●リプレイ本文
●戦闘と欲望の狭間で?
問題のキメラが被害を出しているとされる場所に近づくと、確かに下着姿の一般市民が遠慮気味に歩いていた。
これを見たレイチェル・レッドレイ(
gb2739)のつぶらな瞳が妖しく光る。高まる胸の鼓動を抑えられない。
キメラを利用して自分だけのワールドを楽しもうと画策する彼女だが、会議では建設的な作戦を披露している。
仲間たちに現場周辺の地図を配り、キメラを誘導する場所を選定。まずは情報の認識と共有化を最優先した。
それに加え、美しき修道女のゼフィリス(
gb3876)が、大きめのタオルを使っての誘導することを提案する。
これを事前に木々や電信柱に括りつけておけば、アクシデントがあっても、確実におびき寄せることができる。
その間、戦闘区域に選んだ公園の人払いは、柚紀 美音(
gb8029)や胡桃 楓(
gb8855)が行うことになった。
いかに優れた作戦であろうとも、戦闘になればハプニングは付き物。女性陣はちゃんと着替えを用意している。
カンパネラ学園の制服に身を包む佐倉・咲江(
gb1946)は、男性である紅蓮(
gb9407)からも心配されていた。
さすがに制服を食われるのはよろしくないと思ったのだろう。彼の言葉からは、男のやさしさが垣間見られた。
もちろん、彼に邪念がないわけではない。いや、邪念がないわけがない。男だから。ひとりだけ男なのだから。
いくらキメラ討伐とはいえ、こんな役得はめったにない。『期待に胸が膨らむ』とは、まさにこのことである。
ところが、現実にはいろんな欲望に胸を躍らせている人間の方が多いのだが‥‥それは戦闘中に明らかとなる。
●ひらひらの罠が舞う
事前にしっかりと役割分担を決めていたので、現地ではすばやく作戦を開始することができた。
戦闘を行う公園の人払いは美音と楓、紅蓮が行い、咲江とレイチェル、そしてゼフィリスが敵の誘導を試みる。
公園から出てすぐの木の枝に、まず咲江がタオルを括った。こうした細かい作業が、じわりと効いてくる。
レイチェルは意図的に、ゼフィリスは無意識に豊満な胸を揺らしながら、高くて目立つ場所にタオルを結んだ。
一方の公園組は、早々に人払いを済ませて待機。美音はなぜか赤らめた頬に手をあて、体をくねくねさせる。
彼女もお年頃‥‥ひとりイケない妄想で盛り上がっているらしい。それはセーラー服に身を包んだ楓も同じだ。
用意した双眼鏡を握り締め、誘導役の帰還を待っている。すばやく構える練習からも、その本気さが伺える。
そんなふたりを見て、紅蓮は直視できない悲しさを感じながらも、それでも一度はガン見しようと心に決めた。
誘導を試みる三人娘の前に、妄想の根源であるワニ型キメラ『アパレルイーター』が姿を現す。
情報で聞いたよりものんぺりした感じで、たとえ飲み込まれたとしてもダメージを受けることはなさそうだ。
ゼフィリスはトランシーバーに手を伸ばすも、公園で待機する人間が持っていないことを思い出して自重する。
その間、咲江はキメラに向かって自分の服を挑発的に見せていた。敵の視線が、ゆっくりと彼女に向けられる。
「サキ、見られた! 逃げるよ!」
レイチェルはケルビムガンで挨拶代わりの一撃を食らわせると、みんなを引き連れて公園に向かって走り出す。
キメラはのたのたと動き出し、咲江を吸い込まんと猛ダッシュ。その間、視界にあのタオルが入ってくる。
もちろんそれを見逃すわけもなく、ご自慢の吸引力でスポンスポンと小気味のいい音とともに召し上がった。
その際に立ち止まるのは、ほんの一瞬。咲江の服を見てからというもの、敵の速度が落ちる雰囲気がない。
レイチェルは危険と知りながら、射撃でダメージを与えていく。咲江もゼフィリスも、彼女にあわせて走った。
そのせいか、キメラとの差はどんどん縮まってしまう。この調子だと、公園の入口がギリギリのラインだろう。
「女性陣とキメラが、入口近くまで迫ってマス!」
「こっちですよ〜。がんばってください〜♪」
軽くピンチな状況は、楓が双眼鏡で把握しており、その様子を実況することで待機組は戦闘の準備を始めた。
いきなり誰かが吸い込まれそうなので、ひとまず入口にダッシュ。その後で、奥に誘い込む手はずとなった。
移動が完了すると、紅蓮はすぐさま練成強化を発動。美音はイアリスを構えて、その時を静かに待っている。
まるで学園に遅刻する生徒のごとく、3人は公園の入口へ殺到した。敵の狙いは、咲江の持っている服である。
他の美少女にはわき目も触れず、彼女めがけて一直線。そんな咲江の取った行動は、あまりにも意外だった!
