タイトル:【RJ】猛獣の三重奏マスター:村井朋靖

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/09/21 09:28

●オープニング本文


 豪華な装飾の施された箱を大事そうに持ち、ひとりの科学者が主の下へ向かう。恵まれた体躯を持った熟年の男性だ。一点の汚れもない白衣には、真紅のバラと黒い棘の紋章が刺繍されていた。彼の足取りは決して軽くはなく、表情も明るくはない。むしろ何かを覚悟した表情を浮かべ、主との面会に挑まんとしていた。
 廊下に敷き詰められた赤絨毯を進み、大きな扉の前までやってくると、白スーツの男性が「お待ちしておりました」と恭しく礼をする。そしてゆっくりと扉を開き、科学者を中へと導いた。その奥には品のある純白のタキシードに身を包んだ金髪の若者が、いつものようにワインを嗜んでいる。
「ようやく完成したのですね、ドクター浦島。あなたの悲願である『ライアットジュース』が‥‥」
「すべては聡明なるフィリス・フォルクード(gz0353)様が、凡庸なる学者の考えに耳を傾け、それに賛同してくださった結果が生み出したものでございます」
 うやうやしく礼をしながら丁寧な口調で礼を述べ、浦島博士なる男は箱を開く。その中には太い注射器が1本入っており、鮮やかなピンクの薬が入っていた。これが『ライアットジュース』なるものだろう。フィリスはすっと立ち上がり、それをじっくりと見つめる。
「これを動物やキメラに与えれば、理性や思考など不必要な感情を消し去り、闘争本能だけが脳と心を支配します」
「彼らは増えすぎた人間を蹂躙し、最後には力尽きて倒れる‥‥美しい。作り物の獣が、本物以上に輝きを放つことができるようになるとは。さすがは孤高の動物学者。本当に出会えてよかった」
 フィリスは柔らかな笑みを浮かべ、グラスに入ったワインをくいっと飲み干す。
 その間も、浦島博士は報告を続けた。部屋に低い声が響く。
「すでにご指示通り、厳選したキメラ‥‥今回はイヌとサル、そしてキジ型のキメラにライアットジュースを投与し、四国へ放ちました」
「その報告は、後ほど部下から聞くことにしよう。ドクターが望んでいた狼のキメラとの合成だが、ライアットジュース完成の報酬として認めよう」
 浦島博士はハッとし、思わずフィリスの顔を見る。宿願が叶うとあって、彼は素直に喜んだ。
「獣の魂をまとい、一日も早く戻ってまいります」
「急がずともよい。とにかく今よりも美しい姿で戻ってきたまえ」
 ライアットジュースの研究といい、簡単に人間を捨てることを望むといい、この浦島博士なる人物にはまだ謎が多い。この男が表舞台に立つことで、四国での戦いは激化の様相を呈した。

 闘争本能だけで動くキメラたちが、四国西部のある都市に放たれた。
 彼らの瞳は鈍く鉛色に輝き、薄気味悪い唸り声を上げながら、生物はおろか建造物までも襲う。少しでも動けば攻撃を仕掛け、動かなくなるまで手を緩めないから、被害者の数はみるみるうちに膨れ上がった。ただ3匹のキメラは街の中で暴れてはいるが、連携する素振りはいっさい見せない。個々が自分勝手に破壊活動を行っている状態だ。
 地元警察は手をこまねいていた。あまりに敵が攻撃的すぎて、住民の避難が行えない。怪我人の救出もできない。下手に動けば、怪我人を増やすだけにもなりかねない‥‥彼らはそんな状況に苛立ちながらも、ULTに依頼を出し、傭兵たちに事態を打開してもらおうと考えた。
 戦いに餓えた獣たちが、決して満たされることのない獣たちが、今も街の中で暴れている。

●参加者一覧

瓜生 巴(ga5119
20歳・♀・DG
赤い霧(gb5521
21歳・♂・AA
イーリス・立花(gb6709
23歳・♀・GD
如月 芹佳(gc0928
17歳・♀・FC
沁(gc1071
16歳・♂・SF
レインウォーカー(gc2524
24歳・♂・PN
サギーマン(gc3231
25歳・♂・DF
ジョシュア・キルストン(gc4215
24歳・♂・PN

