タイトル:【神戸】nest of wormsマスター:桃谷 かな

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 2 人
リプレイ完成日時:
2010/07/09 12:40

●オープニング本文


 兵庫県美方郡新温泉町。
 そこは、兵庫県の北西端に位置する町であり、隣の香美町とともに、早い時期からバグアの占領下に置かれた土地である。
 しかし、兵庫バグア軍が香美町香住地区に大規模な基地を建造し、そこに拠点を定めたことから、新温泉町の奪還は先送りとされてきた。さらに言えば、面積の殆どを山々に覆われた地域特性上、香美町や豊岡市へのバグア軍増援部隊の大部分は、新温泉町を避けて日本海から送り込まれてきたようだ。その為、この地域はバグア占領下に置かれながら、長期に渡って大きな戦闘が発生していない。
 だが、その不自然な放置状態は、香住バグア軍基地の陥落を切欠に崩れ始める。
 総司令官のプリマヴェーラ・ネヴェが敗走し、バグア兵、強化人間、人間素体のキメラといった指揮官達をも悉く失った上、航空戦力を全滅に追い込まれた兵庫バグア軍は、壊滅状態のまま西の新温泉町へと逃げ込んだ。その後、兵庫UPC軍の偵察部隊によって、撤退途中で頓挫したゴーレム2機が撃破され、残るは地中のアースクェイク群のみと見られている。

 そして先日、指揮系統を完全に失ったこれらのアースクェイクが、現在、新温泉町の海沿いの町・浜坂地区に集結しているとの調査結果が出た。これは、特に反撃を企てているわけでも、浜坂を防衛しているわけでもなく、単にそこを流れるいくつかの川と浜との影響で周辺の地盤が比較的柔らかく、彼らにとって行動しやすい土地であるがゆえに自然と集まったのだろうというのが、軍上層部の見方である。
 調査を行った部隊の報告によると、時には海中を航行している姿も目撃されているものの、アースクェイク達は、主に日本海側の浜辺に潜伏している。その機数は9機であり、人類側の機体や地球上の生物の接近を察知すると、即座に襲い掛かってくるという。そして、彼らの行動に戦略や連携は感じられず、生体ワームが本来持つ本能的な襲撃プログラムを実行しているだけに見える、との話である。
 豊岡市と香美町の復興と後始末に追われる兵庫UPC軍に討伐隊を派遣する余力はまだ無く、軍上層部の判断により、ULTに傭兵の派遣が要請されたのだった。


    ◆◇
「兵庫か‥‥『あの人』がいた場所、だっけ‥」
 ラスト・ホープのUPC本部では、この6月からULT傭兵の仲間入りを果たした一人の少年が、依頼内容の表示されたモニターを見つめていた。
 彼の名前は、リアム・ミラー。元UPC北中央軍上等兵で、先日、軍を除隊したばかりのダークファイターである。
「今年に入ってからも、ファームライドの出現報告は一切無し。‥‥指揮官に見捨てられた戦場、ってとこかな‥‥」
 彼は依頼の文面に一通り目を通すと、一拍置いて静かに踵を返し、受付のカウンターを目指した。
「この依頼を受けたいのね?」
 事務的に参加手続きを進めるオペレーターの手元を眺め、彼は躊躇うことなく一度、頷いてみせる。

 彼の本名は、インヴェルーノ・ネヴェ。
 ゾディアック山羊座プリマヴェーラ・ネヴェの、長子である。


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●依頼内容
・新温泉町の浜辺に潜伏しているアースクェイク9機を殲滅してください。

●参加者一覧

鋼 蒼志(ga0165
27歳・♂・GD
鈍名 レイジ(ga8428
24歳・♂・AA
エリアノーラ・カーゾン(ga9802
21歳・♀・GD
アーサー・L・ミスリル(gb4072
25歳・♂・FT
愛梨(gb5765
16歳・♀・HD
レイード・ブラウニング(gb8965
21歳・♂・DG
夢守 ルキア(gb9436
15歳・♀・SF
ハーモニー(gc3384
17歳・♀・ER

