●リプレイ本文
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「まず、最優先事項としては人質の救出ですね」麻宮光(
ga9696)が話を切り出した。能力者たちは皆頷く。犯人を確保できたとしても、人質の救出できなければ意味がないことは誰もが承知している。
「私がバッグに入りましょうか。バッグから出たときにスキルを使えば、タイムラグなしで犯人の後ろを取れますし」
如月芹佳(
gc0928)がバッグに隠れる作戦を持ち出すと、ルナフィリア・天剣(
ga8313)もバッグ隠れ要員として名乗り出た。小柄で軽量の二人だから、隠れるにしてもそう難しくはないだろう。バッグに二人が隠れ、しかも食料でカモフラージュすることになるとしたら、相当大きなバッグを用意しなければならないだろう。
「身代金の代わりに食料を要求ですか‥‥。食料の量が相当ありますからね。犯人は車両で移動するかもしれないですね。ならば、公園の周辺に僕のランドクラウンを停めて、そこから様子を伺ってもいいでしょう」 公園の周辺警戒は、ソウマ(
gc0505)の車からすることになった。
「俺も車を出せますが、ソウマさんが車を出すならそれでいいでしょう」
麻宮はそう言った。
朝四時という早朝を犯人は指定してきたので、車で警戒していたほうが犯人に気づかれない可能性がより高くなる。ランドクラウンにはソウマ、麻宮、天原慎吾(
gc1445)、Clis(
gc3913)が乗ることになった。
「犯人は何でそんなに飢えているのかしら」
まあ、捕まえてみればわかるでしょうけどと、Clisは言葉を続けた。
「飢えて誘拐なんて物騒だな、まったく。食いぶちなんていくらでもあるだろうによ。俺は人質解放と犯人説得に至るまでをメインに動くぜ」
Kody(
gc3498)は犯人説得などはできないと言い、
カグヤ(
gc4333)と電話ボックス周辺に張り込むことになった。
「母親のシンシアが電話ボックスまでバッグを一人で持っていけるかが問題だけど」
ルナフィリアの呟きに、場が空気が固まる。
「そこは頑張ってもらわないと。ははは」
天原は無理矢理笑った。
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前日の夜、エイリーン宅に訪れた。父親とシンシア、そしてエイリーンという三人暮らしのためか、木造の小さな一軒家であった。父親は遠くに赴任しているらしく、帰ってくることはできないが、今回のことはとても心配しているらしい。能力者たちは、作戦の概要をシンシアに伝えた。
「食料は用意できています。これで大丈夫でしょうか」
シンシアが用意したのは大量のインスタント食品や缶詰であった。
「この食料を入れるバッグを見せてもらえませんか」
如月の言葉にシンシアが大きなバッグを持ってきた。
「ルナフィリアさん、ちょっと入ってみましょう」
如月とルナフィリアはバッグの中に入ってみた。
「なんとか大丈夫じゃない?」
「そうですね。銃で撃たれてもいいように頭の周りは缶詰で固めましょう。バッグの色と同じような色はありますか」
如月が尋ねると、シンシアが同じような色の布を持ってきて、二人の上にかけた。
「ギリギリな感じもするがな」
Kody(
gc3498)がバッグの中をのぞき込む。
如月とルナフィリアは密着して、楽しそうなのは気のせいか。
「銃‥‥」
シンシアは聞き慣れない物騒な言葉に表情が固くなって
いる。
「そんなに怖がらなくていいですよ。ドンパチやることはない、と思いますから」
Clisがシンシアの恐怖を少しでも取り除こうとしている。シンシアとしては、銃という言葉を聞いて、本当に娘のエイリーンが無事に戻ってくるのか、より心配になったのだろう。
エイリーンのことを犯人がどこまで知っていて、誘拐したのかは分からないが、非力な母親にこんな荷物を運ばせるとは全くどういうことなのか。こちらの出方を見るためなのか。この場にいる全員はその理由を理解できなかった。
「あの、シンシアさん、ちょっとバッグを持ち上げてみてください」
バッグの中から如月の声が聞こえた。
「ふっ‥‥っと」
シンシアがバッグを持ち上げたが、いっぱいいっぱいな感じである。
「エイリーンのためなら、このぐらい持って歩けますから」
シンシアはきつそうだが、そう言いきった。
