タイトル:【BD】Silent Base:Cマスター:村井朋靖

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/08/31 12:52

●オープニング本文


「正面に、小規模基地だと?」
 送られてきた情報の中で、オリムはその一点に目を留めた。シパクトリの砲撃を観測する為であろう、という注釈に頷く。もしもそれが真であれば、この基地にはあの大砲について知る者がいるはずだ。如何なる仕組みで動いているのか、弱点は何か。僅かであっても、情報は貴重だった。
「至急、調査を命令しろ。気づかれぬように‥‥だ」
 警報を出されでもしない限り、小規模基地が不意に沈黙したとしても、1日や2日は問題にならないだろう。南米での戦闘にはそういう泥臭さがあると、彼女は知っていた。


 人の動きは確認できる。キメラも複数確認できる。ただ問題なのは、その基地が異様に静かであるということだ。
 ネブリナ山に存在する巨砲「シパクトリ」。その脅威的な威力を誇る砲撃に関する情報が圧倒的に少ない。このままでは劣勢に陥る可能性もあるため、何としてもこれに関する情報――特に弱点は知っておいて損はない。
 軍部は迷うことなく基地内にいる親バグア派の人間を捕縛する方針を選んだ。だが、肝心の作戦が難航を極めたのである。
 国境にほど近く、静寂に包まれた川岸の基地は、かえって隠密に行動することを難しくしている。運良く基地の施設内に潜れたとしても、見つかれば乱戦は避けられないだろう。
 援軍など呼ばれれば最悪である。
 軍部の作戦会議に出席した面々は、いかにして敵に発見されず基地内に潜入するかの一点で頭を抱えることになったのである。
 そこで、それまで黙っていた一人がぼそりと口を開いた。
「シンプルに行こうぜ」
「大佐‥‥」
「もういっそ、基地ごと制圧しちまえよ」
 バグアの侵略以前から、数多の戦場で暴れ回っていた老軍人は杖を突いて立ち上がった。長らくこの激戦地南米を生き抜いてきた彼は、それだけで異様な威厳さが滲み出る。
「陽動を仕掛けて、その後、背面から奇襲する。基地の防衛ラインが揺らいだら、別動隊を基地内に突入させ、情報を持っていそうな奴を捕縛。援軍が来る前にずらかる」
 簡潔、かつ明瞭。大胆にして、もっともこの泥臭い戦場において好まれるであろう戦法に、南米の戦場に慣れて久しい軍人達は生唾を呑み込んだ。
 杖の先で赤絨毯を打った老軍人は口角を歪めた。
「Simple is best.俺達流のお淑やかさで攻め立ててやろうじゃねぇか」

 『Plan:C』と名付けられた作戦は、親バグア派で基地を守るカルロス・M・マッキンリーの捕縛に加え、緊急警報を発信する通信塔の制圧が目的だ。そのためこのチームには、迅速な行動と判断が求められる。
「捕縛部隊は任務が完了したら、捕虜とした者を厳しく尋問し、できる限りの情報を聞き出せ」
 招集された能力者たちに、老大佐は堂々と告げた。
「外の騒ぎに目もくれるな。目指すは通信塔‥‥どんな敵が現れても素早く撃破するのだ。オリム中将もこの調査に重きを置いている。別動隊の行動を無駄にせぬよう、心してかかれ」


 同じ頃‥‥ターゲットとされた基地の通信塔の最上階。
 一般人ながら基地を守るカルロスが赤い鱗を持つ強化人間を厳しく叱責していた。こいつに何かを言って聞かすのは、人間の兵士よりも難しい。彼は大きなアクションで訴えた。
「いいか、これからは私の身を守ることだけを考えろ! 絶対にジャングルをウロウロするんじゃないぞ!」
「ンア‥‥ンア」
 ピラニアとの融合で鋭い牙と鱗を持った男は、動物的な動きで何度も大きく頷く。この強化人間、実は戦闘以外はからっきしダメ。それ故バグアから「役立たず」の烙印を押され、すっかり干されていたところをカルロスが拾った。用心棒としては非常に有能だが、いちいち指示を出さないと動いてくれないのが不便で仕方ない。本当に自分の傍から離れないかを確認するため、カルロスは部屋の中を無駄に歩き回った。
「ったく。万が一の時に、役に立たないのでは困る。それは彼らも同じだがな‥‥ま、こいつより手はかかるまい。はっはっは」
 彼は窓から自慢の基地を見下ろし、誇らしげに笑った。強化人間はおろかカルロスでさえも、この基地が戦火に包まれるとは夢にも思っていない。戦いの時は間近に迫っていた。

