タイトル:死闘! 闇のかるたマスター:聞多 薫

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/05/20 13:19

●オープニング本文


 人類最後の砦、ラストホープ。
 その一角にある、能力者軍事士官学校カンパネラ。
 若きエミタ適合者達が、鋼の鎧を身に纏い、人類の敵バグアの侵略から地球を守る為、日夜己を鍛える場所である。
 その敵は異生物ばかりではなく‥‥。
 夕暮れ時の空を覆う雨雲。それは学園に巣食う魔物との対決の始まりを告げていた。

「白石っ!!」
「ひきゃあぁ!」
 一日の雑用を終え、さあ帰って乙女ゲーしよ、と帰路に付いていた一年某組クラス代表である白石夏音(gz0225)は、駆け寄って来た同級生の男子生徒を見、精一杯自衛の悲鳴を上げた。
 彼は学生服の下だけを穿いていない、おパンツな変態ルックだったのである。
 追いすがる男子の追走から逃げ、教室に立てこもり、開かれんとする扉をガタガタと押さえる攻防の末、突入を許し、迫られ、がしっ! と腕を掴まれる。
「白石頼む! 仇を討ってくれ!」
「ダメっ! 私達只のクラスメートだし! そんな仇なんて‥‥」
 静寂が辺りを包む。
「カタキ‥‥ウチ‥‥?」
 男子生徒は悔し涙を流しながらこっくりと頷き、事の顛末を語り始めた。

 学園には数多くの部活が存在する。
 運動部、文化部、一見なんの変哲もない名前も並ぶが、そこはカンパネラ、軍事行動に即した部活も見受けられ、一般学校と多少趣を異にする。
 そもそも部活とは、活動における単位の総称にすぎず、学園では部を一人でも申請することが可能な為、それは生徒の数ほど存在している。
 部費を貰える様な部は多くなく、同じ名前の部活や、「部」とつかない部も存在し、その全貌を把握しているものは居ないと云われる無政府状態である。
 故に存在するのだ。無法者の集まる闇の部活が。

 広い敷地内、何棟目かのクラブ棟、その最上階北隅。日も落ち外は暗いと云うのに、廊下には明かり一つ灯っていない。
 見上げた扉にはスプレー書きの標章。そして『かるた部』の文字。
「失礼します」
 ノックし、「どうぞ」を待たずに踏み込む。
 広々とした殺風景な空間、真ん中に置かれた十畳の畳。
 そこに正座する、漏れなく怪しい雰囲気を備えた数名の男子生徒達。見るからに不良、というアレである。
「懲りずにまた来たのか‥‥」
「ズボンを返してもらいに来ました」
 薄ら笑いを浮かべる相手に気押されず、堂々と対峙する白石。同級生の男の子、かるた勝負に連れ込まれ、負けた代償にズボンを剥がされていたのだ。
「俺達の言葉はコレだ」
 パシ、と札を切る不良。なぜかるた? と、そこは言わないでおく。
「訳の分からない事言ってないで、ズボンを返しなさい」
「だからかるたで俺達に勝てば返す、と言っている‥‥」
 ズボンは諦めてね、と男性生徒に告げて逃げ帰りたい所だが、背に隠れ怯え、縋るような視線を送ってくる彼を見るとそうも言えない。
「白石ならなんとかなるって!」
 気休めにもならない確信をされ、しぶしぶ座敷に上がる。
 部屋の周囲の壁に、戦利品の如く、犠牲となった生徒の顔写真と制服のズボンが貼り付けられている光景を確認し、白石は眉を顰めた。
「見ての通り俺達は不良だ。だが、只の暴力からは足を洗った。しかし、勝負の世界から身を引いた訳ではない。敗者を蹂躙し、その負け犬のような様を笑う。それは変わらぬ俺達の愉悦なのだ」
「単に自分より強い不良にボコボコにされて負けたからでしょ‥‥」

