タイトル:【福音】理想論マスター:桃谷 かな

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/07/18 03:58

●オープニング本文


 大型封鎖衛星アテナの攻略に成功したUPC宇宙軍中央艦隊は、奇妙な『亡命者』を保護していた。
 脳内に直接響く謎の『声』に導かれるまま、ULTの傭兵達が、有人機『フィーニクス』の自爆装置を破壊し、撃墜と鹵獲を装って収容したのだ。
 搭乗者は、フォースフィールドを持たず、言葉も通じない、海洋生物のような姿の謎の生き物であった。彼は、謎の『声』に従い、バグア以外の異星人、『バーデュミナス人』の『ミィブ』と呼称されることになる。
 ミィブと中央艦隊は、謎の『声』や図示など、あらゆる手段を駆使して意思疎通を図った。そして、人類は彼から幾つかの情報を引き出すことに成功したのである。
 まず、バグア本星艦隊の出撃拠点の一つである『低軌道ステーション』の位置と、そこに常駐する『本星第三艦隊』の巡洋艦数。次に、本星第三艦隊に隷属するバーデュミナス人の数。最後に、謎の『声』は、クリューニスと呼ばれる別の異星人であるという事だ。

 ミィブとクリューニスは、中央艦隊にバーデュミナス人の救出を懇願した。
 彼らが本星艦隊の重要情報を提供した事は、評価できる。しかし、バーデュミナス人は本星艦隊と共に人類と交戦した敵方の存在であり、意見が割れた。

 そして、彼らが下した決断は、『低軌道ステーションへの強襲』である。
 本星艦隊は出撃拠点を明らかにせず、常に別方向から現れては中央艦隊の後背を突く戦法を採る。しかし、出撃拠点と艦隊の規模が判明しており、それを人類に知られたとあれば、守勢に回らざるを得ないだろう。
 今回の作戦は、人類が握る本星艦隊の情報。それを敵に知らしめるため、そしてステーションの全容を知るための、牽制と威力偵察だ。
 バーデュミナス人の救出は、主目的ではない。
 しかし、その二次的目標に対して人員を割く事、傭兵を雇う事に異を唱える者は、もういなかった。


    ◆◇
 ヴァルトラウテとフラガラッハが低軌道ステーションに向かい、ソード・オブ・ミカエルとメギドフレイムがその支援に回る。その一方で、残る5隻――ハルパー、カドゥケウス、アガナベレア、アスカロン、ネイリングは、真正面からバグア本星艦隊と対峙していた。

 ――タスケニキタヨ! タスケニキタヨ!
 ――あいずをまつのー
 ――じばくそうち? をこわすよ あいずをするよ

 無音の宇宙を騒がしく感じさせる原因は、人々の脳内に何度も何度も繰り返し響く、クリューニス達のテレパシーであった。
 彼らの『声』は、恐らく人類とバーデュミナス人に向けて発せられているのだろう。今回の作戦の二次的目標であるバーデュミナス人の救出に関し、人類とバーデュミナス人の双方に理解可能な『合図』を出せる者は、彼らクリューニスしか居ない。
 人類とミィブの指示で彼らが『合図』を出し、その瞬間からフィーニクスの自爆装置の破壊を始めとするバーデュミナス人の救出を開始するのだ。
「こちらネイリング。前方に敵巡洋艦を発見。照合を‥‥いや、この船が、ミィブの乗っていた船かどうか、聞いてくれないか?」
 新造艦ネイリングの艦橋に立ち、艦長――UPC南中央軍出身のフアン・カレーラ中佐は、眼前に迫る敵巡洋艦の映像を他艦へと転送し、返答を待つ。

 ――ウン

 『それ』がネイリングの攻撃目標たる艦か否かの回答には、しばしの時間を要した。

 ――みぃぶガ ノッテタふねダッテ イッテルヨ

「御苦労、051」
 モニターに映る『バーデュミナス人』、ミィブは、鋼のような硬質の肌をピクリとも動かさず、無表情でこちらを見返している。
 彼の言葉を通訳するクリューニス達は、どうにも知能が低い。その上、テレパシーを送ることは出来ても、戦場の様子を目で見ているわけではない。異星人達との意思疎通には、常に時間を必要とした。

