タイトル:【JTFM】プナ島の妖女マスター:桃谷 かな

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/10/03 22:33

●オープニング本文


 UPC南中央軍大佐ジャンゴ・コルテスが、【ジャングル・ザ・フロントミッション】の最高責任者に任じられたのは、2009年秋の事だった。
 コロンビアを奪還し、ボリビアをバグアの魔手から守り、ギガワームを叩き潰し、カリ基地への奇襲にも打ち勝ち、彼らはこのエクアドルまでやって来た。
 無論、進軍は困難の一言に尽きたが、彼らはULT傭兵と共に数々の障害を打ち破り、進み続けた。
「傭兵達に協力を求めたのは、正解でしたね」
 傍らの副官ボリス中佐が呟き、夜空を見上げた。
「南中央軍は、物資も資金も乏しい。傭兵を積極的に起用した、あなたの方針は正しかったのでしょう」

 グアヤキルは、もう目と鼻の先だ。
 そこには、南米バグア軍総司令官ソフィア・バンデラスが居る。
 これは決戦になるだろう。誰もが、そう考えていた。

 人類側の進軍ルートは、三方向。北からグアヤキルに進攻する本隊と、チリ海兵隊を中心とする南方プナ島への上陸部隊、ペルーを通り敵の退路を断ちつつ南東を攻める増援部隊だ。
「ソフィアか‥‥」
 かつての副官の顔を脳裏に浮かべ、コルテスが言う。
「折角、ボリビアを守り切ったんだ。あいつを、祖国の土に埋めてやりてぇな」
 驚いた顔をして、それから静かに頷いたボリスを見つめ――男は、手の中のテキーラを飲み干した。


