●リプレイ本文
●誘導班と迂回班
安全だった避難場所に、傭兵で結成された討伐隊が向かう。
手下のサソリどもをリーダーから引き離す役目の誘導班‥‥その先頭を歩く流叶・デュノフガリオ(
gb6275)は、日傘を使って直射日光を浴びないようにしている。その隣では日差しを浴びて元気いっぱいのエイミ・シーン(
gb9420)がロケットパンチを持っていた。
「‥‥あつい、みぃちゃんはよく平気だな‥‥」
「ルカちゃん、がんば! 私もロケットパンチを叩き込みやすそうな場所を確保してがんばるから!」
そんなやり取りを聞き、誘導班の後ろからジーザリオで追うホアキン・デ・ラ・ロサ(
ga2416)が「俺たちも抜かりなくやろう」と座席に目をやる。そこには迂回班の面々が座っていた。貴婦天使のアンジェラ・D.S.(
gb3967)、明るい性格の那月 ケイ(
gc4469)、そして依頼を持ち込んだ杉森・あずさ(gz0330)。誘導班が手下の6匹を相手している隙に、この4人で一気にリーダーの撃破を狙う。
「ったく、厄介なところに棲みついてくれたもんだなぁ‥‥」
ケイの率直な感想に、誘導班のティナ・アブソリュート(
gc4189)も同意する。
「まったくです。なんで、わざわざあんなところに陣取ったんでしょうか?」
その疑問は皆が思うところだが、考え出したらきりがない。出発前、天野 天魔(
gc4365)が避難民に向かって「心配無用、ただの害虫駆除だ」と言って安心させていたが、このくらいの受け止め方がちょうどいいだろう。
「大根役者に武勇伝は必要ありません。出番が終わったら、早々に退場していただくのが筋です」
天魔の絶妙な言い回しを聞いて、純白のミカエルを駆るシャーリィ・アッシュ(
gb1884)は納得した面持ちでひとつ頷く。そして「避難を予定通り進めなくては」と凛とした声で言った。そこへ双眼鏡で前方を見張っていたあずさがみんなに報告する。
「前方に7体のキメラ。形状はサソリ、奥に赤黒いのがいるね。あれがリーダー格か‥‥」
これを聞き、メンバーは武器を構えた。まだ敵のテリトリーまで距離はあるが、部下がせっせと動く足音はここまで聞こえる。シャカシャカと気色の悪い音だ。アンジェラは貫通弾をマガジンに装填しつつ、全員に作戦の決行を伝える。
「コールサイン『Dame Angel』、目標地域に陣取るサソリ型キメラ7体を駆除。速やかなる避難への障害排除を実行するわよ」
これを合図に迂回班は移動をやめ、その場に待機。一方の誘導班は、そのままテリトリーとする場所へとまっすぐ正面から向かった。
●漆黒との序盤戦
シャーリィは両肩に赤竜の紋を持つミカエルで敵に迫る。両刃の大剣「ワルキューレ」を構え、中世の騎士のように堂々とした立ち振る舞いを見せた。
「言葉が通じるわけもないだろうが‥‥ここから先は通さん」
テリトリーに邪魔者が入り込んだと知るや、リーダーが奇怪な鳴き声を響かせた。それを合図に部下が侵入者の排除に動き出す。それを阻まんとティナが炎剣を構えながら駆け寄り、シャーリィの隣に立った。
「‥‥よし! がんばりましょうね!」
