●リプレイ本文
●それぞれの思惑
広大な敷地のカンパネラ学園で、小型のキメラを闇雲に探すのは愚の骨頂。そこでメンバーはふたつの捕獲班を作った。
それとは別に、個別行動を希望した者がいる。キメラを安全に捕獲する罠を設置して回る海原環(
gc3865)、独自の方法で探索を試みる姫川桜乃(
gc1374)。
どちらも何か企んでいるようだったが、その本心は透けて見えない。いや、参加者の大半が『そんなものを見てる余裕がない』だけなのだが‥‥
環はひとりになったところで、この日のために用意したお手製の罠を広げた。
まずはマンガ的な罠のご紹介をしよう。檻となるザルを棒で立て、その中に作り物の九官鳥を設置。この棒の端っこには紐が括ってあり、絶妙のタイミングを引くと捕獲完了である。
別にキメラ以外が掛かっても構わない。その時のお楽しみも準備してある。みんなの慌てる様子は近くに設置されたマイクで丁寧に拾い、リアルタイムで全員の無線に流す予定だ。
他にも、秘密の暴露を恐れる人間を束縛する罠も用意してある。環の目的は「九官鳥型キメラが、たくさんのお喋りをしてくれること」を望んでいるのだ。
「どんなお話が聞けるか、楽しみですね♪」
彼女の表情や声は明るいが、準備した道具は少し腹黒い。九官鳥友の会所属の環に、隙はなかった。
一方の桜乃は、環よりもストレートな方法でキメラの捕獲に挑む。ノースリーブのセーラー服がまぶしい。
装備も充実。まごのてにエアーソフト剣、指さし君1号。さらに首から呼笛を下げ、誰を威嚇したいのかわからない巨大注射器を持って歩く。
「鳥を探しつつ、他の班の邪魔‥‥じゃなかった。支援をしないと」
単独行動のふたりが、自分のカラーを存分に発揮している。しかし、思惑通りに行くかどうかは別問題だ。
捕獲班も動き出した。
悠夜(
gc2930)と春夏秋冬 立花(
gc3009)、功刀 元(
gc2818)で一班。さらにファリア・レンデル(
gc3549)と夏子(
gc3500)、御剣 薙(
gc2904)でもう一班を結成。
この時すでに二手に分かれていたが、定期的にトランシーバーで現在地を確認。それを立花が地図に書き込み、キメラの現在地を探る資料を製作していた。
彼女の背中越しから地図を見ながら、元が「ツイッター、どこにいるんでしょうかー」と口にする。実はこの作戦中、みんなが元と同じようにキメラのことを『ツイッター』と呼んでいた。
「ハイハーイ。秘密をバラされたくないのはよーくわかるが、目的はあくまでも捕獲だからな」
「わ、わかってますよー」
「じゃあ、虫取り網を本気で構えたまま、真剣に地図をにらむのやめてください!」
この時点で、元の挙動はすでに怪しかった。気さくなトークの最中でも、目だけは真剣。きっと近い将来、なんかやらかすつもりだ‥‥立花は警戒を高める。
●あなたの罠は誰のもの?
もうひとつの捕獲班は、ファリアを先頭に進んでいた。その後ろを鳥の着ぐるみ装備の夏子が、両手の翼をはためかせながら陽気に歩く。
その最後尾には、男子用制服を着用した薙がいた。たまに彼女は、仲間まで監視するかのような仕草を見せる。どうやら捕獲班の最後尾には、落ち着きのない人が行くらしい。
「わたくしに秘密などありませんが、学園の風紀を乱す者を見逃すわけには参りません!」
「そうでゲス。今回は『学園の精神面での平和を守れ!』でゲスなぁ♪」
調子よく語る夏子が、ふと薙に視線を向けた。やっぱりソワソワしている‥‥怪しい。彼は捕獲時に始末されないように動くつもりでいた。
一方、ファリアの目的は実にシンプル。元と夏子に対して仕返しをする。それだけのために、前向き思考のお嬢様はがんばっていた。
「ボク、キメラを捕まえる罠があるって聞いたんだけど‥‥」
「タマさんが仕掛けるとか言ってたでゲスな。まぁ、味方の罠にホイホイと引っ掛かる夏子じゃないゲスがねぇ♪」
「はっ!夏子、あの物陰に九官鳥の姿が!」
薙に先を越されては困ると、夏子はファリアの指差すところへダッシュ。そのまま陽気な着ぐるみは、一気に九官鳥を捕獲した。
あっけない幕切れ‥‥と思いきや、これはついさっき設置したばかりの環の作った偽物。これに触れた瞬間、夏子の右足首にロープが絡まり、近くの木に逆さ吊りになってしまう!
