タイトル:何をしてるの、オレの嫁マスター:桃野はな

シナリオ形態: ショート
難易度: 易しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/06/11 06:46

●オープニング本文


「うちの嫁、すごい綺麗だって、近所で評判なんですよ」

 そう言って、依頼主は照れながら笑った。

「私が夜中にたまたま目を覚ましたときにベッドにいなかったんです。あ、私の家はダブルベッドでなんっすけど‥‥。私は今まで朝まで目を覚まさなかったタイプなんですが、この頃気になって夜中に目を覚ますようになっちゃったんですよね。そうしたら、三回に一回の確率で嫁が家にいないんです。近所に探しに行ったんですが、見当たらなかったんです。‥‥浮気してるんでしょうか? 誰かが嫁に惚れてもおかしくないほど、うちの嫁最高ですから。なんで僕が結婚できたのかなっていうほど」

 延々とのろけ話が続く。奥さんに問いただしても、うまくごまかされているらしい。

「あ、それで、嫁がいったい夜中に何をしているか調べてほしいんです。どうぞよろしくお願いします」
 依頼主は深々と頭を下げた。

 依頼主は恰幅の良い優しそうなおじさんで、奥さんが浮気しているにしても、依頼主に原因があることはなさそうだ。

 依頼主が住んでいるところは、小さな村で夜に遊ぶようなところはない。隣の家との距離もだいぶある。
 はて、いったい依頼主の嫁は何をしているのだというのだろうか。
 依頼主が本格的に不眠症に陥る前に、解決を頼む。

●参加者一覧

終夜・無月(ga3084
20歳・♂・AA
ジョー・マロウ(ga8570
30歳・♂・EP
最上 憐 (gb0002
10歳・♀・PN
沖田 護(gc0208
18歳・♂・HD
犬彦・ハルトゼーカー(gc3817
18歳・♀・GD
安原 小鳥(gc4826
21歳・♀・ER
リマ(gc6312
22歳・♀・FC
ミシェル・オーリオ(gc6415
25歳・♀・HG

●リプレイ本文


「‥‥あら、思ったより人が増えたじゃない? 多いほうがいいってやつかしら」
 丁度いい初依頼の参加者を見て、楽しくなりそうねとミシェル・オーリオ(gc6415)がクスクス笑う。
「夜にこっそり、なんて。ふふ‥‥。別に、ナニをしててもいいじゃない? あ。そういうのじゃない? 失礼したわ。ま、別にいいんだけど」
「まぁ‥‥これも何かの縁ですね‥‥」
 別の依頼を終え、帰る途中で何気なく本部に繋げた端末から帰り道の道中の街から今回の依頼を知った終夜・無月(ga3084)は寄り道感覚で引き受けた。

「‥‥ん。奥さんは。実は。旦那さんの。脳内妄想で。存在しないとか?」
 最上 憐(gb0002)の言葉に、それはないだろうとジョー・マロウ(ga8570)が突っ込む。
「自己紹介がまだだった、俺はジョー・マロウだ。よろしくな。素行調査を依頼するんだから、実際にいるだろう。傭兵になる前は探偵をやってたから、それなりに人から話を聞きだすのは得意だぜ。あと女性の相手も」
 そう言うとレンタルカーでの旅行者を装い、夕方の微妙な時間帯に依頼主の自宅を訪れることを皆に話す。
「ま、裏工作に関しては任せとけって」
 その話に乗ったミシェルは、ジョーと共に旅行者を装い依頼主宅へ向かうことに。

「んー‥‥正直なところ、あんまり良い予感はしないわね。だからって疑って掛かるのも‥‥とは思うんだけど。はっきり言って、これ探偵の仕事でしょう? ま、仕事は仕事だし‥‥私は頼まれた事をするだけなんだけどね」
「僕も同感ですが、依頼を受けたからには、責任を持って真相を突き止めます」
 リマ(gc6312)が言うように探偵を雇っても良さそうなものだが、海岸清掃といったバグアも能力者も絡んでいない案件が傭兵に依頼されることも時々あるので沖田 護(gc0208)は気にしていない。