『随分とお人好しですね、中佐。フィーニクスに乗る異星人のみならず、敵艦内の者まで助けますか』
 続いてモニターが映し出したのは、同戦域にて展開中の巡洋艦『ハルパー』艦長、ジョージ・テイラー少佐である。統計、確率、数字‥‥いかにも、そんな言葉を信奉していそうな男だ。
 ネイリングは現在、1隻の敵巡洋艦を誘引しながら、戦域の外れを航行中であった。敵艦を取り囲むワームとキメラの群れの中にフィーニクスの姿は無く、他のバグア部隊と共に主戦場へ向かってしまった彼らを『二次的目標』として救出するのは、ハルパー等、他艦の仕事になるだろう。
 ネイリングの『一次的目標』は、目の前の敵巡洋艦を攻撃し、機会があれば撃沈する事。だが、フアン艦長がその『ミィブが乗っていた艦』を目標とすべく手を挙げたのには、理由があった。
「あの艦には、二体の異星人が冷凍睡眠室に残されているとの情報だ。見捨てるのは容易いけれど、救出を試みるくらいの事はしておきたい」
『賛成できません。艦の性能はバグアの方が上です。艦外の異星人を助けてやるだけでも我々の安全が脅かされかねないところを、艦内の者まで気にしている余力はないでしょう』
 ハルパーの艦長は、バーデュミナス人の救出に関して、否定的であった。仮に、それが作戦上の『二次的目標』と定められていなければ、早々に思考から排除していたことだろう。
 彼の中では、異星人の救出はあくまでも『余力があれば行う』程度の認識で、敵巡洋艦内に取り残された異星人など、こちらの主目的たる『低軌道ステーションへの牽制・偵察』を確実に成功させる上では、むしろ優先して切り捨てるべき存在なのだ。
「わかっている。無論、本艦は敵巡洋艦の撃沈を目指し、間もなく攻撃を開始するつもりだ。だが、その戦闘中に、『余力』として雇っていた傭兵達が異星人を救出しようとしても、止める必要はないだろう?」
『‥‥。忠告はしましたよ、カレーラ中佐。傭兵と異星人の両方を巻き添えに敵艦を撃沈する結果となっても、責任を取るべきは貴方です。では、ご自由に』
 プツン、と切れる通信。フアン艦長は、艦橋に座す他のクルーを見回し、肩を竦めてみせた。
「嫌な男だ。他民族の問題に武力介入した軍なんて、人類の歴史上いくらでもあるじゃないか。少なくとも、北米の人間に忠告されたくはないね」
 違いない、と笑うクルー達。
「彼らは人間でもないし、バグアでもない。けれど、どちらでもない事を理由にどちらからも認められない事も、無条件で私達を信頼して生命を預けて来る者達を見捨てる事も、私は嫌いだ。理想論だと笑われてもね」
 男性だとも、女性だとも思える姿と声で以て、フアン艦長は、静かに言葉を紡いだ。

 勿論、人類を犠牲に異星人を助けるつもりはない。
 ネイリングはこれより、全力を以て敵巡洋艦を撃沈する。
 ただ、その間に傭兵達が『二次的目標』を重視して動こうとも、止めるつもりはない。

「助けた後の異星人を人類の法律で裁きたいなら、裁けば良い。今の私達には、関係無いさ」

●参加者一覧

里見・さやか(ga0153
19歳・♀・ST
須佐 武流(ga1461
20歳・♂・PN
遠石 一千風(ga3970
23歳・♀・PN
森里・氷雨(ga8490
19歳・♂・DF
抹竹(gb1405
20歳・♂・AA
赤崎羽矢子(gb2140
28歳・♀・PN
愛梨(gb5765
16歳・♀・HD
美具・ザム・ツバイ(gc0857
18歳・♀・GD
立花 零次(gc6227
20歳・♂・AA
黒木 霧香(gc8759
17歳・♀・HA

●リプレイ本文

 出撃前、巡洋艦ネイリングの後方に位置する小型輸送艦内では、クノスペや自前のKVを前にした傭兵達が、最後の打合せをしていた。
 ハードシェルスーツに身を包んだ立花 零次(gc6227)は、ふと、視線を上げて空に話しかける。
「クリューニスさん、冷凍睡眠室の扉の開け方はわかりますか?」

 ――ネテルヘヤ? ウントネ‥‥

 ミィブと話しているらしく、051は暫く黙り込んだ。

 ――みぃぶハ デキルッテ。デモ、ミンナニハ むり

「個人を認証して開く‥‥という事ですかね。少々乱暴ですが、壊させていただきますか」
 中の様子には注意が必要ですが、と付け加える零次の言葉に、傭兵達の首肯が連なる。
「えーと、道順は事前情報通りだとして‥‥そうだ、ポッドはどんな形? 自爆装置とかない?」

 ――ナガイカタチ。ばくだんハ ワカンナイッテ

「細長いのかな? あと、追加なんだけどさ‥‥エアマーニェってバグアを知ってる?」

 ――‥‥

 赤崎羽矢子(gb2140)の3つ目の問いは、051やミィブにとって、返答に時間を要するものだった。
「知ってるよね?」
 エアマーニェの4(gz0486)――カルサイトは言った。彼女らの提示した条件を受け入れ、一部を犠牲に他を生かす、バグアへの『隷属化』を許した種族が存在し、現在もバグアと共に生き続けていると。