「獲ったでゲ‥‥って、うひゃあーでゲス! ぷらーんでゲスよっ!」
「お助けしますわ! はあっ!」
復讐の対象が哀れな姿になっているのに、ファリアが何もしないわけがない。すぐさま剣で束縛を解くが、おかげで夏子はそのまま頭から落ちた。彼は一瞬にしていくつもの恐怖を味わった。
「あいたたでゲス。ひどい目にあったでゲス」
「こんなことで挫けてはいけませんわ、夏子っ! あら、あんなところにザルの忘れ物がありますわ。家庭科室から飛んできたのかしら?」
棒で半開きになったザルの中に、例の九官鳥が顔を覗かせていた。これを逃さぬ手はないと、何気なく手を突っ込むファリア。環は仲間が罠にかかったと知りつつも、ついついロープを引く。襲い掛かるザルの恐怖に、ファリアは思わず驚きの声を上げた。
「きゃっ! な、なんですの、これは?」
「それは鳥を捕まえる罠でゲスよ。ファリアさん、知らないでゲスか?」
思わず強い口調で「し、知ってますわっ!」と答えてしまうファリア。その後もこんな調子で、次々と環の罠に引っ掛かる。ふたりの悲鳴はマイクを通して、他のメンバーに飛んでいるとも知らずに‥‥
悠夜たちは、その通信を聞いて不安を覚えた。スピーカーから漏れ出る悲鳴は切れ目なく続く。
そんな中、立花が単独で動く桜乃に連絡を入れた。すぐに返事をすることから、連中と一緒ではないらしい。
『こっちも罠を仕掛けたところなのに、他の罠にかかるわけないでしょ!』
「それならいいんですけど‥‥環さん、もう楽しんじゃってるみたいで」
『ついに立花ちゃんと一緒に依頼をする日がきたかと思うと‥‥クッ』
「その最後の『クッ』は何なの! なんでそんなに辛そうなの!」
立花と桜乃、このふたりにも因縁があるのだろうか。相手は鋭いツッコミを聞かずに、通信を切った。
その頃、元はあることが気になっていた。それは別班の悲鳴に、薙の声がなかったことである。
「もしかして‥‥薙さんはすでにツイッターを‥‥?」
元は焦った。どんな言葉を続けても最悪な結果になっちゃう、この不思議。こうなると、もう落ち着いていられない。
そんな彼の目の前に、異様な光景が飛び込んできた。地面に刺さった指さし君1号に、白い布がのどかに揺れている‥‥人差し指に白い物体が刺さっており、怪しさ満点。元は息を呑んだ。
「まさか薙さん、捕獲の途中でツイッターに襲われて‥‥!」
悠夜と立花が目を凝らして確認しようとするが、いっぱいいっぱいの元は迷わず突進。キメラが暴いた秘密がほしい‥‥彼はその一心で駆けていく。この時、元は狼だった。
その直後、彼は捕らわれの草食動物となる。なんとこれは環ではなく、桜乃が仕掛けた罠だった。元が指さし君1号を手に取った瞬間、体をロープでぐるぐる巻きにされてしまう!