ティナは自らを奮い立たせ、シャーリィに向かってまっすぐに拳を出す。機械仕掛けの騎士が力強く頷き「ええ」と返事し、片手を武器から離して軽く拳をあわせた。ティナは少し微笑み、半分の3匹を相手しようと行動を開始する。テリトリーから離れないよう気をつけ、軽いフットワークで動き回った。
「おいでおいで〜っといっても、あんまり近寄られると困るけどね」
敵は両手のハサミを振り上げて威嚇しながら、例の足音を響かせてティナに迫る。彼女はもっとも近い敵に一度だけ斬りつけ、軽く傷つけることで目印をつけた。
残りはシャーリィが受け持つことになる。彼女は聖剣を構えたが、先にエイミが動いた。拡張練成強化の効果を発揮し、ミカエルに迫る敵の1体に、文字通り『先制パンチ』を繰り出す。その一撃は豪快にサソリの横っ面を叩いた。
「シャキーーー!」
「いいとこに立ってたから、撃っちゃった!」
唐突なロケットパンチで動揺する敵を攻めようと、シャーリィは竜の咆哮を秘めた一閃を繰り出す。敵はこれを避けられず、後ろに吹き飛ばされた。なかなか邪魔者を追い出せないリーダーはすっかりお怒りのご様子である。
そこへ和弓を携えた少女が動き出す。
「‥‥ふむ‥‥鬼さんこちら。手の鳴る方へ、と」
覚醒することで日差しを気にしなくなった流叶が、エイミの隣に立って破魔の弓でサソリを狙う。サソリはサソリでも、赤黒いサソリ‥‥そう、彼女の狙いは苛立つリーダーだ。距離があるので命中に難ありと思われたが、それも杞憂に終わる。遠くから不意打ちを食らい、リーダーはさらに怒った。部下に『カリカリ働け』とでも指示したのか、リーダーと部下の距離は一気に離れる。
天魔はアサルトライフルで、リーダーから見て近い敵に容赦ない銃撃を仕掛ける。この時は、竜の咆哮で吹き飛ばされた黒いサソリがターゲット。発射された銃弾3発はすべて甲殻を撃ち抜き、見事に1匹目を撃破する。
「敵に後ろを向けるか。しょせんは害虫か大根役者、と言ったところだな」
偉大な演出家は何気なく、役不足のキメラにダメ出しをした。
ここまでの誘導班は、前衛と後衛の連携がうまくはまっている。
問題は、敵の攻撃をどう凌ぐかだ。シャーリィに向かう敵は2匹。片方がハサミ、もう片方が尻尾を振り回して果敢に攻撃を仕掛ける。軌道の違う攻撃に手を焼くかと思いきや、ここはワルキューレを使った受けに転じて難を逃れた。
「先端が見えないなら‥‥基点で見切ればいいだけのこと!」
尻尾の付け根と長さをしっかりと見ておけば、無理をしてまで避ける必要はない。赤竜の紋を持つミカエルは剣を構えなおし、次の一手に備えた。
一方、ティナには3匹が襲い掛かる。今回はハサミ攻撃が2回来た後に、尻尾が飛んできた。二度のハサミはエンジェルシールドで受けを試み、これを成功させて見事受け流したが、尻尾を回避に切り替えて対応したところ、運悪く避けれずにダメージを食らう。
「‥‥痛っ! この程度で!」
ティナは自らを鼓舞しながら、再び戦闘態勢を取った。髪が揺れるたび、星屑を思わせるような金色の光が舞う。彼女のがんばりは、迂回班にとって希望の光。作戦を成就させる要であった。
●背後を突く!