 ――‥‥みぃぶハ シラナイ。デモ キライ
 ――ズットマエニ ヒドイコト シタヒト
 ――みぃぶモ ミンナモ ダイキライダッテ

 余程憎んでいるのだろう。ミィブの激情を受け取ったらしい051の声は、しょんぼりと沈んでいた。
「ありがとう。ミィブは、直接会った事がないんだね。‥‥嫌なこと聞いちゃったかな」
 羽矢子はそれ以上の追求を止め、頭の中の情報を整理する。
 地球人に対してエアマーニェが取った侵略法、つまり交渉の内容は、ブライトンのやり方に慣らされた人類にとって、好ましくは無くとも新鮮であり、熟考を求められるものであった。
(けど、結局は他のバグアと変わらない。確かに、捕まってるバーデュミナス人は洗脳や強化を受けてないけど、自爆装置や人質をとる様な真似までしてるし)
 バグアにとって侵略とは、生存と同義。だが、例えそれがバグアにとって必要不可欠だとしても、ヨリシロとなる対象の種族と対等の立場に立つ気が無い以上、侵略される側としては迷惑以外の何でもない。
 一方、ネイリングとハルパーの間で交される会話は、ネイリングに随伴する幾つかの輸送艦にも転送されて来ているようだ。或いは、ジョージ・テイラー少佐の故意によるものかもしれないが。
「こんな奴ら助けても意味ないって? こっちも特に理由なんてねぇんだよ」
 ある意味では有能な指揮官と言えるだろう男の言葉が止むと、須佐 武流(ga1461)はヘルメットの奥に舌打ちを響かせ、毒吐くように呟きを漏らした。
「意味だの理由だの考えるのは後でいい。俺の性分に合わねぇ。なんだかんだいっても、結局‥‥今迄そうしてきた! それは‥‥これからも同じだ!」
「そうですね。単純に助けたいから助ける、で良いと思いますけどね。テイラー少佐のように立場ある方なら簡単ではないでしょうけど、私達は傭兵ですから」
 声に苛立ちを混ぜながら続ける武流に対し、零次は、腕組みしたまま軽く肩を竦めると、穏やかに笑ってみせる。
「理想論、というのも嫌いではありません。感情で動くくらいが、私の性に合っていますしね」
「ええ。助けを求めている人を助けないほど、私は冷血じゃないつもりです」 
 もしもの時に役に立たないかと家庭用工具セットの中身を確認していた里見・さやか(ga0153)が、ドライバーやらレンチやらを宙に浮かべたまま、視線も向けずに応じた。
「‥‥仲間を待つミィブさんのためにも、助け出さなくては」
 一般家庭向けすぎる内容にガッカリしながら、小さく吐き出されたさやかの決意。
 大切な誰かを守るために夢を諦め、能力者への道を選んだ彼女にとって、今のミィブの状況は、全くの他人事だとは言い切れない。
 それとも、もっと簡単な理屈だろうか。彼女が憧れ、一時身を置いた海上自衛隊は、自分以外の他者を守るために存在していたのだから。
 助けを必要とする者に手を差し伸べ、守る事。さやかにとって、それは至極当然の事なのかもしれなかった。
「助けを求められたら、それがいかなるものであっても助ける。答えは常に当たり前のことの中にある。当たり前のことこそが、至難であったがな」
 天のコックピットに小柄な体を潜り込ませながら言う、美具・ザム・ツバイ(gc0857)。
 バグアとは意思疎通が不可能だと信じて戦って来た彼女に、北アフリカ戦線での休戦が及ぼした影響は大きい。エアマーニェとラムズデン・ブレナーの一件に関わった事も、彼女の中に迷いを生じさせた一因となっただろう。そこへ来て、次は別の異星人が助けを求めて来たなど、もはや現実逃避したくなる程の超展開だ。
 有為転変とはよく言ったものよ、と笑う彼女に、さやかは僅かに視線を向けて、口端を上げた。
「目の前に救える命があるのなら、全力で手を伸ばす。たとえ、異星人でも。‥‥確かに、今までは難しい事だったわね。異星人と、侵略者がイコールでしかなかった間は」
 黄金色の拳銃に弾を込めつつ、小さく笑みを零したのは遠石 一千風(ga3970)だ。
 拳銃をその場に浮かせ、ハードシェルスーツの中に押し込んだ豊満な肢体を何度か曲げ伸ばしして、動きに支障が出ないようフィットさせる。
「行動は迅速に。相手が何かなんて気にしないで、いつも通りの戦いをしましょう」
 例え自分が能力者でなくとも、助けを求めて門を叩いた相手がいれば、彼女は決して見捨てなかっただろう。
 一千風が諦めた夢は、医師だった。例え傭兵として戦場に身を投じようとも、その心まで捨てた事はない。
「うむ。彼らは人類ではない。が‥‥話をしてからでも判断は遅くない。美具は、そう考える事にした」
「ええ、その通り。何事も話してみなければわかりませんからね」
 自嘲気味に紡がれた美具の言葉に反応して喰い付いたのは、意外にも森里・氷雨(ga8490)である。
 天の横に置いた愛機クルーエルにヒラリと飛び乗り、真剣な、真っ直ぐな、しかし光の灯っていない瞳で計器をチェックするその様子からは、この作戦に懸ける彼の意気込みが感じられた。
「氷雨さんもですか。私も本音を言えば、彼らとゆっくりお話ししてみたいだけなんですよ」
「はい。どうしても彼らに確認しておきたいことがありまして。その為に、俺は何としても、この作戦を成功させます」
 朗らかに話しかける零次にも、氷雨は真顔で決意を述べるのみ。
(父さんなら、この局面をどう捉えるのかしら?)
 まだ能力者となって日が浅い黒木 霧香(gc8759)は、今この状況を、父の姿を通して見ていた。
 軍人である父を尊敬しているし、どちらかと言えば『優等生』に分類される彼女にとって、父であればどうするか、という推測は、自己の意思よりも優先されがちだ。
「人類の盾たらんとした、父さん‥‥」
 長らく顔も見ていない父に想いを馳せ、考える。
 目の前で助けを求めているのは、人外の生物だ。それを助けるために人類の一部が危険に晒されるとすれば、父はどう決断するのか。
 娘としては、テイラー少佐のように、時には利己的に考え、生き延びてほしいとも思う。
 しかし――、
(‥‥父さんは、真面目な人だから)
 霧香は、パイロットスーツの中で僅かに笑った。
「‥‥状況が厳しいからと、途中で見捨てるような中途半端はしたくありませんね」
 父に恥じぬ選択を。そして、未来の自分が過去を顧みた時に、後悔しない生き方を。
 霧香の心に、迷いはなかった。
「どうかしました?」
「ああ、いえ‥‥少し考え事を」
 リヴァティーの風防を開けたまま、黙って他の傭兵達の様子を眺めていた彼女に、隣のタマモから通信が入る。パイロットは、抹竹(gb1405)だ。
「抹竹さん、ここに集まった以上は、皆、私と同じ気持ちなのでしょうか?」
「‥‥と、言いますと?」
 唐突な霧香の問いにも、抹竹は不審の色を声に混ぜることなく、丁寧に、柔らかに問い返した。
「言い方は悪いのですが、数ある依頼の中から敢えてこの依頼を選んだ皆さんに、茨の道を歩む覚悟があるのか。それは当然の共通認識なのか。興味があるんです」
 傭兵とは、あくまでも一つの職業でしかない。依頼を選ぶ権利もある。
 だからこそ、気になっていた。
「‥‥さあ、どうですか」
 抹竹は、たっぷり沈黙した後、静かに答える。
「皆さん出自も違えば、この仕事に懸ける想いも違いますから。ここに来た理由も、同じではないと思いますよ。‥‥何に対して覚悟するのか、もね」
「何に‥‥ですか?」
「いえいえ、まあ、何でも興味を持つ事はいい事ですよ‥‥。さて、では出撃ですね。今回は、よろしくお願いします」
「は、はい‥‥よろしくお願いします」
 独特のペースを保ったまま会話を終わらせる抹竹と、何だか煙に巻かれたような気分の霧香。
 出撃の時を知らせるアラートが、格納庫に鳴り響く。

