タイトル:夏祭りを防衛せよ!マスター:聞多 薫

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/08/25 11:05

●オープニング本文


 夏本番。
 全寮制、軍事士官学校であるカンパネラ学園にも、夏は来る。
 カリキュラムをこなし、単位をしっかり取得した者達には夏期休暇、即ち夏休みが待っているのである。
 休暇を利用して実家に帰省する者も多い中、様々な理由で学園内にとどまり夏を過ごす者達が居た。
 補習補講を受ける生徒はもちろん、バグアの攻撃で帰る場所を失った生徒、特殊訓練に志願して己を鍛える事を望んだ生徒、予断を許さぬ世界情勢を鑑み自主的に待機している生徒、そして学園の特命により持ち場を動く事が出来ない生徒等がソレである。
 そんな彼等もまだ思春期真っ盛り。感受性豊かな若者。
 張り詰めてばかりいては身体がもたない。何より、この若者の夏を楽しまぬまま大人になればきっと後悔するであろう。
 人間を形作るもの、人格を形成するもの、それは経験に他ならないのだから。

 生徒会クラス代表部の一員である白石夏音(gz0225)は、学園内に残る生徒の為、学園での人の輪を広げようと苦心してイベント案を練っていた。

 納涼祭──浴衣を着て、西瓜にワタアメにかき氷。団扇を片手に、水風船。皆で盆踊りして、花火を見る。
 うん、学園で夏祭りしちゃおう!
 イベントには事欠かない季節。イメージは膨らみ、一気に企画書を書きあげた。

 白石夏音主催納涼祭開催
 日時 ○月×日 十九時〜
 場所 カンパネラ学園、校庭
 
浴衣配布します! 皆で日本の夏を体験してみませんか?
夜店に花火、盆踊り、男女合同浴衣着こなしコンテスト。
カンパネラでしか味わえない、青春の思い出。その一コマにどうぞ!

 何としても楽しいお祭りにして、頑張る皆を少しでも笑顔にするのだ! と気合をいれた女子生徒であったが、光ある所には闇が生まれる。それが世の定め。
 楽しそうな人達を見るとなぜか面白くない‥‥なんてダークな魂を持った者が存在する。
 例えば‥‥。
「浴衣ですって? こんなの生地のうっすーいバスローブじゃありませんのっ! こんな姿で外出なんて、日本人はなんて恥知らずで下品なのでしょう」
 ちゃっかりとマイ浴衣を着こみ、カレンダーの前でワクワクする女子生徒が一人。
 彼女の名前はカレン・オハラ。中央進出と学園制覇を目論んでいたが、あっさりとクラス代表選で敗れて挫折。以後白石を目の敵にしているイイトコのお嬢様である。
「祭りで庶民の点数を稼ごうだなんて浅ましい。逆に大恥かかせてやりますわっ!」
 高笑いを決め、咳こみ、紅茶を啜る。

「以前はネットでの手引きで痛い目をみましたが、流石私。今回はパーフェクトですわ‥‥」
 学内某所。
 薄暗い棟内を歩く、白い仮面に、全身黒いローブの怪異な姿の人影。
 彼女が立ち止まりノックした扉の先には『裏生徒会─憤怒─』の看板。
 因みにこの類のネーミングの部活は複数存在するらしい。
 一見反体制的に見えるが、単に本流の生徒会とは関係ないと云った意味である事の方が多い。「裏千家」が別にヤマシイ集団でないのと同じである。
 だが、怪しげな副題までついてるここはどうやら正真正銘の悪の集まりらしい。
 扉の向こうに人の気配を感じた女性は、合い言葉を述べる。
『学園に混乱を』
『秩序に死を』
 ほぼ闇と言ってよい室内への扉が開く。
 待ちうけるのは、やはり白い仮面に黒いローブの男女数名。全員が完璧に素性を伏せ、依頼者は勿論、メンバー同士でさえ互いの正体を知らない集団らしい。
 依頼者の女性は、納涼祭告知ポスターを取り出し、主催者名を指した後、首を斬るボディランゲージを行う。
「了解した‥‥祭りを潰し、この主催者を苛め抜き、屈辱を与え、泣かし、この学園に居られない様にするのだな?」
「いえ。そ、そこまでは‥‥」
 何かを壊したくてしょうがない、そんなアウトローな十代達には、もう依頼者の声は届いていなかった。人参を眼前にぶら下げてもらったお馬さん状態に他ならない。
「今回は私に任せてもらおう。裏生徒会化学部門総長、枝島平八郎にな。薬物、改造キメラ、さあ、どんな手で楽しそうなあいつ等の青春を踏みにじってやろうか! ふはははは」
 寂しい青春を送ってそうな白仮面さん、思いっきり自己紹介していた。

 パタン。
 裏生徒会からでてきたカレンは、仮面とローブを焼却しつつ、一人悩む。洒落にならない予感がする。
「仕方ありませんわね‥‥」
 自室に戻り、学園情報掲示板に書き込みを行った。
『今度の学園納涼祭りで、何か善からぬ事が起こるようですわ。え? 私? ただの通りすがりですけど』

