タイトル:【LA】最恐キメラ伝説マスター:桃谷 かな

シナリオ形態: イベント
難易度: 普通
参加人数: 26 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/11/30 02:50

●オープニング本文


 バグアの侵入を抑えきれず、長く治安の悪化に悩まされてきた都市――ロサンゼルス。
 『ハリウッド奪還作戦』にて平和を取り戻したかに見えた後も、『極東ロシア戦線』『シェイド討伐戦』と大規模作戦が発令される度に戦場となり、頻繁に避難を強いられる一般市民の間では、厭戦感情が高まっていた。
 戦闘が起きる度に経済活動が停止し、産業は見る間に減衰。市民の生活が脅かされつつあるのだ。
 観光客を誘致し、産業を活性化させ、停滞したロサンゼルス経済を建て直さなくてはならない。

 だが、ユニヴァースナイト弐番艦とアーバイン橋頭堡の防衛能力に頼る現在のロサンゼルスでは、いつまた戦場と化しても不思議ではない。
 そんな不安が漂う中、市民感情を爆発寸前まで追い込んだのが、『シェイド討伐戦』後にステアーのパーツを巡って起きた、バグアとULT傭兵による市街戦である。
 市民からの陳情と現地の混乱を聞いた現アメリカ大統領ジョナサン・エメリッヒは、『五大湖解放戦』『極東ロシア戦線』『シェイド討伐戦』の総指揮を執ったUPC北中央軍中将ヴェレッタ・オリム(gz0162)に対し、ロサンゼルスの防衛機能向上を要求。
 市街に被害を出すことも覚悟で『シェイド討伐戦』を敢行した上、シェイドの撃墜に失敗したUPC軍の立場は悪い。軍上層部は渋々ながら大統領の要求を呑み、『ロサンゼルス要塞都市化計画』を承認したのであった。


    ◆◇
 一方その頃、メトロポリタンXでは。
「リリア様、そろそろお肉が食べたいです。あと、毛玉ができてるのでトリミングサロンに行きたいです」
「ダメよ、ラッキー。ドッグフードは栄養バランスも良いし、あなたには合っているわ。それに、サロンの予約は来週のはずでしょう」
 ステアーのパーツ打上げに失敗し、逃げ帰ってきたマルチーズ型バグアのラッキーが、激安ドッグフードばかり出される毎日に、うっすらとイジメの香りを感じ取っていた。
「うう‥‥そういえばリリア様、人間どもはロスを要塞化してやがるとか」
「そうね。こちらも何か手を打たないといけないわ」
 細い顎に人差し指を当てて考え込むリリア・ベルナール(gz0203)を床から見上げ、ラッキーはしばし頭を捻る。
 そして、おもむろに紙とマジックを取り出すと、前脚で器用に絵を描き始めた。
「こ、これは‥‥!」
「ロスといえばコレです! コレをキメラにして、人間どもを恐怖のどん底に陥れるのです!」
 ラッキーが描いた『それ』を目にして、恐怖のあまりよろめくリリア。マルチーズは胸を張り、ピラピラとその絵を持ち上げてアピールする。
「ラッキー、ダメよ。こんなもの‥‥恐ろしい事が起きるわ!」
「リリア様、今はそんな事を言ってる場合じゃないのです! 今こそ最恐のキメラを作るべき時!」
 詰め寄る犬。困惑するリリア。
 たっぷり数分は沈黙が流れ、そして‥‥
「――‥‥わかりました。検討しましょう」
 リリアは、ラッキーの手から『最恐キメラ案』を受け取ったのであった。


    ◆◇
「あ‥‥っ、あれは何です!?」
 ドローム本社からロサンゼルスへと到着した輸送機団。そのうち一機のブリッジから地上を見下ろし、ミユ・ベルナール(gz0022)は取り乱した声を上げた。
「あれは‥‥! なんであいつらがここに‥‥!?」
「うああああ!? 世界が! 世界が終わるうぅぅーーーーっ!!」
 周囲のクルー達にも、動揺は波及していた。皆、窓から見える『それ』に怯えているのだ。
「リリア‥‥恐ろしい子! あんなものを作り出すなんて‥‥あなたは、この世界を滅亡させようとでも言うの?」
 再び地上に目を向け、ミユは拳を握りしめる。
 ロサンゼルス要塞化計画に協力を決めたミユは、橋頭堡の防衛機能向上のため、大規模な輸送機団を率いてロス南部へとやって来た。積荷のほとんどは120mm高射砲、大口径M3帯電粒子砲といった大型対空兵器類で、中には、ドローム社が長い開発期間を経てようやく実用段階に至った次世代戦車『アストレア』も含まれている。
 自走砲、自走対空砲、指揮車両、そして医療護送車と、アストレアプロジェクトによって生まれたバリエーション豊かなこれらの車両群は、いずれM1戦車に代わる北米の主力として活躍してくれるに違いない。その華々しい歴史は、ここロサンゼルスから始まる――はずなのだが。

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都合により抹消いたしました

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 上記のような特徴を持ったネズミ型のキメラの大群が空港滑走路を占拠しており、輸送機団の着陸を妨げていた。
 さらに、
「わはははは!! どうよ! このラッキー様の発想力! そーれタッタラータッタラー♪」
 ネズミキメラの群れの中央に立ったマルチーズらしきものが、ラジカセを掲げて『流してはいけない歌』を流しているではないか。

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都合により抹消いたしました

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「名乗るなあああああああッ!!!」
 恐らくそれが鳴き声なのだろう。甲高い声で自己紹介をしかけたキメラだったが、空港警備隊の投げた閃光手榴弾の轟音がそれを掻き消し、ギリギリで世界の終焉は遠のいた。
「なんてこと‥‥! 世界が終わってしまう前に、あのキメラを何とかしなくては!」
 
