タイトル:【AA】北阿陽動偵察Bマスター:村井朋靖

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/05/06 21:49

●オープニング本文


「アフリカ、‥‥か」
 ピエトロ・バリウス中将は地図を見ながら独言した。かの地を攻めると言うのは容易い。しかし、その為には幾つかの準備が必要だった。部隊は整いつつある。あと必要な物といえば。
「情報か」
 UPCが叩き出されてから、10年。長きにわたり、バグアに支配されてきたアフリカの情報は余りにも少ない。ゲリラがいるとも言われるが、連絡は取ることが困難だった。
「私の知るかつてのアフリカとは、もう違う土地やもしれん。立案に際して不安が無い、とは言わないがな」
 狙いが奇襲である以上、軽々しい調査でこちらの狙いを知られる事も、慎まねばならない。ピエトロは作戦直前になって初めて、現地の強行偵察を指示した。その結果如何で、北アフリカの一部を占拠するのみに止めるか、内陸まで踏み込むかを彼は決めるつもりだった。
「その為には、足元を固める事も必要だな。無論」
 PN作戦が集結して2年が経つが、いまだに地中海沿岸部では、キメラは珍しい物ではない。時には、ワームすら現れる事がある。点在するバグアの残存戦力は、一部は拠点を擁して立て篭もり、それ以外の多くは巧妙に潜伏していた。それらを可能な限り排除する事が必要なのは言うまでも無い。
「そして、ミカエル」
 トゥーロン沖に座す、彼の切り札はバグアの目にも留まっているだろう。敵の情報は速やかに収集し、こちらの情報は保持する。都合の良い、と笑われそうな事が今回の作戦には必要だった。
「‥‥傭兵には恨まれるだろうな。だが、連中ならばできるはずだ」
 クク、と彼は珍しく笑う。その困難のいずれにも、ラストホープの傭兵達が当てられていたのは、彼の指示による物だった。


「これより作戦を説明する」
 欧州軍の少佐の言葉とともに、室内正面のモニターに光が灯った。
 地中海の広い海図には多数の情報が表示され、今回の大規模作戦が如何に大きいかを物語っている。
「君達の任務は、アフリカ大陸北岸の偵察とそれに伴う陽動である」
 朗々と響く言葉に合わせ、画面が移り変わる。拡大された海図には現在位置が表示された。
 KVの配備数自体は少ないが、この近辺の部隊から様々な形で援護が行われているのが見て取れる。
「偵察班に所属する傭兵の管制は、ビルクス・バーグ中尉に行ってもらう。以後は彼の指揮に従え」
 前に進み出たのは、軍服を脱いだら気のいい兄ちゃんのような風貌の男性であった。
 この緊迫した空気が支配する場所においても、ビルクスはまったく飾った喋り方をしない。彼は軽く手を振った。
「よっ。欧州軍の中尉、ビルクスだ。俺は堅苦しいのは苦手だから、みんなもリラックスして聞いてくれ。
 さてと、今回の任務だが‥‥北アフリカへの偵察を成功させるべく、敵戦力をおびき出すことにある」
 中尉の言葉と同時に、画面の地図がさらに詳細なものに切り替わる。
「うちは陽動のB班と呼ばれているが‥‥ちなみにもうひとつはA班で、任務は同じだ。
 この映像はサルディニア島を中心にした地図だが、ここにいるバグア軍をできるだけ多く西側に誘導するのが目的だ。
 別に編成された偵察班がサルディニア島の上空を通過する際、バグア軍に襲われると厄介なんで、俺たちがいるってわけ。
 つまり、俺らの戦場はサルディニア島。陽動作戦だから大暴れってことになるけど‥‥ここまでは大丈夫かい?」
 実に軍人らしからぬフランクな語り口だが、しっかりと傭兵たちの反応を見ながら、中尉は丁寧に任務を伝えていく。
「UPC軍は陽動だけをフォローするわけじゃないから、作戦中は威嚇くらいしかできない。
 主役は、ここにお集まりの傭兵さんってこと。行きはともかく、お帰りの際はちゃんとUPC軍がエスコートするぜ」
 ビルクスは時におどけて話し、傭兵たちに妙な勘繰りをされないような雰囲気作りに努める。
 そのせいかだんだんと身振りや手振りを交えた説明が増え、大道芸人も顔負けの運動量になっていた。額の汗がまぶしい。
「まぁ、あれだ。サルディニア島西側劇場の客席を、キメラやHWたちでいっぱいにしてくれりゃ、それでいいってこと。
 客ってのは芝居小屋に入ったら、よっぽどのことがない限りは帰らないもんだ。それと一緒。ナイス客寄せを頼むぜ」
 ビルクスはそこまで話すと、目の前に置かれたコップに手を伸ばす。そして一気に水を飲み干し、説明で疲れた喉を潤した。
「ぷはぁー、水がうまいわ。説明は以上だ。あとはみんなに任せるぜ。
 偉くもない軍人‥‥いや、無名の舞台監督にあごで使われんのは、いい気分しねぇだろうしな。へへ」
 ビルクスはニヒルに笑いながら「やれやれ」といった調子で両手を上げた。
 だが、すぐにその表情が険しくなる。眉間にしわを寄せながら、さっきよりもハッキリとした声で言葉を紡いだ。
「今回の任務は味方がいるが、もし撃墜されても回収できるかわからねぇ。ま、見つかるまで探させるけどよ。
 作戦の性質上、危険度が高いのは仕方のないことだと割り切っといてくれ。あとに繋がる作戦でもあるんでな‥‥」
 中尉は自分なりの激励を傭兵たちに伝え、戦場という舞台に立つ役者にすべてを委ねた。この戦い、決して喜劇ではない。