●リプレイ本文

●出撃前
「リアム、会うの久しぶりだね。元気だった?」
「トリシア。来てたんだ」
 一人で本を読んでいたリアムに、金髪に赤い瞳の少女が駆け寄って来る。トリシア・トールズソン(gb4346)だ。その後ろには、愛梨(gb5765)と鈍名 レイジ(ga8428)の姿もあった。
「うん。ほら、愛梨もレイジも一緒だよ。頑張ろうねっ」
「久しぶり。あんたも傭兵になったのね、歓迎するわ」
 愛梨はリアムと目が合うなり、即座にツンとした表情で腕組みしてみせる。
「あ、でも傭兵としてはあたしが先輩だから、そこんとこよろしくね、後輩。仕方ないから、今回も力を貸してあげるわ」
「人生の先輩は僕の方だろ」
「いっ、1年や2年早く生まれたぐらいで偉そうにっ!」
 言い合う二人を見守っていた緋沼 京夜(ga6138)だったが、暫くして、口を開いた。
「愛梨、俺に助けを求めてまで、成功させたかった依頼だろう? 素直になれ」
「べ、別にっ、来たけりゃ来れば? って言っただけだしっ」
 頬を真っ赤に染めて、京夜の言葉を全力否定する愛梨。
 鋼 蒼志(ga0165)はそんな彼らを眺め、ぽつりと呟きを漏らした。
「‥‥ふむ、ちょっとした自分探しみたいなものですかね」
 それを耳に捉えたレイジが、背中を預けていた壁から離れる。傷ついた身体が、ズキリと痛んだ。
「なぁ、リアム。あんたは『あの人』に会いたいと思うか?」
 プリマヴェーラ・ネヴェ(gz0193)の事だと解し、リアムは迷うような表情を見せる。
「自分をもっと知りたいと、そして、あの人を知りたいと、そう思うか?」
「‥‥会ってみたい。でも、その先はまだ考えてない。‥‥僕が、どうしたいのかも」
 リアムの返答が、格納庫に暗く響き渡った。傭兵達の視線が、彼に集まる。
「成程。ま、何にせよ、親を追いすぎて危険な目にあわないよう気をつけてくださいね。あなたはあなたで親とは違う‥‥そう理解しているのでしょう? ‥‥同じ過ちは繰り返してほしくありませんからね」
「リアムは‥‥リアムよ」
 過去に苦い経験をしたが故に厳しい、蒼志の口調。無言で頷くリアムを見つめ、愛梨は誰に向けるでもなく、呟いた。
「強くなりましょう。強くなればたのしめます。悲しくなるより、もっと強くなりましょう」
 唐突にそんな事を言い出したのは、ハーモニー(gc3384)だ。
「つまらない事は嫌いです。悔いる事も悩む事もありますが、それより強くなってたのしみましょう。さあ、今回は強くなるための第一歩です」
 愛機へとマイペースに歩いていく彼女の言は、一見的外れにも思える。だが、ゾディアックである母を止めるどころか、対等に渡り合う事すら難しいリアムにとっては、考えさせられる所があった。
「そうだ! 終わったら皆で遊ぼうね!」
 しみったれた話は終わりだとばかりに、夢守 ルキア(gb9436)が両手を叩いて声を上げる。
「そうそう。綺麗な砂浜だし‥‥EQ殲滅したら、安全確認しといたほうがいいんじゃないかしら? その後は遊んでげふんげふん」
 ここぞとばかりに乗って来るエリアノーラ・カーゾン(ga9802)。仕事にかこつけたつもりが、うっかり本音を口走りかけ、咳払いで誤魔化しを図る。
「えー? EQ倒せても、すぐ砂浜で遊ぶ許可は出せないよ」
「ダメ? ああそう、そりゃそうよね‥‥」
 ヴィンセント・南波(gz0129)に却下され、がっくりと肩を落とすエリアノーラ。だが、ルキアは諦めない。
「ええー? それ位ご褒美があってもいいんじゃない? いつ終わるかわからない命なんだから」
 しかし、南波は許可を出さなかった。アーサー・L・ミスリル(gb4072)も少し残念そうに、肩を竦める。
「綺麗な砂浜だな。今度こそ神戸を落ち着かせて、この砂浜を歩いてみたい」
 彼は資料の中から美しい砂浜の写真を手に取り、壁際の灰皿の前で紫煙を燻らせているレイード・ブラウニング(gb8965)の方を見た。
「これを誰でも見られる様になるなら、ミミズの一匹や二匹、相手にしてやるさ」
「一人頭で考えればそんなものか」
 写真をヒラヒラさせて微笑むアーサーに、レイードは大きく伸びをしながら言った。
「ったく、こっちも多いとはいえ、よりにもよって面倒な奴が9匹か。こりゃ、気を引き締めていかないとな」
「そうだな」
 レイードの言葉に頷き、そして愛機のシュテルン・Gへと視線を移すアーサー。
「――この前は逃したけど、今度はそうはいかない」
 彼は浜坂の写真を見つめながら、静かに出撃の時を待っていた。


