タイトル:農村の危機を救え!マスター:桃野はな

シナリオ形態: ショート
難易度: やや易
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/11/09 10:31

●オープニング本文


夜になると虫たちの鳴き声が聞こえるようになった初秋。
ある農村は畑の農作物の収穫時期を迎えていた。

「畑仕事をしようとしたら、かなり酷い目にあっちまってさ」

こう話すのは農家の主人だ。

畑仕事をしようと畑に入ったら、虫を踏んづけたときに、尋常ならぬ怪我を負ってしまったというのだ

「それ以来、怖くなっちまって収穫ができてないのさ。こんな状態じゃ、農作物を出荷するどころか自給自足にもならねぇ。畑に絶対に何かいるに違いねぇ。今のところ、俺の畑の被害だけみたいだけど、うちの農村に蔓延ったら終わりだ」

主人はもしかしたらキメラではないかという懸念を持ち、今回依頼してきた。
もしキメラだとしたら、畑仕事ができなくなるどころか、農村そのものに被害が及ぶ可能性が出てくるだろう。

農村は小規模で畑が多く、住んでいる人のほとんどが農業に携わっている。

「代々引き継いできた農業だ。俺の代で終わらせるわけにはいかねぇ」

農村の将来を憂う主人。
どうかこの農村の危機を救ってください。

●参加者一覧

リリー・W・オオトリ(gb2834
13歳・♀・ER
結城 有珠(gb7842
17歳・♀・ST
陽山 神樹(gb8858
22歳・♂・PN
鈴木悠司(gc1251
20歳・♂・BM
セラ(gc2672
10歳・♀・GD
イレイズ・バークライド(gc4038
24歳・♂・GD
ヘイル(gc4085
24歳・♂・HD
ネイ・ジュピター(gc4209
17歳・♀・GP

●リプレイ本文


●危機に瀕する畑
 これは少しばかり暦をさかのぼった話。そう、時は初秋の頃合。
 今まさに収穫の時を迎えようとしている農村に、多数の虫キメラが発生した‥‥!
 農産物への被害を防ぐため、農業従事者の心の平穏を守るため、立ち上がった8人の戦士。
 その正体は!
「破暁戦士ゴッドサンライト参上!!虫退治はお任せあれ! ‥‥あの悪魔は除くけど‥‥」
 えっと、陽山 神樹(gb8858)さん、フライングフライング。
 はい、気を取り直してと。
 その正体は、UPCが派遣した能力者達であった‥‥!


