タイトル:メルティアが呼ぶ陰謀マスター:村井朋靖

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/10/04 09:01

●オープニング本文


●バグア少女の策謀
 沖縄の離れ小島に拠点を持つ親バグア組織『虹の珊瑚礁』は、ここである兵器の完成させた。それはバグアの沖縄基地から送られた設計図を元に作った超科学爆弾で、名前を「メルティア」という。上から送られてきたのは設計図だけでなく、ほとんどの材料がセットだった。組織で行った工程は指示どおり組み立てるくらいで、何の困難もなく出来上がる。
 あとは専用回線を使って報告するだけだが、肝心のバグア様がお留守。この日も「ぜひお目通りを」と、通信室の巨大スクリーンの前で組織のボスが懸命に訴える。そんな献身的な態度が実を結んだのか、直属の部下から面会の許可が下りた。
「ふーっ、やっとか‥‥」
 相手が横を向いた隙に、ボスが小さな声で呟く。少し出たお腹をポンと叩くと同時に、目の前にバグアが映し出された。彼は慌てて挨拶を始める。
「おお‥‥この度はご面会くださいまして、誠にありがとうございます。虹の珊瑚礁の責任者でございます」
 うやうやしく礼を捧げたはいいが、顔を上げて驚いた。そこに立っていたのは年端も行かぬ少女‥‥彼女の名は、榊原アサキ。最近になって沖縄に入ったと聞いている。
「今、責任者と言った?」
 ショートシャギーの髪を触りながら、少女は細かいことを確認する。ボスは「そうですが」と答えると、アサキは眼光を鋭くした。紫色の瞳が妖しく輝く。
「4日前、あなたの組織に能力者の密偵がいるって報告があったの。あたしが始末しようと思って出たんだけど、うまく逃げられちゃって」
 それを聞いたボスは驚きのあまり目を見開き、周囲に居合わせた部下を見た。しかし通信室にいた連中の血の気は失せている。誰もこの事態を把握いないという証拠だった。
 彼は体裁を取り繕おうと、早口でまくし立てる。
「そっ、そのようなことが‥‥! そんなネズミ退治にアサキ様がお出ましになる必要などありませ」
「いいのよ、私のことは気にしなくて。あなたには、もっと気にすることがあるでしょうから」
 アサキはおべんちゃらを遮り、容赦なく辛辣な言葉を浴びせた。冷や水を浴びせられたボスは神妙な顔つきで、言葉を選びながら喋る。
「お、お‥‥おっしゃる通りでございます。これは我々の不手際。今となっては、ただお詫びするしかございません」
 あっさり謝罪に転じたボスを見て、部下たちはすっかり意気消沈。相手は侵略者のバグアだが、せめて今までの忠誠を盾に命乞いくらいしてほしかったというのが本音である。これでは処刑も免れまいと、通信室の空気は重苦しくなった。
 ところがそんな殊勝な態度が気に入ったのか、アサキはクスッと笑った。
「ふふ、素直ね。いいわ、あなたにチャンスをあげる。そこに来る能力者を食い止めなさい。メルティアを守るのよ」
 ボスは無礼を承知で、思わず顔を上げた。ボスは温情ある判断と次なる指令を出してくれたアサキに心から感謝し、さっきよりも深く敬愛の念を込めた礼を捧げる。部下たちもそれに倣った。
「虹の珊瑚礁、総力を挙げて能力者を排除いたします!」
 それを聞いたアサキは「今度こそ頼んだわよ」と言い、力強い援軍を送る約束をする。
「人間らしからぬ威勢のよさ、いいじゃない。こちらも蛇と合成した強化人間を送るわ。よく協力して敵を排除するのよ」
 この言葉を最後に通信は切れた。こうなればボスも部下もやるしかない。拠点の士気は天を突くほどであった。

