タイトル:迷子のボクの物語マスター:村井朋靖

シナリオ形態: ショート
難易度: やや易
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/07/24 00:33

●オープニング本文


 夕暮れ時の晴れた河原は、どんな時も美しく茜色に染め上げる。
 四国の街から少し離れたこの場所に、ひとりポツンと童顔の青年が座っていた。彼は静かに川のせせらぎを聞いているようにも見える。
 彼の表情は、どこか明るかった。哀愁の似合う風景だが、しっかりと顔を上げている。きっと彼は、明日が来るのを心から待っているのだろう。
 そこへふらりと柴犬がやってきた。泥のついた体を揺らし、青年に近づく。彼はそれを見てすぐ立ち上がると、来訪者を暖かく出迎えた。
「こっちへおいでよ」
 両手を広げる人間の胸に、犬も「ワンワン」と喜びながら飛び込む。ひとりと一匹は、しばしその場で戯れた。

 青年は言葉の通じぬ犬を相手に、自分の身の上話を始めた。
 彼の名は、西雲ホレル‥‥実の兄のように慕っていた、ある男性の帰りを待っている。ここはふたりが再会を約束した場所だ。
「俺はね、その人を兄貴って呼んでるんだけどさ。兄貴は、約束を破らないんだ。だから俺も、ここで待ってるんだ」
 ホレルの誠意が伝わったのか、犬も熱心に首を縦に振る。ついでに尻尾まで振っているところを見ると、もしかすると彼は飼い犬かもしれない。
「そうだね。俺はお前と一緒かも。こうやってかわいがってもらってた。今日も兄貴の帰りを待って‥‥ご飯作って、部屋も掃除した」
 声のトーンが少し下がると、聞き手も少し首を傾げた。どうやら兄貴が目安とした時期を、とっくに過ぎているらしい。
「あはは、心配させちゃったかな。大丈夫、必ず帰ってくるから。兄貴はみんなにやさしいから、きっとどこか寄り道でもしてるんだ」
 弟分の空元気を、犬は「ワォーン!」と元気な一鳴きで吹き飛ばす。静かな河原に響く雄々しき声は、青年の心をやさしく癒した。
「いい子だね。今日はうちに泊まるかい? 急ごしらえでいいなら、段ボールの部屋を作ってあげるよ」
 やさしさのキャッチボールをしながら、ホレルは来客に出すメニューを考えながら、健気に兄貴を待っていた。

「なんと美しい‥‥力なき者がその身を捧げて尽くす。献身的な態度は、実に美しい」
 ホレルの言葉と表情を、少し遠くで見つめる長身の男がいる。身につけた純白のタキシードもまた、鮮やかな茜色に染められていた。
 しかし胸を彩る真紅のバラと黒い棘の紋章のブローチは、どんな明るい色にも負けぬ不気味な輝きと妖艶な香りを放っている。
 いつもは部下に取りに行かせる極上のワインを自ら手に入れるため、フィリス・フォルクード(gz0353)はここ四国の地にいた。
 そして帰る途中、他の者に託した任務の進捗を確認しようと、この場所へやってきた。本人にしてみれば、ただの気まぐれである。
 そんなフィリスではあったが、興味深くホレルを観察をしたところ、美しさの琴線に触れて感動してしまった‥‥というわけだ。
「あのような美しい人間は、我が手の内で生きるべきだ。そこの者。例の美しき一角獣に青年を記憶させ次第、すぐ迎えに行かせたまえ」
 部下は「はっ」と返事してうやうやしく一礼すると、さっそくホレルの写真を何枚も撮った。彼がいう『一角獣』とは、どうやらキメラのことらしい。
「ふふふ、彼が兄と慕ってやまぬ人間は絶対に戻らない。能力者という美しくない存在であったがゆえに‥‥」
 フィリスはホレルはおろか、兄のこと‥‥いや正確には兄の末路を知っていた。
「愛する者が戻らない予感があろうがなかろうが、あの姿は生きるに値する。美しい彼にはバグアの世界で幸せをつかむ権利がある」
 自慢の金髪をなびかせながら胸を張ってそう言うと、彼はその場を去った。手に入れたワインは、まるで犠牲になった人間の血と涙を象徴するかのようである。