 ひなびた田舎道を、UPCマーク付のトラックが走る。
 荷台には幌がかかっており、中には8人の能力者。
 それぞれ来るべき戦いに備え、装備や武器の最終チェックを行っていた。
 ひときわ目立ついでたちは、先ほど名乗りをあげた神樹。
 ヒーロー番組から出てきたようなオレンジのパワードスーツにヘルメットで身を固め、赤いマフラーを秋風に靡かせている。
「やっぱり田舎は空気が良いなぁ♪ さてと‥‥今日もヒーローになって困ってる人のために戦うか!」
 と、いいつつも虫除けスプレーを全身に噴霧している。
「‥‥虫‥‥か‥‥あまり好きではないんだよな‥‥」
 イレイズ・バークライド(gc4038)が、どんよりと呟いた。幾多の戦場を渡り歩いたダークファイターにも、嫌いなものはあるらしい。
「そなんだよね〜。田舎だからあの悪魔が出てくる可能性があるんだよな‥‥出てきたらどうしようか‥‥」
「悪魔?」
 虫除けスプレーのおすそ分けに預かっていたイレイズが首を傾げる。
 と、そこへ。
 開け放たれた幌から、ミツバチが1匹迷い込んできた。
「ヒイイイ! 悪魔!!」
 赤いマフラーをはためかせ、身をよじる神樹。いや悪魔って‥‥。
「だいじょうぶだよ!」
 本気で怯えるヒーロー(?)を救ったのは、わんこ青年‥‥もとい、鈴木悠司(gc1251)のグーパンチだった。
 彼はビーストマン。茶髪の上にふかふかした犬耳、デニムのお尻には尻尾が飛び出ている。
 ぱしん、と小気味よい音とともに蜂を捕まえ、そのままそっと逃がすあたりがイイ奴だ。
「農家の人、困ってるよね。ぱっと退治して早く安心させてあげないとね!」
 悠司の無邪気な笑みを受けて、結城 有珠(gb7842)も微笑み返した。
「ええ‥‥キメラが居るとなれば‥‥退治をするというのが役目‥‥ですね‥‥」
「ああ、世界情勢に関わりがないといっても、この手の依頼を疎かにするわけにもいかないな。人々の日常を脅かすものならば大小問わず、俺の敵だ」
「虫退治とはいえ、油断は禁物だ。 しっかり倒すとしよう」
 ヘイル(gc4085)、そしてネイ・ジュピター(gc4209)も、力強く頷く。
 がたんとトラックが大きく揺れた。舗装された道を外れ、山道へと入ってゆく。
 幌の外に、色づいた広葉樹が見えた。
 トラックは勾配をだらだらのぼり、紅葉のトンネルを暫し走る。
 そして、停まった。
「おお、傭兵さんがた!」
 待ちかねたように何人かの住人が走りよって来た。大きな麦藁帽子に、手には農機具。彼らが依頼人なのだろう。
「みんな、もう安心してね、大丈夫だよ!」
 トラックから一番に飛び降りたリリー・W・オオトリ(gb2834)が、眩しい笑顔を周囲に振りまいた。
「おお、可愛らしいお嬢さんじゃのう」
 依頼人の1人が眉を下げて、リリーの頭を撫でた。実はこの「少女」40歳手前なのだが、それは知らせぬが花というもの。
「おじいさんの畑をばっちりまもっちゃうよ! だって迷トリオは愛と笑顔と愉快を届けるんだから!」
 続いて降りてきたセラ(gc2672)も、やる気マンマンだ。しかし迷トリオとはこれいかに。
 その傍らで、ヘイルと悠司は、依頼人たちに「事件」の詳細を訊きはじめた。
「ヘイルだ、よろしく。敵はそれ程でもなさそうだが、侮らずに行こうか」
「まずはキメラのことを、できるだけ詳しく教えてください。大きさとか、どんな攻撃をされたかとか‥‥」
 住人たちは顔を見合わせ、口々に答えはじめる。
「大きさはそうじゃの、30cmぐらいかの。意外にでっかいんだが、葉っぱや土と似た色で、わかりにくいんじゃ」
「そうそう、葉の陰に隠れておるしの」
「うっかりふんづけたら、もう鼻が曲がるような臭い汁を出しおって」
「ワシは収穫をしようとしたら、軍手の上から噛まれたわい」
 出てくるわ出てくるわの被害報告。ヘイルは頷きつつ聞き、次の質問をした。
「他の畑には被害はないのか?」
「今のところ、この一角だけじゃが‥‥山向こうには別の畑もあるんでのぅ。はよ退治してくれんかのぅ」
「成る程な。任せてほしい」


 依頼人たちを畑から離し、傭兵たちは行動を開始した。
 作戦対象となる畑は、背中を山に抱かれる形で広がっている。
 肥えた土の上には、茶色く枯れかけた大きな葉がたくさん茂っていた。どうやら根菜の畑のようだ。樹の丈は低く、見晴らしはよい。
「かぼちゃと芋の畑か‥‥実に秋らしい」
「思ってたより広いな。ここは班にわけて行動しよう」
 イレイズとネイが呟いた提案を、悠司がひきとる。
「2人×4班に班分けして、それぞれが東西南北から索敵しつつ、迎撃しつつ中心に向って移動ってのはどうだろう」
「賛成〜」
「じゃあ班わけはアミダできめちゃおう!」
 セラが即興で、地面にアミダの絵を描いた。
「ん、東がセラちゃんと悠司ちゃん、西がヘイルさんとネイさん、南がイレイズさんと有珠ちゃん、北が神樹ちゃんとボクねっ」
 リリーの声に皆頷く。
 かくして秋空のもと、害虫駆除‥‥もといキメラ退治は幕をあけたのだ!