●参加者一覧

明星 那由他(ga4081
11歳・♂・ER
アンジェラ・D.S.(gb3967
39歳・♀・JG
橘川 海(gb4179
18歳・♀・HD
ゼンラー(gb8572
27歳・♂・ER
奏歌 アルブレヒト(gb9003
17歳・♀・ER
D・D(gc0959
24歳・♀・JG
エヴリン・フィル(gc1479
17歳・♀・ER
秋月 愁矢(gc1971
20歳・♂・GD

●リプレイ本文

●陽動のススメ
 陽動作戦を実行するB班は、同任務の別働隊であるA班とは別ルートでサルディニア島西部の基地へ向かう。
 出発前、奏歌 アルブレヒト(gb9003)が任務に関わるすべての人に対して祈りを捧げた。
 乙女の祈りを頂戴したゼンラー(gb8572)は「拙僧にもご加護がほしいねぃ」と言い、周囲の笑いを誘う。
 メンバーは和やかな雰囲気と一緒にKVに乗り込んだ。作戦行動をする前に、明星 那由他(ga4081)が念を押す。
「皆さん‥‥目的は陽動ということを忘れずに‥‥」
 若き能力者の助言に、秋月 愁矢(gc1971)とアンジェラ・D.S.(gb3967)「了解」と通信を介して返事をした。
「無茶はしない。俺は、仲間を護る。必ずだ」
「その意気よ。コールサイン『デイム・エンジェル』、大天使の名において、陽動により敵戦力をかく乱し、粘り強く持久戦を行うわ」
 青き空に放たれたKVは通信を介して連絡を密に取り合い、敵基地を望む場所を目指して飛んでいく。

 しばらくして、B班はサルディニア島北西に位置する敵基地に到着した。
 高空で巡回をしていた小型HWがKVを発見し、徐々に高度を下げて正面に立とうとする。どうやら行く手を阻むつもりらしい。その数は5体。
 D・D(gc0959)はすぐさまファルコンスナイプを起動させ、進路を塞ぐHWの陣形を崩すべく、スナイパーライフルで1体を集中的に狙い撃つ。
「お出迎えか‥‥構わない。ゴーストで道を開く‥‥」
 彼女の攻撃はことごとく命中、それが戦闘開始の号砲となった。手負いとなったHWは全員から標的とされ、容赦ない攻撃を受ける運命をたどる。
 すかさずロングボウに搭乗の橘川 海(gb4179)が、D・D機と同じ目標にスナイパーライフルで攻撃を仕掛けた。
「ダリアさんっ! 続きます!」
 海の攻撃でまず確実に一機を落とし、いい流れを引き寄せようとした。その後はゼンラーが、スラスターライフルで他の敵を仕留めていく。
「陽動ということだが‥‥まだなんとも勝手がわからんねぃー」
「今は迎撃で‥‥構わないと思います。これを撃墜したら、次は爆撃に移行しましょう‥‥」
 那由他の説明を聞いてゼンラーは胸を撫で下ろす。その最中、エヴリン・フィル(gc1479)がラスターマシンガンを発射し、残った敵を葬った。
「ディスタン‥‥私の翼にして鎧‥‥頼りにしています‥‥」
 それぞれが初回の攻撃を行い、小型HWの一団を撃墜。続いて、基地の爆撃作戦に移行することになった。

