タイトル:【Woi】Shades of ―マスター:桃谷 かな

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 10 人
サポート人数: 3 人
リプレイ完成日時:
2009/08/12 07:22

●オープニング本文


●“第二次五大湖解放戦”
「‥‥以上を踏まえた上で、“第二次五大湖解放戦”を実施する」
 作戦会議室のテーブル上で、ヴェレッタ・オリム大将が宣言した。
 居並ぶメンバーはオリム大将の幕僚と、そして特殊作戦軍のハインリッヒ・ブラット少将である。
 スクリーンに映し出される北米大陸の地図。重要ポイントとして強調されているのは五大湖周辺である。北米各地の拠点から五大湖周辺の戦力の集中。ヨーロッパからの援軍も五大湖へと配されており、太平洋方面からの援軍が手薄になった西海岸、とりわけロサンゼルスを穴埋めする形となっている。
 五大湖地域。それは言わずとしれた北米大陸でも屈指の工業地帯であり、2008年2月の大規模作戦において解放を目指した地域である。
 極東ロシアでの華々しい勝利は、バグア軍の戦略的意図の粉砕、重要兵器の鹵獲、豊富な地下資源の眠るシベリアの奪還などの成果を得た。だが、1つ目についてはあくまで防衛上の達成であり、2つ目、3つ目については目に見える効果があがるまでには、時間を要するであろう。
 極東ロシアでの勝利の勢いに乗って、より即効性のある戦果を求める声は当然であり、それが巨大な工業地帯を要する五大湖周辺の解放であるのは自然な流れであろう。
「バグア側への情報のリーク、感づかれるなよ?」
「むろん、その点はぬかりなくやってみせます」
 オリムが幕僚の一人に念を押すと、幕僚は自信ありげに答える。
「ブラット少将からは何か?」
「思い切った作戦だとは思います。が、やってくれると信じます。作戦名は決まっているのですか?」
 オリムに聞かれたハインリッヒは作戦の困難を指摘しながらも、それを克服できるという自信を見せる。
「The American Revolution(アメリカ独立革命)‥‥というのはさすがに身贔屓が過ぎるな。War of Independence(独立戦争)だ」
 大規模作戦の本格的な発令は6月末。作戦期間中、アメリカは233回目の独立記念日を迎える。


    ◆◇
 ――メキシコ、バグア軍基地。
「北米の人類側戦力が、五大湖方面へ移動を開始しているようですね」
 レディーススーツに身を包み、長い黒髪を結った女が、目の前に座すもう一人に向け、口を開いた。
「目的は五大湖周辺地域の奪還でしょう。ユニヴァースナイト弐番艦にも動きがあるようですから」
 亜麻色の髪の女――エミタ・スチムソンは、椅子に掛けたままで言葉を紡ぐ。
 六月中旬、北米各地で人類側戦力の減少や撤退が見られ、逆に五大湖付近では増大している。それは北米総司令官たるリリア・ベルナールの耳にも届いていた。彼女は人類の目的を五大湖解放と見なし、その妨害を始めたという。
 勿論、その双方の動きは、メキシコにいるエミタも把握していた。
「ロサンゼルスを陥落させるなら、今でしょう。シェイドを動かすと仰るのでしたら、我々、バグア遊撃部隊もご協力致します」
「グローリーグリムは、先にロスの橋頭堡を攻めてる‥‥って話よ。うふふ‥‥ハルペリュンは‥‥どこかしら?」
 シェイク・カーン、そして、その配下たる吸血鬼型バグア、ドリスの言葉を聞き、エミタは静かに立ち上がる。
「いいえ。攻めるべき時はまだでしょう。人類の戦力移動はまだ開始されたばかり。ロスの兵力は、まだ減少するはずです」
 ブーツの底をカツカツと鳴らし、歩き始めるエミタ。
「私は、サンディエゴ方面の様子を見に行きます。国境警備が甘くなっているようなら、五大湖解放の噂は真実でしょう」
「エミタ様が自ら、ですか?」
「私は無駄が好きではありません。下手な偵察隊を出すより、私が直接赴いた方が、早いでしょうから」
 部屋を出ようとするエミタに、背中に翼を生やしたドリスが、薄く微笑んだままで着いて行く。
「バークレーのような結末は、望まれておりませんよ」
 シェイクの言葉に、エミタは一瞬足を止める。だが、振り返ることもなく、再び足を踏み出した。
「私は、彼のように驕ってはいないつもりです」