「時間だね。バグアの女王から彼等を解放して、あの異星人の思い上がりを正してあげようじゃない!」

 ――ガンバッテ! ガンバッテ!

 羽矢子の声に応え、クリューニス『051』の声援を受けながら、傭兵達は2機のクノスペと4機のKVに分かれて行動を開始した。
 そんな中、
「‥‥‥‥。はぁ‥‥」
 コンテナの隅に座り込み、愛梨(gb5765)は人知れず、溜息をついた。
 パイドロスのバイザーを下ろし、不機嫌な表情が外に漏れないよう気を遣いながら、通信機を切る。
「皆、珍しい相手だからって、感傷に流されすぎよ‥‥」
 頭の中に勝手に響く051の声すら煩わしく、苛立ちを隠せない。
「海洋生物? そんな、よくわかんない生き物と人間‥‥どちらを優先するかなんて明白でしょ。何考えてるのよ‥‥仮にも中佐でしょ?」
 人間は、動物がそれを望んでいないと解っていようとも肉を食べ、必死に子孫を残そうとする植物の実を食べる。例え、彼らの言葉が理解でき、助けを求められたとしても、人間が生きて行くためには他の命を奪わねばならない。
 バグアが人類の都合より己が種族の生存を優先するように、人類もまた、他の動植物よりも人類を優先しなければ生きてはいけない。
 ではなぜ、同族が危険に晒される事を承知で、他の生物を助けなければならないのか。
「そうよ、いくら可哀想だからって‥‥」
 だが何故か、胸に引っ掛かるものも感じていた。
 仮に、敵陣の中で助けを求めている人外の存在が、自分の良く知る相手だったら?
 そう、例えば――、
(‥‥なんで今、ラッキーなんか思い出すのよ‥‥)
 どういうわけか、もうこの世にはいないお調子者の白犬バグアを思い出してしまい、そんな自分自身に呆れ返る愛梨。
 隣では、一千風がネイリングのフアン艦長に通信を入れている。
「状況が悪化したら、主砲を発射して構いません。傭兵が派遣された理由の一つでしょうから」
『‥‥わかっているよ。しかし、そうならないよう全力を尽くすのも、君達の仕事だ』
 中性的なその声には、僅かな迷いが混じっていた。クルーエルの氷雨がそれを感じ取ったのか、「えー」と前置きして割り込んで来る。
『何か問題があれば、傭兵に転嫁してください。軍の思惑、個人の理念や感情‥‥その緩衝材も兼ねての傭兵投入では?』
 フアンは何も答えなかったが、否定もしなかった。ただ、静かに、言う。
『‥‥何にしても、面倒な役割を押しつけた。申し訳ないが、よろしく頼むよ』
「ええ。それほど待たせるつもりは無いわ。朗報を待っていてください」
 クノスペが動き出し、一千風が通信を切った。
 ネイリングと敵巡洋艦は既に交戦を開始し、双方の護衛部隊が火花を散らしている。
(――ま、仕方ないわね。雇い主の命令なら従うしかないし)
 何となく気持ちに折り合いをつける材料を見つけた愛梨もまた、傍らに置いた拳銃を手にその時を待つ。

