●リプレイ本文
「ヘタれのくせにモテるとは生意気にゃ!!」
ほわほわした女の子のような雰囲気の白虎(
ga9191)が息巻いている。
しっと団とはカップルや桃色の撲滅を掲げ、モテない傭兵たちのテロ組織である。その組織の総帥が白虎なのだ。バーナビーは依頼にしっと団が参加しているなんて夢にも思っていないだろう。
「あの‥‥白虎さん。しっ闘士としての活動は今回が初めてなので色々教えてくださいね」
総帥である白虎に、冴木美雲(
gb5758)はさらりと挨拶をした。
「美雲さん、しっ闘士でありながら恋人がいるんですよねっ、しかもお腹に子供までっ! ヘタれのバーナビーと一緒に粛清します」
「世に桃色がある限り、しっと団は不滅です!」
お腹に子供がいながらも、総帥白虎に忠誠を誓う冴木美雲であった。
鼻をフガフガさせて、粛清! 粛清! と唱えている白虎を横目に、悠夜(
gc2930)が口を開いた。
「バーナビーに剃刀入りの手紙を送った不良の三人組をボコボコにしてやりてぇな。しかし、所詮他人の色恋い沙汰‥‥ちとだりぃ」
悠夜は手慣れた手つきでタバコを吸っている。同じ学生の身分だからと参加したらしいが、タバコ吸っていることに誰もツッコむことはなかった。
「バーナビーというヘタれの告白を失敗させないように手伝ってあげますかね」
諷(
gc3235)は口ではそう言ったものの、内心は意中の娘がいるならさっさと呼び出して気持ちを伝えればいいじゃないかと思っている。
今回の能力者の中で、魔津度・狂津輝(
gc0914)が一番マッチョな見た目をしている。
ここは狂津輝に悪役を買ってもらう方向で作戦会議が進んでいった。
「悪役のリーダーは魔津度、メンバーは悠夜とおいらで」
諷が芝居の役割を決めた。
「ったく、恋愛成就のために芝居する事になるとはな、ふぅ」
魔津度はため息をつく。
「恋だ、恋愛だぁ〜‥‥は、分からないけど野次馬根性で参上♪ ところで、メアリーさんと不良グループがつながっていないことを確認したほうがいいですよね?」
獅堂梓(
gc2346)突き抜けるような明るさで振る舞う。
「この際、学生の格好でもしてファンクラブを名乗って聞き出しましょう。バーナビーがどのくらいの心持ちでメアリーを思っているのか、わたくしが試してあげましょう‥‥」
正倉院命(
gb3579)は妖艶な笑みを浮かべる。いったい正倉院命が何を考えているのか、誰も推し量ることはできなかった。
「しかし、不良たちの金属バットや剃刀レターはいただけないにゃ! 奴らにはしっとの作法という物を一から教える必要があるにゃ!」
さすがしっと団総帥、しっとの作法たるものを不良たちに教え込むらしい。どういう方向に向かうかは神だけが知るのみ。
能力者たちはさっそく学園へ向かった。学生たちに紛れ込んでしまえば、そうは目立たない。いや、目立っていないと思いたい。
さっそく獅堂と正倉院命が学生服に伊達メガネというコスプレで、バーナビーのファンクラブ会員として、メアリーに近づいた。
「メアリーさん、わたくし、バーナビーさんのファンクラブに入っているんですけど‥‥バーナビーさんのことどう思っているんですか?」
正倉院命はモジモジと『らしく』ないキャラを演じきる。女というものは怖い。
「ファンクラブのメンバーなんですか‥‥私はバーナビーさんに憧れているんです。でも、ファンクラブに入る勇気もなくて‥‥この間お手紙を靴箱に入れさせてもらったんですけどね」
メアリーは頬を紅潮させて、こちらが恥ずかしくなるぐらいに初々しく話す。どうやらメアリーは不良とは関係ないらしい。
「バーナビーさんはアンタのことを好いとるようやから、バーナビーさんが幸せになるんやったらあんたにくれてやる。でも、泣かせたら承知せえへんで!」
