タイトル:温泉に行こう!マスター:聞多 薫

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/03/23 19:23

●オープニング本文


 それはいつもの口喧嘩から始まった。
「日本人って、外のお風呂に男女で入るんですって?」
 TVか何かで誤った知識を手に入れたのでしょう、インネンを付けてきたクラスメート、我儘暴走お嬢様カレン・オハラの顔を見て、白石夏音は内心溜息をつく。
「しないってば、そんな事」
 その一言を待っていた、そんな感じにお嬢様は高笑いを始める。
「嘘ですわね、それ! 嘘をつくのはヤマシイカラですわ! 自覚があるのですわ!」
 これが証拠です、と取り出されたのは旅行雑誌。温泉宿特集、という見出しが眩しい。
 ぱらぱらめくれば、混浴ブームなるものが紹介され、いかにも其れが日本文化だ! 的な文章が並ぶ。
「あのね、これは商業的な嘘なの。一部の文化であるだけで、一般的じゃないの」
 極力冷静に、噛んで含めるように説明するけど、話題が話題、頬に熱が籠る。
「いやらしい顔して、説得力がありませんわ」
 ヤラシイ、と言われ頭にやや血が上り、それは断固否定しなくてはと立ち上がる。
「アメリカにもヌーディストビーチとかあるじゃないのー!」
「それがなんですの? ヌーディズムを卑猥なモノと考える貴女が怪しいだけですわ。話題をすり替えないで頂戴」
「こ、混浴は別にいやらしくありませんっっ! そーゆー文化ですっ!」
 立場上、半ば無理やりに擁護した感もある。実際、混浴とかアリエナイ、と思う訳で、それが説得力の無さにつながっていた。視線を巡らし、援軍になってくれそうな日本人のクラスメートを探す。
 そこで目があったのが、成績は中の上だけど、雑学知識は豊富な仙道君。彼はアイコンタクトを受け取ると頷き、くいっ、とメガネを持ち上げつつ立ち上がる。援軍来たれり!
「日本には元々男女の別なく湯に入る文化があってね、江戸の民などは一日に三回も公衆浴場を訪れたそうだ。綺麗好きな民族だが、まあ、それだけでなく、性に関しても非常におおらかだった訳なのだよ。その実態は売買春などの温床であり、風紀の乱れを憂慮した、時の老中、松平定信により‥‥」
「ばかーっ!」
 白石のナックルにより仙道は沈黙する。
 友軍の致命的なミスにより、更なる窮地に追い詰められた。
 ほら見なさい、と勝ちを象徴した高笑いの後、お嬢様は『混浴を容認する白石はエロい』と黒板に書きだした。まさに小学校状態である。
 いつしか、混浴をエロスと認めること、すなわち自分をそう認めることという図式になってしまい、彼女は自分自身の尊厳の為に叫んだ。後先考えず。
「わ、わかりましたっ! ぜんっぜん健全って事を証明します!」

 勢いとは恐ろしい。
 今まで何人の人間が、勢いに任せ、ノリに任せて破滅していっただろうか‥‥。

 爽やかな色彩の用紙に、元気な文字を書き連ねる。
 無意味に猫の写真とかも添付して、告知ポスター作製から必死な印象操作は始まっていた。
 作成途中、ふと冷静になってみれば、この学園なら許可が下りちゃうかもしれないけれど、流石にモロ混浴はヤバい。ツアー以外の人間の介入も予想され、自身も参加する事を考え日和った結果、選んだ温泉は、四国にある、男女一緒に同じ露天に入るけど、その間には竹柵が用意されたソフトな疑似混にする。
 そのお湯場、やや秘境に位置し、突然の予約もバッチリ取れ、そしてツアー時間の貸切にまで成功する事になったのだが、お泊りなら想像を絶する宿での恐怖体験がありかねない立地である事は伏せる。

 隠れた名湯の予感、という事にしておく。

──秘湯でのんびりツアーのお知らせ──
 ONSENって、ご存知ですか?
 大自然のお風呂に浸かって、癒される行為です。
 リラクゼーション、美肌、健康増進、疲労回復!
 一緒に温泉に入り、仲間と語らって、のんびりとした時間を過ごしませんか?
 学園に集合し、移動いて、温泉で楽しんで、身体がほかほかしてる間に戻ってこれちゃいます。
 年齢、性別、学園内外者、人種問わずでお待ちしてます。
 ぜんっぜん健全です。

