タイトル:バレちゃーしょうがないマスター:村井朋靖

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/07/16 12:49

●オープニング本文


 UPCの調査機関に所属し、自分たちで勝手に盛り上がって全力ハッスルしちゃう若き窓際諜報3人組『ジェントルメンブラック』‥‥通称『GMB』。
 世界に平和が取り戻されるその日まで、今日も彼らは生身で、危険な橋を叩いて、壊して、川泳ぐ。
 とはいえ、肝心なところはすべて能力者任せ。例によって、今回もULTに情報を提供しちゃっている。エージェントたちは黒スーツをビシッと着て、能力者たちの受け入れ準備を整えていた。

 事の発端は、1週間前に下された指令である。
 上層部からGMBに、四国の山奥に廃工場を隠れ蓑にして絶賛活動中の親バグア組織『山越サンダー』の調査の任務が与えられた。
 ミスターMはさっそくナイスなコスプレ‥‥いや、素敵な「食堂の皿洗い」の衣装をチョイス。清潔感あふれる服装にサングラスをかけて、3人は意気揚々と潜入捜査に乗り出した。
 その2日後‥‥事態は思いもよらない方向へと転がっていく。
 昼下がりの休憩時間に組織から提供される讃岐うどんをぺろりと平らげ、エージェント・ハンタが設置した盗聴器の音声をそれぞれがチェックしている時のことだった。
「ヘイ、トモ! 俺はここのうどんが気に入った! オフィスに戻ったら、1日5食うどんにするぜ! 異論は受け付けない!」
「オゥ、ハンタ! ハンタ! あの辺で手に入る麺じゃあ、この味は出ないぜ? まずは麺の仕入先から調査しないとなぁ〜、アーハァン?」
 よく喋るハンタとトモの漫才を生暖かい目で見守りつつ、ミスターMは耳を澄ませる。どうやら重要な単語をキャッチしたらしい。
「しっ‥‥狩りの時間だ」
 意味もなく大慌てするふたりは、オーバーアクションで小型イヤホンの位置を直す。聞こえてくるのは上層部の密談で、それはとんでもない内容だった。
「はぁ? でっかいアルマジロ型キメラ?」
「オゥ、ハンタ! 大きな声で復唱するんじゃない! しーっ!」
 トモの注意に詫びを入れると、今度こそ黙って情報を最後まで聞いた。ところが彼らはだんだん疲れた表情になっていく。

 密談の内容はこうだ。
 工場の地下2階で育てたアルマジロ型キメラを丸まらせて山の斜面から転がし、眼下にある人間の街を自由自在に蹂躙しようという‥‥連中にしてみれば、壮大でロマンあふれる計画らしい。
 エージェントたちが配属されている場所は地下1階。すぐ上が廃工場で、ここには大型のロッカーを模した秘密の入口が設置されている。
「ああ? キメラの射出口がある‥‥だって?」
 誰もが「無駄な努力を惜しまないんだなぁ」と呆れた。なんとキメラが外に出るためのルートは、特別に用意してあるらしい。
 もっともこれは破壊活動をするだけでなく、アジトの場所がバレた際にも使うそうだ。地上のドサクサに紛れて、幹部はうまーくどこかへ逃げるつもりなのだろう。
 その後、詳細な打ち合わせが始まった。彼らはこれが筒抜けとは微塵も知らずに‥‥GMBは労せず計画の全容を把握する。この展開は予想外だと、さすがのミスターMも苦笑いした。
「じゃ‥‥さっさと戻ろうか」
「俺が仕掛けた盗聴器ひとつで仕事が済むんだから、こんな楽なこたぁないな‥‥」
「キメラの特徴も聞いたし、この目で確認するまでもないだろう。じゃ、実家のヤギが高熱でダウンしたってことで引き上げよう」
 3人は手早く荷物をまとめ、とても通じるとは思えない言い訳と巧みな話術を駆使して、無事に廃工場を脱した。