 アサキは暗くなったスクリーンの前に強化人間を呼び、ボスと協力して能力者たちと相対するよう指示を下す。彼女は「阻止すべきはメルティアの無力化で、能力者の撃破は二の次だ」と念を押した。
「ケケケ! 了解しました!」
「こっちに手柄が来るように仕向けたんだから、しっかりがんばってよね」
 どこか気になる言い回しをする少女が強化人間に檄を飛ばすと、男も妙な鳴き声を響かせながら尻尾を振って気合を入れる。そして独特の礼を捧げ、任務へと向かった。
「‥‥甘いわね、虹の珊瑚礁。そんな失点、あたしたちが許すわけないでしょ?」
 今までになく邪悪な表情を浮かべるアサキ。人間をひとりでも多く一度に倒せるなら、親バグア組織も密偵も強化人間も利用する。潜入者にうまく逃げられたなんて真っ赤なウソ。本当はわざと逃がしたのだ。
 彼女の手には、あるスイッチが握られている。それは強化人間に仕込んである自爆装置を発動させるためのもの。すべての邪魔者をメルティアで始末するのが、彼女の本当の目的であった。
「あたしたち、もうメルティアなんていらないの。人間にバレたら使えないし。あ、使えないのはみんな同じかな‥‥ふふ」
 少女の陰謀は黒雲となって立ち昇り、沖縄の離れ小島を包み込もうとしている。最後にはそれが大いなる光となり、最悪の結末を導くだろうか‥‥その時は近い。

●それを防ぐ者たち
 意図的に逃がされた能力者はUPCによって保護され、すぐに病院へ担ぎ込まれた。かなりの重傷を負っていたが意識があったので、孤島での潜入捜査で得た情報を聞き出す。それは別の能力者‥‥つまりはULTの依頼として傭兵たちに託された。
 この情報を最初にキャッチしたのは、杉森・あずさ(gz0330)である。
 裏で暗躍するバグア・榊原アサキ、通称『神と魔の少女』の存在。そして超科学爆弾メルティア‥‥彼女は資料を読み進めるうちに、次第と渋い表情になった。これは難しい。それが素直な感想だった。
「疑惑の孤島に行くくらいなら、まだボリビアの戦場の方が安全かもね‥‥」
 オペレータも「冗談でもそんなこと言わないでくださいよ」と慌てる。とにかく危険な任務になることは間違いない。あずさは「情報源となる能力者からいつでも詳しい内容を確認できないと難しい」と、オペレータにUPCへの打診を願い出た。彼女の提案はすぐに受け入れられるが、これは事件の解決が困難であることの裏返しでもある。
「やるしかないね。ただバグアのことだから、証拠隠滅のために爆弾を破壊させることも計算に入れなきゃね」
 あずさは髪をひとつに束ね、この事件のために尽力しようと動き出した。

 一方、『虹の珊瑚礁』のボスは強化人間を外で出迎えると固く握手を交わし、お互いにアサキのために協力することで協力し合うことを誓った。
 ボスは確実に能力者の侵入を防ぐため、蛇に外の警戒を依頼。建物の中は、武装した部下に守らせる。自らも銃を持ち、ここを襲わんとする敵に備えた。

●参加者一覧

翠の肥満(ga2348
31歳・♂・JG
烏莉(ga3160
21歳・♂・JG
サヴィーネ=シュルツ(ga7445
17歳・♀・JG
北条・港(gb3624
22歳・♀・PN
ルノア・アラバスター(gb5133
14歳・♀・JG
ゼンラー(gb8572
27歳・♂・ER
沁(gc1071
16歳・♂・SF
ミリハナク(gc4008
24歳・♀・AA