 ご連絡はクラス代表部 白石夏音 まで
───────────────────


 翌日、それを掲示板に張り出し見上げながら、小首を傾げる。
 そもそもの目的から少し外れている気がしなくもないのはなぜでしょう? 深く考えるのを辞めにして、周囲の会話に耳を傾ける。
「混浴だってー」
「でも竹柵で仕切られているからー」
 そう笑顔でアピールするのだった。

●参加者一覧

ナレイン・フェルド(ga0506
26歳・♂・GP
鷹司 小雛(ga1008
18歳・♀・AA
ハルトマン(ga6603
14歳・♀・JG
ミク・ノイズ(gb1955
17歳・♀・HD
大槻 大慈(gb2013
13歳・♂・DG
九条・護(gb2093
15歳・♀・HD
最上 空(gb3976
10歳・♀・EP
卯月 桂(gb5303
16歳・♀・DG

●リプレイ本文

「は〜い。皆さん左手をご覧くださ〜い」
 黄色い声ではしゃぐ青いアオザイ姿のバスガイド(ナレイン・フェルド(ga0506))。
 座席に座るのは九名の参加者。
「いよっ! よろしくなっ! なんか厄介事でも起きたみたいだな」
 後部座席から身を乗り出し、大槻大慈(gb2013)は企画の白石に挨拶をする。
 この二人、ちょっとした秘密を共有する仲なのである。そんな親密な様子をカレンは指差し騒ぐ!
「怪しいですわ! この二人怪しいですわ!」
「怪しくありませんっ!」

「なんつーか‥‥あの二人、いい仲だよな。いろんな意味で。」
 呟くミク・ノイズ(gb1955)の隣で、大量のお菓子に囲まれ至福の時を謳歌する最上空(gb3976)。
「食べます?」
 差し出されたおやつを、お礼と共に受け取ったミクは、口に運んで叫ぶ。
「甘〜っ!」
「あ、いいなっ」
 香りに誘われ、九条護(gb2093)も試食会に参加する。
「お菓子と言えば、柿ピーチョコがお勧めよ♪ カンパネラではどんなお菓子が流行ってるのかしら」
「チョコ、食べるかぁ?」
 謎のバスガイドと大槻も加わり、男女の別なく雑談に花が咲く。
 ここがチャンス! と見た空は、長年の疑問を皆に聞いてみた。
「バナナはおやつに入るのか否か、永遠の命題ですね」
「‥‥」
 皆で暫し考え込んだ。

 バスは山道を走り続ける。窓の外は、鬱蒼とした木々しか見えない。
「もう一曲おねがいしますぅ」
 CD持参で持ち歌を熱唱するナレインに、ハルトマン(ga6603)が寄り添い、左右に身を揺らしながらのデュエットを披露する。続き始まるのは、おハルちゃんのリクエストで一曲歌いつつの自己紹介。
「白石さん、温泉はどのような場所でしょうか。大自然とのことですし、きっと景色も良いのでしょうね」
 清楚な雰囲気を漂わせ、卯月桂(gb5303)が訪ねる。
 実は彼女、温泉と聞いて参加したものの、混浴というニュアンスにやや尻込み中。
「うん‥‥自然豊かな所みたい‥‥」
 自然しか無いとも言う。

 鷹司小雛(ga1008)は、皆の眼が歌う二人や窓の外に向かう中、席を立って移動する。
「またお会いしましたわね。白石様、カレン様」
 妖艶に微笑むその顔を見て、白石は赤面し、カレンは青ざめる真逆のリアクション。
「ふふふ‥‥温泉が楽しみ‥‥」
「わ、私は温泉を監視するだけですからねっ!」
 意味深な台詞を残す小雛へ、必死に釘をさすカレンに向け、卯月が優しく説明する。
「カレンさん、確かに混浴は文化として存在はしますが、近代では廃れて一般的ではないのですよ? 混浴時は水着などを着用しますし、海水浴と変わりませんでしょう?」
 やっと現れた味方に白石も大いに喜ぶ。
「そうそう。一人だけ温泉はいらないなんて許しませんから」
「え?!」
 その台詞に反応したのは、ミクだった。


 怪鳥の鳴き声響く秘境。
 明らかに傾いた旅館。
 電気ガス水道不完備。
 携帯は勿論圏外。
 限りなく妖怪に近しい老婆が、ヒッヒッヒ、と笑いながら出迎えてくれるサービス付き。
「お‥‥お土産とかなさそう‥‥」
 全員が大自然に圧倒される中、九条は宿婆にこっそり近寄り、小声で質問する。
「おばあちゃん。混浴講習したいんだけど、温泉の垣根、とっぱらってもいい?」
「勿論いいダよ。一蹴りで倒れるように出来とるから」
 それって単なる老朽化ではなかろうか。