「なっ! こ、これは罠だったのですかー」
「やった! 元ちゃんが獲れたー!」
「なぜ掛かった! そして、なぜ掛けた!」
立花の冴え渡るツッコミを聞きながら、悠夜は問題の布を確認する。なんと、これはパンティーだ。しかしなんでこんなものを‥‥意外にもその答えは、頭上から降ってきた。
「スースーするけど、スカートはいてるし、めくれなければどうってことないわ」
「ん、この声は桜乃‥‥って、なんで上から声すんだ?」
悠夜が声のする方向に視線を上げると、校舎の屋根に例のキメラ『ツイッター』がいた。しかしこの緊張感、少女たちには伝わらない。
「なぜ乙女が安易に脱ぐ! そんなんで鳥が捕まえられるか!」
「だから、マシュマロも刺しておいたのよ! 食べるかなーと思って」
「おい、もうキメラいるんだからよ。さっさとやっちまおうぜ。功刀、いけるよな?」
元はツイッターを発見してホッとしつつ、必死になってロープから脱出した。4人はキメラに視線を向ける。
●生け捕り作戦!
立花からファリアへ連絡が飛んだ。無線を介してそれを聞いた環が何食わぬ顔で合流し、残りの4人もツイッターの元へ急行する。
まずは悠夜が小銃「ブラッディローズ」を抜き、キメラに向かって威嚇射撃。命中はしないが、敵は危険を察知したらしく、ゆっくり地面へ下りてくる。
このチャンスを見逃さず、元が虫取り網での捕獲を狙う。猛然とツイッターに向かうその姿は、誰が見ても必死すぎた。
「ツイッター、覚悟!」
「ちくしょー。薙さん、かわいいよなぁー。明日こそは‥‥明日こそは‥‥」
ツイッターは元の声を奏で、隠しておきたかった秘密を容赦なく暴露した。その場に居合わせた全員が「うお!」と声を上げる。無駄に盛り上がってきた。
ここまでひどい仕打ちを受けながらも、まだ元は自分を見失っていない。彼にとっての最悪は、この事実を本人に聞かれることだ。彼は固まりつつある体を無理に動かし、そーっと周囲に目をやった。悠夜、立花、桜乃、ファリア、薙‥‥少年は絶望した。連絡を受けた時には、かなり近くにいたらしい。
「やりましたわ! わたくし、元の秘密を聞きましたわ!」
ツイッターの暴露を聞いて大喜びしているのは、悠夜にファリア、そして環。他の者はポカーンとするばかりで、当事者はぐうの音も出ない。
薙は落ち着きを取り戻すため、脚爪「オセ」でキメラを黙らせようとする。しかし敵との距離がかなり開いていたため、ツイッターの口が早さで勝った。
「はぁ。どうしちゃったんだろ、ボク‥‥最近、あの人のことが頭から離れない」
「あ、あ、だ、ダメ! それ、絶対にダメ!」
九官鳥が真似た口調は、誰がどう聞いても薙だ。固まっていた元はますます硬直し、観衆は耳を澄ませる。
「気がつくと姿を探してたこともあったし‥‥もしかしてボク、功刀君のことが‥‥好き‥‥なのかな‥‥」
薙はビクッと身を硬直させた。そして周囲の祝福で我に返ると、顔を真っ赤にして「‥‥あ、あぅぅぅ」と、その場にうずくまる。
「初めて出会った時に一目惚れしましたー。猫が好きな所もボーイッシュな所も全てが大好きですー! もし良かったら付き合って下さいー!」
「なーんだ、ふたりともソワソワしてると思ったら、両思いだったんでゲスね! 何はともあれ、よかったでゲスよ♪」
直後、どさまぎで、告ってる元に、ちゃんとフォローする鳥の夏子。その姿を見て、立花が「今さらだけど、なんで鳥なの!」とツッコんだ。
ツイッターは口先だけで、能力者ふたりの攻撃を阻んだ。ペースをつかまれると厄介‥‥ここでメンバーは攻勢に出る。
ファリアが迅雷で一気に敵の目前まで距離を詰めると、バスタードソードで二連撃を繰り出した。これを翼に命中させ、上空への逃亡を阻止する。それに続き、桜乃は花壇から高くジャンプ。キメラの頭に容赦なくエアーソフト剣を振り下ろす!
