タイトル:【BD】HW基地強襲・上空マスター:村井朋靖

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/10/18 10:17

●オープニング本文


 ベネズエラから溢れた敵軍は、防戦に努めるブリュンヒルデと傭兵、正規軍の手に削られつつも、多くがコロンビア国内へ降下した。
「随分大盤振る舞いされたじゃねぇか。ま、やられただけとは思っちゃいない」
 太い指が、ベネズエラ国境のやや内側にあるヘルメットワームの工場を指す。かつてコロンビアがバグア側だったときに建造されたものだ。
「俺は、ここの守りが手薄になった、と見ている。大振りの時には必ず、ガードが甘くなるもんさ」
 生身で近づき施設を制圧してから、KVで強襲。バレンタインの作戦の簡易版といった様相だ。狙いも、同じである。
「獲物の回収には、大型ヘリを何機か回す。しくじるなよ?」
 日に焼けた男は、傷だらけの顔で豪快に笑った。

 この工場から飛び立つヘルメットワームの群れを見送ったのは、つい先日のこと。しかし工場長を務めるエドガー・ペレスに安息の日はない。戦場と同じく、工場もフル回転で動いている。
「ふーっ、戦況は安定‥‥といったところか」
 胸ポケットから高級タバコを取り出し、その一本を咥えて火をつける。ガラスの灰皿は、すでに吸殻でいっぱいになっていた。
 この工場は軍事施設ではあるが、戦場の状況‥‥特に劣勢を伝える情報を除いては、若干の間を置いて入ってくる。
「ここにあるHWの半分以上が戦場へ飛び立った。とにかく完成を急がねばならん」
 現在、急ピッチでHWの製造を行っているが、まとまった数を完成させるには、まだ時間がかかる。エドガーはふうっと息を吐き、紫煙で部屋を満たした。
「付近の施設で使っているワームも数に入れて劣勢をカバー、だからな。激戦であることには違いあるまい」
 そんな時、扉からノックの音が響く。続けざまに「視察の時間です」という声がした。現場責任者が呼びに来たらしい。エドガーは急いで煙草を消し、工場内に檄を飛ばすべく部屋を出た。
 不気味なほどの平穏さを保ったHW工場が騒がしくなるのは、そう遠くない未来のことである。

 空からKVで急襲する傭兵たちは、地上部隊を乗せたトラックが出発するのを見送った。この後、上空から追いかける。
 それに続き、UPC軍が用意したHW回収部隊が続く。こちらも準備万端。傭兵たちが切り開く道を進むべく、翼を煌かせる。
「そろそろ出発の時間です」
 搭乗を促す兵士の声に背中を押され、パイロットたちはベネズエラの空へと飛び立つ。

●参加者一覧

榊 兵衛(ga0388
31歳・♂・PN
新居・やすかず(ga1891
19歳・♂・JG
藍紗・バーウェン(ga6141
12歳・♀・HD
錦織・長郎(ga8268
35歳・♂・DF
澄野・絣(gb3855
20歳・♀・JG
ジャック・ジェリア(gc0672
25歳・♂・GD
ラナ・ヴェクサー(gc1748
19歳・♀・PN
ラサ・ジェネシス(gc2273
16歳・♀・JG

●リプレイ本文

●長き戦いへの旅立ち
 地上部隊の急襲から間を置かず、KV部隊がヘルメットワーム工場上空の制圧に向かう。
 本来の目的はHW回収部隊の活動をスムーズに行わせるための戦闘ではあるが、実のところ「工場に接近する際にスクランブルで上がってくるHWをすべて撃破する」という意味と同じだ。今回の戦闘は長期戦になる。その覚悟は誰の胸にもあった。

