●リプレイ本文
名探偵達を会議室に通し、頭を下げた白石は、その中に知ってる顔の三名を見つけ、コッソリ手を振ったりしながら、皆に資料を配布する。
まずは一読を、と皆が目を通してる間に、突如として響く不敵な笑い。
「犯人が分かりました」
いきなりクライマックスを迎えた会議室内、立ち上がった美空(
gb1906)は、周囲からの視線を集めつつ、びしっ! と人刺し指を立てた。
「簡単なことです。情報を整理してみましょう‥‥まず、犯人は通り一遍の変態でもホモでもない。白石さんたちのプロファイリングに引っかからないからです」
ふむ、と今作戦囮候補ナンバーワンの男の子、ビッグ・ロシウェル(
ga9207)は腕組をする。
「犯人は身近な存在である。マークしていた人達が犯行に及んでいない」
「まあ」
関心したように微笑む香原 唯(
ga0401)。
「犯人は白石さん達の包囲網の裏をかける人物である。目撃者ない」
「つまり?」
推理ショーにワクワクと瞳を輝かせる楠木 翠(
gb5708)。
「つまり、変質者の有名人ではなく、かつ、マークしていた人物でもなく、白石さんたちの計画を知り尽くしていた人物です。‥‥そう、それは白石さん自身に他なりません!」
ひゅうう‥‥室内なのに季節はずれの木枯らしが吹く。
周りのリアクションが弱い。そう思った美空は、なんてね! とウィンクするけどまだ空気が寒い。自発的に机の上にちょこんと正座。
突然の疑惑に晒され、男子の下着やらなんやらを想像してしまう白石に、ツツと歩み寄り、過剰なタッチで抱きしめる鷹司 小雛(
ga1008)。
「まあ白石様。お顔がイケナイ感じになってますわ。体温も‥‥」
スキンシップを超え愛撫に迫ろうというソレを、恥じらいつつも拒絶しないその光景に違和感を覚えた者は多いだろう。暫しのピンクの気配の後、視線を感じて我に返った彼女は、砂煙巻きあげ全力で消えていった。
「わ、私、雑用してきます! 皆さん捜査頑張って下さいね〜!」
「学園の更衣室で下着を脱がなくてはいけない状況というのが何なのか気になります」
「軍事訓練では、下着まで汗まみれになるからな」
郷田 信一郎(
gb5079)回答に納得した唯は、理系の頭を回転させ、天才的な打開策を思いつき、パッと顔を輝かせた。
「下着を脱ぐから盗まれる‥‥初めから下着をはいてこなければ一件落着です」
素敵な笑顔でノーパン作戦を提唱するも、空気が重かったので考察を続ける。
「‥‥犯人は疑いをかけられぬよう過去に自分も被害者を装い周囲の同情を誘い油断させておいて犯行を重ねているかもしれません」
一理ある、と皆で賛同、過去の事件の資料を漁った後、早速被害者宅を回り、アリバイを調べ、詰問し、ノーパンを提案して様子を窺う。
「ジョー、何か分かりましたか?」
静かに首を横に振る流 星之丞(
ga1928)。
「ごめんなさい。褌をあげるのでご機嫌なおしてくださいね」
この推理は、被害者全員にバッタの様に頭を下げ、何故か唯個人が大量に所有する和風下着を配布して回る『褌ツアー』として終幕した。
会議室に再び集まる一同。正座組は美空と唯の二名。
「犯行の動機から間違っていたのではないでしょうか? 下着を盗んだのは、趣味や趣向ではなく、必要に迫られてだったのでは」
黄色いマフラーが目を引く流‥‥通称ジョーが推理する。多角的な視点から事件に迫る新発想と言えよう。
吉報をお待ちください、と部屋を出ていった彼は、小一時間後に戻ってくる。
「第一の事件を徹底的に洗い直しました。すると非常に興味深い事柄が浮上してきました。当日は健康診断が行われていたんです」
