●リプレイ本文
●青空の闘技場
メンバーが現地に到着した。この日は雲ひとつない晴天に恵まれ、空気もおいしく感じられる。
こんなにのどかで穏やかな風景を、あの牛型キメラが脅かしているのだ。兼定 一刀(
gb9921)は怒りに燃えている。
「むう、なんと罰当たりなきめらでござろうか」
怒りのサムライに同調するのは、鍛え上げられた小麦色の肌がまぶしい北条・港(
gb3624)だった。
このふたりは、敵を横から攻め立てることになっている。もちろん、素直に正面からぶつかるわけではない。
あのキメラが『白と黒に興奮する』という奇妙な特徴を逆手に取り、囮の人間を使って一気に片付けてしまう作戦だ。
そのため、今回はレミィ・バートン(
gb2575)が白いカラーリングのAU−KV『リンドヴルム』を装着している。
そんな彼女とコンビを組むのが、黒い衣服を身にまとうウルリケ・鹿内(
gc0174)。このふたりも連携して戦うのだ。
「んー、いい空気。こんなのどかなところに、なぜキメラが居座っているのでしょうか?」
それを聞いた港が額に手を当てながら、「ホント、まったく理解できないね」とため息混じりに感想を漏らした。
大いなる宿願を叶えんと命がけで遍路する装束姿の人間から襲うとあっては、さすがに穏やかではいられない。
一刀も話の輪に入り、その中で自らに気合を入れた。そして存分に愛刀を振るい、混乱を正さんと胸に誓う。
実は、もうひとり囮役がいる。いつでもどこでもパンダマンの七市 一信(
gb5015)。敵からすれば、格好の獲物だ。
今は現地の人を巻き込むまいと、せっせと『通行禁止』と書かれたお手製の看板をそこかしこに立てかけている。
ところがこの作業、思ったよりもはかどっていない。七市の姿を見た地元民たちが、気軽に声をかけてくるからだ。
意外なところで人気のパンダマンを見て、鈴木 一成(
gb3878)は戸惑いながらも驚きを口にする。
「‥‥こだわりのパンダさん‥‥なのです、ね‥‥」
みんなの前で挨拶をした時はおどおどした態度を見せた彼だが、ここではさすがに驚きの感情が勝ったらしい。
レミィと同じドラグーンだが、AU−KVの雰囲気が違うと、ここまで印象が変わってしまうとは‥‥
七市が装着するのはリンドヴルムではなく、『バハムート』であるという明確な違いはある。だが違和感は拭えない。
かたや純白で清楚な姿さえ感じさせる神秘的なAU−KV、かたや鋼鉄のサファリパークのようなAU−KV。
これが、いわゆる『個性』というものだろう。そうやって鈴木は自分を納得させた。いや、周囲もそうしたはずだ。
この場に集った多種多様な力、いわば個性を結集し、ひとつの脅威を打ち破るために戦う。全員が気を引き締めた。
●モー突進、大暴れ!
七市が作業から戻ってからまもなく、問題の牛型キメラが現れた。燃え盛る炎のような毛並みが、印象的である。
のそのそと出てきたかと思えば、その辺の草をもそもそと食らうだけ。情報どおり、積極的に襲ってくる気配はない。
「ずいぶんと大きな顔してのさばってるねえ。図々しいね、あのキメラ」
「レミィさん、七市さん。私が隙を作ります。どんどん狙っていってください!」
ここは先手必勝とばかりに、七市とウルリケがダッシュしてキメラの前に立ちふさがった。その後にレミィが続く。
「さあ、お前の力を見せてもらうよん、バハムートちゃん?」
七市が囮を買って出た理由のひとつに、『バハムートの使用感の確認したい』という気持ちも含まれていた。
ただここまで彼とキメラに符合するものが多いので、周囲がこの話を聞いてもピンと来ないかもしれないが‥‥
二種類の白と黒を見ると、牛型キメラは雄々しい咆哮を響かせた。そして全身を震わせ、前足で何度も地面を蹴る。
そして力がたまったあたりで、休耕地の土を巻き上げながら、徐々にスピードを上げて七市めがけて突っ込んだ!
