タイトル:伯爵クッキング♪マスター:桃谷 かな

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/07/17 11:02

●オープニング本文


 6月某日、ラスト・ホープ。
「はああぁぁぁ〜〜〜‥‥」
 ホテル最上階のスカイ・ラウンジ。窓際のハイチェアに座り、盛大な溜息を漏らしているのは、ドローム社社長のミユ・ベルナールであった。
 手にしたグラスを傾ければ、夏の空のように澄んだ色合いのカクテルが、柔らかな唇の隙間から舌の上へと流れ落ちる。
「お会いするまで、あと16時間‥‥っ! 駄目! どうしたらいいの‥‥!?」
 両肘と、ついでに豊満なバストをもカウンターに載せ、ジタバタと両脚をバタつかせるミユ。
 周囲から見れば、美女が激しく悩んでいるようにも、ただの酔っ払いの奇行にも映り、皆一応気にしているものの、あえて声は掛けない。
 それに、かの有名なメガ・コーポレーションの社長ともなれば、それなりに顔も知られていよう。流石にナンパを試みる者など居ないし、気安く声を掛けられる対象でもないらしい。
 きっと、開発中のクルーエルだとか、新機体の構想だとか、難しい事で悩んでいるんだろうな――と、勝手に納得して気の毒そうな視線を向ける周囲の客たち。
「‥‥‥駄目だわ。良案が全く浮かばない‥‥」
 ミユは暫くモダモダと悩み続けた末、二度目の溜息とともに、席を立った。


「ミユ社長?」
 ホテルのエントランスを出たところで、ミユは誰かに呼び止められた。
 道路のほうに視線を向けると、花火とバケツを手に不思議そうな顔でこちらを見ている若者たち――ULT傭兵の集団が目に入る。
「あ、あら、傭兵の皆さん。今晩は」
「LHとはいえ、護衛もつけずにどうしたんですか?」
 ひとりの傭兵がほろ酔い加減のミユに駆け寄り、そう尋ねた。実際には、見えない位置を付いて来ているSPが二人存在するのだが、彼らには見えなかったのだろう。
「傍には居ませんが、護衛はつけています。‥‥少し、一人で考え事をしたかったものですから」
「「「‥‥‥?」」」
 思いつめた表情で、しょんぼりと肩を落とすミユ。傭兵達たちは顔を見合わせ、何があったのかと口々に問うた。
「‥そ‥‥そうですね‥。ええ、本当に、大した悩みではないのですが‥‥」
 ミユは言い辛そうに口籠り、モジモジと思案しながら、視線を彷徨わせる。
 そして、言った。

「‥‥明日の夕方、カプロイア伯爵とお会いするのです。――闘技場の件で」

 その一言で、傭兵達は全てを察した。


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
●依頼内容
・少し前に、ミユはカプロイア伯爵と闘技場にて賭けをし、勝利しました。
 「敗者は勝者の言う事を何でもきく」という賞品をGETしたミユですが、カプロイア伯爵に何をしてもらうか、考えが纏まっていません。アイデア出しと、内容によってはその実行を手伝ってあげて下さい。

●参加者一覧

大泰司 慈海(ga0173
47歳・♂・ER
鯨井起太(ga0984
23歳・♂・JG
水理 和奏(ga1500
13歳・♀・AA
鈴葉・シロウ(ga4772
27歳・♂・BM
ハンナ・ルーベンス(ga5138
23歳・♀・ER
暁・N・リトヴァク(ga6931
24歳・♂・SN
佐渡川 歩(gb4026
17歳・♂・ER
橘川 海(gb4179
18歳・♀・HD
諌山美雲(gb5758
21歳・♀・ER
春夏秋冬 立花(gc3009
16歳・♀・ER

