●オープニング本文


●バグアの次の一手
 奇抜な色をした液体で満たされた特殊な水槽の中に、白狼のキメラと合成された浦島博士が厳重に保存されていた。彼の顔は透明なマスクに覆われており、そこから生きるための酸素を得ている。
 本格的な四国侵攻を企てるフィリス・フォルクード(gz0353)から直々に許可を得て、浦島は自身が望んだ姿と力を得るはずだった。しかし、途中の計測で予想をはるかに上回る数値が出るというトラブル‥‥いや、正確には「嬉しい誤算があった」というべきか。それが落ち着くまでは安定液の中で休養を余儀なくされた。「少しでも早く恩に報いたい」と焦る浦島とは対照的に、フィリスは「いつ出てきても構わない」とあまり気にしていない様子。今日も赤ワインを傾けつつ、新開発された『ライアットジュース』をうまく活かせる作戦を思案していた。

 以前、浦島博士の指揮でライアットジュースを投与された3匹のキメラを市街地に放ち、その暴れっぷりをフィリスはモニター越しに確認している。彼は「暴悪な獣を群集の中に解き放つ」という人間らしからぬ発想を称える意味で作戦を遂行させたが、同時にライアットジュースの致命的な問題点を見抜いていた。
「共食いというのは‥‥いかなる状況下においても美しくない。ああっ、実に美しくない‥‥っ!」
 金髪を振り乱して「それはいけない」と何度も首を振るバグア様。
 生物が持つ怯えを凌駕するほどの闘争本能を引き出し、死ぬまで戦い続けるようになるのがライアットジュースの最大のメリットであるが、投与した瞬間に動くものをすべて敵と認識してしまうため、一切の作戦行動が取れなくなるというデメリットが存在した。
 現時点で解毒剤のようなものはなく、フィリスも万が一に備えて浦島博士に無断で作らせているが、いまだ完成の目途は立っていない。
「ならば、襲うことに慣れた生物‥‥いわば野生の動物に投与するのが妥当、か。それも人間たちの虚を突ける姿がいい。地球の愛玩動物を大量に集めて‥‥ふむ」
 フィリスが思案の末、一応の結論を導き出した。時を同じくして、ひとりの科学者が黒い筒を持ってやってくる。
「フィリス様、こちらは浦島博士の書簡でございます。もし合体に手間取るようなことがあれば、これをお渡しせよと仰せつかっておりました」
「ふふふ、なるほど。ドクターウラシマは、私がこの結論に行き着くことを予想し、次の作戦に必要な動物を蓄えている場所を記しておいたのか」
 書簡の内容は、フィリスの予想通りだった。
 この話は、浦島博士がまだ孤独な動物学者であった頃にまで遡る。彼は動物が持つ本来の獰猛さを研究するため、四国の山奥に構えた動物飼育施設の地下に選りすぐった動物たちを用意して実験を行った。もちろん現場で働く飼育員を襲わないよう、十分なしつけと専用の暗示を施してある。ところがこれが災いして、一匹として魅力ある個体は育たずに終わった。
 しかし今は状況が違う。浦島博士の手元にはライアットジュースがある。彼らにこれを投与すれば、手軽に使える動物部隊が編成できるだろう‥‥水槽の中に浮かぶ男は、フィリスにそう進言した。この施設は現在も機能しており、何も知らない飼育員がフェイクの動物たちを世話しているという。
 フィリスは科学者に指示を出した。
「よろしい、この動物たちを回収しましょう。地下も地上もすべてです。この際、飼育員もお連れしなさい」
 下手な指示で混乱するくらいなら、全員さらってしまえ‥‥いかにもバグアが考えそうなことだ。
 フィリスは続ける。
「私たちが動けば、能力者も動き出すでしょう。超大型のリクガメ型キメラにライアットジュースを投与し、彼らがやってくれば適当に放てば‥‥ふふ、それで十分。美しくない能力者たちに、美しい我々の目的が読めるはずもない」
 高貴な笑みを浮かべながら、フィリスはくいっとワインを飲み干す。次なる事件は、動物飼育施設で起ころうとしていた。

