タイトル:伝説が生まれた日マスター:桃谷 かな

シナリオ形態: ショート
難易度: やや易
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/12/27 19:53

●オープニング本文


「しくしくしくしくしくしく‥‥」
 太平洋上を行く輸送機の中、白いマルチーズが涙を流して泣いていた。
 幾重にも造られた頑強な壁に囲まれ、特殊な拘束具で繋ぎ止められた白犬バグアは今、北米のUPCキメラ研究所へ移送されていく最中なのである。
「俺‥‥俺、どうなるんやろ‥‥」
 大阪で傭兵に捕えられた後、ラッキーは暫定的に淡路島軍事演習場の地下に収容されていた。
 犬といえどもバグアであることに変わりはなく、貴重な研究サンプルとしていくつかの実験や検査を行ったものの、そのどれもが簡単なものであり、ラッキーにとってさほど苦痛ではなかった。それどころか、それまでリリア・ベルナール達にイジメ抜かれてきた彼にとって、屋根のある寝床と『臭い飯』があるだけでも有難かった。
 しかし、北米への移送が決定されたことにより、そんな生活も終わりを告げた。
 設備の整った研究所に移れば、今までのような生易しい処遇では済まない。一生そこを出られず、実験台として体を切り刻まれ苦痛のうちに死んでいくに違いない。
 別の場所に移されると知った時、ラッキーは絶望のあまり自殺を考えた。
 しかし、
「‥‥俺かてバグアの戦士や‥‥! 負け犬のまま死にたくない‥‥!」
 その思いだけが、彼をこの世に踏み止まらせているのだ。
 夏のコミレザ、ロサンゼルス、その前のシェイド討伐戦。撃墜され、愛玩犬をヨリシロとして生き延びた極東ロシア――地球に降りてからの『負け』の歴史が、ラッキーの心に暗い影を落としていた。
 どんなに力が無かろうとも。また、その事で虐げられようとも。
 いつか華々しい手柄を立てて、立派なバグアの戦士として歴史に残りたい。
 それが、ラッキーの夢だった。


    ◆◇
 輸送機がバグアのワーム部隊に襲われたのは、給油のために立ち寄った太平洋の小さな基地でのことだった。
 タロスを中心とした無人機の一団が離陸したばかりの輸送機を襲撃し、護衛機は瞬く間に全滅。中破した輸送機は不時着を余儀無くされた。
「イテテ‥‥なんだなんだ?」
 どれぐらい時間が経っただろうか。不時着のショックで気を失っていたラッキーが目を覚ました時、不気味な静寂が辺りを包み込んでいた。
 輸送機のクルーは多くが負傷し、機内の送電が途絶えている。ラッキーの体を拘束していた特殊装置もその力を弱め、白い毛に覆われた手足はそれを易々と引き千切った。
 どうやら非常用電源すらも機能しておらず、電子ロックのかかった扉はラッキーの手に抵抗することなく、すんなりと開く。
「お、おい、お前ら。どうした? 何があったんだ??」 
 いくつかの扉をくぐったラッキーは、天井に開いた大穴から眩しい陽光を見る。そこで倒れていた兵士に声をかけるが、彼が目を覚ますことはなかった。
『ラッキー』
「‥‥! リリアさま!」
 外から聞こえた声に驚き、天井の穴から這い出したラッキーが目にしたものは、遠い空に撤退していくタロス数機と、それとは逆方向から迫って来るナイトフォーゲル群。そして目の前の地面には、1機のゴーレムが佇んでいた。
 とうとう見えなくなったタロスの追撃を諦め、頭上のナイトフォーゲルが着陸態勢を取る。地面に横たわる輸送機と、このゴーレムの姿に気付いたのだ。
『ラッキー。あなたのような役立たず、バグアの歴史に必要ないわ。人間に捕えられるなど‥‥恥を知りなさい』
「リリアさま‥‥」
 リリアの声は、周囲を飛び回る虫型ワームから発せられていた。
 その声は冷たく、低い。
『あなたがバグアの戦士だと言うのなら、潔くこの場で死になさい。戦士として戦い、一人でも多くの敵を倒して死ぬのよ』
「‥‥‥」
 ラッキーは、すぐそこの大地に降り立ったナイトフォーゲルと、目の前のゴーレムとを見比べる。
 こんなゴーレム1機で、勝てる相手ではなかった。
 ラッキーは、リリアが自分に何を求めているのかを、理解した。
『タロスがあなたを助けに戻ることはないわ。私は、あなたのために最高の死に場所を用意したのよ、ラッキー』
「リリアさま」
 ラッキーは溢れる涙を拭き拭き、ゴーレムのコックピットへとよじ登る。
 そして、飛び回る虫を振り返り、言った。
「俺が1機でも敵を倒せたら‥‥バグアの戦士って認めてくれますか?」
 
