●リプレイ本文
●能力者さん現地入り
警察が所有する敷地内に、ずらりとKVが並んだ。アスファルトに立つ正義の使者を見て、エキストラ役で招待された幼児たちは大喜び。男の子は恐竜の形をした竜牙に興奮すると、女の子も負けじとサイファーの足元で同じポーズを決める。この壮観な景色は、大人が見ても興奮すること間違いなし。名ばかりの現場総監督である坂神・源次郎(gz0352)も、今回ばかりはさすがに唸った。
「足元から見上げると、さすがに迫力が違うねぇ〜。ま、こっちはこっちでビックリだけど‥‥」
監督は他のKVとは離れたところにお座りするワイバーンならぬ、わんばーんの「HAPPY」を見つめる。これを操縦するのは、UNKNOWN(
ga4276)。ロイヤルブラックのウェストコートにスラックス、兎皮の黒帽子とおなじみの服装で坂神と談笑している。
「あれ、首輪してるんだ。ホントにワンちゃんなんだね」
「その通り。ただ、甘えたがりなものでね。勝手に動き回っても困るので、木に紐を括りつけてあります」
坂神は音声認識で動くと知り、感心した面持ちでまた「うーん」と唸った。世の中の進歩というのは、こんなにも早いものか。じっくりと観察し始めた監督の下へ、数人の子どもがやってきた。
「わぁー! ワンワンだー!」
見たことのないKVに目を輝かせる子どもたちを見て、紳士は満足げに微笑んだ。そこへひとりの警察官が駆け寄る。
「お勤め、お疲れ様です‥‥なんてね」
事前に警察官の服を申請し、それを着込んだ和泉 恭也(
gc3978)がキメラ刑事の前で敬礼した。その隣には、彼とともに進行役を務めるラナ・ヴェクサー(
gc1748)が立つ。
「おっ、そういえばサイファーはお嬢ちゃんのだろ? 女の子に人気あるみたいだよ」
「それはよかったです。私は今日のために、いろんな教育番組を見て勉強しました」
司会のお姉さんが興奮気味にそう語ると、恭也は微笑みを絶やさぬままやさしくツッコんだ。
「でも、あの番組名はやめておきましょうね。合いの手は大丈夫ですけど‥‥」
ラナがどんなタイトルを提案したのかはわからないが、坂神は空気を読んで「やめといた方がいいと思うよ」と念を押す。打ち合わせの段階でNGなのだから、よほど危険なセリフなのだろう。彼女に詳しい話をさせないよう、UNKNOWNが気を回して恭也に話しかけた。
「みんなの準備は進んでいるのかな?」
「ええ。もうあっちでカメラ回ってますよ」
どうやら楽しくやっているらしい。坂神はそれを聞いて胸をなで下ろす。その間に、恭也は監督とロケーションなどを確認して回った。
控え室として用意された広めのプレハブ小屋はクーラーも完備した快適空間だったが、いかんせん中にいるのが着ぐるみだらけなので目立った効果はない。
かわいくてモフモフの九尾の狐を着た夜刀(
gb9204)に、竜の着ぐるみを改造してお気に入りの竜牙に仕立てたミリハナク(
gc4008)。そしてウサギの着ぐるみを悪っぽく改造してキメラ風に仕立てたソウマ(
gc0505)。彼らが動くのを見れば、暑くなれること請け合い。衣装とメイクに奔走するラサ・ジェネシス(
gc2273)も「ちゃんと飲み物、飲んでくださいネ」と声をかけた。それを聞くと、同じ裏方の蒼凪 (
gc4631)が「なんか飲むか?」と気を回す。
その隙を突いて、ノーメイクで役に挑む夜咲 紫電(
gc4339)がこっそりと動く。
「うーっ! ちまの夜刀君、かわいいです! もふもふ‥‥」
どうやら彼女は、ちまっこい扮装の狐さんが気に入ってしまったらしい。
「あー、さっき我輩が言ったじゃないですカー。紫電殿、あんまりもふもふしないデー。型が崩れちゃウ」
ラサがブラシを手に夜刀に駆け寄ると、慣れた手つきでまたふんわりした毛並みに戻す。それにまた紫電が萌えてしまい、メイクさんが忙しくなるとはこっそり抱いたり頬擦りしたり‥‥という見事なまでの堂々巡りが展開されていた。
陽気な探偵の雨霧 零(
ga4508)は演技に不安なし。持ち前の明るさでどんどん前に出るつもりだ。キャラ作りに苦戦しているのは、礼節と義理を重んじる偉丈夫の峰閠 薫(
gc4591)。彼が苦戦しているのは、不良風の強化人間の役である。髪はオールバック、メイクはパンク風に仕上がっているが、荒々しい言葉遣いに苦戦していた。
「私じゃなくて俺様、貴方ではなくテメェ‥‥ブツブツ‥‥」
それぞれが準備を行い、いよいよ撮影が始まる。ラサと蒼凪も出演陣とともに控え室を出た。
●正しい知識を身につけよう!