 安原 小鳥(gc4826)は嫁のことを自慢し、大事に思っている依頼主を心配している。
「‥‥奥様の行動は、いったい何が原因なのでしょうか‥‥。最悪の事態‥‥それだけは、ないことを願います‥‥」
 嫁が旦那に黙ってこっそり、本人に問いただしても誤魔化され、依頼主に思い当たる節なし、近所の人当たり良好なのにわざわざ調査するまでもないだろと犬彦・ハルトゼーカー(gc3817)はため息をつく。
「嫁だけど、浮気をするならもっと上手くやるだろうに。おおかた、旦那を驚かせようと何かを秘密にしておきたいってパターンだろうし、放っておいても自然に解決すると思うんだけどねー。まっ、浮気みたいな怪しいことはしていないと確認して、依頼主の不安を無くすようにしないとな。不眠症とかで体壊されたら厄介だしー」
 さっさと調査しようと動き出す犬彦に続き、皆、それぞれの行動に。
「‥‥ん。情報収集は。任せて。食べ物屋とか。食料品店とか。畑とかで。聞き込むよ」
 先に行くね、と憐は飲食店や食料品店、畑等を周り情報を収集しに向かった。


 犬彦と小鳥が一足先に依頼主宅に着いた時、都合のいいことに嫁は買い物に出かけて不在だった。それを知ると、今回の依頼に関する話を聞くことに。
「依頼をお願いした時にも言いましたけど、私の嫁は本当に近所で評判がいいんです。いつも綺麗な奥さんで羨ましいですねって言われるほど。それからですね‥‥」
 長くなりそうなノロケ話はいい、とうんざりしながらも相槌を打ち話を聞き、小屋の話題が出るとそこを見せてほしいと頼む。鍵はかけられるようになっているのかと聞いたところ、無いのでいつでも中に入れるとのこと。小屋の前に昼間のうちに調べたいことがあるという小鳥がいたので一緒に中へ。
「ちょいとお邪魔するよ」
「コソコソしなくてすみますね‥‥」
 小屋には話どおり外にも中にも鍵は無く、小さな窓がひとつあるだけの6畳程の広さの簡素な作りだった。ざっと中を見渡すと下見を兼ねた散歩を始めたが、犬彦が飽きてきたので目立たないところで昼寝するとどこかへ行ってしまった。
「どうしましょう‥‥」

 リマは念のためにとジャケット裏のポケットにナイフを銃を隠し、井戸端会議をしている主婦に村の名所や名産、ついでにと最近の出来事をそれとなく聞いた。キメラや不振人物の話題、噂話を聞き逃すことなく耳にしていると、依頼主の嫁の外見が少し変わったかもという話題が出た時にその本人が通り過ぎたが気づかず。
 それを楽しそうに話す主婦達の話にそれが原因で家を抜け出し、小屋で何かしているのかという推論に達した。
 護はAU−KVをバイク形態にすると村の見回りに。
「今のところ、異状なしですね」

「‥‥ん。小さな村。意外と。珍味とかが。眠っているかも。楽しみ」
 意外な掘り出し物、具体的には珍しい料理や食べ物が無いかを散策しながら、憐はとりあえず飲食店や食料品店で情報収集を。
「‥‥ん。とりあえず。食べ物。たくさん。いっぱい。頂戴」
 食べ歩き用にと買い込んだ食料の量がハンパないので、食料品店の店主は驚いた。
「‥‥ん。この村は。平和? キメラとか出ない?」
 今んとこキメラは出てないし平和だよ、と店主が答えるので一安心。
「‥‥ん。この村で綺麗と評判の奥さん。ここで買い物する?」
「ああ、あの美人さんね。最近、食料をたくさん買い込んでるみたいだよ。持ちきれるかどうか心配なほど」
 食料を大量に買い込んでいる。それだけでもひとつ情報が手に入った。
「‥‥ん。ありがとう。キメラが出たら。退治とかするよ。この村に。珍味とか。名物料理とか。特産品とか。ある?」
 店主イチオシの特産品と珍味を大量に買おうとするので心配されたが、本人はお金はあるから大丈夫と代金を支払い店を後にした。
 食べ歩きをしながら、次は畑で嫁のこととキメラが出現していないかを聞いた。畑でできた野菜を渡すと、その日のうちに作った嫁の手料理をお裾分けしてもらっているとか。
「‥‥ん。奥さん。料理するの。好きなんだ」

