タイトル:【JTFM】Alecrim−1−マスター:桃谷 かな

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 1 人
リプレイ完成日時:
2010/08/27 22:24

●オープニング本文


 ブラジル・マナウス市。
 そこは、ブラジル北西部に位置し、他都市への移動は陸路での到達が困難であることから、国内の他の主要都市との交通は事実上、空路と水路のみの都市である。ブラジル国内の主要都市からの航空便や、大西洋沿岸、そしてアマゾン川流域の都市からの定期船が運航されていたが、2007年末には完全にバグア支配下となり、一切の交通が断絶してしまった。
 その後、ULT傭兵やUPC南中央軍による調査が行われたが、その頃には既に、周辺の町は全てが無人のゴーストタウンと化しており、バグア軍の指揮官と見られる男の姿も確認された。
 しかし、2009年秋よりUPC軍による侵攻作戦「ジャングル・ザ・フロントミッション(JTFM)」が開始され、コロンビアでの戦闘が激化すると同時に、マナウスのバグア軍は弱体化の一途を辿った。コロンビア方面へ戦力を回したか、それとも補給が滞り始めたかは定かではないが、抵抗する力を失ったマナウスのバグア軍は、UPC軍に敗北を期す以前に、指揮官を含め全軍がベネズエラへと退却して行ったという。
 現在、この地域の住民に生存者は確認されておらず、マナウス市街と周辺のジャングルにはドームのような建物と、ワームの離着陸場が放置され、少数のキメラが跋扈する無人地帯となっている。


    ◆◇
 私の名前は、琳 思花(gz0087)。
 UPC北中央軍所属の、キメラ研究者の一人。
 私は今、仕事でマナウス西部にいる。
 マナウスは水運の要所にあって、ベネズエラやその他の親バグア国家との位置から考えても、人類側拠点として最適な場所。それで南中央軍は、バグアが放棄したこの都市を整備して、大規模な基地を建造する事にしたらしくて。
 南中央軍の部隊が周辺の野良キメラを駆除して回ってるけど、私の仕事は、それとは別。
 南米のジャングルに棲むキメラの中には、まだ私達研究者が知らないような種類のも多い。私の仕事は、護衛のULT傭兵達と一緒にジャングルを歩き回って、遭遇したキメラの種類や生態を記録する事だった。
 バグアの残したドームを伝うようにジャングルを進んで、キメラを探して戦って、記録を取る。
 その作業を、私達は、何日か続けた。

 ある日の朝、南中央軍の作戦本部からの緊急連絡が入った。
 この辺りでは見慣れない、人型の強力なキメラが、私達のすぐ近くで、南中央軍の部隊を襲ってる。
 周辺に加勢できる部隊は居ない。作戦本部では空挺部隊の出撃準備が始まったらしいけど、多分、間に合わない。
 私も、護衛の傭兵たちも、能力者だ。
 出来るなら救援に向かって欲しいと、オペレーターが言ったんだ。
 足場の悪いジャングルの中を走って、私達はそこに向かった。
 それから、草いきれの中に強い鉄の臭いと、幾つもの呻き声が混じり始めて、私達は足を止める。

 ジャングルの中の、不自然に開けた草原。
 逃げ惑う兵士たちに、黒と銀の影が追い縋る。
 血飛沫が舞う度、視界の中の兵士たちが数を減じていく。
 背の高い草が生い茂る下から、死にかけた人間の低い呻きが聞こえてくる。

 逞しい黒馬に跨がった、中世ヨーロッパの騎士。
 銀の甲冑に身を包み、槍斧を手にした、首無し騎士。

 それが、この部隊を襲ったキメラの姿だった。  

 私と傭兵達は、武器を取った。
 でもよく見れば、騎士の後ろには明るい色の髪の女が相乗りしてて、私は、その顔にどこか‥‥見憶えがあるような気がしたんだ。

『プリマヴェーラ殿、お退がりを』
 私達に気付いた騎士は、ハッキリとそう言ったんだ。
 槍斧を手にして、馬を下りて。
 騎乗したままの女に向けて、そう言ったんだ。
「勝手にすれば? 別にあたし、手ェ出したりしないし。アンタがやられたら、さっさと帰るし」
 何が可笑しいんだろう。
 女はまるで見世物を見るみたいな表情で笑って、騎士と私達を交互に見た。
『愚かなる人間共よ。我が名はデュラハン。南米キメラ闘技場より来たりし、キメラ四天王が一角』
 騎士が何か言っていたけど、私の耳には、何も入って来なかった。
 ただそこにいる、大事な人の仇を――ゾディアック山羊座を、私は見ていた。
 呆けたみたいな私を放って、首無し騎士が武器を構え、言う。