 こんな怪しげな背景を持ちつつ、納涼祭は実行されるのであった。

●参加者一覧

鷹司 小雛(ga1008
18歳・♀・AA
ゴールデン・公星(ga8945
33歳・♂・AA
桐生院・桜花(gb0837
25歳・♀・DF
美空(gb1906
13歳・♀・HD
大槻 大慈(gb2013
13歳・♂・DG
美環 響(gb2863
16歳・♂・ST
佐渡川 歩(gb4026
17歳・♂・ER
フローネ・バルクホルン(gb4744
18歳・♀・ER
郷田 信一郎(gb5079
31歳・♂・DG
加賀 円(gb5429
21歳・♀・DG

●リプレイ本文

 当日の朝、本部業務に追われていた白石の元へ、佐渡川歩(gb4026)、桐生院桜花(gb0837)の二名が訪れた。
「白石さん、頑張ってる?」
「おはようございます! 桜花さん、彼氏連れですか?」 
「ぼ、ぼぼ、僕なんかが桐生院さんの彼氏だなんてっ!」
「彼は佐渡川君。さっき校門で知り合ったばかりなのよ」
 恐悦至極にございます、などと言い出しかねないその姿をフォローして、柔和な笑顔で男子を紹介する。
「それで‥‥」
 桜花は友人の少女に気を使い、掲示板の書き込みを伝えるのを躊躇したが、女性二人に挟まれる形で興奮状態にあった歩がしゃべりだす。
「学園の掲示板に、祭りで良くない事が起こるって書いてあって‥‥」
 一瞬表情を曇らせたものの、直ぐに笑顔となる祭主催者。
 桜花は白石を抱き、安心させるように背中と尻を撫でる。なぜか抵抗しない女子生徒。
「何が起こるか知らないし、唯の悪戯かもしれないけど‥‥皆の楽しみは私達が守るわ」
「僕も頑張りま‥‥」
 歩の視線は眼前の抱き合う女子二人、桜花の手とそれを埋めている臀部へと突き刺さる。つつぅ、と赤筋が鼻孔から流れ落ちた。
「学園特風カンパリオンばかりに頼ってちゃいけないわ」
「カンパリオン‥‥?」
 とある男子生徒を思い出す白石。そこに大人しそうな印象の女生徒、加賀円(gb5429)がやってくる。
「あの、主催の白石さんって‥‥」
 彼女も掲示板を見て警備に参加したいと訪ねてくれたのだ。
 ここに警備隊が結成され、皆で警備計画を練る。
「僕は会場を回ります」
「私は本部で白石さんと一緒にいるわ」
「あの、武器持って警備してるのは、皆さんはあまりいい気はしないでしょうけど‥‥どうでしょう?」
 お祭りの空気を損なわないかと思案する加賀に、是非お願します。と白石は頭を下げた。
「はい。着替えてきます」
 そう言って席をはずした円は、背中に天使羽のオブジェをつけたミニの浴衣を纏い、薙刀を手にした姿で戻ってくる
 桜花が身を乗り出し、歩が前屈みになったのは言うまでもない。


 正門で待ち合わせをし、手をつないで祭りへと赴く男女の中、バラの花を手に優雅なポーズを崩さず立つ貴公子、美環響(gb2863)。
 彼の誘った相手は、カレン・オハラ。この事件の発端となった者である。
『ダリアの姫へ 夏祭りを一緒にすごしませんか ハートのエースより』
 甘い誘いのメールに返事は無く、これはフラれてしまったかとも危惧したが、やってくる高級車を見つけ、微笑む。
 車より降りてきたのは、ゴージャスなマイ浴衣に身を包んだお嬢様その人。
「いらして頂けないかと思っていました」
「日本のお祭りに興味などありませんが、お、王子様がエスコートして下さるとおっしゃるなら、付き合ってあげてもよろしくてよ?」
 過去の経緯により、カレンにとって響は王子様なのである。
 高飛車返事にも笑顔で手を差し伸べ、肘を貸してエスコート。
「この祭りを妨害しようとしている輩がいるらしいですから、気をつけてください。悪戯かもしれないのですが。実際、警告者に問いかけても返事はありませんでしたしね」
「そ、そうなんですの」
 カレンの顔が引きつったのを見て、響は包容力たっぷりに微笑する。
「大丈夫ですよ。カレンさんは僕がお守りしますから」
 幸せムードに包まれた二人、そこにポンっと声がかかる。
「まあ、カレン様奇遇ですわね。美環様も」
 背筋を伸ばし、ギギギ、とカレンが振り向けば、いつもの和服姿ではなく、学生服に身を包んだ妖艶麗人、鷹司小雛(ga1008)。
 和風お嬢様は洋風お嬢様に優しく近寄り、その髪を撫で、頬を撫で、唇に触れる。しかし、傍らの美環に遠慮し、わたくしはこれで、と立ち去るのであった。
 響は思う。あの人から守るのは無理かもしれない、と。


