タイトル:レッツ遭難!マスター:聞多 薫

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/04/23 10:32

●オープニング本文


 窓の外は一面の黒。窓枠には白い雪がこびりつき、氷柱が並ぶ。
 強風に壁は軋み、轟々と音が響く。
 室内にはオレンジの明かり。そして顔を合わせる数名‥‥。
 そう、ここは極東の雪山。お粗末な山小屋である。

 なぜ彼等はこのような状況下に在るのか。

 今年初旬、極東ロシアにてバグアの動きが活発化しているらしい、そんな情報を掴んだ上層部は、今のうちに叩くべきだと、大規模なロシア奪還作戦を計画し遂行していた。
 その為にはまず、詳細な情報を集めねばならず、戦術拠点となる設備──軍事基地の建造も行う必要があり、UPC本部は、広く能力者達を募ると共に、カンパネラへの作戦協力依頼を要請した背景がある。

 カンパネラ──それはラストホープ内に建築された、巨大な軍事士官学校。
 そして、その学園に在籍するのは、所謂『能力者』と呼ばれる若き希望達であった。
 作戦期間中の極東は過酷な世界であり、そこに待ち受ける脅威はバグアだけではない。
 そこで、今後に備えたカリキュラムとして、過酷な自然環境下における訓練が開始された。
 当初はシミュレーションルームにて気温、気圧、湿度、酸素濃度‥‥様々なパラメーターが調節され行われる疑似体験の予定だったが、訓練教官はそのヌルい環境に猛反発した。
「予測不能、それが自然の怖さだ。用意され完全に予定された中での演習など、意味はない」
「シミュレーションで百回経験しようとも、実経験の一回にも及ばない」
 そう云った声が多く、事故に備えた十分なバックアップ体制を取り、そして事前に危険なカリキュラムである旨を明言しておく事を条件に、演習は認可された。

──カンパネラ研究棟『第二保険室』
 先月着任したばかりの女医、神楽坂泉美は、内線電話を受け取っていた。
「それで、私に?」
『ハイ。本カリキュラムでは、医療班の生徒達のバックアップが必要不可欠です。先生にも参加をお願い致します』
「そんな事より、学生の身体検査や適合テストの定期実施をですね‥‥」
『その件に付きましては、また後ほどお知らせいたします』
 事務的な返事を返す相手に、専任の先生はどうしたのよ、便利に使ってくれちゃって、と内心不満を表すも、分かりましたと受諾する。
 能力者の為の能力者研究を推し進めるにあたり、一般人との肉体的強度の違いを知っておくのは良い事だろう。
 そして予測するのである。この戦いの後、彼等に必要なのは心のケアとなるだろう、と。
「身体の方はそうだけど、中身は普通の子供だしね」
 自然環境訓練では、精神の強さも試されるのだ。


──訓練当日。
 グリーンランドのとある山脈、その麓に停まったトレーラー内で、指導教員の立案した演習内容が明かされる。
 事前に選定用意されたルートで登山し、粗末な山小屋で一泊して下山するのである。
 バグアとの遭遇にも備え、一晩を耐えねばならない。
 緊張感を高める為、と持たされたのは非常携帯食糧一食分。

「何で私まで〜っ」
 一人だけ武装もなく身軽で、モコモコに防寒着を着こんだ女医を助け連れ、時には荷物として完全に抱え、訓練生達は見事に山を昇り、目的の山小屋へ迫った。
 しかし、そこで天候が悪化、周囲はブリザードの支配するホワイトアウトした世界へと変化してしまう。
 常人なら命を落としたかもしれない。
 磁気の乱れ故か通信は途絶え、数センチの視界も利かず、自分が立っているかどうかも分からない極限状態の中、彼等はなんとか山小屋に辿り着く。

 そして冒頭のシーンとなるのである。

 バックアップ体制は整っている。嵐さえ収まればよい。きっとすぐに止むだろう、皆がそう願う一方で、最悪の事態に備え、不安に駆られた一同は、改めてメンバー同士で顔を寄せ合い、状況の把握と、今後の行動を相談し始める。
 こうして、いつ終わるとも知れぬ猛吹雪の中、自然と能力者+一般人一人の戦いが始まろうとしていた。