「コホン。温泉を入る前に言っておく‥‥」
 旅行のしおりを丸め口に宛がい、しゃべりだすミク。
「これから上げるのはあくまでマナーだが、安全面と衛生面において遵守してもらいたい。トイレは事前に済ます。水分をしっかりとっておくように。貴金属は腐食するので持ち込みは駄目だ」
 皆体育座りでうんうんと頷く中、大慈くん何故か正座。
「入浴前に体を洗うが、露天風呂では石鹸やシャンプーは駄目だ。今日は貸し切りだが、挨拶も重要。そしてよく言われることだが、風呂の中にタオルを持ち込まないのがマナー。だが、このあたりは施設によって決められているから、確認しておくように。最後に、施設は綺麗に使い、備品は使用したら整理整頓を忘れるな!」
 軍事演習教官並の迫力で説明するミクの背中越しに、妖怪が‥‥いえ、宿婆が現れる。
「ウチの湯はタオルなんか浸からせちゃダメだあよ」
 常時バスタオルで身を包もうと考えていたメンバー達に戦慄が走った。
「温泉はタオルも水着もつけないのがマナー。それは心許した親交の証となるからですわ」
 今にも脱衣を始めそうな勢いで小雛が皆を説得し、その場を収める。
「きゃっ。恥ずかしいわっ♪」
 恥じらうナレインは嬉しそうでもあった。

 男女に分かれ露天へ。
「あれ? ナイレンって男だったのか?!」
「ん? 私はちゃ〜んと男だからね♪」
 見る? と言われ、紅潮して首を横に高速移動させる大慈。目のやり場に困って視線を動かせば、場を隔てるボロボロの竹柵が視界にはいり、大急ぎで山を見る。
 綺麗なお姉さんと一緒に裸になれば、妙な空気になってしまい、自然はイイナア、などと呟きながらギコチナク話題を提供する。
「男って俺だけかと思って、コッチが覗かれそうだな〜とか思ってました」
「誰が覗くか!」
 ミクの突っ込みは柵を越えて女湯から。
「覗かれたら逆セクハラで返しちゃおうよ」
 護の笑い声が響く。
「大丈夫よ〜♪ 私がしっかり見張っててあげるから」
「覗きも温泉文化です。竹柵が隙間だらけなのがその証拠。裸のスキンシップを楽しみましょう!」
 大人しそうな顔のハルトマンから、想像つかない大胆発言が飛び出す。
「だ、ダメダメ!」
 大慌てで白石が怒涛の実行員チェックを決めるも、ドイツ娘の方が上手を行く。
「あ、ここの穴から男子が丸見えですぅ」
 小声で囁かれ、何となく視線を誘導された白石は、竹柵の乱れから男性の裸体を目撃し悲鳴を上げる。
「何があったっ!」
 その只ならぬ声勢に、大慈がハリセンを持って女湯のほうに飛び込んで逝く。
 彼の名誉のために言う。これをチャンスと覗きに行ったのではないと云う事を!
「きゃーっ!」
 そんな勇者に飛ぶ無数の手桶! 大喜びで複数投げているのは空。しかしクリーンヒットした桶を投げたのは桂。彼女、両手で顔を隠しつつ、指の間から倒れゆくかわいそうな男子を凝視。
「大慈ちゃん、生きてる〜?」
「ぷげぽげら〜」
 緊急事態を想定し、一緒に駆けつけた美人お姉様は、友軍を介護しつつ羨ましそうに女湯を眺め指をくわえる。
 その様子を見たハルトマン、裸を隠しもせずウェルカムする。
 彼女の肌を庇いつつ、必死に首を横に振って来ちゃダメと意思表示する白石。

 カレンは、初めての温泉に圧倒され、ミクと二人で超隅っこにいた。
「うう‥‥私は見学のつもりでしたのに‥‥」
「泣くな、私もだ‥‥」
 肩を寄せ合うスレンダー二人組に忍び寄る小雛。
「お二人とも、お綺麗ですわ。自信をお持ちになって」
 同時に二人の背筋に触れ、つつ‥‥とその指先を這わす。
「あっ」
 切ない喘ぎが、どちらかの口から洩れた。