物憂げな表情で淡々と事実を語る彼の言に、皆が聞き入る。
「盗まれた被害者近辺で、当日お腹の具合が悪かった者はいなかったか調べた所‥‥該当者が居ました」
「下着が汚れて恥ずかしかったのね」
唯が仲良く間の手を入れる。頷くジョー。
「ええ、その後も目立つよう犯行を重ねたのは、全て最初の出来事を隠す為‥‥」
呼び出され、オドオドと座る容疑者Xに、彼はマフラー靡かせポーズを決める。
「このポケット時間割表で、全てのアリバイは崩れました‥‥そう、犯人は貴方です!」
「僕、腹痛で早退して検診うけてないんです‥‥」
さて、正座組三名となりました。
「写真を見せてくれないか?」
高遠・聖(
ga6319)は、カメラマンとしての知識を生かし、盗撮写真を分析する。驚くべき事に、それは直ぐ隣から撮影されたものが殆どであった。
「まいったな‥‥撮影場所を割り出して、その場に残された手がかりを追おうと思ったんだが。それにしても妙だ‥‥」
苦笑して頬を掻く聖だったが、一つの大きな発見をする。それは被害者によって写真のニュアンスが異なる事だ。撮影技術、ピントの癖や構図を考えるに、撮影者は異なるように思えた。
「俺が思うに、犯人はスナイパーなのだろう。予め更衣室に潜み、人が来たら隠密潜行を使用し気配を消して盗撮。誰も居なくなったら下着を持ち去る」
郷田の仮説は能力者ならではの犯行、という切り口であるが、単純だったか? と彼自身が真っ先に折れた。その隣、現役スナイパーの翠が手を叩く。
「私も犯人像を予想してみました。探し物をしていて、化学に精通してて、影が薄い恥ずかしがり屋さんで、凝り性の人です」
漠然とした人物像だが、明確な輪郭を伴っている気がしないでもない。
ロシウェルはそれを更に発展させる。
「同年代の女の子で、薬品を使うサイエンティスト。好きな男の子の下着を盗んだのが初犯で、以降パンツ漁りが癖になり次々と好みの男の子を標的に犯行を続けている」
シリアスな顔でプロファイルし、周りが静かなので顔を上げる男の子。
「僕疲れてたのかも‥‥保険室逝ってくる‥‥」
煮詰まった一同は、囮作戦を実行する事になる。
丹念に室内を調べる郷田。
翠はその周囲を観察し、小雛は内部を覗く。
高遠はプロの手並みで隠しカメラを仕掛け。
ロシ君はホームセンターへ買い物に。
足を痺れさせた三人は悶絶中。
こうして現場の詳細を確かめ、セッティングを済ませた後、作戦会議に移る。
「「先に頂いた」って張り紙をつけて、対抗心煽るとか」
「この禿カツラで挑発できませんでしょうか?」
「そう言えば、囮は何方が‥‥?」
皆で犯人をおびき寄せる手法を相談中、作戦の核心である非常にデリケートな話題をほんわかと振る唯。男子全員の動きがピタリと止まる。俺が囮になるぜ、と言い出す者などいる筈もなし。
「ぁ〜、僕ですね‥‥僕がやれば良いんですね! うわ〜んっ」
重圧に負け、泣き崩れたロシ君の肩を叩き、任せたぞ! と熱く伝える男性陣。
「‥‥白石様の提案ですと、囮は男子全員、多ければ多いほど吉、とありますわ。犯人の趣味も分からないことですし、ここは多様なタイプを取り揃えてはいかが?」
ぽつりと零した小雛の言葉で風向きは変わり、盛り上がっていた男性陣は再びその時を止めた。
「やれやれ、今日の演習はハードだな、着替えが二着は必要だぜ」
「僕、汗びっしょりで下着が張り付いて気持ち悪い‥‥」
「お、俺もだ。は、早くパンツを脱ぎたい」
「シャワーを浴びたいですね‥‥全裸で」
「あんたの血の色は何色だー!」
口々に着替えを仄めかしつつ、不自然なまでに学園を練り歩いた彼等は、更衣室に吸い込まれていく。