●リプレイ本文

●狡猾さは負けてない?
 傭兵たちが杉森・あずさ(gz0330)が運転するリッジウェイから降りると、暑く乾いた南国の風が出迎える。
 ゴシックドレスを着たミリハナク(gc4008)は、これから始まる戦闘という名のバカンスに胸を躍らせた。そんな彼女は陽動班として、基地の外から援護する。翠の肥満(ga2348)はガトリングシールドを持ち、こちらも準備万端。しばしの水中移動でサヴィーネ=シュルツ(ga7445)は調子を崩したらしいが、相棒のルノア・アラバスター(gb5133)という支えもあって、これを跳ね除けた。強い精神力を得るためには、ほんの小さなきっかけがあればいい。
 基地に乗り込む潜入班も準備を進めることで、作戦の成功へ近づかんとする。メルティアまでの血路を開く烏莉(ga3160)と北条・港(gb3624)は武器を抜き、超科学爆弾の分析という大一番を控えるゼンラー(gb8572)と沁(gc1071)は知恵を巡らせた。
「バグアさんは何を考えてるのやらねぃ」
 このゼンラーの言葉に、ルノアも疑問を口にした。
「超科学、爆弾、もう、少し、名前を‥‥いえ、何でも」
「そこも含めて気になるねぃ! 拙僧の知るバグアは、親バグア派とはいえ、そんな爆弾‥‥渡しはしない、と思ってたが」
 怪僧の予感は、いい結果をもたらさない。港はキャンディーブーツを履きながら、「処理するしかないね」と言った。烏莉は陽動班が動き出すと同時に島を迂回、兵士を見つけたら服を失敬して変装する旨を改めて表明する。サヴィーネは「サル山の連中にご挨拶しとくよ」と返すと、翠は「秀逸な表現だね」と笑った。
「それでは、参りましょうか」
 妖艶な美女の声を合図に、戦いの火蓋は切って落とされた。

 陽動班は兵士の目に触れるよう、まっすぐに基地へと向かう。ミリハナクとルノアが前を行き、中盤に翠、後ろにサヴィーネと続く。小道を見つければそれに沿って走り、翠も「こっちだ!」と声を出す。これが功を奏し、うまく巡回中の一般兵に発見された。
「て、敵襲ー!」
 敵の4人組は慌てて銃を構えようとするも、翠が瞬天速の効果を発揮して先手を取る。
「みんな俺に任せろ! こんな奴ら、俺一人いれば十分だ!」
 その言葉を証明するかのように、ガトリングシールドから容赦なく銃弾がバラ撒かれ、いとも簡単に敵を葬った。彼はその場で装填を行い、次に備える。ミリハナクは髪を揺らしながら双斧「パイシーズ」を構え、ルノアは機械剣「ライトピラー」を抜いた。サヴィーネはアンチシペイターライフルを固定し、前衛の援護という仕事の準備をする。
 すぐに第二波がやってきた。数が倍の8人となったのを見て、翠は慌てて瞬天速と限界突破を使って一気に下がる。先頭にいた的が逃げると、敵も前に出ざるを得ない。それをふたりの美女が迎え撃った。ミリハナクはふたつの斧で突進して嵐を巻き起こせば、ルノアは瞬天速を駆使して一陣の風となる。白銀のレーザーは敵を翻弄し、激昂を鎮めんと煌く。
 ところが、そんなふたりの活躍を快く思わない翠が、声を大にして訴えた。
「お前ら、なんでもっと早く援護しない! この俺を援護すれば、ここを突破できるんだぞ!」
 この言葉を聞き、兵士たちは腑に落ちない表情を浮かべた。彼の叱責を受けても女性陣は知らん顔で、まるで協力するつもりがない。強さは十分だが、連携があまりにお粗末‥‥手痛い失点を取り返そうとする『虹の珊瑚礁』にとって、これはプラスの材料となった。簡単には追い返せないが、突破を阻むことはできるかもしれない。そう考えた。
 そんな最中、基地に警報が鳴り響く。この様子を見た兵士が通信を入れたのだろう。いずれここに来る兵士の数は増えるはずだ。それを確認した翠は、無線機で潜入班に連絡を入れる。
「僕さ、ずいぶんと悪い男になっちゃったよ」
「仕方ないんじゃない? 自分で考えた作戦なんだから」
 受信したのは港である。陽動が成功したと知ると、彼女はそれをメンバーに伝えた。潜入班の仕事も順調に進んでおり、今は着替えの最中である。烏莉が隠密潜行を使いながら移動し、巡回の兵士を始末して服を奪ったのだ。
「もうすぐ潜入開始かな」
 偽の兵士に化け、また静かに動き出す。翠は「よろしく頼むよ」とエールを送り、空気の読めない男を演じるべく戦場へと戻った。

