タイトル:【NS】湖上の抵抗マスター:桃谷 かな

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/08/30 13:54

●オープニング本文


――2011年7月22日、オタワ。
 その日、【North America Strikes Back】作戦本部に戦慄が走った。
「なん‥‥だ、あれは‥‥」
 通信先は、ニューヨーク北のオールバニ。モニターに映る『それ』を見て、幕僚達は思わず言葉を失う。
 画面の向こうには、空を覆い尽くすようなワームの大軍勢。長きに渡りバグア勢力の北上を阻止していたはずの現地駐留戦力は、その圧倒的な数の暴力の前に僅か数時間で防衛網を破られ、壊滅した。
 そして、蹂躙された兵士達の頭上を通り過ぎて行く――ハリネズミにも似た、巨大な影。
 そう、北米人類の反攻作戦に対し動きを見せたのは、ワシントンのギガワームではなかったのだ。
「‥‥ニューヨークのギガワームを動かすとはな。バグアに一杯食わされたか」
 ヴェレッタ・オリム中将(gz0162)は眉根を寄せたまま、フン、と僅かに鼻を鳴らして呟いた。
 『シェイド討伐戦』にも姿を現さなかったギガワーム。それを見た人類は、「ギガワームの脅威」を、自らが生み出した幻影だと推測した。
 しかし、それが幻影ではなかったとしたら――?

『ギガワームを待っていたのでしょう? どうぞ、あなた方の如き愚かな生き物に、墜とせるものなら墜としてごらんなさい』
 通信に混じる、北米バグア軍総司令官リリア・ベルナール(gz0203)の声。
『――私がオタワを灰燼と化す前に、ですが』

 ニューヨークのギガワームによるオタワ侵攻。
 この非常事態に対し、【NS】作戦本部は五大湖周辺戦域全土に向けて、敵進路上に存在する最大の軍事拠点たるモントリオールへの戦力移動を要請した。


    ◆◇
 モントリオールの南、シャンプレーン湖上空。
 そこは、まさに地獄だった。

 遥か下方でキラキラと輝く水面に、幾つもの水柱が上がる。
 墜ちたのは、敵か、味方か。
 そんな事を気にする余裕など、誰にも残されてはいない。
「前方、ビッグフィッシュ3隻! ヘルメットワームおよびキューブワームの放出を開始しました!」
「‥‥! 隊長! アビーとウィルがいません!」 
「敵前衛、タロス3機、ヘルメットワーム8機撃墜!」
「スカイレパード隊、全機ロスト! スワロウ04、05、06、ブラックホーク隊のフォローに入れ!」
「敵軍後方に増援確認! 本星型ヘルメットワーム4機、タロス1機、小型ヘルメットワーム10機です!」
 飛び交う通信を掻き消すかのように、幾つもの銃声と爆音が重なり、輝く光線が空と雲を貫く。
 2011年7月下旬、ニューヨークを発しこのシャンプレーン湖に到達したバグア軍は、長年ここを守り続けてきたUPC軍精鋭部隊の力を以てしても、到底太刀打ちできぬほどの大軍勢であった。
 ニューヨークとモントリオールの中間という土地柄、この地域の部隊に与えられる装備は、北米の他の地域に比べ、格段に恵まれているはずだ。ナイトフォーゲルの機数も多く、パイロット達の腕も申し分ない。
 だが、バグアはそんな彼らを嘲笑うかの如く蹴散らし、蹂躙していく。さらに、その背後からは、無数の砲台と見た事も無い巨大主砲で武装したギガワームが、まるでハリウッド映画の巨大怪獣の如く威圧感を発して迫って来るのだ。
「冗談じゃないわよ‥‥あたしは、こんなところで死ぬわけにはいかないんだから‥‥!」
 バーバラ・アンは14歳。
 昨年秋、志願してUPC軍に入隊し、厳しいKV訓練を経て、シャンプレーン湖の東に拠点を置く飛行大隊に籍を置く事になった新人パイロットである。
 北上して来るバグアの大軍勢に対し、オタワの決断は、モントリオールへの戦力集中だった。
 しかし、バーバラ達、シャンプレーン湖周辺に展開する部隊に命じられた内容は――『遅滞戦闘』。
 押し寄せる敵軍に対し、防衛線を死守しながら出来る限りの打撃を与え、時間を稼ぐ。それが、彼女らの任務だった。
 無論、援軍は来ない。モントリオールでの防衛迎撃網構築が最優先であり、このシャンプレーン湖で敵軍を食い止められるなど、端から考えていないのだ。
 すぐに食い破られるであろう防衛線。それを守りながら、機体が動く限り戦い続ける事。
 それは、口で言う以上に過酷で、残酷な任務だった。
 シャンプレーン湖上空には敵味方が入り乱れ、混戦状態の中、ワームやKV、戦闘機が次々と黒煙を上げ、水面目掛けて墜ちて行く。
 気付けばバーバラの部隊は散り散りになり、同じく仲間を失った機体と即席の部隊を作り、それを何度も繰り返しながら、とめどなく押し寄せて来る敵と対峙していた。
 そしてまた1機、バーバラの隣で戦っていた仲間の反応が消える。
『‥‥っ。良い気になってんじゃないわよ!』
 奥歯を噛み締め、バーバラは操縦桿を思いっきり横に切った。
 くるくると回る視界の端で、ヘルメットワームから伸びた光線が機体を掠めて行き過ぎる。
『1機や2機墜としたからって何よ! こっちはその何倍も墜としてやるわ!!』
 こんなところで死ぬわけにはいかないから。
 バグアになんか、負けるわけにはいかないから。
 バーバラは、ミサイルの発射レバーを引き、目の前のHWにスナイパーライフルの照準を合わせた。