 こうして、ドローム社社長ミユ・ベルナールは、ULTへと緊急の依頼を出したのであった。



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●依頼内容
・輸送機団の着陸を妨げる謎のネズミキメラを滑走路から排除し、輸送機団の着陸を可能にしてください。
・謎のネズミキメラは存在するだけで世界を滅亡させかねないので、早く絶滅させてください。
・なお謎のネズミキメラとは、『ネズミ』を生体部品としたバグアのキメラです。主に自らの名前を名乗ることによってダメージを与えますので名乗らせないようにしましょう。
・車両持ち込み可。機体の使用も可能ですが、滑走路を傷つける恐れがあるので非推奨です。

●参加者一覧

/ エスター(ga0149) / 柚井 ソラ(ga0187) / 水理 和奏(ga1500) / 西島 百白(ga2123) / クラーク・エアハルト(ga4961) / 智久 百合歌(ga4980) / カーラ・ルデリア(ga7022) / ラウル・カミーユ(ga7242) / 九条・縁(ga8248) / 百地・悠季(ga8270) / 龍深城・我斬(ga8283) / 森里・氷雨(ga8490) / キムム君(gb0512) / 米本 剛(gb0843) / 赤崎羽矢子(gb2140) / アレックス(gb3735) / 橘川 海(gb4179) / 冴城 アスカ(gb4188) / トリシア・トールズソン(gb4346) / リュウナ・セルフィン(gb4746) / 七市 一信(gb5015) / 東青 龍牙(gb5019) / 愛梨(gb5765) / 障子にメアリー(gb5879) / ラグナ=カルネージ(gb6706) / 楽(gb8064

●リプレイ本文

※このシナリオは、大人の事情により一部が抹消されたり、(ピー)という規制音が流れる場合があります。


「わはははははは!! ホレホレ、お前らがチンタラしてる間に、このラッキー様がロサンゼルス復興に駆けつけてやったぞー」
 二本の滑走路の間、芝生の上に仁王立ちになったマルチーズが、勝ち誇った様子でふんぞり返っている。
「あららーん、なーんだかとってもやばめ☆なご様子? あのワンコ君も、おーもしろいんだけども、ちょーっとはしゃぎすぎだよねーぃ」
「恐ろしいキメラだという事は認めましょう。でもね、あのいかにも『俺やったぜ』的な、自信満々の態度が気に入らないのよ」
 空港の惨状を目の当たりにしても、まだのほほんと煙草をふかしている楽の横で、智久 百合歌は、おっとりした微笑みの後に、聞こえるか聞こえないかのレベルで「チィッ!」と舌打ちしていた。
「ほお、ふーん‥‥嫌がらせで空港占拠する為に、大部隊率いてと。白犬、どこまで偉くなったつもりかしらね」
「ったく、あいつは‥‥! ほら鼠ども! ここはアンタ達の居場所じゃ無いんだよ。さっさと例の場所に帰りなさい!」
 世界の危機を理由に軍から分捕った閃光手榴弾をジーザリオに積み、百地・悠季は半眼でラッキーを見つめる。赤崎羽矢子はハミングバードを抜き、鼠キメラをどこかに帰らせようとしているようだ。
 一方、ラッキーには特に興味が無いその他の傭兵達はというと、滑走路を占拠する謎の鼠キメラを前に、早くも恐慌状態に陥っていた。
「何なの‥‥このある意味緊張感に満ちた現場はっ‥!?」
 冴城 アスカの言い分は正しい。だが、今一番緊張しているのは報告官だという事実を忘れないで頂きたい。
「こ、これって‥夢じゃないんだよねっ!? ‥そっか、現実なんだね‥! 戦わないとね、現実とっ‥!」
「この鼠は‥‥拙い。修正が必要だ。わかなさん、気を付けてくださいね?」
 がくがく震える膝を押さえ、水理 和奏。クラーク・エアハルトは大口径ガトリング砲を抱え、バグアの最終兵器に挑む。
「なんて恐ろしい事をやってくれたんだ!? 一体一体が核やG弾頭なんて子供の玩具に感じられる位の脅威なんだぞ!?」
「あいつら‥‥正気か? 面倒だと‥言ってる‥‥場合じゃ‥無いな」
 九条・縁がクロムブレイドを抜き放つ。西島 百白もまた、面倒がっていては世界が終わるこの事態に、仕方なく剣を取った。
「其処までだネズ公ども、貴様らは存在自体が許されん!」
「青い方とか黄色い方とかどうでも良い! どうせなら古典な童話のプリンセスを大量発生させやがれ! プリンセス諸君は今すぐ出てきなさい!」
 意気込む龍深城・我斬の横で、森里・氷雨は今日も暴走していた。大体、スーツにカラス・バラウの眼鏡、れいちゃんのお面、カプロイア伯爵のマント、ミユ・ベルナールのブーツの男に呼ばれて出てくるお姫様など、多分居ない。ちなみに下着は穿いていない。
「ただの雑魚キメラで『ホープ』が潰えようとしていた」
 ありのまま起こった事を話していたキムム君だが、一通り語ると、とりあえず鍵っぽく捻じ曲げたイアリスを出した。色々あったらしく、全身包帯まみれである。
「俺は鍵型な剣に選ばれたゆう――」
「世界の根底から揺るがす存在‥かも知れませんねぇ」
 見事にキムム君をスルーし、状況把握に努めていたヨネモトタケシが冷静に言う。
「‥うん、世界の危機だネ! 絶対に名乗らせちゃダメ。じゃないと、僕と思花サンの幸せな未来が危険で危ない!」
「あの鼠の時代はもう終わりやね。これからは、これからは(ピーーー)の時代だよん」
 何のつもりだろうか。クマの着グルミを着たラウル・カミーユと、全身にフィットするセクシーなデザインの黄色い服を着たカーラ・ルデリアが、危険な存在感を放ちながら何か言っているようだ。
「これまた厄介且つメンドくせー奴を量産してきたッスね〜〜。ちなみにあたしは(ピー)のアヒルの方が好きッス」
 と、エスター。世界の平和の為にも、そこでダメ押さないで頂きたい。
「黒と白で動物でなおかつ人気者、そんなのはパンダさんにきまっとるじゃないか ねえ?」
 パンダマン、ことパンダの着グルミを着た七市 一信が、誰にともなく尋ねる。
 確かに、パンダは白黒で人気者だ。それは事実なので、彼の発言そのものには何の問題も無い。
 だが、段々報告官を追い詰める流れになって来たので、このへんで視点を変えようと思う。
「東青龍牙! 青龍神様の命により! 世界を崩壊に導く輩の排除をいたします!」
「にゃー! リュウナ・セルフィン! 黒龍神の命により敵を殲滅するのら!」
 龍牙とリュウナの二人が、割と正統派な感じで名乗りを上げる。モフモフを愛するリュウナだが、どうも今回のキメラは毛が短そうなので、さほど興味がないようだ。
「あそこまで堂々とやるのは、最早天晴れと言うほかないわ。でも、両刃の剣な感じがしなくもないわね。あちらさんも大丈夫なのかしらね、色々と」
 バグアの心配までしつつ、愛梨は、鼠キメラを見ながら何故か【北伐】の地を連想する。何故そんな連想しちゃうのか、報告官にはサッパリわからない。
「いいか、俺に前ふりはねぇ! 最初から最後までクライマックスだ‥! いくz‥ウボァッ!」
 フライング気味に突撃してきた鼠キメラを突き飛ばし、いい感じに目立とうとしたラグナ=カルネージ――愛称「クウキ」さんが、いきなり走って来たバイクに跳ねられた。
「世界の危機に、俺達参上! ‥‥ああ、なんだか分からんが、激しくやばい気配がするぜ。あのネズ公」
「絶対に喋らせない。痕跡も残さず絶滅し尽してあげる」
「テメェ! まだ俺は言い終わってねぇぞ!」
 地面に転がり、バイク(ミカエル)の主であるアレックスと、後ろに乗っていたトリシア・トールズソンにクレームをつけるクウキさんだが、空気なので無視は免れない。その上、走って来たもう一台のミカエルのエンジン音に掻き消され、何を言っているのかもわからない。
「あ、赤い外套は、自ら血を流す事を厭わぬ意志! ラウンドナイツ、ナイト・シトラス、見参っ!」
 マントをはためかせ、ミカエルで颯爽と登場する橘川 海。
 ノリでやってしまったはいいが、友人の前だ。ちょっと恥ずかしい。
「はわ。見覚えのあるようなねずみさんがいっぱい‥‥」
 海の後ろから顔を出し、柚井 ソラが真っ青な顔で言葉を飲み込んだ。