    ◆◇
 8月下旬。グアヤキル南、プナ島。
 面積約800平方キロ。低い丘陵や台地が主体のグアヤキル湾を代表する島。
 北東端のプエルト・プナを中心集落として島の外縁部全体に小集落を持つ島であるが、それも昔の話だ。
 エクアドルがバグア占領下となって以来、この島には、太平洋側から湾内に進攻を試みる人類軍を監視する場所としての役割しか与えられていない。
 島東岸の平地には水棲キメラや水中ワームの出撃基地と製造施設が立ち並び、エクアドルバグア軍が誇る豊富な水中戦力の象徴とも言える光景が広がっている。
 チリを発したUPC南中央軍は、本隊たるチリ海兵隊アルバトロス40機、およびその他水中・航空戦力を駆使してグアヤキル湾内に侵入。押し寄せるキメラ、ワームの群れを前に、揚陸作戦を開始した。湾上の空母戦闘群が艦対地・対潜ミサイル、魚雷による長射程攻撃にてこれを支援し、各ナイトフォーゲル部隊は次々にプナ島東岸へと迫った。
 しかし、中央の1隊が海岸の砂を踏み締めた、その時だ。
 プナ島内基地より出撃した爆撃機型中型ヘルメットワームの群れが、砂浜に上陸したナイトフォーゲル群目掛け、球状の物体を大量に投下し始めた。
「‥‥あれは」
 空母戦闘群の後方、アンチジャミング能力にて揚陸部隊を支援していたヴァルキリー級飛行空母二番艦『ヴァルトラウテ』の艦橋で、艦長ビビアン・O・リデル中佐が眉根を寄せる。
 艦内モニターに映し出された『それ』に、彼女らヴァルトラウテのクルーは見覚えがあった。
「コトパクシ火山要塞攻略時にも見られた、ボムスライムですね」 
 傍らの副艦長チャールズ・ハイデマンは、海岸のナイトフォーゲル群に取り付いた直径10センチ程の半液状の物体を、そう呼称する。
 画面の向こうで、大量のスライムを被った機体が続々と小爆発を起こし、海中へと後退を始めていた。
「あれによるKVの損傷は軽微、直ちに致命傷を与えるほどの威力はありません。しかし、大量に投下されれば蓄積したダメージが機体の行動を妨げ、また、他のワームや機動兵器による攻撃の隙を与えかねません」
 プナ島を守る敵は水中以外にも存在する。飛来したばかりの爆撃機型は勿論、その手前には多くのマンタ・ワームが飛び回り、空からの侵入を目指す部隊に襲い掛っている状態なのだ。爆撃で傷付いた揚陸部隊を、彼らが見逃すとは思えない。
『キヒヒヒヒ』
「――!」
 その時、戦場に響き渡った薄気味悪い笑い声に、ビビアンとチャールズは聞き覚えがあった。
『そう簡単に上陸できると思いましたか? さあ、浜に上がれるなら上がってみれば良いでしょう‥‥キヒヒヒヒヒ!』
 その声の元を辿る。すると、爆撃機型HWの中に1機だけ混じる本星型小型HWに行きついた。
「‥‥コトパクシ火山の将‥‥A・J・ロ・ユェラ‥‥」
 ビビアンは、このグアヤキルに至る以前に攻略したバグア要塞での出来事を思い出していた。その時も、元キメラ闘技場バグア四天王A・J・ロ・ユェラと名乗るバグアにより、ボムスライム爆撃が行われていたのだ。
「ええっと‥‥ともかく、爆撃機型を何とかするのが先決‥‥だけどその前にはマンタがいて‥‥」
 頭脳をフルに回転させて作戦を練るビビアン。チャールズは、そんな彼女の指示を黙したままで待つ。
 そうこうする間に、海中には敵ワームの第二陣が出現。爆撃を受けて後退した部隊を始め、浜に上がれない揚陸部隊全体に激しい攻撃を加え始めた。
「‥‥迷っている暇は無い、ですね。‥‥ヴァルトラウテのKV隊を、上空のマンタの群れに突入させます。彼らが突破口を作り、その孔から傭兵部隊を送り込んで、浜上空の爆撃機型と本星型を落としましょう」
「海中への支援はどのように?」
「はい、あの‥‥。爆撃機型を落とす前に海中がやられては意味がないですから‥‥ヴァルトラウテKV隊のパピルサグと、チリ海兵隊で温存しているアルバトロス10機、それから水中戦が可能な傭兵機には、海中の支援に回ってもらいます」
「了解しました」
 ビビアンの指示を受け、チャールズは艦内に待機するKV隊、傭兵部隊、更には同戦域の友軍全てに、その作戦内容を伝達した。


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●作戦内容
・グアヤキル南のプナ島揚陸作戦に参加し、空・海中の両面からUPC南中央軍の上陸を助けてください。

●参加者一覧

鯨井昼寝(ga0488
23歳・♀・PN
伊藤 毅(ga2610
33歳・♂・JG
威龍(ga3859
24歳・♂・PN
夜十字・信人(ga8235
25歳・♂・GD
芹架・セロリ(ga8801
15歳・♀・AA
レイミア(gb4209
20歳・♀・ER
神棟星嵐(gc1022
22歳・♂・HD
ユーリー・ミリオン(gc6691
14歳・♀・HA