 幾つもの想いをその胸に抱いて、宇宙は変わらず、静かだった。


    ◆◇
 敵巡洋艦のハッチをこじ開け、6機のKVが内部へと侵入を果たす。
 50m四方ほどのガランとした空間に、ワームやキメラの姿は無かった。通路は前情報通りに計4本。目的の冷凍睡眠室は、艦後方に続く2本のうち、ハッチに近いほうの1本だ。
『迎撃の兵は未だ見えぬ! 今のうちじゃ!』
 美具機、抹竹機がそれぞれ盾を掲げ、前後の通路からの敵を止められる位置へと移動。霧香機に守られたクノスペ2機が、一斉にコンテナを開放する。
『ネイリング、敵艦副砲を被弾しました。損傷軽微』
「――急ぎましょう」
 霧香が伝える外の様子を聞きながら、一千風は片手を挙げて機体班に後を任せ、通路へと飛び込んだ。さやか、零次、武流、羽矢子、愛梨の5人もまた床を強く蹴り、空を滑るようにして彼女に続く。
「余り派手にとはいきたく無いものですが。さて‥‥」 
「いえ、恐らくですが」
 抹竹の言葉も終わらぬうち、いきなり氷雨機がレーザーカノンを連射した。光の弾丸がこじ開けたばかりのハッチを内側から破壊し、続けて閃いた練機刀の一撃が、ゾワゾワと蠢いていた何かを纏めて斬り飛ばす。
「こちらが侵入した事はもう知れているでしょうから、遠慮は無用ですよ」
 無言で見つめる抹竹の視線の先で、氷雨機は一仕事終えた風にクルリと振り返った。その肩口には、グレネードランチャーが据えられている。
「なるほど、閉じ込められては困る。ハッチ側は任せよう」
 氷雨の行動の意味を理解して、美具が言う。
 バグア巡洋艦は回復力が高い。一度こじ開けた場所であっても、更に大きく損傷させて時間を稼いでおくに越したことはない。
「霧香殿。前衛は美具らが務める故、援護を頼む」
「わかりました」
 未だ経験の浅い霧香を案じ、声をかける美具。霧香はそれに応え、盾とスナイパーライフルを構えてクノスペ2機の間に立った。
 その時、
「来ました!」
 艦後方の通路を覗いた抹竹機の盾表面で、薄紅色の光線が弾ける。
 通路の奥から湧き出してくる異形のキメラ達へと自動歩槍の照準を合わせ、嵐の如く弾丸を撃ち込んでいく抹竹。
「こっちもじゃ! 決して通すでないぞ!」
 美具機の重機関砲が唸りを上げ、退路を守る4機の戦いが幕を開けた。



