●リプレイ本文
●追いかける、追いすがる。
ハンタとトモ、そして小タコたちの無意味な大運動会が、ついに終わりを告げる。能力者が準備を整えて、現地にやってきたのだ。一番槍はAU−KV『騎煌』を駆る夏目 リョウ(
gb2267)。彼はふたりの特徴を見て、すぐにGMBと判断。そのまま併走する。
「ナイスレスキュー! しかもキュートじゃないか!」
「俺は、男だ!」
せっかく助けに来てくれた相手への第一声が粗相‥‥トモは天を仰いだ。
「この先の袋小路に仲間が待っている。そこでタコベーダーの侵略を食い止める予定だ。道案内は、後ろの連中に任せる」
トモが振り向くと、そこにはGMB顔負けの黒服軍団がいた。思わずハンタも「ん?」を目を凝らす。この時、エイミー・H・メイヤー(
gb5994)がさっとサングラスを外した。
「ヘイ、GMBのブラザーたち。助けに来たぞ」
「となると、そっちも‥‥」
残るふたりも傭兵さんの変装。オルカ・スパイホップ(
gc1882)とラサ・ジェネシス(
gc2273)。ふたりとも今回のコスプレがお気に入りのようだ。自然と声が弾む。
「夏バテにはタコがいいって、某国民的グルメマンガに描いていたノダ! ぜひ捕獲して調理!」
「オゥ、ハンタ! 能力者さんは食料調達のノリらしいぜ。こりゃ心強いってもんだ!」
狙われた人間にとっては脅威だが、能力者にとってはただの食料調達‥‥認識の違いが余裕を生む。
「僕たちが袋小路まで誘導するよ!」
「ナイスアシストだぜ、GMBサポーター! お嬢ちゃん、キュートだぜ!」
「僕、男だけど‥‥?」
ハンタはリョウに続き、オルカまで女の子と間違えた。二度のフォローはないと、トモは完全に黙殺。周囲は微妙な空気に包まれる。それを見たエイミーとラサは、遠慮なく笑った。男ふたりがへそを曲げて、遠回りさせられても文句の言えない状況ではあったが、そこはラサがきっちりと道案内をこなす。
「ヘイ、コッチネ、トシ!」
ラサはハンタの真似をしながら、目の前の道を指差す。
「トシって‥‥アメリカかヨーロッパじゃないんだ、アーハァン?」
「GMBを避難させるのに、時間を稼ぐ必要があるな‥‥行くぞ『騎煌』、武装変だっ!」
瞬時にして白きミカエルを装着し、マント姿の戦士が小タコの前に立ち塞がる!
「自らの手で占いを実現させるインチキは校則違反だ‥‥学園特風カンパリオン、平和の護りに只今参上!」
名乗りもそこそこに、インサージェントで通りすがるタコに攻撃を加える。しかし敵にしてみればターゲットは手の届く範囲にいるので、無理にリョウとは戦わない。8本の足を必死に動かし、驚きの速さで追いかけた。それも計算済みとばかりに、カンパリオンは華麗な立ち回りを見せる。まずは竜の翼を発動させて先頭を走るタコの背後に立つと、そのまま竜の咆哮で前方に吹き飛ばした!
「飛び出せヒーロー、光りのローラーってね‥‥くらえ、カンパリオンマジカル・ターン!」
「ピ、ピピーッ!」
情けない悲鳴をあげながら飛ばされる小タコ。リョウは自分に迫ってくる敵に一撃を加え、確実にダメージを与える。敵の隊列は崩れ、縦に長く伸びた。
リョウは一方的に攻撃できる今がチャンスと踏んだ。そして先頭に立ったタコを再び竜の翼で追って、竜の咆哮で吹き飛ばす。再び「カンパリオンマジカル・ターン」を発動したのだ。そしてまだノーダメージの敵を手当たり次第に突き、ほとんどの敵に手傷を負わせた。
●袋小路で袋小路?
