●リプレイ本文
一年クラス代表部員、白石夏音(gz0225)は、参加者控室の扉を開け、中を見ずにまず頭を下げた。
「変な企画でごめんなさいっ! 今日はお集まり頂いてありがとうございます!」
誰もいなかったらどうしよう? 恐る恐る顔をあげれば、室内に五人もの参加者達。
「おもろいCMになればえぇな♪」
テーブルの上に胡坐をかいている鳳(
gb3210)。美少女の様な柔らかさと、お笑い芸人の逞しさを併せ持つべっぴんさん。
「おう。白石」
その脇で腕を組み、どっかり腰かける郷田信一郎(
gb5079)。学園番長の重厚さと、無垢な赤子の純粋さを兼ね備える、超硬派男子学生。
「白石様、ご機嫌いかが?」
気がつけばすぐ斜め後で微笑する鷹司小雛(
ga1008)。天使の優しさと、悪魔の妖しさを身に着け、今日も女子に萌えている素敵なお姉様。
学園に来てからのドタバタで、知り合いとなった友人達。
彼等の好意に安堵する白石は、そのままもう一人、知ってる顔の女性の元に足を運ぶ。
「参加、ありがとうございます!」
ティーカップを口元に運んでいた美環玲(
gb5471)は、突然の出来事に目を丸くし、表情緩めてクスクスと笑いだす。
あれ? 失敗に赤面したクラス委員は、そこで傍に佇む、双子の様にそっくりな美環響(
gb2863)へと視線を移した。
「お久しぶりです、白石さん。僕の事を覚えて下さっていた様子ですね。驚かせてしまってすいません」
前回は女装していたんです、そんな告白に絶句する彼女に、響はレインボーローズ片手に完璧な微笑を決める。キラッ。
「改めて自己紹介しますね。美環響、男性です」
「玲です。学園CMを成功させますわ!」
気品のある仕草で上流階級風にお辞儀した後、むんっと可愛らしく気合を入れるお嬢様。
「兄妹でいらっしゃるんですね!」
ぽんっと手を叩く白石に対し、二人は視線を合わせる。そして響は人差し指を口に当て、玲は悪戯っぽく微笑んだ。
「それは秘密です」
「女がより美しくなるのに必要なものは何かご存知かしら」
秘密が女をより輝かせるのですわ、と暗に匂わせたのだが‥‥。
「‥‥本気の恋?」
必死に答えを捻りだす白石。
「激しい営みかしら」
真顔でドエライ事つぶやく小雛。
「化粧品とか」
郷田の答えはとっても現実的。
「太極拳やな」
あながち間違いじゃないかもしれない鳳さん。
それで答えはなに!? と皆が一斉に視線を向ける中、リアクションに困って汗する男女。
「あ、いえ。それも秘密です‥‥」
運命のペア作成。
アピール演題を見て、最初の一組はあっさりと決定する。
「はい。美環さんと鳳さんのペア。二人ともアイススケートなの。息ピッタリかも。」
響にはタキシード、そして鳳にはドレスが渡された。
「よろしくお願いしますね」
「よろしゅうに! 人魚姫とかミニはないんかー?」
鳳は嬉々として更衣スペースにダッシュして行く。
「次は郷田さん。演題は組体操です。ペア希望あります?」
郷田は、二人組で行う事から組体操を素直に連想していたのだが‥‥女子とのペアになる事をすっかり失念していた。
残る小雛、玲、白石を順に見て、仁王立ちのまま硬直する。
知り合いだからこそ、過剰な肉体的接触は恥ずかしい。
しかし、今日知り合ったばかりで触れ合うのも恥かしい。
しかもウェディング姿なのである。