「俺が死んでも‥‥俺がちゃんと戦って死んだこと、リリアさまがずっと、ずっと覚えててくれますか‥‥?」

 リリアは少し考えるように口を噤み、そして、言う。
『ええ、もちろん』

 だから私を楽しませて。
 ラッキーは、一度だけ空を仰ぎ――その身を、ゴーレムの中へと溶け込ませた。


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●依頼内容
・太平洋のとある島にてタロスに襲われた輸送機の救援に駆け付けたところ、不時着した輸送機からマルチーズに憑依したバグアが逃げ出し、ゴーレムと『機械融合』したのを確認しました。
 輸送機内には数名の乗組員が残されているため、バグアを撃破し、輸送機の安全を確保してください。

●参加者一覧

如月・由梨(ga1805
21歳・♀・AA
智久 百合歌(ga4980
25歳・♀・PN
九条・縁(ga8248
22歳・♂・AA
森里・氷雨(ga8490
19歳・♂・DF
α(ga8545
18歳・♀・ER
リヴァル・クロウ(gb2337
26歳・♂・GD
トリシア・トールズソン(gb4346
14歳・♀・PN
愛梨(gb5765
16歳・♀・HD

●リプレイ本文

「‥‥ラッキー?」
 ワイバーンのコックピットで、智久 百合歌(ga4980)は前方に見覚えのあるマルチーズを見つけて目を細めた。サイファーのトリシア・トールズソン(gb4346)もまた、その姿に気付く。
「ラッキーって、ロスでふざけたキメラ連れてたバグア?」
「え? ラッキー? そんな犬なんて忘れたわ」
「え、嘘」
 鼻で笑うぐらいの勢いで返してきた愛梨(gb5765)のシラヌイに、疑わしげな視線を送るトリシア。
『あなたがバグアの戦士だと言うのなら、潔くこの場で死になさい。戦士として戦い、一人でも多くの敵を倒して死ぬのよ』
「この声‥‥リリア・ベルナールか」
 小さく呟く。
 小野塚 愛子(gz0218)の顔がリヴァル・クロウ(gb2337)の脳裏を過り、肌の裏側がざらつくような憎悪を覚えた。
(通信‥‥どこから?)
 虫ワームを発見したα(ga8545)は、素早く周囲を見回し、レーダーを確認してリリア・ベルナール(gz0203)やその乗機が存在していないか確認する。だが、今のところ、ワームなどの反応は見られなかった。
「俺が1機でも敵を倒せたら‥‥バグアの戦士って認めてくれますか? 俺が死んでも‥‥俺がちゃんと戦って死んだこと、リリアさまがずっと、ずっと覚えててくれますか‥‥?」
『ええ、もちろん』
『やめろ!!』
 リヴァルの叫びは届かない。
 小さなマルチーズがゴーレム内部へと消え、リリアが洩らした微かな笑い声が響く。
「‥‥何とも奇妙な状況ですね‥‥念のためと刀と盾は持ってきていたのがせめてもの救いでしょうか‥‥」
 変質していくゴーレムを見据え、如月・由梨(ga1805)は盾を構えた愛機ディアブロを一歩、前進させた。


