●リプレイ本文
●ハートのエース
先頭をひた走るトラックの運転手は、バックミラーで敵との距離をつかみながら運転する。ワームたちは木々を薙ぎ倒し、その距離を徐々に縮めていた。
「ちっ、迫ってきてるな‥‥!」
「へっへっへ、こっちもだぜ! 前方上空にスカイブルーのウーフーを肉眼で確認! その後方にも複数の機影あり!」
助手席に座る兵士の声が踊る。救助隊は『最後のジョーカー』を引かされたわけではなかった。
支援に向かったKVの先頭を飛んでいるのは、イスル・イェーガー(
gb0925)機だ。それに続き、シルフィミル・RR(
gb9928)搭乗のペインブラッド『アルトオーガ・ツヴァイ』が続く。この二機はトラックの目指す先で着陸しながら変形し、すぐさま通信を開始した。
「‥‥こちら救助にきました、イスル・イェーガーです‥‥そのまま行ってください。護衛しつつ、離脱を図ります‥‥」
これを聞いたそれぞれのトラックから、歓喜の声が響く。兵士や住民が元気を取り戻したと知ると、シルフィミルは少し微笑んだ。蒼き射撃手と赤と白の鬼武者‥‥このKV2体が味方とはなんと心強い。トラックは遠慮なく彼らの横を通り抜けると、少し間を置いて2機も行動を開始した。
「シルフィは、このままイスルさんとトラックの護衛を開始しますわ」
「おう! 後ろのワームは、この武藤 煉(
gb1042)に任せとけ! さぁて、怪獣大決戦としゃれ込むかッ!」
残りの6機はトラックを追い越し、事前に戦闘区域として候補に挙げていた草原に着陸しながら変形する。竜牙に乗る煉の後ろには、火神楽 恭也(
gc3561)のディアブロ『アラストル』。彼は目の前の熱血野郎とコンビを組んで、敵1体の撃破を目指す。
敵は『進路を阻むなら排除するまで』と言わんばかりにKV側に進路を変え、勢いはそのままに山肌を滑ってきた。それを見たキヨシ(
gb5991)は少し安心したのか、短く息を吐く。ワームの興味を引くことができただけでも十分な成果だ。彼はすぐさま愛機『ヴィルーパークシャ』に搭載された強化型ジャミング中和装置を発動させる。そんなキヨシの前に、常 雲雁(
gb3000)のペインブラッド『玄兎』が立った。
「敵を確実に開けた場所へ誘引し、有利な上方からの突撃を牽制するため、フォトニック・クラスターを使用します。私の前に展開するのは少しだけ待ってください」
「わかりました! ユンさんにお任せしますっ!」
元気娘の高梨 未来(
gc3837)が乗るディスタン『アイギス』は、玄兎よりも少し後ろに立った。彼女とコンビを組むのは、リネア・フロネージュ(
gb9434)。白を基調としたカラーリングのシラヌイに搭乗している。殲滅を担当する6人は3組に分かれて、3匹のワームを各個撃破する作戦を選んだ。
戦闘の準備が整った。
ユンは十分に敵を引きつけ、2匹が射程に入ったところでフォトニック・クラスターを使用。自分から高熱量のフラッシュを浴びに行ったワームは、ダメージを受けると奇怪な鳴き声を響かせる。それはまるで突然の攻撃に驚いたかのようにも聞こえた。残りの1匹は慌てて足を止め、頭を動かして周囲を警戒する。そこをユンがガトリング砲「嵐」を当て、その肉体を傷つけることで、うまく敵すべてをKVに向けさせることに成功した。
能力者たちは間を置かず、倒すべき敵を選択。相棒はもちろん他のメンバーとも通信を取りながら、接近戦を開始する。すぐに攻撃を開始したのは、敵の地理的優位を解消するためだった。もっと言えば、後ろにはトラックが控えている。チャンスをピンチに変えるようなことは、決して許されない。
煉は敵に向かって猛然と竜牙で迫る。パートナーの恭也は前方で挟み込むような形で陣取り、そこから突撃仕様ガドリング砲を発射。無数の弾丸が体にめり込むと、敵はビクッと身悶える。
「援護射撃、サンキュー! こっちも行くぜ! 要は機体が壊れる前に相手を壊せばいいんだろうがッ!」
実に単純明快な論理を口にすると、挨拶代わりにクラッシュホーンを突き刺す。ハリネズミの体に竜牙の角を突き立てられるとは、これまたなんたる皮肉。ワームは屈辱をにじませる声で鳴く。
「にひひ。まだまだこれからだぜ!」
「コッチも負けてられへんな! ユン、お先にやらせてもらうで!」
蝋色に染まったキヨシのウーフー2は、煉たちとは違う1体に接近。試作型機槍「黒竜」を器用に操り、敵の体を突く。
「ユンの攻撃でビックリしてもうたんか? 隙だらけやで!」
もちろんリネアと未来は、残る1体と対峙。リネアが中距離からスラスターライフルを発射し、強力な銃撃をおみまいする。
「トラックの所には向かわせません! ここで私たちの相手をしてもらいます!」
リネアが強い意志を言葉に乗せると、未来も負けじとアイギスを前へ進める。そしてあえて敵に接近した状態で、突撃仕様ガドリング砲で攻撃した。ワームの体に、次々と弾丸がめり込んでいく。この時、彼女は自分から敵の的になろうとしたのだ。そしてこの時、彼女はイクシード・コーティングを発動させて防御面の充実を図り、敵の反撃に備える。
ワームはそれぞれ手近なKVに体当たりを敢行、反撃を開始した。キヨシはこれをストライクシールドで、未来も機盾「アルビオン」で攻撃を完全に受け止める。煉も攻撃を受け止めはしたが、すべては防ぎ切れずにダメージを受けた。
「にひひ。初戦闘だってのに無理させちまってるな、竜牙」
この間もトラックは前へ前へと進んでいる。メンバーは役割を果たし、理想的な展開を作り出した。
●生かさず、逃がさず!