●【東】セラ&悠司
「じゃ、セラさん一緒に頑張ろう!」
 犬耳と尻尾をぴこぴこさせながら、悠司はセラに笑いかけた。
「虫、ねぇ‥‥報告書によれば20匹ほどか?」
 が、答えたのは彼女の別人格「アイリス」。洗練された声質と物言いには、先ほどまでの無邪気さは欠片もない。
「起きろ、レイ!仕事の時間だ」
 鋭い声とともに、【探査の目】そして【GooDLuck】を起動させた。手には盾に更なる力を注ぐ、光殻「レイディアントシェル」 。
「セラさんの武器はその盾?」
「無論。盾の硬度と重量をもって砕いて潰すのだよ。我ながら実にシンプルな戦術だね」
「そっか、じゃあ俺はセラさんとの連携を意識しながら動くよ。出来れば余り畑に被害が出ないように動きたいね」
「ああ」
 悠司は笑みを絶やさない。右手にハミングバード、左手に莫邪宝剣を携え、葉を薙ぎながら進んだ。
「ギギッ!」
 突如響く、金属を擦り合わせるような鳴き声。
「出たなっ!」
 葉の陰から飛び出してきたのは、平たい甲虫型キメラだった。顎の大きな鋏を広げ、2人に向って襲い掛かる。その数、数匹。
「働くとするか」
 セラ(の中のアッシュ)が呟き、プロテクトシールドを振り上げた。全体重を盾にかけ、まっすぐキメラを叩いて落とす。
「グギャアア!」
 甲殻組織を砕く鈍い音が長閑な畑に響き、濁色の体液が飛び散った。
 シールドによる砕潰攻撃をかいくぐった虫を待ち受けるのは、悠司の剣だ。
「逃がさないぞ!」
 逃げようとするキメラの横に回りこみ、甲殻の裏を狙った【急所突き】を発動。討ち漏らしを出さぬよう、連携して屠ってゆく。
 鳴き声と羽音が聞こえなくなっても、2人は緊張を緩めようとしなかった。
 慎重に足元から葉の陰、土の上をも、丁寧に観察する。
「とりあえず受持ち分は殲滅したようだな。あとはセラに任せるよ」
 セラ(の中のアイリス)がふう、と息をついた。
 次の瞬間。
「‥‥あれ?セラなにしてたっけ? そうだよ!おじいさんの畑をまもらなきゃ! えっ!?もうおわったの!?」
 戻ってくる、本来の人格。
 悠司は暫しぽかんと口をあけたが、「セラ」の不思議そうな視線に気づき、優しく声をかける。
「ん、大体はね」



●【西】ヘイル&ネイ
【GooDLuck】を発動させたヘイルの天槍「ガブリエル」 が草をかきわけ、芋虫型キメラの小群を見つけ出していた。
 数は10匹弱。体長20cmほどの巨大芋虫どもは能力者には気づかず、呑気に農作物の蔓や葉を食い荒らしている。
「さて、本番だ。ネイ、準備はいいか?」
 槍の持ち手は、天照と月詠を携えたネイに声をかけた。
「うむ」
 小さく頷く、緑髪のグラップラー。
「1、2、3で同時に攻撃しよう。何分数が多い、早めに終わらせたい」
「我も異存はない」
「よし、行くぞ‥‥1、2」
 3!
 ヘイルが槍を揮い、ネイが小群に向って駆けた。
「‥‥斬る!」
 芋虫キメラどもが気づく前に、天照と月詠が弧を描く。ぶよぶよと柔らかい肉を切り裂き、宙に舞い上げる二本の太刀。
 難を逃れたものがもぞもぞと逃走を試みるが、ヘイルの槍が見逃すはずもない。
「遅い!」
 まずは「ガブリエル」、ついで知覚ダメージを与えるリューココリネが唸った。しばしいずれをも使い、やがて傭兵は非物理攻撃を選ぶ。
 槍で突いた時に溢れる黒っぽい体液が、僅かだがダメージソースになることに気づいた故だ。
「ネイ!」
 芋虫は本能で、敵の体力を感知する術を持っているのか。ヘイルより小柄なネイに攻撃が集中していた。
 無論彼女とてそれに屈するわけではないが、やはり物量差の不利は拭いきれなかった。
「‥‥く!」
 足元に群がられては、二つの太刀の威力も鈍るというものだ。
「うじゃうじゃと鬱陶しい!」
 ヘイルがすかざず、槍先で芋虫を薙いだ。自由を取り戻したネイが反撃。
「ネイ、大丈夫か?」
「感謝する」
 たちまち形勢は逆転。そして数秒の後。
「とりあえず終わったか‥‥」
「うむ‥‥」
 醜悪な芋虫たちは、残らず土に還った。



