タイトル:生徒たちが可哀想!?マスター:桃野はな

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/06/02 14:58

●オープニング本文


 山に囲まれた村にある学校。
 学校では最近遅刻をしてくる生徒が急増している。今までは始業ギリギリに駆け込んでくるような生徒が漏れなく遅刻するのである。
 始業のベルとともに校門を閉める守衛は首を傾げる。
(なんで誰一人走ってこないんだ‥‥?)
 誰一人走ってこないどころか、道に生徒の姿がないのだ。
 放課後、今までは始業ギリギリ常習犯の生徒に守衛は声をかけた。
「この頃、遅刻ばかりだけどどうしたのか? お前みたいな始業ギリギリに駆け込むヤツはみんな遅刻しているじゃないか」
 声をかけられた生徒がぶっきらぼうに答えた。
「おっさん、知らないの? 通学路に黒い昆虫みたいなのがたくさんいて、奴らが去るまで足止めくらってんだ」
(‥‥黒い昆虫みたいなのがたくさん?)
 本当にそれが通学の妨げになっているとしたら――遅刻ばかりする生徒の進級に関わる問題になってくる。
 生徒たちのことを人一倍愛している守衛は本部に依頼することにした。
 生徒たちの通学を邪魔する黒い昆虫のようなものを退治してほしいと。

●参加者一覧

ファティマ・クリストフ(ga1276
17歳・♀・ST
辰巳 空(ga4698
20歳・♂・PN
夜狩・夕姫(gb4380
15歳・♀・FC
オルカ・スパイホップ(gc1882
11歳・♂・AA
和泉譜琶(gc1967
14歳・♀・JG
セバス(gc2710
22歳・♂・GP
御剣 薙(gc2904
17歳・♀・HD
悠夜(gc2930
18歳・♂・AA
春夏秋冬 立花(gc3009
16歳・♀・ER
Kody(gc3498
30歳・♂・GP

●リプレイ本文


朝の七時半。依頼主である守衛から渡された地図を片手に、現場に徒歩で向かう道中。コンクリートで舗装された一本道が続き、両脇には山林が構える。無線機まで貸し出してくれ、しかも防弾チョッキまで披露してくれた守衛の正体が気になるところだが、依頼主の依頼を片づけるのが仕事である。
「初陣なので頑張ります」
 春夏秋冬・立花(gc3009)が拳に力を入れて、口を開いた。
「まあ、黒い昆虫みたいなものだって言いますから、もしかしてゴキ‥‥いや、何でもありません」
 女性陣の視線を一縷に集めてしまったので、辰巳・空は(ga4698)口ごもった。
「黒い虫って‥‥Gさんじゃないですよね!?」
 女性陣の抱えているであろう不安を真っ先に口にしたのは、身体は小さいが元気いっぱいの和泉譜琶譜琶(gc1967)だった。
「黒い昆虫みたいなの‥‥ちょっと嫌な予感がしないでもありませんが」
 ファティマ・クリストフ(ga1276)は顔をしかめる。
 どうやらみんなの頭の中に黒光りした世の嫌われ者の代表、ゴキブリが浮かんでいるようだ。ゴキブリだって嫌われるためにこの世に生を受けたのではなかろう。今回の敵がゴキブリだと決まったわけではないが‥‥。