    ◆◇
 ――アメリカ・メキシコ国境、サンディエゴ南。
 メキシコを至近に望むこの地域では、常に人類とバグアとの小競り合いが続いている。
 サンディエゴ周辺のUPC軍基地では今日も、けたたましいサイレンが鳴り響いていた。
「まーたヘルメットワームの国境侵犯かぁ? 戦力不足のこの時期に、面倒なことだぜ」
「なに、キメラかもしれんぞ。行ってみないとわからんがな」
 基地を飛び立った正規軍のバイパー三機が、敵機侵入の知らせを受けて国境方面へと急行する。
 ヘルメットワームやキメラとの戦闘は日常茶飯事だったが、今はかなりの兵力が五大湖へと移動しており、普段なら五機で出撃するところを、三機での出撃となったわけだ。
 自分たちで手に負えなければ、一度撤退して増援を要請すれば良い――三人のパイロットは、案外気楽に操縦桿を握っていた。それほど、この地域での戦闘は珍しくないのだ。
 ほどなくして、メキシコとの国境付近に差し掛かる。
 彼らは機体を旋回させ、敵機を捜した。
「おい‥‥」
「どこだ? 見つけたか?」
「おい、いや、あれは‥‥っ!!!」
「どうした!? 応答しろ!!」
 僚機からの通信が途絶える。
 そこへ、残る僚機からもたらされた通信は――
「上だ! シェイドだ!!!」
「何っ!?」
 そこに音も無く滞空し、彼らを見下ろしていたもの。

 シェイド。

 傍らに本星型のヘルメットワームを連れ、黒い悪魔がそこにいた。
「撤退だ! 敵うわけがない!!」
 司令部にシェイド出現を連絡しながら撤退していく二機のバイパーを、シェイドと本星型ヘルメットワームは、なぜか何もせずに見送っていた。
「‥‥これでどの程度の増援を寄越してくるか‥‥そこで見極められそうですね」
 シェイドのコックピットに坐したエミタは、北へと消えていくバイパーを見つめながら、ポツリと呟く。
「うふふ‥‥エミタ様、あなたの手を煩わすほどのことではないわ」
 ドリスの駆る本星型ヘルメットワームが、スッと前に出る。
「このドリスにお任せ下さい‥‥うふふ‥‥楽しみ」
「‥‥‥いいでしょう。バグア遊撃部隊の実力を、見せて頂きます」
 後方に下がり、シェイドを高度に滞空させて、エミタはそれを承認した。


 戦力が不足する中でバイパーからの連絡を受けた基地司令は、シェイド出現という緊急事態に、ULTへ傭兵の出動を要請した。
 これでメキシコ方面におけるシェイドの存在は確定事項となり、この知らせは、UPC北中央軍上層部にも伝えられることとなる。
−−−−−−−−−−−−−−−
●依頼内容
・アメリカ・メキシコ国境付近に、本星型HWとシェイドが確認されました。これらを撃退して下さい。撃墜する必要はありません。
・その後派遣された偵察部隊の情報で、シェイドは後方に下がり、キューブワームと通常ヘルメットワームが確認されたとのことです。

●参加者一覧

御影・朔夜(ga0240
17歳・♂・JG
時任 絃也(ga0983
27歳・♂・FC
水理 和奏(ga1500
13歳・♀・AA
リュイン・グンベ(ga3871
23歳・♀・PN
月神陽子(ga5549
18歳・♀・GD
飯島 修司(ga7951
36歳・♂・PN
龍深城・我斬(ga8283
21歳・♂・AA
レティ・クリムゾン(ga8679
21歳・♀・GD
須磨井 礼二(gb2034
25歳・♂・HD
直江 夢理(gb3361
14歳・♀・HD