●リプレイ本文

●3匹との戦い
 キメラの陣取る位置が異なる‥‥瓜生 巴(ga5119)はこの報告を聞き、メンバーを分けることにした。
 その間、ジョシュア・キルストン(gc4215)が「僕たちが桃太郎ですッ!」と嬉しそうに話すと、如月 芹佳(gc0928)が「私たちは鬼役ってことかな?」と少し考えてから返す。巴は横でそれを聞きながら、資料に目を通した。
「各キメラをイヌ・サル・キジと特定したのは、ULT経由で地元警察に情報が入ったからですね」
 冷静な分析を披露する彼女の隣に、イーリス・立花(gb6709)がやってきた。これに芹佳が加えれば、キジ型キメラの討伐チームとなる。
「警察から拡声器を借りました。他にいる人、いますか?」
「俺が‥‥」
 無口な沁(gc1071)が名乗り出た。彼は、道化のレインウォーカー(gc2524)とともにサルを退治する。
「こうやって面を合わせて戦うのは初めてだなぁ。よろしく頼むよぉ」
 沁に明るく声をかけるも、少し口元が緩んだだけ‥‥実に個性的なコンビである。
 レインウォーカーとは逆に、常に笑顔のジョシュアも「できれば女性と一緒がよかったのですが」と言いながら、チームのメンバーを見る。短い斧を持つ赤い霧(gb5521)と、叩き斬る剣を持つサギーマン(gc3231)。この3人でイヌ型キメラに立ち向かう。
「早く倒せたら、他のチームのフォローに回りましょう。安全が確保された後、警察に市民の避難誘導をお願いします」
 巴は長い髪を帽子の中に入れ、袖を下ろしながらそう伝えると、全員がひとつ頷いた。そして戦闘の準備が整うと、それぞれのキメラへと至る道を聞き、チームごとに動き出す。

●キジとの戦い
 色鮮やかな緑色のキジが、動くものを狙って飛び回る。住民の避難が十分でないと聞かされていたイーリスは、ここでも拡声器を使って周囲に呼びかけた。
「避難が終わっていない住民の皆さんは、慌てて外に飛び出さずに手近な建物の中でおとなしくしてください」
 この声はキメラにも聞こえているはず‥‥芹佳は散開しつつ、敵から目を離さずにいた。しかし声には興味を示さない。すぐさま巴とイーリスの立ち位置を確認し、目配せで合図。それを見たふたりは覚醒することで応じる。そしてイーリスはSMGを空に向け、キジにご挨拶代わりの一撃を食らわせた!
「ゲギャッ!」
 銃弾を浴びたキジは生々しい叫びを響かせる。鉛色に濁った瞳でイーリスを見ると、激しく翼を動かす。相手は銃をバトンのように振り回すと、再び構え直した。
「優雅な振る舞いも‥‥そこまでです」