「それはそれとして、ある程度作戦を立てておいたほうが良いと思うっす」
 ゴキブリの重圧に負けそうな重っくるしい雰囲気を打ち破るがごとく、夜狩・夕姫(gb4380)が口を開いた。
「とりあえず数分のみ現れて去っていくのが気になるなぁ」
 Kody(gc3498)は誰しもが気になっているであろうことを口にした。Kodyは言葉を続ける。
「まあ、生徒さんの安全が第一だし、ひとまずプチっと潰しとくかねぇ」
 Kodyは指の関節を鳴らした。
「私は生徒の護衛にまわりましょう」
 セバス(gc2710)は外見にふさわしい丁寧な言葉遣いをする。
「数匹残して裏を探る必要もありますね。撲滅しないといけませんし、生徒の護衛もしなければならない‥‥」
 辰巳は腕を組む。
「生きて残した数匹のキメラは私が隠密スキルで先行しちゃいますよ!」
 和泉譜琶は裏を探るのに必要なメンバーになりそうだ。
「ボクは出現地点に待機して戦おう」
 戦闘メンバーに名乗りをあげたのは御剣・薙(gc2904)。御剣流という様々な武器を扱う技術を叩き込まれているので、戦闘メンバーにはもってこいの人物だ。
「学校は楽しいのにな〜、遅刻する生徒も説得しなくちゃいけないんでしょ〜」
 語尾を伸ばしながら、オルカ・スパイホップ(gc7882)が最終ミッションとも言える大事なことを皆に思い出させた。
「俺は学生で同じ身分だ。少しでも生徒を助けてぇからな。まあ、説得するのは戦いが終わったあとでも何ら問題はねぇ」
 悠夜(gc2930)はどこか不良を思わせる言葉使いをするが、言っていることは最もなのかもしれない。 
 作戦会議の結果、追跡担当のAチームは辰巳、和泉譜琶、オルカ、Kody、御剣、護衛担当はBチームに春夏秋冬、悠夜、セバス、ファティマ、夜狩に決まった。
「しかし、通学路に何もないのですね」
 クリストフは延々と続く道に目を細めた。
「いや、出現場所の向こうに弁当屋があるみてーだぜ?」
 悠夜が地図を指さした。悠夜が言葉を続ける。
「弁当屋が通学路にあるなんて便利だな。学校には食堂とか購買とかあるんだろ? 肥えていくばかりだな」
 最後の一言はいらないとは思うが‥‥。一方、学生生活が羨ましいのか、和泉譜琶はノリノリである。
「学校に遅刻かぁ‥‥したことないなぁ、寧ろ早く来て校庭で遊んでたり、日直さんの仕事を手伝ったりしてたもん」
「それは偉いですね」
 セバスがお世辞か本音か分からない言葉を返す。
「生徒さんにまぎれて、私もセーラー服とかどうですかー?」
 和泉譜琶の発言に一同は沈黙した。和泉譜琶の発言に半分本気を感じてしまったのだろうか。すれちがった学生がびっくりしたような視線をこちらに向ける。
「ともかく‥‥遅刻はする方もする方ですが、生徒の邪魔をするのはいただけませんね‥‥」
 コホンと咳払いをして、セバスが場の沈黙を破る。話がどんどん逸れることを恐れたのであろう。
「僕、戦争で学校に行ってないけど行ける人はきっちり言って欲しいよ!」
 オルカは後頭部で手を組み、学生への憧れを口にした。
「ボクも学校に行きたいっす。学園祭に修学旅行‥‥」
楽しい学生生活を妄想する夜狩。
「はっ、でも試験だけは勘弁しておきたいっす」
 楽しいことだけが学生生活じゃないという現実に夜狩 は我に返った様子。
 学生生活へそれぞれの想いを語っているうちに、出現場所に一行は到着した。
「‥‥ゴミ箱があるだけですね」
 辰巳が呟いた。現地にはゴミ箱が一つあるだけで、パンの空き袋などが捨ててあった。Gフラグが立ったと思ったのか、しばらくの間誰も言葉を口にしなかった。
「だいぶ通学する生徒も増えてきましたね。あ‥‥ゴミ箱に弁当の残飯を捨てましたね。朝食でしょうか‥‥」
 御剣の視線の向こうにはでっぷりと脂肪を蓄えた学生が弁当で満腹になったのか満足そうに歩いていた。そうやって、朝食の弁当の空き箱を捨てていく生徒が一人、二人と増えていく。
「道の両脇は山林だから、拠点はここっす。護衛班は敵が現れたときの護衛をよろしくっす」
 夜狩が山林の一カ所を指さした。