●【南】イレイズ&有珠
 実は虫が嫌いなイレイズ。今回も実のところ「俺の精神的負担になる虫を排除」することを目的に参加していたりした。
 能力者とはいえ人間、苦手なものの一つや二つ勿論あるが、どこか可愛らしい印象が否めないのは報告官だけだろうか?
 まぁ、それはさておき。仕事は仕事。
「踏まないように注意しないとな‥‥」
 脚甲「カプリコーン」 の先で地面を蹴りつつ、蛍火で草を払いながら進む金髪のファイター。
その後ろには超機械を携えた有珠が、周囲を警戒しつつ付く。
「ヒッ虫! ‥‥い、いや何でもない、キメラ発見」
 蛍火の剣先から僅か10センチほど先。葉に停まって羽を休める蛾キメラの小群を見つけたイレイズが、上擦った声を上げた。
 羽は葉の色に、触覚や足は蔓の形にそっくりで、間近で見ても分からないほどだ。
「‥‥敵もさるもの‥‥うまく擬態をするものですね‥‥」
 半ば感心、半ば呆れて呟く有珠。副兵装の「扇嵐」 を開き、イレイズと初撃のタイミングを計る。
「ええい俺! 虫がなんだ!」
 蛾キメラどもを見据え、半ばヤケでイレイズが地面を蹴った!
 腰を落とした低い体制で蛾まで一気に間合いを詰め、居合い切り!
「くうっ! 変な粉がっ!」
 斬った羽についていた鱗粉が舞い上がり、虫嫌いファイターの精神を苛むが、留まっている暇はない。
「負けん! 俺は負けん!」
 返す刃で逃げようとする蛾の胴体を斬! 緑黒色の体液が飛び散る。うわぁこれキッツイわー。
「負けんのだああ!!」
 地面に転がった胴体を足爪で屠る彼が、やや涙目だったのは見なかったことにしたい。
 一方有珠は、イレイズの攻撃を逃れた蛾の対応に走った。
「扇嵐」 を手に繰り広げられる優雅な舞い。
「‥‥脚捌きは武芸に通ずる‥‥と言いますが‥‥。それ以外でも使える部分があるようですね‥‥」
 だがそれは、キメラの動きを見据え、息の根を止める技に他ならない。
 飛び上がった蛾どもを撃ち落し、流れる所作で定位置でばたつく一匹をも沈める。
「念には念を入れて‥‥。最後まで油断せずに‥‥。大物が隠れていないとは限りませんから‥‥」
 しばしの舞のあと、畑には静寂が戻った。



●【北】リリー&神樹
 緑の畑の中、オレンジのパワードスーツを身に纏った神樹は、葉の陰から次々と襲い来るバッタキメラと戦っていた。
 ちなみに超機械で葉をつつき、いぶり出すのはリリーの役目である。
「神樹さんっ、いったよー」
「ありがとうリリーちゃん! よおし、害虫なんか鉄拳駆除してやるぞ! 必殺!サンライトナックル!!」
 天拳アリエルを目にも止まらぬ速さ(残像で拳がいくつにも見えてるとか、まぁそういう感じだ)で繰り出し、バッタを次々と叩き落す。
「神樹さんっ、今度はテントウムシだよー!」
 リリーの声とともに、毒々しい赤に無数の星を散らしたテントウムシが、バッタの後から飛んできた。
「むむっ、空を飛ぶ卑怯者には風穴を開けてやる!
 いや卑怯者言われても、キメラもきっと困ると思うんだ。
 しかし我らのヒーローは躊躇いも頓着も見せず、掛け声とともに小銃「S−01」のトリガーを引いた。
「くらえ! サンライトガン!!」
 腹から硬い羽に向けて射出されるメトロニウム弾。
「ギギギギ‥‥!」
 金属的な断末魔とともに、テントウムシキメラもその動きを止めたのだった。
「ん、もう終わりかな?」
「はははは! 破暁戦士ゴッドサンライトにかかれば、虫キメラなどものの数では‥‥」
 胸をそらし高笑いする神樹の表情が、突然凍りついた。
 ブーン。軽やかな羽音。
「ヒィィィィィ悪魔ぁああ!!」
 ものすごい形相でリリーの背後に回りこみ、身をかがめて息を殺す。
「悪魔って‥‥ 神樹さんっ、あれミツバチだよ? キメラじゃないよ?」
「わ、悪い!あの悪魔を見るとつい条件反射で‥‥」
「?」
 過去に何があったのか。 尋常ではない怯えっぷりにリリーは首を傾げたが
「ま、人間何かひとつぐらい苦手なモノがあるよね〜」
 深くはつっこまず、超機械で淡々と駆除してやるのだった。伊達に齢は重ねていない、優しさが垣間見えた。



●大団円
 キメラ退治も無事に終わり、秋の空が茜色に色づき始める頃合。
 依頼主たちからの「ほんの気持ち」‥‥すなわち秋の農産物‥‥を土産に、能力者たちは帰路につこうとしていた。
「また何かあったら依頼してくれ! 雑用でも何でも受け付けるからさ♪」 
 ヘルメットを外して笑顔を見せる「破暁戦士ゴッドサンライト」こと神樹。
「野菜ありがとね! うちの子供達にちゃんとした野菜を食べさせてやれるよ!」
 心づくしの野菜に、頬を緩めるリリー。
「もうだいじょうぶだよ! これでおじいさんたちも、笑顔になれるよね?」
 依頼主たちとひとりひとり握手を交わし、別れを惜しむセラ。
 そんな中ヘイルは表情を変えず、一言呟いた。
「また何かあれば呼んでくれ。力になる」 
 依頼主たちの喜びを、心の底で嬉しく思いながら。

 かくして農村の平和は取り戻されたのであった。
 
(代筆 : クダモノネコ)