「ふぅ、骨身に染みますね、十歳位若返る感じです」
「十歳若返ったら‥‥なくなっちゃうんじゃ」
 湯上りのフルーツ牛乳を待ちわびつつ、ぽかーんと温まる最年少少女の妙に年寄り臭い言動が耳に残り、桂は肩にお湯を掛流しつつ、間の手を入れる。
「胸は飾りです、大きければ良いと言う訳ではありません!」
「胸じゃなくて‥‥」

「全員露天にはいったー? さー! 混浴講習会、はーじまーるよー!」
 護が両手で柵を揺すると、それは綺麗に倒れていく。
 他のメンバー達にとっては、モーゼの奇跡並の大インパクト。
 視界が開け、男湯と女湯の差は無くなり、悲鳴を上げる暇もなく全員が顔を合わせる。
「こ、こんにちは‥‥」
「あ、どうもこちらこそ‥‥」
 入浴前講習会で習った挨拶が炸裂した。

「マナー壱! 開放的になったとしても大声出したり、局部を隠さずに歩き回ったりしてはいけません。他に使う人が居る事を念頭に置き、その人達に迷惑をかけないようにしましょう」
 うんうんと頷くミク。
「マナー弐! 脱衣所の入り口や、お湯に漬かろうとする所を凝視しちゃいけません。カップルで過度にイチャついてもいけません理性を失って襲い掛かってもいけません」
 皆の視線が大慈へ向かう。え? 俺? と男子生徒は自分を指差す。
「マナー参! 異性には紳士的に! 積極的には近づかず、近づく時は一声かけて。相手が望まない限りは視線を向けない」
「同性にならいいのですね‥‥」
 抜け殻となったカレンを抱きつつ、露天の熱に肢体を疼かせ小雛が呟く。
 肯定は出来ないが、否定すると矛先が変わりそうなので皆無言。
「ハイハイ〜」
 挙手したハルトマン、えへんっと咳払いした後に、講習を引き継ぐ。ここでキチンとした温泉のマナーを知ってもらうのです! と燃え上がる。
 その中身はミク、護が語った内容とほぼ同じだが、最も異なる個所がココ。
「湯船に入るときは何も付けずに入るのです! タオルなんて邪道です!」
 弁に熱のこもったこの子、ざぱー! と湯から立ち上がり、咄嗟にナレインが大慈の首を横向かせ抱き締める。
 美女に抱かれた思春期青年の図でありながら、BLっぽいアレも漂う危険な光景に、女性陣大喜びで二人を祝福。

 一方、仁王立ちのドイツ娘に捨て身のタックルを決め、湯に沈めさせる白石。
 不意の一撃にお湯を飲んでしまい、溺れて立ち上がり、さらにモロ見せとなるハルトマン。
 もっと慌てて彼女に抱きつき沈めようとする白石。
 その姿を見て火がついた小雛は、おハルちゃんVS白石の肉弾戦に飛び入り参加する。
「ひゃあぅ!?」
 怪しい指使いが白人少女の首筋を刺激する。膝から崩れそうになった彼女は白石の太腿に抱きつき踏み止まり、悲鳴を上げた白石が小雛に縋り付いて自由を奪う。
「反撃ですぅ」
 千載一遇の好機にハルトマンが牙をむく。掟破りの愛撫返し。
「受けて立ちますわハルトマン様、お覚悟」
 きゃあきゃあとはしゃぐ二人。巻き込まれ泣く一人。
 もはや誰の手が何処にあるかも判らない惨状は、枕投げの如き楽しげな光景となり、子供心を擽られ空も参加する。
「えいっ」
 背中からピタッと抱きつき、憎らしい豊かなバストにダイレクトアタック。
 元気娘の護もお祭り騒ぎを放っておくはずがない。
「ボクもっ! これもまた温泉の醍醐味だよねっ!」
 何よりもノリ重視! 多少の過激さも必要と、彼女はとても描写出来ない行為に及ぶ。その名も九条スペシャル。
「あゅーんっ! ダメっ!」
 
「か、貸し切りでも温泉で騒ぐのは禁止! 男子も困ってるだろう!」
 エスカレートを見かね駆け寄ったミクに、白石が抱きつく。
「ひぃーん! 助けてっ!」
「え? ち、ちょっ‥‥」
 皆に引きずり戻される白石と共に、芋蔓式に取り込まれるかわいそうな温泉奉行。
「あーれー」
 参戦しちゃおうかな、と迷う桂が視線を巡らし、カレンと目を合わせる。
「わ、私はいいですわ‥‥お、おほほ」
「恥ずかしがらないでっ」
 死なば諸共。彼女を引っ張り、背中を押すようにして肉団子の中へ!
 新しい獲物が来た! と皆が手をワキワキさせつつ振り返る。ギクリとなって立ち止まる桂。
「お、お手柔ら‥‥きゃ〜っ!」
 勿論手加減無だった。