「ほぅ。娘はこういうところに通っているのか。活気があってよろしいことだな」
 フローネ・バルクホルン(gb4744)は、愛娘の通う学園を見学の為に祭りを訪れていた。
「ふむ‥‥なかなかいい品揃えだな。少し飲ませてもらおうか」
 酒類を取り扱う店を見つけ、腰を落ち着けた所を狙い、ガラの悪い男子が声をかける。
「‥‥ナンパな男は好まぬ。とりあえず、鏡を見てから声をかけろ。それで分からんなら‥‥まぁ、見れない顔になってもらおうか」
 顔は良いけど口は悪い。そんなギャップは、偶然傍らを警備していた佐渡川歩のハートを射抜く。
「嫌がってるじゃないか!」
「ンだとコラァ」
 割って入ったナイトは校舎裏に連れ去られ行く。売却済みの子牛の如き悲瞳でフローネを見るも、お姫様はお酒に夢中であった。
「いやだああああ!」
 手足をばたつかせ、ボディに一撃を貰い、ガクッと事切れたその時である。
「まえてぇい!」
 侍がいた。
 比喩表現ではない。
 エアーソフト剣を一本差した袴姿のゴールデン公星(ga8945)が立っていた。
「虚無僧は公星の金さんがお相手いたそう。そこな童を放すが良い」
 侍じゃなかったのか、フローネが冷静に突っ込む。
「ちっ‥‥」
 公星の気勢に屈した男達は、歩を解放して逃げゆく。
「助かりました」
「なに、構わぬ。今宵の宴を守るのが拙者の役目でござるよ」 
「もしや、お侍様も掲示板をみて警備を?」
「なに? 童も同志であったか。客人には陰謀があった事を悟らせず、最初から最後まで楽しく過ごしてもらいたい。故に犯人を捕らえた場合でも、全てが祭を盛り上げる為のパフォーマンスとなるよう、時代劇がかった演技をするつもりだ」
 趣味じゃなかったのか‥‥そう思いながら、フローネはグラスを傾けていた。


 こちら本部テント。白石の傍らには桜花の姿。彼女、犯人が白石を狙うかもしれないと考えていた。
「浴衣をチェックしましょ。そんな複雑な仕掛けは無いと思うけど、かゆみを出したり発火させたりは、よくあるいやがらせだもの」
 浴衣はよく着てるから畳むのも速いわよ、なんて微笑みつつ、一着一着丁寧に調べ上げる。
「そ、そんな悪戯する人がいるんですか?」
「出身校であったのよ。もし見逃しても、チェックしたのは私だし、責任は私にある。夏音さんには迷惑かけないわ」
「浴衣の貸し出しはここでございますの?」
 眼帯と大きなバストが目を引く和風美女が顔を出す。 
「小雛さんっ」
 彼女を見ると反射的に頬が赤らむ白石。
 駆け寄り、挨拶代わりの抱擁を交わして、離れた後も手を合わせ指を絡ませる姿。麗しき友情?
 二人を母のような優しい瞳で見つめる百合畑管理人の手はうずうずと動いている。
「浴衣の着方が分からないの‥‥手取り足取り、教えてくださいませ」
「これがいいんじゃない?」
 桜花はサイズ小さめの浴衣を嬉々として選ぶ。
 制服を脱ぎだす小雛に慌て、白石は両手を広げ周囲の視線を遮る。
「うらやましいわ、鷹司さんの肌って」
「桐生院様になら、小雛の全てをさらけ出しても‥‥」
「ひ、人がみてますから‥‥」
 しかし、三人よれば悶濡の恥絵と申します。
「ほら、白石様も」
「そうそう、白石さんも浴衣に着替えちゃいましょう。私も一着いただくわ」
「あっ‥‥」
 二人に制服を脱がされ、頬を染め、下着の脱衣すら許したり、そんな着せっこの最中、郷田信一郎(gb5079)参上。彼は、知り合い主催の納涼祭があると聞き、久しぶりに祭りを楽しむのもいいだろうと訪れていた。
「おう、白石。俺にあうサイズの浴衣は‥‥うお!?」
 ぶりっ子ポーズで静止する白石と桜花。転んだフリで二人に抱きついてる小雛。
 本部テントが無防備な女子更衣室と化しているなんて純情番長の郷田には想像もしない事態だった。
「すまんっっ!」
 覚醒状態で全速離脱した信一郎、頭を切り替え、甘味を楽しもうとクレープ屋の前をうろうろと流離う。
 大の男がクレープとか恥ずかしい! しかし食べたい!
「信一郎さーん」
 彼を探し出した白石が、特大の浴衣を手にかけてきた。
「お、おう、わざわざすまんな」
 何気に目をあわせられない両名。
「クレープ、買いましょうか。桜花さんと小雛さんの分もあわせて、四つ」
「三人は本当に仲が良いんだな」
「はい。とっても良くしてもらってます」
 信一郎の手を引き、屋台に並ぶ。男女で買えば、変な目で見られない作戦である。
「チョコ生とストロベリー生とキウイ生とあずき生を頼む」
 紅潮した顔でオーダーを出す信ちゃん。
 白石が戻っていった後、今度はリンゴ飴屋の前を徘徊するのであった。