 数日後、あの河原を目指して、一角獣の姿を模した高貴な姿のキメラが出現した。
 あの日と同じ夕暮れ時にひとりたたずむホレルの顔を求めて。そして背に彼を乗せ、フィリスの元へ向かうために‥‥
 ところが、このキメラの記憶力は乏しい。同じ年頃の青年を見つけるとは、誰彼構わず蹴飛ばして目標に接近する。
 そして背に乗せてはみるが、相手がわめいたり怒ったりすると「ホレルではない」と判断して乱暴に振り落とし、また次の男を探すという非効率的な捜索を繰り返した。
 フィリスの部下はタイムロスを考慮に入れて、あえて早めにキメラを放ったのだが、予想通りの展開になってしまっている。
 そんなキメラが巻き起こす大混乱は、対応に追われる地元警察によってULTへと伝えられたのであった。

 野良犬をも包む愛を持つ青年、そしてまったく無関係の一般市民をバグアの魔の手から救うことはできるのか?!

●参加者一覧

ホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416
20歳・♂・FT
零崎 弐識(gb4064
24歳・♂・FC
如月 芹佳(gc0928
17歳・♀・FC
沁(gc1071
16歳・♂・SF
天原 慎吾(gc1445
16歳・♂・FC
ラサ・ジェネシス(gc2273
16歳・♀・JG
エメルト・ヴェンツェル(gc4185
25歳・♂・DF
ジョシュア・キルストン(gc4215
24歳・♂・PN

●リプレイ本文

●キメラを追って
 次第に混乱の色を濃くする街の中を、一台のジーザリオが駆け抜けた。
 運転席にホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416)、助手席に零崎 弐識(gb4064)、後部座席にエメルト・ヴェンツェル(gc4185)が乗っている。ちょうど今、地元警察に立ち寄って『キメラの所在情報の提供』を依頼したところだ。ただ現在も住民の避難誘導が続けられているので、こっちで見つけてしまう方が早いかもしれない。
 ホアキンは街中をのんびり流し、たまに騒動の元であるキメラを双眼鏡で探す。その横でタバコをふかす弐識が「熱心だねぇー」と声をかけた。
「ったく、なんだっつの。マジやってらんないっしょー。野郎さらうキメラなんざ興味ねっつの」
「いけません、弐識さん。無抵抗の一般人が犠牲になっているのですよ。この依頼、失敗するわけにはいきません」
 エメルトが気を引き締めるのを見て、弐識は大きく伸びをしながら「この車、熱いっしょ」と素直な感想を口にした。
「街中を暴れるツノウマ‥‥伝説で語られる一角獣は、もっとこう神秘的だと思っていた。何だろう、このガッカリ感は」
「やってることがあれじゃー、どんな色眼鏡でもダメに見えるって。あんたらの感性が正しいの」
 弐識はニヒルな笑みを浮かべた。ふたりもまた、静かに笑う。
「ホアキンさんが設定した場所まで、うまく誘い出せればいいのですが‥‥」
「こちらがダメでも、残りの2班がおびき寄せてくれるだろう」
 彼らの無線機から、まだキメラ発見の報は聞こえてこない。いったい、敵はどこで暴れているのだろうか。

 今回のために男装した如月 芹佳(gc0928)と、囮役のジョシュア・キルストン(gc4215)は、バイクで移動していた。芹佳が前で運転を行い、後ろでジョシュアが偵察の役目を担う。こちらもホアキンと同様、ゆっくりと街中を流していた。心地よい風が肌に当たる。
「変なところ触ったら、広場まで走ってもらうからね♪」
「やだなぁ、そんなことしませんってー」
 どこか胡散臭い笑顔を浮かべながら、ジョシュアはそう答えた。
「バグアって、どこかずれてるよね。一角獣って清らかな乙女とセットのはずなんだけど‥‥」
「男女を問わず、美しいものやかわいいものにちょっかいを出したくなる気持ちはわからなくもないですが‥‥人に迷惑をかけるのはいけませんね」
 芹佳は「そうだね」と返事しながら、少し警戒を高めた。そんなことは露知らず、ジョシュアは話を続ける。
「男装といえば、もうひとつの班の方がキメラを釣れそうじゃないですか?」
 運転席の少女は微笑みながら「そんな気もするね」と感想を漏らした。ここにはまだ、一角獣の影はない。