「バーデュミナス人サイズか‥‥でかいね」
 20mの通路の先、約4mほどの高さがある扉に取り付き、羽矢子が呟きを漏らす。想定していたほどの厚みはない印象だ。ロックも一箇所しか無い。
「どうして捕えられてるのかしら。特別な存在だからって理由なら、もっと厳重に守られている筈よね?」
 通路を守る者もおらず、トラップがあるわけでもない。ではなぜ、ミィブ達は起きていて、2体は冷凍されているのか。一千風には、その理由が気になった。
「しかし、好都合です。あまり時間を掛けるわけにもいきませんし、速攻でいかせていただきましょう」
「行くぜ! こじ開けろ!」
 一千風達を扉の両脇に避けさせ、足を壁の継ぎ目に引っ掛けた零次が、扉の隙間に明鏡止水を打ち込む。電磁波を纏った武流の拳が電子ロックに叩き付けられると、横開きの扉は狂ったようにエラー音を吐き出しながら、梃子の原理で徐々にこじ開けられていった。
「――!」
 破壊された扉は、バネのように勢い良く開いた。零次と室内を隔てるものが一切無くなったその一瞬に、飛び来る幾条もの赤い光。壁を蹴って宙を泳いだ零次の脇腹に、熱い痛みが走る。
「敵は2体、バグアです! ポッドへの流れ弾、破損に注意してください!」
 杖型超機械から一千風へ、練成超強化の虹色光を飛ばしながら、さやかが叫ぶ。
 室内は約15m四方で薄暗い。中央に4つ、3.5mほどのポッドが2列に立てた状態で置かれ、その陰にイエティのような獣と虫人が居るのが見えた。銃器を使うだけにキメラではないだろう。
「2対6よ、悪いけど、あんた達に勝ち目はないわ!」
 愛梨の拳銃「ラグエル」が牽制弾を吐き出し、空薬莢が排出の勢いそのままに流れていく。イエティが体を引っ込めると同時に虫人の銃が愛梨を狙うも、さやかの電磁波に襲われ回避に転じた。
 その一瞬、瞬天速と瞬速縮地を発動した一千風と羽矢子が飛び出して、光の如く室内を駆け抜ける。
「させないよ!」
「ぐっ‥‥!?」
 羽矢子のハミングバードが振り抜かれた。虫人の左手に握られた通信機器らしきものが綺麗に斬れ飛び、ガラクタに変わると、今度は手首を返して振り上げるような一撃。寸でのところで手甲を突き出し、受ける虫人。しかし、獣突の勢いは殺せない。
 斜め上の天井に背を打ち付けられながら、着地の瞬間までに体勢を整え立つ虫人。僅か数m向こうでは、一千風の神斬に切り裂かれたイエティの毛と黄色い体液が舞っている。それでも流石にバグア、倒れることはなく、左手から伸びた鋭い金属爪を振るって反撃に転じていた。
 しかし、竜の翼で愛梨が、迅雷で零次がポッドとバグア2体の間に割り込み、次いでさやか、武流の2人が接敵すると、それぞれ3対1だ。一撃を避けても別方向からすぐに襲い来る二撃目、三撃目を躱すなど、いつまでもできることではない。
「クソッ‥‥! 狙いは何だ!? 動力室か!?」
「あら? わかってないみたいね」
 イエティの爪を刀で受け止めながら、一千風は眉をピクリと動かし、怪訝そうに呟いた。
 どうやら彼らは、人間たちが艦内に侵入した理由を、艦の内部破壊が目的だとしか考えていないらしい。
「勘違いを正す必要もなさそうですね。気付かないなら、その方が楽ですし」
 豪破斬撃。助走の勢いをそのままに、赤い輝きを放つ両手剣をイエティ目掛けて突き出す零次。まさしく鎧のように分厚い脂肪を掻き分け刺し込まれる刀身に奇声を上げ、至近距離から右手の銃を零次に向ける敵。
 ポッドを背にした零次は避けない。一発が腿を貫く。
「この毛玉野郎が! てめぇの相手は俺がしてやるぜ!!」
 左手を一千風に、右手を零次に向けたイエティは、天井を蹴り頭上から飛来した武流の蹴撃を躱し切れなかった。吹っ飛び、壁に叩き付けられ、無重力故に跳ね返って来たその巨体目掛けて、二撃目の構えを取る武流。
「キメラだろうが強化人間だろうがワームだろうがバグアだろうが、壁ごと、この艦ごとぶち破ってやる!」
 スコルのブースターを噴かし、真燕貫突を発動。ドリルのように回転を加えた飛び蹴りがイエティの腹をまともに捉え、瞬間的に蹴り込まれた二撃目がFFを貫通する。
 潰れたような声を発し、イエティが液体を吐き出した。苦し紛れに振るった金属爪が、密着した武流の前面を切り裂く。苦痛に思わず顔を歪め、しかし二撃目は回転舞で宙に逃れる武流。
 だが、もはやイエティにも、それ以上の攻撃を仕掛ける力はなかった。
 目の前には、一千風の振るう白銀の刀身。背後からは、零次の大剣が振り下ろされていた。