 きゅっぽきゅっぽ。そんな足音で現れたのは竜のきぐるみ。大槻大慈(gb2013)その人。
 連れ歩くのは妹、美空(gb1906)。
「なんと夏祭りを台無しにしようとは許しがたい暴挙なのです。美空と兄上で断固粉砕してやるのでありますよ」
「アソコが怪しい!」
 大慈が指差した先には、やきそばの屋台。食欲をそそるソースの香りを鼻一杯に吸い込み、彼は断言する。
「この焼きそばからなにやら怪しい臭いがっ!」
 素直に並んで購入し、食べ、満足げに頷く。
 白目で見てる妹の視線もなんのその。お兄ちゃんは再び立ち上がる。
「やや!? あの射的、実弾が入ってたりするんじゃないかっ?」
 現場に急行、景品確認、特賞の黄金のハリセンに狙いを定めてお小遣いを浪費する。
「ぐああ! 美空! お金貸して! 実弾もってきて!」
「兄上‥‥」
 何かと遊びに走ろうとする大慈を制し、犯人捜しに連れ戻す美空。ヒースクリーフ! と叫ぶ大慈。
「射的がありますね」
「今の子、涙まで流して。この様な景品、普通に買えばよろしいじゃありませんの」
 羽毛団扇で涼むカレンの言は身も蓋も無い。
「それをあえて自分の腕で獲得するのもまた、楽しいのですよ」
 響はライフル銃を構える。
 最初に狙うは、ベタなぬいぐるみ。それを皮切りに、次々に目標を沈黙させていく。
 その勢いに慌てた店主が、もうこれ位でと頭を下げてきた。
「響様、どうしてアレをお取りにならなかったんですの?」
 彼女が指し示したのは、特賞、黄金のハリセン。
「い、いえ、なんて言うか‥‥あんまり欲しくないなーって‥‥」
 響が去り、安堵した主人の隣に出現するフローネ。
「ふむ。射撃か‥‥」
 こうして射撃屋は閉店した。


 美空の直感に従い、二人がやって来たのは綿飴屋。
「爆発綿あめっておもしろ‥‥もとい危険なのですよ」
「なんだそれ?」
 お店の人を押しのけ、綿あめ屋さんの材料を入念にチェックする。
「きっと材料のザラメの中にはかんしゃく玉が混じっていて機械に入れたとたん爆発して非常に危険なことになるはずなのであります」
「おお、それ楽しそうだなぁ!」
「ボウズ達。綿飴あげるから帰ってくれないか‥‥」
 次に子供達が占拠したのは金魚すくい。
「金魚すくい用の「ぽい」がもなか状の物にすり替えられているのであります! という訳で持参した「マイぽい」で金魚を救うでありますよ」
「それって普通に見かけないか‥‥?」
 冷静な大慈の指摘に、いそいそ取り出した三十枚ほどのぽいを落とす妹。
 兄の目の前でモナカ状のソレを食べて見せ、目を血走らせ美空が断言する。
「モナカなのですよ? 水を吸うと脆くなって重くなる、モナカなのでありますよ!?」
 そこに現れたレスラーの如き巨漢。
「大慈じゃないか」
「おっ。信一郎。やほ〜」
「モナカなのですよ!?」
 郷田に対しても力説を始める美空。
「どれ、金魚すくいの信ちゃんと呼ばれた俺の技、見せてやろう」
 腕まくりをする信一郎に対し、出来ると直感した的屋のオヤジは、こっそりと薄いモナカに摩り替えて渡す。
「あれはなんですの?」
「金魚すくいです。金魚は見た目涼しいでしょう? 夏の祭りの風物詩なのですよ」
「普通に買えばよろしいじゃありませんの」
「それは言わない約束なんです‥‥」
 セレブな二人組の会話を背に、戦友を応援する子供二人。
 郷田は微笑んだ。
 厳つい外見からは想像もつかない慈愛の視線。
「金魚の動きが止まった?」
 その瞬間を狙い、モナカ一閃。金魚は椀の中に。
「モナカが殆ど濡れてないでありますよ!」
「ふむ。腕は衰えていないようだな」
 サッパサッパと次々に救い上げ、もう勘弁してくれと懇願する的屋の泣き言を聞き流す。
「主人。本来縁日とは子供の笑顔を見る為の場でなくてはならん。営利目的での金魚すくいなど、言語道断だ」
 周囲の客から拍手が沸き起こる。こうして金魚救いの信ちゃんの名は、カンパネラでは伝説となった。
 郷田は獲得した金魚の数匹を、美空にプレゼントして悦ばれる。 
 それを見ていたカレンも欲しいですわとせがみ、響は笑顔でらんちゅうを掬い上げる。
「よし、俺も!」
 郷田式を真似してニコニコと微笑む大慈。そして水面にモナカを突っ込んだ途端、それはボロっと砕けたのだった。