「わはははははは!! 泣け! 喚け! 恐れおののけーーー!!」
『皆さん、状況は見ての通りです。世界を護るため、迅速にキメラを排除して下さい。繰り返します――』

 班分け、配置完了。
 御機嫌なラッキーの高笑いと、切迫したミユの声が、傭兵達の闘志に火をつけた――。


    ◆◇
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都合により抹消いたしました

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 ‥‥空港の端っこの方で何かあったらしく、空港警備隊がパニックに陥っているが、あまり気にしないで欲しい。

「シャラップ! あんたたち、黙んなさい!!」
 滑走路A。ミカエルを纏った愛梨が、竜の翼を発動して鼠に迫った。
『ボク――』
「跡形も無く、コマ切れになれ。貴様らの姿を残す訳にはいかんのだ」
 名乗りかけた鼠数体に、クラークのガトリング弾幕がバラ撒かれる。ボフボフ、と妙な音を立てて弾丸が鼠に穴を開け、愛梨の薙刀が敵の口腔内を狙って繰り出された。
(「勢いで首ごと吹っ飛んでしまうかも? 実は着ぐるみキメラで、中の人がいたらどうしよう」)
 スプラッタを心配する愛梨。あまり凄惨な光景は、良くない気がする。
 だが、その時――
「な‥‥っ! 消えた!?」
 クラークが驚愕の声を上げた。
 銃弾を浴び、薙刀に斬り裂かれた鼠は、一瞬だけ透明な液体(血?)を見せた後、(皆様の夢を壊さない内に)霞となって消え失せたではないか。
 消滅した鼠に呆然としつつ、愛梨は手の中の薙刀に視線を落とす。
「お菓子‥‥お菓子を切ったみたいな感触だったわ!」
「中途半端に‥‥気を‥遣い‥やがって‥‥」
 キラキラとファンシーな遠距離攻撃を飛ばしてくる鼠に肉薄し、赤い炎のようなオーラを纏った百白が、紅蓮衝撃の一撃を叩き込む。
「ガアァァァァァ!!!」
 グラファイトソードが首に食い込むと同時、ポフン、と消滅する鼠。
 どうやら、少しでもダメージを受けると自爆して果てるらしい。多分、主成分は夢とか希望とかそんなんなので、爆発しても害の無い霞になっちゃうのだろう。
「ペカ〜っ!」
 何やら、どこからともなくカーラの声が聞こえる。
 手にしたスパークマシンの電撃がペカペカとした光を放っているので、彼女はその事を説明しているのだろう。そうに違いない。
『ボクノ――』
 電撃にコンガリ焼かれた一体の鼠が、自爆する。甘い香りを放ちながら。
「ペカ!?」
 びっくりして電撃を止めるカーラ。滑走路に漂う、何とも言えない美味しそうな香り――その正体は。
「これは‥‥この感触はマシュマロ! 臭いは焼きマシュマロ臭だ!」
 ベオウルフの試し切りに来ていて大変な惨事に巻き込まれた我斬だったが、4mを越える斧から伝わる感触に、衝撃の新事実を知る。

