タイトル:イカサマの流儀マスター:村井朋靖

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/10/31 20:51

●オープニング本文


 UPCの調査機関に所属し、ちょっと厄介なお仕事を回されるけど、なんとか解決へ導くお調子者の諜報3人組『ジェントルメンブラック』‥‥通称『GMB』。
 世界に平和が取り戻されるその日まで、今日も彼らはコスプレ三昧。小さな妄想を大きく膨らませ、いつものように任務をこなす。
 とはいえ、肝心なところはいつも能力者任せ。もはや説明の必要もないが、今回もすでにULTへ事件の情報を流している。近日、エージェントたちは四国のとある大邸宅に潜入することになっていた。

 どんな時代にも、時流を読むのに長けた人物がいる。今回の依頼主はそんな才能を持つ男だ。
 彼は最近、四国の街を暗躍する親バグア組織『瀬戸の渦潮』の若きリーダーとなった人物である。能力者との抗争に敗れて急死した父の跡を継いだのだが、彼はいつもバグアへの協力体制に疑問を抱いていた。リーダー就任時、バグアとの面会などの社交辞令をこなす最中に「これは付き合ってられない」と判断。翌日には極秘で、UPCに「自分が抱えている難題を解決してほしい」と要請した。
 弱体化したわけでもない敵組織からの降伏と保護を求められるのは、極めて異例である。UPCは相手の本気度を探るために無茶な要求を突きつけた。組織に指示を下すバグアの存在や組織規模の暴露、さらに構成員すべてをUPCが確保して個別に事情聴取する、など‥‥早い話が「バグアとの接点を消し、すべての情報をUPCに提供するのが条件だ」と伝える。するとリーダーは「すべてを受け入れる」と即答し、直属のバグアがフィリス・フォルクード(gz0353)であることも白状した。あまりの潔さに、交渉を担当した者も大いに驚く。
 しかし、降伏を実行するにはひとつの大きな問題があった。この組織は昔から大きな事案を動かす際、必ずギャンブルをするらしい。ゲン担ぎのようなものが発展し、今の形になったのだが、今回の賭けの対象は「UPCへの降伏」で、リーダーが胴元となる。そして、これに反対する者がこの博打の相手として名乗りを上げるのだ。彼が勝てば何の問題もないが、もし負けてしまうと組織の答えは「NO」となってしまう。ギャンブルの結果は絶対で、従わない者はリーダーいえども命の保証はない。そうなると『瀬戸の渦潮』は内部崩壊するだけでなく、そのまま暴走してしまう可能性もあった。

 そんな特殊な事情を知ったUPCは、潜入捜査が得意なGMBを呼び寄せた。そして「リーダーが呼び寄せたギャンブルのプロとして、絶対に負けないギャンブルをしてこい」と指示を出す。助太刀については双方了解済みで問題はなく、決戦の舞台にたどり着けないということはない。裏を返せば、それほどギャンブルの決定は重いということだ。今回は組織のリーダーが主催なので、ギャンブルの種目はこっちで選べるという。
 彼らはすぐに自室に引き返して衣装の選定を始めたが、その表情はあまり明るくない。エージェントのトモはカジノへ遊びに行くような服装をチョイスしながら、同僚のハンタに話しかけた。
「オゥ、ハンタ。前にUPCの懇親会でトランプやったって言ってたな。勝率はどうだった?」
「お前‥‥ババ抜きと7並べの勝率なんか聞いても仕方ないだろう?」
 おおよそギャンブルとは言いがたいゲームに興じていたハンタの話を聞き、ミスターMは渋い表情を浮かべた。そして「まさか」と思い、あることを確認する。
「ところで、ブラックジャックやポーカーのルールは知っているのか? ギャンブルといえば、カジノに出てくるようなゲームが用意されるぞ。日本なら花札かもしれないが‥‥」
 それを聞いたハンタとトモは、マヌケ顔を晒して「えっ?」と聞き直す。ミスターMは即座に「ULTに出前を取る」と言い、ふたりから黒のタキシードと蝶ネクタイを取り上げた。
「俺たちは傭兵さんのボディーガード役でいい。この偉そうな扮装は必要ない」
 ボディーガードも満足にできないことは百も承知だが、ミスターMはそう言ってふたりを無理やり納得させた。そうなるとサポートをしなくては‥‥ふたりは思案する。
「オゥ、ハンタ! ハンタ! 俺たちは後ろでざわざわしてればいいってことか! そういうのは得意だぜ、アーハァン?」
「トモ、いいポジションを見つけたな! 今のうちに息を飲む練習しとくぜ。ルールはさっぱりだから、どのタイミングでやればいいかわかんねーけどな!」
 いつもの傭兵さん任せになったところでお気楽なGMBだが、絶対に勝つギャンブルなんてものは存在しない。今回の任務、実は難しい。それこそイカサマでもしない限り‥‥ミスターMは考えた。
「‥‥絶対に勝つギャンブルではなく、絶対にバレないイカサマを準備する。それが正解かも‥‥」
 こちらでギャンブルを準備できる点は非常に大きい。そこにイカサマの仕込みがあっても、相手に気づかれなければ問題はない。そう、気づかれなければイカサマではないのだから。それを補うのは多少の演技力、そしてライバルを前にしても怯えない胆力‥‥GMBにはない、さまざまな要素が必要だ。