 ぶらぶらと移動中のフローネ、なんだかんだでお祭りを楽しんでいると言えよう。
「‥‥あ〜恋愛運はないからな。そうだ、私ではなく娘のほうを占ってもらおうか‥‥」
 占い屋に入って、娘の恋愛運を占わせ、恋愛の影があるとか言われて憤慨する。
「あの子を誰かに任せるつもりはないのでな‥‥相手の名前を教えてもらおうか」
「奥さん! 占いですからー!」
 宥められて落ち着きを取り戻し、再び遊歩した彼女はお化け屋敷を見つけ、物怖じせず単身踏み込んでいく。入り口付近で女子生徒達が固まって二の足を踏んでいる光景と、実に対照的だ。
「‥‥まぁ、出し物の予算を考えればよく作ったほうであろう。サプライズだけに頼らない点は評価できるな」
 驚かし役のお兄さん達が自信を喪失する程に、冷静すぎるほど冷静に館を巡る。
「畜生! あの女ぁ」
「馬鹿、やめろ!」
 スタッフの一人が物陰より飛び出し、後ろから抱きしめて脅かす暴挙に出た。ちょっと胸とか揉んだかもしれない。
 フローネの目が妖しく光る。
「誰に断って私に触れている!」
 足を踏み、脛を蹴り、肘を突き刺し、崩れた敵を正拳で吹き飛ばした。

 歩は円と共に警戒を行い、お化け屋敷に辿り着く。
「ほら、白石さんも少しはお祭りを楽しんで下さいと言ってたし。いえ! 別にお化けに怖がってキャー! と抱きつかれておっぱいが当たるとかそんなんじゃなくてですね!」
 円にとっては、お化けよりも目の前の男子が怖い。
「え? そ、その‥‥」
 急接近されて涙目になって狼狽するも、無下に断るのも悪いなと思ってしまう。
「大丈夫、僕が守ってあげるよ!」
 泣く程怖がっちゃって、可愛いなあ。なんて思いながら、しかし手を繋ぐ程の接近は出来ない、生誕後経過時間が即ち彼女イナイ歴な歩君。
 突入した彼は、足元が不安になるほどの闇の中、引けた腰で先頭を行く。
「あ、あんまりこわくないね!」
 男らしさをアピールした直後、目の前にとても演技とは思えない苦悶の表情を浮かべた、血まみれの男が吹き飛んできた。
「あひおょおお!?」
 あの悲鳴が一番大きかった、と後にスタッフが語った叫びを上げ、歩は円に縋り付く。
 男性恐怖症の彼女、鳥肌を立てて覚醒し、髪と瞳を紫に染め、氷のような冷たい声色で彼の醜態を罵った。
「あらあら、怯えて女性に縋るだなんて最低の害虫ね」
 歩は泣いた。


 正義の侍、金さんは、口笛を吹くと金魚が寄ってくる事を発見し、金魚すくい屋のプール前にしゃがみ込んでいた。それを取り巻く子供達。
「わー、凄いやお侍さん」
「なに、どうという事はない。拙者に続いて吹いてみるがよい」
「お客さん、冷やかしなら帰って‥‥」
 口笛講習会をしていた公星の後ろを、自己嫌悪する円、涙目の佐渡川が通りかかる。
「き、気にする事無いよ、ぼ、僕はなんとも思ってないよ」
「いかがした御両人。持病の癪か?」
 金さん、優しく両者を取り持つ。円はプログラムを取り出し、元気なフリをする。
「そろそろ盆踊り大会の時間ですね」
 歩はその場の空気を和らげようと、小走りでヘリウムガス買ってきた。
「コレ面白いんだよ。こうやってね‥‥」
 スプレー缶を口に当て。
「メタンガスだああ!」
 おええええ! となった彼を囲んで、二人は騒然となる。
「だ、大丈夫ですか佐渡川さんっ!?」
「気をしっかりもて、童。アレか? メタンガスとは牛のゲップに大量に含まれているアレなのか!? 牛のゲップのアレなのか!?」
 非常に気分が悪くなった歩であった。 


