タイトル:【NS】緊急!社長救出!マスター:桃谷 かな

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/09/12 07:18

●オープニング本文


 そこは、ほぼ正方形の、およそ3m四方の小さな部屋だった。
 壁と床はつるりと滑りやすく、一枚岩のように継ぎ目がない。
 室内にあるものといえば、病院のようなパイプベッドが一つだけ。
 その逆側には背の低い扉があり、その向こうの狭い空間にはシャワーとトイレが備え付けられている。
 窓は一つも無く、明かりは天井の蛍光灯のみ。
 外の様子は窺い知れないが、小さな通風孔からは時折、風の音と潮の香りが感じられた。
 出口と思しき扉はあるのだが、まるで銀行の金庫のように分厚く重い印象で、ピタリと閉じられている。
 ここに閉じ込められてからの時間は定かではないが、定期的に壁の一部が開口して差し入れられる質素な食事の度に自らの髪を一本引き抜き、ベッドの脚に括りつけて回数を記録していた。

 “彼ら”は、何故自分を生かしておくのか。

 ここへ来てから、ミユ・ベルナールは何度か、その疑問を頭に浮かべた。
 自分を拉致し、監禁しているのは恐らく――ビル・ストリングス。彼の一派に違いない。
 今のドローム社がどのような状況にあるのか知る術はないが、想像はつく。
 ドロームの闇が、その黒に染まらぬ者たちを“粛清”しているのだ。
 今、自分が生かされている理由も、碌なものではないだろう。
 
 こうならぬように用心はしていたつもりだが、甘かった。
 彼らはこの日のためにミユの近しい者たちの中にも闇を蔓延らせていたし、彼女の油断を誘う術には事欠かなかったようだ。
 ミユとて能力者の端くれではあるが、だからといって無敵ではない。
 出勤途中に不意を突かれ、気付いた時には既にこの部屋の中にいた。
 愛用の青いスーツは着替えさせられ、今はまるパジャマのような白い上下を着せられている。
 常に胸ポケットに忍ばせていた小型超機械も取り上げられ、もはや為す術もない。

「おじいさま‥‥どうか、ご無事で‥‥」

 無為に過ぎていく時間の中、ミユは、祖父の顔を思い浮かべた。
 恐らく、彼ら反バグア派の役員達にも、自分と同じような危険が迫っているに違いない。
「しっかりしなくては。いつチャンスが訪れるとも知れないわ」
 何も出来ない我が身を歯痒く感じつつも、ミユは何とか自分を奮い立たせた。
「カプロイア伯爵‥‥」
 そして、遠いイタリアにいるはずの彼に想いを馳せる。

 あの手紙は、彼の元へ届いただろうか。


    ◆◇
「ローガン・ベルナール殿」
 ロサンゼルス市内。UPC特殊作戦軍が手配した護衛に守られて姿を現した老人に、ハインリッヒ・ブラットが立ち上がり、一礼する。
「少将、ミユの行方が掴めたとお聞きしましたが‥‥」
「はい。朗報です」
 椅子に掛けたローガンは、不安と期待の入り混じった表情で尋ねた。頷くブラット。
「貴方を自宅に監禁していた者‥‥彼の発言を基に調査致しました。どうやら、随分と口の軽い男だったようですな」
 ローガンの自宅に押し掛け、彼を監禁脅迫していた、発火能力を持つ強化人間の事である。下品な笑みを常に浮かべていた彼は、ローガンを精神的に追い詰めようとでもしたのか、訊いてもいない事を延々と話し続ける男であった。
 傭兵達に救出されるまでの間、老人は彼の言葉を無視する姿勢を保ちながら、その中に何か、孫の――ミユの居場所を割り出せるヒントはないかと、探り続けていたのだ。
 正直なところ、ヒントは幾つもあった。いかにも愚鈍な男本人は気付いていなかったに違いないが。
「メキシコ国境に近い競合地域、サンディエゴ近郊の元別荘地。ビル・ストリングス一派に数えられる役員のうち一名が過去に所有していた邸宅がその付近にあります。バグアとの戦闘で一帯が無人化し、現在は土地の権利も別人に渡っているようですが」
 ブラットは黙したままの老人を見つめ、続ける。
「我々も、ドローム社の内部事情については、ある程度存じております。ミユ・ベルナール社長に、社を動かす実権は無いのでしょう。ですが」
「そう思っておるのは、ビル・ストリングスやその取り巻きだけでしょう」
 不意に、老人がブラットの言葉を継いだ。
 その瞳は、一線を退いた者のそれではない。
 普段は物静かなローガンだが、ドローム社という巨大企業を陰から動かしてきた自信と実力は、全身から溢れる威厳という形で表れている。
「いや‥‥彼がミユという“表の顔”に恐れを感じていなければ、このような事は起こらぬやもしれません」
「その推測は、正しいかもしれませんな」
 言い直したローガンに、ブラットは神妙な面持ちで同意した。
「少将、ミユを宜しく頼みます。ドローム社には、彼女が必要です」
 そして老人は、その身を包む堅い威厳を僅かに和らげ、視線を落とす。
「‥‥私は娘も娘婿も亡くしてしまった。続いて、可愛い孫の片割れまでも。私は」