「ぶほぉぉーーーーーーー!」
「ここだ!」
気合一番、パンダマンは強烈な一撃を真正面から受け止めた。少し押された程度で、ダメージは受けていない。
しっかりと頭をつかみ、いい流れを味方に引き寄せた。心地よい駆動音が響く中、それに応えんとキメラに牙をむく。
「テヴァステイター・セット! シュートォォー!!」
レミィは名刺代わりに、真デヴァステイターで敵の足元を銃撃。これが命中し、うまく敵の興奮に水を指す。
それを見たウルリケが、挑発の意味合いを込めた一撃を眉間に見舞う。硬い皮を裂き、十分な効果を生んだ。
この活躍に負けじと、急襲組のふたりが横から攻める。港は限界突破、一刀は迅雷で一気に間合いを詰めた。
そして流れるような動作で攻撃。港は急所突きで豪快に頭を穿ち、一刀は円閃で華麗な一撃でダメージを与えた。
最後は鈴木がニーリングポジションから、アサルトライフルの射撃で援護。これには貫通弾が装填されている。
先ほどまで見せていた気弱さはどこへやら、その構えはどっしりとして堅実なものだ。
照準がブレないようストックを右頬に密着、銃の床尾を右肩のくぼみにあて、発射時は息を止める。狙いは腹部。
他の仲間たちとは一線を画す戦法ではあるが、その洗練された動きは折り紙付き。もちろん攻撃は命中している。
手荒い歓迎を受けた牛型キメラだが、その体が幾度となく傷ついても、鼻息は荒くなるばかり。まだ戦えるらしい。
本格的に暴れると厄介‥‥港は空中回し蹴りを叩き込むが、暴れるせいもあってか、狙ったところに当てられない。
レミィはウルリケとともに敵意を煽っているため、細心の注意を払いながら射撃を継続。ダメージを重ねていく。
ここで七市が竜の鱗を発動させて防御力を高めた後、強引に角を引っつかんで動きを封じようと試みた。
うまくいけば視線は釘付けにでき、みんなも安心して討伐に専念できる。そんな七市の心憎い思惑があった。
攻めっ気を煽られたキメラは、まんまとパンダの術中にハマってしまう。こうなると、もう角では攻撃できない。
しかし、この牛の興奮は底なし。突進がダメならと、角を軸にして巨体を振って、予想外の体当たりをしでかした!
「ぶほ! ぶほほ! ぶっほっほーーーーーーー!」
さすがにこれは予想外。このとばっちりを受けたのは、一刀とウルリケだった。
一刀は疾風を駆使して避けようとしたが間に合わず、ウルリケもこれを食らう。ともに手傷を負わされた。
「だ、大丈夫?!」
「大丈夫です! 闘牛士役、最後までこなしてみせます! 来なさいっ! 貴方は黒色がお好きなのでしょう?」
パートナーのレミィからの心配を、ウルリケは気丈な姿を見せることで返した。そう、まだ勝負は決していない。
●反撃はモー結構
思わぬ奇襲を受けた一刀は再び構え、お返しの一撃を食らわせようとするが、この攻撃は空を切ってしまった。
同じ立場のウルリケは衣服を揺らめかせながら、豪破斬撃で攻撃を高めるが、一刀と同じ結果となってしまう。
白と黒がちらつくと、またキメラが騒ぎ出した。すると、とんでもなくハイテンションな声が休耕地に響き渡る。
「ヒィーハァー! ひゃははは!」
さすがの牛も、これにはちょっと驚いた。声の主はあの鈴木である。ここが勝負どころと踏んで、覚醒したようだ。
「急にどうしたでござるか! 鈴木殿!」
「ヤッハーーー! 今年は寅年なんで、牛はお役御免なんですよぉぉぉおお!」
確かにおっしゃるとおりではあるのだが、なんとなく同意できない微妙な空気が流れる。それでも鈴木はお構いなし。
先ほどと同じく腹部にめがけて射撃。しかし今回は紅蓮衝撃を使用し、その身に炎のようなオーラをまとっている。