 感触と断面はまさしくマシュマロ。血(?)は透明シロップ風。しかも、ややこしい事が起こる前に、華麗に自害。

 バグアとて世界が滅亡しては困るので、鼠のスプラッタだとか焼き鼠だとか、そういう良い子の皆にトラウマを与える事態にならないよう配慮しまくっているらしい。
『ボク‥』
「こんな世界の危機なら、わかな将校拳を使わざるを得ない!」
『ボ』
「極幻流奥義! とりゃとりゃとりゃー! わかな将校拳!」
 執拗に名乗ろうとする一体に接近し、至近距離から叫び返すことで衝撃波発動を止める和奏。ルベウスがボフンボフンと鼠に突き刺さり、最後のタックルがヒットする直前に霞と化す。
(「この鼠キメラってリリアが作ったものなの? ‥‥そういえば最近、夢の中でもリリアに大変なものを作られて‥‥」)
 上空を旋回する輸送機団を見上げ、和奏はつい、最近見たハレンチな夢を思い出す。だが、今はオッパイだらけのドローム学園に想いを馳せている場合ではなかろう。
(「‥‥あっ、今はそんなイケナイ夢の事を思い出してないで。退治しなきゃ‥‥!」)
 ドキドキしながら次の鼠を探して振り返る和奏。しかし、その目に映ったのは、真っ赤な口を開けて今にも名乗らんとしている一体の鼠であった。
「しまった!?」
「危ない、わかなさん!」
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都合により抹消いたしました

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 どうやら鼠の衝撃波というのは、精神にダメージを与える非物理攻撃らしい。
「ボ‥‥ボク、何も聞いてないよ! 本当だよ!」
「そこまで強くないとはいえ、別の意味でこいつは拙い。なんてモノを作るのだ。‥‥くっ、バグアめ!」
 ショックを受けて片膝をつく和奏の前に飛び出し、ガトリング砲の掃射で鼠を散らして行くクラーク。
「あなた達を殲滅するのが、リュウナ達の任務です!」
「名前が危険なら、名乗れなくするまで!」
 わらわらと群がって来る鼠の群れにリュウナがアサルトライフルを掃射し、自身障壁を発動した龍牙が敵群に突入する。七色の光を撃って攻撃してくる鼠たちだが、それをものともせず接近して来る龍牙を目にして、じりじりと後退を始めた。
「援護します! その隙に!」
『ボクノナ』
 口を開けた鼠の顔面に、強弾撃の威力を込めたリュウナの銃弾が穴を開ける。空に溶けたその一体を突き抜けるように走り込んだ龍牙の瞬即撃が、目にも止まらぬ速さで後列の鼠を襲った。
 咽を槍で突かれ、ポフンと消える鼠。しかし、既にリュウナと龍牙は鼠に囲まれていた。
「く‥‥っ!」
 絶体絶命のピンチ。一斉に口を開けた鼠達を前に、龍牙はリュウナを護ろうと背に隠す。
『『『『『ボクノナマ――』』』』』
「Rest in Peace!!」
 覚悟を決めた二人の前に、猛スピードで現れたジーザリオ。跳ね飛ばされた鼠たちが、ポポポーンと宙を舞った。
「あたしは残虐行為も躊躇なくいけるッス。そのキレイな顔をぶっ飛ばしてやるよって訳じゃねーッスけど‥‥」
 ぽてぽてと地面に落ちてくる鼠たちに、ジーザリオ上のエスターがショットガンを向ける。散弾が撒き散らされ、穴を開けられた鼠たちが次々と消滅していった。
「ありがとうございます! 私達もまだ戦えますよ!」
『ボ』
「それは禁句です! 言ってはなりません!」
 そ〜っと忍び寄っていた鼠を振り返り、リュウナが引金を引いた。エスターはジーザリオを駆り、滑走路上を縦横無尽に走り回っては鼠を跳ね飛ばして名乗りを阻止して行く。
「言わせない‥‥言わせねぇ‥‥言わせねぇよ!」
 少し離れたところで名乗ろうとした鼠の集団に、閃光手榴弾を投げ込む百白。炸裂までに口を開けられても困るので、秒数を数えながら接敵し、口を開けたものから順にS−01で撃ち抜いて行った。
「味方は‥‥目と耳を塞げ!」
 いよいよ無理かと思われたその時、足元で閃光手榴弾が光と音を溢れさせる。相手の声を掻き消すと同時に視界を奪い、百白は剣を振り回して鼠を掃討しにかかった。
「させるかぁぁ!!! 吼えろ竜斬斧!」
「キャー! 何するペカー!?」
「待ちなさい我斬! それは鼠だけど全然違うわ!」
 恐怖のあまりバーサーカーと化したか、4.2mの斧を振り回してカーラを追いかけ回しているのは、我斬だ。彼の目には、不審なモノは全て敵に見えるらしい。慌てて止めに入る愛梨。
「ストーーーーーーップ、そこまでよ!! ち、ちょっと、やめなさいって我斬!」
「ウウウゥゥゥ‥‥‥ガアアァァァ!!!」
「イヤーーッ! これ以上の露出はNGペカー!!」
 ベオウルフの切先が空を薙ぎ、かわしたカーラのセクシー・コスチュームが引き裂かれる。肩ヒモ部分が破れ、咄嗟に胸元を押さえたカーラだが、そこを狙って遠距離攻撃を仕掛けてくるエッチな鼠がいた。
「ちょっと! この変態鼠〜〜〜ッ!!!」
 男の夢を乗せたキラキラ遠距離攻撃が、バストトップと腰回りをギリギリ残してカーラの衣服を焼いていく。もはや、両手で武器を持つなど不可能。手を離したら最後、もう胸は護れないし、今の時点で既に常時パンチラ状態だ。
「ナイス雄鼠! さあ、今こそプリンセス諸君の出番です! 出てきなさい!」 
 思わぬ眼福に興奮してメガホンで叫ぶ氷雨。彼は、家から持ってきたラジカセでCD『ミラ☆クリ』 (ロッタとミユのコラボ)を流し、頭上のミユを微妙に羞恥プレイな状況に置きながら、邪魔な鼠を片付けていた。
「鼠なら鼠らしくチューチュー鳴いてなさい! 皆、さっさと片付けるわよ!」
 バイク形態に変形させたミカエルに跨り、愛梨はシエルクラインの引金を引いた。