●リプレイ本文

 海中に気泡を生じさせ、ゴーレム達のレーザーライフルが光弾を放つ。
 塩水を吐き出し浮き上がり、紙一重で被弾を避けたアルバトロス。しかし、そこに待っていたのは、頭上からの強烈なシャーク・アタックだった。
 赤く輝くサメ型のワームは体当たりで装甲を押し潰し、一旦離れてはまた方向を変え、戻って来る。
「死角を作るな! 陣形を整えろ!」
 互いを背にして戦うチリ海兵隊のアルバトロスたち。
 メインカメラに張り付いたブルネットの美女が、コックピットの兵士に魅惑的な微笑みを届け、次の瞬間には鋭利な刃物のような尾鰭で機体を斬り裂き、ダメージを蓄積させて行く。
「う、わああああああっ!?」
 陣形の一角。後方支援を担っていた一機が、ぬらりと伸びた白い触手に絡め取られた。仲間達が触手を斬ろうと動くも間に合わず、巨大なイカが意気揚々と、その機体を自らのテリトリーへと引き摺り込んで行く。
 その時、
『こっちを向けよ、スルメ野郎! こんがりイカ焼きにしてやるぜ!』
 クラーケンの巨体に対潜ミサイルが命中。海中に閃光が走り、緩んだ触手がアルバトロスを離した。
 爆煙のごとく海を漂う気泡の中、姿を現した威龍(ga3859)のリヴァイアサン『玄龍』に群がる人魚達。ガウスガンの射撃が一糸纏わぬ美女を貫き、長い金髪が海を舞う。
「流石は噂のエクアドルバグアね。ワームとキメラが選り取り見取りじゃない」  
 ゴーレムの銃弾がアルバトロス隊を襲うも、颯爽と割り込んできた白いリヴァイアサン――ボディにコンブを絡み付かせた鯨井昼寝(ga0488)の愛機『モービー・ディック』が、アクティブアーマーでそれらを受け止めた。
「傭兵か!? 恩に着る! ところでコンブが付いているぞ!」
「大丈夫、いつものことよ! さあて、どいつから沈めようかしら!」
 感謝の意と付着物への注意を述べる隊長機に明るく返し、ホーミングミサイルの発射レバーを引く昼寝。白煙の代わりに泡の白条を曳いて熱源たるゴーレム2機に突き刺さったミサイルが閃光を発し、ビリビリと機体を揺るがす轟音が響き渡る。
「攻撃はキメラを優先してくれ。ワームは俺達が全力で倒す」
 高速の体当たりを仕掛けて来るメガロ・ワームを何とか受け止め、離脱する相手にガウスガンを連射する威龍機。アルバトロス隊は2機に護られるようにして後退し、海中から伸びて来る白い触手と人魚の相手に専念し始めた。
 そして、彼らの頭上を通過し、夜十字・信人(ga8235)のビーストソウル『sea goblin』、レイミア(gb4209)のオロチ『アムリタ』が昼寝機と威龍機の後方へ。
「小さめですが網を張りました。そちらの索敵データと照合を願います」
 信人機が切り離したソナーが海面目掛けて真っ直ぐに浮上して行き、得られた索敵データが全機へと浸透して行った。レイミアは、自機のカメラとソナーの情報を解析し、周囲の敵戦力――特に、未知の戦力による奇襲の可能性を探る。
「‥‥側面。クラーケンより向こうに、敵を確認。アースクエイクでしょうか」
「了解した」
 ゴーレムを相手取る前衛2機を強敵と知ったメガロが、オロチを目標に突進。信人は迷わず魚雷の発射レバーを引き、鮫の鼻先を閃光と泡で埋め尽くすと、人型に変形して前に出た。
「小細工は終わりだ。では、やろうか」
 悶絶する鮫にクローを突き立て、引き裂く。
 瞬後に襲い来た牙の一撃。信人機はそれを左腕で受け止め、メキメキと響く破壊音を無視してガラ空きの腹に光爪を叩き込んだ。