 太陽と、キラキラ輝く水面に照らされ、明るく晴れた空。
 幾つもの火線が飛び交うシャンプレーン湖上空に、傭兵達の機体が姿を現した。

●参加者一覧

ロジー・ビィ(ga1031
24歳・♀・AA
アルヴァイム(ga5051
28歳・♂・ER
飯島 修司(ga7951
36歳・♂・PN
乾 幸香(ga8460
22歳・♀・AA
エリアノーラ・カーゾン(ga9802
21歳・♀・GD
神棟星嵐(gc1022
22歳・♂・HD
ジリオン・L・C(gc1321
24歳・♂・CA
BEATRICE(gc6758
28歳・♀・ER

●リプレイ本文

 数の暴力って、こーゆーコトを言うのよね‥‥と、エリアノーラ・カーゾン(ga9802)。応えたのは、飯島 修司(ga7951)だ。
「いやはや。これはこれは、何時にない大盤振る舞いですな」
 ディアブロ改のシートに座し、嘆息とも笑みともつかぬ息を漏らす。
 手前に見えるナイトフォーゲル群も確かに多いが、ワームの群れは押し寄せるばかりで、終わりが見えない。
「勝機が見出せない戦闘、中々苦しい状況ですね」
 神棟星嵐(gc1022)が空に咲く幾つもの華を見つめつつ、重い口調で呟いた。
「一機でも多くの味方機を逃す為にもここはわたし達が踏ん張らないといけませんね。全力を尽くさせて貰います」
「はい。私程度が手助けなど烏滸がましいですが‥‥出来ることがあるのなら‥‥」
 敵戦力が多ければ多いほど、撤退時の追撃も苛烈になる。機体の限界まで戦う彼らの場合、撤退すら叶わない例も多かった。乾 幸香(ga8460)、BEATRICE(gc6758)の二名は、湖面へと落下していく機体を苦々しく見つめ、自機を加速させる。
「敵の数が多いのならば。‥‥まずはその数、削り取る所から始めるとしましょう」
「ええ。此処で今、出来る限りのことを‥‥! 白薔薇、参りますわ!」
 修司機の斜め下に愛機をつけ、ロジー・ビィ(ga1031)は紫色の瞳を真っ直ぐ前へと向けた。
 アルヴァイム(ga5051)のノーヴィ・ロジーナbisより、正規軍の電子戦機へと相互連携の要請が送られる。
 8機の先頭に出たのは、エリアノーラのシュテルン・Gと、ジリオン・L・C(gc1321)のガネットだった。