強力な一撃が命中し、さすがのキメラも苦悶の表情を見せた。説得力はなかったが、確かにここが勝負どころ。
「さ、ここは俺が押さえつけとくから、きっちりやっちゃってねえ」
「確かに鈴木殿の言うとおり! 牛の出番は終わりでござる! 早々に失せるがいい!」
七市がフィニッシュを促すと、一刀がそれに呼応する。これでまた雰囲気が変わった。正真正銘のいい流れ。
これを受けて、港は強烈な前蹴りを繰り出し、側面からあごを砕く。これはたまらんと、牛は悲鳴を上げた。
ここでウルリケが覚醒し、赤く染まった猫の目を輝かせながら、さっきよりも冷静な口調でキメラに言い放つ。
「どのような理由かはわかりませんが、貴方がここにいるのは迷惑です‥‥沈んでいただきましょうか」
ウルリケは豪破斬撃を使い、巧みな武器さばきで眉間を狙い打つ。これを命中させ、さらなる苦悶を引き出した。
牛は苦しみながらも、七市の束縛から逃げ出そうと、無駄な力比べを演じる。
その隙にレミィが一気に間合いを詰め、武器をペルシュロンにチェンジ。
牛の猛烈アタックが徒労に終わったのを確認すると、とどめの一撃をお見舞いとばかりに叫ぶ!
「この距離なら! ペルシュロン!キィーーック!!」
竜の爪を発動させているので、その脚はスパークに包まれている‥‥その力強い一撃は牛の巨体を打ち抜いた!
さらに竜の咆哮も併用しており、敵は七市の手を離れて後ろへ吹き飛ばされる。そしてキメラの動きが止まった。
さっきまでの雄々しさはどこにも感じられず、ただ赤いだけの獣がそこに横たわるばかり。誰もが勝利を確信した。
周囲をさわやかな風が駆け抜ける。あの威圧的な叫びは、もう聞こえない。
今ここにあるのは、平和が奏でる確かな旋律だけだ。
●穏やかな風景
激しい戦いが終わり、それぞれがまた動き出した。
元のテンションに戻った鈴木は、近隣住民からくわを借りた。いくら休耕地とはいえ、荒らしたままでは帰れない。
彼はわずかな時間ではあるが、田起こしを行った。その姿を見た人々は、続々と手にくわを持って集まってくる。
結局、みんなでしっかりと農作業をいそしんだ。もちろん彼がみんなに対して恐縮したことは、言うまでもないだろう。
港は倒したキメラをしゃがんでじーっと見つめていた。そんな彼女を、レミィが不思議そうにじーっと見ている。
「さっきから、そのキメラに興味津々だよね? どうかしたの?」
「キメラってさ、聞いた話では食べられるらしいじゃない。牛だから‥‥食べられるかなーって」
意外な返答だった。レミィは改めて、牛型キメラを食材として見る。確かに引き締まった肉に見えなくもない。
ちゃんと加工して、ちゃんと調理すれば、食べられる気がしないでもない。彼女は小さく頷いたが、疑問を吐露した。
「でもさ。これって鶏むね肉みたいなんじゃないの? 脂が乗ってる感じ、まったくしないんだけど‥‥」
「もしかして、きみの考えた調理方法って‥‥ステーキ? 贅沢な考え方だねー!」
牛といえば、やっぱりステーキ。港は食べる前提で観察したレミィを冷やかし、慌てる様を見て屈託なく笑った。
七市は、せっせと設置した看板を片付けていた。しかしまたしても人気者になってしまい、作業が進まなくなる。
今度は攻めてくる敵はいない。別にのんびりしても構わない。彼は存分に、住民やお遍路さんに笑顔をもたらした。
お遍路さんの通り道を確保したことで、ちらほら装束に身を包んだ人々が通りかかる。一刀は、彼らに声をかけた。
「うむ、道中気をつけて。達者でいかれよ」
煙管刀を加えて風流に見送るサムライに一礼して、お遍路さんは参拝の旅に向かう。彼は笑顔で背中を見守った。
手にするものは違えども、願うものは同じ。ウルリケはそう信じ、次の戦いに向けての手ごたえを感じていた。