    ◆◇
「んー? ラジカセくんはどこかなーん?」
 おもちゃ箱をひっくり返したように大騒ぎの滑走路を眺めつつ、楽は探査の眼を駆使してラジカセを探していた。
 氷雨のCD『ミラ☆クリ』をかけただけではどうにもならない大音量を発する主は、一体どこにいるのか。
 未だにわんさかいる鼠の群れを見渡し、音の方角を推測しながら探索する。
「ちっちゃい何かがいるみたいだねーぃ。おーいかけっこ、かなん?」
 鼠たちの足元を、何かがカサカサ移動しているのを発見。楽は仲間に無線を飛ばすと、銃を手に走り始めた。

「楽さんから報告です。海にゃん、2時の方向にラジカセが‥‥」
「わかった! いくよっ、舌、噛まないでねっ?」
 ミカエルを急発進させ、滑走路上で乱戦状態の敵味方の間を縦横無尽に走り抜ける海。後ろに乗るソラは、振り落とされまいと必死である。
「敵、10時の方向っ!」
「え、ええと‥‥いきますっ」
 滑走路上を走り回るラジカセらしきものを視界に捉え、ソラが洋弓を手にミカエルを飛び降りた。
 生体パーツが使用されているのか、ラジカセには足のようなものが生えている。ソラは飛び降りた勢いを靴の裏で強引に止め、『流してはいけない音楽』を撒き散らしているソレに矢を放った。
『ギャッ』
「ぎゃっ」
 矢が突き刺さり、ラジカセとソラは同時に悲鳴を上げる。

 見た目は、まあ普通のラジカセだ。
 ――おっさんの足さえ、生えていなければ。

「アイムール、今日はあなたの初陣。その力を見せてっ?」
 スライドターン後に戦闘形態へと移行したミカエルを纏い、海はメトロニウム製の棍棒を手に、ノシノシとラジカセに迫る。脛毛全開のラジカセの足は、海の闘志をMAXまで高めてしまったようだ。
「あららーん? ずーいぶんむさ苦しいラジカセくんだねーぃ」
 革靴脱ぎたてです‥‥みたいな最低な状態のラジカセの足を見て、楽が何とも言えない表情で緩く笑う。
「危険なこと、やめてくださいね」
 矢が刺さったまま動けなくなったラジカセに、ソラの二射目が飛来した。スピーカー部分を貫かれたラジカセを、竜の咆哮を発動させた海の棍棒が殴り飛ばし、さらに楽の放った銃弾が片方のおっさん足を吹き飛ばす。
 がっしゃん、と致命的な音を立てて地面に落下したラジカセ目掛け、華麗に翻る赤マント。装輪走行で颯爽と追撃をかけた海の棍棒が、再び振り下ろされた。
「あーっ! 待って待って!」
 破壊され、ガーピー、と壊れた音を流すラジカセを見て、駆け寄って来たのは羽矢子であった。
「これを入れてみたいんだよね」
「体操の歌かねん?」
 羽矢子がどこからともなく取り出したのは、早朝にお馴染みの体操ソングのテープである。
 もしかしたら、鼠が体操を始めるかも――と、ラジカセをこじ開けて入れてみるのだが、
『○△☆□♂▽〜〜〜♪』
「無理か‥‥ちっ」
 メトロニウム棍棒の威力は絶大だった。
 

    ◆◇
「私の演奏を聞けぇ!」
「死んで俺の経験値になれぇぇぇぇぇぇ!!」
 百合歌がギター型超機械を掻き鳴らし、超音波攻撃に霧散する鼠たちの隙間を縫って、縁が芝生地帯へ突入した。
「おっ、来やがったな人間ども! このラッキー様の‥‥」
「そっちが名乗るわよ!」
「っしゃ任せろおぉぉッ!!」
 自分には見向きもせず、周囲の鼠をバサバサ倒しまくる百合歌と縁に、ラッキーは「アレ?」と首を傾げる。
 と、そこへ、見憶えのある女性能力者が乗ったジーザリオが通りかかった。
「わははははは! そんな車ぐらいでこのラッキー‥‥」
「閃光手榴弾を投げるわ。皆、鼠を集めて」
 目も合わせず、閃光手榴弾を投げ、そしてガトリングシールドを掃射しながら去っていく悠季。
「あの‥‥」
「邪魔!」
「おら邪魔だ! くそっ、遠隔攻撃か!?」
 背が小さいからかな、と、ピョンピョン跳ねて手を振ってみるラッキーだが、走って来た百合歌と縁に轢かれてしまった。
『極秘訓練中だよーん、内容はヒーミツっ☆』
 突然暗くなった空を見上げれば、楽の骸龍が煙幕を展開しているのが見えた。聞き覚えのある声なのだが、彼も、ラッキーなど眼中にないようである。
「ったく、次から次へと‥‥!」
「おっ」
 そこへやって来た羽矢子に、今度こそはとレーザークローを構える。しかし、
「名乗らせないよ! 閃光手榴弾、早く!」
「‥‥‥」
 スルーだった。