 こちら、金魚が入った袋を手にした二人の子供に占拠されたおめん屋。
「お面が顔に張り付いて取れなくならないように裏をチェックするのであります」
 キリッとした真顔でそう宣言する子供に、成すすべないおっちゃん。
「美空〜ざっと見たけど、そんな心配なさそうだぞ〜」
 調査を切り上げ、立つ鳥跡を濁さずとお面を買う美空。
「次はドコにすっかな〜」
「兄上‥‥」
「そういえば本部に浴衣貰いに行ってないな」
「兄上‥‥お面が取れないのであります」
 なんだってぇええ!? 大慈の絶叫が木霊する。
 無線での連絡を受け、現場に急行した加賀、佐渡川、公星。
 ヒーローちっくなお面をつけてもがく子供の救助にあたる。
「酷い‥‥こんな子供に」
 眉を顰めながらお面をひっぱる円。
「い、痛いのであります!」
「これは‥‥瞬着? なら高熱と衝撃で剥がせるはずです」
 歩が化学的知識での解決案を提案する。
「美空を殺す気かっ!」
「ここは拙者に任せてもらおう‥‥」
 居合い抜きに構える侍。芸術的な見切りで、お面だけを切り落とすと云うのか。
 皆固唾を呑んで結末を見守る。
「きええい!」
 すぱーん! とエアーソフト剣で正面からお面を強打する。
「‥‥取れんな」
「当たりまえだっ!」
「お医者様の中にお客様はいらっしゃいませんか〜?」
 冷静におっとりと動転している円。
「何かあったのか‥‥?」
 通りすがりの怖いお姉さま、フローネ登場。目を輝かせつつ、歩が事情を説明する。
 娘と同じ年頃の子供が被害にあっていると知れば、彼女も黙ってはおけず、ペティナイフを取り出し、肌に密着していない部分を切断したものの、決め手に欠く。
「そうだ! こんなこともあろうかと、接着剤中和剤が!」
 歩はリュックから薬を取り出す。持っていたのなら早く使いなさい。
「助かったであります‥‥」
 お面が取れたのを確認し、フローネはその場を離れる。
 生還した美空を連れ、大慈はお面屋を締め上げる。警護三人も事情聴取に加わり、一つの証言を得た。
「独り言を言いながら、お面を一つ一つ手にとって薄ら笑いを浮かべていた男がいたな‥‥」
『あ、怪しすぎる!』
 全員でハモった。


「宇治金時を特盛で頼む」
 祭といえばコレ、カキ氷。男らしくかき込み、キーンと来る頭痛に頭を抑える。ああ日本の夏。
 そのまま今川焼きの屋台に向かう。冷えた身体を暖めるのだ。
「五つくれ。なに? 小豆が四つしかない? カスタード等は邪道だ。白あんで頼む」
 甘味を堪能して幸せ顔の信一郎を見送りながら、後ろに並んでいたフローネが注文する。 
「カスタードを頼む」 
 ドイツ人の彼女にとっては、カスタードこそ自然な味。これが日本では邪道なのかと一口食む。
 ぼたっ。
 今川焼きを落とすゲルマン女性。
「ほ、ほぅ‥‥これは、私に対する‥‥挑戦だな。犯人を見つけたら逆さ釣りにしてやるわ」
 表情こそ変えないものの、汗を浮かべながらハーハーと口呼吸を始めた。


 不可解な事件が多発している、そんな情報が本部へと集まってきていた。
「あっちの店で食べたたこ焼きにイカが入っていると大騒ぎになっていたぞ」
 金魚と今川焼きを差し入れに来た信一郎が伝える。
「おめんに接着剤がぬってあったんですって」
 桜花の報告を聞き、郷田はむぅ、と唸った。その脇で、小雛に膝枕しつつ無線連絡を受け取る白石。
「今川焼きのカスタードがマスタードになってたって連絡が‥‥」
「確かに字は似ていますけど‥‥」
 白石の太股に顔を埋めてる小雛、間違えるかしら? と首を傾ける。
「随分子供じみた悪戯してくれるじゃないのっ」
 桜花は憤りを隠せない。
 祭りが何者かに狙われていた。それを現実として受け止め、青ざめる白石を見て、ほらみなさい、不安がらせてるじゃないの! と再び抱擁する。
 そこに登場子連れドラゴン。
「お〜、夏音! 久しぶりだな〜。一緒に温泉に入って以来だな?」
『一緒に温泉!?』
 何故か桜花、美空が声をそろえる。
 郷田君は硬直していた。
「兄上‥‥いつのまに」
「待て待て。浮気はしてないってばっ‥‥裸で抱き合ったけど」
『裸で!?』
 再びステレオ式に騒ぐ二人。
「だ、大慈くんっ!」
 美空にしばき倒されてる彼を引っ張り、本部の影でしぃー! と内緒ポーズをした後お互いに意識し赤い顔でそそくさと戻ってきた。
「そうだ、何やら悪さする輩がいるらしいから、気をつけろよ?」
「美空も被害にあったであります」
「何かあったら、教えてね」
 桜花が二人に手を合わせる。
「おう。あ、なぁ、着ぐるみの上に着られる特大浴衣はあるか?」
「丁度信一郎さんの為に作った時の予備があるから」
「これで盆踊りも万全なのであります」
 仲良く手を繋いで去り行く二人。
「妹かと思ったが恋人なのか‥‥」
「そうみたいね‥‥」
 郷田と桜花はその光景を眩しそうに見送った。