 彼女はそれ以上の攻撃はせず、プロテクトシールドを構えた。続いて芹佳が、エレキバイオリンを模した超機械「ケイティディッド」を実際に演奏しながら攻撃する。美しくも力強い音色と電磁波、そして演奏者の気持ちのこもった上半身の大きな動きも加わり、見事なまでに表現される戦いの独奏曲。得体の知れぬ攻撃を食らい、キジは短い悲鳴を不協和音のように響かせた。
「芸術にはいい季節ですね」
 遮蔽物の陰に隠れていた巴が不意に呟く。その手にはエネルギーガンが握られている。彼女は両手の表面から漏れ出す光を気にしながら、今はこの場で静かに待機した。
 キジは空から急降下し、イーリスめがけて飛んでくる。早い話が「攻撃手段のわかりやすい方を襲った」のだ。イーリスは待ってましたと言わんばかりに自身障壁と弾き落としを使う。そして初撃を確実に防いだ。敵はさらに鋭い爪をばたつかせるが、これも見事にガードする。キジは残念そうにゆっくりと上昇して距離を置こうとしたが、それを見た彼女は淡々と語った。
「私がわざと受けた理由、おわかりですか? その方が効率がいいからです」
 これを合図にチームの総攻撃が始まる。巴はレイ・エンチャントと影撃ちの効果を発現させ、動きを止めたキジにエネルギーガンの照準を合わせた。輝く手に握られた銃から放たれる攻撃はすべて命中し、敵を大いに惑わせる。
「ゲギギギ!」
 イーリスも再びSMGで、今度は一度ならず二度三度。敵の鼻先を狙って銃弾の雨を浴びせる。ふたりの動作を曲で表現するかのごとく、芹佳はそんな激しさをトリルを使って奏でた。もちろんキジが理解するのは、自分にダメージがあることだけ。
 キメラは確実に弱っていた。普通の敵なら逃げてもおかしくないが、今回の敵は無謀にも攻撃を仕掛けてくる。今度は芹佳に向けて突っ込んでいくが、彼女もイーリスと同様に敵の攻撃を誘っていた。芹佳は二度の攻撃を紙一重のところでうまく回避する。
「っと、危ない。でも回避には少しだけ自信があるんだ♪」
 キジは再びついばみ攻撃を仕掛けんと空を舞おうとする。もちろん先ほどと同様、巴とイーリスにそこを狙われた。エネルギーガンとSMGの攻撃を一身に食らい、もう息も絶え絶え。ここで芹佳が動いた。武器を風鳥に替え、迅雷を使って壁を登り、わずかにキジの上を行く。奇襲のチャンスは一度きり‥‥その慎重さに負けず劣らず、彼女は猫のような動きで敵の翼を一閃する!
「その羽‥‥もらうよ!」
「ゲギャ!」
 深緑の翼を折られ、命の灯火も消されたキジは空中で息絶えた。あとは地面に力なく落ちるだけ。ピクリとも動かなくなった敵を見て、3人は手にした武器を下ろした。
「巴さん、芹佳さん。私はサルの方に向かいます」
 イーリスがそう言うと、ふたりも同行する旨を伝えた。