約束の場所で待機するのは、常 雲雁(
gb3000)‥‥通称『ユン』。彼の手には閃光手榴弾が握られている。これは事前に炸裂するタイミングを早める改造が施されていた。同様の仕掛けをしたものを如月 葵(
gc3745)も持参している。彼女はダークスーツを着ていたが、これはコスプレではなく普段着だそうだ。その隣には、明らかにコスプレの里見・さやか(
ga0153)が立っている。セーラー服にマジシャンズロッド、そして無改造の閃光手榴弾を持っていた。
「街に紛れるなら、これが自然なんです! 断じて、私の趣味じゃないんです!」
彼女の説明がどこまで信用されたかはわからないが、今回装着したメガネは萌え要素ではなく、あくまでタコの墨をガードする防具。そこだけは、ユンも葵も同意する。つまり、それ以外は「彼女の趣味」と認識されているのだろう。それを過敏に察したさやかは、ふたりの視線を見ないようにしてGMBたちの到着を待った。
しばらくすると、ユンがこっちに向かってくる黒服の集団を発見する。
「見えました。皆さんが走ってきます‥‥その後ろに敵影!」
さやかはこのタイミングで、閃光手榴弾のピンを抜いた。ユンと葵は、まだ抜かない。その間、エージェントたちは全力でダッシュ。リョウのおかげで、後ろを振り向く余裕がある。このまま非戦闘員のハンタとトモは袋小路で隠れ、小タコの狙いを能力者たちに向けさせたところで閃光手榴弾を使用。怯んだところを一網打尽にする作戦である。
「ヘイ、みんな! 俺たちの隠れるところはどこだ!」
「ここだ‥‥」
「オゥ、ハンタ! さっさと入るんだ! 能力者さんの足手まといにはなれないぜ、アーハァン?」
今の今まで物陰に潜んでいた沁(
gc1071)がふたりを招き入れ、ハンタとトモを奥に押し込めると戦闘の準備を整える。ここでユンは葵に目配せをし、同時に閃光手榴弾のピンを抜いた。
そして作戦決行。まずはユンと葵が合図とともに閃光手榴弾を敵の中に投げ込む!
「目と耳を塞いでください!」
すべての敵を範囲内に収め、これは完璧‥‥と思いきや、この2発は地面に落ちても炸裂しなかった。どうやら改造が失敗していたらしく、不発弾となってしまった。しかし、そこは女子高生のさやちゃんが「そのままで!」と静止の継続を促し、敵が集まりつつある中央に閃光手榴弾を投げた。これが確実に発動し、すさまじい爆音と閃光が周囲を包み込む!
「ピーーーッ! ピーーーッ!」
すべてのタコは目を回し、ふらふらと動く。ユンはこのチャンスを逃すまいと、近くにいる1匹に狙いを定めた。炎剣「ゼフォン」で足を切り落とし、弱ったと見るとすぐさま靴に仕込んだ砂錐の爪で踏みつけて行動の自由を奪う。そして急所突きを発動させた炎剣の一撃で、確実に退治する。リョウが事前にまんべんなくダメージを与えたのが生きていた。
葵も1匹に狙いを定めると、距離のあるうちに真デヴァステイターで一撃を与え、とどめは接近して驟雨の一閃であっさりと勝負を決める。さやかは手近な敵に練成弱体をかけ、マジシャンズロッドから繰り出される電磁波で何度も攻撃。タコは悲鳴を上げながら、そのままぐったりして倒れる。
「あたしも1匹倒そうか‥‥」
エイミーはそう言うと覚醒し、瞳を金色に輝かせる。そして奥にいる敵に蛍火から放たれるソニックブームを命中させ、確実にダメージを与えた。そして同じ目標に向かってラサが走り、ライトピラーで敵を貫く!