『──ボンタン狩。
 ボンタンとは古来より不良・ツッパリ達が愛用したとされる、ワタリが広く、裾が細い変形学生服である。
 彼等の抗争の中で、勝者の証として敗者のボンタンを奪う、これをボンタン狩と云う。
 時には下着までもを奪われたと云うが、それは恥ずかしめだけを目的とした低レベルな行いである。
 本来は不良の魂であり、自己主張の道具であったボンタンを奪う事に由る屈辱を目的とした。なぜなら、ボンタン奪われた不良達は、翌日から既定のズボンで登校せねばならず、それは自ら不良である事を否定したシャバい行為となるからである。これは侍ならば刀を奪われると同義。女性なら髪を切られると同じである。
 負けた時の為に二着ボンタンを穿いたツインターボ。
 自ら普通制服をそれらしくしたエセボンタン。
 そんな不良文化が生まれたのは、当然と言えるだろうが今回の件とはあまり関係ない』

 後ろでウンチクをたれる男子を無視し、白石は眼前に広がる五十枚の札を見据え、腕まくりして戦闘態勢に入る。
「そんな下品な行為、見逃す訳にはいきません」
「闇のバトルKARUTAの恐怖思い知るがいい‥‥」
 最初の歌が読み上げられ、ハイッ! ハイィイ! と電光石火に振り降ろされる二つの腕。そして‥‥。


 男子生徒の上着を腰に巻き、腫れあがった右手をさすってめそめそと帰路に就く白石。
「だから普通のかるたじゃないって言ったじゃん!」
「だったら自分でやればいいでしょっ! 大体なんで私にっ!」
「だって俺友達いないもん‥‥」
「‥‥あ、そう‥‥」
 しかしこのままでは終わらない。終われない。学園の風紀を正すためにも、スカートを取り戻す為にも、リベンジを果たさねばならない。
 こんな無法を見逃してなるものか!
 その夜。復讐の焔を背に、何度目かの夜なべ、幾度目かの募集ポスター制作に取り掛かった彼女。
『非道な闇かるた部に挑み、見事打倒して下さる方大募集!
共に戦っていただける方、一年クラス代表部、白石夏音までご連絡ください。メールアドレスは‥‥』
 学園に巣食う闇。一般生徒に忍び寄る恐怖。
 貴方はそれを食い止める勇者となるのか。
 その毒牙にかかる哀れな獲物となるのか──。

●参加者一覧

鷹司 小雛(ga1008
18歳・♀・AA
魔宗・琢磨(ga8475
25歳・♂・JG
風山 幸信(ga8534
43歳・♂・AA
桐生院・桜花(gb0837
25歳・♀・DF
RENN(gb1931
17歳・♂・HD
鳳(gb3210
19歳・♂・HD
郷田 信一郎(gb5079
31歳・♂・DG
東雲 凪(gb5917
19歳・♀・DG

●リプレイ本文

「皆さん、本当に大丈夫ですか?」
 寮の自室へ八勇士を迎え入れた白石は、勝負を前に最後の意思確認を行う。
「わたくしは問題ありませんわ」
 ハンドブックを読みながら、白石の手を握り優しく微笑む鷹司小雛(ga1008)。
「スカート、取り戻してあげるからね!」
「白石さん大変だったね‥‥しっかり制裁加えるから」
 桐生院桜花(gb0837)は奪取を誓い、優等生で大人しそうな見た目とは裏腹、東雲凪(gb5917)は結構怖い事を言う。
「毎度、厄介事に巻き込まれるんで、ちょち嫌になってたが‥‥こんな燃える事があるなら、是が非でも行かせて貰うぜッ!」
 熱い返事を返す魔宗琢磨(ga8475)。
 女子の部屋に緊張し、正座し固まっている郷田信一郎(gb5079)を除き、全員が同じ気持ちだと頷く。
「夏音さん‥‥これでばれないかな?」
 こそこそと物陰から手招きする柿原錬(gb1931)。彼は女装し、柿原凛として参加している。
「うん。柿原くん、可愛い」
 趣味な訳じゃないと主張しつつ、鏡中の自分を見つめる、そんな彼と面識のない参加メンバーは、文句なく女性だと思うだろう。
 そして、『一見美少女』がもう一人。チャイナドレスで決戦に臨む鳳(gb3210)である。
「あ、せやせや。着替えで思い出したんやけど、コレ」
 鳳クン、白石にチャイナドレスをプレゼント。
 彼女は瞳を輝かせ受け取り、桜花に着替えを手伝ってもらってお揃いとなった。
「それじゃあ行くか」
 本日のリーダーを務める風山幸信(ga8534)に促され、バグア基地をも壊滅させる事が出来そうな精鋭達は決戦に赴く。