●爆撃開始!
 上空を警戒していたHWの反応がなくなったからか、敵基地の動きが活発になってきた。
 対空砲による迎撃も本格的になり、大型キメラ群もわらわらと姿を現した。そしてHWの続々と上昇してくる‥‥
 爆撃のチャンスをフイにしないよう、エヴリンが低空でマシンガンを打ち鳴らすと、続いて愁矢も重機関砲で攻撃を仕掛ける。
「お前らなんかの好きにやらせるかっ‥‥落ちろっ!」
 一度の攻撃で敵を撃墜したとしても、別の敵がさまざまな角度から反撃してくる。ふたりは通信を絶やさないようにして、メリハリのある行動を心がけた。
 高空からの援護で爆撃ルートが開けたと判断し、爆撃部隊がすかさず行動に移った。
 戦闘態勢の整えている隙を狙って、ゼンラーがブーストを使用。すばやく基地に接近し、スラスターライフルの射撃で対空砲の破壊を狙う。
 それに続いて、アンジェラ機も急降下。貴婦天使は対空砲と大型キメラ群が重なる場所に、Gプラズマ弾を投下する!
「Gプラズマ弾を投下! 急上昇し、離脱!」
「たまや〜ってとこかねぃ」
 目標の場所に着弾すると、瞬間的な放電が発生し、敵の攻撃の手が止まった。メンバーはそれを見逃さず、上空から追撃を行う。
 奏歌がシュワルベに搭載されたショルダー・レーザーキャノンを交互に撃って休みなく攻め立て、地上にさらなる混乱を引き起こす。
 さらに海は新型複合式ミサイル誘導システムを発動させ、ロケット弾ランチャーで弱った敵にトドメを刺していった。
「対空砲、ならびに大型キメラ群の一角を崩しましたっ!」
「了解。私は那由他とともに、高層建築物を狙う」
 D・Dは再びファルコンスナイプを駆使して、ロケット弾ランチャーで高層建築物の破壊を試みる。ダメージを受けるたび、基地の動きが賑やかになった。
 陽動のための爆撃とは思えないほどの手際のよさに、敵は完全に浮き足立った。高空に到達して反撃を行うには、まだ準備が足らないように見える。
 那由他機はD・D搭乗のスピリットゴーストに接近するHWに対してツングースカで攻撃を仕掛け、さらにロックオンキャンセラーによる牽制も行った。
 基地のあちこちから火の手が上がり、ゆっくりと黒煙が立ち込める。ここまでは出来過ぎの感もあるが、ここからが本番だ。

●陽動作戦
 作戦開始から15分が経過し、バグア基地の兵力が大きく動き始める。
 それまではKVが低空の爆撃を何度か行い、基地に十分なダメージを与えていたが、この時を境に援護に回っていたエヴリンと愁矢がてんてこ舞いになった。
 これはHWや大型キメラ群の高空への浮上と展開を意味すると同時に、陽動作戦が順調に遂行されていることの裏付けでもある。
 各機は通信で示し合わせ、高空に展開。UPC軍が待っている退却可能ポイントまで、ゆっくりと下がりながら戦闘を継続することになった。
 爆撃で先陣を切ったアンジェラは、ゼンラーとともに最後尾に位置し、最前線で牙を剥く大型キメラ群を相手に迎撃を開始した。
「ショルダー・レーザーキャノン、発射!」
「おおっと、それじゃ拙僧も負けずにお仕事しようかねぃ」
 ゼンラーは追っ手を振り切るかのようにスラスターライフルを撃ち、先頭の敵を崩すことで後ろの部隊の進軍を煽る。
 キメラの後ろに控えていたHWからの攻撃も激しさを増すが、海はスナイパーライフルや螺旋弾頭ミサイルでパートナーの奏歌をアシスト。
 奏歌もシュワルベに向けられた攻撃をバレルロールで回避したところを、エヴリンのエニセイや愁矢のホーミングミサイルで狙い撃ちにしていく。
「こんな所で‥‥死ねるかぁああっ!」
 能力者同士の連携は抜群だった。常に通信を行い、短いスパンで先々の戦闘行動を決めていく。
 これは大きな隙を見せない戦術であったが、いかんせん多勢に無勢。タイミングが悪いと、敵の攻撃を受けてしまう。
 特に迎撃行動を取った後のエヴリンと愁矢が、後続のHWに狙い撃ちされてしまうパターンが目立った。
 それでもエヴリンはイクシード・コーティングで防御を固め、愁矢もブーストを使って回避行動を試み、ダメージを最小限に抑える努力をする。
「臆したら負け‥‥もう逃げないと決めたんです!」
「あの機動‥‥やれるか? いや、やってやる!」
 多少の損傷は覚悟の上。ダメージを受けながらも挫けない心から生まれる気力と粘りで、ふたりはすぐに攻撃態勢を整える。
 D・D搭乗のスピリットゴーストは回避に難のある機体なので、自機の損傷よりも敵の撃墜を念頭に置いた戦闘を展開した。
 那由他機が発生させるロックオンキャンセラーの援護を受けつつ、レーダーなどで展開の先を読んで一連の行動を組み立てていく。
「4連キャノン砲をHWが密集している場所に向けて発射。戦闘の敵機とクロスする直前に加速し、距離のある敵に再び砲撃する」
 緩急のある攻めを見せるD・Dだが、この行動は本当の目的である撤退と陽動をカモフラージュするには、非常にいい演出となった。
 那由他が「さすがです‥‥」とつぶやくと、D・Dも「那由他あってのもんだよ」と飾りっ気のない賛辞を送る。
 海と奏歌のコンビもますます息が合う。特に奏歌はアリスシステムを駆使して、常にスピード感ある戦いを挑んでいる。
 HWに背後を取られても、すかさずインメルマンターンで敵と向き合い、ショルダー・レーザーキャノンで反撃に転ずる。
「なるべく長く‥‥遊んでもらいましょうか」
 見事なテクニックで敵を減らしていっても、敵が津波のようにどんどん押し寄せてくる。奏歌は複数の敵に狙われると、マイクロブースターで一気に距離を離す。
 置いてきぼりを食らった敵に対して、ロングボウに搭乗する海がミサイル誘導システムを発動させた上でUK−10AAMを発射する。
「奏歌さんっ! こっちは任せてね!」
「橘川、後ろは任せて‥‥」
 自分の背中を相棒に預け、目の前の敵を確実に倒していくが、戦闘は激化する一方。しかも、敵の進軍が止む気配はない。
 攻撃に転じた海だが、対空ミサイルをファランクス・テーバイで防御しながら、それでも奏歌と連携して戦っている状態だ。
 彼女だけではない。もはや誰ひとりとして、無傷ではいられなかった。手負いの陽動部隊はそれでも我慢して、じりじりと指定したポイントへと向かう。