立ち尽くす郷田を見て慌てた白石は、運動神経の良い小雛を選出する。
「じゃあ、郷田さんと小雛さん」
「お、おう」
「優しくしてくださいまし‥‥」
以前に半ヌード姿まで見てしまった事がある相方に、右手右足を同時に出して歩く郷田と、ドレスをうっとり見つめながら更衣室に向かう小雛。
二人を見送った後、白石は玲に微笑む。
「じゃあ、私達がペアですね。演題は‥‥か、甘味限定フードバトル!?」
「ええ、甘味限定なのは、私の好みです。いっぱい食べて健康な体を維持するのが大切だと思うんですの。そこをアピールいたしますわ」
笑み絶やさぬ彼女に、私がタキシード着ますね、とドレスを渡しつつ、今月の体重がピンチな感じの白石であった。
アイスダンスは、フィギュアスケート競技のひとつ。氷上の社交ダンスである。
曲に合わせ、時に優雅に情熱的にアイスダンスを踊る。能力者ならではの力強さと繊細な演技がアピールポイント。
彼等の身体能力は、常人のそれを遥かに上回り、特別な訓練なしにオリンピック選手以上の演技が可能なのだ。
優雅な動作、指先から爪先まで洗練された演技。完成度でリードする響に対し、躍動感と生命力、そして自由な発想で共に演技する鳳。
「なかなかやりますね」
「冬になると実家の裏の川が凍っててな、よく裸足で滑ってたんや♪」
いつしか二人は、技を競い、そしてお互いを高めあう。
ぎゅりゅるるん! っと六回転ジャンプを決めたチャイナっ子に対抗し、響も高速でスピンをし、相方の腰を抱きよせる。
「こんなのはいかがでしょう?」
華麗に振り回し、最後に両手で上に上げ支える大技。
鶴拳のポーズでアドリブを入れていた鳳を下ろすと、銜えた赤バラを相方に口移しで渡す。じゅてーむ。
「素晴らしい演技ですわ‥‥」
私も女子とアレをしたいとリンクを見つめる小雛。
組体操どうしよう! と絶賛悶絶中の信一郎。
上品な拍手を送る玲。
「次は俺が目立つ番や!」
鳳が投げ入れられた青竜刀をキャッチし、ヒュンヒュンと振り回すと、曲もガラリと変わる。
「これを」
玲が響へパスしたのはディアボロ。ジャグリングの一種の曲芸空中コマである。
ワイヤーアクションスタントのような、目の覚める演武。まさに格闘ダンス!
鋭さと柔軟性、そして今度は完成度で鳳が勝り、中国武術の展示会の様。
響はトリッキーなアドリブで対応する。繰り出される刃をスピンとジャンプ、上体反らしでかわし、空中コマで反撃。
向かい来るコマを、銀色に輝く刃の先端で受け取る攻防の末、曲も終りに近づく。
最後の瞬間、手にしたディアボロを奇術で細剣に変える響。互いに武器を喉元に付きつけ合ってのフィニッシュを形作る。いつしか鳳の胸元にはレインボーローズが‥‥。
「ほっ!」
突然スカートをめくり上げる鳳。するとそこから大量の野良ネコが飛び出して散っていく。まさかの奇術返しで両者痛み分けとなった。握手を交わす二人。
「最後にお株を奪われるとは‥‥流石は僕の花嫁です」
「中国コマでの演武、おもろかったで。今度AUKVでの曲芸に付き合ってーな」
次なる場所は校庭。前演技でハードルが高くなり、同じ身体を使った演目への不安を吹き飛ばす様に、バイクモードAUKVに二人乗りで派手に登場する二人組。
ウィリー、ドリフト、マックスターン、両手離し運転、V字バランスなんでもござれ!