「たのもーぅ! 勝負とはいえ女生徒を脱がす非道な連中。この黒龍‥‥じゃなかった、郷田が成敗してくれる!」
 威勢良く扉を蹴破る純情番長。
 臨戦体制で待ち受ける八人の不良達。
「飛んで火に入る何とやらよ!」
「たとえ夏音さんが承知の上だったとしても‥‥こんな狼藉、絶対に許さないわ!」
 怒り心頭、女子を泣かす者は滅する。桜花は今鬼となる。
 でも、見えないよう隠してから脱がせたのよね? ね? と、ややドキドキ小声で確認。赤面してその質問を遮る白石。
「まぁ宜しく頼むわ。しかし札覚えてっかなあ俺」
 飄々と挨拶した風山が、よいしょと畳みに座る。それを合図に、鷹司、桐生院、東雲、魔宗、柿原、鳳、郷田、風山の順に配置に付いた。
「貴様らにも教えてやろう。闇のカルタの恐怖をな‥‥」

 基本的なルールの説明が成され、お手つきや反則の基準が、彼らの手の内にある事が知らされる。
 郷田はその公平性を問い、敵味方問わずで適用される事を確認した。
「全て相手が決めたルールで勝負、か‥‥ヘッ、その程度の逆境、何度だろうと覆して来たッ!」
 ヒーロー並に台詞を決める魔宗。熱い男である。
「折角の勝負だ。景気良くいこうじゃねえか。俺が札を取られたり、お手付きした時には装備品をくれてやるよ」
 風山は追加ルールを提案し、こいつが手付けだ、とクォーツリングを畳上に置く。
 自信無えなら止めとけよ? と挑発する彼に、冷笑で答える不良達。
「安心しろ、お手つきでの脱衣は元々のルールだ」
「そうか。それと、あんたが負けた場合だが、ズボンを脱ぐんじゃなく白石さんのスカートを返して貰いてえんだがな」
「私も、そのオプションをつけるわ」
 桜花も同様のルールに身を投じる。
「好きにしろ。我らに負けはない」
「随分な自信タだな。勝負を途中で降りるのは無しって事で良いかい?」
「当然だ」