 そして今、親バグア組織『山越サンダー』の壊滅工作とアルマジロ型キメラの撃破‥‥このふたつを一挙に解決するため、GMBは準備しているのだ。
「丸まって突進する攻撃は脅威、か。ヘイ、トモ。そこの万能ピッケル、取ってくれ」
「オゥ、ハンタ! ハンタ! キメラは能力者の皆さんにお任せするんだ。俺たちは幹部の逃亡阻止に全力を注ごうぜ、アーハァン?」
 エージェントは再び「食堂の皿洗い」の扮装で乗り込む。再潜入の言い訳は、もちろん「ヤギの病気が奇跡的に治った」である。
 鉛色の弾丸キメラを街中に飛び出させないためにも、きっちり組織を壊滅させなくては‥‥能力者たちと連携した作戦が、今始まる。

●参加者一覧

里見・さやか(ga0153
19歳・♀・ST
リゼット・ランドルフ(ga5171
19歳・♀・FT
クロスエリア(gb0356
26歳・♀・EP
エイミー・H・メイヤー(gb5994
18歳・♀・AA
ラサ・ジェネシス(gc2273
16歳・♀・JG
信貴乃 阿朱(gc3015
19歳・♂・EP
ハーモニー(gc3384
17歳・♀・ER
如月 葵(gc3745
16歳・♀・DF

●リプレイ本文

●愉快な仲間たち
 食堂の皿洗いたちは、多くの能力者を引き連れて四国の地へと舞い戻った。
 インデースに乗る女子高生を演じるのは、里見・さやか(ga0153)。その助手席には、中華風の服に身を包んだリゼット・ランドルフ(ga5171)がいた。
「オゥ、似合ってるね〜」
 トモはみんなの変装をじっくり眺めた。次に彼の視線は、後ろに続くジーザリオへと向けられる。
 ドジっ子メイドシスターズという設定で内部調査を行うのは、エイミー・H・メイヤー(gb5994)とラサ・ジェネシス(gc2273)。そしてハーモニー(gc3384)の3人だ。
 エイミーはメガネを着用し、髪型をおさげに結って変装。ラサもメイド服姿だが、バッグの中にもうひとつのコスプレを用意している。
 さらにキメラを止める役目を担うのは、清掃員に扮する信貴乃 阿朱(gc3015)と、非情な傭兵を演じる如月 葵(gc3745)。もし戦闘になれば、さやかとリゼットもこれに加わる。
「これなら不意に呼び止められても問題ないな!」
 エージェントからのお墨付きが出たところで、ラサがGMBの面々に作戦協力を申し出た。ハンタとトモは幹部の捕獲、ミスターMは地下2階でキメラの射出タイミングを無線機で伝えるよう要請する。GMBは全面的な協力を約束した。
「我輩のジーザリオは、キメラ班の方に預けるヨ」
「それ、リゼットが使えばいいぜ。基地から遠いと面倒だろ。俺と葵は、組織のやつを失敬するからよ」
 阿朱がそう言うと、葵も小さく頷く。この作戦は、キメラを街に向かわせないためでもあるようだ。用意周到な能力者たちの姿を見て、GMBはすっかり安心する。
「では‥‥潜入を開始しよう」
 このミスターMの一言で、今回の作戦は幕を開けた。この瞬間、誰もが自分ではない誰かになるスイッチをそっと入れる。

●潜入開始!
 しばらく暇をもらっていた皿洗いが帰ってきた。しかも雑用希望者たちとともに‥‥パンチパーマの幹部は、喜んでみんなを迎え入れた。
 清掃員に料理人、流行の最先端を行くドジそうなメイドが3人も。ハーモニーは普段着だったが、エイミーが「お友達ですのよ」とおっとりとした口調でさらっと流す。この辺はさすがだ。
「これだけいたら、俺も楽できる。昨日まで食事係だったからな。さ、みんな持ち場についてくれ」
 ろくに素性を調べもせず、あっさり秘密基地に潜入‥‥あまりのあっけなさに、阿朱が呆れた。
「バグアに協力する奴はバカだと思ってたが、これは何を言っても無駄なレベルだな‥‥」
「だから、阿朱さんはちゃんとお掃除するアル〜。私は甘味を作るアルね」
 阿朱だけでなくGMBまでもが、リゼットの演技を見て目を丸くした。『郷に入らば郷に従え』とは、まさにこのこと。味方をも戸惑わせる渾身の演技だ。
「がんばってんな、お前‥‥じゃ、俺もマジメにお仕事するか」
 身の丈以上はある隼風の先端にモップをつけた即席の清掃用具を器用に使い、阿朱はその辺の掃除を始めた。
 女性たちは厨房に入り、料理を作ることになっている。リゼットは中華のスイーツを、ドジっ子たちは洋風のパイを作る。食材や調理器具は、すべてGMBが段取りしてある。ラサは周囲に「ボスが秘密のパーティーをするそうなので秘密でス」とそれらしい理由を口にして、無理やり納得させた。
 廊下を少し歩くと、どこにもコケる要素がないのにラサが転んだ。こうすることで『ドジっ子メイド』の設定を忠実に守っているらしい。それに呼応してエイミーも声を上げる。
「あら、日傘をうっかり持ったまま来ちゃいました。はわ〜」
「いやだわ〜、エイミーお姉様ったらぁ〜! オホホ‥‥」
 エイミーの「適当に言えばいいんだろ」と言わんばかりの萌え用語に、ハーモニーの過剰に大きな演技。この後、くどいほどのドジが繰り広げられた。