●キメラ刑事の嗅覚
 白服の男たちが施設を狙わんと動き出す以前から、通称「キメラ刑事」こと坂神・源次郎(gz0352)が偶然、ちょくちょく顔を出していた。
 以前、四国の市街地で起きたキメラの暴動事件を「フィリスの計画だ」と見抜いたが、バグアらしくない作戦に疑問を覚え、独自に調査を開始。そんな中、問題の動物飼育施設で働く大学生・竜宮琴美から、雇い主である浦島博士の捜索を依頼される。坂神は身辺調査をした際、博士が「孤高の動物学者」であると知ると、定期的に琴美を訪ねた。これは匂う。もしかしたら何かのきっかけでここに戻ってくるかもしれない‥‥そう思った。

 この日、琴美は可愛がっているダックスフントとともに坂神を出迎えた。彼はトレンチコートを噛もうと元気に飛び跳ねる。
「おーおー、元気だねぇ。タバコくさいのにありがたいよ。おじさんも楽しいわ」
 すっかり動物好きになった坂神は、屈託のない笑顔を琴美に見せた。
「すみません、私のせいで刑事さんにご心配をかけてしまって‥‥」
「いいんだよ。それが警察屋さんのお仕事だから」
 坂神は尻尾を振って喜ぶ子犬の頭を撫でながら、家での出来事を話し始める。
「うちのカミさんに、ここの話したらさ。次の日にたんまりドッグフード買って来ちゃって。持ってけって言うんだよ。この施設、犬ばっか飼ってるじゃないのにねぇ」
「ふふ。奥さんって、おっちょこちょいなんですねー」
「ま、旦那の話なんてマトモに聞いちゃくれないってことさ。家に置いといてもしょうがないから、近いうちにここのみんなで持ってってくれない? 警察署まで運んどくからさ」
 願ってもない申し出に恐縮しつつ、喜ぶ琴美。彼はそのまま日取りを決め、その日に必ず来るように念を押す。
「長い間放っとくと、夜勤明けの連中が飯と間違えて食っちまうから」
「もう、坂神さんったら!」
 坂神は「こりゃいけない」とばかりに手を口にやった。彼女に「うまくいった」と言わんばかりの口元を見せるわけにはいかない。
 山のようなドッグフードが置いてあるなんて、真っ赤なウソ。すべては施設の飼育員を警察で保護するための作り話である。動物の保護は難しいが、人間の保護は何とかできると坂神は判断した。その後に起こるであろう事件については、すでにULTへ報告し、協力を要請してある。竜宮たちが警察署に来る頃、この四国に到着。フィリスの野望を食い止めるために動いてくれるはずだ。
「やっとつかんだ尻尾だ。死んでも離さんよ。伊達に年は食ってないってとこ、奴さんにも見せてやろうじゃないの」
 キメラ刑事の静かな闘志を感じたのか、ダックスフントは呼応するかのように一声「ワン!」と鳴く。それを聞いた坂神はすぐに気持ちを切り替え、しばし動物とのふれあいを楽しんだ。

●参加者一覧

瓜生 巴(ga5119
20歳・♀・DG
天道 桃華(gb0097
14歳・♀・FT
ブロント・アルフォード(gb5351
20歳・♂・PN
セリム=リンドブルグ(gc1371
17歳・♀・HG
レヴィ・ネコノミロクン(gc3182
22歳・♀・GD
秦本 新(gc3832
21歳・♂・HD
空言 凛(gc4106
20歳・♀・AA
橙乃 蜜柑(gc5152
20歳・♀・FC