 四国の夜、親バグア組織『瀬戸の渦潮』の命運を賭けた大一番が幕を開ける。

●参加者一覧

秋月 祐介(ga6378
29歳・♂・ER
ファサード(gb3864
20歳・♂・ER
メシア・ローザリア(gb6467
20歳・♀・GD
館山 西土朗(gb8573
34歳・♂・CA
悠夜(gc2930
18歳・♂・AA
ティルコット(gc3105
12歳・♂・EP
ジョシュア・キルストン(gc4215
24歳・♂・PN
三日科 優子(gc4996
17歳・♀・HG

●リプレイ本文

●男の一本勝負?!
 決戦の夜が訪れた。
 親バグア組織『瀬戸の渦潮』の若きリーダーの立てたギャンブラーは8人。その後ろにGMB。彼らが勝たなければ、UPCへの降伏も命の保証もない。
 迎え撃つ反対派は先代に付き従った忠誠心あふれる老人と妖艶な女性、そして血気盛んな青年。実は組織の中でも異を唱える者が少なく、この3人しか用意できなかった。数的不利を解消すべく、相手から「純粋に勝った数をカウントしよう」と提案する。リーダーは秋月 祐介(ga6378)に相談した。
「どうだい?」
「即受けで構いませんよ」
 祐介はパイポを咥えたまま、あっさりと答えた。ハンタとトモは息を飲む。これで少しは場の雰囲気が盛り上がる‥‥練習した甲斐があった。
 ファサード(gb3864)はミスターMが用意した椅子に座り、少し距離を置いて登場人物をじっくりと観察。時折、ギャンブルの入門書に目を通す。だが、すでに探査の眼とGooDLuckは発動済み。今は様子見なのだろう。

 そこで館山 西土朗(gb8573)が先鋒を買って出る。彼は青年を指名。「ここは男らしく、コイントスで一発勝負だ!」と息巻く。青年は「そんなんで勝負の流れを決めていいの?」と挑発するが、西土朗は負けじと笑った。
「俺は『グッドラック』と呼ばれるほどの強運の持ち主だ。お前の運なんて吹き飛ばすぜ!」
「わかった。じゃ、これを使えよ」
 そう言いながら、青年は自分の胸ポケットからコインを出した。どこかのカジノで使っているものらしく、西土朗が触れた限りでは妙な点はない。彼は自分がコインを投げることを相手に認めさせた。お互いにイカサマを防ぐため、この辺は必死である。
「表が出ればお前の勝ち、表が出なければ俺の勝ち‥‥それでいいか?」
 西土朗の申し出に、青年は首を振った。
「いいぜ。俺は表だと思うし」
「はは、表は出ない。俺の運がそうさせねぇ!」
 西土朗の言葉を聞き、老人が何かを悟って「あっ」と叫んだ。勝負を遮ろうと前へ出るが、西土朗はそれをあざ笑うかのようにコインを指で弾く!
「残念だったな、爺さん‥‥!」
 コインは優雅に空中を舞う‥‥かと思いきや、すさまじい勢いで天井に到達。そのまま縦にめり込んでしまった! これを見たハンタは「え!」と叫ぶ。そこへ覚醒した三日科 優子(gc4996)が歩み出た。その表情は、自信に満ち溢れている。
「あんたの負けや。さっき自分で言うたよな? 表が出なければ、西土朗の勝ちって」
 青年はおろか、リーダーも息を飲んだ。西土朗は優子の肩を叩いて「サンキュー」と声をかける。
「どのコインを使うか、表か裏かなんて、最初から関係なかったんだよ。な、爺さん?」
 途中でイカサマのからくりに気づいた老人に負けを認めさせ、西土朗は勝利を手にした。