 ミユを失くすわけにはいかんのです。

 その、老人の言葉に。
 ブラットは深く、頷きを返した。

●参加者一覧

真田 一(ga0039
20歳・♂・FT
須佐 武流(ga1461
20歳・♂・PN
周防 誠(ga7131
28歳・♂・JG
伊万里 冬無(ga8209
18歳・♀・AA
大鳥居・麗華(gb0839
21歳・♀・BM
YU・RI・NE(gb8890
32歳・♀・EP
夢守 ルキア(gb9436
15歳・♀・SF
黒木 敬介(gc5024
20歳・♂・PN

●リプレイ本文

●B班
「男女比4:4でこの班分け‥‥見事すぎるな」
 邸宅右側面の茂みに、身を寄せ合うようにして潜む男4人。忍者のような井出達の黒木 敬介(gc5024)が、嘆息混じりに呟いた。上手くいかなかった合コンの後かのような班分けだが、それを残念がっている場合ではない。
 探査の眼を発動した周防 誠(ga7131)、暗視スコープを装着した須佐 武流(ga1461)が周辺を探り、真田 一(ga0039)がそっと立ち上がって片手を挙げた。シグナルミラーを塀の上に出し、中の様子を映してから、パッとしゃがむ。
 今は、薄暮よりは少し早い頃。敬介の夜間迷彩を活かせる隠密重視の作戦にも、肉眼で敵の動きを確認することにも適した時間帯だった。
 中世的な薄い唇に、人差し指を当てる一。能力者達は息を殺し、塀の向こうに意識を集中させた。
 見回りの定時連絡であろう。ぼそぼそと聞こえてくる声を耳で拾う。「17時45分、異常なし」。報告は15分区切りか。
「15分か‥‥長居できそうもないな」
 見回りが立ち去るのを待って、武流が暗視スコープを着けた鼻から上だけを塀の上に出し、罠を探す。余裕があれば見回りに成り替わる事も視野に入れていたが、15分間の二班の行動の結果、武流が成り替わった者を含めて2人以上の見回りが欠けていれば、敵に異常を察知される可能性が高い。
「監視カメラやセンサーの類は?」
 足元から、くぐもった声が聞こえた。敬介は今、身長の足りない武流の踏み台になっているのだ。
 屋根の下に設置された監視カメラが、160度に首を回しながら塀と邸宅の間を撮影している。二人は一度顔を引っ込めた。
「監視範囲が広い分、旋回が遅い。カメラの視界に入る前に外壁に張り付くか」
 鏡で様子を窺いながら、一。
「あの石像なんか、あからさまに怪しいですよね。キメラだったりするかも。とにかくあれは避けましょう。‥‥あの窓はどうですか?」
 人影が見えないうちに、誠も塀の上から中の様子を窺う。前庭に点在する怪しげな石像を横目に、小さなテラスのついた二階の窓を指差した。誰かの肩を踏み台にして跳べば、余裕で取り付けそうな高さだが‥‥。
「じゃあ俺が踏み台になって、最後の俺は刀を足場に登るとか。刺した刀は紐で回収できる。あ、でも‥‥」
 言ってから、敬介は気付いた。刀を壁に突き刺す音を、敵に聞かれては拙いのだという事に。