●一角獣を誘き出せ!
 もう一台のジーザリオは、素敵な青年を満載していた。
 チューリップの形をした黒い仮面とタキシード姿のラサ・ジェネシス(gc2273)の運転で、美男子の沁(gc1071)と天原 慎吾(gc1445)が乗っている。ラサは落ち着きのある住民を見つけるとは熱心に聞き込みをし、キメラの足取りを追おうと尽力する。ところが見た目が怪しいので、たまに相手が逃げていくこともあった。 
「ラサさんは‥‥運転でお忙しいでしょうから、ボクが聞いてきますか?」
「大胆不敵! 悪の匂いがするキメラは、我輩が発見するネ」
 凶暴な一角獣は、この『怪盗・黒いチューリップ』が見つけ出す。そう宣言した時、遠くから馬のいななきが聞こえた。沁はそっと胸に手を当てる。慎吾も警戒を強めた。ラサは車のスピードを上げ、音のする方向へ走る。道路を右に折れると、純白の毛並みが美しい一角獣の姿を捉えた。ちょうど無関係の青年を背中から落とし、視線を前に向けていたが、まだ距離がある。このまま逃げても、敵をひっぱれるかわからない。
「い、いましたね‥‥」
 思わず慎吾は声を潜める。沁はじっとキメラの姿を見つめていた。
「ユニコーン‥‥もしかしたら、あるかもしれない‥‥」
「何かお探しなんですか、沁さん?」
 不思議そうな表情を向ける少年に、沁は「なんでもない」と返事した。そしておもむろに無線機を取り出し、仲間と連絡を取り始める。
「先手必勝ダネ。この場は我輩に任せるネ!」
「あっ‥‥ひとりじゃ危ないですよー」
 ラサはその場に車を停め、運転席から躍り出た。それを見た慎吾も、慌てて車から降りる。彼女の護衛をするのが目的だ。
 自分から逃げる人間は飽きるほど見てきたキメラだが、自分に向かってくる人間は珍しい。鼻をぶるるんと鳴らしながら、黒いチューリップの観察を始めた。
 こうして敵の興味を引いただけでも大金星だが、ラサはダメ押しの秘策を惜しげもなく披露する。まずは両手をコウモリのように構えて片足を上げる『荒ぶるラサのポーズ』で、青年としてのカッコよさを存分にアピール。
「一富士、見タカ、三ナスビ!」
 くしくもユニコーンと慎吾は、同じタイミングで首を傾げた。もちろんラサの作戦は、これ一発では終わらない。今度は懐に隠していた超機械「ビスクドール」を取り出し、清純さを存分に醸し出す。
「かわいいデスネ〜。おお、これはかわいいデスヨ〜」
 いとおしい表情で人形の頭を撫でるラサを見て、慎吾はつい警戒を解いて彼女をじっと見てしまう。この演技には、そのくらいの破壊力があった。
 最後に怪盗は敵に背を向け、静かに本音を語る。
「最近、我輩の周り‥‥カップル多くネ?」
 あまりにリアルすぎて哀愁どころか悲壮感すら漂うラサの背中‥‥いったい彼女は何を見せたかったのか。慎吾はあたふたした。
 この時、ユニコーンはどっちを見ていたのかはわからないが、ゆっくりとラサたちの方に歩き出した。とりあえず背中に乗せてみようと思ったのだろうか。慎吾はラサの肩を叩いた。
「キメラが向かってきますよ、ラサさん。ゆっくりと車へ戻りましょ」
 彼は本当に敵が追いかけてくるのかを確かめるべく、そーっと後ずさりする。すると一角獣の瞳が鋭くなった。これは明らかにどちらかを狙っている‥‥沁も車内で状況を把握し、無線でメンバーに呼びかけた。
「作戦、成功‥‥例の場所まで‥‥」
 この後、ラサは慎重にジーザリオを操り、適度な距離を保ちつつ決戦場へと導いた。

●広場での決闘
 ホアキンは、地の利を活かして戦おうと考えた。
 一角獣が見境なく暴れるという情報から、まず第一に『広い場所』。さらに敵を逃がさないよう、包囲して戦うに適した『袋小路』。これらの条件を満たす場所‥‥今回は『町外れの公園』が該当したので、そこを戦闘区域に設定した。すでに住民の避難は、地元警察が済ませている。あとは敵がやってくるのを待つばかりだ。
 沁からの連絡を受けたホアキンたちは、車から降りて公園内で待機。そこに芹佳のバイクも到着した。
「SESが搭載された俺の相棒で、バッチリ試し切りだぜぇ‥‥」
 すぐ近くまで迫った一角獣のいななきを聞きながら、弐識はだんだんニヤけ出した。他のメンバーも武器を構える。