「うおお!? は、速えぇ」
 魔宗が焦りの声を上げる。
 死合は、序盤より三枚立て続けに不良側が取る展開で幕を開ける。ここまでは競技カルタの範疇内。 流石にカルタばかりしているからなのか、純粋に彼らの腕が勝っているのだ。
 胸元大きく開いた和服姿で、艶かしく横座り、妖艶な瞳で敵を見据える小雛が、札を取った相手の手を触り、胸からすり寄って揺さぶりを駆ける。
「この札、わたくしにくださいまし‥‥」
「それは出来ない相談だな‥‥」
 鼻の穴ピクピクさせながら耐える不良。色仕掛け懐柔は不発。
 なんとしても彼らのペースを崩さねば勝機はない。
 その道を切り開いたのは──。
「ハイィイッ!」
 まだ二文字程しか読み上げられてない状態で、風山が札を叩く! だが、それは無関係な札を叩いたお手つきであった。
「ありゃ、やっちまった」
 彼は靴下を脱ぐ。そして続く歌も同様に速攻で叩き、お手つきとなる風山。帽子を脱ぐ。
「スピードでは敵わぬと見て、出鱈目に札を叩く作戦に出たか。凡庸な」
 脱ぐものが無くなった時点で敗北だぞ、とせせら笑う彼ら。
「か、風山さん?」
 冷静な凪が心配する中、ハイィ! ハイィ! とお手つきを重ね、順調にズボンを脱ぐおじさん。
 まさかコイツわざと脱いでいるのか!? と不良達もざわめき出す。
「こういうの興奮するよねえ‥‥おじさんも好きなんだよ‥‥」
「いや、おじさん『も』とか‥‥」
 俺達は変態じゃねー! と抗議する不良を無視し、彼はコートを脱ぎ‥‥生まれ変わる。
 愛と正義の使者、中年バニーとなった彼、ウサ耳を取り出し装着すると、筋肉を誇張するポーズを決めた。
「おじさんの全てをもらっておくれ!」
 生娘のようにつるんつるんの腕と足で恥らう、興奮状態の三十路男性から、必死に目を逸らす不良達の瞳は、必然的にその真反対に座る小雛へと向けられる。前屈みで札を覗き込んでいる彼女の、殆どモロ出しと言っていい胸元をロックオン。
 彼女の隣に座っている桜花の目も、その双房に釘付けだったり。
 見たくないものと見たいもの、それらを両翼に配置された不良達に生まれる乱れ。そこに響く凪の声。
「ハーイッ!」
 味方がはじめて札を取り、これが更なる敵の崩れを呼ぶ。
 ならばと札を取る腕に攻撃をしてきた敵の手を、スパークグローブが弾く!
「てめぇ! 何着けてやがる!?」
「静電気が溜まり易いんでしょうか‥‥」
 腕への攻撃を見越した防御策。文句を言いそうな不良に対し、女の子に勝てないからってケチつける気? と反論を封殺。
「闇のカルタ‥‥打ち崩させて貰うぜ!」
 皆の仕掛けに背中を押された琢磨が、歌の読み上げと同時に、正面の敵に体当たり。取れない代わりに、取らせない。一人一殺の援護射撃である。
「我らのテリトリーに自ら踏み込んでくるとはな! 修羅の血が滾るわっ!」
 ここから肉弾戦が解禁。
「ハィイィイッ!」
「きゃあ!?」
 敵がカポエラの要領で足を振りまわして札を踏む。
「あ、足だと!?」
 足は腕の三倍力が強く、そして射程も長い。グローブごと腕を蹴られ、痛みに顔をしかめた凪の目つきが一瞬鋭くなる。
「そう‥‥そっちがその気なら容赦しないから」
「中々面白いマネするやんか」
 雑技なら負けへんで。鳳が逆立ちして足で拍手する。
 ペラリ、と捲れそうになるチャイナドレスを抑える白石。
「ハィイィリャア!」
 敵の中央に座った巨漢の男が、隣に座る小柄な男の足首を掴み、鞭の様に操る。
 札を取った小男は鼻血出しつつニヤリと笑う。
 コレにより、札の全ては彼らのターゲットとなる上、衝突すればタダでは済まない為、こちらの出足も鈍らざるを得ない大技だ。
 俺らもあれやろかー! 鳳はキラキラした目で隣の郷田を見てた。
「うう!」
 連続して札を奪われた柿原は、意気込むが故に、全く札を取る事が出来ないでいた。
『雰囲気に飲まれそうだ‥‥でも僕は一人じゃ無い!』
 普通にやれば勝利はない。彼は脱衣ルールの最中、女装する事で自分を追い詰めていたのだが‥‥窮地へと追いやられる。
「狩った服を着て女装を楽しんでいる、ちゅう噂。本当だったみたいやな」
「それで凛ちゃん狙いなのね」
 鳳と桜花、やーねーと井戸端会議開始。
 ピタっと止まる不良達。
「いや、おじさんは、男子を脱がせて喜んでいる仲間と聞いていたが」
 バニー風山さん、ここぞとばかりに話題に乗る。
 変態を見る目付きで露骨に侮蔑する凪。
「そ、そんな事はないぞ! 女子の制服は寧ろ‥‥」
 ききたくなーい! と飛び蹴りを入れる白石。
 これが反則となり、彼女は脱衣を迫られる。チャイナドレス故、脱げば即ち下着姿。
 羞恥妄想し、失神寸前となった白石を抱きとめる小雛。
「わたくしが代わりに脱ぎますわ‥‥」
 しかし彼女もまた和装。一枚脱衣は即ち半裸。
「お、俺が脱ぐ!」
 一部始終のやり取りに、一番顔を赤らめていた郷田が手を挙げるも、不良達に速攻で却下される。
 ハラリと舞い落ちる着物。まさかのトップレス&褌姿解禁。流石の小雛も、手ブラで胸を隠しつつ、羞恥に熱い吐息を漏らす。
 ゴクリ‥‥と、生唾を飲む桜花と不良達。生きててよかった。