    ◆◇
「空か‥‥相変わらず綺麗だけど今回も敵が多いな」
 無数のマンタが飛び回る空を見詰め、芹架・セロリ(ga8801)は金髪をサラリと揺らし、うーんと唸った。
「――エイヒレ」
「えっ?」
 耳に届いた居酒屋ワードに疑問の声を上げた神棟星嵐(gc1022)に、ナンデモナイデスヨと返し、セロリは減速して隊の最後尾に機を移動させた。
 前方を飛ぶヴァルトラウテのKV隊の前衛機が、K−02を次々と撃ち放ち、マンタの一角を爆炎と黒煙の渦に巻き込んで行く。さらに、2機のマリアンデールがDR−Mの発射体勢に入った事を確認すると、傭兵たち4機はその背後についた。
「いきますよー‥‥突入!!」
 光の奔流がマンタの群れを貫くと同時、正規軍、傭兵機が一気に加速する。
 穴を埋めようと上下左右から押し寄せる敵機を正規軍の弾幕が押し留め、傭兵4機が脇目も振らずに敵陣深くへと抜けて行った。
『キヒィーッヒッヒッヒ!! 仕方がありません。私がお相手しましょう‥‥キヒヒヒヒ!』
 マンタの群れを抜けた先は、プナ島東岸上空。浜を見下ろし浮かぶ10機の中型HWは異様に膨らんだ腹に幾つもの孔を持ち、自衛程度の対空砲しか装備していない。一見して爆撃機型と解るそれらの前方を飛び回る本星型HWは、薄気味悪い女の笑声を響かせながら、傭兵達の機体目掛けて牽制の淡紅光を連射した。
「バグア四天王のA・J・ロ・ユェラ、ですか。マスカラード同様、仕留めなければいけませんね。‥‥ですが」
 遠距離で放たれた砲をかわし、星嵐機が疾る。僚機はユーリー・ミリオン(gc6691)のグリフォン『ストラディヴァリ』。
「まずは爆撃機を叩いて海戦隊の安全を確保しましょう」
「K−02を発射します。セロリ、支援を頼みますね」
 接近する2機を止めんと、やや上方からプロトン砲の射撃を繰り返し迎撃する本星型。爆撃機型は3隊に分かれるように散開を始め、同時に唯一の対空砲たるプロトン砲を斉射して傭兵機と対峙する。被弾に装甲が溶解し、衝撃に機体が大きく揺れるも、ユーリーは視界の先の爆撃機型の群れから視線を動かさず、出来る限りの回避を行いながら速度を上げて行った。
「ちょっとだけ援護します。思いっきりいっちゃってくださいなー」
 2機に追随するセロリのウーフー2がジャミング集束装置を起動。僅かに先行する星嵐機を瞳の端に映し、3・2・1の合図でユーリーがミサイルの発射レバーを引いた。
『これだけのミサイルを受けて一体何機残れますか?』
 自機に搭載されたミサイルコンテナが開く音と、星嵐のその問いが、時を同じくして耳に届く。
 500発の小型ミサイルが視界を埋め、前方のペインブラッド『シュバルツケーニッヒ』が放ったオービットミサイル『ロヴィアタル』の後を追うようにして敵機4機を包み込む。
「ドラゴン1、エンゲイジ」
 海風が黒煙を吹き流す中、見えた機影に伊藤 毅(ga2610)が左翼から接近して行く。火器管制装置が導くまま機体を傾け、ホーミングミサイルDM−10の射程に敵機を捉えた。
「ドラゴン1、FOX2」
 スレイヤーの接近に敵が気付く寸前、毅の右手がトリガーを引いた。2発の黒塊が狙い違わず爆撃機型の装甲を穿ち、膨れ上がった爆炎が装甲を大きく食い破る。腹を裂かれた母魚のようにスライムを撒き散らしながら辛うじて滞空するそれは、最後の抵抗とばかりに砲を閃かせ、旋回する毅機の翼を溶かし向かい来た。
 星嵐機から注ぐミサイルの雨は止まず、傷ついた3機がプラズマ光の中に沈んで行く。眩い光を背に群れを離れて迫る瀕死の敵機を、毅は無表情のままチェーンガンで叩き落とした。
「4機撃墜。順調ですね」
 1機をガトリング砲で蜂の巣に変え、二方向からプロトン砲を撃ち込んで来る6機を墜とすべく機首を返すユーリー。
「皆それぞれに決戦の思い入れが有る様ですが、それに引きずられない様‥‥」
「うわ、こっち来んな!」
 セロリの声に、顔の方向を固定したまま風防枠に視線を移す。ミラーには、後方のセロリ機がマンタに襲われている様子が映っていたが、元よりそれを想定していた彼女の機動に迷いはない。レーザーキャノンの連射でマンタの頭を吹き飛ばし、旋回してこちらへ戻ってくる。
 しかし、
「‥‥本星型はどこに?」
 その存在に多少の警戒は払いつつも、誰も本星型の相手をしていない。残る爆撃機型6機は、4機と一定の距離を保ったまま接近して来ない。星嵐が自機のレーダーに視線を向ける。
「避けろ! 本星型をフリーにしすぎたぜ!」
「――!!」
 視界の端で、3機の後方に付こうとしたウーフー2が突然機体をロールさせた。
 弾かれたように散開する4機だが、間に合わない。
 頭上から降り注ぐ無数の小型ミサイルが、周囲の空ごと傭兵機を爆炎の海に叩き込んだ。
 ユーリー機のファランクス・テーバイが唸りを上げるも、それすらも耳に届かない。
 損傷を告げるアラートが各機のコックピットに響き渡り、傭兵達は、度重なる爆発に速度を失っていく機体を何とか制御して飛行を続ける。
『護衛機なら、フラフラしてないで爆撃機の前にいやがれ!』
『貴方がたが爆撃機ばかり追いかけるものですから‥‥その隙に墜としてしまう方が、結果的には多くの爆撃機を残せるというものでしょう。ヒヒヒ!』
 爆撃機型と本星型のプロトン砲が撃ち込まれ、ミサイル攻撃で深い損傷を負った4機を更に傷つけ、翻弄する。セロリは思わず小さな舌打ちを漏らし、それでも冷静に本星型の機動と武装を再確認。
「他にミサイルを搭載してる様子はないです。対応できる人はよろしく。‥‥あと、爆撃機型は基本3機1組で行動して、本星型が攻撃しやすい位置に俺達を誘導してる。気をつけて」
「Roger」
 本星型に背後を取られた毅機は、砲撃を受ける寸前に操縦桿を斜め手前に引いた。白銀の機体がバレルロール軌道を描いて回転し、生じた速度差を利用して本星型を自機の前に出す。慣性制御で強制的に追い越させようとする本星型を無視し、爆撃機型へとミサイルと銃弾を叩き込む毅。本星型は、星嵐機が進路を塞ぎ、止めていた。
『貴公には大人しくして頂けるとありがたかったのですが‥‥しばらくは自分の相手をして頂きます』
『キヒヒヒ‥‥勇気だけは認めて差し上げますよ』
 セロリ機の放つ銃弾とミサイルが爆撃機型の1機を捉え、動きを止めた瞬間に、ユーリー機の剣翼が閃く。金属同士が擦れ合う不快な音を聞きながら、対峙する星嵐機と本星型が火砲を交差させた。