●参加者一覧

石動 小夜子(ga0121
20歳・♀・PN
地堂球基(ga1094
25歳・♂・ER
梶原 暁彦(ga5332
34歳・♂・AA
守原有希(ga8582
20歳・♂・AA
鳳(gb3210
19歳・♂・HD
イーリス・立花(gb6709
23歳・♀・GD
ジャック・ジェリア(gc0672
25歳・♂・GD
ラサ・ジェネシス(gc2273
16歳・♀・JG
Kody(gc3498
30歳・♂・GP
犬彦・ハルトゼーカー(gc3817
18歳・♀・GD

●リプレイ本文

●通信塔を目指して
 陽動部隊の突撃を確認した後、捕縛部隊が静かに出撃した。
 それとは対照的に、カルロス・M・マッキンリーが守るという基地はけたたましく警報を鳴らし、戦闘員たちに奮起を促す。「先手を打たれたが、勝負はこれから」といったところか。敵は未知なる脅威を排除せんと動き出した。
 一行は通信塔の正面から突入すべく近場まで向かうが、その途中でいったん待機。密林の中から、ラサ・ジェネシス(gc2273)が慌てふためく基地の様子を双眼鏡で確認する。
「ひとまず、キメラの姿‥‥ナシ。そろそろですかネ」
 この後、掃討部隊が基地の後ろで暴れてくれる。一般兵との積極的な戦闘は望むところではないが、いつまでもタイミングを待っている訳にもいかない。彼女はみんなに準備を促した。
 イーリス・立花(gb6709)は探査の眼を発動させ、斥候として先行する旨を伝える。守原有希(ga8582)は蝉時雨と蛍火を、Kody(gc3498)も砕天を装備。まずは通信塔までの準備を整える。
「閃光手榴弾、よろしくお願いしますね」
 イーリスは微笑みながら、梶原 暁彦(ga5332)が持つ閃光手榴弾に視線を向ける。彼はひとつ頷き、静かに「これより任務を開始する」と答えた。これが合図となり、全員が移動を開始。視線を前に向け、状況をギリギリまで把握しようと尽力する。その姿はまるで、草原にたたずむ獲物を狙うライオンのようだ。
 そんな強力な群れの中にポツンと、機械仕掛けの虎が混じっている。ドラグーンの鳳(gb3210)だ。敵に姿が見えてしまうギリギリのラインを通り越す直前、通信塔の傍にいる敵の状況をありのままに伝える。
「扉の前にキメラとかはおらんけど、結構な数の一般兵がおるね‥‥」
「おぅ、さっさと行こうぜ。塔から見られちゃマズイ」
 Kodyはそう言いながら瞬天速を発動し、一気に敵陣を駆け抜ける。あえて兵士たちが密集している場所に飛び込み、そのまま敵を薙ぎ倒した。旋棍で頭や喉を狙い、敵の無力化を図る。
「ま、見えなきゃ問題ねーゼ!」
 敵が単身、しかも瞬間移動で突入してきたことで、兵士たちは血相を変える。敵が浮き足立ったのを見逃さず、接近戦に備えたメンバーが次々と基地内に躍り出た。ほとんどが一般兵を狙う中、ジャック・ジェリア(gc0672)は身近にある車両めがけてガトリングガンから放たれる銃弾を浴びせ、これをことごとく破壊する。物理的にも心理的にも、逃げ道を塞ぐ有効な一手となった。
 さらに通信塔の入口に地堂球基(ga1094)が走り、高性能多目的ツールで鍵開けに挑戦。イーリスによれば、それほど複雑な代物ではないという。梶原はすぐ近くで喧騒が響く中、冷静な判断を心がけた。そして作戦成功の要となる閃光手榴弾のピンを静かに引き抜く。
「よし、開いたよ」
 球基から合図があった。それから10秒後、梶原はさっと扉を開け、その隙間から閃光手榴弾を投げ入れる。乾いた音が室内に響くが、中からは驚きの声しか聞こえない‥‥それもしまいには、爆音と閃光でかき消された。能力者と分の悪い戦いを強いられている一般兵は大慌て。
「な! なんだ、今の爆音は!」
「そんなもん、うちらに聞きなや。戦争やってんねんで? 忘れんといてや」
 敵の疑問に答える義理はないと、犬彦・ハルトゼーカー(gc3817)は乱暴に突き放す。抵抗するなら殺すだけ‥‥その態度は敵の戦意を削ぐには十分だった。そんな彼らの背後から石動 小夜子(ga0121)が忍び寄り、ひとり残らず気絶させていく。
 当初の予定では戦闘痕を残さぬよう、始末した兵士を物陰などに隠すことになっていたが、あまりにもスムーズに作戦が進行したのでキッパリ諦めた。イーリスは「多少の騒ぎはごまかせるでしょう」と言い、再び扉の前に集合した仲間たちの不安を何気なく拭う。