「こっ‥‥ち来んじゃないわよ!!」
 動きが速すぎる羽矢子への攻撃は早々に諦め、AU−KVを纏い鈍重そうに見えた愛梨に標的を変えるも、手甲の一撃をめり込ませた瞬間に反撃を食らう虫人。竜の咆哮を乗せたナイフの一閃は彼を吹き飛ばし、羽矢子の細剣の間合いへと逆戻りさせてしまう。
 練成超強化を施されたハミングバードの威力は凄まじく、さやかの電磁波に足元を狙われている状況下で躱すなど不可能に近かった。
 虫人の硬い外殻はあちこちがひび割れ、切り裂かれ、青い血液が宙を舞っている。
「おのれ‥‥! せめて一匹だけでも!」
 羽矢子の一撃を敢えて左腕で受け、右腕の光線銃を後衛のさやかに照準。引き金を引く虫人。
 後衛に回る人員は、えてして前衛より耐久力が低い。直接後衛を攻撃できる遠距離兵装を持っているが故の判断だった。
「あう‥‥っ!?」
 虫人の左腕が斬れ飛ぶ一方で、光線を躱し切れず体を折るさやか。
 だが、それだけだった。
「捨て身の一撃にしちゃ、ちょっとお粗末なんじゃない?」
 虫人の胸に、細剣が潜り込む。愛梨の拳銃が火を噴いて、甲殻が次々と破壊されていく。
 悲しいかな、人類と直接交戦した経験のない本星艦隊のバグアは、能力者の屈強さを理解していなかった。
 光を失っていく複眼。そこに映るさやかは、肩を押さえながらも、しっかりと立っている。
「悪くない作戦だったかもしれませんね。‥‥私が能力者でなかったら、の話ですが」
 虫人の体が脱力し、宙に浮かぶ様子を、さやかは最後まで見てはいなかった。艦体が突如大きく揺れ、振動するのを感じたためだ。
『ネイリング、G5弾頭ミサイルを発射。直撃はしていません』
 霧香の声が、通信機を通じて聞こえてくる。
 恐らく牽制だろう。しかし、傭兵達の帰還を待つために敢えて外した可能性も無くはない。
「急ぎましょう。私はこちらのポッドを。まず、自爆装置や追跡装置の有無を確認してください」
 赤いランプが点灯している2つを稼働中と判断し、うち1つに取り付くさやか。武流と零次が入口に立って敵を警戒する中、愛梨、羽矢子、一千風も2つのポッドに分かれ、不審なパーツがないか慎重に確認していく。
「この硬いポッドを爆破できそうな装置は見当たらないわね。もちろん、ポッドに内蔵だったり、あたしたちには想像できないぐらい小さい‥‥っていう可能性もあるでしょうけど‥‥」
「‥‥侵入者がこれを持ち出す、その発想自体がバグアには無かったのかもしれないわね」
 怪訝な表情をする愛梨に対して、一千風がそんな事を口にした。
 ここは宇宙だ。ミィブらバーデュミナス人がこれを持って逃げようとするなら、フィーニクスに乗って出なければならない。ならば、自爆装置はフィーニクスについていれば事足りる。
 まして、バーデュミナス人以外の何者かが艦内に侵入し、敢えて冷凍睡眠ポッドを持ち出すなど、想定していなかった可能性もある。
 良く考えてみれば、ミィブのフィーニクスには自爆装置がついていたものの、彼自身に埋め込まれているような事はなかった。機体が無ければ逃げることすら出来ない宇宙空間では、地上の強化人間達ほど強い束縛を施す必要が無いのかもしれない。
「よし、じゃあ切断するよ」
 ポッドを床と天井に繋ぎ止めている何本かのケーブルを、羽矢子と一千風の剣が一息に切り裂いた。
 プカリと宙に浮いたそれを横向きにして、4人で入口の方へと運んでいく。
 ちなみに、クノスペのワイヤーアンカーを搬出に利用する案も出てはいたが、艦内に重力が無く運搬が容易であった事と、通路の長さが20m、冷凍睡眠室自体も広くはなかった事から、人力の方が安全で早かろうという結論に達していた。
「ポッドの搬出を開始します。クノスペをもう少し通路側に‥‥」
「あっちも中々派手にやってるみたいだな。‥‥何かあれば俺が盾になる。行くぜ」
 2つのポッドの最後尾についた零次が機体班に通信を送り、先頭の武流が先に通路に出た。


    ◆◇
 冷凍睡眠室側の通路を塞ぐように移動したクノスペ2機の前に立ち、霧香はスナイパーライフルの引き金を引いた。前衛が撃ち漏らしたキメラ2頭のうち1頭が弾け飛び、しかし、残る1頭は怯むことなく向かい来る。ウミウシに甲虫の脚が付いたような異形は霧香機まで辿り着く以前に跳躍、消化液のような酸性の液体をシャワーのように撒き散らした。
「くっ‥‥!」
 盾を掲げ、クノスペの損傷を防ぐ霧香機。その間に、宙に浮いたキメラの腹を1機のクノスペがバルカンで蜂の巣にする。
 背後の通路では、既に生身班がポッドをクノスペに積み込むべく移動を始めた。ここを通すわけにはいかない。
「的が小さすぎるのも考え物よ。当たるに当たらぬ」
 艦前方方向2本の通路を担当する美具機は、格納庫の中央付近に立ち、それぞれの通路の入口にひたすら弾幕を張り続けていた。重機関砲と連装機関砲が絶えず無数の弾丸を吐き出して、通路から飛び出そうとするキメラやバグア兵を引き裂き、押し留める。
 しかし、リロードの隙や片方に通路に弾幕が集中した瞬間を狙って、格納庫に躍り込む敵もいた。艦内の敵は中型以下が多く、広い空間に出られると厄介だ。直衛の抹竹機も、効率化のため艦後方方向の通路1本を担当する。
 この時点で既に、撃ち漏らしを叩く役目が霧香機だけでは間に合わず、クノスペ2機も控えめながら、迎撃に参加していた。
「ヘルメットワームが来ました。‥‥ここから包囲網を形成されるでしょう。その前に脱出しなければ」
 開口したハッチから撃ち込まれるプロトン砲。敵巡洋艦の護衛ワームが、侵入者の存在を知って戻りつつあるのだ。
 氷雨は機を横に流して光条の直撃を避け、レーザーカノン、レーザー砲を外に向けた。高速で迫るHW2機目掛けて光弾をばら撒き、少しでも損傷を蓄積させる。
「先に出ます。外からの増援は俺が止めますから、その間に撤退を」
 ハッチ目掛けて接近して来る2機に、氷雨機からグレネードが飛んだ。膨れ上がる爆炎に巻かれてデブリと化すHWを前に、氷雨は機体を航空機形態に変形させると、一足先に宇宙へと飛び出して行く。
 一方、抹竹は、弾幕を抜けて組み付いてきたクラゲ型の謎金属物体に苦戦を強いられていた。
 機腕に絡んだ鋼鉄の触手をディフェンダーで斬り払い、機盾でクラゲ本体を殴り飛ばして距離を取る。通路には5体のクラゲ。20本の触手からそれぞれ細く鋭いレーザーが放たれ、抹竹機の装甲を溶かしていく。
「更に集まられては厄介ですね。ポッドの積み込みはどうなりました?」
 自動歩槍と機関砲を掃射し、通路のクラゲを次々に破壊しながら、抹竹が問うた。応じたのは、さやかだ。
『コンテナへの積み込みと固定、完了しました。私たちも乗り込みます』
 ポッドを積んだコンテナを閉じ、もう一方のクノスペに生身班が乗り込んでいく。
 床を這うようにして突破した小型甲虫キメラがその足元に襲来するも、殿を務める武流と零次がそれらを食い止めていた。
「コンテナに乗って一緒に帰るつもりか? 気色悪ぃんだよ!!」
「女性にばかり運搬をさせてしまいましたしね。最後ぐらいは働きましょうか」
 下段、床を薙ぐような武流の回し蹴りが、群がる小型虫を纏めて吹っ飛ばす。零次もまた、カサカサと高速でコンテナを目指す個体をソニックブームで叩き潰しながら、女性陣が乗り込んだ事を確認して後退した。
「ネイリング、Gブラスター砲の射程に入りました! 撤退を!」
「了解しました」
 霧香の通信を受けて、抹竹は迷うことなく機を反転。クノスペの離脱を妨げるキメラ達目掛けて荷電粒子砲を撃ち放つ。
「美具は最後までこやつらを止める! 先に行け!」
 美具はハッチを背にして霧香機、抹竹機、クノスペの離脱を守りながら、格納庫内に煙幕銃を撃った。瞬く間に白煙が立ち込め、敵の姿も見えなくなる中、美具は最後まで重機関砲を撃ち続ける。
「追わせませんよ?」
 敵艦を離脱し、一目散に輸送艦へと戻っていく5機を横目に、氷雨はツインブースト空戦スタビライザーとSESエンハンサーを起動。目の前のHW2機を目標に、G放電装置を全弾叩き込んだ。
 敵機が青白い放電に包まれ、動きを鈍らせた隙に、氷雨機も全速力で離脱を開始。