    ◆◇
「これからBRCを使用します。敵が弱っている間に態勢を整えてください」
『ハアーッハッハッハ!!! 待たせたなァ! UPC!! そして魔王の手先共!!』
 割と唐突に、最前衛の乱戦空域を真っ白な煙幕と高笑いが覆い尽くした。戸惑う両軍。
『俺様はジリオン! ラヴ! クラフトゥ! ‥‥未来の勇者だ!』
「一旦仕切り直しよ! とりあえずラージフレア撒いておくわね」
 煙幕を焚いた意味すら説明しないジリオンに代わり、白煙中を飛び回るエリアノーラが正規軍機へと告げる。それをロックオンキャンセラーで支援するのは幸香のイビルアイズ改だ。
 一度後退し、煙幕の中から味方中衛位置まで戻ってくる前衛機たち。無人機ならば考えなしに煙幕を突っ切って来た瞬間を狙い撃ちに出来そうなものだが、有人機が居るのか敵軍も同様に後退。捨て駒のキメラたちだけが後退する機体に追い縋る。
「このように組むのは初めてになりますね。改めて宜しくお願いします」
「ああ、頼りにしている。‥‥まずは混戦の整理から始めるとしよう」
 煙幕から溢れ出る有翼キメラの群れを、星嵐機とアルヴァイム機のロッテが食い止める。スラスターライフルと長距離バルカンの弾丸がバラ撒かれ、空飛ぶ獣たちが次々に薙ぎ払われていった。
「敵前衛が煙幕を迂回して来る」
「了解した」
 ワイズマンが告げる嫌な情報を受け入れ、アルヴァイムは眉一つ動かさずに短く返答する。
『さあ、纏めて叩き落として差し上げますわっ!!』
 蟠る白煙の表面を前進して来るワームの群れに対し、ロジー機、修司機、BEATRICE機が大型のミサイルコンテナを開放する。吐き出されたマイクロミサイルが空を白条で埋め、視界正面の煙幕ごと、その表面を這う敵軍へと喰らい付いた。
 空に広がっていく爆炎。炎と黒煙を噴き上げて落下していくHWの群れが、遠い湖面に幾つもの水柱を形成する。
「一気に敵先陣を落としますよ!」
 爆煙から飛び出したHW群に向け幸香機が螺旋弾頭ミサイルを発射。先端のドリルが敵装甲を食い破る。そして、彼女の声に応えるかのように、周囲の正規軍機も一斉砲撃を開始。マリアンデールのDR−M、スピリットゴーストの4連カノン砲が敵を次々に叩き潰していく。
「くっ! 長くは持たんぞ!」
「お前は何を言っているんだ。まだ無傷だろう」
 硬いエリアノーラ機を先に行かせているジリオンが、言ってみたかっただけの台詞を吐きながら地味な攻撃を加えている。エリアノーラに代わって突っ込んだのは、正規軍の隊長機フェニックスだった。
「おお! 今のうちにロッテを組み直すんだ。それから、ワイズマンに」
「ワイズマンは通信の要よ。落とされないようにフォローしないとね」
 所属小隊の教育が良いのか、たまに良い提案をする勇者。だが、最終的にはエリアノーラの言葉が若い隊長を動かし、R−01とS−01COPの2機が後方のワイズマンの護衛についた。
「本星型が出てきましたね。行きましょう、ロジーさん」
「ええ。ブーストで参りますわよっ!」
 戦域の一端で、本星型1機を中心に4機で編成されたHWの小隊が、キメラとともにスカイセイバーとR−01を劣勢に追い込んでいる。
 至近まで突っ込んだ修司機の機関砲がキメラの群れごとHWに銃弾を降らせ、僅かに後退させる。その進路上を狙っていたロジーのスナイパーライフルが火を吹いて、傷付いた敵機がぐらりと傾いた。それを逃れたHWにも、今度は修司機の狙撃が待っている。浮いているのがやっとのHW達が反撃のプロトン砲を放つも、次の瞬間には修司の指がエニセイの引き金を引いていた。
 スカイセイバー、R−01の弾幕が加わり、あっという間に墜落して行くHW群。後に残った本星型が、ミサイルとプロトン砲の乱射で反撃を開始した。
「強化FF‥‥では練力を削るとしますか。ロジーさんは死角のフォローをお願いしますよ」
「わかりましたわ。でも、最後の止めは任せてくださいませっ」
 何発か被弾しながらも、修司機と正規軍2機は本星型HW目掛けて機関砲の弾幕を張り、強化FFを輝かせ続ける。
「――!」
 彼らの周囲を離れず、フォローに回っていたロジー機が殺気を感じて急旋回をかけた。
 右翼に衝撃が走る。
「タロス‥‥!」
 正面を向いたロジーの瞳が、スナイパーライフルを構えたタロス、そしてHW3機の姿を捉えて揺れる。彼女は孤立を避けて、修司機の後方から狙撃を開始した。
「負けませんわ!」
 タロスと本星型、HW群の砲が次々と火を噴く。ロジーは突進して来るHWに銃弾を叩き込み、G放電装置の電撃で丸ごと絡め取った。