●リプレイ本文

●先手必勝!
 浦島博士の施設から、飼育員の姿が消えた。入れ違いに能力者たちがやってくる。ここまでは坂神・源次郎(gz0352)の筋書き通り。
 しかし問題はここからだ。矢でも鉄砲でも持ってきそうな連中が迫っている。迎撃班は施設の外に陣取り、敵の襲来を待った。索敵と奇襲を目的とした別働隊のひとり・秦本 新(gc3832)は、施設内の高いところから双眼鏡を使って様子を伺う。すでに橙乃 蜜柑(gc5152)が清掃員に変装し、敵を誘き寄せようと動いている。別働隊の目的は、キメラを連れていない一団を押さえることだ。
 その間、セリム=リンドブルグ(gc1371)はタロット占いを行った。
「戦車の正位置‥‥なんとかなりそう、かな」
 結果は悪くないようだ。それを見ていた天道 桃華(gb0097)と空言 凛(gc4106)は、声を揃えて「大丈夫!」と余裕を見せる。
「戦車か! う〜ん、今日も戦いの予感だぜ!」
「真の悪とはっ、何も知らない弱者を利用し踏みつける奴のこと! ましてや動物たちを利用しようなんて不届き千万! 絶対に許さないわよ!」
 燃えるふたりの戦う乙女。心強い言葉を聞いた新が「その意気でお願いしますよ」と声をかけ、AU−KVのバイク形態で出撃する。どうやら白スーツの連中を発見したらしいが、バイクを使うところを見ると少し距離があるようだ。彼の伝言を受けたブロント・アルフォード(gb5351)は、みんなに戦闘の準備を整えるよう声をかける。
「キメラが正面から来たそうだ」
 彼はライスナーを持って、静かにそう呟いた。

 その頃、蜜柑はツナギ姿で敷地の外を移動。胸元を大胆に開き、セクシーさを存分にアピール。バケツと竹箒を手に「やっらないかっ♪」と陽気に歌いながら歩く。バケツの中にはハミングバードと無線機を忍ばせ、手に持つ竹箒も仕込み刀。準備は万端である。先ほど新から「蜜柑の行く先に白スーツの一団がいる」と連絡を受けた。人数が多くて抵抗できないなら、素直に拘束されることも視野に入れ、蜜柑は任務を遂行せんと前へ進む。
 しばらくすると、白スーツの連中に出会った。彼らは両手に檻を持ち、ゆっくりとした足取りで施設へと向かう。どうやら動物を捕らえることが目的のようだ。蜜柑を見たひとりが声をかける。
「あ、すみません。施設の方ですか? 浦島博士からの依頼で動物たちの保護に来たのですが‥‥」
 その言葉を聞きながら、蜜柑は周囲を見渡す。白スーツは全部で20人くらい。そのほとんどが檻を持っているため、両手が塞がっている状態‥‥彼女は「いける」と判断し、言葉を返した。
「お疲れ様です〜。じゃあみんなは、セクシーでキュートなあたしに保護されちゃってくださいっ♪」
 蜜柑は胸元を強調しつつ「えへっ☆」と笑う。数人がそれを見て鼻の下を伸ばした。しかし次の瞬間、彼らは悲鳴を上げる。
「うがっ!」
 それと同時に、檻を落とす音が地面に響いた。蜜柑は仕込み刀を抜き、次々と敵を倒す。白スーツたちは慌てて檻を下ろし、武器を構えようとした。
「う〜ん、ちょっと遅いわね」
 敵が準備を整えると、迅雷を使って別の方向へ回り込み、今度はそこから引っ掻き回す。それでもまだ敵は多い。蜜柑は疾風を駆使して、新がやってくるまでの間を凌ごうと奮闘した。