●リプレイ本文

「――あぁ、来たか無月」
 無月のミカガミを確認し、御影・朔夜(ga0240)が回線を開く。
「彼は本星型と戦った経験があり、そしてその能力を暴いた当人でもある。彼の情報は、必ず役に立つ筈だ」
「ならば、強化型FFについて聞かせてくれ」
 リュイン・カミーユ(ga3871)の求めに応じ、無月は手短に説明した。
 本星型HWの持つ特殊なFFは、攻撃の種類を問わず如何なる攻撃に対しても反応し、事前に発動させていない限り、既に為された攻撃に対して効果を発揮することは無い。また、解除のタイミングは限られており、解除することが出来ずに燃料限界を迎える場合もある。
 飯島 修司(ga7951)もまた、それに同意を示した。
「しかし、噂の新型HWにシェイドまで‥‥なんでバイパー達は逃がして貰えたんだろう?」
「シェイド以外の戦力が少な過ぎるのも気に掛かる。陽動か偵察が目的かもしれないな」
 呟く龍深城・我斬(ga8283)に言葉を返したのは、レティ・クリムゾン(ga8679)。
「‥‥だが、後方に下がっているなら、そのまま前に出こなければありがたい」
「姿を見せながらも傍観姿勢、ですか。まあ、いつでも攻められる、という事の裏返しでしょうが」
 時任 絃也(ga0983)が低く言えば、修司が目を細め、ふっと息を吐く。
「ロスへの進行を防ぐためにも、こちらの弱気は見せられません。皆さん、今回は命がけの駆け引きになりますわよ」
 月神陽子(ga5549)は、そう言って目の前のHUDを睨んだ。
 須磨井 礼二(gb2034)が、眼下に流れる景色を見、そして再び前へと視線を固定する。
「敵うはずもありませんが、甘く見られては困りますからね。‥‥こちらの力を存分にご覧いただきましょう」
 彼の機体を、直江 夢理(gb3361)のフェイルノートが追い抜いて行くのが見えた。


    ◆◇
 シーヴの岩龍、クラークのウーフーが、乱れたレーダー上に敵影を発見、やがて目視で確認する。
 前衛に5機の小型、中衛に中型2機。ただ、殆どのCWは中型の背後に隠れており、正確な数を得ることができない。そして、最後列に本星型HWが控え、それらはジリジリと前進を開始していた。
「シェイド‥‥」
 白く蟠る雲の下に見える、小さな黒い点。
「強敵だけれど‥僕には、ミユお姉様の妹、リリア・ベルナール(gz0203)を取り戻したいって目標があるっ」
 水理 和奏(ga1500)は、操縦桿を強く握り締めてそれを見据えた。
「ツインブースト・ミサイルアタック起動‥‥ロックオン」
 先頭の夢理機が、カウントを始める。