「あ、危ない。えいっ、必殺・肉の盾‥‥」
さすがに誰もが我が目を疑う。咲江は何の躊躇もなく、仲間のレイチェルを突き飛ばすことでこの危機を回避。
「え、ちょ、サキ! ええい、ここはゼフィリスちゃんお願いッ!」
こういう状況下では、人間の本性が見える。咲江を守ろうと立ち止まったゼフィリスは呆然と立ち尽くした。
これを見逃さなかったのが、押し出されたレイチェル。なんと近くにいたゼフィリスを身代わりにしたのだ!
「え‥‥あっ‥‥レイチェル様‥‥! きゃぅ‥‥」
戸惑う彼女に容赦ない風圧が牙を剥く。キメラはすさまじい吸引力で、瞬時にすっぽりと全身を飲み込んだ。
しかし次の瞬間、ゼフィリスは怪我ひとつなく吐き出される。敵にとって布以外は不必要‥‥だから捨てた。
水色と白色を基調としたインナー姿になって戻されたゼフィリスは、自分の姿を確認すると顔を赤らめる。
見ると聞くでは大違い。敵の攻撃にいろんな衝撃が走った。紅蓮は必死に『理性』という言葉を胸に刻み込む。
「大丈夫ー? こんな格好だと、寒いでしょ‥‥ボクが暖めてあげるね♪」
レイチェルは自分のことを棚に上げ、ここぞとばかりにゼフィリスと大好きなきゃっきゃウフフをスタート。
その豊満なボディを重ねあう姿は、あの美音をもドキドキさせるほどのピンク色のフェロモンを放っていた。
こうなるとすっかりキメラの存在を忘れてしまいそうになるが、そこは咲江が服を使ってうまく誘導する。
公園に入ればこっちのもの。美音と楓は、敵の正面に立たないようにして攻撃を仕掛ける。これがともに命中。
すでに敵の体にはあちこちに傷があり、一定のダメージを与えているように見えるが、パワフルさは今も健在。
退治するまでは、いろんな意味で気が抜けない。特に紅蓮は「理性‥‥持つかなぁ」と諦め気味につぶやいた。
●ピンク色の戦闘?