 武者鎧を思わせる朱漆色の塗装を施した雷電「忠勝」に乗る榊 兵衛(ga0388)は、彼を「先生」と呼んで慕うラサ・ジェネシス(gc2273)とロッテを組む。その弟子はフェイルノートに、おいしそうなタイヤキとこなもん屋台のロゴをペイントしていた。どちらのKVも、戦場ではよく映える。ふたりはHWの迎撃を担当し、追随するUPC軍の進路を作るべく戦う。
「ここを踏ん張れバ、地上の人たちが楽にナル。頑張らないとネ」
 ラサの言葉を聞き、兵衛も納得の表情を浮かべながらひとつ頷く。同じく迎撃を担当する錦織・長郎(ga8268)は、今回の作戦を「火事場泥棒の仕返し」と捉えていた。攻め手としてはいい機会‥‥彼は銀色のバイパーを眺めながら、肩をすくめながら語る。
「重要機材奪取のアシスト、これもいわばエスピオナージュの一環だね。くっくっくっ‥‥」
 長郎が機体と同じ蛇っぽい一面を覗かせると、ケッテを組むラナ・ヴェクサー(gc1748)と澄野・絣(gb3855)に声をかけた。うら若きふたりの女性パイロットに下心アリのご挨拶をし、作戦の打ち合わせの隙間を口説き文句で埋めていく。
 ところが女性陣の反応はあまり芳しくない。絣は「まぁ、そんなことおっしゃって」と普通に受け流し、ラナは自分のパソコンを愛機サイファーに接続し、HWを倒した際のデータを得られるように設定するのに夢中でマトモに聞いてくれない。そんな様子を見ていた新居・やすかず(ga1891)が「お楽しみは後ほど、ですかね」と声をかけると、長郎も「もちろんそのつもりだ」とニヒルに笑った。そんな穏やかな笑みを浮かべる青年は和服美女の藍紗・T・ディートリヒ(ga6141)とロッテを組み、UPC軍の回収部隊を護衛する任務に就く。先行するKV部隊から少し距離を置くが、戦場となる空域を飛ぶことに変わりはない。メンバーは「念には念を入れて」というシフトでHWに挑む。
「そろそろ出発しますので、準備をお願いします」
 駆けつけた伝令の兵士に背中を押されるように、上空部隊の面々は愛機でベネズエラの空に向かって旅立つ。南米の空もひときわ青い。
「地上班は精鋭揃いだ。きっと上手くやってくれるだろうさ。俺たちは墜とされないように気を付けさえすればいい。簡単とは言わないが、俺たちならやれるさ」
 兵衛は通信で味方を鼓舞し、長くなるであろう戦いに向けて気持ちを引き締めた。

●ロッテとケッテ
 国境を越えてしばらくすると、さっそくHWが出現した。数は7体、どれも似たような形をしている。さすがはHW生産工場‥‥数だけは揃っているらしい。
 これを迎え撃つのは、槍の兵衛。まずはK−02小型ホーミングミサイルで、前方5機に対して確実にダメージを与える。さらに追い討ちとばかりにスラスターライフルで狙い撃ちにし、確実に1機を撃墜。それを受け、ラサは後ろからブーストを仕掛け、ツインブースト・アタッケとツインブースト・クー・ドロアを駆使して最大限にまで強化されたMSIホーミングミサイルを発射する!
「今! 必殺ノ! 驚天動地ファイナルこなもんアタッケ!」
 手負いのHWでなくとも、これを受けて無事でいられるかどうか‥‥先生が攻撃した残り4機をすべてラサが落とし、そのまま敵とすれ違って囮役となった。HWは大きく旋回し、ラサのフェイルノートを追いかける。しかし兵衛はこれを見抜いていた。すぐさま背後を突き、再びスラスターライフルで1機ずつ確実にダメージを与えていく。
「その戦闘駆動は、ある程度はお見通しだ」
 兵衛の言葉を体現するかのように、ラサも反撃に出る。あえて雲の中に突っ込み、そこで旋回。敵の横っ腹を重機関砲で穿つ。
「鎧袖一触! こなもんストライク!」
 雄々しき言葉に、敵機の爆発音がよく似合う。こんな調子で無傷だった2機も落とし、兵衛とラサは序盤にして早くもリズムをつかんだ。