『間もなく盆踊り大会が始まります』
 白石はカンパネラ音頭、と題されたテープをデッキにセット。
「姫。一緒に踊っていただけませんか」
 響は、何かが起こるならこの盆踊りとコンテスト、そして花火であろうと予測し、カレンを守るために抱き寄せる。
「私、盆踊りなんて知りませんわ」
「大丈夫です。僕に任せてください」
 ハートのエースを取り出し、口付けを行う。
 見詰め合う二人。甘く切ない夏夜の予感。
 校庭の拡音器より流れ出すランバダ。
 身体を密着させ、擦り寄せた腹部を軸にして腰をくねくねと振り始める。カレンをくるくると回転させて正面に固定し、顎を持ち上げさせ。
「どこが!?」 
 冷静沈着な響ですら思わずノリ突っ込みしてしまう見事な導入。
 エロを超え、官能さ故に芸術に達しようとする程、情熱的に身を震わす小雛の姿に、観客がどよめく。戯曲サロメを思わせるシーンにおひねりが飛ぶ。
 短めの浴衣から、暴れて飛び出さんばかりの乳房。露出する白く眩しい太腿。
 もう辛抱たまりませんわっ! と飛び出す桜花。
 血の海に沈む佐渡川。
 本部席に顔を伏せ、見ないように頑張る信一郎。
 カレンを抱きしめる腕に力が入る響。
 パラパラを踊っている公星。 
 浴衣をはだけて煽情的にすりよってくる大慈をかわしつつ、美空はテープ交換に走る。
 チェーンジ! そして流れるサンバのリズム。
「ウッ、ハっ!」
 率先して踊りだした幼女は、白石がパチン。と音楽を止めるまでの間、一応の責任を感じてか懸命にダンスしていた。
 脱線より回復し、三味線太鼓にあわせて楽しげに踊る参加者。
 嗜みとして、完璧に踊る小雛。盆踊りでも非常に色香を漂わすのはお約束。
「残りはコンテストに、花火でござるな」
「あ、私コンテストに‥‥出たいです」
「見たいです! 出てください! 舞台下からパンチラが見れるかもしれない!」
 素直な男の子に幸あれ。


「騒ぎが直ぐに沈静化してしまうのは何故だ?」
 功を奏さない妨害策に焦り、苛立つ枝島の視線の先はコンテストの舞台。響に手を引かれ、登場するカレン。
 響は、奇術でダリアの花飾りを出し、彼女の髪へ挿す。憎い演出で強力にアピールする。
 次は天使の浴衣で登場する円。恥ずかしさを乗り越え、ミニ丈でちょっと大胆に攻める。 
『皆さんとっても素敵です。では、最後の浴衣美人さんの登場です』
 明度を落とした照明の中、女性が現れる。
 目を細める観客達。突然、彼女のバックに強烈な明かりが出現。
 浴衣の薄布を透し、肉感的な肢体のシルエットが浮かび上がる。
 舞台上の明るさが戻れば、そこには完全に出来上がっている小雛の姿。
 視線に悶え、濡れた視線を皆に送る。
「見えないんですけど」
 美空は大慈の目を両手で塞ぐ。
「いいわ‥‥鷹司さん、最高よ!」
 演出協力者の桜花は素早くシャッターを切っていた。
 舞台が最高潮の盛り上がりに達した瞬間を狙って、厚化粧で浴衣を着衣した土佐犬型キメラが舞台に駆け上がる。
「我が裏生徒会が生み出しキメラよ! 祭りを恐怖で埋め尽くしてしまえ!」
「裏生徒会だって?! 俺たち闇の生徒会に対する挑戦だなっ!」
 槍を装備する大慈。目隠し続行中の妹。  
「助太刀するぞ」
 不測の事態に備えて持ってきた戦斧を、取りに行ってから舞台に上る郷田。
「コンテストが危ないと思っていたわっ!」
 袖から飛び出す桜花。
「おぬしらの悪事は全てお見通しだ。祭に紛れ、人々に害を為すとは不届き千万‥‥」
 ご存知ゴールデン公星。
「皆のお祭りを踏みにじるなんて許せません」
 恥ずかしいの我慢して出場したのに、台無しにされてたまるもんですかと、円は薙刀を構えた。
「折角のデートに水を差されて、引き下がる訳にはいきませんからね」
 響も不快感を示し参戦。
「何故邪魔をした‥‥」
 噴出す鼻血を力に変え、歩は怒る。
 標的となった小雛は、襲い来る猛獣の攻撃を見切り、その浴衣を引き裂かせる程度で回避した。
「ああっ。小雛は明日からどのような顔で表を歩けばいいのでしょう‥‥」
 乱れた衣裳から肌を見せ、羞恥に悦び、身体を振るわせる彼女。
 観客を盛り上がらせ、キメラ登場を只のアトラクションへと変えた。
 今がチャンスと猛獣をボコボコにする能力者達。最後に奇術で猛獣を消す響。
「そこまでだ。枝島平八郎」
 枝島の逃走をフローネが阻む。
「なぜ俺の名を!?」
「悪戯に使われた物の入手経路を調査したのだ。購入者をリストアップし、定期的購入ではなく、急に大量購入した者を中心に裏を取る」
 この短期間の間に、顧客情報を得る為に先方を脅す事も厭わない執念の捜査を行い、彼女は真犯人の正体へとたどり着いていた。
 本当に怒らせると怖いねーちゃんである。
「だが最後に笑うのは俺だ!」
 彼がスイッチ押すと、校庭スプリンクラーが作動を始める。
「配布されたあの浴衣には、水に反応する腐食剤が仕込んであったのだよ」
「それなら平気よ! 桜花さんが見抜いていたわ!」
 白石は勝ち誇る。その肩をぽんぽんと叩く桜花。
「‥‥あの後小雛さんが着付けにいらしたでしょう? それで、その、夢中になってチェック忘れちゃった‥‥」