●カーテンコール
 作戦開始から30分を過ぎた頃、エヴリン機にUPC軍から通信が入った。声の主は、ビルクス中尉である。あの能天気さはどこへやら、マジメな語り口だった。
「お疲れさん。みんな、本当によくやってくれた。いよいよカーテンコールだ‥‥ちゃんと連中にご挨拶しとくんだぜ?」
「了解です‥‥戦闘中の皆さん、ビルクス中尉から撤退命令が出ました!」
 エヴリンは通信内容を全員に伝えた。撤退可能ポイントは目と鼻の先‥‥あとはブーストを使えば、逃げるのは容易だ。
 待機しているUPC軍も、すでに威嚇射撃や撤退準備を済ませている。これを見た愁矢が雄々しく吠え、自分にできる全力を出し切ろうと操縦桿を強く握った。
「もう、出し惜しみはなしだ! 食らえ、ホーミングミサイルっ!」
 敵の進軍を止めるべく、前方の敵にありったけの弾を叩き込む。最前列の敵機の爆破は、行軍の足を止めるには効果的だった。
 続いてアンジェラがSESエンハンサーで強化したUK−10AAEM、さらにはショルダー・レーザーキャノンを撃ち込む。
「ダリアさん、私たちも行きましょう!」
「海、いいだろう‥‥ありったけをくれてやる」
 海とD・DはUK−10AAMを発射し、那由他はツングースカを連射し、敵を引き離そうと必死に抵抗しているように見せかけた。
「十分に‥‥時間を稼ぎました。もし敵が陽動に気づいたとしても、後の祭りですね‥‥」
 最後はゼンラー搭乗のヘルヘブンが『劣勢を打破するための必殺技』を装って、壊滅状態になった敵の前衛にトドメの一撃を放つ。
「さぁーて、これが拙僧の超絶全力の必殺技だよぅ‥‥! 裸舞運命!」
 ブーストを使用して急速で接近し、K−02小型ホーミングミサイルを連続で発射。彼の目の前は爆発のアートが描かれる。
 ちなみに技の名前は、ゼンラー本人が「らぶでぃすてにぃー」と呼んでいた。これに対する異論やツッコミの通信は、特にない。
 渾身の力で放った攻撃で敵の一角を崩した能力者たちは、敵の反撃を避けつつ、ここで初めて露骨に反転した。
 そして各機ともにブーストを使用して、撤退可能ポイントを越えて飛び去る。彼らは見事に作戦を成功させ、ビルクスの元へ帰還した。
 中尉は傭兵たちの無事を、首を長くして待っているに違いない。