 煙幕やラージフレアで戦列を整え、K−02の一斉射で敵軍を圧倒した傭兵達だが、バグア軍も負けてはいない。
 数の多さに物を言わせ、次から次へと増援を送り込んでは前進して来るワームの群れが、一度開いた距離を瞬く間に詰めて行く。
「しぶといですね‥‥!」
 パピルサグを追い回していた本星型HWが、星嵐機、アルヴァイム機の弾幕を浴びて断続的に強化FFを輝かせる。正規軍のフェニックス、パピルサグが、強敵と対峙する2機を援護していた。
「中型HW2機、小型HW3機、正面から来る!」
「ゆっくり本星型の相手もさせんか‥‥」
 ワイズマンからの警告にアルヴァイムが視線を動かせば、そこには押し寄せるHWとキメラの群れ。
「一体一体相手にしていては手が足りませんが、ここで出来る限り打ち落とさねば後々に響いてしまう!」
 星嵐のペインブラッドが旋回、加速する。矢のように飛び来る光条をかわし、時には受けてその身を焦がしながら、黒い死神が敵の群れの側面に回り込む。迎撃の銃弾が装甲を剥がし、宙に舞う中、星嵐は迷うことなくブラックハーツを起動した。
 閃光が、HWとキメラを包み込む。
 フォトニック・クラスターの超高熱に焼かれたキメラがバラバラと落下し、傷ついたHWがパピルサグとフェニックスのレーザーに穿たれ、続々と揚力を失って行った。
「強化FF解除。一息に殲滅する」
 本星型の練力を削り終えたアルヴァイムが、電磁加速砲の照準を合わせる。再び戻って来た星嵐機がギアツィントで牽制し、動きを封じた瞬間に、引き金を引いた。
 既に強化FFという壁を失った本星型に、機体の形が変わるほどの一撃が加わる。
 火花を散らし、フラフラと漂うそれ目掛け、星嵐機のスラスターライフルが命中。爆発、四散した。
 しかし、その時点で、正規軍機前衛を中心に機体損傷90%を超える機体が現れ始める。
 アルヴァイム機が彼らの撤退支援に入り、再び押し寄せてくる大型HW、中型HWの群れへと、ペインブラッドの閃光が照射された。