●現れた黒光りしたヤツ
 黒い昆虫みたいな虫が現れるという時間になると、西の空から黒光りした物体が群をなして飛んできた。ゴミ箱の周辺に着陸すると、ゴミ箱の残飯を漁っている。
「まるでゴキブリそのものですねー。通学路を塞がれている生徒さんには目もくれないっていうかー」
 残飯を漁るキメラを楽しそうに和泉譜琶は眺める。キメラを目前に御剣の髪が青み掛かった光沢を帯びた。
「一、二匹残して、あとは片づけるとするか」
Kodyの言葉を皮切りに、追跡班が切り込んでいく。
「さあ、狩りの時間だ‥‥各々油断なく行こう‥‥奴らに死は宣告された‥‥」
 夜狩は無自覚であろうが、コートの前が全開になっているところに生徒の視線が釘付けになっている。
 御剣はしゃがんで、次々と回転蹴りくらわす。そして、浮き上がったキメラの腹側を狙い回し蹴りをくらわした。護衛班は生徒の身の安全も確認しつつ、キメラに逃げられないように周りを囲みこむ。キメラの目的は生徒の邪魔ではなくて、弁当の残飯で腹を満たすこと。それが分かったいま、生徒の身の安全はあまり心配することではないのかもしれない。今までも通学の足止めをくらうだけに過ぎなかったことがそれを証明している。
「おじゃまむし〜は、おかたづけ〜ってやつだよ〜。あっ、残りの奴ら逃げようとしているな。和泉譜琶さん、頼むよ」
 隠密スキルを持っている和泉譜琶にオルカは追跡を頼んだ。
「チョークで道に目印書いておきますね〜」
 和泉譜琶は逃げ出した方向へ駆けだしていった。

●黒いヤツの巣
 和泉譜琶の印したチョークの後を追跡班は追っていくと‥‥。そこには逃げていったキメラよりも小さなキメラが五匹ほど巣から出てきていた。おそらくキメラたちが持って帰ってくる残飯を心待ちにしていた子供たちなのだろう。
「ごめんね、可哀想だけど‥‥」
 和泉譜琶は弾頭矢でキメラを狙う。まだ子供だろうが関係はない。オルカは手足の指先から肘、膝辺りまでテカテカの黒色になり、指の間に水掻きができている。
「二段撃でやっつけちゃうよ〜」
 サクサクとキメラを片づけていく。夜狩は大鎌をまるで身体の一部のように扱っている。
「キメラを操っているヤツもいないようだし、巣も撲滅。任務完了ってとこか?」
Kodyの言葉に追跡班は安堵の表情を見せた。

●生徒への説得
 キメラの巣まで撲滅したのはいいけれど、最後の任務が残っていた。それはもう少し早く登校しなさいということ。いっそうのこと、ゴミ箱も撤廃したほうがいいのかもしれない。
 キメラとの戦闘を見て唖然としながらも、弁当屋で買ったであろうパンや弁当ををもぐもぐ食べている生徒たちに春夏秋冬とファティマが話しかける。
「どうしてギリギリに登校するのかしら?」
「だって、朝つらいし‥‥前まではギリギリだったけど、この頃足止めをくらって遅刻ばかりで困ってたんだ」
「朝はつらいですからね」
 ファティマは共感し、春夏秋冬は同調する。
「良いですか、早く登校することは悪い事ではないのです。まず早く登校する理由とは余裕を保つためなのです」ファティマが指を立てて、丁寧な口調で的を射たことを生徒へ説く。生徒は何も答えることができない。
「世界には学校に通えない子もいるのです。友達と普通に学校で過ごせることは幸せなことです」
 セバスの言葉に生徒たちは顔をしかめる。あまりにスケールの大きい話に少々うんざりしてるように見える。
「登校中に食べるのはお止めなさい。また、遅刻するような事態になりますよ」
 セバスは生徒たちに念を押す。生徒たちは頭を縦に振るしか、もはや選択肢がないようだ。
「お疲れさん。セバスも一服どうだ?」
 タバコを吸いながらセバスに悠夜は話しかけた。
「そうそう、悠夜さんもせっかくカンパネラで授業を聞けるのですから真面目に受けましょうね」
 悠夜はセバスに話かけるんじゃなかったと後悔した。
 その後、ゴミ箱は撤廃され、通学路には百メートル置きに『ポイ捨て禁止』という看板が立てられることとなった。