映像関係に強い警察官たちによってカメラチェックなどが行われている間に、みんなが輪になって内容の確認を行う。その様子をUNKNOWNが、記念の写真を撮っていた。
「まー、肩の力を抜いてやってくれ。こいつは生放送じゃないから、セリフ噛んだりしても編集でどうにでもなるから」
監督の坂神が、みんなの肩を揉んで回る。余裕のある人間が本番直前の緊張をほぐす中、ソウマはGooDLuckを発動させた。彼がひっそりと望むのは、極上のハプニング。今日もキョウ運のパワフルトルネードが吹き荒れるのであろうか‥‥本人中心に。
最初の撮影はKVをバックに、司会のお姉さんとアシスタントのお兄さんがカメラに向かって呼びかけるシーンからスタートした。
「よい子のみんな、こんにちは〜! みんなのあんぜんきょうしつ、はっじまっるよ〜!」
ラナお姉さんの掛け声に合わせて、恭也と子どもたちが「わぁい」と声を上げる。まだ出番の来ない零が、カメラの後ろから見て「よく合ってるね」と感想を口にした。
「今日は安全について、みんなでお勉強しましょうね」
「はーい!」
警察官役の恭也に元気な返事をする子どもたち。最初のカットは一発オッケー。みんなの気持ちが冷めないうちにカメラを移動させ、次のシーンへ移る。
今度は街を背にして、撮影が再開される。
進行役の背後をスッと通り過ぎるのは、非常に柄の悪いウサギさん。これはソウマの演出が冴える。何度も後ろを通り、そのたびにちょこちょこ視線をふたりに向けた。いかにもな怪しさがにじみ出ている。
「あれ? さっきから自分の後ろに変な生き物が‥‥」
「あれは悪いキメラかなぁ。もしかして、見つかってるかも? よい子のみんな、こういう時はどうする〜? 逃げるよりも、隠れた方がいいと思う?」
楽しく学べるクイズをたくさん用意した出演陣から、最初の問題が出題された。子どもたちの反応は上々で、こちらから煽らずとも答えだと思う方を叫ぶ。盛り上がったところで、ラナお姉さんが恭也に正解発表をお願いした。
「この場合は逃げる方がいいよ。今のみんなみたいに、声を出しておくといいね。詳しい説明はぎゃおちゃんにお任せするよ」
ぎゃおちゃんと呼ばれて出てきたのは、陸戦形態そっくりの着ぐるみ姿で登場のミリハナクだ。首から本をぶら下げており、これが知識の象徴を意味している。
「ぎゃおー! キメラの中には、匂いをクンクンしてみんなを見つけ出すのが得意な奴もいるんだ。だからこの場合は、その場から離れた方がいいんだよ!」
「ウサー! 姉ちゃん、ちょっとそこで茶ぁーしばくウサ!」
解説が終わるタイミングを見計らって、ソウマが後ろからラナに襲い掛かる。この時、うまく抱きつけて大ラッキーに超ハッピー‥‥と思いきや、信じられないような不運が牙を剥いた!