「敵小型全機に大型ミサイルコンテナ確認!!」
「「「何っ!?」」」
「3、2、1、GO!!」

 クラークと夢理の声が混じり合うようにして全機に伝えられる。
 フェイルノートから吐き出された750発のミサイルが白煙を撒き散らし、橙の爆炎と膨大な量の煙が空を埋め尽くす。
「全機散開して!!」
 最悪の事態を察知して、和奏が煙幕装置とラージフレアを展開した。さらに、絃也機、我斬機からも子弾がばら撒かれていく。
「敵K−02、来ます!」
 礼二が叫んだ。
 HW群が一瞬紅い光を放ったかと思うと、先程の返礼かのように撃ち出された2500発もの小型ミサイルが、傭兵たちの機体へと一気に襲い掛かる。
「この程度ッ!!」
 レティ機のファランクス・テーバイが唸りを上げ、自機に殺到する無数の脅威を撃ち落していく。
「テーバイがなかったらと思うと、ゾッとしますね――!」
 同じくテーバイに護られ、それでも表面装甲の大部分を剥ぎ取られた礼二機に、さらにプロトン砲が浴びせられる。それに続く和奏のアンジェリカもまた、片翼に大きく損傷を受け、左右の出力を調整しながら爆音の中にあった。
「まだ飛べます‥‥! せめてこのミサイルが尽きるまでは!」
 最前衛にいたが為か、最も損傷が酷い夢理機は、最終装甲まで曝け出した状態でなお、ヨロヨロと飛行を続ける。
 そして、次々に撃ち込まれる淡紅の光線が煙幕を裂き、我斬機の尾翼の一部を吹き飛ばす。
 ミサイルの嵐を神速の機動で掻い潜り、殆ど無傷のままの朔夜のワイバーンと修司のディアブロが、煙幕を抜けて陽子機と合流した。陽子の駆るバイパーもまた、まだ目立った損傷は見られない。
『うふふ‥‥CWはそう簡単に墜とさせないわ‥‥』
 幾筋もの光が絶えず襲い来る。レティはブーストを吹かし、それらを紙一重でかわし切った。
「そんな温い攻撃、我の雷電には効かん!」
 中型2機が放った大型ミサイルに被弾し、爆炎に包まれたリュイン機を、プロトン砲が穿つ。それでも、鍛え上げられた雷電は損傷軽微のまま、ビクともしない。
 そして空に閃く紅光は、煙幕に隠れた絃也機と和奏機、さらに礼二機にも容赦なく降り注いだ。
「さて‥‥シェイドは後ろか? まあ居ないなら居ないで今のうちに叩けるものは叩いとくか」
 CWの射程に入ったか、強烈な頭痛に顔をしかめる我斬。だが、それは敵がこちらの射程に入ったという意味でもある。
 我斬機に合わせ、陽子機、レティ機、礼二機、さらに夢理機のミサイルコンテナが勢い良く開き、今度は2250発の白条が青い空を埋める。敵編隊目掛けて無数の小型ミサイルが殺到、小爆発の連鎖に渦巻く黒煙が見る見る膨張し、空を侵食していく。
「中型程度に遅れを取る訳にもいかなくてな――悪いが、手早く片付けさせて貰うぞ」
「ええ、その通りですわ」
 HWやCWの残骸が地上へと降り注いで行く中、黒煙を抜けてきた中型を朔夜機のD‐03スナイパーライフルが狙う。自機に向けて撃ち出された弾丸を、中型は前方に急加速して難なくかわした。
 しかし、かわした先の軌道に現れたのは、太陽を反射して煌く白刃。
「中型程度に時間をかけてはいられません‥‥沈みなさい!!」
 ブースト加速した陽子機の剣翼が、中型の装甲を切り裂き、抉る。再び回避機動に入ろうとした中型を朔夜の弾丸が貫き、さらに、陽子機が反転、速度を上げて斬りかかった。

「レティさん、錬力を遣わせることを最優先に」
「ああ。敵が強化型FFを張った後が勝負どころだな」
 本星型に向かったのは、修司機とレティ機の2機。修司機の放ったスナイパーライフルの一撃が敵機を掠め、そこへレティ機がブースト接近を試みる。
「まだCWが隠れているか‥‥」
 スラスターライフルの全弾をかわされ、レティが小さく舌打ちした。
『‥‥中々速いのね。いいわ‥‥このドリスが相手になってあげる――っ!?』
 その瞬間、目の前のレティ機に気を取られていた本星型に、修司機の銃弾が命中した。
「成程。例の賞金首バグアですか」
『異性人バグアがこんな所で何を? 吸血鬼ならば誇りは高くありそうだが』
『‥‥ヨリシロの性質なんて知ったことではないわ。最も誇り高きは私たちバグアよ‥‥』
 レティの問いに、ドリスは機体をやや後退させながら、ふっと嘲笑を漏らす。
『この宇宙の頂点に立つ私たちに、人類はヨリシロ候補として選ばれたの。喜びなさい‥‥』
『それは驕りだ、侵略者』
 吐き捨てるレティに、ドリスはクスクスと笑ってみせた。