 1分後。
「そっか。やっぱ、持ってきて良かったぜ」
「ただの日用品ですけど、使い方次第ですよね」
 2階右端の寝室。紐を片手に呟く敬介を振り返り、誠は手の中のガムテープを弄びつつ、微笑んだ。背後のカーテンが風に靡き、鍵部分を割られた窓を露わにする。
 監視カメラの死角を突き、罠を警戒しながらテラスに取り付いた3人は、敬介自身が持っていた紐を垂らして素早く彼を二階に登らせ、誠の持つガムテープで簡易な消音をした後、窓ガラスを割った。この時、階下からは見えなかったセンサーの赤外線が窓を横切っているのを発見したが、テープで貼られたガラスは破片を散らすこともなく、傭兵達は安全にそれを潜ることができた。
 洋弓に矢を番えた武流が、部屋のドアを細く開けて廊下の様子を窺う。一は事前情報にある間取りと、室内の構造を照らし合わせて不自然な点はないか探っていた。
 敵が寝泊まりに使用している部屋なのか、ベッドのシーツがぐちゃぐちゃに乱れている。しかし、調度品は埃まみれで、寝て起きる以外の目的でこの部屋に入る者はない様子であった。
 クローゼット、壁、床‥‥一通り調べ、特に不審な点がないことを確認したB班の面々は、隣の部屋へ移動するため、ドアの傍の武流へと合図を送る。しかし、武流は小さく首を振り、皆を手で制した。
「廊下の端、階段の傍に見張りが居る。カメラの類はないが、あいつに気付かれずに移動は無理だぜ」
「‥‥わかった」
 一が月詠を抜き、武流と並んでドアノブに手を掛ける。
「声を出される前に倒すしかないな。‥‥援護を頼む」