宛ら敵の攻撃をかわし戦場を駆け抜ける如きである。
ジャンプ台からダイブする車体。そこから更に跳躍する小雛。
「ゆくぞ! AUKVアーマーモード!」
タキシードを彷彿とさせる塗装のAUKVを空中装着する郷田。これで肌と肌の接触に惑わされる心配もなし! 彼はバイクアクションのアイディアをくれた鳳に親指を立てて見せる。
そこに空中から舞い降りた小雛が、肩車で合体。
「あんっ‥‥」
ドレスの裾を翻し、股を彼の項に預ける小雛はなぜか高揚している。AUKVの襟と何か未知との遭遇があったのかもしれない。
刺激的な吐息に一時停止した郷田だったが、小雛が嫌がってる様子もないので再起動。そこから頭を抜き、膝の上を持って後ろに引っ張る。
小雛は彼の膝の上に立ち、両手を広げながら前方に体重をかける。ハタハタとはためくスカート。
組体操奥儀、サボテンである。
皆がいろんな意味でハラハラと見守る中、勿論これだけでは終わらない。小雛は体を反転させて郷田と向き合うと、手を繋ぎ、互いに重心を後ろにかける様にバランスを取る。
再び小雛は郷田に抱きつくと、腕を広げながら後ろに倒れる。新郎は新婦の足を持ち、重心を後ろにかける様にバランスを取りながら、そのまま回転を開始。
「まだまだあ!」
更なる大技に派生させようと、郷田が雄々しく叫ぶと、彼の両腕が青白い炎に包まれる。
「まだ先があるんかっ!」
「何をする気ですの?!」
「まさか、あの天使の技を‥‥」
意味深に響が呟く。
「そういえば老師に聞いた事があるで」
雑談花咲くギャラリー。
ぺろり。
その瞬間、遠心力でスカートは派手に捲れ返る。
眼前に広がった光景。それは純情番長の許容範囲を遥かに超えていた。
彼は走馬灯を見ながら一瞬でブラックアウト。
剥き身の足を支えていた両腕から力が抜け、すぽーん! と高速射出される花嫁。これは予定の演技か事故か。白石が悲鳴を上げる。
「小雛さんっ!」
音速に迫る空気抵抗の中、くるりと体を入れ替え、着地を試みる小雛。
そこで我に返った郷田、錬力を漲らせ、竜の翼を駆って着地点に滑り込む!
「うおぉおお!!」
砂煙をあげつつ、見事に花嫁をお姫様抱っこキャッチし、拍手喝采を浴びながら感動の救出劇となった。
「‥‥悪い。俺の所為で危ない目に合わせてしまったな」
「あなた。しっかりしてくださいまし‥‥」
流し眼で寄り添う小雛の胸元を直視してしまい、信一郎君はバッタリと後方に倒れた。
白石が膝枕で郷田を寝かせ、団扇でその火照った顔を扇ぐ。
「あらあら、この後模擬戦の相手をしていただこうと思いましたのに」
それも信一郎君には刺激が強すぎた事でしょう。
最後の舞台は、学食。
用意されたケーキや和スイーツの数々。飲茶ないの? と鳳がうろつき、復活した郷田君が糖分を求めながらも懸命に我慢する中、勝負が開始。
「ああ、良い絵ですわ‥‥」
代わりに監督となってカメラを回す小雛は、次なる料理にソフトクリームをオーダーし、その口元を拡大撮影して悶える。
ワルツをバックに、優雅ながら猛烈な勢いと云う矛盾を両立させる玲。
「いろんな甘味を一度に食べれるなんて幸せです」
対する白石も健闘し、苛烈なフードバトルは一般人なら向こう一年、甘い物を見るのも嫌になる事請け合いの激戦となった。
ひきつった笑顔で見つめる響、思わずブラックのコーヒーを飲む。それ程に苛烈。
互角の勝負に、新たな一手。玲は素早い手捌きで、自分のスイーツを白石の皿に上乗せする頭脳プレーを展開。それを阻止せんとする攻防が生まれ、食べ進める二人の間で高速でフォークがぶつかり合い火花が散る。
制限時間残り半分、ついに白石の食が鈍る。CM撮影の尺も考え、ここでまさかの特別ルールを設置。
助っ人を要請する彼女、まだ誰かを指名する前に、郷田君が椅子に座る。
「白石、ここは俺に任せろ!」
実は甘党な番長、今まで抑圧されていた欲望を一気に爆発させ、ケーキを飲み込んでいく。そして幸せそうなお顔になった。
「なら、私も!」
玲が助っ人ベルをチーンとならせば、鳳が滑り込んでくる。甘味とか関係なく、純粋な食欲で食べ進める。
その間に白石は必死に自転車をこぐ。ぽっこりお腹解消!