ここからは、いよいよガチンコ勝負。煉は一気に勝負を決めようと、オフェンス・アクセラレータを起動させた!
「行くぜッ! 火神楽、俺にしっかりついてきやがれっ!」
竜牙は雄々しく一鳴きするかのように動くと、レッグドリルとヴィガードリルで敵を粉砕せんとする。近接兵器一色で固められた竜牙は、搭乗者である煉の性格を如実に表していた。ハリネズミ型ワームはドリルのフルコースに音を上げるが、それで許してもらえるはずはない。
恭也は相棒の呼びかけに応じ、機槍「ユスティティア」を使い、中距離からの攻撃を繰り出す。彼もまた「大切なものを傷つけるワームを許さない」という強い気持ちを抱いて戦っていた。その一突きもまた重い。
前衛でキヨシが攻撃を止めた直後、ユンに通信が入った。声の主は、もちろんキヨシ。
「コッチは大丈夫やから、今のうちに攻撃せぇ!」
その声に応えるように、ガトリング砲「嵐」で牽制しつつ接近し、ワームの特徴的な針に気をつけながらヒートディフェンダーで斬る。高熱を帯びた一閃に、思わず敵は過敏に反応した。どうやらフォトニック・クラスターを食らってから、不自然な熱の攻撃が気になるらしい。
そこにキヨシが容赦なく黒竜を突き立てるが、まだトドメを刺すには至らない。しかし今の敵に山を下っていた頃の勢いはなく、勝負を決するのは時間の問題‥‥ここのコンビもワームを逃がさぬよう、うまく立ち回ることを念頭に置いて戦闘を継続する。
リネア機はスラスターライフルで二度射撃し、針獣にダメージを与えていく。それを見た未来は「攻撃に転ずるチャンス!」と判断すると、スパイラルバンカーで強力な一撃を加えた。
「穴だらけになるのはそちらです!」
「その通りですね、リネアさん!」
敵を穴だらけにしようと息巻いていたハリネズミが、いつの間にか穴だらけになっていくという皮肉。もはや敵はKVの戦いぶりに押されている。それでも未来は予想外の反撃を食らわぬよう、再びイクシード・コーティングを使う。
ワームも必死に体当たりを繰り返し、この状況を打破せんと暴れまくる。
煉と恭也は接近戦に打って出たため、両方の機体が狙われた。恭也は機盾「バックス」でこれを防ぐが、煉はまたしてもダメージを受ける。それでも操縦に支障もないほど軽微な損傷で済んでいた。次も見た目通りの大暴れが期待できそうだ。
キヨシはストライクシールドで二度の体当たりを防ぎ、同じく未来もアルビオンで攻撃を防ぐ。これでいよいよ殲滅班のペースとなった。この戦いは、ついにクライマックスを向かえる。
●ジョーカーを捨てる時
まずは怪獣大決戦のフィナーレから幕を開けた。ここが勝負どころと見切った恭也は『アラストル』の能力を最大限に発揮。パニッシュメント・フォースを発揮させ、さらにブーストし、すさまじい勢いでユスティティアの連撃を放つ。その姿は、機体の愛称に負けぬ迫力を帯びた動きだ。
「これで終わりだっ!」
恭也はここぞとばかりに機体のコンセプト通りの苛烈な攻撃を披露。ユスティティアの突きと切りを命中させると、それに負けじと煉が恐竜の牙を剥く。こちらも再びオフェンス・アクセラレータを発動させ、機槍でえぐられた箇所をめがけてストライクファングで噛み砕くと、最後はクラッシュホーンで貫いた!