「何時もの事とはいえ、この頭痛は頂けないな」
 絃也のR−01改が至近距離で放ったマシンガンの掃射を回避し、HWがプロトン砲を撃ち込んでくる。被弾を何とか免れ、絃也は小さく毒づいた。
「螺旋ミサイルを撃ちます。HWの足を止めて下さい!」
「了解した。頼むぞ」
 手近なCWを螺旋弾頭ミサイルで叩き落とした夢理機から、通信が入る。絃也は真正面から小型HW目指して突進をかけ、その周囲にマシンガンの弾をありったけバラ撒いた。
 機体損傷は既に限界、全身の痛みに耐え、夢理は眼前のHWに照星を合わせる。
「これで最後――絶対に当てます!!」
 血に濡れた手で発射レバーを引いた。
 ミサイルの先端がHWの装甲に突き刺さり、内部から機体を大きく爆裂させる。
「‥‥あのドリスの美貌を拝んでみたかったですが――すみません、離脱します」
「わかった。後は任せてくれ」
 ふふ、と微笑む夢理。離脱していくフェイルノートを見送り、絃也は次の目標を探して操縦桿を倒した。

「あれ?」
 HW目掛けてレーザー砲を放った礼二が、不思議そうな声を上げる。思ったほど出力が出ない。
「ああ、なるほど。CWのせいですね」
 礼二はそう判断し、先にCWを捜した。
「小煩いサイコロは、早々に潰すに限る。――しかし、どれだけいるやら」
 リュインの雷電は、遠距離からの狙撃に徹している。スナイパーライフルが火を噴き、1機のCWが落下を始めると、僚機の動きに鋭さが戻る。
「CWがいるとは言え、小型相手に梃子摺る訳にはいかんな」
 ポツリと呟き、リュインは自機の前方に浮かぶ小型HW目掛け、エンジンを吹かした。そして、敵機が回避機動を取りかけたその瞬間、リュイン機は唐突に失速し、相手の腹の下へと潜り込む。
「相変わらずの軌道だが、喰らいついてやるさ」
 慣性制御を駆使し、前転でかわそうとするHWの背部に、螺旋弾頭ミサイルが突き刺さり爆発した。
「たとえシェイドに敵わなくても、僕は――!!」
 空中で動きを止めたHWを狙い、スタビライザーとエンハンサーを起動させた和奏のアンジェリカが飛来する。敵機の放つプロトン砲の迎撃を受けながらも、和奏機は至近距離からレーザー弾を撃ち込み、撃墜した。
「わかな砲はまだ取っておくつもりだったけど、仕方ないよね‥‥」
 ボロボロに損傷したアンジェリカが、M‐12帯電粒子加速砲の砲首を上げる。
「お願い、当たってーーッ!!!」
 生み出された光の奔流が、圧倒的な威力を以って空を貫いた。
 轟音が響き、本星型の背部装甲の一部が融解していく。その様を目に焼き付けながら、和奏は基地へと撤退した。
「よし、これで最後です!」
 礼二機のレーザー砲が、最後のCWを撃ち抜いた。半透明のキューブがヒビ割れ、四散すると、皆を苛んでいた頭痛が嘘のように消え失せる。
「よし貰った! フルブースト、ソードウイングアクティブ!!!」
 CWが全滅したと知った瞬間、我斬はそれまで付かず離れずを保っていた中型目掛け、一気にブーストをかけた。超伝導アクチュエータを起動し、螺旋弾頭ミサイルを撃ち放つ。
「それは見せ玉だ!」
 紙一重でミサイルをかわした中型の真上に、我斬機が迫っていた。