『――いざ、尋常に勝負せよ』


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●依頼内容
・キメラの襲撃を受けた部隊の救援に駆け付け、首無し騎士(デュラハン)とゾディアック山羊座に遭遇しました。
 部隊の撤退を助けつつ、敵を撃破・撃退するか、草の中に倒れている負傷兵を出来る限り救出し、共に撤退して下さい。

●参加者一覧

ケイ・リヒャルト(ga0598
20歳・♀・JG
宗太郎=シルエイト(ga4261
22歳・♂・AA
ラウル・カミーユ(ga7242
25歳・♂・JG
米本 剛(gb0843
29歳・♂・GD
赤崎羽矢子(gb2140
28歳・♀・PN
アレックス(gb3735
20歳・♂・HD
萩野  樹(gb4907
20歳・♂・DG
御鑑 藍(gc1485
20歳・♀・PN

●リプレイ本文

「名乗って頂けるとは痛み入りますね、自分は米本‥‥以後御見知り置きを!」
 妖刀「天魔」の二刀流、黒塗りの具足に身を包んだ米本 剛(gb0843)が名乗りを返し、その巨躯を一歩、前進させる。
(「ゾディアック山羊座と‥‥キメラ四天王、だと?」)
 アレックス(gb3735)は目の前の敵を睨み、同時に歯噛みする。その手にあるのは得意の槍ではなく、軍用ナイフと拳銃の二つのみ。
「大層な二つ名ですね」
 宗太郎=シルエイト(ga4261)は、騎士のそれと変わらぬ間合いを持つランス「エクスプロード」を手に、薄い笑みを浮かべた。
「とても王の器には見えませんけれど。刃を交える前に私達を『愚か』扱いするんです、相応の技量をお持ちなんでしょうよねぇ?」
 宗太郎とアレックスは共に前へと進み出て、騎士を見据える。
「月狼が一人、宗太郎=シルエイト。総隊長からもらった二つ名は『槍皇』」
「俺はカンパネラ学園所属、ドラグーンのアレックス! その鎧に風穴空けて涼しくしてやるぜ、首無し野郎!」
 名乗りを上げる彼らのすぐ横を駆け抜けたのは、赤崎羽矢子(gb2140)だった。
 瞬速縮地の軌道上で『何か』に足を取られ踏鞴を踏みながらも、彼女は逃げる兵士達の傍らで停止する。そして極力静かな声で、問い掛けた。
「落ち着いて。もう大丈夫だから。仲間が何処に居るか教えて?」
 震える手をふらふらと彷徨わせる兵士達。逃げてきた道には極僅かに、草を掻き分けたような跡が見える。
「了解。あんた達の仲間は助けるから、早く逃げて」
 羽矢子はリーダー格の兵士にそう言うと、トリシア・トールズソン(gb4346)を呼んで負傷兵の捜索を開始した。米本の背後から飛び出したパイドロスが、逃げていく兵士達と騎士の間に割り込み、守ろうとする。
(「‥‥あの馬‥」)
 バイザーに隠された目を、離れた位置に立つ黒馬へと向けた。
 プリマヴェーラ・ネヴェ(gz0193)を背に乗せ、騎士だけを見つめるその馬を、萩野 樹(gb4907)はただ一人、警戒していた。
「怪しい。けど‥‥その前に、負傷した人を助ける」
 騎士も、馬も、山羊座も、今は相手にしている場合ではない。樹は羽矢子とトリシアと手分けして、負傷兵を探し始める。
「私に提案があります。聞いて頂けませんか」
 騎士の動きを遮り、御鑑 藍(gc1485)が唐突に口を開いた。
『‥‥長くは待てぬ』
「では手短に。『尋常に勝負』とのことですし、此方が負傷者を救助し終わってから勝負、というのは如何ですか? 心置きなく戦えるように」
『笑止。其は我らに人間共を助けよと申すも同じ事‥‥』
 騎士は藍の提案を、一笑に付す。
「‥そうですか。決裂ですね」
 藍は低い声でそう返すと、姿を消した。迅雷を使い、負傷者の捜索に向かったのだ。
 ラウル・カミーユ(ga7242)もまた、彼女を追おうと琳 思花(gz0087)の手を取る。
 その瞳に込められた殺意はプリマヴェーラただ一人に向けられ、騎士の存在など忘れ去っているかのようだった。
「思花サン」
 ふと、思花が彼の方を向いた。
「この人達助けられなかったら、思花サンみたいな思いスル人が増えるよネ。ソレは嫌だし、思花サンだって嫌でしょ?」
「‥‥」
 「行こう」と、彼は、言葉を発せないままの思花の手を引いた。引っ張られて足を踏み出し、それから自分の意志で走り出す思花。
「山羊座さん? その笑み、いつまで続くかしら?」
 真紅に染まった目を細め、妖艶な微笑みを浮かべるケイ・リヒャルト(ga0598)。両手には、エネルギーガンとアラスカ454がそれぞれ握られている。
 プリマヴェーラは彼女を一瞥すると、腕時計をチラリと見遣ってから、「デュラハン」と声を上げた。
「もう始まってるから」
『御意』
 その行動と言葉の意味を計りかねて、眉を顰めるケイ。だが、それを追究する程の余裕はない。
「悪いけど‥‥貴方達には此処からご退場願うわ。早々に、ね」
 彼女は口端を引き上げて嗜虐的な表情を作り、銃口を騎士へと向けた。