●潜んで、急いで。
 潜入班が位置する場所は翠たちが騒ぐ場所から少し離れているが、それでも基地内の慌しさを肌で感じられた。
 幸いにも一般兵が陽動に乗せられ、基地の警備が甘くなっている。兵士とは思えない圧力を醸し出す烏莉を先頭に、あまり人気のない扉を探す。すると、左手に地味な色の扉があった。
「監視カメラとかあるとイヤだな‥‥」
「ふむふむっ! 港ちゃん、あそこにはカメラもセキュリティもないねぃ。いやはや、拙僧にとっては助かるねぃ」
 さっきまで焦っている素振りを見せていたゼンラーだが、お粗末な扉を見るとホッと一息。潜入は簡単だが、ここから先は多少の演技が要求される。それを察してか、港と沁は苦い表情を浮かべた。
 しかしここまで来て、後戻りはできない。烏莉は黙って歩き出した。3人も続く。扉の前でゼンラーが先頭に立ち、念のためドアノブに触れて確認。何の仕掛けもないことがわかると、ゆっくりと扉を開く。
 廊下に敵影はなく、サイレンと乾いた靴音が響くのみ。再び烏莉が先陣を切り、地下への階段を求めて歩き出す。ただ、悠長に探している暇はない‥‥ゼンラーはまた焦り出した。
 そんな時、たまたまひとりの兵士が通りがかった。烏莉はすぐさま彼を捕らえ、港が耳元に話しかける。一瞬の出来事だった。
「地下への階段はどこかな?」
「なっ!」
 基地内で敵に襲われるとは思っておらず、兵士はただ驚くばかり。瞬時に「役に立たない」と踏んだのか、烏莉は音もなくアーミーナイフを抜く。港はそれを制すため、とっさに次の言葉を口にした。
「質問に答えられないなら、眠ってもらうしかないかな」
「‥‥‥‥‥」
 緊張を帯びた沈黙が一瞬。ゼンラーも沁も息を呑む。
「つ、突き当たりを右に曲がって、目の前にある扉を開けると‥‥階段が、ぐ!」
 必要な情報が出たと知るや、港は当て身を食らわせて気絶させた。
「さて、行こう」
 彼女は小さな笑みをこぼし、言われた道を進む。烏莉は無表情で無反応だったが、それに続く。沁は再び表情を作り直し、ゼンラーも少し歩幅を広げた。

 兵士の言葉は正しかった。地下へ続く階段があり、これを下ると天井の高い廊下が待ち受ける。地上よりもしっかり建てられた雰囲気が端々から感じられ、ここに爆弾と呼ばれるものがあると考えるのが自然とさえ思えた。
 ここからは手当たり次第に部屋を襲撃し、少しでもメルティアの手がかりを得るために動く。港が扉を蹴り開け、雷遁を手にした沁が無駄な抵抗をせぬよう呼びかける。
「すでに退路はない‥‥」
「ま、まさかっ! お、おのれ‥‥!」
 この部屋には白衣を着た研究者が数人いた。そのうちのひとりは察しがよく、すぐに彼らが偽者であることに気づく。そして勇敢にも、近くにある鉄の棒で少年の撃退を試みた。沁は「瞬雷!」と叫ぶと、敵は「ぎゃっ!」と一声上げて床に倒れる。
「逃げ延びるのと‥‥ここで一人ずつ息絶えるのと‥‥どっちがいい?」
「ひ、ひぃーーーっ!」
 沁のクールな態度が敵の心を折り、この部屋はあっという間に制圧完了。その間、港は他の部屋に何があるかを聞き出し、沁はメルティアの資料を片っ端から出すよう要求する。ゼンラーは情報端末に近づき、情報を入手すべく調査を開始。電子魔術師を駆使してプロテクトの解除を行うなど、迅速な分析を心がける。
 ここからはスピードが要求されると判断し、烏莉は銃を抜いて廊下に立ち、不測の事態に備えた。