いきなりキャラが豹変し、軽く脅しにかかった正倉院命にメアリーはビビッている。獅童も若干ビビッている。この脅しでバーナビーから心が離れなければいいが、離れるようであれば所詮その程度の恋心だったということだろう。
「あなたたちはいったい‥‥」
メアリーの言葉を丸無視して、獅堂と正倉院命は立ち去った。
二人はその足でバーナビーに説明しに行った。能力者がヤラれ役を演じるので格好よく振る舞うよう指示をする。バーナビーは不安げな表情を見せたが無視を決め込んだ。ヘタれ特有のおどおど具合がバーナビーを憂いに満ちたオーラを放っている原因だとしたらまったく罪づくりな男である。いくらヘタれでも自分の恋愛成就のために他の人に協力してもらうのだから、ある程度の覚悟を持っていてほしいものだ。
「あんな小娘よりうちのほうがええやろ?」
正倉院命はバーナビーの手をつかみ、無理矢理自分の胸に当てる。バーナビーは赤面し、鼻から血を出し始めた。
「でも、自分から告白する勇気がなければメアリーさんのこともお姉さんが食べてしまうがな。うち、両刀なんや。うちの選ばないんやね?」
バーナビーは鼻血を垂らしながら何度も首を縦に振る。この世に鼻血を出しても格好良い人間はいるものだ。バーナビーがだてにモテちゃいない。正倉院命は満足したようで、獅堂とともにその場を去った。
正倉院命と獅堂からメアリーと不良たちは関係ないという話を聞いた能力者たちは、不良たちとメアリーが手紙で指定した時刻に体育館で待つこととなった。が、獅堂や白虎たちはどこかへ行ってしまった。
「バーナビーさん、これは実家の神社で扱っている勇気の出るお守り」
本当はただの石ころなのに、獅堂はバーナビーにもったいぶりながら差し出す。
「あ、ありがとう」
バーナビーは差し出された石ころを握りしめた。ただの石ころということも知らずに力を込めて握りしめている。
「信じなければ、どんなモノだって力は発揮しないよ」
獅堂はバーナビーの背中を押すつもりで言った。そう、ただの石ころだって信じようによってはプラセボ効果で勇気が出るかもしれないのだ。
手紙で指定された時刻になった。体育館裏にはまず最初にメアリーが現れた。モジモジと一人でバーナビーを待つ姿に甘酸っぱさを感じるのは気のせいだろうか。
魔津度はブレザーの前をハダケさせて、筋肉質な身体を露わにしている。こういう悪役にだけは絡まれたくないと能力者たちは心の中で思っているに違いない。そうこうしているうちに、バーナビーも体育館裏に現れた。
「バーナビーも来たな。さっさとメアリーとくっついて退散すればいいのにな。そしたら俺たちの出番はなくなるっつーのによ」
悠夜はタバコの煙を吐き出しながら呟いた。
「ったく一人相手に三人。しかも武器を持ってかよ。ガキとはいえ、笑えねえ」
かったるそうな湊 獅子鷹(
gc0233)はシャツとズボンに着物をジャケットのように羽織った妙な出で立ちをして今回参加している。真デヴァステイターに空砲を詰め、左腰には小太刀を付けている。
「不良たちが来ましたよ」
髑髏ヘルメットをかぶって、斧を楽しそうに振り回す変人という設定の諷が、こちらへやってくる不良たちを指さした。
「あ、あれは白虎さん!?」
誰もが唖然とした。なんと白虎が不良たちを率いているのだ。しかも、巨大ピコピコハンマーで不良たちは武力制圧されかかっている。
「バーナビー、粛清にゃ!!」
バーナビーは『桃色退散』というお札を白虎から顔に張られた。
「粛清だー天誅だー!!」
白虎は叫ぶ。しかも、不良たちに金属バットの代わりにピコハンとハリセンを持たせてやったらしい。白虎はいったい何がしたいのか。カオスな状況にみんな大混乱である。