     ◆◇
『貴様はまた切り捨てたのか。力が無い、たったそれだけの理由で』
 毛むくじゃらのゴーレム。機械融合を果たしたそれを見ながら、リヴァルは呻くような声を絞り出した。
『まあ。酷いですね。私は彼の夢を叶えるために最高の舞台を‥‥』
『最高と言うには、軍の犠牲は蛇足です』
 リリアの台詞を遮って、森里・氷雨(ga8490)がキッパリと言い放つ。
『別に人質なぞ用意しなくても、俺達はラッキーと対峙したのに』
『理解して頂けなくて、残念です』
『ええ、理解できませんね。それに、どうせ機械融合するなら女性型ゴーレm』
『そこのバグア兵に告ぐ。リリア・ベルナールを信用するのは危険である。あの個体は君が思っているようなものではない。‥‥裏切られるぞ、必ず』
 氷雨のアンジェリカ【俺の嫁】の外部スピーカーを黙らせる勢いで、リヴァルはラッキーに語りかけた。まだ、間に合うかもしれないのだから。
『リリアさまを悪く言うな! これは俺様が選んだヒーローへの道!』
 白い毛玉と化したゴーレムがキッとKV群を睨む。
「なにか‥‥少し可愛いですわね」
 ぽつり、と素直な感想を洩らすα。彼女が見つめる先、黒い鼻のついたゴーレムの目に、涙が浮かんでいた。
『リリアさまは、誰にも見捨てられた俺を拾って、ステアーの打上げを任せてくれた。キメラの軍団もくれた。スパイだって! こんな‥‥俺なんかに』
「‥‥‥」
『俺はバグアの戦士や! お前ら倒して、歴史に名を残したる!!』
『‥‥いいでしょう』
 最初に動いたのは、氷雨のアンジェリカだ。
『リリアさん、ラッキーの『推定喪失時刻』は?』
『あら。貴方、ラッキーの【限界突破】がわかるのですか?』
『‥‥?』
『2時間くらいですね』
 少し、リリアの質問に眉を顰めたが、氷雨はそのまま機体を虫ワームと輸送機のほうへ移動させて行く。
『遂に雌雄を決する時が来たか‥‥‥』
 双剣と電磁ナックルを構えた九条・縁(ga8248)のディアブロが、ラッキーに向けて前進する。そのスピーカーから洩れる声は、熱く、そして、少しだけ残念そうな響きを帯びていた。
『コレが最後だ! ラッキー! 貴様がUPC史に残した数々の伝説に終止符を打ってやる!』
『おう! 勝負だぜ!!』
 剣を向けて宣言する縁機に盾を向け、受けの構えを見せるラッキー。
『ラッキー、貴方はお馬鹿でお間抜けだったけれど、これまで卑怯な事はしなかった。だから信じてるわ。戦う前に輸送機には手を出さないと。真っ向から戦う戦士だと』
『そんな小細工なくたって、お前らなんかギッタギタにしてやるぜ! わはははは!!』
 お調子者めいた笑い声で返すこの憎めないバグアに、百合歌は少し、微笑みを浮かべた。
(これが最後の戦いね。戦士としての貴方を、私もずっと覚えておくわ。‥‥ラッキーゴーレム、ちょっと可愛いし)
 ふふ、と頬を緩めてから、愛機の剣翼を展開する。
「彼も戦士なんだね。愛梨、本当に覚えてないの?」
「‥‥愛玩犬をヨリシロにするようなマヌケなバグア、忘れるわけ、ないじゃない」
「やっぱり」
「そう。バグアは、倒さなければならない相手‥‥」
 そう呟いた愛梨に、トリシアは、泣いているのかな、と口を噤んだ。
(あまりにマヌケだから、バグアだなんて忘れかけてたけど。あんたにも、プライドや意地があったのね)
 しかし、愛梨機がガトリング砲の砲口を上げたのを見て、トリシアもまた高分子レーザー砲を構え、言う。
「誇り高い戦士には、ちゃんと礼を持って戦わないと。愛梨、行くよっ」
 自分達が彼の最期の闘いに相応しい戦士である事を願いながら、2機は左右に散開した。
『命を掛けて、というのであれば、正々堂々と』
 機刀「建御雷」を抜き、『朱の破壊神』の称号に相応しい、強固な装甲と破壊力を誇る由梨の【シヴァ】が、ブーストを吹かして真正面から突進する。
『――参ります!』