●陰謀の鍵、強化人間!
 陽動班が動き出してからしばらくして、新たな局面を迎えた。奇怪な姿をした蛇人間が、兵士を制して前へ出てきたのである。
「ケケケ! なかなかやるそうだな! お前らは俺様の毒牙にかかって死ぬがいい!」
 一般兵はその姿を見るや、すっかり勇気付けられた。ミリハナクはそんなことお構いなし。ようやく骨のある相手が来たと内心喜び、静々と前に出る。
「ごきげんよう、素敵な鱗の殿方。私と遊びませんか?」
 美しく不敵な笑みは、挑発のエッセンス。怪人は長い舌を揺らしながら、余裕の表情で「いいだろう」と細身の槍を構える。ミリハナクは漆黒の蝶のように舞い、茶褐色の蛇に立ち向かった。彼女の双斧が閃き、二度ほど鱗を裂いたかと思えば、蛇の槍を食らい傷つく。
 一進一退の攻防‥‥と思われたが、同じ前衛にいたルノアは助太刀にも入らずにさっさと後退。それを受け、サヴィーネもライフルを持って下がってしまう。無論、翠がお付き合いしてくれるはずもない。ミリハナクは仕方なく前線から下がった。これを見た蛇人間は大いに笑う。
「ケーーーケケ! あいつら、尻尾を巻いて逃げたぞ! 追え、追うのだ!」
 連携が取れてないのは周知の事実だが、油断ならぬ相手であることには変わらない。ここでミリハナクが素直に逃げると見せかけ、ソニックブームで怪人の牙と尻尾を狙い打つ。これが見事に命中し、翠が作った理想の展開に鮮やかな色取りを加えた。
「ぬおっ! 少しはやるようだが‥‥まだまだ」
 蛇は傷ついた牙を気にしつつも、兵士に注意を促して自らも前に出る。それが恐るべき罠であるとも知らずに‥‥