●正面のカメさん
 施設の正門に向かって、巨大なリクガメ型キメラがやってきた。能力者の前に行くには、ずいぶんと長い道のりを歩かねばならない。せっせと歩く姿を見て、瓜生 巴(ga5119)が「うん」とひとつ頷き、自分なりの分析を披露した。
「物体の質量はだいたい寸法の3乗に比例する。でも骨や筋肉の強さは断面積に、つまり寸法の2乗に比例するに留まる。寸法が2倍になれば8倍の重さなのに、骨や筋肉は4倍しか強くないから、動きは鈍くなる。ラジコンカーのスピードをスケール倍すれば実車より早いのと逆の理屈ですね」
 その分析を隣で聞いてた桃華が「強いってコト?」と尋ねると、巴は「そんなところです」と返す。いきなり射撃音が響いたかと思うと、カメの動きが速くなった。なぜか鼻息も荒くなった気がする。これを見たレヴィ・ネコノミロクン(gc3182)が「急に走り出しましたわよ?」と巴に話しかけた。
「それは立方に比例する以上の強度とパワーがあるからでしょう」
 彼女の分析を聞きつつ、凛が双眼鏡で速度を変えたあたりを確認すると、そこに空のアンプルが転がっていた。ところが次の瞬間、それは粉々に砕け散る。
「あっ! あいつ、勝手に割れやがった!」
 手がかりっぽいのが消えてしまい、凛はガッカリ。しかし、あれはいったいなんだったのだろうか?
 今はカメを止めるのが先だ。ブロントは誰よりも早く前に出て、ライスナーで銃撃を開始。牽制が目的なので、とりあえず撃つ。動きが速くなったとはいえ、これを避け切れるほどではない。リクガメは傷を負って低く呻くが、突進の勢いは衰えず。セリムは弓の射程ギリギリに立ち、先行したブロントを援護射撃でフォロー。同じく囮役として前に出る。
 レヴィは盾で身体を隠しつつカメに接近し、死角からファルシオンで後ろ足を攻撃。巴はエネルギーガンで援護射撃を行い、敵の速度や視野を観察する。凛はカメの横や後ろに回りこんで後ろ足を天拳「アリエル」で殴打。ボクシングベースの格闘術を駆使し、自分のリズムを作る。
「カメってーのは、鈍いって相場が決まってるんだよな!」
 同じく四肢を狙う桃華は乙女桜で攻撃。これら威嚇を含めたほとんどの攻撃は命中し、着実にダメージを与えたが、カメの勢いは留まるところを知らない。
 それどころか、反撃は苛烈であった。まずは囮となったブロントに体当たりを敢行。彼はそれを回避するも、カメは後ろを向いてさらに大暴れ。後ろにいた桃華とレヴィにタックルをかました。桃華は回避に失敗して大ダメージを、レヴィはとっさに弾き落としを使うも、完全に威力を殺すことができずに傷を負った。
「はえぇな! オイ!」
 凛が驚くのも無理はない。いくらキメラとはいえ、この速さは異常だ。巴は敵を観察しているうちに、鉛色に染まる瞳を見てあることに気づく。
「凛さん。私は以前にもこういう敵に遭遇しています」
 それを聞いた猫目の戦士は「あっ!」と一声上げる。そしてさっきのアンプルの話をすると、巴は確信した。
「それが原因でしょう。となると、甲羅の陰からの攻撃なら比較的安全です。あの瞳になったキメラは、少しでも動いたものを優先して狙います」
 まずは目の前にいたブロントを狙い、気まぐれに振り向いて桃華とレヴィを攻撃‥‥なるほど、理にかなっている。メンバーは行動パターンを頭に入れ、再び攻撃を開始した。

 桃華は再び後ろを取り、武器を収めてから豪力発現を使う。そして大きく息を吸い込むと、甲羅に手をかけて思いっきり持ち上げようとした!
「ふんぬーーーっ!」
 さすがに巨漢のカメを完全に持ち上げるのは難しいが、前足がわずかに浮く。敵は柄になく慌てるが、後の祭り。凛はそれを見逃さず、顔面をボコボコに殴る!
「モカに持ち上げられても、まだまだやる気あるみてぇだな! じゃあ遠慮なくボコるぜ?」
 完全にサンドバック状態のカメ。レヴィは攻めの姿勢を崩さず、再び足を切りつける。セリムは強弾撃を駆使し、身体を支える後ろ足めがけて弾頭矢を放った。その後は普通の矢で攻撃を続けるも、太い木のような四肢を傷つけるのはなかなか難しく、戦況は好転しない。ブロントは凛の後ろに立ち、わざと動きを大きくして射撃を続ける。巴も胴体に向けて攻撃を仕掛けるが、これもまだ決定打にはならない。
 そうこうしているうちにカメが身をよじって、桃華の束縛から逃れた。その後は、まるで闘牛のように動き回る。真正面にいるブロントと凛にタックルを仕掛けると方向を変え、またレヴィに突進。ブロントは避けるが、凛はまともに攻撃を食らってしまう。レヴィはさっきと同じく弾き飛ばしで受けを試みるが、やはり受け切れずにダメージを負った。