負けじと玲も響とダンスを踊ってカロリー消費。
「ぷはー。もうええわ」
無理をせず、満足して早々に食を切り上げる助っ人に、再びベルをチンチン鳴らす玲お嬢様。
え? 僕ですか? そんな顔をして響が椅子に座り、お菓子とご対面。
「き、奇術で食べたふり‥‥とかはダメですよね。そうですよね」
玲と同じ作法で、シフォンケーキを紅茶と共に頂く。風が優しく彼の頬を撫で、まるでそこは宮廷のバルコニーの様な優雅な空間へと変わった。
ただし、スピードは非常に緩やか。
「ああもぅ! 私が復帰しますわ!」
「流石に‥‥無理だった‥‥」
玲は謝る紳士の膝の上に座る。隣を見れば、体の大きな郷田君、俺は決して甘党な訳ではない! と釈明しつつ、ぺろりぺろりと平らげていく。
「思わぬ強敵ですわね‥‥」
玲の復帰にあわせてアイスキャンディをオーダーする小雛。エアバイク頑張ってる白石の胸元を映す事も忘れない。
「血糖値にいいんやで」
「ありがとうございます。生き返ります」
黒中国茶でお茶会を始める鳳と響。
そしてラスト十分。郷田さんに甘えっ放しはダメ! と戦線復帰する白石。
「いや、俺は別に‥‥」
辛くないぞ? と答える彼の膝の上に座り、最後のバトル開始!
その執念、その根性、その胃袋。
カンパネラの恐ろしさをまざまざと見せつける演出となったでしょうか‥‥。
照明消された会議室、シルエット姿の学園上層部が円卓に座る中、中央に正座しつつ、CM監督はスクリーンに映像を照射する。
バグアとの戦いの歴史、旧カンパネラ学園の崩壊、そしてラストホープへ!
映像は上空より学園に迫り、そこで生活する生徒達を通り過ぎ、スケートリンクに辿りつく。
氷上を優雅に舞う貴公子。手を繋ぐ花嫁は、はいやぁ! と掌を振りかざす。
「氷上の気功師っていうギャグみたいです‥‥」
解説を入れる監督。皆無反応。
両者の動きは激しくなり、その演技は目を見張る完成度へと変化し、ちょっと目を離した隙に二人は夫婦喧嘩の如く戦いに発展、最後はイリュージョンで締める。
『カンパネラ学園は、躍動感に満ちている!』
学園の象徴の釣鐘、そしてその下、二尻のAUKVが疾走し、ドリフトターンを決める。お嫁さん、ドレスから胸がこぼれそうです。
「あ、良い子はマネしないでねってテロップを入れる予定で‥‥」
監督が注釈するも、皆無反応。
ダイナミックに組体操。花嫁のスカートがめくれた瞬間、ガタガタと身を乗り出した評議員が数名。机にねそべって下から覗こうとしてる人まで出現。
最後はアクシデントを見事にリカバーし、ドレス姿の女子を抱え仁王立ちを決める男子のいい顔がアップになる。
『カンパネラ学園は、仲間を見捨てない!』
テーブルマナーを守りつつ、スイーツを食べる女子二人。能力者の常識外れた身体的特徴を、別視点から証明した貴重な映像であろう。
ソフトを舐め、アイスバーを咥え、そして自転車を漕ぐ胸が躍る。踊るドレスの裾から生足がチラリ。
白い目で見られながら、針の筵に座る監督。
やがて壁と化した皿を両脇に、甘味クイーンとなった玲が優雅に紅茶を飲みほす。
「残りのスイーツも、全てスタッフが美味しくいただきましたわ」
『カンパネラ学園は、地球にも優しい!』
夕陽をバックに、響と鳳が抱擁し口付け交わす。
カメラが回転し、二人を祝福し拍手をする郷田と玲。小雛に不意に接吻されて、膝から崩れる白石が映る。
『己を鍛え、仲間と出会い、そして地球の為に。カンパネラ学園は、貴方の力を必要としています』
EDロールが終わり、部屋に灯が戻ると、評議委員は皆で視線を交わし合い、重々しく頷いた。
「没」
製作費の残りで打ち上げに出かけた一同。ひたすら謝る白石を慰める会になったのは言うまでもない‥‥。