「うぎゃ、う、ウサ! ちょちょ、痛いウサー! しっ、尻尾がかなり痛っ‥‥ウ、ウサ!」
「ボクにかかれば悪いキメラなんて、すぐにやっつけられるさ! みんなの街を救いに行くよ!」
尻尾を振るアクションは『お姉さんを助ける』という単純な描写に過ぎなかったが、不運にもそれがソウマの手の甲にクリーンヒット。本気で痛がるキメラは監督に視線を送るが、撮影を止める気配はない。ここは役者根性で乗り切り、「ふん」と拗ねたような声を出して地面に寝そべる。すると、そこに薫が登場。彼は強化人間の役なので、ソウマは慌てて飛び起きる。
「ウサ! ボス、私はこんなに一生懸命、仕事をしているじゃありませんか‥‥ウサ!」
「俺様は泣く子も黙る強化人間! テメェら地球人なんざ、まとめてぶっ潰してやるぞ!」
そこへおなじみの服装で、零がフレームイン。虫眼鏡で薫を舐めるように見ると、子どもたちに新たなる危険を教える。
「むむっ! 彼は私たちの生活を脅かすバグアの手先だよ! キメラと一緒で悪い奴なんだ!」
エキストラの子どもたちにちゃんと言って聞かせることで、映像にも制作サイドの真剣さが伝わる。坂神は渾身の演技を余すところなく撮るように指示。そこへ紫電が飛行士のような姿で現れる。
「そこまでだよ、キメラたち! ぎゃおちゃん、一緒に戦おう!」
「ぎゃおー! 一緒に戦ってくれるのは妖精さん‥‥じゃなくて、傭兵さんだよ! みんな、応援してね!」
傭兵とKVのタッグに「がんばれー!」と黄色い声援を送るラナと零。それを嫉妬するかのようなセリフを吐き、薫とソウマはふたりに襲い掛かる。
これを合図に小規模の戦闘が始まった。どっちが勝つかは決まっているのに、バグア側の攻撃が意味もなく厳しい。薫は役作りに頭がいっぱいで手加減を忘れており、ソウマは当てる気のない手刀がラッキーパンチになったりしていたのが原因だった。正義の味方が意味も苦戦する状況に、子どもたちの声援も次第に熱を帯びていく。
「がんばれー!」
「まけちゃダメーーー!」
その声に、ふたりがハッと我に返る。その一瞬を見逃さず、紫電は手に持った盾でソウマのお尻をぺんぺん。ぎゃおちゃんは薫の頭をガブガブと噛み、なんとか筋書き通りにまとめた。
「おのれ地球人ども! 貴様がしっかりしないからだ! 仕方がない、ここは撤退だ!」
「ボス! ひ、ひどいウサ! またホントに痛い思いしてるのに‥‥う、ウサっ!」
ソウマは薫に向かって涙ながらに訴えた。しかし、その真意はまったく伝わらない。実は紫電が撮影用の武器ではなく、本物の剣と盾を持ってきちゃったのだ。本物でお尻を叩かれれば、かなりのダメージとなる。このままだとお尻が真っ赤になってお婿に行けなくなるソウマは、今度こそ監督から発せられる「カット」の声を信じて待った。
さすがの坂神もこの異変に気づき、一度カメラを止めようと指示を出そうとした瞬間、ヨリシロちまバグアとして登場の夜刀が声を上げる!
「お前たち、何をしておるかーっ! ニンゲンに負けることは許さーーーん!」
「ウサぁ?!」
お姿に似合わず偉そうな口調で喋るので、子どもたちは「新手のキメラ」と思っちゃったらしい。すぐに「だったら、おまえもたたかえー!」と煽られると、ぎゃおちゃんに決め台詞を吐いた。
「ぬぬっ、愚かなニンゲンめ! この俺に気安く近づいたこと、血反吐の海の中で後悔させてやるわ!」
「負けないぞー! えいっ、尻尾アタックを食らえ!」
尻尾攻撃が意外な威力を秘めていることは、尊い犠牲のおかげでわかっていた。そこだけに気をつけて戦闘を行い、適度に殴られると捨て台詞を吐いて逃げる。その間、ミリハナクのターゲットから外れた薫はうまく立ち回れたが、ソウマは紫電に捕まったままずっとお尻ぺんぺんを食らっていた。
「ちくしょう、能力者め! この借りは必ず返すからなー! 帰るぞ‥‥強化人間、キメラ!」
「ウサギなのに‥‥お尻が真っ赤になっちゃったウサ!」
最後にチラッと本音を漏らしたソウマのセリフで、傭兵とKVは退場する敵軍団を笑ってお見送り。お姉さんや零、さらに恭也も加わり、子どもたちに向かって「やったね!」とピースしたところでようやくカットの声がかかる。その瞬間、ウサギさんの悲鳴が響かせた。もちろん、この瞬間をUNKNOWNは逃さない。ソウマの痛がっている姿を、素敵な構図で写真に収めた。