 あくまでも依頼帰りに村に立ち寄ったことにする無月の完全武装は目立ったが、苦笑しながらここに来る前にKV大の巨人を相手にしてきたと苦笑しながら誤魔化す。
「ここで少し休みたいんですが‥‥宿泊施設はありますか‥‥?」
 村人に尋ねると、恰幅の良い男性が住んでいる家の近くにキャンプ場があるという。
(依頼主の近くにあるとは‥‥ありがたいですね‥‥)
 まずは手続きをとそこに向かい、自分が傭兵であることを話すと村の防犯ついでにバグアやキメラの有無や不審者の有無を管理人に尋ねた。ここでも憐同様、キメラや不審者の影は無いという。
 後で仲間が来るから、と簡易キッチンがある少し広めのコテージを借りると夕飯の買い出しへ。
 店に向かう途中、買い食いしている憐と会ったので何か情報があったかを聞いた。
「‥‥ん。奥さん。食料をたくさん買ってるみたい。畑では。野菜をもらってる。それを使った料理を。お裾分けしてる。美味しかったって」
「そうですか‥‥料理の腕を磨いているのでしょうか‥‥?」
 料理が関わっているのなら力になれるかもしれないと思った無月は、憐を誘い食料を買った。


 夕方、レンタルカーで旅行中の旅行者を称したジョーとミシェルが依頼主の家に辿り着いた。
「どちら様ですか?」
 玄関に出たのは、買い物を終え帰宅した調査対象の嫁と依頼主だった。
「あら‥‥美人さんね。おいちゃんの妾かい?」
「いえ、妻ですが」
「‥‥失礼。実は、アタシ達が乗ってた車が壊れちゃってね」
 あんたが運転するからだろ? とミシェルに肘鉄を喰らわしたジョーは「すみません、車が故障したんで電話を貸してもらえませんか?」と頼む。
「どうぞ。こちらです」
 ジョーが依頼主宅のリビングにある電話を借り、レンタカー会社に電話(をしている振り)をしている間、暇潰しがてらの散歩をしていたミシェルはばったり会った離れたところにある隣家の住人と話をしていた。
「ねぇ、お隣の2人の仲ってどうなの? あっちは激しいのかしら? あ‥‥ごめんなさいね。今のは聞かなかったことにして頂戴」
 隣人が不機嫌そうな顔をしたのでまずかったかしら? と反省したようだ。
「代車来るのに数日かかる? そんな! もうちょっと早くなんないのかよ! 無理だって? は〜参ったな〜」
 そういうが、あわよくば依頼主宅に泊めてもらおうとする芝居である。
「困ったな‥‥この先で宿泊って計画してたんですけどね〜。車がないんじゃ、行けそうもないな‥‥」
「それはお困りでしょう。うちの近くにキャンプ場がありますから、そこでお泊りになっては。私が管理人に事情を説明し、部屋を借りますから」
 作戦失敗〜とがっくりうな垂れるが、散歩をしていたミシェルを連れ、依頼主のご好意に甘えキャンプ場へ。
 そこに行く途中、嫁が夜中に何かをしているだろう小屋の側を通りかかったので覚醒すると『探査の眼』を使い足跡や痕跡を調べた。
「足跡は奥さんのものか。それ以外の痕跡はないな。何かを隠していると思ったのに」
 小屋の前を後にすると、村人の女性に出会ったので村の観光スポットや特産品を聞き出した。
「ナンパしてんの?」
「別にナンパじゃないデスヨ、ええ、名物なんかを聞いてるだけデスヨ」

 キャンプ場に着くと、そこに無月をはじめとする他の仲間がいたので打ち合わせを。
「夜中に奥様が起きだすところを調べるとなると‥‥その時間まで起きていなくてはなりませんよね‥‥」
 小鳥の一言に皆、そうするしかないと思った。
「嫁さんの後は全員でつける? 大人数で大名行列もアレだし、ストーカーと間違えられるのも何だから、何人か小屋周辺で張り込みとか」
 犬彦が言うように大勢で尾行すると怪しまれるので、調査と張り込みに分かれたほうがいいだろう。
「そうですね‥‥。小屋の陰から見守ってが‥‥1番でしょうね‥‥。奥様が誰かとお会いにあっているのなら、それが誰なのか‥‥息を潜め、静かに‥‥その人物を覚えておく必要がありそうです。もし、そうでないのなら‥‥奥様と接触して、何かお手伝いをすることも出来るかと‥‥。その際には傭兵としてではなく‥‥たまたま出会ったお節介な人‥‥として、ですが」
 出来ることなら奥様も旦那様も傷つかない方法、傷つかない方向で解決出来たらと思う小鳥は、隠密行動で抜け出す嫁の見張りを買って出る。
「僕らは真実を知るために雇われた立場です。理由が何であれ、見聞きした事実を依頼主に報告するのが役目です。皆さんはどう思いますか?」
 護としては現実を糊塗して真相をぼかすのは好きではないので、ありのままを伝えるべきかどうかを相談してみると「真相を伝えるべき」という意見が多かった。
「あたしは突入することを考え、万が一村人が小屋に近寄らないように四周警戒をするね」
 張り込み立候補のリマは、もし村人が近寄ってきたらキャンプ場への道で迷った、と付き添ってもらう算段でいる。
「‥‥ん。時間まで。寝るので。動きが。あったら。起こして。おやすみ」
 憐は行動開始の夜中まで時間があるので一眠りすることに。