流叶は傷ついたティナに対して練成治療を施す。さらに練成強化でシャーリィとティナをフォローし、最後に無線機を持って通信を開始。通信相手は、迂回班のケイだ。
「頃合です。いい感じに孤立してる、よ」
それを聞いたケイは、ホアキンに「行けるってさ」と伝えた。すると運転手は「何かにつかまってろ」と指示を出すと、不意に発車しただけでなく一気にブーストし、テリトリーの迂回に挑戦する。これでリーダーの後ろを突こうというのだ。無線機で手がふさがっていたケイは、思わぬ急発進に驚きの声を上げる。
「ホ、ホアキンさん! ったく、戦う前からおっかないな!」
「俺の祖国の風を‥‥ぜひ、あなたに紹介したくってね」
涼しい顔でジョークを飛ばすホアキンを見て、アンジェラとあずさは笑った。ケイは負けじと「いい風だ!」と答えると、愛用のマーシナリーシールドをしっかりと抱える。
ジーザリオはあっという間にリーダーの後ろを突いた。まずはアンジェラが先手必勝を発動させ、リーダーに向かって制圧射撃を行う。アンチシペイターライフルの連射に驚き、回避に失敗した赤黒いサソリは体を震わせた。そんな敵の姿を確認してから、アンジェラは銃のリロードを行う。
ホアキンとあずさは前衛に立った。後衛の射線を塞がぬよう、左右の両翼に陣取ると、まずはあずさが刀で敵を切りつける。これをリーダーは強固な甲殻で防御し、ダメージを最小限に抑えた。しかし次に控えしホアキンの攻撃は、そう簡単に防げるものではない。
彼はまず左手の紅炎からソニックブームを放ち、強力な衝撃波を全身に浴びせる。
「シャ! シャキキキ!」
リーダーの悲鳴が聞こえようとお構いなし。そのまま前へ進み、雷光鞭で脚部を何度も狙い撃つ。バランスを崩したのを見れば、紅炎から繰り出される流し斬りで、いとも簡単に敵の尻尾を切ってしまった!
「シャキーーーーー!」
「さすがに動きは鈍ってきたが、ハサミはまだ健在。逃走や合流の可能性もある‥‥」
「援護するぞ。あれがキメラのリーダーか。わかりやすくて助かるねぇ」
ケイはあずさの前に出て盾を構え、防御陣形を発動させた。迂回班も万全の体制で戦闘に挑んでいる。このチームにも隙は見当たらない。
リーダーの指示が悲鳴に変わったからか、すっかり部下に落ち着きがなくなった。挟み撃ちに遭ったことがなく、どうすればいいのかわからないのだろう。
シャーリィは再び竜の咆哮を使った。今回は武器を用いず、スパークをまとった足で敵を蹴り上げる。これが効果を発揮し、敵は吹き飛ばされてひっくり返った。やわらかい腹を見せたところを天魔がライフル、エイミがロケットパンチで致命的なダメージを与える。敵はそれらを食らうと、ピクリとも動かなくなった。
「ルカちゃん、ティナさんのとこ!」
「みぃちゃん、わかった。隙を作ろう」
わずかに放たれる黒い瘴気を打ち消すかのごとく、純白の弓を構えて強力な援護射撃を行う。ティナが相手する敵すべてにダメージを与えると、流叶は「ティナ殿、今だ!」と合図した。
「はぁっっ!」
ティナは刹那を駆使し、目印のついた敵に目にも留まらぬ一撃を加える。袈裟切りで甲殻を打ち砕き、体の深い場所までめり込ませた。そのまま連続で2回、十字に刻んで1体を片付ける。
リーダーは手負いではなく、もはや瀕死の状態だ。それでも逃げる気配はない。
ここで敵はケイを狙った。残されたハサミを振り回し、強固な守りを弾かんと襲い掛かる。
「逃げないってだけで御の字だ!」
ハサミ攻撃は部下とは一味違う鋭さがあり、ケイはこれを受け切れずにダメージを受ける。アンジェラは「ケイ殿、大丈夫?」と声をかけたが、「心配無用」とばかりに手を横に振った。キャバルリーとして、男として‥‥ケイの戦いはここからだ。
部下の数はあと3匹。順調に数は減っているが、ティナの前には手負いとはいえ2匹‥‥数だけなら勝っている。
ここは2匹とも尻尾の攻撃を繰り出した。初手は避け、後手を受けようとしたが、最初の回避に失敗して黒い鞭に叩かれる。体勢を崩されながらも、受けには成功。ここが踏ん張りどころ‥‥ティナはすぐに立ち上がった。
●残党狩り
一方、シャーリィの前に立つサソリは、不安と怯えで動きが怪しい。ミカエルが反撃に備え、磐石の態勢を整えて待ったが、敵の起こした行動は‥‥なんとリーダーの方に向かっての移動だった。それが逃走なのか、はたまた援護なのかはわからない。
「通さんと言った!」
シャーリィは竜の翼を発動させ、一気に逃亡者の前に立った。敵は驚きを体いっぱいに表現する。彼女はそのままワルキューレで突き、キメラの断末魔の叫びを聞いた。
このままでは座して死を待つのみ‥‥さすがのリーダーも焦った。だがこの後の展開は「泣きっ面に蜂」である。
アンジェラが再び制圧射撃で威嚇を開始。赤黒いサソリはまたしても避けられず、行動に制限を受ける。ダメ押しとばかりにケイが新たに防御陣形を発動させ、迂回班の防御面を充実させた。
「ようやく、これの出番ね」
満を持して貫通弾の入ったマガジンを装填、アンジェラが強弾撃を発動させる。そして照準を合わせ、リーダーめがけて3回の射撃を実施。ホアキンはそのすべてが甲殻を貫通したのを見届けてから急所突きのスキルを発現させ、ここぞのタイミングで大きくジャンプする!