●参加者一覧

木場・純平(ga3277
36歳・♂・PN
夜十字・信人(ga8235
25歳・♂・GD
イーリス(ga8252
17歳・♀・DF
芹架・セロリ(ga8801
15歳・♀・AA
ゴールデン・公星(ga8945
33歳・♂・AA
Anbar(ga9009
17歳・♂・EP
箱守睦(gb4462
18歳・♂・DG
フィルト=リンク(gb5706
23歳・♀・HD

●リプレイ本文

 参加者は三十代の男性が二人。木場・純平(ga3277)とゴールデン・公星(ga8945)、両名二メートルを超える巨躯で心強い事この上ない。
 二十代二名。シャープな印象の男性、夜十字・信人(ga8235)、物静かな女性、フィルト=リンク(gb5706)。
 十七歳の青年層も二名。学園男子生徒の箱守睦(gb4462)、独特の佇まいが印象的なイーリス(ga8252)。
 子供二名。一見女子と見まがうアラブ系の男の子、Anbar(ga9009)と、掛け値なしの幼女、芹架・セロリ(ga8801)である。

「吹雪に閉じ篭められるとは運が無い。まあ、戦場でない分だけマシか。仕方ねえな。治まるのを待つか。自然にゃ逆らえねえもんな」
 Anbar(アンバー)が現状を口にする。
 轟々と唸りを上げる雪嵐。軋む山小屋。
 室内でも息は白く曇り、ランタンの微炎でさえ温かい。
 大変な事になってしまったと内心焦りまくる、医療付添教員の神楽坂。
「と、とりあえず全員! 全員こっちにっ! 演習だからね。演習」
 こっちも何もあまり広くない室内。体育座りで全員を集め、彼等の不安を解そうと前置きする。
(流石カンパネラ学園。此処まで徹底したセッティングとは、ロリに付き合わされ、正直面倒だと思ったが、楽しめそうじゃないか)
 夜十字は、この先起こる出来事全てが仕組まれた状況だと信じていたのである。


「三時間ごとの睡眠ローテーションを考え、早めにチームを組んでおこう」
 木場は、各年齢層、性別をバランスよく分け‥‥木場、夜十字、イーリス、セロリ。公星、アンバー、箱守睦、フィルト、神楽坂の二班を編成する。
 体力の消費を避けてか、単に皆で人見知り中か、静まり返った室内。
 均衡を破ったのは知り合いの二人組。窓の外を眺め、溜息一つついたセロリは、夜十字に振り向く。
「まぁ‥‥良いか。今日は頼れる兄も一緒だしな。 おい、よっちー、お茶」
「ロリ、飲み水の確保が生命線だってわかってんのか?」
 飲みたければ勝手に飲め、と適当に答える信人。
 その会話が呼び水となり、ゴールデンハム‥‥いえ、公星が映画で得た知識を語りだす。
「水は雪の溶け水を布に染みこませて吸うのが良いだろう」
「布切れに雪をつつんでテルテル坊主にして、室温であっためて飲むのがいいよね」
 不埒な光景を思い浮かべ、改案を述べる箱守睦。
「水は、胃の中で体温と同程度まで上げられてから吸収される。それに使うエネルギーが無駄だからな」
 俺にはこれがある、と火属性の剣ラジエルを見せる。
 おー、と沸く一同。
『おめでとうございます、生存フラグ1です』
 隅っこで大人しくしてるイーリスが妙なカウントを開始。
「もう一つ大事な生命線を忘れてるぜ」
 アンバーは小屋をコン、と叩いて見せる。
「たった一つの裂け目から吹き込んでくる冷気が命取りかも知れねえし。気を付けておくに越した事はねえな」
 成程、と皆で山小屋を点検する。
『おみごとです、生存フラグ2です』
 彼女のカウントは、全員に勇気を与えているだろうか。着実に夜越の準備を整え、一同は活気づいていた。
「救助がいつ来るか考えてみたのですけど・・・」
 フィルトは自分の考えを話す。口に出すことで皆を安心させたいのだろう。
「場所は分かっているので、最速なら明日のお昼に救助がきますし。天候が良いなら自力下山ですね。夕方以降は下山中夜になるのでもう一泊になりますね」
 丁寧に説明していく彼女の言に、異を唱える者は現れない。
「明後日にもなれば捜索開始するでしょうし、天候事情などで最悪を考えても学園の人員設備なら最長は明後日‥‥と、思うので大丈夫ですよ、きっと」
 フィルトが説明を終えるのを確認し、ジャンガ‥‥否、ゴールデンは再び映画知識を説く。
「そうなれば、問題は食糧か。与えられた1食は小分けにして少量ずつ摂取。保存時は凍らないように気を使いながら、明後日までもたせよう」
『計画性ばっちりです。生存フラグは累積3です』
 木場は全員の様子を見守り、こうした知識や試行錯誤、そして経験が本実習の狙いであろうと実感しながら、その和に頷いていた。
 