    ◆◇
『ボクノ――』
 滑走路B。乱戦の中で名乗ろうとした鼠を、ラグナのツヴァイハンダーが叩き斬った。
「いいか、もう一度言う! 俺は最初から最後までクライマッkへぶ」
 折角なので登場シーンをやり直そうと思ったラグナの頭部に、鼠のグーパンチが炸裂する。リンドヴルムがガチャガチャ言わせてブッ倒れた彼を嘲笑うかのように、鼠たちが頭の周りを飛び跳ねていた。
「てめぇ‥‥今俺を空気って言ったなぁ‥? ぶちのめす!」
 鼠は名乗る以外に喋れないので、確実に冤罪だと思うのだが。
「まずはてめーからだ! ウォラァァァァ!!」
 怒りに燃えたラグナは素早く起き上がり、周囲の鼠を手当たり次第に斬りつけ、霧散させて行く。
『ボ』
「手前ェらが世界の敵か‥‥。俺は通りすがりの『世界の敵』の『敵』だ! 覚えておけ!」
 3mのランスを振るい、口を開けた鼠から順に攻撃するアレックス。しかし、気付けば3体の鼠に狙われていた。
「何だ、連中なんか魔法みたいなのを使ってきたぞ!?」
「空気って言うんじゃnブグォッ!?」
 咄嗟にラグナを楯にするアレックス。夢一杯のファンタスティックな遠距離攻撃が、ラグナのリンドヴルムを容赦なく焦がしまくる。
「倒すけど‥‥良い? 答えは聞いてない、けどね」
 今から名乗りますよ、と見え見えの感じで口を動かしている鼠目掛け、迅雷を発動したトリシアが迫った。円を描くような蛇剋の一閃で1体目を切り付け、続く2体目に機械剣を突き刺す。
 ポフン、ポフン、とファンシーな音を立て、霞となって消える2体。焼きマシュマロの甘い香りが周囲を包み込んだ。
「テメェ〜〜! よくも楯にs」
「行くぜ、トリシア!」
 詰め寄るラグナ。無視するアレックス。
 迅雷で機動力を上げたトリシアが、アレックスを踏み台に大きく舞い上がる。
「「ランス『エクスプロード』、オーバー・イグニッション!」」
 鼠の群れに上空から飛び込んだトリシアが、円閃と機械剣の連撃で鼠たちを次々と消滅させていく。名乗ることも忘れて逃げ惑う鼠たちを狙い、アレックスの槍が突き込まれた。
「うん、さすが息ぴったりだねっ」
 駆けつけた海が、パチパチ拍手しながら二人に賞賛を送る。トリシアは、彼女を見遣って少し微笑み、
「あのネズミ野郎が、生きて、メシを食い、クソたれてるあいだは!! 充分じゃないっ!!」
 なんかもう、えらいとこまで気分が高揚していた。
 あえて言わせてもらうが、鼠の主成分は夢とか希望とかそんなんだと思うので、トイレの話はNGである。
「よっしゃあ! 橘川! ラグナ! 俺達ドラグーンの連携ってモンを、見せてやろうぜ!」
「OK! 行くよー!」
「お、おお‥‥」
 楯にされた人がいるなんてスッカリ忘れ、アレックスが気合い満点でランスを構える。
『ボクノ‥』
「名乗らせないんだからっ!」
 ミカエルを纏った海が竜の角を発動、小手に仕込んだ超機械から強力な電磁波が放たれた。前列の鼠が霧散したその瞬間、装輪走行で突撃したアレックスが、槍を繰り出して後列を攻撃する。
「行くぜ‥‥俺の必殺技、クリムゾン‥ディバイダァァァ!!」
 浮足立った鼠たちの群れに、全てのスキルを同時発動したラグナが真正面から突っ込み、敵を薙ぎ払う。
「1つだけ言っておく‥‥俺はクウキじゃねぇ」
 ポフポフポフフン、と消えて行く鼠たちを前に、ちょっとかっこいいポーズで情けない宣言をするラグナ。
 しかし、消滅する鼠に言ったところで、何の意味も無かった。
『ボクノナm』
 ところで、滑走路Bには、名乗りを上げる鼠たちを凄まじい勢いで掃討していくクマもいた。
 赤いマントを翻し、サブマシンガンを撃ちまくり、親の仇かの如く鼠を消滅させているクマの正体は、ラウルである。
「その無駄にデカい耳を、蜂の巣にしてもいでやるっ!」
 勿論、報告官は知らなかったが、この鼠の耳は、普通の鼠より少し大きいらしい。
 きっと狙い易いのだろう。ラウルは、鼠の耳を重点的に撃ち抜き霧散させていた。
 鼠の群れに閃光手榴弾を投げ込みまくり、閃光と轟音が止む度にSMGを叩き込む。
「‥‥セーラー服着てきた方が良かったカナ?」
 SMGにはセーラー服、日本刀にはシスター服、と、誰かに吹き込まれたようだが、ちょっと待って欲しい。
 マントを着て銃を乱射するクマのシュールさが、日本の女子学生服に劣るなど、報告官はカケラも思わない。
「――っ!」
 と、背後から口を開けて迫る鼠が1体。銃口を向けるも、間に合わない。
 だが、
『ボクノナマ――』
「俺がパンダだ! 人気者の座はわたさんぞおおおお!!!」
 いきなり怒鳴り込んで来たパンダマンの魂の叫びにより、ラウルはギリで精神の危機を脱した。
 パンダはリンドフィンガーネイルをつけた腕で鼠にパンチを繰り出し、どちらが上であるかを示すかのように敵を倒して行く。
「‥‥あ、ありがと」
「どうも。だが、クマにも負けんよぉ」
 くるり、と振り返ったパンダの眼が怖かったので、ラウルは少し距離を取ることにした。
「容赦はせんぞおお!!!」
 野性と化したか、雄叫びを上げながら鼠を追いかけ回すパンダ。もはや可愛い動物アイドル同士の喧嘩ではなく、トップを狙う獣同士の骨肉の争いである。
「うーむ、盛り上がってますなぁ。我々も負けてられませんぞぉ」
 パンダと鼠の頂上決戦を『盛り上がり』と見たヨネモトは、とりあえずそっちはそっちとして別の鼠に狙いを定めた。
 目の前には、3体の鼠。こちらはアスカと二人での迎撃となる。
「いくわよっ!」
 瞬天足を発動したアスカが鼠たちの列に突進し、グーパンチで応戦してくる相手に強烈な蹴りを放った。
「何だか‥‥子どもの夢を壊すようで後ろめたいわね」
 ぼふん、とマシュマロの感触が脚に伝わり、蹴られた鼠が霞となって消え失せる。とはいえ、悲惨な状態の死体も残さず自害してくれるのは有難いことであった。
 その時、アスカの脇を軽快にすり抜けた鼠が、ヨネモトを見据えて大口を開ける。
『ボ』
「言わせはせん‥‥言わせはしませんぞぉ!」
 ヨネモトの本気がソニックブームとなって解き放たれ、NGワードすらも掻き消して鼠を吹っ飛ばした。しかし、わさわさと増えて行く鼠たちは、徐々に二人を包囲しつつある。
「我流‥‥流双刃!」
「いくらバグアでも、あんたたちの存在自体が重罪よ?」
 流し斬りと二段撃を発動したヨネモトが、蛍火と血桜の連撃で1体を霧散させた。アスカもまた、蛇剋を抜いて確実に仕留めにかかっている。
 そこへ乱入してきたのは、全身包帯だらけでハロウィンバージョンな、キムム君だ。
「見せてやる、キムムダム(ピー)――」
『ボクノナm』
「名乗んなァ!」
 折角、珍しい形の剣で頑張ろうと思ったのに、名乗りの途中で逆名乗りを仕掛けられ、慌ててS−01で狙撃するキムム君。
『ボク――』
「やめぇぇぇぇぇいっ!!!!」
 そろそろ仲間が減って焦ったか、名乗りの頻度を上げてくる小癪な鼠に、アスカの顔面飛び蹴りが炸裂する。ポフンと消えたその後に、キムム君に遠距離攻撃を仕掛けんと、もう1体が進み出た。
「見えるか、夢幻踏」
 軽快なステップを踏むキムム君と鼠。一見、一緒に踊っているように見えなくもないが、一応キムム君的には、翻弄しているつもりである。
 七色に輝く遠距離攻撃がキムム君を掠め、鼠が再び腕を振り上げた――その瞬間。
「そこか、霊夢斬!」
 相手の隙を見切ったキムム君の剣が、鼠の耳を切り落さんと唸りを上げた。
 ポフン、と消える鼠。後には、何一つ残ってはいない。
「‥‥ちっ。雌鼠すら居そうにないですね。どうでも良い雄ばっかり群れやがって!」
 必死で戦う皆の視線の先で、何か皆とは違う怒りを鼠にぶつけている氷雨がいる。
 結構捜し回ったのだが、ドレスのお姫様はおろか、半人半魚な海の姫が頑張って陸上に登場する事すら無かった。