    ◆◇
 銀に輝く騎士の鎧から、漆黒の霧のようなものが立ち上る。虚無黒衣にも似たそれは騎士の前面で集束、3発の闇弾と化して傭兵達へ襲い掛った。
 くぐもった呻きを漏らす米本の背後から、横跳びに抜け出すケイ。左手の回転式拳銃が次々と銃弾を吐き出し、騎士を襲った。しかし、甲冑の継目を護る鎖帷子に阻まれ、相手の肉体には届かない。
「参ります‥‥」
 両側面から攻め込むアレックスと宗太郎を視界に入れながら、米本が駆ける。
 騎士の槍斧が空を裂き、振り下ろされたそれを米本の二刀が待ち受け、受け止めた。
「くっ――! これは‥‥かなり骨の折れる相手ですなぁ!」
 刀が折れ飛ぶかと思う程の重さに、思わず片膝を折る米本。
 騎士の攻撃は決して速くない。だが、経験の浅い能力者ならば一撃で屠りかねない程の威力を有していた。
 次撃を手甲で受け捌き、米本は敵の懐に飛び込む隙を窺う。
「あの槍斧、間合いはほぼ同じか。こいつぁいよいよもって負けられねぇ‥!」
 アレックスの位置を確認しながら、宗太郎が3mの槍を大きく突き出した。敵の槍斧が「エクスプロード」の軌道を逸らせば、すぐさま宗太郎が槍を引き、今度は槍斧の下を潜らせるような突きを繰り出す。絡み合うかのような攻撃と防御が何度も繰り返され、やがて、エクスプロードを叩き落とさんばかりの攻撃に宗太郎の腕が震え、捻った身体の側面に槍先が突き立てられた。
 突進をかけた米本の大太刀が妖しく閃き、金属のぶつかり合う衝撃音が二度、木霊した。腕を狙った二刀は甲冑に弾かれ、しかし、騎士の身体に少なからず衝撃を与えている。騎士が得物の柄を彼に激突させ転倒させた、その瞬間、
「アレックス!!」
 ソニックブームを纏った槍先が鎖帷子を貫き、脇腹を抉る。
 宗太郎の叫びに呼応して、ミカエルが一際大きな駆動音を響かせた。
「いくぜ!!」
 間合の差を埋めるべく、竜の翼を発動するアレックス。
「坊や、何処を見てるの?」
 敵の注意が逸れた瞬間、真横に回ったケイがエネルギーガンを撃ち放った。
 しかし、騎士はケイの動きを見ていたかのように、僅かに身体を傾けて光弾を肩甲で受け止める。
 だが、遅い。
 胸甲の下、アレックスのナイフが鎖帷子を突き破り、その内に隠された肉を裂いた。間髪入れず、拳銃「ケルベロス」が唸りを上げる。
『我が間合いを崩すか、人間』
 硝煙の中、騎士の手甲がアレックスの側頭部を強かに打ち、続いて腹部に強い衝撃が走った。
「‥‥くっ‥!」
 竜の翼で一気に後退するアレックス。黒い霧が再び闇の弾丸となって撃ち出され、起き上がりざまの米本が両腕で受け止める。
 宗太郎に再び襲い掛かる槍斧。長槍の柄で斧部分を受け止めた彼の身体が、数メートル先の草の中へと飛ばされて行く。
(「彼は‥‥どうやって周りを見ているというの?」)
 ケイはエネルギーガンで応戦しながら、相手の感覚器を探していた。どろりと溶けた甲冑は、明らかに知覚攻撃に対する耐性の低さを示していたが、相手の死角がどこにあるのか、未だ掴み切れていない。
「――!」
 槍斧の間合の外から少しずつ距離を詰めていたケイに、衝撃波が襲い来る。宗太郎と同じ、ソニックブームに見えた。
 一撃目を避けたケイの肋骨を、二撃目がぎしりと軋ませる。
 追い打ちをかけようとする騎士に、米本が斬撃を仕掛けて止めた。宗太郎のソニックブームが再び空に渦巻き、逆側からアレックスがケルベロスを乱射する。
「‥‥やってくれるじゃない?」
 ケイはあばらを押さえて立ち上がり、ふふっ、と微笑った。
 草を掻き分け騎士の背後に回り、影撃ちと二連射を発動させる。
 黒霧を貫く白き光が、草いきれの中に煌めいた。