●A班
「勝手口、たぶんアレ赤外線センサーだと思う。光源っぽいのが、扉の両側にいっぱいついてる」
「草の間から勝手口の方向に突き出してるモノ‥‥侵入者を攻撃するための装置かもしれないわ」
 夢守 ルキア(gb9436)の暗視スコープ、YU・RI・NE(gb8890)のシグナルミラーと探査の眼で調べた結果、やはり、勝手口そのものは、徹底的に侵入者を拒む仕様のようだ。
「となれば、窓ですわね。皆様、足音に注意して行きますですよ♪」
 監視カメラの旋回に注意し、金蛟剪の先につけた鏡で塀の内側を探りながら、伊万里 冬無(ga8209)が言う。
 邸宅の裏、やや側面寄りの位置に、小さめの窓があった。YU・RI・NEは歩哨と監視カメラの隙を突いて、素早く塀を乗り越えた。
「――!」
 ペキン、と靴の下から響く、甲高い音。
 彼女が草むらに身を伏せたのと、見回りの男が裏庭を覗いたのは、ほぼ同時。
「何だ?」
 裏庭をキョロキョロと見回す男。ルキアは塀伝いに邸宅側面まで移動し石を拾うと、それを前庭方向に向けて思い切り投げた。
 トン、と小石が地面に着地する音が聞こえ、男は不審げな表情で裏庭から姿を消す。YU・RI・NEは上方の監視カメラが視線を逸らすまで草むらに潜み、その根元を手で探った。
「助かったわ。‥‥音が鳴るのは塀の傍だけみたいね」
 塀に近い草の根元には、踏めば甲高い音を立てる防犯砂利的な小型虫キメラらしきものが、ビッシリと並んで息を潜めている。YU・RI・NEは冷や汗を拭いつつ範囲外に飛び退くと、塀の上から大きく跳躍して侵入してくる仲間たちを迎えた。
 監視カメラの旋回速度を読み、素早く窓の傍に張り付く4人。室内の様子を探り、冬無がサッシとガラスの隙間にマイナスドライバーを数度差し込んで開けた小さな穴から解錠。
「派手に、と行きたい所ですが今回は我慢して地味に行きますわよ」
 キッチンに降り立った大鳥居・麗華(gb0839)は足音を殺し、まずは室内をぐるりと見渡して監視カメラの有無を確認した。それらしきものは見当たらない。
「私はワインセラーから調べるよ。上はヨロシク」
 ルキアは、脇目も振らずに床を調べて地下への入口を開け、麗華が止める間もなく階段を降りて行ってしまった。無線機を持たない彼女を一人で行動させることには不安があったが、仕方がない。一階から先に探索する予定の3人は、まずはキッチンとダイニングを調べることにした。
「隠し扉のスイッチのようなものは‥‥ありませんわね」
「ケホッ。‥‥こんな埃っぽいダイニングで、お食事なんてできませんです」
 ダイニングの床や壁に触れ、視線を走らせる麗華と冬無。碌に掃除もされていないそこは、あまり使用頻度が高くない空間のようだ。
 一方、キッチンのYU・RI・NEは、シンクに山積みにされた食器類を観察していた。
(ここでミユ社長の食事が用意され、監禁場所に運ばれたはず‥‥)
 戸棚には、レトルト食品の山。恐らく、ここに置かれている使用済みの食器の殆どは、邸宅に寝泊まりする敵が使ったものであろう。しかし、彼女はその中にいくつか、しっかりとした蓋付きの食器が混じっているのを発見する。
(きっとこれがミユ社長の使った食器ね。零れるのを防ぐため? 埃が入ったり、冷めるのを防ぐ目的も)
 すぐ届けられる場所にミユが居るのであれば、こういう形の食器は使わなくてもいいのではないか。
 運びにくさから考えるなら、狭い通路や階段を通るのかもしれない。
「お待たせー。こっちは何も無かったケド」
 その時、ルキアが地下の探索から戻って来た。
「ケド、やっぱり地下は怪しいと思う」
 温度があまり変わらず、外部から気付かれにくい場所という観点で考えると、地下は監禁場所として最適である。彼女は、よりその考えを強めていた。
 そして、合流した4人は、ダイニングからリビングへと移動。こちらも埃が酷く、あまり使用していないようだ。
「埃の状態、食器の種類から考えて、キッチン側には何もなさそうね。右側に行くわよ」
「右側は、応接間とバスルームですわね」
 YU・RI・NEの意見を聞きつつ、リビングから玄関ホールへ繋がる扉を開けた麗華は、階段の傍に一人の男が佇んでいるのを見てニッと笑った。周囲に他の敵は見当たらない。その向こうには二つの扉。形状的に、玄関に近い方が応接間の扉だと推測した。
「あはっ、麗華さん、チャンスです♪」
 伊万里が金蛟剪を構え、飛び出す。それを瞬速縮地で追い越した麗華が、一瞬で見張りの男に肉薄した。
「――なっ‥‥!?」
 足を払い、赤い光を発した男を絨毯の上に転ばせて、後ろ手に手錠をかける。
「強化人間ですわね。尋問は任せますわよ、伊万里」
 階段の陰に引き摺り込んだ男の首を挟むようにして、冬無の金蛟剪が突き立てられた。
「後ろ手でも、顎で指せるはずです♪」
「ミユ君の居場所は?」
 残虐な笑みを浮かべた黒髪の少女が男の顔の前に差し出したのは、邸宅の間取り図であった。ルキアが詰め寄り、男の視線や表情を探ろうとする。
「猶予は5秒です♪ 1、2――」
「――退がって!!!」
 奥歯を噛み締めた男。探査の眼を発動したままのYU・RI・NEが気付き、声を上げた時には、もう遅かった。
 男の体から膨れ上がった炎と爆風が、至近距離に居た3人を焼き、吹き飛ばす。
「くっ‥‥自爆ですの!?」
 苦痛に顔を歪めながらも飛び起きる麗華。応接間、そして外から、男達の声が聞こえた。
「こうなったら大暴れです♪」
「待って。私が囮になってみる。一旦隠れて!」
「ルキアさん!?」
 自分が見つかる事があれば単独で陽動を、と考えていたルキアが、3人を階段の陰に隠したのと、彼女の姿を男達が発見したのは、ほぼ同時だった。
 応接間から、玄関から、銃を構えた6人の男達が雪崩れ込み、ルキア目掛けて発砲。
「う‥‥っ!」
 迅雷を駆使してホールを駆け回り、エネルギーガンとSMGを両手に応戦するルキア。ナイフを抜いて飛び掛かって来た男を寸でのところで撃ち抜き、倒す。しかし、次の瞬間には、彼女の腹に複数の弾丸が潜り込んでいた。
『二階から見張りが一人降りて行ったよ。そっちはどうだ? 迎撃以外の行動を取る敵は?』
 敬介からの無線を受け、麗華らはハッと顔を上げ、周囲に視線を巡らせる。
 侵入者の存在が明らかになった今、敵は迎撃と、ミユの死守に分かれて動くはずだ。
「2人、応接間の前から動きませんです」
『了解だ。何とか隙を突いて、そこを調べてくれ』
『‥‥仕方ない、やりましょう!』
 無線機から武流の声が届けられるなり、階上から人が倒れるような音が響く。次いで、窓ガラスの割れる音。
 二階に残る何人かの歩哨と、B班が陽動戦闘を開始したのだ。
 ルキアは、迫る男2人に至近距離から照明銃を撃ち込み怯ませると、踵を返して全力で階段を駆け上がって行く。応接間前の2人を残し、彼女を追う男達。
「行くわよ!」
 サプレッサーを着けたYU・RI・NEの拳銃が、左側の男の胸を撃ち抜く。音も無く接近した麗華のラブルパイルが右側の男に杭を叩き込み、冬無の金蛟剪が空を舞った。
 二つの首と体が絨毯の上に転がる。3人はそれらを飛び越え、素早く応接間に侵入した。
「監視カメラの映像ですわ。これは‥‥ミユ社長!」
 応接間にはモニターがいくつか置かれ、うち一つに映っているのは、窓一つ無い部屋のベッドに腰掛けた、ミユ・ベルナール(gz0022)の姿であった。
「きっと隠し扉か何かがあるわ。急いで!」
 食事を運ぶ際に、中身が零れやすい道。埃を被りやすい道。YU・RI・NEは壁よりも床を先に調べ始めた。冬無、麗華も加わり、窓際の軽い家具をずらして絨毯の端を捲る。すると――、
「発見しましたですっ♪」
 フローリングの床に、地下へと続く四角い扉が姿を現した。