「手ごたえありだ! 決まったぜッ!」
金属の砕ける音が豪快に響き渡った瞬間、ワームはその動きを止めた。煉は針獣に刺さったままの角を乱暴に抜くと、竜牙に勝利のポーズを取らせる。
「そーいえば、お前の名前が決まってなかったな。最初の相手がハリネズミっつうことで‥‥うむ、ヘッジホッグでいーな。てめぇの名はヘッジホッグで決まりだ」
ハリネズミの凶針をも凌駕するドリルをいくつも搭載した竜牙は、初戦闘で勝利とともに愛称を得た。今後、ますますの活躍が期待される。その隣に『復讐』を意味するアラストルも並び立ち、まずは1匹を討伐をアピールした。
先のふたりほど派手さはないものの、堅実な戦いぶりを披露するユンとキヨシにも、その時がやってきた。
キヨシは攻撃を受け流すとは、黒竜で反撃に出る。ヴィルーパークシャの目にハリネズミの姿が映ったなら、もはや逃げる術はない。突き立てた機槍は、ついに体を貫通。ユンはそれを見て、玄兎の底力を発揮させる。強化型SES増幅装置『ブラックハーツ』を発動させ、硬い針を無視して切り裂く練剣「メアリオン」で勝負に出た!
「ここだ‥‥!」
翠の瞳も敵を捉えた。メアリオンから放出された圧縮レーザーもまたワームの体を貫く‥‥ハリネズミはしばらくは小刻みに震えていたが、程なくしてピタッと動かなくなる。か細い悲鳴が消えるまで、ふたりは武器を引っ込めようとはしなかった。
「これでこっちも大丈夫や!」
キヨシは仲間への通信をしてから、突き刺していた黒竜をゆっくりと引き抜いた。ユンもまた放出をやめると、敵の亡骸は重そうな音を立てて崩れ落ちる。
最後の1体のトドメは、ふたりの女性に託された。リネアはスラスターライフルを装填し、再び二度の銃撃を行う。この銃から繰り出される攻撃は、非常に威力が高い。
「あとは私に任せてっ!」
肩まで伸びた赤い髪をなびかせ、未来はコックピットで叫んだ。スパイラルバンカーの残り装弾数は2‥‥彼女はこの攻撃に賭ける。アイギスは迷いなくメトロニウム製の杭を敵の体に打ち込んだ。その振動で敵の体は激しく揺れる。同時に小さく短い悲鳴を放った。攻撃が終わる頃、ワームの体は伸び切って動かなくなる。
「最後の1体も倒しましたっ!」
「まだ作戦は終わっていない。周辺を警戒しつつ、トラックの護衛に加わろう」
「はいっ、わかりました!」
未来の喜びをやさしく諌めたのは恭也だった。またそれに応えようと、彼女もすぐに気持ちを切り替える。同じ形状の敵が迫っていないか確認しつつ、殲滅班もトラックの護衛に回る準備を始めた。
●作戦成功!
背後から追われる恐怖がなくなったとはいえ、いつ新たなる困難が牙を剥くかもしれない‥‥トラックを運転する兵士たちの不安は、常に通信を行っていたイスルにも伝わる。合流してからずいぶんと時間が経つというのに、彼らの口数は徐々に減っていた。イスルはそれを察すると、すぐに通信を入れて元気づける。
「‥‥他のみんながワームを止めていてくれるから、大丈夫だと思います‥‥」
実際、殲滅班の活躍は通信を介して聞いているし、例え新手が出たとしてもシルフィミルとの連携で安全地帯にまで逃がすことはできるはず。彼女もまた通信で「ご安心くださいね、大丈夫ですの」と声をかけて必死に励ました。
そんなやり取りが何度か続いた頃、背後から機影が見えた。
「こちらリネア。ハリネズミ型ワーム3体を討伐しましたので、上空からの護衛に就きます」
「皆さん、お疲れ様ですの」
「肉眼でも救助班の合流地点が見えてきたわ。もう大丈夫やで!」
ついにトラックは、たどり着くべきゴールを目にする。彼らが土壇場で引いたカードは、紛れもなく『ハートのエース』‥‥5台のトラックすべてが安全地帯を通り過ぎたと同時に、彼らの任務も無事に終了した。
住民たちは皆、安堵の表情を浮かべて降りてきた。
「あれだけの人が乗っていたんですね‥‥」
「見えてないっていうのは、それはそれでおっかないもんやな」
ユンとキヨシは、操縦席の中でこんなことを話していた。救われた人々の元気な姿が、また自分たちを動かす力になる。彼らはしばらくその様子を見つめていた。
護衛に成功したシルフィミルは操縦桿を優しく撫でながら、アルトオーガ・ツヴァイに語りかける。
「ツヴァイ‥‥がんばりましたの。いい子、です。ありがとう」
「シルフィミルさん! みんな待ってるよ!」
機体のそばで、未来が呼んでいた。彼女は笑顔でそれに応じ、ゆっくりとコックピットから降りる。
その頃、一度は任務の失敗を覚悟した兵士たちは、着陸したKVに駆け寄って傭兵たちに感謝の言葉をかけた。
「‥‥ここまで来れば大丈夫かな‥‥どうですか?」
「ひとまずは安心だな。だが、ここも戦火に晒されるのか‥‥ったく」
恭也は安全を保証するも、いずれは起こる戦いに落胆と憤りを感じていた。中国の雄大な景色を舞台にした戦いは、まだ始まったばかりなのかもしれない。