まずは不良の相手をする湊が動き出した。
「俺も外道だが奴らは下衆か‥‥こちらも下衆にいかせてもらうぜ」
湊は冴木美雲に着物の帯を結んでもらい、髪は解いた。銀髪少女の出来上がりである。いや、湊はあくまで男だが‥‥。
不良三人組は見慣れない湊の姿に気づき、近づいてくる。
「おーおー雑魚が粋がっちゃってまあ‥‥」
湊はわざと挑発するようなことを口にした。
「なんだと〜」
三人組で一番体格のよい不良がメンチを切りながら至近距離まで近づく。湊は銃を抜き、空に向けて空砲を発射した。
「こ、こいつ何者!? 逃げた方がいいっすよ」
典型的ゴマすりタイプの不良は既に腰を抜かしている。しかも白虎からポコハンとハリセンを持たされているから心もとないのだろう。白虎は金属バッドは危険だからと没収したらしい。
「お、覚えとけ〜」
不良三人組はその場から走り去った。
不良をやっつけると、今度はバーナビーの格好いいところをメアリーに見せる仕事が待っていた。
悪役リーダー魔津度がバーナビーの前に掛矢の太鼓型打撃部分を下にして、思い切り地面に叩きつけた。
「ひっ!」
バーナビーは既に萎縮しきっている。よほど怖いのか。
「ゲァハハハハハ! テメェのような優男のヘタレに女なんか要るかよ」
芝居とはいえ、魔津度はものすごい威圧感をバーナビーに与えているだろう。
「テメェ、金ないか? 俺ちょっと金欠でよ〜。ちょっとくれないか?」
悠夜がこういう台詞を演技で言っても違和感がないのは気のせいか。
バーナビーが現れる前に覚醒していた諷は身体と斧を一体化させたかのようにグルグルと回る。
覚醒解除をしたら、一気に酔いが来たらしく、かなりグロッキーになっている。
「あんた、おいらを殴るふりを‥‥」
バーナビーは恐る恐る拳を諷の顎に突きつけた。
「なんだと、まだまあぎゃー」
グロッキーな勢いで諷は倒れた。とりあえずバーナビーが殴って倒したように見えたらそれでいいということになっているらしい。
悪役三人組を倒したことになっているバーナビーは正倉院命に引きずられ、メアリーのところまで行った。
「ず、ずっと前からメアリーのこと好きだったんだ」
「‥‥私も。バーナビのことを惚れ直しちゃった−」
見つめあうバーナビーとメアリー。いまの芝居で本当に惚れ直したのか?
「その娘が良いんですか!! じゃあ、この子は‥‥、このお腹の子は、どうするんですか!」
冴木美雲が訳の分からないことを言い始めた。
「僕、そういうことしたことないし! メアリー、行こう」
バーナビーはさらっとスルーした。バーナビーがそういうことをしたことがないのなら、冴木美雲の父親であるはずがない。
依頼の内容はクリアしたということになり、能力者たちは安堵した。
「うちよりあの小娘を選んだんやな」
正倉院命は悔しそうな表情をしている。
「美雲さん、粛清しますにゃ!」
まるでコントのように、屋根からタライが降ってきた。
「いたっ!! え‥‥あれ?私も粛清ですか!?」
どうやらタライは粛清らしい。白虎はさらに不良三人組をしっと団に強制連行して教育指導をするらしい。
「新入りの服装は褌一丁からだにゃー!」
張り切って不良三人組を追いかけていく白虎に、いつどこでタライが落ちてくるかもしれないという恐怖を植え付けられた冴木美雲。
「ハァ〜他人の色恋沙汰には満腹だぜ。獅堂はどう思うよ?」
悠夜が獅堂にタバコを吸いながら近づいた。
「色恋沙汰では満腹にならないですね。やはり炭水化物とかでしょう」
獅堂は大真面目に答えた。
バーナビーとメアリーがうまくいってよかったが、今後のことはバーナビー次第である。メアリーと付き合えたことで少し自信がつくかもしれない。