●リプレイ本文

●深夜の広場:作戦会議
「折角ですから、花火‥‥ご一緒しませんか? ミユ姉様」

 ハンナ・ルーベンス(ga5138)の誘いを受けたミユ・ベルナール(gz0022)は、傭兵達とともに夜の広場を訪れ、線香花火に興じていた。
「つまり、伯爵がミユ社長とあんなことやこんなことをしようと待ち構えている‥‥と。おのれ伯爵、なんて羨まs――じゃなかった兎に角許せません!」
 一人だけ事情を誤解しているのは、彼女イナイ暦=年齢のムッツリ助b――佐渡川 歩(gb4026)である。
「私っ、あの時優勝したんですよっ! ロングボウはすごい機体です。だから、生み出してくれて、ありがとう、ですよっ」
「まあ、あのロングボウは、あなたの‥‥」
 瞳を輝かせて言う橘川 海(gb4179)を、驚いた表情のミユが振り返る。
「はい。今回は、ドロームとカプロイアの為に、頑張りましょうっ」
「そ、そうですね。両社の発展のために尽くすことが私の(以下略」
(「理事長さん、バレバレなのに、かわいいなぁ」)
 ただ、ゆったりとした服を着てお腹をさする諌山美雲(gb5758)、それに自分を見ては寂しそうな目をする海に、ミユは『何か』を感じてるようだった。
「これはセンスが問われる難問だね。万が一下手なお願いをしようものなら、伯爵の信頼度も好感度もガタ落ち確定だ」
 わざわざ真顔でハードルを上げにかかる鯨井起太(ga0984)に、ミユは小さな呻きを漏らした。
「でもまあ、僕と出会えたのは幸運な事だね。僕なら的確なアドバイスをあげられるし、心配は要らない。ボクに不可能はないのさ」
「はあ‥‥そうですか‥‥?」
 起太の台詞は冗談に聞こえるが、心の底から本気である。
「えっ‥‥っていうか」
 二人の会話を聞いていた暁・N・リトヴァク(ga6931)、何か重大な事実に気付いたようだ。
「社長って伯爵が好きだったのか‥‥!!」
「「「「えっ‥‥今?」」」」
 雷に打たれたかのような衝撃を受け、目を見開いて言う暁に、一同、逆に驚く。
 「え、皆知ってた? 知ってた?」と聞いて回った結果、そのへんに出てきたグラサンの黒服にまで「知ってた」と回答され、ショックを隠しきれない暁。
「私はそ、そんな感情で賭けをしたわけでは(以下略」
「そうだったのか〜。じゃあ兎に角! 恋が実るように動けばいいんだ、うんうん」
 長々と否定し始めたミユをナチュラルにスルーし、暁は、カクカクと頷きながら対策を練り始めた。
「そうですよ!!」
 一体何に同意したのか。鈴葉・シロウ(ga4772)が突然手にした花火をバケツに叩き込み、叫ぶ。
「このごろLHに流行るもの。下着だの肌色だのおっぱいくらべばかりのフィギュア達」
 物憂げな表情で語り始めるシロウ。『賭け』と関係無い話題であろうことは、明白すぎた。
「我々ヲタクは、肌色面積割合やらそういうことばかりを強調する文面を優雅さからは程遠いことととらえており‥‥」
「はあ‥」
「このままそういう我々を<そのようなもの>として商品の展開を続けるようであれば――是非に及ばず‥」
「‥‥つまり、結論は何なのでしょう?」
「‥‥。えーと。確かに可動も一つの手ですが。矢張りフィギュアは顔が命だよということをですね」
 折角なので、とKV少女アンジェリカ(持参)の台座にサインをねだるシロウ。それが目的だったか。
「賞品? ストレートにデートでイイジャン?」
「コラ! 真面目にやれ!」
 サインをGETするなり急に適当になったシロウを、春夏秋冬 立花(gc3009)のピコハンが襲う。「荒ぶるシロクマのポーズ!」などと奇声を発しながら避けるシロウ。
(「ハッ!  ここで伯爵の醜態を見せ、ミユ社長の目を醒ます事が出来れば‥‥?」)
 そして、また歩がいらん事を思い付いたりしていた。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
「思い知れリア充、ミユたんのおっぱいは誰にも渡さん!」
 なんか巨大怪獣と化した伯爵に、果敢に挑む歩。
「ぐわ〜〜。ばたり」
「ハッ、私はこんな人に心を奪われていたなんてどうにかしていたんだわ」
 ビーム的な何かを喰らい無様に倒れる伯爵を見て、正気に戻るミユ。
「目が覚めましたか」
「いいえ、覚めてなんかいないわ。だって、夢の様な出逢いが訪れたんですもの」
 そして唇と唇が近付いて――‥‥
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