●救出
「ミユ社長!」
 数度の衝撃音の後、ロック部分を破壊された扉が開き、ミユの前に3人の女達が姿を現した。
「あなた方は‥‥」
「話は後よ。とにかくこれを」
 超機械と下着を差し出したYU・RI・NEに、ミユは全てを理解し、頷きを返す。
「ありがとうございます。お借りしますわ」
 ミユは素早く服を脱ぎ、時間が無いことを察したのか、麗華の取り出したスカートと上着だけを身に纏うと、超機械を手に取った。
 何者かか階段を降りて来る気配に、麗華が叫ぶ。
「長居は無用ですわ。さっさと撤収ですわよ!」


『α、まだ社長は見つかりませんわ』
「了解。捜索を続行する」
 閃光手榴弾が炸裂した音が聞こえる。無線に応えた一が割れた窓から外を見遣ると、YU・RI・NEがペイント弾を連射して追手の眼を潰している様子が、偶然見えた。
 目の前の男のダガーを刀でいなし、胸を撫で下ろす。
 ここに来られたのはローガンとカプロイア伯爵(gz0101)、そして他の仲間たちのお陰だ。そう、後でミユに伝えよう。
「5分ももたせりゃ十分ですかね?」
 銃を構え、背を合わせる誠が、小声で、しかし少々悪戯っぽい声音で尋ねて来る。壁の一角に放たれた弾丸があらぬ方向へ飛び、傷ついたルキアを狙う男の肩にめり込んだ。
「囚われのお姫様か。救助対象がむさいおっさんよりはやる気でるってもんだね。ところで夢守さん、土産話は?」
「え? 今はそれドコロじゃないよ!」
 肩を撃たれ苦しむ男に、物陰の暗がりから飛び出した敬介の如来荒神が襲い掛かる。二度、三度と振るう度に精度を増す剣閃が、容赦なく敵を切り刻んだ。
「よし、出るぞ!」
 武流の脚甲に蹴り抜かれた男が、窓をブチ破って階下へと落ちて行く。ここからは、A班の安全を守りながら追手と戦わなくてはならない。
 窓から外に出た武流を追い、残る4人も同様に、暗い裏庭へと身を躍らせた。


●決意
「‥‥ミユ!!」
「おじいさま! ご無事で‥‥!」
 何とか追手を振り切り、ロサンゼルスに帰り着いた一行を待っていたのは、ミユ救出の知らせを受けて出迎えに来たローガンと、ハインリッヒ・ブラット(gz0100)の二人だった。
 ミユとローガンは思わず目に涙を浮かべ、互いの無事を喜び合う。
 囮となったルキア、そして、バイクで追手と直接戦闘を行った武流は多くの傷を負っていたが、重傷には至らず、傭兵達も皆、無事に帰還した。
 ミユ、ローガン、ブラットの3人は、そんな傭兵達に感謝の意を示し、頭を下げる。

「‥‥おじいさま。ブラット少将。ストリングス派が動く前に、やっておかねばならない事があります。TV局と新聞社に緊急記者会見の連絡と、UPC大西洋軍に出撃の準備を要請して下さいませ」
  
 ミユの顔から、スッと笑顔が消えていた。浮かぶ表情は、決意と怒り。
 ローガン、ブラットを振り返り、低い声で告げる。

「ユニヴァースナイト弐番艦の出撃を発表します。今、すぐに」