「‥‥止めだ」
急降下する間、彼の視線は一点を見つめていた。それは甲殻の隙間‥‥そこを紅炎で突き入れる。これが彼の言う最後の一撃。達人が繰り出す攻撃から逃げられるわけもなく、キメラのリーダーは体を大きく開き、そのまま動かなくなった。
「シ、シャーーーーー」
これを聞かされた部下の慌てぶりと言ったらなかった。ケイは思わず呆れた表情をして話す。
「頭を失えばもろいってのは、人もキメラも一緒だな」
そんな滑稽な2匹に止めを刺さんと、誘導班も動く。流叶はエイミと天魔に練成強化をかけると、自らに電波増幅を施してから破魔の弓で片方に攻撃を仕掛けた。狙いはハサミの部分‥‥地面に縫い留め、一瞬の隙を作らんとする。放たれた矢は射線をまっすぐ飛び、ハサミを貫いたかと思うとそのまま地面に突き刺さった!
「みぃちゃん、今だ!」
「ありがと、ルカちゃん! そ〜れ、ロケットパンチの乱れ撃ちっ! どーん、どーーーんっ!」
今度は鋼鉄の拳を連打するエイミ。甲殻がボコボコになるまで殴られ続けた末、サソリは命を落とす。間を置かず、最後の1匹は天魔がアサルトライフルを撃った。それを待って、ティナが刹那の効果を乗せたゼフォンの一閃を見舞う!
「ここです!」
「シャギャーーーーー!」
ティナが繰り出した焔立つ一閃は、皮肉にもキメラの命の火を消した。
これで7匹すべてのサソリを討伐し、作戦は成功を収めた。
●防衛作戦は続く
戦闘が終わっても、流叶は覚醒を解かずにティナとケイの傍にいた。もちろん大親友のエイミも付き添っている。
ふたりは傷を負っている‥‥何はなくとも、治療が必要だ。それを知ったアンジェラも駆けつけ、救急セットでケイの傷を癒す。そのケイは、蘇生術でティナの傷を完全に回復。どうやら流叶が心配したよりも傷は浅かったらしい。エイミは笑顔で彼女の肩を叩いた。
そこへあずさがやってきた。流叶は何かを思い出し、彼女にあることを耳打ちをする。
「休暇は楽しめたのかな?」
これを聞いたあずさは顔を真っ赤にしながら、小さな声で答えた。
「おかげさまでね。お義母さんにはずいぶんと笑われたよ‥‥犬掻き」
流叶は目を閉じて「それはよかった」と微笑むと、あずさは「そうか?」とひねた返事をした。
ホアキンと天魔、シャーリィは、近く避難民が訪れるこの土地を見渡す。
「‥‥来るべき時は来た。ここからが本当の戦いだ」
「舞台は整いつつある。この国で、はたしてどんな演目が行われるか‥‥楽しみだ」
「‥‥この国は、これから同じ光景がさらに増えるんでしょうね。少しでも早く終わらせなければ‥‥」
誰もが胸の中でボリビア防衛作戦に挑む想いを確認し合い、また別の戦いに赴く。今ここで、メンバーは勝利への一歩を踏み出した。