 その後の厨房は、実に賑やか。
 リゼットは真剣に杏仁豆腐やタピオカ、メイドはパイ作りに熱中した。パイはパイでも、オーブンで焼く手間のかかるパイではない。白いホイップクリームがこんもりと皿に乗った、コントなどで使うアレだ。お手伝いのエイミーは手早く準備を進め、大量生産に貢献する。ハンタとトモは皿洗いが終わると、パイ作りを手伝った。
 ミスターMはキメラの射出口に到着したことを全員に報告し、敵が飛び出す瞬間を声を潜めて待っている。そんな仲間の手際のよさをアピールしたいのか、トモは自慢げに喋りだした。
「オゥ、ハーモニー! 君は有能なエージェントの名前を知ってるか〜い‥‥」
「You know?」
 トモはくだらないアメリカンジョークを成立させてくれたハーモニーとハイタッチすると、豪快に「HAHAHA!」と笑い出した。不意を突かれたリゼットは、思わず「くすっ」と笑う。
「奇人変人は楽しいから、大好きです」
「オゥ、ハンタ! ハンタ! ハーモニーから褒め言葉だ!」
「たぶん‥‥っていうか、違うと思う! ダメ、ゼッタイに!」
 とんでもなくハイテンションのまま大量のパイを作り、いよいよ作戦を実行する時を向かえた。無線機で連絡をこまめに取り合い、動き出すタイミングを計る。

●怪しい少女たち
 その頃、外ではさやかがインデースの助手席にちまっと座っていた。ミスターMの情報を聞き、射出口であろう場所で待機していた。
 キメラを迎撃する準備も万全。敵が飛び出したら、車で進路を妨害。トランクに隠してある超機械「マジシャンズロッド」を持って、いち早く敵と対峙する。
 そこに一台の車が停まった。ラサのジーザリオではない‥‥さやかに戦慄が走る。それと同時に護身用の小型超機械に手を伸ばした。すると運転席から誰かが降りた。さやかは目線を下げて演技を始める。すると「コンコン」と窓ガラスをノックされた。
「あ、あの! 実は車を運転してるお父さんが‥‥今、用を足しに草むらに行ってるんです!」
「さやかさん‥‥私ですよ。葵です」
 さやかはハッとなってガラス越しの相手を見る。そこには眉ひとつ動かさずに話すダークスーツ姿の葵がいた。ふたりの間にしばし沈黙が走ったが、さやかが「えへへ‥‥」と照れ笑いを浮かべながら、そそくさと車から出る。
「あ。それは組織の車ですか?」
「そうです。危ない傭兵を演じたら、気軽に貸してくれました。これなら大鎌の切っ先を向けて脅すことなかったです」
 葵は組織に雇われた傭兵として動いていた。人の命を刈り取る者を意味する『ハーベスター』というコードネームの傭兵である。自己紹介の際、「ゴチャゴチャうるさいと、あなたの命も刈り取りますよ?」と脅したせいで、手下はみんなビビったらしい。
 その後、彼女は「車で警備する」と言って、キメラの出そうな場所を探索していた。そしてミスターMの連絡を受けて、さやかと同じようにこの場所を割り出したというわけだ。絶賛清掃中の阿朱にも駐車場の場所を教えてあるので、混乱に乗じて車を奪い、バリケード作りを手伝う手はずになっている。
 計画は順調そのもの。あとは地下で騒ぎが起こるのを待つばかりだ。