    ◆◇
「幸運の女神がついてるから、大丈夫!」
 GooDLuckを発動したルキアの骸龍が、砂浜目掛けて地殻変化計測器を投下する。さらに、東の河口から浜を取り囲むようにしてソナーブイと計測器を設置し終えたトリシア機と京夜機からも、ルキア機へと情報が伝えられて来た。
「9体全て位置把握、6体が浜の西側より接近中。浜に着陸するなら東寄りに、今のうちだよ」
「3体の位置が東の河口に近い。エリアノーラ、レイード、そのまま少し待って」
 ルキア機、そして南波機がジャミング中和を開始し、各機にEQの位置情報を送りながら指示を飛ばす。
 蒼志の雷電、レイジのディスタン、ハーモニーのディアブロが素早く浜中央に着陸し、西から迫るEQ6機を迎え討つべく人型に変形した。
 海側の空から着陸したのは、愛梨のグリフォンとリアムのヘルヘブン。主戦力組の3機に向かっていたEQのうち、2機が方向を逸れて彼らへと迫る。
 アーサー機、そして南波機が浜に着陸し、河口付近の敵機の注意を自分達へと向けさせた。エリアノーラのリヴァイアサンと、その上空で着陸機会を待つレイードのグリフォンが浜へ侵入する隙を作る為だ。
「‥‥こんな綺麗な場所を荒らすだなんて無粋な蚯蚓ですね」
 足元まで達した2機のEQが、白砂を撒き散らして目の前を塞いだ。蒼志は口端に小さく笑みを浮かべ、振り下ろされた刃を難なくかわす。
 ドリル状に変形した雷電の右腕が唸りを上げ、EQの咆哮が、夏の浜辺を大きく揺るがした。


「レイジ君、ハーモニー君。回避して」
 低空を旋回するルキア機からの指示に反応し、レイジ機とハーモニー機がブースト加速。飛び退るようにして位置を変えたその瞬間、足元の地面が弾け、禍々しいブレードを幾つも生やした蟲達が空を食んだ。刃の一本がハーモニー機の片脚を切り裂くが、致命傷には至らない。
「地下のミミズに中衛も後衛も関係ねぇってな。それぐらい読んでるぜ!」
 レイジ機のファランクス・アテナイから生じた銃弾の嵐が、猛烈な勢いでEQの外皮を削る。
「後方だからこその意地を見せてあげます」
 アグレッシブ・フォースを起動したハーモニー機が、レイジ機を狙う2機目掛け、ピアッシングキャノンの引金を引いた。蟲達の皮膚が傷つき、体液が噴き出し流れ落ちるのを視界に捉えながら、ハーモニーは更に機体を後退させた。
 砲撃を受け動きの鈍った2機を前に、レイジ機がハイ・ディフェンダーを突き出す。刃がEQの体組織を貫き破り、そのまま真一文字に胴を切り裂いた。もう1機が大口を開け、ディスタンを呑み込まんと襲い来る。しかし、その攻撃が命中することは無く、頭の周囲に生えたブレードが、電磁場に護られたレイジ機の装甲を僅かに散らしただけであった。反撃の重機関砲を撃ち放ち、飛び散る体液の中を後退したレイジ機が、その銃口を蒼志機が相手取る2機へと向ける。
「中々、重いな」
 超伝導アクチュエータを起動させた蒼志の雷電が、手にした機盾で敵の刃を受け止めた。盾の背後からドリルを突き出し、EQの体躯を深々と抉る。力を失い、倒れるEQ。更にもう1機の攻撃を受け止め、その体に螺旋を捩じ込むと、盾を強く押して一歩飛び退った。
 追い縋るEQに、レイジ機の放った銃弾が命中する。蒼志はその一瞬の隙に機体を加速させ、ドリルを前に構えて真っ直ぐに突撃した。
「蒼き螺旋で――穿ち貫く!」
 逃げる間もなく機能を停止させられた巨大な蟲が、地響きと共に崩れ落ちる。
「EQが逃げます。潜らないようにしなければ‥‥」
「させるか!」
 自身の損傷も軽くない中で仲間が倒れ、2機のEQが砂の下に潜ろうとする仕草を見せた。レイジ機が重機関砲を構え、EQを押し上げるかのように、それぞれの胴から頭まで銃弾を撃ち込む。そして、その頭部にハーモニー機がスナイパーライフルの照準を合わせた。引金を引くと同時に蟲の頭が大きく弾け、再装填後の二発目が胴に風穴を空けた。
「終わりです」
 低く響き渡る、スラスターライフルの唸り。蒼志機の銃口から吐き出された30発の銃弾が、EQの頭部を吹き飛ばした。