様々なカリキュラム形式故、出入りは激しく、学年問わずでよく利用されているそこは、スポーツクラブの更衣室のようなモノ。犯人にとっては素知らぬ顔で侵入しやすい場所であろう。
囮達の様子を別室でモニターを見守る唯、翠、小雛。
男性の生着替えを興味深々で恥じらい見守る二人を、悶々と見つめる小雛。ある意味で囮捜査中の更衣室より危険な密室かもしれない。
「美空雄でっす!」
モニター室に居ない女子の変わりに、何故か泣きながら自己紹介してる、つるぺたーんとしたボディに、純白のブリーフが眩しい幼男が一人居たりする。
その光景だけは小雛も舐めるように観察していたとかなんとか。
「俺は外で犯人追跡に備えたかったのに‥‥」
「俺もモニターする予定だったのに‥‥」
泣き言をいう郷田と高遠の大人二人組。
その一方、運命を甘受しているロシウェル。
「神様‥‥僕がそんなに悪い事した?」
飄々と脱衣し、モニターを見ている女性陣の黄色い悲鳴を誘った一番人気はジョーであった。
暫しの後、ガヤガヤと他の男子生徒達がやってくる。
そしてモニターは、郷田の隣、不自然に鞄をもぞもぞと動かしつつ、荷物を取り出しては入れる怪しい男子を捕らえた。
「あれ、撮ってない?」
翠の指摘で気がついた唯は、囮班のイヤホン受信機に情報を伝達する。
『あやしい人物発見』
あえて泳がせる為、一同は使用済み下着をロッカーに押し込んで外に出る。
「郷田さんが狙われてなかったか‥‥?」
「やめてくれ‥‥」
『あ、今盗撮犯人が、いかにも自分の使ってるロッカーだ、みたいに移動しました。左右を窺っています』
唯は、おっとりと実況を続ける。
『取っ手に手をかけ開きました。郷田さんの下着に触れていますよ〜』
下着に仕掛けられた罠が発動し、防犯ブザーが鳴り、犯人の頭上にバケツが落ちる。
染料を被った犯人は錯乱し、そこで下着に接着剤が染み付いている事に気が付くが、時既に遅し。剥がそうにも剥がれない!
「突入!」
特殊強襲部隊よろしく更衣室に駆け込むメンバー達。
「お前が犯人かぁー!」
ロシ君、怒りに燃え、『可変式ダンベルセット』をぶん投げて攻撃! しかし届かず!
「なんで美空雄の下着にしなかったの! 演技指導まで受けたのにピエロじゃん! せめてチラ見くらいしてけ!」
犯人は、不思議な激怒をしてる美空をゴム毬の様に弾き飛ばし、ショックでフリーズ中の郷田の脇を抜けて猛スピードで逃走を図る。
「逃がしはしない」
奥歯を噛みしめダッシュで追いかけるのは、メンバー中一番の俊足、ジョー。
聖も能力を使用して滑るように後を追い、Wタックルで犯人を廊下に沈める。
理性を失った犯人は、凶器を取り出し‥‥。
「そこまでですわ」
ふわりとその手を取ったのは隣の部屋から駆け付けた小雛。彼女は見事な合気柔術で一瞬にして男子を組み伏せた。
「違うんだ、俺は頼まれただけなんだ!」
「やはり実行犯と首謀者に分かれていたか。連れて行ってもらおう、真犯人の所に」
聖は撮影の癖から、その可能性に気が付いていたのである。
「これが報酬です‥‥」
薄暗い理科実験室内、怪しい二名の人影。盗品と引き換えに茶封筒がトレードされる。
真犯人、喜び勇んでデジカメの画像を確認し、そこに映っている画像──名探偵八人が『犯人はお前だ』ポーズを決めているショット──を見て愕然とした。
更に、その姿にフラッシュが焚かれる。いつの間にか隠密潜行で室内に入り込んだ翠が、動かぬ証拠を確保したのだ。
「こ、これはどうゆうことです!?」
「それはこっちの台詞です。連続下着泥棒さん」
彼女が部屋の明かりを点ければ、それを合図に全ての出入り口が開かれ、めいめい登場する名探偵達。