 触りっこに掴みっこ。摘まんだり揉んだり引っ張ったり。
「若いっていいわねぇ〜お肌がモチモチじゃない♪」
 いつの間にかナレインも自然に溶け込み、皆の二の腕を順につついてはその弾力に感嘆のため息を漏らす。性別を超越した会合である。

「盛り上がってるな〜」
 紳士な大慈クン、ハリセンの神様に祈りを捧げ理性を保つ。俺もナレインさんみたいに参加してもいいのではないか! いや、しかしそれはやっぱマズイ‥‥しかしこの疎外感はいかんともしがたい。せめて男友達を誘って参加するんだった。そうすればなんて言うか、赤信号を皆で渡れたかもしれない!
 俺のバカ! と空に吠えた彼の眼に、露天脇の茂みに光る怪しい物体が映る。
 ハリセンで前を隠しつつ歩み寄り、覗きこめばそこには狙撃手の様に芋虫となってカメラを構える温泉婆!
「‥‥なにしてるんすか‥‥」
「副業で稼がないとやっていけないダよ‥‥」
 夕陽を背に大慈は飛ぶ。大上段からのハリセン振り下ろし! 前隠して前!
「ハリセンスプラーッシュ!」
「オラの飯の種が〜!」
 カメラ破壊。


「やっぱり温泉は良い物ですわね‥‥リラックス出来て、お肌もスベスベですわ」
 お湯と女体を堪能した小雛は、興奮冷めやらぬ身体にお湯をかけ、ゆったりと夕暮を眺める。本当にツヤツヤピチピチである。
「まったく‥‥こ、今回だけだぞ‥‥温泉の中で飲んでもいいそうだ」
 楽しんでしまったのは事実で、歯切れ悪く皆の馬鹿騒ぎを窘めつつ、ミクはドリンクを持ってくる。どこまでも面倒見のいい姉御である。
「コーヒー牛乳こっちですぅ〜」
 嬉々としてハルトマンが手を挙げる。
「ぷふぉう! 五臓六腑に染み渡りますね!! この一杯の為に生きている感じです!」
 左手は腰。由緒正しいポーズで冷たいフルーツ牛乳を飲みほす空。
「最上さんってやっぱりなんか大人びてるよね‥‥」
 圧倒されながら桂はあははと笑う。

 お祭り騒ぎで変なスイッチが入ってしまった白石は、心と体のアンバランスに胸を押さえ、何度も吐息を漏らしていた。
 そんな様子に気がついた大慈が、心配して声をかけた。
「夏音〜こっちにくるか〜?」
 彼女は温泉の中を四つん這いして彼に接近する。
「なんか困ってたみたいだったから‥‥迷惑だったか?」
 周囲からはヒューヒューと冗談めかした声が飛び、流石に照れる男の子。
 一同が面白楽しく見守る中、突き進んだ白石は、おでこからトンっと大慈の胸にぶつかって止まる。どこか様子がおかしい。
「大慈クンっ‥‥」
 体を起こし、甘えて身をすりよせた白石の行為に、きゃーっ! と悲鳴の大合唱が響く。
「エッチなの禁止〜!」
 護がダイビングボディプレスでマナー死守に成功!
 女体二人に押し潰された大慈君はTKOとなった。

「ん〜潤されるぅ〜」
 ナレインは湯上り牛乳を堪能しつつ、紺にグラデーションして行く空を見上げる。一番星が光り出していた。
「忙しい日々の中‥‥こんな時間が大切よね‥‥」

 そして名残惜しみつつ、一同は四国を発つ。

──帰りの高速艇内。
「温泉、いいじゃないですの。認めますわ」
 参加者の人柄も良く、マナーを理解した上で羽目をはずして楽しんだ結果、カレンはすっかり温泉の虜となり、その良さを認める。
「でしょう〜?」
 よかった、と手を合わせる桂。皆も笑顔で頷く。
「エロかったのは、温泉文化ではなく、白石だったのですわ」
「異議なし」
「あ、あれは鷹司さんと九条さんが‥‥」
「異議なし!」


 温泉文化が清い事は証明出来た。
 だが、その陰で白石は大事なものを失ったのだった。