●最上階への道
 一息つく間もなく、次の局面を迎える。鍵開けを担当した球基がゆっくり扉を開くと、たっぷりと閃光を浴びた一般兵たちが手狭なスペースで悲鳴を上げていた。
 階下の異変に気づいたふたりの兵士が、ちょうど階段を塞ぐようにして立っているのをKodyは見逃さない。
「邪魔ダッ!」
 彼は再び瞬天速を使って敵に迫り、そのまま砕天を使って弾き飛ばす。そして1階の制圧を担当する梶原を呼び入れ、他のメンバーを上へと導いた。
「ここは任せろ! 暁彦ちゃん、行くゼ!」
「‥‥了解した」
 梶原は階段を走る仲間の姿を見つめつつ、制圧作戦を実行に移す。まずは近くにいた兵士をひとり拘束し、それを盾にしながら別の敵をシュナイザーで仕留めていく。念のため、流し斬りと急所突きを駆使し、確実に倒した。残った敵はKodyが始末し、小さなお部屋をじっくり見渡す。ここは1部屋だけの構成だった。
「あれが非常口ってか。こっちを塞ごうゼ」
「その辺にあるロッカーや机を使おう。正面から迫る敵だけを倒す。ここまでは計画通りだ」
 1階の制圧は、詰めている兵士を倒しただけで完了‥‥というわけにはいかない。ふたりはしばし、力仕事にいそしんだ。

 戦いの舞台は2階へ。ここを制圧するのは、ラサと犬彦。ここに待機する一般兵は皆、階下で繰り広げられる騒動の元凶と対面し慌てふためく。そんな彼らに向かって、ラサが呼びかけた。
「我々なら貴方たち全員を始末することが、ワンミニッツでイナフデス。武器を捨てて手を頭の後ろで組んで、うつ伏せで寝てもらえまマスカ」
 兵士たちに動揺が走る。目の前の少女は、敵でありながら「無用な殺生を避けたい」と訴えた。しかし彼女の仲間は、自分たちを横目に最上階を目指して突っ走っている。それを見て舐められたと思ったのか、はたまた自暴自棄になっただけか。ひとりの兵士が手斧を振り上げて襲い掛かるが、すかさず犬彦がキャンサーを発射。躊躇なく胸を貫く。
「うがっ‥‥!」
 勢いそのままに、犬彦は手近な敵にバックラーを叩きつけて昏倒させた。残された兵士は色を失い、力なく武器を床に落とす。
「おとなしくしてレバ、危害は加えまセン」
 ラサはそうは言うが、スピエガンドを構えたままピクリとも動かない。彼女もまた犬彦同様、撃つつもりでいた。ふたりの少女の非情な覚悟で、2階の制圧は完了する。