    ◆◇
(「冗談でしょう‥‥なんてタフなの」)
 ドリス機が撃ち出した三発のミサイルが、レティ機の側面に命中する。さらに修司機にもプロトン砲を照射するが、2機ともに掠り傷程度しか与えられなかった。
 修司機のG放電装置が電撃の嵐を巻き起こし、幾度もドリス機を捕えて放さない。さらにレティ機のバルカンが唸りを上げ、装甲を抉った。
「あれは‥‥エミタ・スチムソン、かな」
 シェイドを見上げたレティの視界を、白煙が通り過ぎる。我斬機の放った螺旋ミサイルだ。
(「‥‥え?」)
 不意打ちを食らって揺れる機内で彼方此方を打ち、前を向いたドリスの鼻先から、一滴の血液が落ちた。
『い‥‥いやあああぁぁぁっっ!? 鼻が‥血が! 私の、私の顔‥‥!!』
「鼻血でも出たんでしょうかね?」
 突然取り乱したドリスの声を聞き、修司が頭を捻る。
『よ、よくも‥! 殺してやる!!!』
「アレに対するなら全力か。俺の機体でどこまでやれるか疑問だが」
 墜ちるまで戦う、と決めた絃也が、マシンガンを撃ちながらドリス機へと向かっていく。気付けば8機に囲まれていたドリスは、必死にプロトン砲で迎撃した。
「‥‥張った!」
 絃也は、自機がバラバラに空中分解する直前、マシンガンの弾をドリス機の強化FFが弾き返すのを見た。
「追い込みをかけてやろう」
「‥成る程、これが強化型FFか‥」
 リュイン機がAAMを撃ち込み、レーザー砲で突進をかける。それを援護するのは朔夜機のスナイパーライフルだ。
 我斬機のツングースカが弾丸の雨を降らせ、再び螺旋ミサイルが発射される。
 その全てを弾き返し、ドリス機は我斬機とリュイン機を目標に、放電装置を起動した。轟音と電撃が2機を捕え、プロトン砲が照射される。
 機体を真っ二つに折り、墜落していく我斬機。そこへ、赤い光を纏った礼二のフェニックスが割り込み、ドリス機の至近で人型に変形する。
「本命はこちらですっ」
 真ツインブレイドをかわされた礼二機が、すかさず逆の腕を振るった。だが、虎の子の白雪すらも、強化FFを貫通することはできない。
『墜ちなさい』
 飛行形態に戻った礼二機が離脱するよりも速く、ドリス機の砲がそれを撃ち貫いた。
『そろそろ限界では?』
 黒煙を上げ、落下していく礼二機の上を抜け、レティ機が敵機に迫る。
『くぅ‥‥っ!!』
 バルカンの掃射を全て弾き、ドリス機が後退した。だが、朔夜機による狙撃に阻まれ、それ以上退くことができない。
「ドリス、貴方が強い事など判っています。ですが‥‥今回だけは、それを利用させていただきます」
 AAMと螺旋ミサイルを発射し、ドリス機に迫る陽子のバイパー。着弾したミサイルの爆炎を遮り、輝く強化FF。
『あ――!?』
 陽子機の剣翼が間近に見えたその時、ドリスの機体が、かくん、と傾いだ。


    ◆◇
「‥‥シェイド!」
 一瞬で眼前に現れた黒い悪魔に、咄嗟に後退する陽子機。だが、シェイドから伸びたワイヤーは、墜落していくドリス機を絡め取っただけであった。
『ドリス、もう結構です』
『エミタ様‥‥』
 ドリス機を引き上げ、どこか冷めた口調で言うエミタ。
『エミタさん、偵察だけのご予定でしたら、今回は大人しく、このまま帰ってはいただけませんか? ですが、無理にでも戦うと言うのであれば――』
『私は無駄が好きではありません。ここでKVを数機墜とした所で、何も変わらないことでしょう。大人しく帰るのは、あなた方の方ですよ』
 陽子の言葉を遮り、エミタは柔和な声でそう返した。口を閉ざした陽子に代わり、朔夜が外部スピーカーをONにする。
『私達の後ろにいる機体‥‥純白のミカガミが見えるか? 彼は君を追って幾つもの戦場を巡ったそうだ』
 彼が示したのは、無月のミカガミであった。
『彼からの伝言だ。「終夜・無月、この名を再度其の心に刻んでおきなさい、次に会う時‥刃と知略を交えましょう」とな』
『‥‥では、その者にお伝え願います。「勇敢と無謀は紙一重。よくお考えなさい」と』
 嘲るでもなく、吐き捨てるでもなく。
 エミタはただ、淡々とそう告げると、静かに機体を反転させた。


    ◇◆
「‥‥送られて来たのは傭兵のみ。ロスの正規軍が減少しているのは確かか」
 シェイドのコックピットで、エミタはひとり、呟いた。
 ただし、代わりに傭兵が配置されているとすれば、厄介だ。正規軍に比べれば統率に欠けるだろうが、個々の能力は侮れない。
(「やはり、中米のバグア軍を動かす他無い――か」)