●一点集中の成果!
 凛は後ろ足を殴ることに専念。桃華の位置に移動し、軽快なリズムからパンチを繰り返す。レヴィは蘇生術で自らの傷を癒し、甲羅の陰から同じ場所を攻める。それが功を奏し、ついに太い木の幹のような足が揺れた。バランスを崩したと見るや、ブロントはカメの目の前に立つ。
 理想的な立ち位置‥‥巴は5秒で炸裂するように改造を施しておいた閃光手榴弾のピンを抜き、「目を閉じて」と伝える。そしてそれを投げ、ブロントの動く背中側で炸裂させた!
「グモォ! グモーーーッ!」
 光によって視界を遮られたカメは身悶える。その姿を、巴はじっくりと見ていた。目を焼かれた暴走キメラは、この後どう動くのか‥‥興味は尽きない。
 そこへ桃華が前へ回り、ペイント弾でさらに目潰し。追い討ちとばかりに、頭に布をかぶせる。
 今がチャンス。セリムはもう1本の弾頭矢で前足を狙い、その後も同じ場所を攻撃する。視界も足もバランスを失ってよろよろするカメに、ブロントが渾身の一撃を用意。抜刀・瞬でライスナーから蛍火に持ち替え、刹那を駆使して確実にダメージを与える。ふたつの刃が煌く時‥‥それは頑丈なカメの臨終の時だった。
「グ、モォ‥‥」
 布越しに聞こえる断末魔の叫びは、少し物悲しい。キメラが動かなくなったのを確認し、桃華が布を取った。
「この子も普通のカメさんだったのかなぁ‥‥ごめんね」
 動物たちを守るために動物を倒す。桃華にはそれがどこか矛盾しているように思えたのだろう。凛は彼女の頭をそっと撫で、「こいつもわかってるよ」と笑った。レヴィも小さく頷く。
「おお、セッちゃんもわかってるな! さてと、ハタハタとミカんとこに行って、こんなことした連中にお仕置きしないとな!」
 凛の言葉に、桃華は力強く頷いた。

 蜜柑の元に新が到着すると、こちらもあっという間に一方的な展開となった。
 合流前に面子を確認したが、厄介な強化人間も見当たらないので、さっさと挟み撃ちにして連中を締め上げる。和槍「鬼火」が奏でる怪奇音と白スーツの悲鳴が奇妙なハーモニーを生み、迎撃班が合流するまでに全員残らず気絶させた。その後、手分けして武器を回収し、新は何が目的だったかを吐かせる。それを聞いた時、ちょうど他のメンバーがやってきた。
「おっ、こっちは片付いてるな。ハタハター、何かわかっ」
「凛さん‥‥みんな早く! あの施設には秘密の地下があって、そこに動物たちが放置されているそうです!」
 新は瞬時にAU−KVの装着をやめ、バイク形態に戻したかと思うと、そのまま施設へと直行する。凛や巴も後を追うが、桃華はその場に残り、白スーツのイケメンたちを順番にプロレスの関節技で締め上げた。
「ぐあああ! ギブ、ギブ! ギブアップ! 骨が、骨が軋むーーーっ!」
「あの子たちの痛みに比べたら、こんなの大したことないわよ!」
 情報が聞き出せなくなると困るので、最低限の手加減はしているが、救いを求めても決して離さない。
 その間、怯えて待つイケメンにレヴィが質問した。
「ねね、お兄さんたち♪ 突然カメが強くなったの、何か仕掛けがあるんでしょ? それってなぁに?」
 ファルシオン片手に微笑むお姉さんに屈服し、ひとりの男が「ライアットジュース」の存在を口にした。動物やキメラに与えれば、理性や思考など不必要な感情を消し去り、闘争本能だけが脳と心を支配するという悪魔の薬‥‥レヴィは「わかったわ」とだけ言い、ダサい連中に向かって「じゃ、順番待っててね♪」と声をかける。この後、イケメンの悲鳴が次々と木霊した。