 前哨戦は傭兵たちに軍配が上がるが、戦闘はまだ始まったばかり。工場上空には不意の撃墜を察知し、スクランブルで上がったHWが待ち構えていた。長郎は全員に向けて通信を入れる。
「ここからはケッテも活躍しますよ」
 そう言って、KP−06ミサイルポッドから無数の小型ミサイルをHW群の鼻先めがけて発射。これは撃墜が目的ではなく、あくまで行動を阻害するための弾幕である。機動方向選択を狭め、航空機動を読みやすくするのが狙いだ。
 それを受けて、ラナ搭乗のサイファーが先頭のHWに試作型スラスターライフルで徹底攻撃を仕掛ける。これはデータ採集のため、いろいろな戦闘方法を試そうというものだ。リロードの手間を省くため、ガトリング砲との併用で実験を行った。
「‥‥有用なデータを採らせてくださいよ」
 リロードで手数を減らすことなく、なるべく攻撃を続けることで有用な情報を得ようと努力する。しかし、ここは戦場。行動を抑制されているとはいえ、できる範囲でHWは追ってくる。なかなかラナの思い通りにはなってくれない。そんな憂さを晴らすかのごとく、赫映に乗る絣が敵にトドメを刺さんとドッグファイトで挑む。常にアリスシステムを起動させ、レーザーバルカンで敵の動きを阻害しつつ、本命のプラズマライフルを食らわせる。
「覚悟しなさい!」
 まさに一撃必殺を体現するかのような動きで、確実にHWを破壊する。妙な間を置きたくはない‥‥彼女はそう思い、とっさに周りを見た。幸い、敵は手の届くところにいくらでもいる。自分の間合いを保って戦うには好都合だ。
「悪いけど、私が得意な距離で付き合ってもらうわよ」
 こうしてまた1機の背後を突き、絣の望むフィールドが展開される。しかし彼女の後ろに回れるHWは腐るほどいるのも、また事実。そんな敵がいれば、抜け目のない長郎がスラスターライフルで援護射撃をし、ラナもリロードのできる武器を駆使して蜂の巣にする。これで背後を心配する必要のなくなった絣は、思う存分ドッグファイトを仕掛け、ターゲットとなるHWを確実に落とす。

 本格的な戦闘となり、ラサは攻撃を仕掛ける際は一撃離脱を身上とし、兵衛は傷ついたHWを見て「落とせる」と判断すればホーミングミサイルを発射。確実に数を減らすことを徹底する。長期戦に備え、「誘導弾は1機に対して2発までしか撃たない」と決めていた。それ以外は深追いしない程度に接近し、スラスターライフルで攻撃してダメージを重ねていく。
「‥‥いい加減、俺も傭兵生活が長いんでな。HWとの戦闘経験なら、イヤというほど積んでいる」
 その言葉を裏付けるのは、堅実な攻め。忠勝の行くところは、どこも火の粉が舞い散る。ついでにフェイルノートが通れば、こなもん屋の広告が踊る。
「さっきからバラ撒いテルのハ、粉じゃなくて鉛玉ダケドナ‥‥」
 肝心なところで大ゴケしていることに気づいたラサだが、囮役なんてものは常に撃墜と背中合わせ。手近にいるHWのミサイルにロックオンされたと察知すると、ブーストしつつバレルロールでミサイルを回避。今度は太陽を背にしながら、スナイパーライフルで攻撃を仕掛ける。一瞬の気の緩みが自分だけでなく、ロッテをもピンチに追い込む。操縦桿を持つ手に力が入るというものだ。
 誰もが唸るほどのHWを前にすれば、各機さすがに無傷ではいられない。それでも中破すらせず、前衛は必死に攻め続けた。後ろで戦況を見守る藍紗は「少数精鋭での戦い、上等じゃ!」と鼓舞することを忘れない。

●天秤は傾く
 戦闘が始まって15分、状況が動いた。いや、正確には「状況を動かした」というべきか。
 上空部隊より先に作戦を実行していた地上部隊から「工場の制圧完了」の連絡が入ったという。それを受けてUPC軍のHW回収部隊は基地への降下を決定、傭兵たちにもその旨を伝えた。
 やすかずと藍紗は今まで以上に周囲の警戒にあたり、前衛にいる長郎はKP−06ミサイルポッド、ラナもD−03ミサイルポッドで弾幕を張る。特にラナは弾幕を突破したHWに対して同様の攻撃を仕掛け、撃墜寸前まで追い込む。そこを兵衛が誘導弾で破壊。前衛も協力して、回収部隊のために道を開く。やすかず搭乗のサイファーは回収部隊とHWの間を飛び、射線を塞ぐように動いた。
「ここは僕たちが守ります」
 藍紗の乗るアンジェリカもそれに呼応し、機敏な動きを見せる。
「悪いがおぬしらを通すわけには行かぬ。ここで落ちるか、おとなしく縛につけい!」
 数が減ったとはいえ、HWは健在。降下を始めた回収部隊を狙って、3機が弾幕を抜けてやってくる。1機はラナの二次弾幕で撃墜できたが、残りはやすかずと藍紗が処理するしかない。
 藍紗が搭乗するアンジェリカ「朱鷺」は、遠距離からアハトアハトとミサイルを発射。やすかずのサイファーはホーミングミサイルで敵の勢いを削りつつ、勝負どころではエネルギー集積砲を発射して撃墜を狙う。
「この先は行かせん!」
 ふたりの固い意志が勝ったか、いずれのHWも道半ばで爆発。黒煙を上げながら地上へと落ちる。その間もラサと絣は、せっせとHWの数減らしに奔走。兵衛とラナがそれを援護し、長郎が抑止力としての弾幕を張り続ける。それぞれの役割が明確であるがゆえに、多少のトラブルが発生したとしても大きな問題に発展しない。これが傭兵たちの大きな武器となった。