    ◆◇
「‥‥‥」
 イジイジと芝生の上の蟻を突いていたラッキーの眼の前に、そっとビールの缶が置かれた。
 びっくりして見上げると、そこには羽矢子の姿。
「ちょっと、そこに正座しなさい」
「そうは言われても」
 犬なので、正座は難しい。仕方が無いので、お座りの状態でビールを開けるラッキー。
 羽矢子はその正面に座り、自らも手にしたビールをあおり、息をついた。
「アンタね、いくらネタでもやっていいことと悪いことがあるでしょ? あれは本当に危険なんだからね!?」
「うん‥‥」
 シカトが一番堪えるのか、ラッキーは元気を失くした様子で頷く。思いの外、皆の注目が鼠に向いてしまったのが悲しかったようである。
 と、ラッキーの前に、実に美味しそうなサラミとハムが投げ落とされた。
「べ、別に、この前聞いた境遇が可哀想だとか、そんな事思ったワケじゃなく‥‥あげたら油断するかもとかそういう作戦であって、中身親父だけど外見可愛いし、なんて思ってないんだから!」
「べ‥‥別にあんたの為じゃないんだからね! 騒がれると邪魔だからしょうがなくなんだからね! 食生活が悪いって聞いたからとかじゃないからね!」
 百合歌と縁が、いきなりダブルでデレている。百合歌はともかく、縁の口調が女子高生なのは一体何事だろうか。
「お、お前ら‥‥!」
 ウルウルした目で二人を見上げるマルチーズ。激安ドッグフードの毎日に、一条の光が差した。
「まあ、ほら。だいぶ鼠も減ったみたいだしさ。今日の所は解散する?」
「ん? うん、そうだな。俺もそろそろ帰らない‥‥と‥‥?」
 羽矢子の提案に、サラミとハムを抱えて立ち上がるラッキー。しかし、歩き出した先に悠季のジーザリオが停まり、行く手を阻まれた。
「え‥‥あの‥‥?」
 怖い笑みを浮かべた能力者に包囲されていることに気付き、ラッキーは全身の毛を逆立てながら片手を前に突き出した。
「所詮そのリーチでは届かないわ」
「なにおうーっ!」
 リーチ15センチの腕を見て、百合歌が鼻で笑う。ラッキーはカチンと来たのか、半分後ろを向いて背中のリュックをアピールして見せた。
「はっはっは。コレを見ろ人間ども! このリュックのボタンを押せば、レーザークローが飛び道具に早変わりだぜ!」
「ふーん‥‥」
 再び腕を突き出すラッキーを、醒めた目で見下ろす悠季。
 リュックを指差し、言う。
「それで、どうやって押すつもりかしらね」
「えっ?」
 一瞬、悠季が何を言っているか理解できず、首を傾げるラッキー。
 しばらくして、地面にサラミとハムを置き、片手を背中に回してみる。
「と‥‥届かない‥‥だと‥!!??」
 ラッキーの手(前脚)は、虚しく宙を掻くのみ。リュックのボタンには、全く当たっていなかった。
「うふふふふふふ‥‥この間は、よくもビルから落としてくれたわね?」
 百合歌が。
「リリア嬢の飼い犬ってだけでも俺の中のエンヴィーが疼くのに、マルチーズ、即ちチーズ犬ですと!? 許せん!」
 縁が。
「そうそう、知り合いがこう言ってたわね。『リーチの差が、そのまま戦力の差だという事』をね」
 悠季が。
「ま、皆やる気みたいだしね。しょうがないか」
 羽矢子が。
 それぞれ武器を手に、ラッキーへと迫る。
「ひ‥‥っ!」


「ぎゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっっっっ!!!!」

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残酷なシーンにつき、抹消いたしました

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    ◆◇
「万が一にも可能性は無いでしょうが、性別は確認しておきます。――ちっ、雄かよ」
「いやいや、先ずはペイント弾でオレンジに染めてやってからッス。限界まで良い感じにトリミングしてやるッスよ」
「心配するな! 俺は天才だ! 俺に不可能は無い!」
 鼠たちの脅威が消えた空港に、電動バリカンの音が響く。
 氷雨、エスター、縁が囲む地面に、容赦なくボソボソ落ちる艶やかな白い巻き毛。
「‥‥サロンの予約‥‥‥」
 三人の輪の中には、ボッコボコに顔を腫れ上がらせたラッキーが居た。
 寒空の下、限界まで毛を刈られてピンク色になった貧相な犬が、自らの負け犬人生を走馬灯のように振り返っている。
「ひゃくしろー! おんぶなり!」
「‥‥面倒‥‥だな‥‥」
 悲惨なイジメを受けている犬バグアを尻目に、リュウナが百白におんぶをねだる。
 輸送機団も無事着陸し、皆、クラークの淹れたコーヒーで一息、といったところだ。
「おいこら、犬っころ。さぁ、お前の罪を数えろ!」
 寒さにプルプル震える犬を見下ろし、アレックスが言う。ラッキーは、「もうしわけございませんでした」と項垂れるばかり。
 と、そこへ現れたのは、輸送機を降りたミユであった。
「皆さん、お疲れ様でした。今回のキメラは強敵でしたが、皆さんのお陰で、ロサンゼルスの要塞都市化も滞りなく進むでしょう」
「ミユお姉様っ!」
 思わず飛び付く和奏。しきりに額をアピールする彼女の姿に、ミユは少し笑って、軽くキスを落とす。
「頑張ったわね、和奏」
「えへへ‥‥」
 嬉しそうに頬を染める和奏の頭を撫で、ミユはにこやかに続けた。
「今回運ばれた、大量の120mm高射砲、大口径M3帯電粒子砲、そして次世代戦車『アストレア』は、アーバイン橋頭堡に配備され、メキシコ方面のバグアに対する抑止力となってくれるでしょう。全ては、皆さんのお陰です」
 深く頭を下げ、感謝の意を示すミユ。
 傭兵達は、コーヒーの香ばしい香りを楽しみながら、それを聞いていた。

「おっと、どこへ行くつもりだ、犬っころ?」
「――はっ!」
 皆がミユに注目している隙に、そーっとその場を立ち去ろうとしたラッキーを、アレックスのランスが止める。
「えーと、その、トイレ‥‥」
「トイレぐらい、その辺でしようヨ。犬なんだからサ♪」
 ラウルのSMGが突き付けられる。
 もはや、絶体絶命と思われた、その時。

 ――全てを凍らせる恐ろしいワードが、和奏の口から発せられたのだ。



「そうだ! ミユお姉様! いつか一緒に、

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都合により抹消いたしました

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 ――に遊びに行こうね!!」

















 その後、何が起こったか憶えている者はいない。
 ただ一つ確かな事は、キムム君が日々書き連ねている『Grimoire of Kimum』という書物から、ある一日に関しての記述が完全に抹消されていた‥‥その事実のみである。


――完――