「こ・れ・だーッ!!!!」
「「「「!?」」」」
 深夜の広場でいきなり絶叫をかます歩に、一同、ビクゥッ!と体を震わせた。
「あ、僕いい考えがあるので準備に帰ります。大丈夫、全て上手く行きますから!」
「え、あ、ああ‥‥うん?」
 一体彼に何が起こったのか全く把握できず茫然とする暁を置いて、歩はスーパーミラクルダッシュで走り出し、見えなくなる。
「‥‥。社長の恋、叶うと良いね」
 どうしようもない不安を感じつつ、暁はポツリと呟いた。明日が怖い。
「女の子ってさ、相談とか言いながら、実は心の中で答えは出てるんだよね!」
「そっ、そんな事ありませんわっ‥!」
「まあ呑もうよ。夏の夜の泡盛は最高だよ?」
 ミユに杯を渡し、ドンドコ呑ませる大泰司 慈海(ga0173)。理性の箍を外させようという作戦か。
「『賞品』だよ? 何でも言うこと聞いちゃうんだよ? 王様ゲームなんだよ?! 幼稚園児のお遊戯みたいので満足できるの?」
「うんうん、そうですねぇ〜」
「そうですよ。そんなに気負わなくても、ミユさんが何を思うかが大切なんです」
「私の気持ち‥‥でふか」
 美雲と、シロウ討伐から戻った立花も加わり、ミユの本心を聞き出そうとする。6杯目を飲み干したミユの口調が怪しい。
 水理 和奏(ga1500)は線香花火を脇に置き、どうすればミユの力になれるかと悩んでいた。

「僕だったら‥‥思い切って『抱いて欲しい』ってお願いしちゃうかな‥?」

 しーん。

 おもむろにSASウォッチを確認する暁。大丈夫、時間的には許容範囲だ。

「よし却下」
「あ‥あれ!? 変な事言った!?」
 立花にバッサリいかれた和奏が、変な空気を察してキョロキョロと皆を見回した。
「あっ、そうか。無理矢理お願いする事じゃないよね‥っ。それに‥その夜限りの関係で終わりっていうのも寂しいし‥‥」
「「「「‥‥‥」」」」
 駄目押しだった。
「わ、わかながよごれたでふうわあああああああんんッッ!!!??」
「ミユおねえさむぐぶぐぐgッッ!?」
「大変だーーー!! ミユ社長が酔っ払いにーーーッ!?」
 いつの間にそんなに呑んでいたのだろうか。和奏を組み伏せ号泣するミユ。大慌てで引き離す暁も、ウトウトしていた海も、片隅でフィギュアに萌えていたシロウもビックリである。
「りっ、理事長さん! お喋りっ。例えば、ブレーンストーミング、なんかはどうでしょうかっ!?」
「そうですね! 折角、夕方から夜までご一緒できるなら、色々積もる話もある事でしょう。向かい合わせではなく、傍らに座りながら‥」
「おはなしでふかー?」
 必死で別の話を振る海とハンナを、ミユは熱っぽい目で見上げていた。
「KVやカンパネラの話でもいいんです。二人でしかできない話で、二人だけの時間を過ごすんですよっ」
「お互いの健闘を称えて、ハンカチを交換なさっては如何ですか?」
「‥‥‥」
「ドロームとカプロイアのコラボレーション機をまた作りましょう、でどうかな」
 どや顔で提案するのは起太だ。
「意中の相手と近付くための基本は『次回』を作る事。この案なら、二度三度と機会を作れる。しかも、仕事を口実に下心を隠せる! あああっ! なんてパーフェクト!!!」
「それ、凄く良いと思います!」
 自画自賛に打ち震える起太はともかく、美雲はその案に強く賛同する。打上げ花火を誤射しながら。
「!! 美雲さん花火が!!」
「‥‥‥あ」
 ハンナの警告より先に花火が爆発し、声も上げずに倒れる黒服。
 駆け寄る美雲の前に立ち上がった彼の姿は―――