 ついに回収部隊がHW生産工場に着陸し、作業を開始。回収するのはスクランブルで上がらなかったHW‥‥つまり、未完成の機体が主となる。格納スペースの問題もあるので、満足な標本が手に入るかどうかは作業員次第‥‥と言ったところか。
 この間、やすかずと藍紗もHW掃討に参加した。サイファーは小型を狙って積極的に前に出て、レーザーライフルを打ち込んで一撃離脱を繰り返す。朱鷺は目視で装甲の硬そうな敵や大型のHWを相手にホーミングミサイルで削りつつ、SESエンハンサーで威力を増幅させた粒子加速砲で一気に片をつける。
「立ちはだかるならば‥‥撃ち貫くまでじゃ!」
 この一撃を見て、敵の顔が恐怖に歪むことはない。しかし確実に敵の数は減っており、味方を鼓舞する結果を導き出した。この事実は決して揺るがない。回収部隊の仕事も着々と進んでおり、これが無事に退却できれば、上空部隊の任務も成功となる。いよいよ戦況が有利に傾き始めた。

●決着の時
 最前線で戦うラサは、ロックオンされたミサイルを根性で避けるシーンが増えた。KVでの長期戦は、さすがに厳しい。この頃には兵衛も2種類の誘導弾を撃ち尽くしており、狙撃銃による遠距離攻撃は威嚇のみで使用し、スラスターライフルでの格闘戦で懸命にサポートしていた。長郎も弾幕を越えるHWに対して誘導弾を連打して殲滅する作戦を取っていたが、こちらもついに弾切れ。それでもスラスターライフルを使いつつ、奥の手ともいえるソードウィングも駆使して敵を撃破するという離れ業を見せる。
 回収部隊が降下した後、絣とラナが同じ目標に向かって攻撃を仕掛ける場面が何度かあった。赫映はプラズマライフル、レブ・アギュセラはガトリングを使用し、お互いに息を合わせてHWの撃墜を狙う。後ろに突かれれば、絣がマイクロブースターで回避しつつ、素早く旋回してカウンターで攻撃を仕掛ける。もちろんラナもそれに続いた。
「そう簡単に仲間はやらせないわよ!」
 そんな絣の叫びに応えるかのように、UPC軍が再び浮上を開始。ようやく回収作業を終え、今から撤退を開始するという。やすかずと藍紗は全体が上昇を終えるまで防衛を努めた。そして輸送機がゆっくりとHWに背を向け、国境に向けて飛び去っていく‥‥その姿が小さくなるまでの間、傭兵たちは最後の踏ん張りを披露。序盤ほどの勢いはないにせよ、役目を変えずに戦い抜く。

 そして、ついにその時を迎える。UPC軍から撤退の許可が下りた。時を同じくして、HWも制圧された生産工場ではないどこかに向かって撤退を開始する。しかし戦場を飛び去る敵戦力は約半分にされており、これは「惨敗」と言われても仕方のない状態だった。一方の上空部隊は誰ひとり撃墜されることなく、無事に帰還を果たすという‥‥両者で明暗がくっきりと分かれる。
 藍紗は誰よりも早く、長時間の戦闘に耐え抜いたメンバーに「お疲れでござった」と声をかける。それを聞いた兵衛は「俺を倒したくば、せめて有人機を持ってくることだな」とクールに言い放つ。それからしばらく長郎とやすかず、そしてラナが「もし有人機がいたら、どんな展開になっていたか」を熱心に話していた。
 ラサは相手が無人機であることを思い出し、「しまったァ‥‥宣伝って、ここお客さんいないシ」と広告ペイントの効果がイマイチであることに今さら気づいて頭を抱える。師と仰ぐ兵衛は「まだ活躍の舞台はある」と慰め、絣も「その通り」と頷いた。
 地上部隊ともども攻める立場でも成功を収め、HW生産工場を制圧。十分な戦果を手土産に、傭兵たちは基地へと戻った。