 捨て身の色仕掛けにより、形勢は再び逆転した。
 鋭い手捌きで札を取る凪は、敵の動揺に付け込み、密かに覚醒を行う。
 奴を止めろ! と体当たりに出る相手に対し、悲鳴を上げて鳩尾に膝をめり込ませた。
「わっ、ごめんなさいっ!」
 反吐を吐く敵を見下ろす、優等生演技の裏に隠された氷のような刃。 恐るべし東雲凪。彼女は見事に一抜けを果たす。
「アンタらの動きは見きったで。こんなんなら実家のカルタの方が過激やわ」
 チャイナっ子は場札の全てを暗記完了。読み上げられる歌を最初三文字で判断すると、袈裟斬りの如き手刀で札を取る! 頭突きで敵の鼻を折る! 二人目の勝ち抜け。
「おのれ! だが、お前らは実質一人戦闘不能だと言う事を忘れるな!」
 自らの胸を庇う為、腕の自由が利かない小雛の事である。
 そんな彼女が気になって仕方がない桜花もまた戦闘不能に限りなく近かった。
 力任せに剛腕を振るい、思いっきり札を叩いていたものの、集中に欠いてスピードは出せず。結果、相手の手を腫れあがらせるだけに留まって、対面の三取を許す。
 知りたがっていた脱衣時の答えを、身を持って体験する彼女。スカートを脱いで渡し‥‥見たければ見ればいいじゃない! と涙目で開き直る。
「夏音さんごめんなさい」
「桜花さんごめんなさい‥‥」
 項垂れる彼女の腰に、大急ぎでタオルを巻いた白石は、共に涙を流した。

 緊迫の場面、不良達が闇カルタの意地を見せ、連続奪取。
「この下どうなってるか見たい? 見たいよねぇぇ?」
 バニー風山の挑発をあえて無視し、彼の正面が勝ち抜けする!
 やってきました兎さんの脱衣ショー。小雛や桜花の時と違う、曰く形容しがたいお通夜ムードが部屋を包む。
「責任とって入部させてね。うふっ」
 楚々とコスチュームを脱ぎ、身を摺り寄せていく。その猛烈なアタックに、なぜか不良の一人がポッと赤らんだ。

 一進一退。
 半裸の女子が半径三メートル以内にいる事実にショート寸前だった郷田が、ここで男気を見せる。仲間の為に死力を振り絞り、ゴツゴツの肉弾戦を展開。
「やるじゃねぇか‥‥」
「娑婆にこれ程の漢がいるとはな‥‥」
 力比べでグググ、と押し合う姿はまるでプロレス。
 二人の勝負に邪魔が入らぬよう、隣席の魔宗、体を張ったアシストで横槍をブロック!
「おっと、野暮な邪魔すんじゃねーよ!」
 郷田は敵をエルボーで粉砕し札を叩いた。
「取ったどー!」
 勝ち抜けの雄叫びを上げ、弾みで小雛と桜花を見てしまい、盛大に鼻血を噴いて崩れる純情さん。
「生きてるか〜?」
 ツンツンと巨体をつつく鳳。