 ――アフロだった。


●伯爵といっしょ
 翌夕方、自転車で巡回中の警官が、電柱の影に潜むセーラー服の男子を発見して声をかけた。
「ちょっと君」
「ハッ!? いや僕は別に」
「署まで来なさ――あっ! 待ちなさい!!」
 ミニスカ翻してスーパーミラクルダッシュな歩を、自転車が追いかける。そんな事はともかく、ミユと伯爵が合流したようだ。

「ご、御機嫌よう、カプロイア伯爵(gz0101)。御足労頂きまして、ありがとうございます」
「Ciao、ミユ君。今日もLHは素晴らしい天気だね。まるで全世界が君の勝利を祝福しているかのようだ。私には君の願いを叶える義務がある。何でも言ってくれたまえ」
「そ、その前に、お茶でも頂きません?」

「まぁ、デートなら何だかんだと口実をつければ、願うまでも無く付き合ってもらえますしね」
 物陰に隠れて見守る傭兵達の中で、立花は納得したように頷きながら呟いた。
「ミユ姉様‥千里の道も、一歩から‥です」
「幸せになって欲しいな‥‥」
 希望と不安が入り混じった目でミユを見つめるのは、ハンナと和奏だ。
 ミユは結局、何を願うか決めていなかった。
 実はあの後、酔っ払ったミユから慈海が聞き出した『本当の願い』については、皆何となく察しているのだが‥‥。

 カフェでコーヒーを嗜みながら、二人はそれなりに楽しそうに話をしている。
 外で待機する黒服――起太が時々ミユと視線を合わせ、口パクで「お・ち・つ・け」とアドバイス。
「実は、また両社のコラボレーション機体を望む意見を聞いたのです。少しアイデアを出し合ってみませんか?」
「それは素晴らしいね。君のような優秀な女性と議論を交わす機会を得るとは、実に光栄な事だ」
 ミユは、『賞品』を温存しつつ、傭兵達に言われた通り、伯爵と意見を交わしながらさり気なく『次』につなげようとしている。
(「いいなぁ‥‥。私も、手とかつないで、肩とか、抱かれてみたかった、な‥」)
 それを見守る海の気持ちは複雑だ。自分は、大事なものを、永遠に失ってしまったのだから。
「そういえば、美雲さんも何か用意していたみたいですが」
 数時間後、二人がカフェから出てきたのを確認して、立花が傍らの美雲を振り返る。美雲は腰に手を当てて胸を張り、
「ハニートラップって言っていたので、落とし穴に蜂蜜をタップリと満たしておきました」
 むしろ、どや顔で言い放った。
「ハニーットラップって、そういう意味じゃねぇよ!」
「えっと、それはたぶん違うんじゃない、かな?」
 それを聞いた立花と海は慌てて、ホテルの庭園に向かう二人を助けに走る。
「えへへ、リア充、爆ぜr――あら?」
「社長、あぶな――ぶばッ!?」
 ついでに蜂蜜たっぷりの布をつけた釣竿が振るわれ、隠密潜行で尾行中の暁がギセイになった。運悪くアリの巣付近に倒れ、えらい目に遭っているようだ。
「都合よく目覚めろ! 潜在能力!」
 二人を助けんと立花は猛ダッシュ。
 しかし、
「やあ、伯爵」
「Ciao。奇遇だね」
 二人は慈海に呼び止められて普通に立ち止り、哀れ立花は、無駄に落とし穴へとスライディング。
「きゃーーーー!?」
「‥‥立花さんがそんなに蜂蜜大好きだったとは知りませんでした」
「よ、よくもぬけぬけと‥‥」
 不思議そうに穴の上から見下ろして来る美雲に、全身蜂蜜まみれで地団太踏む立花。
「今の私は唯の、日本から訪れた夏の使者<南国の白熊>くんです。かき氷は如何ですか」
 そんな騒ぎに二人の注意が向かぬよう、気を引いたのはシロウである。露店の珍しさに思わず購入してしまうミユだったが、よく考えたらおかしい。こんな所に露店なんかあるわけが‥‥
「わぁ、美味しそう!」
 誰もおかしいなんて思っていなかった。嬉しそうにかき氷を頬張る海。
「今日はお互い立場を忘れて楽しんできて。この後は庶民的に居酒屋なんてどうかな」
「ま、まあ‥‥っ! 私達はあくまでも両社の発展のために(以下略」
「いい提案だね。庶民のバーというものに、私も興味があるよ」
 耳元で囁いて去る慈海に、ミユは頬を赤く染めて理屈に逃げる。しかし、伯爵が意外と乗り気なのを見て、急に「そうですわね!」などと態度を翻すのだから、現金なものである。
「あっ。そういえばあそこにも落とし穴を」
 重大な事実を思い出した美雲が、シロウの露店前を指差して「えへへ」と笑った。
「何!? ちょっ! お前、止まれ!」
「あ、そうだ。伯爵、このK−111少女にサインを‥‥」
 立花の声も届かず、シロウが足を踏み出した、その時。