戦闘が始まっても、咲江の挑発は続いた。服を着て戦っている以上、攻撃している誰もが標的となり得る。
開幕で脱がされたゼフィリスは恥ずかしさをこらえ、下着にサベイジクローという姿で戦いの輪の中に戻った。
エリゴールで攻撃を仕掛ける紅蓮は、その姿を見て思わず鼻血を噴いてしまう。ついでに攻撃まで外す始末。
その美しい声は悲鳴になったり、時には苦悩を表現したりと、本来の聞かせ方には程遠い使われ方をし続ける。
レイチェルもまた、ゼフィリスと同じく戦闘に戻るかと思いきや、まっすぐに咲江のところへと歩み寄った。
ついさっき『肉の盾』扱いにされたことを覚えていたらしい。彼女は妖艶な笑みを浮かべながら、問い詰める。
「あのさ。さっきはよくも、ボクを‥‥」
「レイチーがいるから、つい‥‥て、レイチー危ないよ?」
レイチェルは大事なことを忘れていた。咲江は今もキメラの気を引いていることを‥‥忠告は無駄に終わる。
また、あの景気のいい吸引音が響く。そして瞬時にいらないものだけ「ぺっ」と吐き出された。
下着姿のレイチェルのいっちょ上がり。これを機に、周囲はヒートアップ。いよいよ無駄に盛り上がってきた。
「‥‥いうの、遅かったかな?」
「あーん、サキぃ。ボク、ちょっと寒ーい♪」
またしても繰り広げられる、麗しききゃっきゃウフフの世界。美音の、そして楓の心は高鳴るばかりだ。
「あっ、大変です。みなさん、大切な部分が見えてますよー。ぽっ♪」
下着姿にさえなれば、あの仲間に入れる‥‥楓はいよいよ胸に秘めた『あの作戦』を実行することを決断した。
「いける! いや、行くしかないですネ!」
すっかり場の雰囲気に飲まれた楓と、必死に抵抗を試みる紅蓮。誰がこのふたりを同じ男性だと思うだろうか。
楓は勝負に出る。攻撃を仕掛ける際に正面に立ち、キメラの標的になるように動いた。その一撃は敵を捉える。
ところが、ここで予想外の事件が発生した。なんと美音が助太刀に入っちゃったのだ。楓は大いに慌てる。
「な、な、なんですかっ! あ、あ、あ、危ないデスヨ!」
「かっ、楓さんこそ、危ないじゃない!」
端から聞くと、なんとも白々しい会話‥‥レイチェルはすぐに、ふたりの心を丸裸にした。
楓は正直に、美音は無意識に脱がされたいと思っている。だからわざわざ体裁を整えて、あんなことをした。
もうすでにレイチェルも準備万端。あとはキメラが吸うだけだったが、ここでゼフィリスが阻止を試みる。
「吸い込み‥‥させません‥‥!」
サベイジクローからソニックブームを放ってダメージを与えるが、敵は怯むことなく服を吸い込み始めた。
まずは楓、続いて美音‥‥もはや下着姿じゃない人間の方が少ない。紅蓮のもう片方の鼻も赤く染まった。
「美音、危な‥‥遅かった」
「あぅ‥‥洋服は食べちゃダメですぅ♪」
「ふふふ、美音ちゃんも仲間だねー♪」
レイチェルは美音に駆け寄り、耳に息を吹きかけながら、お色気たっぷりのボディートークを開始する。
もはやおなじみの展開ではあるが、レイチェルの可愛がり方は多様で、見ている方も飽きずに見ていられる。
「もう見ちゃえばいいな。どんな怪我してもいいわ‥‥」
ここまで見せつけられては、見ない方が失礼というもの。紅蓮は理不尽な反撃を覚悟の上でじっくり見始めた。
この時、楓は赤と黒のチェック柄のインナーという姿になっていたが、なぜか不自然に腰が引けている。
彼はノリと勢いで作戦を実行したはいいが、オスの本能でついつい男っぽいポーズを取ってしまっていた。
せっかくの女の子っぽさが台無しどころか、このままだとキメラよりも先に沈められるかもしれない‥‥
楓は恐怖に震えたが、周囲の反応は予想の斜め上を行くものだった。レイチェルと美音は、楓を両側から見る。
「女‥‥じゃなくって、男の子?」
「素直だね。感じてるの? いいよ、ボクと一緒に遊ぶ?」
「‥‥興奮してるの? ふふ‥‥かわいい♪」
まともな返事ができない楓は、ただただふたりに流されるまま。別の意味で『殺される』雰囲気に我を失った。
体を小刻みに震わせながら、美少女のイケない誘惑に溺れていく。紅蓮は人払いして本当に正解だと思った。
この雰囲気に水を差すのが、キメラへの攻撃である。咲江は挑発を続けつつ、超機械を使って攻撃を仕掛けた。
紅蓮も鼻血を拭きながら奮闘するが、すぐに下着姿の連中が視界に入るので、鼻の下は常に鮮血まみれ。
キメラも苦悶の悲鳴を上げ、いよいよ撃破というところまで追い詰めた。だが、まだ標的とする服が存在する。
敵は方向転換し、咲江を吸い込もうと準備する。それを避けようとしたが、誰かに後ろからドンと突かれた!