「来るわよ。しっかりやんなさいよ!」
「わかってるよ。愛梨こそ、EQが逃げたらちゃんと追ってくれよな」
 海側に向かった2機を迎え討つのは、愛梨機とリアム機。狭い範囲で混戦状態に陥る事を避ける為、主戦力組とは少しだけ距離を開けている。
「2体、前から接近中。あと5秒で足元だよ」
 ルキアの声が響き、2機は回避姿勢を取る。飛び退いた2機の装甲を、凶悪なブレードが大きく切り裂いた。
「二人とも、急いで体勢を立て直して」
 低空からルキア機が接近し、2機のEQを狙ってピアッシングキャノンを撃ち下ろす。体液を噴き上げて頭を擡げる敵機に、体勢を整えた愛梨機がヘビーガトリングを撃ち放つ。
「ルキア! そっちを引き付けてて!」
「了解だよ」
 リアムの声に応え、ルキアの骸龍が砲撃を放ちながら巧みに高度を上下させ、一方のEQの頭上を飛び回る。煩い羽虫を叩き落とさんと頭を振り回すEQ。
 高速二輪モードのヘルヘブンが地を駆け、愛梨機の銃撃の合間を狙ってチャージ。重い激突音とともにEQの体躯がディフェンダーの刃に貫かれる。そして、リアム機は再度機剣を振るい、敵の体表を切り裂いた。しかし、抵抗する蟲に吹っ飛ばされてしまう。
「リアム!」
 追撃しようとするEQに、愛梨が銃弾の嵐を浴びせかける。幾度となく刃が襲い掛かるも、愛梨はルキアの援護を受けながらガトリングをリロードし、撃ち続けた。そして、起き上ったリアム機もまた重機関砲を構え、十字砲火の形を取る。
「リアム。ここでヘタうってなんていられないぜ。うっすらとでも自分の道を見つけたなら、きっとそう遠くない内に‥‥『その時』が来る」
 見れば、主戦力組がEQ3機を倒し、レイジ機とハーモニー機が海側に加勢して、もう一方の敵機に攻撃を開始していた。レイジに短い返事を返し、リアムは重機関砲の引金を引き続ける。
 身を捩り、愛梨機を道連れにせんと大口を開けて迫るEQ。しかし、それが呑み込んだのはKVなどではなく、愛梨が撃ち込んだ榴弾であった。
 炸裂したグレネードが、内部から蟲の巨体を四散させる。
「そっちが逃げる!」
 1機が倒されたのを感知し、もう1機がハーモニーの銃弾を受けながらも、レイジ機のリロードの隙をついて地中に潜り込んだ。だが、地に逃げても海に逃げても、その動きは全て観測されている。
「海に逃げるよ」
「追うわ」
 ルキアの指示を受けた愛梨が、すぐさまステップ・エアを起動して水上へと躍り出た。ソナーブイの情報を頼りに敵機を探し、その巨体目掛けて一気に潜水する。
 発射された魚雷が目標を捉え、爆発と共に水柱が上がった。浮上したグリフォンが白い泡の中に再び潜り、そこにうっすらと見えた蟲目掛け、アサルトライフルを撃ち下ろす。
「‥‥やった!」
 海底に沈み、機能を停止するEQ。愛梨はコックピットの中で、思わず安堵のため息を漏らした。