 最初のアクシデントは予想外の角度からやってきた。
 尿意、という悪魔が冷気に乗って膀胱を直撃したのである。
 最初にその標的になったのは一般人だった。
 女医は、トイレに行きたいと思い、恥ずかしながら山小屋を見渡したのだが、小屋の中には用具入れ一つ見つからない。
「えええ!?」
 思わず大声で叫んだ彼女に、皆が顔を上げる。寝ていた者も目を覚ました。
 我慢も限界を迎え、太股擦り合わせつつ女医は生理現象を告白する。
『おめでとうございます、死亡フラグ1です』
 場は騒然となった。
 通常なら「花を摘んでくる」「星を見てくる」と外に行けば済む話であるが、今は猛吹雪。
「音が恥ずかしいなら、俺が演奏をするが‥‥」
 丸見えなのになぜ音を恥ずかしがる! と激昂する女医。でもイザとなったらお願いね、なんて公星に頼む。
 決壊寸前の試練に耐える教員を救わんと、皆真剣になって対策に当たる。
「こんな現場は初めてだな‥‥その場で済ませろって環境しかなかったし」
 夜十字は自身の過去を思い浮かべる。
「隅でどうぞ! 横向いてるから!」
 元気よく携帯取り出しながら箱守睦が提示した打開策は、早い話がソコでしろってコト。
「ふざけないで! 匂いとか湯気とかヤなんですけどっっ!」
 それを一番我慢するのは他のメンバーであろうに、喉笛噛みちぎらんばかりに吠える神楽坂。ですよね〜と男子生徒。
「でも、外は無理です。女性陣で布を垂らして囲うのは‥‥」
 そう言いかけたフィルト、何かを感じ取り肩を揺らす。お迎えが来たらしい。
『おめでとうございます、死亡フラグです』
 イーリスの正確なカウントに赤面する彼女。
「それは良いアイディアね! フィルトさん、お先にどうぞ!」
「せ、先生こそ! 私まだ我慢できますからっ!」
 熾烈な譲り合いの末、体内の水分再吸収を促進させる為、二人はその場で押しくらまんじゅう風の運動を開始する。明らかに焼け石に水である。
 なんとかしてやりたい、そう悩む木場。紳士だけにデリケートな話題に弱い。
「もうダメーっ!」
 泣きながら扉に突進した女医を、彼が抱き止めたその時、歴史が動いた。


 生徒達の心をケアしに来て、自分の心が砕かれようとは思ってもみなかった‥‥と死に体となって横たわる泉美。
 干された下着とズボン。炎剣で炙られている。

 フィルトは真剣に悩む。いたすべきか、アレと同じ道を辿るか。
「キター!」
 突然立ち上がって叫んだのは箱守睦。男性陣初の犠牲者なるかと思われたが、彼はあまり恥じらいなく、ドアの隙間からちょろっと外に出して用を足す奇策に出る。
「凍傷になってもしらんぞ‥‥」
 アンバーの指摘にピタと止まる男子生徒。
「手で擦って温めながらとか‥‥」
 カウントしかしてなかったイーリスが珍しく発言。
 それって‥‥とツッコミを入れようとした夜十字の袖を、幼女が引っ張る。
「よっち‥‥おしっこ‥‥」
 ブルータスお前もか。
 数分後はわが身に降りかかる災厄かもしれない、そんな危機感が皆に広まり、不安が伝染する。必死に『エアヴァイオリン』を披露してなんとか皆を落ち着かせようと苦戦するゴールデンな人。懸命に口笛頑張る。
 女医を救えなかった木場、ここで体を張った策に出た。
「俺が出入り口直ぐにかまくらを作る! それまでこらえてくれ」
「俺も手伝いますよ」
 夜十字は幼女を引きはがして立ち上がる。
「俺も行きます。外に出てる時間を短くしたいしね」
 アンバーも志願し決死隊に加わった。
『外に出るのは死亡フラグ、しかしトイレ完成は生存フラグです』
 私もお手伝いしましょうか? とイーリスは申し出るが、女性は中で、と申し出を断る木場。結構フェミニストなアンバーも同意する。
「よろしくー! 今から寒いよー。着込んでねー、着込んだー? よーし開けるよー」
 その場で足踏みしつつ、箱守睦が扉を開いた。