●ポーカーでもいかが?
 勝負はポーカー台へ。優雅なドレスに身を包むメシア・ローザリア(gb6467)は老人を指名した。すでに覚醒しており、さらに探査の眼とGooDLuckを使用している。
「ごきげんよう、メシア・ローザリアと申します。あの方にはワインを、わたくしにはノンアルコールで」
 その注文をこなすべく、ハンタが動いた。アルコールの知識には明るいらしい。それが用意される間、メシアはニューカードの束と掛け金の提示された小切手を差し出す。
「ディーラーの貴方からお願い致しますわ。もちろん、仕込みも結構。一応、リボンスプレッドさせて頂きますが」
 そんな強気の発言に、老人は「大丈夫かね、お若いの」と冷やかした。ちなみにリボンスプレッドとは、カードをテーブルに広げることである。だが、これが老人のイカサマ阻止に繋がるわけがない。
 ジョーカーを2枚含む54枚のカードに不正がないことをお互いに確認した直後、メシアは瞬即撃を使った。この時、彼女はカードに罠を仕掛ける。カードの一番下にAを5枚、一番上にQを4枚仕込んだのだ。彼女はそれを束にして、老人に手渡す。相手はカードの上をメシアに、下を自分に配る。これは「ボトム・ディール」というイカサマだ。メシアはそれを見抜いていたが、そのまま最後まで配らせてから呟く。
「イカサマ? 惨めですわね」
 彼女は不正を指摘するが、ワンテンポ遅い。
「知らんな、そんなことは。もう勝負は始まっている。さ、早くカードを開‥‥うっ!」
 老人に衝撃、走る。メシアはその手をつかみ、手札を全員の前に見せた。なんと最初からAのファイブカードが揃っている‥‥これを見て、ミスターMが首を傾げた。
「‥‥おかしい。Aが5枚あるはずが‥‥」
「まっ、まさか‥‥!」
 ハンタから届けられたノンアルコールカクテルのシンデレラを一口含み、メシアは自分の手札を晒す。こちらはQの4カード。相手の手に比べれば、不自然な点はない。
「バレるイカサマはルール違反。貴方の負けよ」
 ハートのQを手に取り、メシアは優雅に勝利を宣言した。

 メシアに続いて、悠夜(gc2930)とジョシュア・キルストン(gc4215)が席に座る。それに対するは、女性と青年。
 ジョシュアは「男とゲームして何が楽しいんですか」と、女性との勝負を強調。一方の悠夜は「さぁ、とっととオッパじめるぞ!」と青年を挑発。それぞれに打倒する相手を定めての戦いとなった。
 ジョシュアは安い葉巻を持ち、「イカサマしますよ♪」といった風貌。勝負の最中も「僕、元詐欺師でしてね〜」と気安く話し、過去に披露したイカサマを紹介する。
「さっきのボトムディール。あれは有名すぎて通じないでしょうねぇ。ま、試してみないとわかりませんが☆」
 今回も順番にディーラーを行うため、ジョシュアがイカサマをするかも‥‥女性は怪訝そうな顔をしながら、相手の手つきを観察した。その隙を突くように、悠夜は調子よく勝ちを重ねる。青年は大きくマイナスにはならずに、何とか食い下がった。
 悠夜は覚醒もイカサマもしない。彼は記憶力のフル回転して戦った。場に出たカードを覚えておくだけで、かなり有利に立ち回れる。枚数が足らなくなるとニューカードを足して勝負を継続する点が厄介だが、調子付いた時だけ怖いという青年には負けない。
 その後、青年は逆転にかけて強気のレイズ。悠夜はそれに応じ、勝負に出る。
「俺はフルハウスだ!」
 青年の手は高い。これを上回るには、フォーカード以上が必要になる。しかし悠夜もマキシマムが炸裂。彼にとって鬼門であるはずのニューカード追加によってなされた最強の役‥‥っ!
「残念だったな、こちとらはKのファイブカードだ!」
 老人の時のような幻想ではなく、これは正真正銘のファイブカード。思わず女性も席を立つ。これで青年の脱落は決定した。
 悠夜はカードを追加する際、Kが3枚余っていることを把握している。だからいずれ「フルハウス」か「フォーカード」を目指せると踏んでいた。そこへまさかのファイブカード、さらに青年が大勝負に出たことが有利に働き、早期決着となった。
 一方のジョシュアは、女性を揺さぶり続けていた。彼女は相手の怪しい手振りを見るが、どうしてもイカサマの決定的証拠がつかめない。
「イカサマはバレなければ正義‥‥さあ、勝負を続けましょうか」
 こんな調子でゲームを重ね、最終的にジョシュアは僅差で勝利。ほとんど相手の自滅だが、勝ちは勝ち。彼は満足そうな笑みを浮かべながら「楽しかった〜」と口にする。その時、女性は肝心なことに気づいた。
「この僅差、意図したものではない?!」
「あれ、イカサマしてるように見えました? ま、ホントのところはどうでしょうね〜。勝利の女神は、自分を信じぬ者には微笑みませんよ」
 ジョシュアは最後まで女性を煙に巻き、満足げな表情で悠夜とメシアにハイタッチした。