    ◆◇
 正規軍の数機が撤退し、両軍前衛が再び入り乱れ始めると、基本的に待ちの態勢で向かって来る敵の迎撃に専念していた4機にも、多くの敵機が群がり始めた。
「何か頭痛してきた‥‥って、CWまで居るとか。あぁもぉ常道っちゃー常道だけど、鬱陶しいわねー!」
 小型HW2機にクロスマシンガンの弾をバラ撒きつつ、エリアノーラが『それ』の存在に気付く。
 CWが、すぐ見える位置に浮かんでいる。まだ怪音波の範囲外だが、見ただけで頭が痛くなりそうな数だ。
「フェニックス02、S−01−02、損傷率90%を突破。撤退せよ」
 ワイズマンが淡々と各機の状況を伝える。傭兵機の加勢時には優勢に傾いた戦況が、時間経過とともに再び劣勢に傾き始めていた。
「やっぱりね。前衛役よね」
「うおお! 勇者パワー! 全開! 援護はまかせろーー!!」
 小型HW3機がエリアノーラ機に接近し、プロトン砲の連射で装甲を削っていく。PRMSで抵抗を上昇させ、回避を織り交ぜながら敵機の間を飛び回り、フィロソフィーで撃墜を狙うシュテルン・G。その片隅で、邪魔なキメラをアハト・アハトで撃ち落としている地味なガネットが、ジリオンの機体である。
 勇者は大抵、戦士の後ろで生きている生き物だ。仕方がない。エリアノーラはそう解釈して前衛を務めていた。
 とはいえ、キメラの多くがジリオンに群がった事で、彼女はHWの相手に専念できていた。隊長機のフェニックス、スカイセイバーと連携し、1機ずつ確実に落としていく。
 次から次へと飛来するHW。中型のプロトン砲を浴び、機体損傷を告げるアラートを煩く感じながら、マシンガンを乱射した。無数の穴を穿たれた相手が慣性制御でカクンと向きを変え、突進して来た瞬間にフィロソフィーを撃つ。バランスを崩した敵機を、正規軍の2機が対空砲の連射で撃墜した。
「う。お、おおお! 助けろー!!」
「本星型‥‥面倒ね」
 小型HWを相手にしていたかったエリアノーラだが、ここでとうとう本星型HWに狙われてしまう。ミサイルを撃ち込まれたジリオン機が吹き飛び、墜落ギリギリのところで踏み止まっていた。
「今度こそ本当。長くは持たないわよ‥‥!」
 正規軍2機が十字砲火で本星型の練力を削り始め、エリアノーラもマシンガンを掃射。しかし、猛烈な威力のフェザー砲、さらに、数の減らない小型HWが4機目掛けて容赦ない攻撃を撃ち込んで来る。
 スカイセイバーが撤退し、ワイズマンの護衛からR−01が1機加勢。エリアノーラ機、ジリオン機の損傷率は、もはや限界に近付いていた。
「障害物が多いですが‥‥狙うだけ狙ってみます‥‥」
 BEATRICEのロングボウIIが幸香機を伴って高度を上げ、誘導装置を起動して敵軍の最後衛CWを狙う。
 追い縋るHW群にAAMを撃ち放ち、吹き飛んだ敵機のその後ろから飛び出してくるキメラを重機関砲の掃射で叩き落とす幸香。ロックオンキャンセラーを起動し、被弾を最小限に保ちながら迎撃を続けて行くが、敵機数の多さに回避が追い付かないのも現実だった。
 BEATRICE機から発射されたK−02が、斜め下方へと降り注ぐ。
 2度、3度と繰り返し放たれた無数のマイクロミサイルが敵中衛から後衛にかけて小爆発の連鎖を巻き起こし、CW、ワーム、キメラ達が、無残な姿を晒して落ちて行った。
「危ない!」
「――!」
 幸香の声に、操縦桿を大きく切るBEATRICE。空を走った光の帯が尾翼をもぎ取り、ロングボウIIが大きくバランスを崩した。
 さらに一撃を加えんと砲を構えるタロスに機首を向け、螺旋弾頭ミサイルを撃ち込む幸香。回避した敵機に突進し、長距離バルカンを撃ち捲りながら相手の回避軌道を読むと、すれ違いざまに重機関砲を叩き込んだ。
「‥‥くっ!」
 タロスの銃弾が、幸香機を撃ち貫く。更にプロトン砲で追い討ちをかけようとするそれに、BEATRICE機のライフル弾が掠めて飛んだ。
 正規軍のスカイセイバーが空中変形。機剣を振るい、タロスの背を大きく切り裂く。即座に再変形するも、振り向いた敵の砲に撃ち抜かれ、青い塊がゆるゆると高度を下げ始めた。
「追わせません‥‥!」
 彼を守るべく、タロスに一撃を加えるBEATRICE機。だが、横合いから飛来した小型HW3機のプロトン砲が彼女と幸香の機体を直撃し、けたたましいアラートが鳴り響いた。
「ここは任せて、先に撤退してください」
 やや後退してきた修司機の対空砲が、タロスを捉える。撃ち抜かれ動きを止めたそれに止めを刺したのは、修司機の後ろから風のように疾駆してきたアンジェリカの高分子レーザー砲だ。
「あたしも撤退しますわ。参りましょう」
 ボロボロのロジー機がタロスを墜とし、幸香機、BEATRICE機を伴って後退して行く。
「マリアンデール、スピリットゴースト、R−01−02、撤退せよ」
 そして、中衛で砲撃を続けていた正規軍も被弾し、ワイズマンの指示に従い後退を始めた。それを守るのはアルヴァイム機、星嵐機だ。だが、この時点ではもう、ワイズマン自身も小型HW数機に取り付かれ、戦闘状態にある。
『お、俺様の勇者街道はまだまだ続くぞ! 覚えてろー!!』
「わざわざ外部スピーカーで言わなくても‥‥」
 更に、ジリオン機、エリアノーラ機も機首を返し、離脱して行く。アルヴァイム機、修司機、星嵐機、隊長機が、それらを追うHW群に間断なく銃撃を加え、戦場に押し留めていた。
「神棟、損傷率が高い。後退を支援する」
「いえ、敵を止めます‥‥!」
 最後まで戦場に残る心積もりで、星嵐が答えた。迫るワームの群れに、ペインブラッドから1000発を超える大量のミサイルが撃ち放たれる。
 先頭の数機を落とされ、追撃の足を鈍らせるバグア軍。しかし、それも一瞬の事。
「神棟さん!」
 修司機のすぐ後ろで、光条が星嵐機を貫いた。アルヴァイム機がワームに照準し、チェーンガンで撃墜する間に、墜落し始めた機体を捨てて脱出装置を起動させる星嵐。
「撃墜者は後で必ず回収させる。こんな戦場に呼びつけちまって、すまねぇな」
「この仕事を選んだのはこちらです。役に立てたなら、良いのですが」
 最後に残った正規軍機の損傷率も、限界に達していた。離脱して行く彼らの殿を務めながら、修司機、アルヴァイム機の2機は、飛び来る弾をその身で防ぎ続ける。
「役に立てたかって?」

 寄せ集めの部隊の隊長は、コックピットの中で笑声を響かせた。

「助かったよ。死ぬかと思ったぜ」