その視線の先には、目立たない容貌、大人しそうで内気そうな眼鏡の少女。
「当たってるし‥‥」
ロシ君絶句。
「全てを話してもらいます」
静かに終わりを宣言する翠。
追い詰められた犯人は、自発的かつ引っ込み思案に、しかし淡々と恐ろしい事実を語り始めた。
「リアルな男性の方とお付き合いしたいな、なんて‥‥でも、男性って怖いじゃないですか」
「僕は君の方が怖い‥‥」
本気で怯えてるジョー。
「最初は知的興味で‥‥その、男性を知る前にまず下着から始めようと。課題レポートの代筆の報酬に気になる男子のパンツを要求いたしまして‥‥」
「最初の一歩から大きく道を逸れてどうする‥‥」
眉間を押さえる聖。
「その内、科学的興味から匂い等を嗜みまして‥‥」
「嗜むな‥‥」
笑顔で切り捨てる美空。
「科学的解明とは一歩一歩情報を増やして行われるものですから、その、味覚なんかも‥‥」
「あ、味!?」
翠、赤面してリピート。
「視覚的な情報もあったほうが、ファイリングしやすくなりますから‥‥お写真もお願いして‥‥」
「顔写真でいいのでは‥‥」
ピュアな郷田の指摘。
「いえ、よりリアルに裸体を知覚したかったもので‥‥」
「素直に裸が見たいとおっしゃい‥‥」
理解出来なくもない、そんな顔の小雛。
「わざわざ盗んだ下着を、写真と共に置いたのはなぜ?」
小首を傾げ質問する唯。確かに理解しがたい行動である。
「その、非常に言いにくいのですけど、そうすると、何故か興奮する事に気が付いてしまって‥‥」
「へ、ヘンタイだーー!」
美空が騒ぐ中、事件の解決は彼等の手に委ねられた。生徒会に引き渡すのは簡単であるが、果たしてそれが正しいかどうか。被害者に謝罪させた上で、更生させるチャンスを与える事が出来ればそれが一番である。
「男の子が欲しいなら、ロシウェル君をあげちゃうのはどう?」
翠が楽しそうに提案する。
「ッて僕を差し出してどうするっ」
汗を掻きつつ異句を唱えるロシ君だが、もぢもぢして「よろしくおねがいしまーす」と手を出しそうな勢いでもある。
「いえ‥‥その、ゴツくて男臭い人がいいんです‥‥」
下着泥棒にすら拒絶され、がっくりと膝をつく男の子。恋人募集中です。
「じゃあ郷田さんが愛を教えて差し上げたら?」
唯の無茶ブリに、厳つい純情学生の顔から火が立ち上った。
「お、俺には好きな人が!」
聖とジョーは二人して窓際に避難し、どうでもいい天気の話をして盛り上がっていた。
やはり差し出すしかないのか、いいやもう差し出しちゃおう。そんな投げやりな空気が漂い始める中、やっと私の出番が来ましたわ、と怪しく笑う鷹司。
「皆様、ご安心を‥‥この子はわたくしが『更生』させますわ‥‥」
彼女は女子生徒の腰を抱き、リードするように奥の暗室へ消えていった‥‥。程なくして聞こえてくるのはガタガタとした振動音と妙なテンションの喘ぎ声。
「‥‥」
これでよかったんだよな? 皆で爽やかに窓の外を見る。綺麗な夕焼けが世界を照らしている。地球は美しい。
「それは学園生活を平穏におくりたいという、犯人の必死の抵抗だったのでしょう‥‥とても悲しい事ですが」
状況に即しているかどうか怪しいジョーのモノローグで、事件は幕を下ろした。
連続下着泥棒の逮捕を聞き、最初こそ名前の公表を求める者もいたが、解決した事件に対する学生達の興味は急激に薄れ、やがて話題に上らなくなった。
下着泥棒事件は収まり、学園の平和は保たれた、それで十分だったのだろう。
‥‥だが、数ヶ月後。
まったく同様の手口で、今度は女子下着の盗難事件が発生する。
今回の事件に携わった名探偵達はこう思ったに違いない。
「ま さ か」
と‥‥。