 
    ◆◇
『こちらαです。もうすぐ救助します』
 由梨機の機刀がラッキーの機盾を叩き、硬く重い衝突音が島中に木霊する。αのワイズマン、そしてリヴァルのシュテルン【電影】が、その隙に輸送機へと急いだ。
 その途中、α機は、ラッキーのほぼ真横に位置取った氷雨機と擦れ違う。氷雨機はRA.1.25in.レーザーカノンをラッキーに、 3.2cm高分子レーザー砲を虫ワームに、それぞれ照準したまま微動だにしない。
『【シヴァ】の一撃を受けましたか!』
 蛇のように、左右に揺れながら機刀を振り下ろす由梨機の攻撃力は、確実にラッキーの耐久力を上回っていた。しかし、負けるわけにはいかない。ラッキーは腕の関節を軋ませ、時にその身を斬撃に晒されながら必死に応戦する。
『うお!?』
 そのラッキーの脇腹を、縁機の電磁ナックルが掠めた。思わず、飛び退くラッキー。
『今まで撮影した写真等のネガやマスターデータはココにある! 漢らしく浜辺で殴り合って勝った方がコレを手に入れる! それでどうだ!?』
『お、漢らしく‥‥?』
 縁の提案に、ラッキーは暫く考えた。
『輸送機が邪魔だと言いたいのでしょう? ラッキーが少しズレれば済む事です』
『は、はい。リリアさま!』
 心の底から面倒くさそうにリリアが言うと、ラッキーはようやく縁の言いたい事を理解し、慣性制御で大きくジャンプ。愛梨機を飛び越え、少し横の草原に位置をズラした。慌ててそれを追い掛ける傭兵機。
「‥‥あの位置なら、流れ弾の心配は無い。俺達も少し前に出よう」
「ええ。あの、リヴァルさん‥‥人型で動かしますの初めてなのですが、変になってませんか?」
「問題ない。そのまま、戦況の記録と通信の解析を続けてほしい」
 こっそりと問い掛けるαだったが、リヴァルの言葉に安堵したのか、愛機を更に虫ワームのほうへと移動させた。通信方法の解析ができれば、バグアの技術の謎を解き明かす一助になるのだが。
「うお‥‥っ! やるな、犬コロ!」
「ぐ‥‥っ。中々強敵ですね‥!」
 縁機が撃ったミサイルポッドCが着弾し、砂と煙がラッキーを覆う。その隙に突進をかけた縁機と、その斜め後方のトリシア機が、煙を突き抜けたラッキーのフェザー砲を喰らって装甲を溶解させた。
『小細工は無し。全力でお相手するわ』
 マイクロブーストで加速した百合歌機が駆け抜ける。ラッキーは跳躍してそれをかわし、向きを変えた百合歌機が突き込んできたランスを、間一髪、盾で受け流した。
『やるじゃない。今度はリーチも足りてるでしょう? 貴方の本気‥‥いえ、いつだって本気だったけれど、最後の本気を見せて頂戴』
 ゴーレムの、ラッキーに似た顔が、小さく頷いた気がした。槍先が盾の表面を滑り、接近した毛むくじゃらの腕が振り下ろされる。速い。百合歌機はそれを左腕で受け止めた。腕の半ばまで食い込んだ刃から逃れ、後退して槍を突く。白い毛が舞い、ラッキーの胸に穴が穿たれた。
『覚えていてもらいたいなら、見せてみなさい‥‥あんたの本気を! 今はあんたが主役よ!』
 愛梨機のガトリング砲が、嵐のように銃弾を吐き出す。トリシア機のレーザー砲が光条を放ち、黒と白の十字を描いてラッキーに襲い掛かった。
『こなくそっ!』
 機盾で銃弾を防ぐも、光条がラッキーの肩から半身を穿った。慣性制御で飛び退こうとしたその時、氷雨機のレーザー砲がその足元を撃ち抜く。
 逃げ損ねたラッキーに、愛梨機とトリシア機の砲撃が集中する。ラッキーはフェザー砲を撃って愛梨機の動きを鈍らせ、すぐ目の前に迫った縁機のライフル弾を盾で弾いた。
 しかし、それは牽制に過ぎない。気付けば、盾を持つ腕に縁機の双剣が食い込んでいた。
 機剣を横薙ぎに、縁機を斬り飛ばすラッキー。レーザー砲を放った百合歌機にフェザー砲を叩き込み、側面の由梨機へと向き直る。
 だが、
『はあああぁぁッ!!』
『――!』
 ゴトン、と、左腕ごと、ラッキーの機盾が地面に落ちた。
 ラッキーは、眼前のディアブロをキッと睨み、光り輝く右腕で機剣を振るう。
『俺の右手が光っ――!?』
『全力とあれば、受けて立ちます!』
 由梨機は逃げることなく機盾「ウル」を掲げ、ラッキーの必殺技を真正面から受け止める。