●救われし動物たち
 新と凛、そして巴は施設の中を走り回り、なんとか地下への道を発見。すぐに階段を下る。
 そこは主がいないにも関わらず明かりがあった。新は気配を感じて奥に進むと、秘密の研究のために用意された檻がズラッと並んでいた。それはまるで監獄のようで、中には自動で出される水だけを飲んで生き延びた動物たちが入れられている。どれもひどく衰弱していた。
「餌を与えたいが、知識が不足しているし、内臓が弱っている可能性もある‥‥巴さん!」
「危険な状態です。発見が遅れたら、全滅していたかもしれませんね」
 それを聞いた新は坂神に連絡しようと地上へ走るが、そこは「ハタハタ、任せろ!」と凛が行った。
「早く飼育員に対処法を聞かないと‥‥!」
 新の心配を嗅ぎ取ったのか、目の前の動物は気丈に吠えた。その一鳴きが徐々に広がっていく。最後には地下を揺るがさんほどの声となり、新を安心させた。巴は「これが生きる力ですか」と呟く。新もそれに同調した。

 施設の地下に秘密の空間があり、そこに衰弱した動物たちがいる‥‥その報は大いに坂神を驚かせた。
 彼は琴美たち飼育員と大勢の捜査員、さらにはありったけの獣医を引き連れ、問題の施設へと急行する。捜査員は白スーツを逮捕し、琴美たちは地上の動物たちのケアを、獣医たちは地下に乗り込んで動物たちの症状を観察して回った。
「まさか地下の動物が、連中の目当てだったとはね。オジサン、油断しちゃったよ」
 坂神は頭を掻きながら悔しそうな表情を見せるが、新は「問題ありませんよ」と励ました。地下の動物たちは浦島博士と接していたことも考慮に入れ、いったん警察が保護。特に問題がなく、順調に回復すれば、また太陽のあたる場所で飼育される運びとなる。地上の動物たちも一時的に保護する方向で検討したが、ここには立派な飼育員がいるので経過を見て判断することになった。
 事件が無事に解決したところで、ラヴィと凛は動物たちとしばし戯れる。
「私のおやつだけど食うか? うんうん、よしよし。食え食え!」
 凛から出された野菜ジュースやミネラルウォーターをウサギたちが舐め、温泉まんじゅうをダチョウが平らげる。なんとものどかな光景だ。
「あ! ダチョウは正面から近づいちゃキケンよー☆」
 いい食べっぷりを見せるダチョウを撫でようと近づいた凛は、危うく蹴り飛ばされそうになったが、それを抜群の運動神経で避ける。地上の動物は元気で何より。凛は大きな声で笑った。
「ミャア、ありがとよ! お前もふかふかで可愛いなぁ!」
「ホント、かわいいわよね。ほら、ワニちゃんなんてバッグにしちゃいたいくらいきれいなウロコしているのに!」
 レヴィの言葉を聞いて、ブロントとセリムが同時に首を傾げた。どこか妙な気が‥‥そんなことを思っていると、蜜柑が胸にシナモンカラーのフェレットを抱いて駆け寄ってくる。どうやら身請けするらしい。
「ほら、今日からあたしの子だよ〜♪」
「かわいいですね」
 蜜柑は満面の笑みを浮かべながら「うん!」と頷いた。

 彼らは見事に動物たちを守り、悪用を防いだ。しかし、ライアットジュースの邪悪な匂いはまだ消えない。