 地面から生えた刃の塊が、アーサー機を横殴りに打ち付ける。しかしシュテルンは揺らぐこと無く踏み止まると、「大般若長兼」 「白双羽」の二刀を振るい、組み付いた敵機を薙ぎ払った。
「点から点へ‥‥」
 3機のEQの攻撃をかわしながら、それらを迂回するように滑らかな弧を描くアーサー機。90mm連装機関砲で弾幕を形成し、自機に相手の注意を向けさせる。そこで、南波機がレーザー砲を構え、3機を順番に撃ち抜いていった。
『そら、お前の相手はこっちだ。来い!』
 アーサー機と南波機に気を取られていた3機の背後から、レイードの声が響き渡る。同時に、撃ち放たれたロングレンジライフルの銃弾が2発、EQ1機の胴に穴を穿った。
「報告書読んでて、いっつも思うんだけど。対EQ戦って、モグラ叩きならぬ、ミミズ叩きよね‥」
 同じくEQの背後に上陸し、強化型ショルダーキャノンを撃ち込みながら苦笑するエリアノーラ。4機による挟撃を受け、EQ3機のうち1機が、早くも砲弾に体を吹き飛ばされ、脱落する。地面から首を伸ばしブレードを叩きつけてくるEQに、エリアノーラ機は火花を散らしながら砲口を向け続けた。
「水中用兵装は分が悪いわね‥‥いいわ。1機ずつ、コツコツと」
 ベヒモスの使用を諦め、向かって来るEQに砲を叩き込むエリアノーラ。レイード機がライフルを再装填し、砲弾を受け弱った敵機の腹に照準を合わせる。遠距離からの銃撃はEQの巨体を貫通し、噴き出す体液が白砂の海岸に流れ、染みていった。不利を悟ったEQは地中に潜り、逃走を開始する。
「そう簡単に、逃がしますか、っての」
 即座にエリアノーラ機が川へと飛び込み、レイード機もステップ・エアを起動して、敵機を追撃し始めた。
「そっちは頼んだ! 俺はこいつを倒す!」
 アーサー機が素早く身を翻し、振り下ろされたEQの頭部をかわす。衝撃に地面が揺れ、再び頭を擡げるその前に、シュテルンはPRMシステム・改を起動。
 いつの間にか加勢した蒼志機が、スラスターライフルの銃撃でEQの動きを止めていた。アーサー機は十二枚の可変翼を広げて跳躍すると、左側のバーニアだけを強くふかし、機体を回転させる。
 PRMの効果を乗せて威力を増した機刀が、円を描いてEQの咽元を切り裂き、沈黙させた。

「――下か!」
 送信されたデータを見て、レイードは咄嗟に操縦桿を切った。
 水中から飛び出してきたEQの禍々しい口がグリフォンの後肢を掠め、機体損傷を知らせるアラームが鳴り響く。
「逃すなという事なんでね。潰させて貰う!」
 EQが再び水中へと逃げた直後、レイード機が潜水。そこに見えた影を狙い、ホールディングミサイルを発射した。
『逃げようとしても、無駄よ』
 低い女性の声が響き、水中に姿を現したのは、エリアノーラのリヴァイアサン。
 EQの尾をアクティブアーマーで受け止め、システム・インヴィディアを起動する。
 振るわれた水中機槍斧「ベヒモス」が最後のEQを切り裂き、海に沈めたのは、その一瞬後の事であった。

    ◆◇
 傭兵達の活躍により、兵庫県内のワーム戦力は全滅した。
 そして、兵庫UPC軍が新温泉町の奪還を宣言したその日、兵庫県はその全域に於いて、バグアの支配から解放されたのであった。