「それじゃあ、明日は早いのでそろそろ解散しましょう。犯人に気づかれないようにくれぐれも注意してください」
麻宮は言った。犯人が指定してきたのは午前四時であるから、一時間前には張り込みを開始しておかなければならない。明日に備えるため、能力者たちは解散することになった。
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「こういうの、ちょっと憧れていたんですよ」
当日午前三時。ランドクラウンの中で天原はコンビニで買ったあんぱんと牛乳を手にしている。張り込みには必需品なのだろうか。
一方でソウマはジャージ姿で中学生の爽やか野球少年の格好をしている。さっそく車から降り、公園の隅で素振りをしたり、公園周辺をランニングしている。
「どうだ、カグヤ。怪しい人影はないか」
Kodyの問いかけにカグヤの返答はない。
「ね‥‥寝てねぇよな‥‥」
ちょっと不安になるKodyであった。
午前四時前に一台の白いバンが公園入り口に停まった。
ソウマはランニングをしているふりをして、バンの中の様子をさりげなく見ながら通り過ぎる。ソウマは探索の眼とGoodLuckを常時使用して、警戒している。
「僕にとって、運は立派な実力なんですよ。さっそく白いバンの車内を見ることができました。白いバンの中には大人一人、エイリーンと思われる小さな子一人です」
無線で他の能力者たちに伝える。どうやら単独犯であるようだ。
午前四時。シンシアが重いバッグを持って、電話ボックスに辿りつく。
トゥルルルル。公衆電話の音が鳴った。犯人がどうやって、公衆電話にかけることができたのかは定かではないが、シンシアは受話器をとった。
「もしもし。約束の食料は持ってきました。エイリーンの命は無事なのでしょうか」
『バッグをそこに置いて、その場を離れろ。変な真似をしたら、ただじゃおかねぇぞ』
「わかりました」
シンシアは受話器を置き、電話ボックスから離れた。
しばらくの沈黙を経て、白いバンから犯人と思われる痩せ型長身の男が出てきて、電話ボックスに向かう。
「犯人が現れたな‥‥ブクブクのデブじゃなさそうだが‥‥」
Kodyが無線で犯人の特徴などを他の能力者たちに伝える。
犯人がバッグの中身を確認しようと、バッグのチャックを開けた瞬間、如月とルナフィリアが飛び出した。
「おはよう、誘拐犯。私が要求した食料4キログラムだ。じゃあ、捕まってもらおうか」
ルナフィリアがそう言っている間に、如月は迅言で一瞬で犯人の背後に回りこみ、腕を掴み、膝を蹴って座らせた。
犯人確保を見届けた能力者たちとシンシアは白いバンに乗っているエイリーンを助け出した。
「ママ、怖かったよ〜」
すぐにシンシアの胸に飛び込んだ。若干、エイリーンは疲れた顔をしている。
「さて、犯人さんのところへ行きましょうか」
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Clisがそう言うと、ぞろぞろと能力者たちは犯人の元へ向かった。
「謝るから、謝るから少し何か食べさせてくれないか?」
犯人はもうすでにうなだれていて、食べ物のことしか頭にないらしい。
「お腹が空いていたんだよね。これ、食べて」
カグヤは犯人にレーションと烏龍茶を差し出した。
「ありがとうございます、働き口がなくて‥‥食料に飢えていたんです」
ばくばくと食べながら、話す犯人。
「もし運良く、または悪く、適性があったなら能力者になりゃいいよ。食うには困らないし」
ルナフィリアは無責任な提案をする。
「能力者ですか。それもいいですね」
腹が満たされたのか、犯人は落ち着き始めた。
「傭兵になればリストラとか無いしモテるよ‥‥多分」
如月が言った。
「うーん、屋台のラーメン屋でも開いてみますか? ‥‥あはは〜」
天原は屋台のラーメン屋を提案する。最終的には犯人が自分で決めることなので、能力者たちは提案することしかできない。
「ありがとうございます。誘拐なんてしてしまってすみませんでした。反省しています。能力者になれるように頑張ってみます」
どうやら能力者になることを考え始めたらしい。
犯人は一人一人に握手を求め、食料を持って、その場を去った。
「お疲れさま。何とか無事に終わったね」
Clisがタバコを吸う。
犯人に能力者としての適性があることを祈る能力者たちであった。