●熱戦は続く
 舞台はルーレット台へ。ここではティルコット(gc3105)が待っていた。
「そーれ、んじゃあギャンブルの基本のルーレットでいこかー」
 まるっきり子どもの風貌に油断したのか、ここは連勝狙いで青年が出た。しかしティルコットは隣に敵の女性を座らせ、会話を楽しみながら勝負に興じる。ディーラーはミスターMが行った。
「賭け事は男のロマン。トレジャーハンターも人生を賭けたギャンブルよん。美しい女性がついてきたらサイコー」
 どう見てもイカサマなんてしそうにない‥‥女性はそう判断すると、青年のアシストを開始。彼女は台を揺らしたりと、露骨な動作で青年にチップをもたらす。優子はそれを見つけるたびに「イカサマやん!」と指摘するが、ティルコットは「いいのいいの」と見逃した。
 イカサマ容認のまま、ついにラストゲーム。青年はイカサマで流れに乗ったとはいえ、大きく差はつけていない。一発逆転もあり得る空気‥‥ここでティルコットが動いた。
「全額投入、ドバッとイクヨー」
 ナンバー2に全額。当たれば36倍で大逆転。青年は「しめた」と1枚だけレッドに賭ける。最後に1枚でも持っていれば勝ちなのだから、ここは手堅く行けばいい。彼の判断は当然だ。ミスターMはベルでベットを確定しようとした瞬間、ティルコットはいきなりナンバーを8に変更。そこでベルが鳴った。
「勝てるかなぁ〜ん」
 ティルコットの心配を打ち消すかのように、玉は今までにない異様な軌道を描いて見事に8へ吸い込まれた! これを見た女性はすぐに玉を取って騒ぎ立てる。
「イ、イカサマよ! これ、磁石の玉じゃない! 最初からナンバー8に入るようにしてあったのよ!」
「それは通らんよ。ティルはあんたらのイカサマを認めとる。それも何度もや。イカサマが容認されとる場で、イカサマした当事者がイカサマしたって騒ぐのん?」
 優子は理路整然と説明する。まさにティルコットの狙い通り。相手はぐうの音も出ず、ここも引き下がるしかなかった。

 祐介は二人打ち麻雀で女性と勝負。最初に「イカサマの現場を押さえたら、押さえられた側はその場でダブ箱払いで半荘終了」との取り決めをした。そして祐介の用意した黒の練り牌を使い、闘牌が始まる。
 この展開、ジョシュアとほぼ同じだが、女性から見て祐介は『イカサマできる男』に見えた。それを証拠にすり替えをしたかのような動きが何度か見受けられたが、あえてこの場は見逃す。すると直後に跳満を食らうが、今さらイカサマを追及しても遅い。ここは耐えた。
 この時、祐介はイカサマをしていない。あくまで素振りだけ。それだけで女性の勝負勘は煤ける。疑い深いが故に、その霧は濃い。女性は抜け出せぬ迷宮に入った。そして南場に突入した直後、箱を割ってあっさり負けてしまう。
「イカサマ看破に集中しすぎて、捨て牌の河さえも乱れる。ククッ‥‥それで勝てるはずもない」
「も、もしかして‥‥」
「イカサマすると思わせておいて、イカサマをしない。これは絶対にバレないイカサマですよ」
 この場もまた祐介が勝利を収めた。もはや勝負は決したも同然だが、ここで優子が3人まとめて密室で勝負を仕掛ける。