「おかしいよね、サキだけ吸われてないって‥‥ねー、ふふふ♪」
「って、レイチー!」
ゼフィリスにしてみれば、レイチェルの言い分は正しく聞こえる。自分が下着姿になったのも、咲江が原因だ。
紅蓮はともかく、咲江がひとりだけ被害を受けないという結末は、禍根を残すことになる。これはいけない。
彼女はしっかりとキメラの所業を見守り、『これ以上の被害は許さない』と心に誓った。今回は阻止しない。
かくして咲江は持っていた服もしっかり食われ、みんなと仲良く下着姿になった。白い下着がなんとも眩しい。
「がぅ‥‥恥ずかしいけど、まずは依頼完遂が最優先‥‥」
「そうだねー。ボクもそう思う。サキは念入りにいじめたいから、キメラは先に倒しちゃうね」
レイチェルはここではじめて莫邪宝剣を握り、キメラに攻撃を加える。ゼフィリスも強力な一撃を食らわせた。
楓はさっきよりも大きく腰を引いてガラティーンを振るが、さすがにそんな構えでは当たるものも当たらない。
美音がイアリスと大きな胸、そして紙を揺らしての攻撃を命中させ、ついにキメラとの戦いに終止符を打った。
●着替えるまでが任務です
キメラは退治したものの、公園への出入りはまだ解除できない。紅蓮以外の着替えが終わっていないからだ。
彼はキメラの断末魔の叫びを聞いて出てくる人がいるといけないといい、今はひとりで公園を巡回している。
このまま着替えを見守るとなると、今まで保ってきた理性が弾け飛んで、それこそえらいことになりかねない。
自分がキメラ以上の脅威になりたくないので、おとなしくその場を離れたのだ。その際、咲江に念を押された。
「男性陣は、今日見たことはすべて忘れるように‥‥」
紅蓮は逆に尋ねたかった。「こんなもん、どーすりゃ忘れられるのか」と。この記憶は、しばらく消えない。
もっともレイチェルから「役得だったねー♪」とフォローがあったので、女性陣の心象は悪くないはずだ。
実はちゃっかり‥‥の楓も見回りに出たかったが、同性の紅蓮を頼るわけにもいかずに孤立してしまった。
こうなると、最後までレイチェルや美音のおもちゃになるしかない。今は咲江と一緒になって弄ばれている。
その咲江はすでにアオザイを、ゼフィリスは僧衣を着ている。なぜか美音の着替えは、レオタードだった。
「‥‥こんなの持ってきちゃいました。レオタードとか慌てすぎです‥‥」
さすがに楓が「それに着替えるのは勘弁!」と泣きを入れ、もうひとつの着替えのセーラー服に落ち着いた。
しかしそれでも、これをネタにいじめられる。今日の楓は何をやっても女の子に頭が上がらないオチだった。
「これ、さっきまで楓さんが着てたセーラー服‥‥こんなの着て、ドキドキしてたんだね♪」
「あ、う、その、あの、えーっとデス‥‥」
「楓ちゃんったら、かわいい♪ 今度は徹底的にドレスアップしてあげる」
ホントは男らしくなりたいのに‥‥楓の魂の叫びは、心の中でむなしく木霊する。
まるでそれは、今回の混乱をもたらしたワニ型キメラ『アパレルイーター』の断末魔のようにも聞こえた。