 敵巡洋艦の主砲が輝きを増し、全速で回頭するネイリングへと向けられた。
 傭兵達が息を呑む中、眩い光線が宇宙を裂き、ネイリングの艦体側面を大きく溶解させる。
 中破したネイリングはしかし、艦首を敵艦に向けたまま一歩も退かない。
『主砲発射!!』

 G光線ブラスター砲の煌めきが、6機を明るく照らし出す。
 音のない宇宙空間に、敵艦の断末魔が聞こえた気がした。
 

    ◆◇
「ま、間に合った‥‥」
 クノスペを降りるなり、愛梨はグッタリと脱力しながら宙に浮かんだ。一千風も同じく宙に体を浮かせ、コンテナから運び出されていくポッドを見守りながら、ふぅ、と一息。
「けど、こんな作戦は是非任せて欲しいわね。そのための傭兵だろうから」
「ま、無茶って言やそうだろうが、俺は嫌いじゃねぇな」
 少し楽しげにすら言う一千風と武流の言葉に、霧香は少し首を傾げていたのだが。

――アリガト! アリガト! みぃぶヨロコンデル!

「微力ながら、ミィブさん達のお役に立てたなら何よりです‥‥って、はわ、これ通訳できます?」
 051が微妙に沈黙したのを感じ取り、慌てて簡単な言い方に直すさやか。
「ミィブさん達にお伝えください。落ち着いたら、またゆっくりお話ししましょう、と」
「その通りであるな。美具も話がしてみたいものよ」

――ウン。

 零次と美具に頼まれたことを、ミィブに伝えているらしき051の沈黙。
 しかし、そこにクローズな念話で割り込んだ男がいた。
(すみません、ミィブさんにお尋ねしたいのですが)

――?

(おっぱい星のおっぱい星人に会った事はあるか。その確認です)
 別に言わなくてもわかると思うが、氷雨である。

――オッパイッテ ナニ? みぃぶモボクモワカラナイ
――ダレカ もにたー?デ みぃぶニ ミセテアゲテ

 意味を測り兼ねた異星人の質問。
 それは、まさかのオープン念話だった。
「なるほど。クリューニスにもバーデュミナス人にも、おっぱいという概念自体が無いというこt」
「ちょっと誰!? 馬鹿なこと訊いたの!?」
 無論、氷雨が質問を重ねるよりも、犯人を見つけた羽矢子の鉄拳が唸る方が速かった。顎に手を当てて考えるポーズのまま、ブッ飛ばされる氷雨。
「‥‥‥‥」
「ほら、色んな人がいるでしょう?」
 首を傾げたまま動かなくなった霧香に話しかける抹竹の表情は、やたらとにこやかだった。