●白い奇襲作戦
 できたてのパイが満載の台車が、軽快な音を奏でながら地下の廊下を走る。これを動かしているのは、エージェントのふたりだ。その後ろをドジっ子メイドシスターズの面々が追う。
 リゼットはキメラを迎撃するため、すでに地上に向かった。今は阿朱と合流している頃だろう。
 ラサはバッグに潜ませておいた『怪盗・黒いチューリップ』の扮装に着替えを済ませていた。エイミーもいつもの姿に戻っている。ハーモニーはだんだんテンションが上がってきたらしく、終始嬉しそうな表情を浮かべていた。
「ヘイ、ガール! この先がボスの部屋だぜ!」
 ハンタの指差す先に、少し豪華な扉があった。今まさに幹部のひとりが、その部屋に入ろうとしているではないか。彼は豪快に扉を開いて、ボスに警戒を呼びかけた。
「ボ、ボスぅ! お、おかしな連中が向かってる! 早くアルマジロを出すんだ!」
「バレちゃーしょうがない。バグアに組する悪の組織ヨ。今日がユー達の命日ネ」
 黒のタキシードに白い仮面、さらにマントをなびかせる怪盗‥‥これが不審者に見えないわけがない。地震のような振動と爆音が響いたのと同時に、パンチパーマのおっさんが廊下に勢揃いした。
「ちゃーんと3人いるネ。3人寄れば、文殊も知恵熱ヨ」
「そのことわざ、かなり間違ってる気がするけど‥‥まぁいいか。幹部ども、黒いチューリップの専属メイドから逃げられると思うなよ」
 エイミーが凄んだだけで、ひとりの幹部が背を向けて逃げ出す。彼女はすかさず鉄くずを投げて、パンチパーマの後頭部にヒットさせた。
 これを契機に、秘密のパーティーが始まる。ハーモニーが幹部の顔面を狙って、パイを投げ始めた。エージェントはラサが準備したバナナの皮やビー玉をばら撒き、敵の逃走防止をマジメに狙う。
「当たれ当たれ〜、きゃははは! 私、一度パイ投げをやってみたかったんですよね〜♪」
 両手にパイを持って好き勝手するハーモニーの攻撃を防ぎ切れず、幹部たちは全身真っ白になった。そのタイミングで、エイミーがボスを狙う。日傘と偽って持ち込んだこれ、実はれっきとした武器なのだ。そう、これは仕込み傘。生身の人間が相手なら、これで十分。峰打ちを狙って殴ったが、ボスはいきなり気絶した!
「んがあっ! ぐう‥‥」
「なんだ、普通の人間か。ラサ嬢、とどめを頼む」
「まるで白装束‥‥敗北の色ネ! 必殺のチューリップホームランだヨ!」
 専属メイドの呼びかけに応じ、さっそうと前へ出たかと思うと、ラサは続けざまに幹部の股間を蹴り上げた。思わずハンタとトモは「オオゥー」と言いながら、愁いを帯びた表情で天を仰ぐ。男どもが独特の痛みに思いを馳せる間に、エイミーはブックバンドとリボンを取り出し、さっさと連中を捕らえた。
「さ、後はキメラだな」
「幹部の見張りは、GMBの皆さんにお任せします」
 ふたりはハッと我に返ると、「任せとけ!」と親指を立ててみんなを送り出した。そう、この戦いはまだ終わっていない。