●お昼を挟み‥‥
お昼が近づくと、薫と恭也が撮影をこっそり抜け出し、食事の準備を始めた。
薫は得意の和食を中心としたメニューを作る。塩おにぎりと酢の物に、しょうが焼き。恭也はサラダや味噌汁、冷たいコーンスープなどを作る。下ごしらえは、裏方の蒼凪が手伝った。今回は男の手料理が並ぶことになるらしい。子どもたちは撮影の合間を縫って、こちらにも十分すぎる興味を示していた。
食事ができるまで、撮影が続く。
子どもたちを休憩させる時は、CG合成に必要な素材を撮影した。KVのサイズに合うブルーバックはないので、そこはアイデアで切り抜ける。KV着ぐるみのミリハナクと、敵役で先ほども登場した自称「バグアのエース」こと夜刀に今回の演技を任せた。同じ着ぐるみならソウマもいたが、今は控え室でお尻を氷で治療中である。それでも懲りずにGooDLuckを使うのは、もはや「さすが」としか言いようがない。
ブルーバックの前でさまざまなカットを撮影し、ふたりが戦闘するシーンではラナお姉さんが「がんばれー」と声援を、零が「みんなはKVの足元に近づいちゃいけないよ!」と解説を生付けする。
「はい、オッケー。いやー、順調だねぇ。この辺でお昼にする?」
この監督の一言で、みんなはいったん役を忘れる。ミリハナクは着ぐるみを脱いで、はしゃぐ子どもにぎゃおの頭をかぶせてあげた。これで今日の子どもたちの間では、竜牙の人気は不動となったはず‥‥そんなことを考えてしまうと、思わず妖艶な笑みがこぼれてしまう。
「そうだよなー。この炎天下に日陰がないのは、ちょいとキツいもんな‥‥俺も脱ぐか」
夜刀も着ぐるみに手をかけるが、そこは紫電にバッチリ阻止されてしまった。
「いけませんですぅ〜。夜刀君はそのままです! ちまのままです!」
「え‥‥これ脱いじゃダメなの? ちょっと紫電さ〜ん!」
紫電は狐を膝にちまっと乗せ、そのまま昼食を食べるつもりだった。もちろん撮影後のお手入れも用意してある。ラサに頼んで、あのブラシを借りてきたのだ。
「毛繕いもご飯もしてあげます〜!」
この後、ふたりはみんなの目の前で「ふーふー、あーん♪」を存分に見せつけることになる。
食事の用意を済ませた薫は、次の役柄である軍人になるべく、ラサの手も借りて変身開始。とはいえ、この場合は元の薫に戻るだけ。くしゃくしゃにされた髪を戻し、メイクも落とす。
「裏方も大事な仕事でス。なかなかヘビーですネ」
薫も慣れない役どころに挑戦したからか、自分なりに苦労したところを彼女に明かす。それを聞いたラサは明るく笑った。時間が過ぎ、疲労も溜まってくる頃ではあるが、撮影班の雰囲気はどんどんよくなっていく。昼食が始まると、自然と子どもたちからも話しかけてくるようになり、みんなが笑顔でそれに応えた。
●傭兵の本領発揮!
すっかりお腹も満たされたところで、出演陣は腹ごなしとばかりに覚醒状態での戦闘シーンの撮影に挑む。
カメラに向かって行うアクションが多く、子どもたちは少し高いところから見学することに。この間も、マイクで声だけは録音している。ここに昼食で素に戻ったはずのラナお姉さんが、またしてもハイテンションで子どもたちをぐいぐいとリード。昼食を作っていた恭也も合流し、すっかり現場のマスコットになったぎゃおちゃんもこっちで応援する。
敵役はウサギ型キメラと、バグアのエース。コミカルっぽい動きはそのままだが、少し派手なアクションを織り交ぜていく。ソウマと夜刀は人間に襲いかかる動きや派手なやられっぷりを話し合い、1アクションにつき何パターンかを演じた。
正義の味方も負けるわけにはいかない。紫電は手足に紫色の雷のようなオーラをまとい、ヴァジュラで攻撃するシーンを撮った。軍人の役になった薫はAU−KVのバイク形態から装着のシーンから撮影。その後もミカエルを装着したまま、「SOSを送ってくれたのは君たちだね? 大丈夫、もう安心だ!」というセリフをアクションを交えて収録する。演技とは自分との戦いであり、伝える相手にすべてを委ねるという性質を持つ。それゆえに独特の難しさがあるが、薫は果敢に何度もチャレンジした。
「オッケー。みんな、すごいねぇ。俺、キメラ刑事とか呼ばれてるけど、間近で戦ってるの見たことないからさ。ビックリしちゃった」