 時は止まった。

「こんな事をして何になるんです!?」
 校庭に歩の声が響く。
「夏祭りが中止になったら、浴衣姿の女生徒が見れなくなるんですよ!?」
「知ったことか! 貴様だって浴衣姿より裸の方が見たいだろう!」
「見たい! ああ見たいさ! でも、結い上げた髪やうなじ。すれ違ったとき香るシャンプーの匂い。普段制服の女生徒がこの時だけ見せる一面を、貴方は台無しにしようとしているんですよ!?」
「うぐ!?」
「女性にフラれ続け、僕も貴方の様に世界を恨んだ事もありました。『こんな世界壊してやる!』‥‥と。だけど気付いたんです。テロを起こしたら何も残らない。だけど、誰かが起こすテロを止れば女性から好感を持って貰えるんじゃないかって!!」 
 周囲はドン引き。しかし嘘偽りの無い言葉は、枝島の胸を打った。その手からリモコンが滑り落ち、スプリンクラーが止まる。
「俺はなんて事をしちまったんだ‥‥。お前の様な奴でさえ前向きに生きているというのに‥‥」
 君は悪くない! 枝島を抱き締める歩。
「コレにて一件落着〜」
 抱き合う二人を一括りに縛り上げ、本部裏に連行する公星。
 フローネは二人を逆さに吊るす。お手伝いする加賀。
「あの‥‥なんで僕まで‥‥?」
「なんだか危険なので‥‥」
 円は申し訳なさそうに視線を外す。
「ふむ、コレが愉快犯というモノか。資金繰りから考えれば単独犯とは思えなかったが、何かの組織を背景に暴れていた訳だな」 
「裏生徒会とはなんでござる?」
「奴らは恐ろしい闇の組織だ。今日もまた誰かの依頼を受け、暗躍しているだろう」
 知ってる事をペラペラとゲロする枝島に、カレンは青ざめる。
「カレンさん、どうしましたか?」
「な、なんでもありませんわっ、さあ花火花火!」


 祭りの最後、盛大に花火が上がる。
「一瞬の内に咲き儚く散る。だから花火はこうも切なくも美しいのかもしれませんね。また一緒に来ることができたらいいですね」
「し、しかたありませんわねっ」
 カレンを赤面させている響を参考に、歩も攻める。
「また一緒にくることが出来たらいいね!」
「ごめんなさいっ‥‥」
 円に涙目で逃げられてしまう本日のヒーローだった。
「あ〜、白石。先日こんな物を貰ったんだが、いるか?」
 郷田に超線香花火をプレゼントしてもらい、悦ぶクラス代表。
「あら、いいわね。本当に‥‥お疲れ様。今度は友達だけで集まって線香花火でもしましょうか。ふふふ」
「はいっ!」
 プレゼント現場を桜花に見られ、信一郎は咳払いを繰り返す。
 男子に怯え逃げてきた加賀を引きつれ、小雛は女性陣を取りまとめてハーレムを形成する。
『たまやー』
「ひゃ!?」
 皆が上を見てる間に、小雛は円に優しくボディタッチ。
「鷹司さん‥‥?」
 男性嫌いだけれど、女性好きと云う訳ではない彼女。小雛の熱視線に汗をかく。
 見れば、白石は息を振るわせて彼女に身を預け、桜花はそんな光景を、愛おしげに見守り、適度に手を出している。
「こ、心の準備が‥‥」 
 フローネは思う。
 愛娘の学園。本当に大丈夫なんだろうか? と。 
「若さとは素晴らしいな」
 公星は最後の花火を見上げ、口笛を吹く。 
「疲れたであります〜」
「よし、帰るか〜」
 眠た気な妹を背負うお兄ちゃん大慈。
 おやすみなさいが皆の口から零れ、解散ムードが漂う。

「皆さん、今日はありがとう‥‥」
 白石の感謝の言葉で、夏祭りは閉幕した。