●イヌとの戦い
 いかなる動きも察知して襲うというキメラだが、それが食欲によって気まぐれを起こさないとも限らない。赤い霧は先頭を走り、いち早く敵の姿を見た。
「黄色い毛並みか。見間違えようもない」
 自分に向かってくる人間を見て、イヌは大きな声で鳴いた。それは雄叫びというより、餓狼の唸りに聞こえる。サギーマンは無骨な自己紹介に応えんと、派手な立ち振る舞いで名乗った。
「愛と正義と真実の使者、サギーマン。ここに参上」
 名乗りに合わせて優雅に右手を動かしてポーズを取り、高い位置から見下ろすかのような視線で敵を見る。それでも吠え続けるイヌを見て、サギーマンは呆れた。
「躾のなっていない犬を放し飼いにするなんて‥‥」
「まぁまぁ。サギーマンさん、桃太郎みたいだしがんばってください♪」
 ジョシュアの言葉にまんざらでもない表情を浮かべると、彼らは一斉に動き出した。赤い霧とサギーマンがまっすぐ走るのを見て、ジョシュアは覚醒してハミングバードを構える。そして迅雷を使って先にイヌに接近し、円閃と刹那を発揮して強力な一撃を繰り出した。敵は突然の接近に対応しきれず、もろに攻撃を受けてしまう。
「ヌワン!」
「ちょっと浅かったですねー。あとは皆さんにお任せです」
 ジョシュアはさっさとその場を離れ、いつものヒット&アウェイを成功させた。続いて、赤い霧が獲物を狙う。研ぎ澄まされた爪を狙って斧の柄で思いっきり叩くが、これは惜しくも避けられた。サギーマンは両断剣を駆使して、サパラで豪快に足を薙ぐ。赤い霧が先に攻撃してくれたこともあり、これが見事に命中。奇妙な悲鳴が轟いた。
「グヌゥワン!」
「あなたに恨みはありませんが、存在が許されるということもありませんので」
 彼の言葉が癪に障ったのか、イヌは鋭い爪を使って猛然とサギーマンに襲い掛かる。二度の攻撃に回避を試みるが、どちらも失敗。腕と肩に傷を受けたが、決して怯まない。その姿はまるで名乗りを体現しているかのようだ。さらに赤い霧に噛みつき攻撃を仕掛け、これも命中させる。ところが、これがいけなかった。彼にとってダメージを受けることは、感情に火をつけることなのだから。
「噛みついて首を曝け出すたぁ、余裕だなッ!」
 赤い霧は反射的に流し斬りを使い、敵の側面へ回り込む。傷を痛がっている暇などない。そのまま斧を振りかぶり、横っ腹を斬りつけた!
「GYAAAAAAAA!」
 赤い霧が獣のような咆哮を発すると、それに呼応するかのように鈍い音が響く。この一撃はあらゆる意味で大きい。面倒が嫌いなジョシュアは、この決定的なチャンスを見逃さなかった。再び迅雷で接近し、円閃と刹那の合わせ技で赤い霧が攻撃した箇所を狙う。
「ご主人様のためにがんばります、ってね」
 これも命中し、イヌの腹には鈍痛に裂傷が加わった。もはや弱り目に祟り目。ジョシュアの言う「ご主人様」とは、桃太郎ことサギーマン。彼はここでも両断剣を発揮し、頭部を狙って一気に決着をつけようと目論む。
「せめて散り際は美しく飾ってあげましょう」
 袈裟切りのように繰り出した一撃は頭部に命中したが、惜しくもトドメにはならず。瀕死ながら最後までアグレッシブに動くイヌは、赤い霧に向かって爪を3回連続で繰り出した。一度は防ぎ切るものの、残りは攻撃を食らってしまう。ここで赤き霧の心は最高潮に達した!
「さて、これで終わらせてもらおうかぁッ!」
 もはや小細工なし。怒涛の攻撃と咆哮を重ね、イヌの撃破に全力を尽くす。
「グォオオオオオッ!」
 咆哮を響かせながら一度、また一度と斧を振るう。噛みつきを封じるために斬り上げたり、首を狙ったりと、その一撃には意味と重みがある。そしてついに、邪悪なイヌは断末魔の叫びを奏でた。
「グヌゥワーーーーーン」
 ゆっくりと倒れこんだ敵が息絶えたのを確認し、ジョシュアは通る声で「一応の安全が保たれた」と周囲に伝えた。そしてトランシーバーで連絡を取り、うら若き乙女たちで結成されたキジ討伐チームがサルの援護に向かったことを知る。
「さぁ、最後の仕上げですよ♪」
 ジョシュアはふたりに状況を伝え、援軍としてサルの元へ向かうと言った。もちろん、赤い霧もサギーマンもそれに続く。