    ◆◇
 一方、海中では、傭兵機・正規軍機が的確な役割分担のもと、戦闘を有利に進めていた。
 信人機、レイミア機は早々にメガロ・ワームを沈めると、周囲を回遊しているアースクエイクらしき機影に注意を払いながら、アルバトロス隊とともにクラーケンの対処に当たっていた。
 無数にも思えた触手は2体分で、20本のうち半数は信人のクローやアルバトロス隊の攻撃により千切り取られている。長い触手を目で辿れば、本体と思しき巨大な影。
「マーメイドが抜けた。そちらでサラダの具にして欲しい」
 微笑みながら突進してくる美女を僅かな横移動でかわし、イカの本体に小型魚雷ポッドを照準する信人。トリガーを引くと同時に飛び出した25発の小型魚雷が次々と目標を捉え、小爆発の連鎖で肉片へと変えて行く。
 レイミアは機体を滑らせ昼寝機の背後へと移動させると、水空両用撮影演算システムを起動。機体カメラでゴーレム2機を追い、その機動を解析し始めた。
「ゴーレム2機、攻撃回避時の機動パターンを解析しました。情報を送ります」
 威龍機、昼寝機へデータを送信し、レイミア自身はアースクエイクの警戒に専念する。
「右が抜けるわよ!」
 魚雷とガウスガンの弾幕でゴーレムを接近させまいとする2機。しかし、前衛のゴーレムがその多くを被弾している隙に、もう1機が弾幕を抜けてしまった。
「任せろ! 俺と【玄龍】を舐めるなよ!」
 光剣を振り被り突撃を仕掛けるゴーレムの眼前。アルバトロス隊を護るように飛び出した威龍のリヴァイアサンが人型に変形し、厚い装甲でそれを受け流す。その右手から伸びたレーザークローが敵機の頭部を貫き、僅かに距離が開いた瞬間にガウスガンの砲口が火を噴いた。ゴーレムの放った銃弾も同様に威龍機を穿ったが、相討ちにすら至らない。
「ナイス! さっさとアイツも沈めるわよ」
 アルバトロス隊の支援砲撃を背に、魚雷の連打で残るゴーレムの撃破を狙う昼寝機。敵の光弾は敢えてその身に受け、揺れるコックピットでガウスガンの照準を合わせる。
「――! アースクエイク、来ます」
 全機に響く、レイミアの声。
 奇襲を狙っていたであろう海蟲の突進は、彼女と信人の張った網にかかり、意味を為さない。
「大物が来たか。これでも水中戦ではそれなりの場数を踏んでいるしな。そうそう無様な真似も出来ねえな」
「とっておきの魚雷だ。支援に如何かな」
 高速で接近する機影を銀に輝く瞳で捉え、対潜ミサイルを発射する威龍機。信人機の撃ち放った高速魚雷とともにアースクエイクの頭部に着弾し、閃光の後には油とも血液とも知れぬ液体と気砲が巨大な虫を包み込んでいた。
「さあ、そろそろ空の決着もついた頃かしら?」
 昼寝機の銃弾が、ゴーレムの胸を抉り、貫く。尚も接近を試みるアースクエイクにレイミア機から放たれた魚雷が突き刺さり、威龍機の容赦ない銃撃が止めを刺した。
 クラーケン、人魚も粗方倒され、もはや、海中に上陸への障害はない。