「君! やましい事がないなら止まりなさい!!!」
「止まれません! タスケテーーーーーーぐがふっ!?」
「この台座に――ぶががふっ!?」

 ぼっちゃん。

 逃亡中の歩と衝突し、くんずほぐれつしながら落とし穴にハマるシロウ。
「ハッ!? すみません、僕にそんな趣味はないんですっ!」
「いやいやいや、誤解しすぎですからーーーーーー!!??」
 蜂蜜池の中でシロウに抱かれ、嫌な勘違いをしつつ頬を染める歩。
「いいですか、私は女性が好きです! こぼれそうでも手の平すっぽりでも哀☆戦士でもオールOK! 大事なのはかんd(検閲削除」
 イラッ☆ときたシロウの脳みそもまた、暑さと怒りに暴走を始めたようだ。
「――だが詰め物だけは許さない」
 キリッ、と決め台詞っぽく言うシロウ。
 しかし、
「君も怪しいな。一緒に署まで来てもらおうか」
 穴の上から見下ろす警官の視線は――冷たかった。


●結局
 その後、ミユと伯爵も加えて居酒屋で充実した時間を過ごした一行は、星が見える公園にやって来ていた。
 歩が自分とミユのために用意していた笹と短冊を、泣きながら皆に差し出している。

『世界中の女性が幸いでありますように シロウ』
『リリア姉様が、何時か私達の元にお戻りになりますように ハンナ』
『無病息災(超達筆) 暁』
『笑顔 海』
『バグアと共存 立花』

 涙で滲んだ『彼女が欲しいれす‥ 歩』も、しぶとく笹に食い付いている。

「ミユちゃん」
 慈海が彼女に声をかけ、じっと目を見つめた。
 他の傭兵達も同じだ。慈海が聞き出した「本当の願い」を、今こそ伝えてほしいのだ。
「‥‥‥カプロイア伯爵」
 彼らに背中を押され、ミユが伯爵に向き直る。そして、笹を指差した。

『カプロイア伯爵が、私を良きパートナーと認めて下さいますように ミユ』

 薄い青色の短冊には、そう書かれていた。
 公か、私か。
 その言葉を、伯爵がどう受け止めたのかは、わからない。
「あのっ! もし、ミユお姉様がどうしようもなくなっちゃった時‥‥助けに来てくれる?」
 和奏が問うた。
 自分では出来ない事も、伯爵なら出来る――そう信じて。

 伯爵は微笑み、二度、頷いた。
「‥‥ありがとうございます」
 ミユは幸せそうに頬を染め、さり気なく伯爵の肩に寄り添ってみる。

 『酔っちゃったアピールで密着』
 起太の渡したメモが、ミユの左手の中でカサリと鳴った。