あの坂神も興奮しているようで、映像を確認する時は食い入るように画面を見つめる。監督もまた、みんなと一緒に盛り上がっていたようだ。
その後、みんなで考えた「安全クイズ」を子どもたちに解いてもらうシーンを撮影した。
ラサはこの時ばかりはカメラの前に姿を現し、「おいしそうな実をつけた見たことのない木を見つけたらどうする?」と問いかける。子どもたちは好奇心の固まりなので、みんな「食べてみたい」と口を揃えた。
「おいしそうかもしれないケド、キメラはいろいろな姿をしていまス。見た目は木でも、動いて襲ってくるかもしれませン。気をつけましょうネ」
「はーい!」
「‥‥木なだけに、ネ」
なんとも子ども向けじゃない渋いオチが混ざったが、監督は「俺が好きだから使う」と宣言。ラサも「ありがとうございまス」とお礼を述べる。
そんな折、元気いっぱいの子どもたちにUNKNOWNがある質問をした。
「みんなを助けてくれるナイトフォーゲルの仲間に、はたしてK−111というのがあるかな?」
満を持しての問題だったが、子どもたちは不思議そうな顔を浮かべるばかり。そのうち隣の子とも相談をするが、「そんなのいるのかなぁ」とか「見たことない」、しまいにゃ「そんなの知らないや」というそっけない返事が聞こえた。UNKNOWNは「そうか」と一言だけ残して、そっとその場を去る。この時、偶然にもカメラが一部始終を撮っていた。ラナと零は「これはマズい」とばかりにカメラの前へ飛び込む。
「K−111クンって、ちゃんといるよ! いるんだよ!」
「ビューンって飛ぶんだよ! ビューンって! すっごく早いんだよっ!」
必死でフォローする声を聞いて人のやさしさを感じたからか、それとも認知度の低さが悲しくなったのか‥‥UNKNOWNは、木の後ろで人知れず涙を拭った。
最後はスタッフロールに使うKVのダンスシーンを収録する。
人間のような動きが売りのKVを操るのは、能力者にとっては朝飯前だ。しかし面白おかしくと言われると、少しハードルが上がる。ラナお姉さんのサイファーは元気いっぱいのダンスを、リアルぎゃおを操るミリハナクはコミカルな恐竜ダンスを披露。ラサはリッジウェイの丸みを帯びたデザインを武器にし、車輪でくるんくるん回ってみせる。紫電はヘルヘブンでダンスをこなすのが難しく感じていたようだ。
●撮影終了、打ち上げ開始!
オールアップの宣言を聞いたのは、夕方だった。能力者たちは長時間の収録に協力してくれた子どもたちと握手する。
「これで少しでも被害が減るとイイですネ」
ラサがそう言うと、坂神は「減るよ」と短く答える。それだけの出来になるという確信が、彼の中にあるのだろう。監督は「片付けはこっちに任せて、私物だけまとめたらここ使ってよ」と勧める。するとラナの音頭で打ち上げを催すことになった。彼女は自らジュースやお酒を提供し、宴に花を添える。ソウマはここでもGooDLuckを使い、ひっそりと盛り上げに尽力する姿勢を見せたが、序盤のシーンでひどい目に遭っていることを思い出すと、自然と本音を呟いてしまった。
「‥‥ときどき自分のキョウ運が恐ろしくなりますよ」
それをたまたま紫電に聞かれたのか、「どうしたの?」と尋ねられたが、その理由を答えられるわけがない。ソウマは乾いた笑いを周囲に響かせた。まだまだキョウ運は衰えないらしい。
打ち上げは控え室の中で開催された。ソウマは得意の変装で物真似を披露し、ラナお姉さんやダブルラサを演じて周囲を沸かせる。
紫電は最後までちまの夜刀を膝に置きながらも、夜刀を呼んでくれた薫にお礼とばかりに抱きつく。慌てる様子をラサと坂神に見られ、薫は困った表情を浮かべた。
「はは‥‥まさか過去に逃げ回っていた相手とこうしているなんて、ね‥‥」
「何があったか知らないけど、自覚があるんならいいじゃない。自覚のない奴よか、よっぽどいいさ」
監督は深く追求せず、「まーまー」と言いながら杯を薫の前に出す。彼はジュースの入ったグラスを静かに上げ、乾杯に応えた。そこにラサと蒼凪が加わる。こうなると何度でも乾杯してしまうのが、楽しい宴というもの。着ぐるみの暑さにしばしダウンしていたミリハナクもグラスを持って立ち上がり、ここぞとばかりに零が盛り上げる。
「今日はお疲れ様〜♪ 再びかんぱーい!」
後日完成するビデオの出来を先に祝わんとする勢いで、この打ち上げはいつまでも盛り上がっていた。