    ◆◇
「ジャングルの方へ撤退して。僕らは倒れてる人達、あたるカラ」
 気を失っていた軽傷の兵士をラウルが呼び起こし、自力撤退を促す。
「‥‥その人は、だめ」
 思花の言葉を片耳に聞きながら、ラウルは、頭蓋の上半分を失った兵士の横を通り過ぎた。
 草の中から、喘ぐような息遣いを感じる。見れば、左脚の膝から先を失った兵士が逃げ場を求めて這っていた。
「しっかりして、一緒に後退するヨ?」
 ラウルに抱え起こされた彼は、朦朧とする意識の中で狂ったように笑い続ける。
 何とか止血し、思花の練成治療で少しでも傷口を塞いだ。
「こっちも‥‥」
 思花が別の負傷兵を見つけて走り出す。
 ラウルは騎士から離れた場所まで後退し、片脚の兵を草の中に隠してから再び草原を駆け回った。

 地に跪いたパイドロスの前には、たった今息を引き取ったばかりの兵士の遺体が転がっていた。
 最期に見た能力者の姿に彼女は安堵の表情を浮かべ、しかし救われることはなく、パイドロスの背中で逝ってしまった。
「‥‥すみま、せん」
 樹は彼女をそこに置き、踵を返す。
 泣きたくはなかった。自分一人で誰でも救えると過信するほど、幼くはない。そう自分に言い聞かせた。
「‥‥あれ?」
 ふと、視界の端で馬が動いた気がした。
 ケイに阻まれて騎士の姿が見えにくくなったのか、僅かに横へ移動している。
 不審には思ったものの、救助の手は止められない。纏めて四人の負傷兵を発見したトリシアの声を聞き、樹は慌ててそちらへ向かった。
 なんとか歩ける一人をジャングルへと進ませ、樹は重傷者を背負って後退する。
「‥‥頑張って下さい。帰って、お母さんに会うんです」
 うわ言に母を呼ぶ彼は、樹とさして歳の変わらぬ少年だった。

「あんた‥‥もし俺が死んだら、これを軍に届けてくれないか‥」
 羽矢子の背から兵士の手が伸びて、何かを記録したノートのようなものが手渡された。
「‥‥アマゾンに流れ込む‥ネグロ川の水位が‥‥減少している。上流で何かが‥‥」
「死を覚悟する事と、生きるのを諦める事は違うって、知ってる?」
 兵士をジャングルに近い草むらに隠し、羽矢子は叱るような口調で言う。
「これはあなたが届けるのよ。解った?」
 ノートを兵士の服の中にしっかりと挟み、羽矢子は再び負傷兵を探しに走った。
「発見した兵の数からみて、全員に近いと思われます。あとは、あの一帯を捜索して終わりですね」
 軽傷者に応急処置を施した藍が、立ち上がって羽矢子に合流する。既にラウルと思花が捜索を開始している一帯へ向かい、草の中の窪みに走り寄った。
「しっかりしてください」
「お‥俺は後でいい‥‥あいつを先に‥‥」
 藍が助け起こした兵は、傍らに横たわる戦友を指差して言った。
 片手でその脈を取り、藍は、無言で手を離す。
「待て‥! 頼む‥! ‥あいつを‥‥!」
「彼は‥増援に任せます」
 もうこの世にはいない友の名を呼び、抵抗する兵を、藍は引き摺るようにして後退させて行った。
 