 危機は去った。

 見事に人類の英知を結集させたトイレが完成し、皆伸び伸びと水分を補給する。それを恨めしそうに見る女医。


 しかし、新たな危機はスグにやってきた。寒さである。
 体温低下に伴い、意識の混濁した幼女は、果てなき妄想の世界へと旅立つ。
「雪山、粗末な小屋、濡れた衣服が私たちの体温を奪っていった。『おにいちゃん。せろりすごくさむい』『なんだと!? それはいかん! 今すぐ体を温めないとっ! さぁ、ロリ今すぐ服を脱ぐんだ! お兄ちゃんが温めてやる!!』『そんな、こんなところで‥‥はずかしいわ』『大丈夫だ‥‥俺が付いている。さぁ!』『おにいちゃんがそういうなら』‥‥ふぉぉおお! これはヤバい!」
 お前がヤバい。
 ボソボソと妄言を紡ぐ様子に戦慄を覚えつつ、皆で飛び起き対策を講じる。
 アドレナリンの分泌を促進させるような選曲でエア演奏を開始する公星。
「責任とってお兄さんが本当に温めてはどうでしょう」
 イーリスが冷静に進言する。ガバっと起き上がって絶叫するセロリ。
「よっち‥‥もといおにいちゃん! せろりさむいんですけど!? さむいんですけど!?」
「知るかっ! その場で燃え尽きて灰になれ! 大体アレは嘘だぞ?」
 剣を抱いて焼け死んでおけ、と真っ向から拒絶する信人を尻目に、急にムーディーなミュージックに切り替えるヴァイオリニスト。
「裸で抱き合うだけじゃ背面から熱が逃げるけど‥‥抱き合って血を通わせつつ、体温を逃がさないように、手袋靴下で末端を守りつつ‥‥防寒着を布団みたいに全身に掛ければ‥‥温かい‥‥はず‥‥」
 消え入りそうな声に皆が振り向けば、寒さに震え唇まで真っ青になってる女医の姿。
「おにいちゃん!? ねぇ聞いた? 今の聞いた?」
 血走らせた眼で迫る幼女。信人君ガン無視。
「先生寒いかな、寒いよね? よーし、俺があっためる係ー!」
 いつの間にか起きだした箱守睦が、仕方ないよね! とボタンを外し始める。
 かあっと赤面しつつ、なぜか男性陣を見つめるフィルト。
 ダメだ! そんな破廉恥な真似は許さん! ‥‥などと口を挿む人間は、誰一人としていなかった。
「じゃあ、班内部でペアになるか」
 咳払いをしつつ視線泳がせながら泥を被る木場。
 何か過ちがあった時は「木場さんの指示です」と言われる危険を押しての英断に、皆で盛り上がる。

 そして運命のペア発表。

 木場とセロリ。
 夜十字とイーリス。
 公星とフィルトに神楽坂。
 アンバーと箱守睦。
 それぞれが今宵、禁断の遭難抱っこに挑む。

 終始無言の木場に対し、ムフフだとかグフフ、みたいな寝息を周期的に漏らすセロリ。

 なぜか二人とも異常なまでに落ち着いてる信人とイーリス。
『生存フラグです‥‥』
 彼女は大変満足してる様子だ。

「そこで拙者は咄嗟に、耳にタコをですね‥‥」
 女性二対男性一の状況に、女医は膨大な熱源反応を発していた。気を紛らわせんと、下ネタにならないように兎に角しゃべりまくる公星。
「そういえば、出発前に学園の方から聞きましたけど‥‥でるらしいですね、ここ」
 クスクスと笑うフィルトだが、怪談話を語り始めたりする所を見ると、やはり気を紛らわせたいのだろう。
「俺も聞いたことあるぜ‥‥こんな雪山でな‥‥」
 その流れに乗った夜十字もまた、同様だったのかもしれない。