    ◆◇
 星嵐機が本星型を食い止めている間、毅機、ユーリー機、セロリ機は連携して爆撃機型の掃討にあたっていた。
 空に浮かぶ母魚の数が2機まで減少した頃、毅機が機首を返し、星嵐機の加勢に回る。
「ドラゴン1、FOX2」
 AAEMを放ち接近して来るスレイヤーに気付き、本星型がクルリと機を回転させた。通り過ぎるミサイル。しかし、瞬後には下方を取った星嵐機が灼熱の閃光を放っていた。
『キヒヒ‥‥これはこれは。残り2機になってしまいましたか』
 機体の下面を焦がし、それでも笑うA・J・ロ・ユェラ。プロトン砲の一撃を喰らった星嵐機が限界に達し、後退する。
 毅機は火砲を可能な限りかわしながら、FCSが示す通りに牽制の後、機銃戦を仕掛けた。だが、起動した強化フォースフィールドの輝きに阻まれ、敵機に損傷を与えることができない。
 セロリ機、ユーリー機が残る2機の爆撃機型を撃墜するのは、時間の問題だろう。
 しかし、この本星型の損傷率は、4機のそれに比して――低い。
『‥‥これ以上、この戦場に留まる意味はないようですね。私の研究の場を、また奪われることになりますが‥‥』
 言葉の後半は、憎悪を込めて。
 最後の爆撃機型が撃墜される光景を横目に、A・Jは4機の追撃を強化FFで防ぎながら、プナ島内陸部へと機体を疾らせた。


    ◆◇
 頭上の脅威を除かれた正規軍は、エクアドルの海から次々にプナ島東岸へと押し寄せ、その勢いのままに島内の基地を制圧した。揚陸作戦は成功と言えるだろう。
 前線を退いたA・Jの機体は島内での戦いにも現れ、一部の部隊に被害を与えたものの、ソフィア・バンデラス(gz0255)の撃破の報が戦場を巡ると同時、何処かの空へと消えて行った。