    ◆◇
 騎士との戦いは、熾烈を極めていた。
 死角らしい死角の見当たらない敵は強固な甲冑に護られ、攻撃は当たれども決定打にはならない。
 ケイの光線銃に期待が集まるが、騎士の振るう槍斧は一撃で能力者達の肉を抉り、骨をも砕かんと襲い掛かる。
 騎士を取り囲む四人の体力は徐々に削られ、蓄積したダメージが荒い息となって空を湿らせた。
 強健な肉体で仲間を庇い続けた米本がいなければ、死者が出ていた可能性すらある。
 一瞬の隙に、ケイが騎士の背後から飛び上がり、逆光の中で引金を引く。しかし、騎士は鈍重ながら頭を傾けて致命傷を避け、振るわれた槍斧の柄がケイの体を大きく吹き飛ばした。
 だが、
「尋常にするのはお前だよ。ホルマリン漬けにしたげるから覚悟はいい?」
 瞬速縮地で突入してきた羽矢子の獣突が、騎士の体を横ざまに弾き飛ばした。
 踏鞴を踏んで着地する騎士。練成強化を受けた羽矢子のハミングバードとエナジーガンがそれを追撃する。
 さらに、背後から現れた樹のパイドロスが、光線銃で溶けた甲冑の穴へと渾身の力で槍を突き入れた。
「足を狙えば‥!」
 疾風迅雷。藍は風の如く駆け、脚爪を振り上げる。目にも留まらぬ速さで繰り出された一撃が、騎士の体を傾がせた。
 騎士はよろめきながらも槍斧を振るい、樹と藍に薙ぎ払うような一撃を加える。さらに闇弾が二人を襲った瞬間、続けて繰り出された槍斧を米本の刀が受け止めた。
 能力者9人に囲まれた瞬間から、騎士の動きは目に見えて鈍化している。
「形勢逆転ですなぁ」
 米本が二刀で槍斧を抑える隙に、スキルを最大限載せたケイ、ラウル、思花の銃撃が、騎士の甲冑を次々と溶かし、傷つけていく。騎士は闇弾で応戦するが、流石に三人を倒すには至らない。
「センパイ、アレだ!」
「‥ああ、やるなら今だ。決めようぜ、アレックス!」
 身動きの取れなくなった騎士へと、アレックスが急接近。彼の持つアーミーナイフと、宗太郎のエクスプロードに、彼らの持てる全てが込められた。
 本来は二本の槍による技だが、今なら決められるはずだ。
「「W・イグニッション!!」」
 槍斧の側面で米本の足を切り裂き、身を引こうとした騎士に、左右から迫る二本の刃。
 ナイフと槍が挟み込むように騎士の体を捉え、傷ついた甲冑を貫き深々と突き刺さった。
「吹き荒べ‥」
 串刺しにされ、片膝をつく銀の騎士。米本の妖刀「天魔」 が赤い光を帯びる。
「――剛双刃『嵐』!」
 目にも止まらぬ速さで二刀が振り下ろされ、騎士の肩甲が音を立てて砕け散った。
「我流‥剛速刃!」
 そして――止めの一撃。
 米本の右手が機械剣を引き抜き、抜刀術の要領で逆袈裟に騎士の甲冑を灼いた。
 騎士の体がぐらりと傾ぎ、そして――
「――!?」

 一瞬の轟音とともに、能力者達の視界が炎に包まれた。
 

    ◆◇
「あーあ‥‥こんなモンかぁ」
 草原にぽっかりと空いた直径数m程度のクレーターを見つめ、プリマヴェーラは黒馬ごと向きを変えた。
「待ちなよ」
「‥‥?」
 声を掛けられて振り向けば、騎士の自爆に巻き込まれた能力者たちがもう起き上がり、煤けた顔を彼女へと向けている。
「こんな所で何やってたのさ?」
「ええ、確かに解せませんなぁ。貴女の御用は何だったのですかな? お嬢さん」
 羽矢子と米本の問いに、彼女はフンと鼻で笑いながら、
「‥‥別に?」
 馬鹿にしたような返事をするのみであった。
「待って!!」
 黒馬の手綱を握り直した彼女を見て、トリシアが叫ぶ。
 振り返った山羊座と目が合い、ぐっと言葉を詰まらせるトリシア。響いたのは、ラウルの声だった。
「インヴェルーノは生きてるから! そしていつかキミに会いに来るよ!」
「‥‥アンタね」
 それは、死んだはずの我が子の名だった。
 プリマヴェーラはぴくりと片眉を動かし、キッと傭兵達を睨みつける。
「世の中には‥‥言っていい嘘とそうじゃない嘘があるんじゃない?」

 嫌悪に満ちた呟きを残し、プリマヴェーラと黒馬の姿は南米の密林へと消えて行った。