「鎧袖一触! ファイナル流し切り! GMBの無念を晴らス」
「オゥ、ラサ! 俺ら、まだ死んでねぇって!」
「しーっ! ハンタ‥‥ここでタコに気づかれたら厄介だ。黙ってろ!」
これで残りは4匹。オルカが練習している奥義をタコを相手に試す。二段撃の連続攻撃であまたの斬撃が襲いかかるという、奥義『悲想恩讐』‥‥今回は一撃を加えるごとに足を1本ずつ狙い、どれだけ斬ったかを確認しようというのだ。少年はテカテカに黒く染まった腕を振るい、忍刀「颯颯」と蛇剋で苛烈な攻撃を与える!
「はあぁぁぁーーーっ!」
「ピ、ピピピ!」
敵が回避できない状態にあるため、攻撃すべてを命中させるのは容易‥‥もちろんタコを昇天させるのも容易である。しかし最後の一撃だけは二段撃を発動させられず、普通の攻撃でとどめを刺した。それは斬った足の数がすべてを物語っている。
「うーん、攻撃ができてるってことは‥‥練力が足らないのか。わかった!」
オルカが満足げに笑うと、少しムッとした表情の沁がタコに八つ当たり。すばやく「瞬雷!」と呟くと、機械巻物「雷遁」からキメラに向かって電磁波が飛ぶ。その後も攻撃を仕掛け、最後は「‥‥万雷」と呟き、確実に討伐する。この時、足止めで大活躍したリョウが合流した。
残す敵は2匹。
閃光手榴弾のおかげで満足な攻撃は仕掛けられないが、それでも葵に渾身の体当たりを仕掛けた。彼女はこれを食らい、わずかにダメージを受けるが、その赤い瞳は輝きを失わない。もう1匹はエイミーに向かって墨を吐くが、これは大ハズレ。さっさと盾を片付け、全員討伐を達成すべく再び動き出した。
●お仕置きタイム!
葵は傷を癒すべく、すぐさま活性化を使用する。オルカは「大丈夫?」と声をかけたが、葵は気丈に振る舞い「この程度、問題ありません」と凛々しい表情で答えた。
さやかは残る2匹に練成弱体をかけ、仲間たちが有利になるようバックアップ。エイミーは墨を飛ばしてきたタコに反撃とばかりに、流し斬りを乗せた強力な一撃を食らわせる。それを見たリョウがすかさず竜の爪を発動させ、インサージェントを持つ腕にスパークを走らせた!
「今だっ、輝け竜の爪‥‥カンパリオンファイナルクラッシュ!」
白き戦士は、見事に敵の息の根を止めた。最後の1匹は、ユンが炎剣「ゼフォン」を操って足を切り、弱ったところで先ほど同様、急所突きでとどめを刺す。これで8体すべてのタコを退治した。
「終わったー♪」
オルカが嬉しそうにはしゃぐが、この事件はまだ終わっていない。まずこの事件のキーマンが、能力者たちの下へやってきた。ミスターMである。
「‥‥何か起きているとは思ったが、まさかこんなことになっていたとは‥‥」
この言い草には、さすがのハンタとトモも大ブーイング。それを見たからか、オルカも疑問に思っていたことを口にした。
「あ、そういえば‥‥Mさんは何を相談したの〜?」
「‥‥職場で同僚がうるさいから、黙ってくれれば助かると‥‥」
「えーっ! それって演技じゃないでしょ! せっかくサラリーマンに変装したのに、何でマジメに答えたの?」
まさにオルカの言うとおり。これなら最初から能力者を追うようにしておけば、さほど手間もかからなかった。ミスターMを非難するジットリとした視線は、陽気なブラザーだけでなく、さやかからも注がれた。
「さぁMさん。同僚を危険にさらした罰の時間ですよ? 右向けー、右! 腕立て用意っ!」
「‥‥は、はい!」
セーラー服上官の指示に従い、ミスターMはきびきびした動作で腕立て伏せの体勢を整える。さやかも同じポーズで、威勢よく号令を出した。
「はい! いち、に、さん‥‥」
「‥‥う、うう、は、早い。ペースが早、ううっ‥‥」