 嫁は依頼主が眠ったのを確認すると、懐中電灯を手にし、こっそりと家を抜け出し小屋に向かった。
(目立ってはいけませんし‥‥難しいところです‥‥)
 嫁に見つからないように全員でこっそり尾行。装備が貧相なのが心配ではあるが、リマは戦闘があれば他人の隙を埋めるように動けるよう構え、小鳥は『GooDLuck』を使うと息を潜め、小屋に入った嫁の様子を窓越しに窺う。
 ひとつ気になるのは、嫁が寝間着ではなくジャージ姿であることだろうか。
 嫁は奥にある何かを被せた布を取ると、小屋の中央に持っていった。それらはひとつではなく何種類かあった。
「あれは‥‥」
 小屋に接近した小鳥が中を良く見ると、それはバランスボールやエアロバイクといったエクササイズ用品一式だった。
 一式揃い終えると、嫁はステップ台で踏み台昇降を始めた。
「皆さんに報告しましょう‥‥」
 仲間と合流しようとした時、小屋に立てかけてあった丸太を倒してしまったので彼女の存在がバレてしまった。
「誰!?」
 窓を開けた嫁と小鳥の目が合った。正直に話したほうがいいかもしれないと思い、あなたのことを心配しているご主人に頼まれて調査していましたと答えた。
「ご主人は‥‥奥様が何をなさっているのか、すごく心配されています‥‥。よろしければ‥‥私達に理由を話していただけませんか?」
「私達?」
 嫁を待たせ、仲間全員を小屋に呼び出す。

 俯き加減で顔を赤らめる嫁の話によると、明日の依頼人の誕生日のために好物を振る舞うべくたくさん食料を買い込み、こっそり作っては美味しくできたかどうかが気になるので試食しているうちに太ってしまったのだという。
 近所では美人妻と評判の彼女にとって、これは深刻な問題である。
「結婚記念日のプレゼントだけど、手作りのものなら縫い物でもいいんじゃ‥‥。セーターなんて乙女チックじゃない? あ、季節はずれか‥‥」
 それも考えたが、依頼主は嫁の料理が好物なのでそれにすることに。
「主人のためにいつも綺麗な奥さんでいたいんです。家でエクササイズをすると主人が心配しますので‥‥」
 女性陣には嫁の苦労がわかるような気がした。
「事情はわかりました‥‥。そのことですが‥‥ご主人に正直に話しことをお薦めします」
「悪いことをしているわけじゃないんだから、きちんと話したほうがいいと思うな」
 何も無いようだから万々歳じゃない? とリマも無月同様、依頼主に真相を話すことを促す。

 皆に説得され、嫁は依頼主に事の真相を話した。
 嫌われると覚悟していたが、依頼主はほっとした表情で胸を撫で下ろした。
「私はそんなこと気にしてはいない。むしろ、私のために頑張ってくれていることがすごく嬉しいんだ。ありがとう、私と結婚してくれて」
「あなた‥‥」
「何にせよ、奥さんが何してるかわかってよかったじゃない。ドンマイよ、おいちゃんっ。これからも奥さんを大事にしてあげなよ?」
背中を叩き、依頼主を後押しするミシェル。

 翌日、傭兵達を招待しての依頼人のバースデーパーティーが催された。
「たくさんありますからね」
 大食漢を想定していたので料理は大量に用意してある。
 これらを作った無月の腕前だが、嫁や手伝いに来た料理人が見て舌を巻くほどの凄腕だった。出されたのは家庭料理だが、見た目とは裏腹に味は一級品だ。
「あなた、これ‥‥」
 嫁がおずおずと差し出したは、依頼主大好物のフライドチキン。これは嫁ひとりが作ったものだ。
 アレたくさん食べたら太るのは無理ないだろうと思ったが、誰ひとりとして口にしなかった。
「うん、美味い!」
 大好物を食べ依頼主は元気を取り戻したようだ。
 傭兵達は、夫の微笑ましい姿を見て無事に依頼が終わったと安心した。

(代筆 : 竹科真史)