 ついに一角獣が公園内に姿を現した。
 ラサの運転するジーザリオは公園内の狭い道路を器用に通り、みんなの元にキメラを送り届ける。この時、後部座席から沁と慎吾が飛び出した。
「我輩もマイカーを停めタラ、すぐ合流するヨ!」
 運転席からの伝言を聞いたメンバーは、車に迫らんとする一角獣をすばやく取り囲んだ。
「幻想世界の高貴な住人も、バグアの手でキメラにされると‥‥」
 ホアキンは口では残念そうに言うが、躊躇なく紅炎を操ってソニックブームを使用。この衝撃波の行き先は、体重のかかる後足の足首。これが命中し、苦痛に歪んだ声を響かせる。
 これを合図に、メンバーは攻撃を開始した。沁は芹佳、慎吾、ジョシュアに練成強化を使用。いつにも増してご陽気な弐識は『刹那主義』と名付けられた武器を振りかざす。見た目は何の変哲もない剣だが、一瞬にして鞭のように変形できるのだ。体の周りを刃が踊るように動き、軌道が自由自在に変わる。さすがのキメラも弧の攻撃を読み切れず、ダメージを負うばかりであった。
 芹佳は流れるような動作で、サイドから蛍火で切りつける。こちらは猫のしなやかな動きを駆使しての攻撃だ。フェンサーの先輩である芹佳に続き、ジョシュアが傭兵刀でヒットアンドアウェイを狙う。まず迅雷で一気に間合いを詰め、脚を狙って円閃を叩きこむ。渾身の攻撃は惜しくも避けられたが、彼は敵の反応を見ずに、包囲陣形を崩さない場所を見極めて後ろへと下がる。
「やはり後足ですね」
 覚醒することで冷静さを増したエメルトは流し斬りを使って、側面からコンユンクシオで足を狙う。この攻撃は命中したが、自慢の移動力を完全に殺すまでには至らない。その後も攻撃を重ね、確実にダメージを重ねた。さらに慎吾もグラーヴェを持った状態で迅雷を発動。急接近すると円閃を放ち、さらにもう一度切りつける。彼は敵の悲鳴を聞きながら、抜刀・瞬で槍から刀に持ち替えた。
「や、やっぱり角が危ないです‥‥」
 慎吾は前方から繰り出される攻撃を警戒したが、一角獣は前足で弐識を押しつぶしを、後足でエメルトを蹴り飛ばしを狙う。弐識はすばやく反撃を避けたが、エメルトは避け切れずに手傷を負った。さすがは暴れ馬といったところか。

 沁は接近戦を挑むホアキン、弐識、エメルトにも練成強化を施す。慎吾は怪我をしたエメルトの傍に立って刀を構え、防御の姿勢を見せた。
「さーぁ、俺のかわいこちゃんに魂くれよ。ひとつだけでいーからさぁ‥‥ひひひ、無理か」
 弐識は一角獣が刹那主義の動きに少しでも慣れたと見るや、今度はふたつの形態を気まぐれに操り始める。剣のまま斬ったり、途中で鞭にしたり‥‥キメラからすれば、いい迷惑。あの美しい純白の毛並みが、ゆっくりと真紅に染まっていく。
「バ・ラ・バ・ラ・ターイム、だぜ!」
 ホアキンは退路を断つような立ち回りをしつつ、額にある角を狙って雷光鞭の電撃を放つ。その攻撃は、的確かつ強力。一撃が加えられるごとに脳が揺さぶられ、キメラは立っているのがやっと。ここでエメルトが痛みをこらえ、両断剣を乗せた強力な一撃を命中させた。次々と襲う痛みに耐え切れず、一角獣は思わず悲鳴を上げる。
「ヒヒ、ヒヒ、ヒヒヒーーーン!」
 芹佳はその隙を見逃さなかった。迅雷を駆使して敵の横からスライディングして足の間をくぐって逆側に移動し、敵の死角から二連撃と円閃を駆使して十字に斬る。さらにもう一度、二連撃と円閃を発揮してバツの字に斬った!
「飛燕剣奥義! 剛・燕返し!」
 そして最後に体を捻り、円閃で首を狙う。キメラは首を落とされるだけでなく、角までも折られ、ゆっくりと赤く染まった体を地面に預けた。
「これが私のすべて!」
 凛々しい芹佳の姿を、ジョシュアはいろんな意味で見入っていた。さすがにこれを盗むのは時間がかかりそうだが、「追いかける方が燃える」とは本人の弁である。
「いい勉強になりました、ええ」
 彼は静かに武器を鞘に収めたその時、ようやくラサがやってきた。もちろん戦う気満々で、敵の前に躍り出ると機械剣「ライトピラー」を振りかざす。
「奥義! スターストリーム! これがトドメの一撃だネ!」
「ラサさん‥‥もう、キメラ‥‥倒しました‥‥」
 沁の冷静なツッコミがあったが、ラサは決してめげない。さっきの芹佳のように、カッコいいポーズのまま立ち尽くす。エメルトの傷を救急セットで治療する慎吾がくすっと笑うと、それはみんなに広がっていった。
「わりーな、オイシイとこ全部取っちまってよー」
「そんなことないですよ。ラサさん、キメラを誘き寄せるのに大活躍だったんですから!」
 慎吾のフォローもあり、ラサは再び胸を張る。こうして美しきキメラの大暴走を、見事に食い止めた。