●心理戦の末に
 優子はオリジナルのトランプゲームを用意。参加者の背後にはビデオカメラが設置されており、とてもイカサマはできない。純粋な心理戦の幕開けだ。
 場に用意されたAからKまでの13枚のカードを順番に表にし、それを全員で取り合うのだが、参加者の4人も場と同じ構成の13枚を所持。同じく1枚ずつ場に出し、もっとも数字の大きいカードを出した者が場のカードを含めたすべてを総取りし、それがそのままポイントとなる。ただし、KはAに負ける。つまり13試合で1セット。これを5セット行う。
 ルールが飲み込めたところで、反対派は席に座った。これは表向きは個人戦だが、3人で優子を倒すこともできる。彼女にポイントとなるカードが行かなければ、絶対に負けないのだから。
 しかし優子の目的は別にあった。彼女は「賭け事はつまらないですね」と飄然と語るファサードからアドバイスを受ける。彼が今まで見てきた各人の致命的な癖‥‥そのすべてを知り、彼女は勝負に挑んだ。
 初回、ルールを熟知する彼女は敵の癖も考慮に入れつつ、場に出た中盤の数字を大きい数字で確実に取っていく。ゲームの特徴をつかみたい3人は勝とうが負けようがダンマリ。以後の勝ち越しを狙う。
 2セット目。1ポイントにしかならぬAを取ろうと老人が動いた時、優子が相手の癖を言い当て、それを上回る数字で勝利する。老人の手は勝とうというには半端な数字で、仲間は何ともいえない不安を覚えた。それでも老人が意地で勝利し、リーダーとしての面目を保つ。
 3セット目。優子は疑心暗鬼になりやすい女性がいつもの状況に陥ったのを知るや、テーブルをリズムよく叩いて「はよしてなー」と急かす。それはまるで通しのサイン‥‥こうなると女性はもう落ち着かない。視線を上げたところを、優子は狙い撃ちにした。
「ああ、もしかしてわかったん? この中に裏切り者が混じってるって」
 ルーレットで調子付かない青年に、勝負どころを間違える老人‥‥もはや誰も信用ならない。彼女はパニックに陥った。こうなると勝負どころではない。ここも優子が勝利を収めた。

 反対派には後がない4セット目。優子は口を開く。
「うちな、誰が裏切り者か知らん。でも、もし誰かが今ここで情報ゲロってくれたら、上に口聞いてもええよ?」
 その言葉を待っていたのか、青年が堪らず立ち上がって喋り出す。
「お、俺よ! あ、あのバグアは信用できねぇ! これから四国侵略すんのに、俺たち生きてられんのか?!」
 すると「先に言うな」とばかりに、女性も立ち上がる。
「う、噂じゃ、人間の作った非人道的な発明を使って事件を起こすんでしょ! マトモじゃないわ!」
 老人は慌てふためく若人を見て、短く嘆息した。そして自分の負けを素直に認める。
 このまま難癖をつけて勝負を続けても、肝心の仲間がこれではどうしようもない。部屋の隅で勝負を見守っていた傭兵たちに「強いな」と声をかけ、リーダーに「あなたの命に従います」と誓った。

 かくして組織の命運を賭けたギャンブルは終わった。この後、組織はUPCの事情聴取を受ける。GMBの面々はみんなに敬礼し、トモは「またよろしく!」と再会を願った。
 最後に敵の仲間割れを引き起こした優子は、ファサードの観察眼を褒めちぎる。みんなの前で「この情報がなければ自分が思い描く心理戦に持ち込めなかった」と讃えた。ファサードは言う。
「皆さんも私と同じことをなさってました。だから、負ける気はしませんでしたよ。まずはよく人を見ること‥‥ですね」
 この時、みんなが仲間に視線を向ける。この面子で勝負をしたなら、いったいどういう戦いになるのか。そこでメシアは「イカサマのないルーレットで確かめましょう」と、みんなを再び勝負の場へと導く。戦いの夜は、まだ終わらないようだ。