 翠はサヴィーネと合流し、少し遠くなった基地を見た。
「ふむ‥‥少し面倒なのが出てきた」
 彼女も口ではそう言うが、ここまでは想定の範囲内。この場に強化人間がいることは、今までの経験から読めていた。だから、翠が取った行動の意図も理解している。それでも彼は念を押すように言った。
「あ、さっきのはお芝居ですよ。誤解しないでくださいね!」
 翠の釈明を聞いたサヴィーネは「大丈夫だ」と言い、再びライフルを設置。前線から戻ってきたルノアに向かって言葉少なに語りかける。
「ノア、行けるかい?」
「サヴィ、もちろん‥‥」
「あの強化人間をここまで誘き出せば、爆弾と一緒に心中を選んでもすぐには実行できないさ」
 敵には見えない絆で結ばれた陽動班の本気はここから。双斧を羽のように舞わせるミリハナクが前を向き直すと、一気に攻めの姿勢にチェンジ。サヴィーネがルノアとミリハナクに援護射撃の効果を付与してサポート。彼女はケルベロスを撃ち、罠にかかった怪人に命中させてから、瞬天速で距離を一気に詰める。
「行きます‥‥!」
 再び白銀が煌き、砕けたガラスのように鱗が舞った。いきなり劣勢に立たされた蛇人間は驚く間もなく、次々と強力な攻撃に狙われる。翠も瞬天速で自分の間合いに陣取り、そこから容赦のない銃撃を浴びせた。さらにミリハナクは受けた傷を活性化で回復し、再び襲いかかる。
「ぐへっ! き、貴様ら‥‥っ! も、もしや、俺は罠に!」
「そんな野暮なこと、言わないで♪ もっと激しく踊りましょう」
 一気に雰囲気を変えられ、怪人は戸惑いを隠せない。兵士たちも完全に浮き足立った。ここは自分が奮起すべきと、周囲を鼓舞するかのように攻撃を仕掛ける。しかしルノアは尻尾を回避し、ミリハナクも槍の一撃を受け止めた。
「逃がさない」
 サヴィーネは影撃ちを駆使し、蛇の腹と喉、そして眉間を狙って射撃。これをすべて命中させる。最後はルノアとミリハナクが美しく舞い、敵の断末魔を響かせた。
「ゲヘェーーーーー!」
 怪人は一声叫ぶと、そのまま力なく倒れる。翠はそれを見届けた後でリロードを行い、今度は銃口を兵士に向けて射撃を開始。強化人間の敗北を知られると面倒なので、ここは非情に徹する。サヴィーネもプローンポジションを維持したまま、何度かの狙撃で騒がしい兵士の口を塞ぐ。
 これに恐怖したのか、多くの兵士は武器や通信機を捨てて降伏を願い出た。大勢が決まったところで、翠は再び通信機を取り出して連絡を入れる。
「もうこっちは大丈夫だ。強化人間は倒したし、兵士たちも降伏するってさ」
「地下も問題ないね。メルティアのある部屋に組織のボスがいて、烏莉さんが捕まえた」
 翠はわざと大きな声で「へぇ、ボスを捕らえたの!」と復唱すると、兵士たちは完全に色を失った。キャラにないと言いながら、まださっきの演技をするとは‥‥サヴィーネは思わず「あれが素じゃないか」と疑う。ところがそれが顔に出ていたのか、翠はすぐに「演技です!」と念を押した。

●バグアの影
 親バグア組織『虹の珊瑚礁』との戦いは終わった。陽動班は大手を振って基地に入り、潜入班と合流を果たす。
「作戦終了‥‥」
 烏莉はこの言葉で彼らを向かえた。目の前には問題のメルティアがあり、手元には組織のボス。沁が見つけ出したメルティアの設計図を元に、すでにゼンラーが安全な分解方法を解明していた。さらに彼は、この部屋の隅に設けられた通信室を発見。電子魔術師を駆使して分析を行った。
「あの通信室の端末をねぃ、調べたんだけど‥‥榊原アサキって、新手のバグアの名前かねぃ?」
 メンバーの表情が硬くなる。まさかここで黒幕への手がかりとなる情報が手に入るとは‥‥烏莉はボスの背中を押し、暗に「素直に説明しろ」と訴えた。
「アサキ様は私に‥‥いや、組織にチャンスを与えてくださった。我々の抵抗は、それに対する忠誠なのだ!」
「盛大な自爆がウリの強化人間を送り込んでくるあたりから察するに、そのバグアがこの組織を信用してるってことはないね」
 翠の分析にサヴィーネとルノア、ゼンラーも頷く。それに驚くのはボスだけで、他のメンバーも「妥当かな」という表情をしていた。
「ま、まさか‥‥なら、あの蛇も」
「そういうことだねぃ。なんだか、厄介なバグアに絡まれたねぃ」
 アサキは親バグア組織はおろか、強化人間も駒としか思っていない。手段を選ばないあたりが非常に厄介‥‥ゼンラーは頭をさすった。
「お前と‥‥研究員は‥‥UPCに、引き渡す」
「まぁ、捕まったら、気持ちいい生き方は、できないだろうねぃ‥‥でも、真実を知るには、いい時間かもねぃ」
 ボスにとって、今はまだ沁とゼンラーの言葉が救いに聞こえないだろう。だが、いつかわかる時が来る事は、きっと来るに違いなかった‥‥。