「これは体罰じゃありません。筋トレです。筋トレであるからには、私も一緒にやってるんです」
みんなが納得するミスターMへのお仕置きが繰り広げられる中、ラサは倒したキメラの数を再度確認する。その後、SES中華鍋でタコを丸ごとこんがり焼き、出来上がった料理を配った。
ユンやオルカは好んで食べたが、エイミーはちょっと遠慮気味‥‥ぬるぬる系は生理的に受け付けず、さらにタコを「デビルフィッシュ」と呼ぶお国柄の人間にとって、この料理はゲテモノ以外のなんでもない。しかし友達の出す料理なので、おっかなびっくりで初挑戦した。
「う、ううん‥‥なんだかゴム食べてるみたいだな」
味はともかく、触感には慣れなかったようだ。微妙な表情を浮かべるエイミーを見て、ラサは微笑む。
不用意な発言で仲間を恐怖のどん底に叩き落したミスターM、そして彼らを襲ったタコのお仕置きを済ませた。残すは、元凶を叩くのみ。両腕が筋肉痛で使い物にならなくなったミスターMを先頭に、全員揃って謎の占い師のところへと乗り込んだ。
●恐怖のお仕置き
出発から30分後‥‥
メンバーが問題の『占いの館』に踏み込むと、薄暗い店内の中央に東洋の踊り子風の衣装を着た占い師がいるのを発見。もちろん、水槽の中にはルーツくんもいる。彼女は慌てて逃げようとするが、後ろはリョウとエージェントが立ち塞がった。
「苦労ダコ一味に操られていたとはいえ、悪は悪だ‥‥タコ墨で黒く染まったその心を浄化してやる」
正義の言葉に恐れをなし、占い師はその場にへたり込んだ。この隙にオルカが水槽に手を突っ込んで、ルーツくんを捕獲。そのままラサが持つすさまじい火力のSES中華鍋に投げ入れる。
「タコヤキ〜♪ タコ飯〜♪ タコの干物〜♪ あ、酢の物もいいね〜♪」
「ああっ、ルーツ‥‥!」
飼い主の悲痛な声に応えるかのごとく、最後に小さく「ピピーッ!」と叫ぶが、ルーツくんはそのままこんがりと焼かれてしまった。これで裁かれる者はあとひとり。まず沁が歩み寄り、彼女に「銀色のキメラを知っているか」と問い詰めた。親バグア組織と繋がりがあると占い師は告白したが、キメラに関することは知らないと答える。
だが、これはウソである可能性もあった。そこで葵が動いた。彼女に目隠しをさせ、柱に縛りつける。暗闇は恐怖を増幅させるものだ。尋問にはもってこいである。
「さあ、あなたには色々と喋って頂きますよ。時間はたっぷりあります。楽しみましょうか‥‥」
今から何をするのか‥‥それは占い師ならずとも能力者も気になるところ。すると葵はどこからともなく鳥の羽を取り出し、占い師の身体をくすぐり始めた。
「あーーーっ! あはははは! やめて! あはははは!」
「この程度で音を上げないでくださいね。まだまだこれからですよ?」
葵の意外な攻撃にみんなが驚く。さらに驚いたことに、彼女はまだ鳥の羽を持っており、みんなに同じ行為をするよう勧めたのだ。ラサやオルカは嬉しそうに、エイミーは説教を交えながら、そして沁はマジメな表情を崩さぬまま、さっきの質問にウソはないかと尋問を続ける。占い師の笑い声は途切れることなく、呼吸困難になるまでこのお仕置きは続けられた。
30分後、たいした情報も得られなかったので、彼女の身柄をしかるべき筋に引き渡した。
葵はハーモニカを吹き、さっきまでの大笑いが響いていた場所できれいな音色を奏でる。それをバックに、ラサが空を見上げて呟いた。
「彼らは立派に任務を果たしたのダ。ハンタ、トモ、終ったヨ。安らかに眠レ‥‥」
ふたりは生きてるし、まだ側にいるのに‥‥彼らはなぜかミスターMを殴る。不思議とそれを誰も止めようとはしなかった。