●サルとの戦い
 沁は拡声器を使って、サルに至る道の途中で忠告を促しながら進んだ。道半ばで一般人と出会ったので、ここは素直に引き返す。
「皆さん、キメラの視界外へ‥‥誘導します」
 どんな状況でも常にレインウォーカーが前を行き、暴悪なキメラの奇襲に備える。沁は警察に後を託すと、再び戦場へと走った。もちろん拡声器のアナウンスも忘れない。

 目の前の風景が急に変わった。ビルのガラスは割られ、車から黒煙が上がる。これはすべて、燃えるような赤い毛並みを持つサル型キメラによってもたらされた災害だ。レインウォーカーは二刀小太刀「牛鬼蛇神」を抜く。サルと目が合ったからだ。
「戦うことだけしか考えられないモノかぁ。ボクらの行きつく先を見せられているかのようで気分が悪いなぁ」
 口では嫌悪感をあらわにするが、その表情はさほど変わっていない。彼はサルの目の前まで接近した。
「そんなモノ、否定してやるさぁ」
 レインウォーカーは覚醒すると、即座に疾風を発動させる。それを見た沁が、パートナーに練成強化を施した。サルもこちらに気づき、あの鉛色に染まった瞳を向ける。
「銀では‥‥ないか‥‥」
 出鼻をくじく意味でも、沁は機械巻物「雷遁」で先手を打つ。
「雷撃‥‥」
 遠距離から放たれる強力な電磁波を食らい、サルは少し興奮する。沁の攻撃によって隙が生まれたと知ると、レインウォーカーは一気に間合いを詰めて一太刀浴びせんとする‥‥が、これはわざと空振りさせ、敵の出方を伺おうとした。サルは余裕で飛び退いたところを狙い、レインウォーカーは刹那を発動させて攻撃する。これが腕に命中させると、そのまま迷いなく円閃でサルの首を狙った!
「不愉快だよ、お前。だからボクがもう終わらせてやるよ、お前の破壊を」
 渾身の一撃は命中したが、今はまだすべてを終わらせることはできない。サルの強靭な筋肉はまだ力を宿していた。敵はそのまま反撃に転ずる。腕を振り上げて叩きつけてくるが、レインウォーカーはこれをことごとく避けた。
「戦い、殺し、壊すことしかできない。昔のボクよりも酷いなぁ。少なくともボクは、生きることを諦めたり、忘れたことは一度もなかった」
 濁った瞳はまるで壊れた心のよう‥‥レインウォーカーは哀れみに近い感情を抱く。そんな時、イーリスが戦いの場に姿を現した!
「レインウォーカーさん、大丈夫ですか!」
 盾を持って大きく動くのは、キジ戦と同じ。沁の近くには巴と芹佳が集う。さらにイヌ退治を済ませたジョシュアと赤い霧、サギーマンも姿を見せた。やはり無傷の勝利とはいかなかったらしい。沁は拡張練成強化を使って、仲間たちの傷を癒す。さらにサギーマンは、赤い霧に活性化を施した。
「がんばります‥‥俺たちも‥‥」
 沁の言葉は、レインウォーカーの気持ちを代弁するものでもあった。彼は再び疾風を使って回避しやすくすると、円閃による攻撃を織り交ぜて敵を追い込んでいく。サルは軌道の読みづらい変則的な攻撃に四苦八苦。
 敵は憂さ晴らしとばかりに反撃するが、本能的に防御の堅いイーリスを狙ってしまう。彼女は攻撃が向いたと知るや、自身障壁と弾き落としで強固な守りを発揮。軽々とラリアットを受け止める。しかしサルの攻撃は終わらない。大きく振りかぶった反動を活かしてニールキックを打ち込むが、イーリスは弾き落としで対抗。またしても完全にガードする。
「今です!」
 イーリスの合図を受け、沁がサルに電磁波を浴びせる。幾度となく自分を襲う不可思議な攻撃に戸惑う余裕もなく、敵は低い唸り声を上げるばかり。いよいよ倒れるかというところに、レインウォーカーが容赦のない斬撃を食らわせた。
「ウキャ! ギュア‥‥」
「嗤って逝け。次はもっとマシな生き方ができるさ、きっと」
 レインウォーカーの言葉を聞き終えると、敵はピクリとも動かなくなった。こうして暴れ狂うキメラたちの討伐は完了した。

●末路を繋ぐために
 戦いの後、警察官に混じってイーリスが精力的に動いた。敵の攻撃を受けて傷を負った子どもに蘇生術を施したりする。彼女もまたレインウォーカーと同じく、あのキメラたちが自分たちの末路に見えた。それを否定するために人を救ったのかも‥‥彼女の心は揺れ動く。そんな時、芹佳が奏でる音を耳にした。
「そのヴァイオリンの音色は‥‥」
「鎮魂曲‥‥なんてね♪ でも、ちょっと曲がやさしいかな?」
 イーリスは軽く目をつぶると少し微笑んで、「そこがいいんだと思います」と答えた。

 ジョシュアもどこかに隠れて泣いてる子がいないかと探して歩く。ナンパが目的に見えなくもないが、それで一般人の安全が確保できるなら問題ないと周囲も容認した。ただ、当の本人はそんなつもりではない。今回のキメラの異常さが気になって、周囲の警戒をしていた。
「もしかして、あのバグアが関係してるかも‥‥ね。以前にも手口が似た事件にも関わってますし」
 彼は不敵な笑みを浮かべた。その予想は当たっている。それが幸運なのか不運なのか‥‥まだ知る術はない。