 見た目美少女なアンバーと肌を合わせ、箱守睦は、三秒での睡眠突入を目指す。目を瞑り、相手は女の子女の子と自己暗示‥‥するのだが、相方の見た目が見た目だけに、洒落にならないレベルで暗示が効きそうなってしまうのであった。素直な若い身体が恨めしい。
「ねむれーん!」


 遭難二日目。天候回復せず。
 外の様子を見て戻ってきた箱守睦が雪ン子になって戻ってくる。
「はー、俺がんばったー。というわけで、誰かご褒美にあっためてくださーい」
 皆を元気付けようと道化を演じているのか。それとも本心か。
 皆消耗が激しく、見張り以外は肉団子になって身動きしない。
 しかし、ゴールデンな人だけは目が爛々と輝いていた。

 夕食の時間、計算通りに食べ進めているが、希望的観測で言えば、もう下山していた時刻である。先が見えない状況、その圧迫感に、皆の精神的が落ち込む。
「難民キャンプ暮らしが長くてな、暫く喰わなくても耐えるだけの根性も身体も持っているぜ。センセ、悪いがあんたは一般人だ。俺たちに比べて柔なんだから、好意はおとなしく受けろよな」
「私達の分を削れば、先生一食分くらい浮かせるよね」
「辛ければ当番中でも無理をせずに休んでくれ」
 集まったメンバー全員が、女医を気遣う優しさを備えていた。


 遭難三日目。
 情緒不安定なセロリ。兄萌え魂に点火し、再び始まる妄想劇。蘇る幼き日の思い出。
 困っていると助けてくれた兄、泣いていると駆けつけてくれた兄、お腹が空いていると猪を捕えて来てくれた兄。
 すっかり変態になってしまったケドよっちーは兄。それ以上でもそれ以下でもない!
「おにいちゃん! さあロリを抱きしめて! 壊れる程に!」
 無視する兄に変わり、彼女を抱きしめるフィルト。
 そして箱守睦とアンバーが痴話喧嘩を始める。
「俺もう無理だぁー! 死ぬ前に女の子抱っこしたい! 膝枕でもいい!」
「文句を言うな、俺だって女の子がいい」
 状況を見守っていた木場が、力強い言葉で皆を静止する。
「落ち着け、俺達は必ず助かる。俺もできる限りのことをしよう」
 感動を演出する卒業式の歌っぽいエアヴァイオリンが響く。いい仕事してます。
 こうして強力なリーダーシップにより、窮地を脱した一向。
『生存フラグ‥‥です』
 イーリスは少し眠たそうだった。

 その夜木場は、見張りをしながら坐禅を組みつつ、眠気と戦っている最中だった。
 気がつけば窓に吹き付ける吹雪が止んでおり、代わりに聞こえてくる、この音は‥‥。
「皆、救援が来たぞ!」
 そう、軍用の強力なライトで周囲を照らしつつ、本部よりのヘリが到着したのだ。

 九人は無事生還を果たした。
 
「よっちー、疲れた‥‥飯。それが嫌なら負ぶえ」
(皆の喜びよう‥‥もしかしてマジ遭難だったのか‥‥?)
「助かりました、口輪筋が筋肉痛で死にそうだったので」
「さて、皆さん何か暖かいものでも食べに行きませんか?」
「フィルトちゃんの誘いなら何処へでも」
「賛成。フラグへ続く行動です、続けてください」
「よし、今日は俺の奢りだ!」
「悪いね、木場さん。アンタには世話になりっぱなしだ」

 生死を共にした仲間達。彼等は二次会まで盛り上がり、記念写真におさまった後、それぞれの帰路に就く。


 神楽坂泉美は、後にこの体験を報告書として提出する。
 彼等の屈強な肉体に宿った、健全な精神(一部除く)の事を‥‥。
 能力者の為の能力者研究に、また一段と熱が入るのであった。