 残る小雛、錬を横目に、俺がやるしかねぇ! と琢磨は唇を噛む琢磨。
 一つの札に山を張り、好運にも呼びあげられたそれに飛びつくと、背中を叩かれながら体を丸めて死守する。
「あと‥‥一枚‥‥」
 苦痛に顔を歪め、次の山を張る。今度は読み上げられた歌が違うと分かるや否や、敵の叩いた札を、無理やり力で奪う作戦に切り替える。しかしこれはファール!
「お手つきなんだな?‥‥覚えたぜ」
 上着を脱ぎ捨てた後、勇み足でお手付きをし、上半身裸となるも闘志は増すばかり。鬼気迫る姿に圧倒される不良達。
 彼の後方で応援しながら過剰に可愛く踊り、おっさん早く服を着ろ! と注意をうける風山の援護を受け、執念は実る。
 ほぼ敵と同距離にある札、互いに身を乗り出したタイミングを狙ってフックが飛ぶ。交差する腕、まさかの相打ち。グラリと前のめりに倒れこむ二人。だが札の上に倒れこんだのは、琢磨だった。
「勝ち抜けだぜ!」

 勝負は天王山。風山式応援踊りに、鳳と琢磨も参加して不良達に嫌がらせを行う。
 錬は早々と残り一枚になってから、ここまで脱落せず、驚異の粘りを見せていた。
 『皆が頑張っている、僕だけ甘えてられない!』
 得意ではない百人一首を、試合の中で習得するが、あと一手が届かない。
 スカートを奪われれば、女装がばれてしまう。ハラハラと見守る白石は、同時にずーっと恥ずかしい姿で場に座る小雛の身を案じる。
 彼女正面の敵は、もうカルタどころではなく、不審者となって小雛をチラ見の嵐。二人の札はほぼ手つかずの聖域と化していた。 
「白石さん、私に考えが‥‥これで勝負が決まるはずです」
 小雛さんの力なら負けはしないのに! そんな想いの白石に、秘策を耳打ちする凪。
 その内容に頬を染めるも、自分の身代わりとなって羞恥に耐える小雛の為、彼女は動く。繰り出されるのはまさかの奥儀『私が手ブラします』
 桜花も煩悩のままに動く。褌姿の腰に抱きついて視線を遮る。
「小雛さん、戦って!」
 両手の自由を取り戻し、それでもって結構嬉しい状態の小雛、眼帯の下の瞳を輝かせ、燃ゆ。
「今のわたくしに、敵はありませんわ‥‥」
 早さと怪力を兼ね備えた動きで、札を手にした不良を振りまわす程に無双し、完封で勝者となった。
「何とかばれずに済んだ‥‥」
 安堵する錬。五勝目をあげ、団体戦は決着したのだ。

「若い奴からかうのは面白かったな〜」
 勝利の立役者風山は、気がつけばスーツ姿。さよなら愛とBLの兎戦士。
「我らなど闇カルタ界では小物に過ぎぬ! 自惚れるな!」
 自虐的に負け惜しむ不良達の前に、鼻ティッシュの郷田立ち塞がる。
「今度はこちらの土壌で勝負してもらおう。俺達が勝ったならばこのような事から足を洗え」
「嫌と言ってもお仕置きはするけど」
 敗北でうっぷんを溜めていた桜花、ビンタの素振りを開始。
「ボンタンを生徒達に返すのも忘れるなよ?」
 回り込み逃げ道を塞ぐ魔宗。
『グォーン』
 AUKVを持ち出す凪。無言のままエンジンを吹かす。
 始まる大乱闘。不良達の悲鳴が響く。
 小雛は有耶無耶の内にスカートを入手、持ってきた新品とすり替え、錬と「今回の事は内緒に‥‥」なんて秘密の約束をしていた白石に渡す。抱きあう二人。
 下着姿に剥かれ、凪に「もうしないように」とお説教されてる不良達の肩を優しく叩く鳳。
「そのまんまやと部室から出られへんやろ。俺の服貸したるさかい♪ いやいや、遠慮せんでえぇよ♪」

 闇のカルタ部は女装変態部の二つ名の広がりと共に壊滅したのだった。