●インファイト!
 階下に2人ずつを配し、6人で最上階の3階へと向かう。イーリスは少し上にある扉を見ると、少し驚いた。
「あの扉、開いてるわ‥‥有希さん、閃光手榴弾の準備はいい?」
 2階にいた兵士が、報告に行ったのだろうか。ともかく鍵開けの時間を考慮する必要がなくなった。有希はすぐに対応する。
「今、ピンを抜いたと!」
 急いで駆け上がって、部屋の中に投げ込めばいい具合に炸裂するはず‥‥ひとりで捕縛を担当する鳳は、気持ちを引き締めた。
 3階の扉に着くと、先頭に有希が立つ。さっきの梶原のように手早く扉を開き、閃光手榴弾を投げ入れてまた閉めた。全員が扉に背を向け、あの瞬間を待つ。通信塔に再び爆音が響き、中にいるはずの敵を怯ませた。扉の隙間から漏れ出た閃光が消えたのを確認し、鳳の小飛虎がいち早く部屋に突入する。
 そこは驚くほど狭い部屋だった。壁際には所狭しと通信設備らしき装置が並び、その隙間を縫うかのようにひとり掛けのソファーがある。その傍にひげを蓄えた男が目を押さえて立っていた。すぐ後ろにはピラニアの姿をした人間が控えており、彼がカルロスであることは一目瞭然である。そのふたりの前に、下で唸るほど見た一般兵がひとりポツンと立っていた。
「轢かれたくなけりゃ退きやっ!」
 鳳は兵士に向かって警告するも、この狭さで避けるのは至難の業。しかも相手は目が眩んでいる。鳳は遠慮なく弾き飛ばし、武器を持たない左手でカルロスを捕縛。そのまま手錠を使い、両足の自由を奪った。
「なっ! もしや、最初から私が目的‥‥?」
「こんなトコやと、ろくに美味いもんも食えんやろ? 命まではとらんさかい、大人しゅうしてな」
 指揮官が慌てふためくと、ピラニアが「ンアー?」と声を発した。どうやらご主人様のピンチを察したらしい。自由に歩けるところを見ると、偶然にも閃光手榴弾から背を向けていたと推測される。鳳はカルロスに指示を出す。
「あの半魚人に、止まるよう命令したってや」
「バカな! この私でも、あの強化人間に言って聞かせるのに時間がかかるんだぞ!」
 相手の都合なんてお構いなし。半魚人は腕に生えた鋭いヒレを二度振り回して、リンドヴルムに襲い掛かる。ここで回避することは簡単だが、せっかくの情報源を失ってしまう‥‥鳳は攻撃を受け止めようとしたが、わずかに威力を殺しただけ。相当なダメージを受けてしまう。
「うおっ! さ‥‥さすがは、強化人間やな!」
「それ以上はさせません!」
 ここで小夜子が敵の前に出て、蝉時雨の斬撃を何度も食らわせた。今回の作戦を考慮して目立たぬようにしていたが、ひとたび刀を振るえば圧倒的な存在感を放つ。異形の怪物はこれを避け切れず、苦悶の表情を浮かべた。
「ンア! ンアーーー!」
 有希は蛍火をスコールに持ち替え、小夜子と同じく蝉時雨で攻撃を仕掛ける。敵はこの連撃も避けられず、あっという間に劣勢へと追い込まれた。球基は練成弱体を半魚人に、鳳に練成治療を施す。ジャックは制圧射撃を駆使して敵の動作を制限しようと考えたが、想像以上に最上階が狭いため、今回は諦めるしかなかった。それでもカルロスたちにガトリングガンを向け、無駄な動きをしないように威圧する。
「オッサン動くなよ、動くと当たるぞ! 当たると死ぬほど痛いからな!」
「撃つなよ! こんなところで撃つんじゃないぞ!」
「そうでしょうね。ここでむやみに銃を撃たれたら、あなたは困るでしょうね。でも、この基地の口は‥‥私が封じます」
 ふたりのやり取りを聞いたイーリスは超機械βで通信機器を傷つけると、随所で火花が散り、静かにゆっくりと動いていた計器が次々と止まる。この瞬間、基地は文字通り「孤立」した。
 それでも半魚人は戦いをやめない。今度は小夜子に渾身の力で噛みつきを仕掛けた。彼女は蝉時雨で攻撃を受け止めたが、圧倒的な力に押し切られ、わずかにダメージを受ける。
「それでも、敵の動きは止めました! 今です!」
 ピラニアの攻撃を受け止める小夜子に、球基が練成治療でフォローした。
 その間、有希が凛とした声を響かせて強力な一撃の準備を行う。紅蓮衝撃で全身にオーラをまとうと、流し斬りとスマッシュを駆使した一閃を煌かせた。
「無益な殺生は好かんが‥‥ウチらに賭ける全ての人のため! 守原有希、参る!」
「ンアアアアアアア‥‥ア‥‥」
 勇敢なる剣士は、息も絶え絶えの敵を死角から容赦なく攻め立てる。ピラニアは最初の一撃ですでに絶命しており、すべての攻撃を受けることなく崩れ落ちた。カルロスは鳳から最強の護衛が倒されたことを聞くと、ついに自ら降伏を申し出る。こうして、基地の制圧は達成された。