●黒幕登場!
 その後、芹佳は公園のベンチに腰掛けてハーモニカを吹いていた。隣に沁が座り、その音色に耳を傾けている。そこへジョシュアがやってきて、先輩である以前に女性の芹佳をデートに誘った。
「これも何かのご縁ということで、今度一緒にお食事でも‥‥」
 しかし彼女のハーモニカの音色が途切れることはない。ジョシュア、見事に玉砕。この後、彼はエメルトに慰めてもらっていた。

 一角獣との戦いが終わっても、慎吾とラサはなぜかその場から離れようとしなかった。まだ周囲を警戒しているらしいが、ホアキンの無線機にはそれらしき情報は入らない。
「何か、引っ掛かるのかな?」
「あのキメラ、何かを探してたように見えたんですけど‥‥」
 その言葉を聞き、ホアキンは少年の肩にぽんと手を置く。
「確かに。誘き出し作戦と地元警察の報告には、共通点があった。それは、あのキメラが男性しか興味を示さないことだ。ただの男好きの暴れ馬とは思えない」
「そう、あれは心清らかな青年を呼ぶための使者だったのです」
 公園の入口から、まるで竪琴のような美しい声を響いた。声の主は純白のタキシードを着こなし、周囲に白スーツの人間をたくさん引き連れている。その誰もが『真紅のバラと黒い棘の紋章』のブローチを胸につけていた。
「ごきげんよう、愚かな抵抗を続ける能力者の諸君。我が名はフィリス・フォルクード」
「おー、臭う臭う‥‥マヌケなバグア野郎の無意味な優越感の臭いがしやがらぁ。うわー引くわ! やっぱヤっちまうしかねぇかぁ?!」
 弐識は交戦を避けられるだけの距離を保って、ここぞとばかりに挑発を繰り返す。
「その神経の太さは、人間にしてはなかなか。そこは評価しよう」
「あの、私、飛燕剣の如月だよ。で、今回は何をしたの?」
「この先の河原に姿を見せる西雲ホレルという青年が、健気に美しく生きているのでね。呼び寄せるつもりだった」
「どう健気だと、バグアに救われるの? ちょっとわかりにくいよ?」
 芹佳は疑問を率直にぶつける。フィリスはその理由を語った。
「血の繋がらぬ能力者の人間を兄と慕い、本能的に死んだとわかっていても待ち続ける健気さ。これは美しい」
「あー、お前ムカつく。どーせてめぇが殺したんだろ、その兄貴。それで弟分は美しいとか、マジ気持ちわりぃー!」
 フィリスが含み笑いをしているところを見ると、弐識の推理はだいたい当たっているのだろう。ラサはビシッとバグアを指差した。
「フ‥‥貴殿が黒幕のようダネ‥‥貴殿の企みはすべて、この黒いチューリップが阻んで見せよウ」
「よろしい。その言葉、憶えておこう。あの美しき青年はいずれ、我々バグアの支配下で幸せに生きる運命。その時まで生きていれば、改めて迎えに来るとしよう」
 ホレルへの興味を失ったのか、フィリスはさっさと手下を従えてその場を去った。この瞬間、青年の穏やかな日常もまた守られたのである。