「あっ! さすがに手加減しすぎた武器のせいで弾かれた?!」
「そんなおもちゃで、キメラが倒せるか!」
ツッコミが来ることを予想していたのか、桜乃は空の缶コーヒーを立花に投げつける。この攻撃は見事に命中し、相手に精神的なダメージを与えた。
「痛っ! 何するのよ! もういいわ! この網で捕まえましょう!」
「誰かが始末しても困りますからねー。私も手伝いますよ」
立花と環が協力して捕獲し、さっさと檻に閉じ込めた。しかし無事に捕らえられた以上、秘密の暴露はまだ続く。
●能力者の日常?
ツイッターは無事に捕獲されたが、ファリアは意気盛ん。ゲージの中に手を突っ込み、キメラを鷲づかみにして叫んだ。
「さあ、次は夏子さんの秘密をお言いなさい!」
夏子は完全に油断していた。
「な! ファリアさん、なんてことを聞くでゲスか!」
その直後、ツイッターはスーパーの雑音を細かく描写し始める。これが夏子の秘密‥‥この出だしに誰もが首を捻ったが、夏子は苦笑いを浮かべた。そして彼のセリフが再現される。
「よっし! ナイトバーゲンの豚バラゲット! 覚醒した甲斐があった!」
たかが買い物で覚醒‥‥さすがの立花も、これには驚いた。しかし、この話には続きがある。
「あー! 誰だ、バハムートに乗ってる奴! あっちの惣菜を狙ってるな! ならばこっちも‥‥! リンドヴルム、夏子、参戦する!」
その後、店内放送で『店内での覚醒やAU−KVの使用をご遠慮ください』と注意されたところで、リピートが終わった。
「主婦か! しかも覚醒したり、AU−KV装着したりって必死か?!」
「こうでもしないと、何も買えんのでゲスよ‥‥」
あまり能力者らしくない微笑ましいエピソードに環が笑うと、なんとツイッターが彼女の声で喋り始めた。
「罠はこれでよしっと‥‥そうだ。キメラ以外の野鳥が取れたら、晩のオカズにしよう。焼き鳥にして、日本酒をきゅーっと♪」
それを聞いた仲間が、彼女の腰にぶら下がっているブラッディローズに目をやった。誰もが「なるほど」という視線で環を見る。
「ちっ、違います違います! 決してキメラを食べようとしたわけではっ」
「まったく。清く正しく生きれば、私みたいに秘密なんてできませんのに‥‥」
立花がそう言って話をまとめようとした瞬間、ツイッターが衝撃の事実を語った。
「失礼ですが、お客様にはまだブラジャーは必要ないかと‥‥」
このセリフは、この場にいる誰の声でもない。しかし該当者は素直に反応した。悲鳴にも似た声を上げると、ツイッターにビンタして暴露を止める。
「立花ちゃん‥‥お店でそんなこと言われたの?」
「ほら、これで黙りましたよ‥‥って、かわいそうな人を見る目をしないでください」
桜乃の思わぬ反撃にも動じず、立花は何事もなかったかのように振る舞う。暴力を振るわれたツイッターは、しばらくの間は自分から喋るのをやめた。とりあえず、これで一段落‥‥騒動を楽しんだ悠夜はどこか満足げな表情で、夏子に話しかける。
「アァ〜、ダリィー。でもまぁ、これで安心して屋上で煙草が吸えるぜ。夏子も一服どうだ?」
「未成年は煙草を吸うな!」
立花はこのツッコミでなんとか息を吹き返した。秘密を暴かれるとは、実に恐ろしいことである。
その頃、元と薙はお互いの気持ちを伝え合っていた。こうなってしまっては、そうするより他にない。
「案内ツアーの後から、ずっと気になってて‥‥。薙さん、好きです。だからボクと‥‥付き合ってください」
薙からいい返事があるのはわかっているが、ここで重要なのは「自分の言葉で伝えること」だ。ふたりはちゃんと目を見て話す。
意外性にあふれた奇妙なキメラが、いろんな意味で能力者たちを結びつけた。