『‥‥‥流石、バグアの戦士です』

 真っ二つに割れ、地面に落ちた機盾。胸に袈裟懸けの傷をつけた破壊神が、ラッキーの胸に機刀を突き入れた。
 横飛びに由梨機から離れるラッキー。牽制砲撃を加える氷雨機にフェザー砲を撃ち放ち、駆けこんで来る愛梨機とトリシア機を迎え討つ。
『俺の最期の勝負や! まとめてかかってこい!!』
『覚悟があるのであれば良い、状況を開始する』
『わかりました。俺も行きます』
 弱気を見せず、傭兵機全てに向けて声を張り上げるラッキーの姿に、リヴァル機と氷雨機が前へ出た。リヴァル機の両肩に据えられたマルコキアスが2400発もの猛烈な弾幕を形成し、前衛を支援する。
『これが私の本気の一撃‥‥私の、戦士としての誇りの一撃だよっ』
『受け取りなさい! あたしの本気を!』
 振り抜かれた機剣にそれぞれ腹部と肩部の装甲を斬り飛ばされ、それでもトリシア機と愛梨機の足は止まらない。
 機刀「獅子王」、そして短機刀「雨花」が、盾を失ったラッキーの前面を切り裂き、オイルと血液の混じった黒い液体が噴き出した。
 よろめいたラッキーを、氷雨機のスパークワイヤーが絡め取る。振り抜いた機剣がラッキーの背中を掠め、大量の毛が風に舞い飛んだ。
『少し剃毛しちゃいましたけど、事故ですよ。‥‥しかし、最後の最後に、狼に化けましたね』
 不敵に笑う氷雨。百合歌機の剣翼を何とかかわしたラッキーに、縁機が迫っていた。
『これで、最後だ! 犬コr‥‥!?』
『う、おおおおおおおおおおおおおッッ!!!!』
 ナックルを叩き込もうとした縁機が、赤い輝きを纏ったゴーレムの機剣に貫かれる。
『‥‥クソッ!』
「まさか!?」
 援護に入ろうとした由梨機の目の前で、動きを封じられた縁機の風防が開いた。クロムブレイドに剣の紋章が吸い込まれ、生身の縁が跳躍する。
「ラッキー! 貴様は俺の‥‥いや! 最早語るまい!」
 両断剣・絶。機剣が抜けず動かないラッキーの、白い毛に覆われた腹。
 そこにクロムブレイドが突き立ったのと、ラッキーの背を由梨機の機刀と百合歌機のランスが貫いたのは、ほぼ、同時だった。


『あのタイミングで生身で出て行くなんて‥‥寿命が縮まりましたわ』
 地面に倒れたラッキーの傍ら、心配して寄ってきたα機に、縁はポリポリと頭を掻いて見せた。
『楽しかった? あんたたちバグアは、敵だけじゃなく‥‥味方の命までも弄ぶのね』
 冷たく言い放つ愛梨の視線の先には、リリアの声を伝える虫ワーム。
『ふふふ‥‥弄ぶだなんて』
(この人‥‥楽しんでる? 何とも思っていない‥?)
 虫ワームから発せられた言葉に、αは目を細める。結局、通信の方法などは良く分からないが、少なくとも、バグアのジャミング下で遠距離通信を封じられた人類と違い、バグアにはかなり長距離での通信が可能なようだ。
『リリア・ベルナール。俺は貴様を‥‥。この様な結末を迎える、貴様が望む世界を‥‥拒絶する』
 白かった毛を黒と赤に染め、横たわるラッキー。リヴァルは憎しみを吐き出した。
『聞いているのでしょう、リリア? 彼は誇りをもって、正々堂々と全力で立ち向かってきました。彼を侮辱するというのであれば‥‥彼に代わり、私が貴女を斬ります』
『ラッキーは立派に戦ったよ。私達と命がけで戦って散った。本当の戦士だったよ』
 由梨とトリシアが、リリアに語りかける。しかし、返ってきた言葉は‥‥。
『ええ。ですが、結局1機も倒せませんでした。まあ、そうですね。犬にしてはよく――』
 その瞬間、虫ワームが跡形もなく吹き飛ぶ。
 百合歌、氷雨、α、リヴァル、愛梨の機体が、一斉に砲を放っていた。
『いくらバグア同士でも、仲間を弄びますような、謀るような事はいけません』
『リ‥‥リアさ‥ま‥‥ごめんな‥さ‥‥』
『もう、いいのです。あなたはもう自由ですわ』
 αの言葉に、ラッキーはゆっくりと傭兵機へ顔を向けた。
『リリアと違い不足かもしれませんが‥‥覚えておきましょう、私の生ある限り。貴方の名を』
『ラッキー、あんたにしてはナイスファイトだったわ。仕方ないから、覚えていてあげる』
『お前‥ら‥‥』
 由梨機を見る。愛梨機を見る。ラッキーの目から、涙が零れる。
「発泡酒、好きだろ。お前にやるぜ」
 縁が、機剣を手放したラッキーの手に、冷たい缶を握らせた。 
『墓標にはシチューと牛乳を供えますよ。で、次に生まれる時は是非メス犬d』
『もうっ』
 冗談めいた事を言う氷雨をトリシアが止めると、ラッキーは、僅かに微笑んだように見えた。
『そ‥‥やな‥。お前ら‥‥覚えててく‥なら‥‥。もう‥‥十分、や‥‥』
『さようなら、戦士ラッキー。次に生まれてくる時は、別の形で会いましょう』
 光を失っていくラッキーの両目。百合歌が風防を開け、ヴァイオリンを取り出す。

『おう‥‥‥また‥な‥‥‥』

 レクイエムが流れる中。
 ラッキーは8人の傭兵に見送られ、この世を去った。