●マジメなキメラ攻略
 アルマジロが衝撃とともに丸まって射出された瞬間、無線機からミスターMの声が響いた。現場にいたさやかと葵は、それぞれ運転席でハンドルを握り締める。ただ、敵の出る方向は用意に予想できた。街を背にする形で車を停めておけば、まず間違いはない‥‥その予想通り、キメラは葵の車に突っ込んでくる!
「ヒギューーー?!」
 敵の奇声は驚きに満ちていた。それはまるで「発射してすぐ障害物に当たるわけがない」と言っているかのよう‥‥キメラは自分から急ブレーキをかける。堅い皮膚で地面をえぐりながらスピードを殺して、おなじみの姿になって周囲を見渡した。彼のつぶらな瞳に、車から降りた本気モードのさやかと葵が映る。廃工場からはラサのジーザリオを駆るリゼットと、まんまと組織の車を奪った阿朱が迫ってきた。あのふたりもまたキメラに迫らんと、運転席から飛び出す。危険な弾丸の包囲網は、完成しつつあった。
「あなたを倒します。何か文句がありますか?」
 まだ傭兵の演技が抜けないのか、葵はハーベスターのまま大鎌を構えて覚醒。その名にふさわしい黒い瘴気を放ちながら敵と対峙する。そんな彼女を援護すべく、さやかはマジシャンズロッドでキメラに練成弱化を飛ばした。
 葵は大鎌「紫苑」で、二度の攻撃を繰り出す。これは頑丈な皮膚を無視してダメージを与える武器‥‥アルマジロはまた驚きの声を上げる。
「ギュギュ!」
 しかし相手も尻尾を叩きつけるように使って反撃。ここは手近なところにいた葵が狙われた。彼女はこれを受け止めようとするが、すべてのダメージを逃がすことはできずに思わず膝をつく。それでも葵は気丈に叫んだ。
「大振りになった今がチャンスです!」
「受けは任せろよ。防御力だけは自信があるんだぜ」
 阿朱は葵のところまで駆け寄ると、防御陣形を発動させた。リゼットは機械剣からソニックブームを放ち、衝撃波で皮膚を穿つ。その後はさやかとともに超機械の攻撃を命中させ、少しずつ弱らせた。葵は自らに活性化を施して体力を回復させてから、再び大鎌を振りかざす。長所を殺す攻撃の連続に、キメラは四苦八苦。味方にリズムが出始め、敵の悲鳴も次第に大きくなる。
 アルマジロは逆転に賭けた。瞬時に丸まったかと思うと、一気に阿朱めがけて突っ込んでくる。ここが勝負どころと踏んだ漢・阿朱は弾き落としの効果を発揮して雄々しく吠えた!
「舐めんじゃねぇー!」
 ところが突進の威力を完全に止めることはできず、阿朱は手傷を負わされる。キメラは本能的に苦しむ姿見たさに、元の姿へと戻った。彼は「見下されるのは御免だ」と言わんばかりにすぐ立ち上がり、再び隼風を構えて防御陣形の効果を発揮した。
「まだまだ! 女の子にこんなことさせられねぇ!」
「お任せください、阿朱さん! たあっ!」
 その心意気に応えるべく、リゼットが接近戦を挑む。豪破斬撃を乗せた機械剣の一撃は、キメラの体内を大いに揺らした。その変化を見逃さず、葵は湾曲するアルマジロの背中を一気に駆け上がり、両断剣を発動させる!
「あなたのその命、いただきます」
 葵の狙いは首‥‥音もなく忍び寄る死神の一撃は、見事キメラを絶命させた。敵は断末魔の叫びさえ出せず、ただゆっくりとその身を横たえる。皮肉にも倒れた先に、自分の頭が落ちていた。

●宴は終わってない?
 キメラの討伐と幹部の捕縛‥‥この事実は、親バグア組織『山越サンダー』の手下どもを震え上がらせるには十分すぎた。勝ち目がないことを悟ると、手下はあっけなく降参した。投降した彼らは、この後しかるべき筋に身柄を引き渡されることになるだろう。事件は無事解決した。

 能力者たちを待っていたのは、中華のスイーツパーティーだ。リゼットの杏仁豆腐とタピオカは、ちゃっかりエージェントが厨房の冷蔵庫に保管していたのである。みんなでこれを食べながら、しばし談笑した。
「うう。リゼットさんの変装や仕事ぶりを見てると、私が浮いてるように思えてくる‥‥」
「そんなことありませんよ。さやかさん、すごくかわいいですよ」
 相手の気遣いがありがたい。さやかは杏仁豆腐を食べる手を止めて、静かに敬礼する。その動作こそが、今の衣装にミスマッチなのに‥‥
「大丈夫。私、コスプレしてなかったんですから‥‥」
 ハーモニーが突然、ポツリと申し訳なさそうに胸のうちを語る。今度はふたりがかりで、彼女を慰めることになった。

 GMBは怪盗・黒いチューリップとその専属メイド、さらにハーモニーが持っている救急セットで治療を施された阿朱を相手に、余ったパイを投げ合って遊んでいた。葵は安全なところで、静かにハーモニカを吹いている。四国の山々にいろんな声が木霊した。