●砲台を取り巻くもの
 カルロスが投降したという報は、すぐさま球基によって階下へもたらされる。
 2階で待機していた犬彦は、閃光手榴弾の使用に気づいた兵士たちの侵入を食い止めるべく、3人体制で入口付近に迫る一般兵と戦い続けていた。
 そんな折、吉報を聞いたKodyは大いに喜び、わざとらしくそれを大声で復唱。それとなく一般兵にも投降を促す。指揮官を失った彼らは、一気に戦意を喪失。次々と武器を捨てて降伏した。
「結局、大忙しで探索できなかったな‥‥残念だゼ」
 周囲の状況を見て、犬彦はゆっくりと呼笛を吹く。この音が、多くの仲間たちの救いにならんことを祈りつつ。投降した一般兵の回収は、合図を聞いたUPC軍が引き受けることになっている。

 基地内に本来の静寂が戻ろうとする頃、通信塔の内部ではカルロスへの尋問と資料の探索が開始された。尋問は、梶原のブラフで幕を開けた。
「先ほど、基地内を捜索している仲間から連絡があった。この基地には爆発物が隠されていたそうだ」
「ま、まさか! ここはそんなターゲットになるような基地では‥‥」
 戸惑う指揮官に対し、梶原はサングラスに手をやりながら淡々と続ける。
「やはり知らないようだな。一介の兵士でも知っていることを、基地を取り仕切るお前が知らないとは‥‥」
「う、あ‥‥!」
 カルロスは目を見開き、思わず息を呑んだ。傭兵でさえ知っているバグアの仕打ち。それを彼が知らないはずがない。ここで球基が、カルロスに顔を近づけて話す。
「結局は使い捨てだろう? なら、連中を見返すためにもここで話したらどうだ? とりあえず、こっちは命の責任は持つからな」
 と、彼はしばらく考えた後、「口封じされるくらいなら、亡命も悪くないか」と呟いた。その態度に、有希が一歩前に出て質問した。
「シパクトリなる砲台は、実は切札に見せかけたブラフじゃなかと?」
「とんでもない‥‥あれは本物だ。都市を一気に焼き尽くす威力を秘めている」
 有希は思わず、口を真一文字に結んだ。他のメンバーも、一様に渋い表情を浮かべる。
「そんなもん発射するには、莫大な動力がいるとよ」
「それを生み出すために‥‥ダムがある。そして、それを守る『ハーシェル』がある」
 通信記録を探っていたイーリスの背筋に冷たいものが走った。そしてカルロスを見る。彼は無言で笑みを浮かべると、話を続けた。
 シパクトリの動力源となる発電用ダムは、コロンビアを源流とするネグロ川の上流、ネブリナ山から南のブラジル領内に存在するという。『ハーシェル』とは、このダムを守るために作られた対空広域防衛設備だ。
 鳳は「そこ、どのくらいの戦力がおる?」と尋ねた。相手は「対空設備に頼っているので、通常戦力は手薄」と答える。裏を返せば、『ハーシェル』にそれだけの力があるということだが、これもまたシパクトリと同じ弱点が存在する。『ハーシェル』は一度発射すると、再充填までに時間がかかってしまうのだ。
 そこまで話が進んだところで、下の階からラサが顔を出す。彼女は2階で兵士たちを監視している時、その辺を探索し、何かの設計図を見つけていた。
「カルロス殿、これはいったいなんデスカ?」
 相手はちらっと見ただけで、それが何を記してあるものか瞬時に理解したらしい。
「巨砲の動力源となるダムの設計図‥‥と言ったら、君は驚くかね? もしもの為に写しておいたものだが」
 その場にいた全員が大いに驚く。ラサはとんでもないものを掘り当てていた。これが想像以上に大きな武器になることを、まだ傭兵たちは知らない。
「そいつを渡す代わりに亡命だ。否とは言うまいよ。はっはっは」
 カルロスはラテン特有の態度で、戦いの舞台から身を引いた。
 だが、傭兵たちの戦いは‥‥まさにこれからが本番。身を焦がす戦火が、すぐそこにまで迫っている。